ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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コンストラクト恋愛観

「『恋』というものを知りたいです」

「いきなりなんだよ……」

 

 

 部室に向かう途中、同じくその途中であっただろう冬毬とマルガレーテの1年生組と出くわす。

 そして冬毬が開口一番に放った謎の質問。しかも真顔。表情変化がそれほど豊かではないことは知っているが、年上の男に対して顔色を変えず恋愛相談を仕掛けるなんて中々の度胸だ。一体なにがあって俺に質問する経緯に至ったのだろうか。

 

 

「質問の理由ですが、最近マルガレーテがずっと先生の写真を見て頬を赤らめています。紛うことなき彼女は先生のことが好きなのでしょう。そこでふと思ったのです。私は先生のことをどう思っているのかと」

「それを俺に訊くのか……。つうか俺の写真でニヤニヤしてたってなんなんだよ。まさか前の盗撮写真か?」

「好きな人の写真を見て下品に微笑むフェーズは既に終わってるわ。今やあなたの妄想だけでご飯が進むくらいだもの。写真はただのスパイスに過ぎないわ」

「それはそれで怖いんだけど……」

 

 

 そんなセリフを恥ずかし気もなく堂々と言い張る精神が凄い。マルガレーテは物心が付いた頃から秋葉によって俺を神格化するよう教育されているので、俺の写真なんてガキの頃から腐るほど見ているだろう。だからと言って妄想だけで高揚するのはどうかと思うが……。

 

 

「お前のことはいいとして、冬毬はそれを俺に訊いてどうすんだよ。俺がお前のことをどう思っているのかならまだしも、自分がどう思ってるかなんて自分に聞けばいいだろ」

「先生への好感度は高いです。ただ、これが恋愛の意味で好きかと言われたら分かりません。したがって、恋愛ノウハウが豊富な人に聞くのがタイムパフォーマンス的に良いと結論付けました」

「恋愛にタイパを求めてるのか……。てか隣に恋愛強者がいるじゃねぇか」

「これは『強者』というより『狂者』です。『狂人』とも言えますね」

「失礼ね……。私もアドバイスしようと思ったけど、全く聞く耳を持たないのよ」

「まあ、だろうな」

 

 

 自分の人生を俺のためだけに歩んでる奴の言葉など、一般女子の心に響くどころかドン引きされるだけだ。俺だって聞きたくないもん。拗らせすぎたヤンデレみたいに部屋中に俺の写真が飾ってあるとか、真面目にそういうことをやってそうで聞くのも怖い。知らぬが仏って言葉をこれほど実感したことはない。

 

 とは言いつつも冬毬の質問に対して有効な回答ができるかと言われたらそうではない。こう言ってしまうとナルシストっぽく聞こえるかもだけど、俺ってコイツの恋愛対象者だぞ? なんで自分の好きな奴に自分の恋愛のハウツーを聞くんだよ、訳わかんねぇ。

 でも本人は割と本気のようだ。コイツがスクールアイドルを始める時もそうだったが、気になることは実際に自分で体験して知見を得る。なあなあで済まさないところがコイツの生真面目なところだ。ここで『自分の恋心は自分で探れ』と言うのは簡単だけど、それだと納得しないだろう。

 

 どう返答するか少し考え、1つアイデアを思い付いた。

 

 

「じゃあ3年生の奴らに聞いたらどうだ? 俺との付き合いも長いし、どこかの誰かさんに惹かれたなんて経験、何度もしてるだろうしな」

「自分に惚れてる女性を勧めるなんて、これが数多の女を手玉に取っている上級国民ですか……」

「ただそのほとんどが学生で、過去には小学生にまで手を出したらしいわ。あなたではなかったら今頃社会から抹殺されてるわね」

「なんでアドバイスをしてやってんのに蔑まれてんだ……」

 

 

 てかどうしてそのネタがコイツにまで伝わってんだよ。どうせ秋葉の仕業だろうが、アイツもどこからその情報を仕入れてきたのか分からない。手を出したって、こころとここあにちょっと付き合わされただけだろうが。あの時は思春期真っ盛りの高校生だったし、小学生っつっても相対的にそこまで歳は離れてないからまだマシだよ。今の俺とコイツらの方が歳の差は大きいからな。

 

 そんなわけで冬毬は自分の恋愛観を自覚するため、3年生の先輩たちから恋愛を学ぶことになった。

 アイツらにそんなことができるのかはさて置き、俺と一緒にいた期間は長く密度も間違いなく濃いから、それなりの結論は得られるはずだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

『『『『『先生を好きになった瞬間を知りたい!?!?』』』』』

『はい。先輩方がその経験で抱いた感情と、私が先生に向ける感情がマッチすれば、それすなわち『恋心』ですから』

『恋心にも合理性を求めるのねあなた……』

 

 

 現在部室で冬毬が目的をかのんたちにぶっちゃけたところだ。いきなりそんなことを言われたら当然アイツらは驚くし、他人の恋愛観を基準に自分の恋心を証明しようとするロジカル思考にマルガレーテは呆れもする。

 

 ちなみに俺は部室の外にいて漏れ出す会話を聞いている。外にいる理由は、かのんたちに俺を好きになった理由を聞き出そうとしているのに俺がいたら流石に恥ずかしくて言い渋るだろうと考えてのことだ。今日は2年生たちが社会科見学で不在で、1年生の後輩だけという状況ならば多少羞恥心は感じるだろうが暴露してくれるだろう読みである。1年生から頼られたらアイツらも断りづらいだろうしな。

 

 

『先生と共にした時間の長い先輩方であれば、当然その恋愛観も固まって、私を納得させられると思っていますので』

『可可たち遠回しに圧力かけられてマス!? これ納得させられなかったら、可可たちが抱く気持ちはウソってことになるのデスか!?』

『恋愛なんて個々人それぞれなんだから、別にセオリーがあるわけではないでしょ。でも知りたいというのであればギャラクシー級の恋愛マスターである私が指南してあげなくもないわ』

『そこまで誇張して良いのでしょうか? 私はなんだか辱めに合う未来しか見えませんが……』

『恥ずかしい? 自分の恋愛観を信じていないのですか? 好きな方への想いはその程度だと?』

『い、いえそんなことは!?』

『冬毬ちゃんいつになく言葉にキレがあるね。そこまで恋心を知りたいってことか……』

 

 

 疑問には理由と解決方法がある。冬毬にとってはそれを明確にしないと気が済まないのだろう。先輩であろうといつも言いたいことを堂々と伝える性格ではあるが、今回は話題が話題だからアイツらも怯むよな。俺と心を通わせてからも中々自分に素直になれなかった奴らばかりだし。

 

 

『それでは、可可先輩、すみれ先輩、恋先輩、千砂都先輩の順番でインタビューします』

『えっ、ちょっと待って私は!?』

『かのん先輩は以前に無様な醜態を見せていたので、恋愛弱者と見なして聞く価値無しと判断しました』

『あまりにもチョロすぎて、私でもあなたをナンパできる自信があるもの。見ていられなかったわ』

『それは2人もそうだったでしょ! その言い方だと私だけが負けたみたいじゃん!』

『かのん先輩は3年生、私たちは1年生。経験の差があるのにあの醜態は擁護できません』

『そ、それはそうかもしれないけど……』

 

 

 あのナンパ実践で晒した痴態は今後も擦られ続けるんだろうな。冬毬もマルガレーテはさっぱりとした性格なので気にしてないだろうが、かのんは過去を思いっきり引きずる性格なので黒歴史化してしまう。でも汚点に振り回されて悶えるキャラが似合ってんだよなかのんって……。

 

 

『まずは可可先輩から。あなたは先生のどこが好きになったのですか?』

『改めて言うのはちょっと恥ずかしいデスけど、可可は先生が救世主だったから……デスね』

『救世主?』

『はい。可可はスクールアイドルをやるために日本にやって来マシタ。でも半ば勢いだけだったのでどうしたらいいのか、かのんという逸材を見つけたまではいいもののこれからどうすれば良いのか。それを示してくれたのが先生デス。先生が面倒を見てくれなければ可可はここまで来ることも、こうして素敵な仲間と出会うこともなかったのデスから』

『なるほど、自分を導いてくれた存在だから、ということですか』

『はい。でも悩みを親身になって解決してくれたという意味では、可可だけでなく皆さんも同じだと思いマス』

『確かに、それはあるかもしれません。貴重なお話、ありがとうございます』

 

 

 女の子に興味を持たれるきっかけが大体その子が抱く問題に関わるから、なんだよな。まあ頼まれてもないのに首を突っ込む自分も自分だけど……。

 インタビュー1人目にして早速冬毬は心に響いたらしい。順番は適当だろうが、素直な気持ちを聞けると言う意味では純真無垢を体現した可可を一番最初に持ってきたのは正解だったかもな。アイツ、俺に救世主としての自覚を持たせようとしてくるくらい俺への思い入れが強いからさ。

 

 

『次はすみれ先輩。同じ問いかけです。お願いします』

『私か……。端的に言えば、先生のおかげで世界が広がったことかしら』

『世界が?』

『えぇ。スクールアイドルに入って、知名度が広がって最近では小さいながらもモデルの仕事も入って、私が夢見た世界を実際に経験することができている。正直最初はスクールアイドルなんてショウビジネスの世界に舞い戻るための足掛かりとしか思ってなかったけど、今はそのおかげで夢を歩みつつある。その自分の視野と世界を広げてくれたのが先生ってワケ』

『自分が井の中の蛙だったことを自覚させてくれただけでなく、井戸の中から引っ張り上げてくれた、ということでしょうか』

『そうね。ま、引っ張り上げてもらった後は自分で何とかする必要はあるけどね。憎たらしいほどお人好しだけど、甘くはないから』

『それは実感しました。先生はきっかけを作ってくれる天才だと。貴重なお話、ありがとうございます』

 

 

 言ってしまえば『手を差し伸べる』ことしかやってない。1から10まで何もかもしてやる義理なんてねぇし、あくまで自分が好きでやってることだから超本気で誰かを助けているってわけでもない。それに自分が変わるには結局自分が決断するしかないから、他人は『手を差し伸べる』ことしかできないと言った方が自然か。馬を水飲み場まで連れていくことはできるけど、実際に飲むかどうかは馬次第。最後の意志決定に他者が介入することなんて元々できないんだ。

 

 

『次は恋先輩。お願いします』

『はい。私が先生に惹かれたのは、やはりずっと隣にいてくださったからでしょうか。想像できないかもしれませんが、入学当初の私は1つの考えに固執するあまり周りと壁を作る性格だったので。壁ならまだしも、砲台を搭載して攻撃をするくらいでした』

『温厚な恋先輩が? 意外です』

『本当にこのままで良いのかと自問自答を繰り返しました。本当にやりたいことがあったのに、最初から諦めて考えが凝り固まっていました。その考えを周りに流布しようと躍起になり、トゲのあると覚しながらも先生は隣にいてくれました。そのおかげで自分を見つめ直す時間をゆっくり取ることができたのです。心の温かい先生の隣は、時の流れがゆっくり感じられて心地良いものでした』

『それは私も経験があります。私も姉者を夢から諦めさせるしかないと思考を縛られていましたから』

『暖かかったでしょう? 素直になった時は』

『そうですね。なるほど、先生の温もりとは物理的にではなく心理的な意味ですか……』

 

 

 何を納得したんだよ……。俺を物理的に暖かいと言っている奴は、俺に触れた自分のカラダが熱を帯びてるだけだからな。もっと心の乱れを自制しろと言いたい。

 それはいいとして、周りを突き放す思考を持ってる奴に対してはとりあえず付き纏うのが一番だ。そして相手の考えを肯定も否定もしない。そんな奴はどうせどこかで孤独を感じているから、頻繁に一緒にいればいつか氷が解けて態度も柔らかくなる。そうなってから攻めればいい。冷たすぎる氷に触れたらこっちが低温やけどをしちまうからな、安易に触れちゃダメなんだ。

 

 

『千砂都先輩、次お願いします』

『OK! とは言っても私はそんな大層な話じゃないけどね。先生が仮面を外してくれたってだけだから』

『仮面? 明朗快活な先輩がペルソナを宿すとは思えませんが……』

『昔はそうだったんだよ。不安や心配事があっても笑顔で誤魔化しちゃってたからね。かのんちゃんたちを応援するために、心配をかけないように自分の不安は隠して表情にも心にも仮面をつけてたんだ。でも先生にはあっさり見抜かれちゃった。自分を誤魔化していたって意味では恋ちゃんと同じかもね。私の場合は誰にも言わずに独りで抱え込んでたんだけど、それも先生のおかげで吹っ切れたんだ』

『理解しました。計算高い千砂都先輩だからこそ色々考えてしまい、やがて何も振り切れずに気付けば四方八方が塞がれてしまった。そんな感じでしょうか』

『そうそう。自分のことを考えず、誰かを優先しちゃった結果ってのもあるかな。みんなばかり見てたら自分が不安に囲まれてることに気が付かなかったんだ』

 

 

 恋みたいにあからさまにツンツンしてる奴はまだいいけど、千砂都みたいに必死に自分を隠してる奴に対しては気持ちを引き出させるのが面倒なんだよな。イキってるチワワより賢く装ったプードルの方が扱いは難しい。どちらも正味素直になれないって感情は同じなんだけど、賢い方は逃げようとしてくるからな。近寄りがたい性格に見える奴の方が意外とすんなりこっちを受け入れてくれる。そう言った意味では冬毬はそっちの部類だ。

 

 

『最後にかのん先輩。お願いします』

『えっ、私も? さっき必要ないって言ってなかったっけ??』

『最初は自分の疑問だけ解決できれば良いと思っていたのですが、皆さんの話を聞いている間に普通にためになると思いまして。なので、より多くの人から恋愛体験を聞いた方が良いと言う判断に至りました』

『そ、そう……。ちょっと待ってね』

『まさかさっきの話をぼぉ~っと聞いてたわけじゃないでしょうね。先生の好きなところなら、即座に100個くらい言えるようにしておきなさい』

『後半のはマルガレーテちゃんが特殊なだけでしょ!? 自分の番がないからみんなの話を聞き入ってたのはそうだけどさ……』

 

 

 聞き入ってたってことは、想いの人への気持ちをこうして(おおやけ)にすること今までなかったのか。まあ恋愛交じりの女子トークなんて恥ずかしがってするような奴らじゃねぇしな。それにいくら親しい奴であっても自分の中に秘めておきたい感情はある。恋愛感情なんてモロそれで、胸を焦がすその想いは自分だけのものだから尊いってのもあるだろう。

 

 話す内容がまとまったようで、かのんの声が聞こえてきた。

 

 

『私が先生を好きになったのは、頼れるお兄さんっぽいから……かな』

『え、なんですかそれ。イケメンで性格も優しい男だからってことですか? やっぱりチョロいんじゃ……』

『違うって! アガリ症で人の前で歌えない、何事も悲観的になる、自己嫌悪に陥ってやさぐれる。そんな性格を変えてくれたことに感謝してるんだよ。しかも親身になって。だから頼れるお兄さんだなって思ったの。心の距離がね、近いんだよ。寄り添ってくれるからこっちも心を開きたくなる。どんな悩みも相談できる。相談したら絶対になんとかしてくれる。優しく背中を押してくれる。それが頼りになるお兄ちゃんみたいだなって思ったんだ。たまに乱暴なこともあるけど、そこは男らしくて逞しいとも思ってるよ』

『優しく、時に逞しい。まさにヒーローですね。創作の世界みたいです』

『現実だよ。冬毬ちゃんも実感したでしょ?』

『はい、そうですね。頼んでもないのに……』

 

 

 頼んでもないっつうか、好感度が高くない時期は当然こちらにアラートを鳴らしたりしない。だからと言って見逃すわけにもいかねぇし、自己満足でやってることだけど見捨てたりはしねぇからな。まあ冬毬の場合は何かに困っている感じってよりも、思考が固くなってたからしばらく様子を見た後に解してやっただけだ。コイツとの馴れ初めやここまでの経緯はまたどこかで話そうと思う。

 

 そんな流れで3年生の先輩たちから恋心を自覚したきっかけを話してもらった冬毬。自分が抱く想いと比較して、その気持ちが『恋愛』に絡むのかどうか判定したいが故のインタビューだったはず。果たして本人は落としどころを見つけられたのだろうか。

 

 

『あなた、先輩たちから答えは得られたの?』

『う~ん、まだ完全とは言い切れません。でも、『救世主』『世界が広がる』『心の温かさ』『仮面を外す』『優しくも逞しい兄のような人』、いずれも感じたことがあります』

『じゃあ冬毬ちゃん、先生のことが好きってコトになっちゃわない? 私たちの気持ちとイコールだってことはそういうことだよね』

『まさか女の子の恋を自覚する現場を見られるなんて、少女漫画みたいでちょっと興奮しマス!』

『でもそれだけで好きと決めつけるのはどうかと……。やはり重要なのは自分がどう思うかですし……』

『人の意見だけで自分の気持ちを決めちゃうのは良くないよね。好きになるのはそういうきっかけもあるんだって、参考くらいにしておくといいかも』

『なんにせよ、先生に会ってドキドキするなら好き、そうでないならまだって思っておけばいいんじゃないかしら。自分の本心にだけはウソをつけないから』

『それでは皆さんは先生にお会いすると、いつも鼓動が高鳴っているのですか?』

 

『『『『『…………』』』』』

 

 

 なぜそこで黙る。沈黙は肯定してるようなものだぞ。どうして2年以上も一緒にいるのにまだ慣れねぇんだよ。いや意識し始めたからこそってことか。どちらにせよここで強がっておけば恋愛弱者には見られなかったものを……。

 

 

『どうやらかのんだけじゃなくて、先輩たちみんな同じくらいチョロそうね。まああの人相手だったら虜になって仕方ないかもしれないけど』

『マルガレーテはどうなのですか? 先輩たちのお話、響きましたか?』

『全然。私は私で好きになる理由を持っているもの。それに従ってずっと生きてきたから、そんな質問は野暮よ』

『だと思いました。ただ私もなんとなくですが分かった気がします。しかし、全なる答えに辿り着くためには先生との時間をもっと増やす必要がありそうです』

 

 

 マルガレーテもそうだけど、冬毬も決断早いよな。恋心を自覚しようとして俺に凸するわ先輩たちにも凸するわで行動力の塊だ。流石は夏美のスクールアイドル活動が本物か見定めるため、わざわざ結ヶ丘に来ただけのことはある。今年の1年生の精神年齢の高さきたら先輩たちとは比較にならないくらいだ。

 

 

『積極的なのは私としても好印象ね』

『好印象でないことがあるんですか?』

『えぇ』

 

 

 そこでみんなが黙る。少し空気が変わったような気がした。外にいる俺にも真剣なムードが伝わってくる。マルガレーテの奴、どんなオーラを放ってんだよ。先輩たちにその鋭いツリ目でも向けたのか?

 

 

『例えば、ずっと一緒にいるのに答えを出し損ねてる人たちとか。もうすぐ卒業なのに指を咥えてただその時を待っているだけ。それで本当にいいのかと問い詰めたいくらい』

『そ、それってもしかして私たち……』

『動かないと取られるわよ』

『だ、誰に?』

『いるじゃない。あなたたちの同級生に、先生を取りそうな子が1人……』

 

 

 冬毬以外の全員が同じ顔を思い浮かべていることだろう。アイツ最近おとなしいんだよな。生徒会にも顔を出してないみたいで、放課後すぐにいなくなるから何をしてるんだか。聞いても教えてくれないってかのんたちが言ってたけど……。

 

 アイツの動向がなんにせよ、マルガレーテが言っていた卒業に関する揺さぶりはクリティカルだ。去年お互いに想いを共有したにせよ、そこから進展があったかと言われたら特にない。そんな中で卒業まで残り半年を切ってしまった。俺に会うことを待ち焦がれていたマルガレーテにとって、俺とずっと一緒にいたのにも関わらず無意味な時間を過ごした先輩を好印象に思わないのは当然だろう。

 

 いきなりの攻撃に押し黙る3年生たち。でも事実が故に反撃することはできず、でも無言のままだとマルガレーテの落胆を招いてしまう。どう返答しようか考えているのかまた沈黙が続いた。俺は外にいるので中の様子は分からないが、空気が張り詰めたことだけは分かる。

 

 場を和らげるために部室に突入するか? いやここはかのんたちが今後を考える絶好のタイミングだろう。俺もこのままの関係でコイツらの卒業を迎えていいのかと考えていたため、俺としてもいい機会だったかもしれない。

 

 しばらくした後、かのんの声が聞こえてきた。

 

 

『ありがとうマルガレーテちゃん、冬毬ちゃん。私たち、自分の気持ちを見直してみるよ。このまま先生との繋がりが薄くなっちゃうなんて、そんなの絶対にイヤだから』

『マルガレーテはともかく、どうして私にまで感謝を……?』

『この話のきっかけを作ってくれたのは冬毬ちゃんでしょ? だからだよ』

『いやこのアイデアは先生……あっ、なんでもないです』

『その反応、やっぱり先生デスか!』

『油断も隙もあったものじゃないわね。この場にいなくてもすぐ顔がチラつくんだから』

『監視されてるような気がするよね。ここぞというタイミングでいつも現れるから』

『千砂都さん怖いこと言わないでください。いつも心を先読みされているので気持ちは分かりますが……』

『あはは……。とにかく、本格的に考えてみるよ』

 

 

 流石に盗み聞きしてることはバレてねぇか。一瞬ヒヤッとしたぞ……。

 

 紆余曲折あったが、どうやらかのんたちは俺との関係にどう決着をつけるか考え始めたようだ。

 このままではいられない。上手く行くように見えても()()()の存在がチラつくし、自分の気持ちを強く持たなければ()()()の純粋で歪んだ愛に押し潰されるだろう。高校生活最後の恋愛事情。3年生のラストスパートだ。

 そして、冬毬はここからがスタート。自分の恋愛観を上手く構築できるか、まずはそこからだろう。

 

 当然俺も覚悟がいる。どちらも受け入れ、そして自分の気持ちを伝える準備をしておかないとな。

 

 




 冬毬回と3年生回の合併号でした。実は最初は冬毱の個人回の予定だったのですが、話の途中からこれ3年生の展開にも切り込めるなと思って割と急遽変更しました。そのせいでサブタイトルが冬毱寄りだけになっちゃってます。
当初はもっと恋愛クソ雑魚を見せるギャグ寄りのつもりでしたが、第三章の本筋ストーリーに絡ませるようにしたのでそれなりに真面目に着地させました。それに恋愛クソ雑魚回は前にやったので……

 Liellaは学年順々にメンバーが加入するため、このキャラはラストスパートだけどこのキャラはこれからスタートと展開がちぐはぐになるのがちょい面倒です(笑) これまでのシリーズでは一斉によーいどん、おてて繋いで一緒にゴールだったので、ここは10年間やってきたラブライブ小説パワー(謎)を活かす時です!


 スパスタ3期のアニメについて、まだ最新話は見ていませんが今のところ無難にイイ感じに進んでるなぁといった印象です。2期がちょっとアレと思ったので、その評価をある程度は覆してくれそうで後半戦も楽しみです!






あの子が名前を呼んではいけないあの人みたいになってる気がする!
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