ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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愛の濃度、決意の強度

「おい」

「なに?」

「堂々と盗撮するのやめろ」

 

 

 今年度の新入生であるウィーン・マルガレーテ。

 オーストリア血筋を受け継ぐ長身美人。歌やダンスのスキルもずば抜けており、Liellaに新たな風どころか大幅なレベルアップに貢献した。性格も年上相手に物怖じしない強硬な姿勢を貫き、多少どこか意外なことがあっても動じない泰然とした態度、もはや先輩たち以上に円熟している。去年の時点で既にその性格は形成されていたから、その時からLiellaの連中に本当に中学生なのかと驚かれてもいた。

 

 そんな出来上がった性格になったのも音楽名家の娘ってこともあるだろうが、秋葉による英才教育による影響が最も大きい。コイツともう1人はとある事件によって胎児の頃に俺に保護され、この世に誕生したのを機に間もなく秋葉からの教育を叩き込まれている。コイツらの親は秋葉を信用していたようで、一応世界に名が通っており、救世主である俺の姉というのが理由だそうだ。故に我が子の教育をアイツに手伝ってもらうことに抵抗はなかったのだろう。アイツのおもちゃにされることなんて知らずに……。

 物心つく前から立派な人格になるように形成されたと言ったらモノ扱いのため聞こえは悪いが、本人たちが年相応以上に成熟しているのは間違いなくその教育の賜物だ。実際に本人たちの才能は同年代の子とは比較にならないため、教育方法自体は間違っていなかったのだろう。

 

 ただ、教育者が教育者が故にその形成した人格に少し捻じ曲がった部分が存在してしまっている。

 こうやって悪怯れる様子もなく盗撮してる時点でそれが窺えるな……。

 

 

「盗撮は盗み撮りと呼ばれていて、こっそりと撮影することよ。でも私は公衆の面前で行っている。つまり『盗撮』なんて下劣な言葉と同等ではない。語彙の意味をしっかり理解して欲しいわ」

「不同意の時点で盗撮みたいなもんだ。言葉の意味よりも場の流れと雰囲気さえ合ってりゃいいんだよ」

「あなたへの抑えられない『愛』をこの撮影で満たしていると言ったら? もし撮影が禁止されたらあなたを襲うしか選択肢がなくなってしまうけれど、それでもいいの?」

「0から1で判断してんじゃねぇよ。キチガイを発揮して論破できると思うなよ」

 

 

 このように常識が若干、いやかなり欠如している部分もある。他は完璧と言っていいほど形成されているのに、俺のことになると途端にポンコツ気味になるのはやはり教育者のせいだろうか。しかも本人は自分の思考や行動が捻じ曲がっていることに対して違和感を抱くことはなく、それどころか誇りを持っているのがこれまた矯正しづらさに拍車をかけている。虹ヶ先の奴らもそうだけど、普段は普通なのに俺のことになると倫理観がなくなり、それをさも当然と思ってるからタチ悪いんだよな……。

 

 もちろん他の奴らも同じことを思っているようで、特に同級生である冬毬はマルガレーテが奇行をするたびに苦言を呈しっぱなしだ。

 

 

「マルガレーテ、あなたの行動によっては同級生の私も風評被害を受けます。おかしな言動は慎んでください」

「何もおかしくないわ。好きな人のベストショットを撮りたいと思うのは自然の摂理でしょ? そうだ、冬毬もやってみるといいわ。日々の慰めを妄想で賄っているのだとしたら、実物の顔を見ながらだと何倍も捗るわよ」

「先生、どういう意味でしょうか?」

「分からないなら知らなくてもいい……」

 

 

 つまりマルガレーテは夜のソロ活の原動力として俺の写真を撮ってるってことか。それを俺や同級生、そこにいる2年生の先輩たちにまで聞こえる声で明かす度胸が凄い。本人としては普通のことだから緊張も何もあったものじゃないんだろうが。

 

 

「マルガレーテの奴、相変わらず先生への好き好きオーラが半端じゃないな……」

「表情を変えずに淡々と告白染みたことを繰り返すだけだから、同じ無表情族としてもちょっと怖い」

「でもそれだけマルガレーテちゃんの意志は固いってことっすよね。きな子は先生にあそこまで積極的になれないので羨ましいっす」

「やってることは奇抜。だけどあれくらいアプローチした方が先生にも気持ちが伝わるかも、ということですの……?」

 

 

 あまりよく聞こえなかったが、2年生たちもマルガレーテの異質さについてはビビることもあれど感心する部分はあるのだろう。それは3年生たちも同じである。

 俺とLiellaメンバーとの関係は単なる教師生徒の関係に収まらないくらい距離が接近したものの、それ以上どう踏み込むかはお互いに測りかねていた感があった。そこをなあなあで良しとすることを許さなくなった一番の原因がコイツだ。1年や2年もかけて詰めてきた俺との距離を、マルガレーテは一瞬で同じ段階まで踏み入った。このまま待ってるだけではダメだと、かのんたちに大きく意識付けたんだ。

 

 

「先生はマルガレーテのアプローチに疲弊したりはしないのですか? 入学してからこれまで告白紛いな言葉を連発されて、盗撮やストーカー被害にも遭って、普通なら突き放したりすると思いますが……」

「別に何とも思っちゃいねぇよ。今までどれだけの女の子と付き合ってきたと思ってんだ。その中に頭のおかしい奴らもたくさんいたから、今更この程度で怒ったりするかよ。調子乗らないように注意はしてるけどな、形だけだけど」

「寛大な心を持っていると知っているが故の行動よ。どれだけ愛が濃厚でも彼は受け止めてくれるもの。彼の器の大きさ、凄いでしょう?」

「どうしてあなたが誇らしげなんですか……。まぁ先生が無頓着な性格なのは重々承知していますが……」

「言い方言い方」

 

 

 ただ冬毬の言う通り俺が何事もあまり気にしない性格ってのもあるだろうな。そりゃ定期的に女の子の心のケアをしたり、変な事件に関わったり、そもそも一度に複数の女の子を相手にするという非日常を送ってるせいで寛容さも成熟してしまったのかもしれない。俺も変だけど女の子側も変なヤツ多いからな、そりゃ慣れるって。

 

 マルガレーテからのアプローチは激しいわけではなく、どちらかと言えばねっとり感がる。冷静に傍若無人を発揮しており、ストレートな言葉ではなくへばりつくような好意を俺に付着させようとしてくる。まるでじわりじわりと俺を自分の魅力で染め上げる準備をしているような、そんな感じ。

 情熱系であれば単細胞だから対応も楽なんだけど、コイツの場合は距離は詰めてくるがまだ一定の距離を保ちつつ、油断した頃に計画的に攻めてくるので接し方が難しい。そうやって常に注意を惹きつけておけば自分に目を向けてもらいやすくなるため、もしかしたらその狙いがあるのかもしれない。

 

 そんなこんなしている間に1年生と2年生は練習に戻る。3年生は大学受験に向けての模擬テストに駆り出されているので今日は後輩たちだけだ。

 だけ、とは言っても1年間スクールアイドル活動をしてきた2年生たちは自主的に練習もできるし、冬毬とマルガレーテはどちらも要領が良くて優秀、俺が口出しするまでもなく勝手に練習は進む。むしろマルガレーテが先輩たちの指導をすることもあり、去年1人で『ラブライブ!』のステージに立った実力が垣間見える。2年生たちも先輩だからと変なプライドを持たず、アイツの指導を素直に受け入れるあたりスキル面では信頼しているのだろう。

 

 そうやって顧問としての責務も忘れ、眺めている間に練習が終わる。

 俺の隣に置いてあるタオルや水を手に取るため、みんなが近くに集まって来た。

 

 

「本日の練習の成果、いかがでしたか?」

「いいんじゃね」

「先生いつもそれですね……。顧問なのですからもう少し的確なアドバイスはないのですか?」

「そんなの毎回あるわけねぇだろ。それに毎回してたらお前ら、成長し過ぎて全国どころか全世界で敵なしになっちまうぞ」

「それ、自分のアドバイスを過信しきってませんか……? 先生らしいと言えばそうですけど……」

「やる時だけはやる男なのよこの人は。でもそのやる時に一気に顔つきが変わって、それに惚れる人が続出してしまう。これが先生よ、どう?」

「だからどうしてマルガレーテが粋がっているのですか……」

 

 

 自分の好きなものを持ち上げて他人にも認めさせたいタイプか。俺のことをバカにする奴がいたら刺し殺す勢いで詰め寄るんだろうな……。

 

 

「それにしても、相変わらずマルガレーテちゃんのダンスは見ているだけで勉強になるっす! 指の先から足の先まで完成された造形と動き、惚れ惚れするっす!」

「そう、ありがとう。でも先生に見せるために妥協なんて許さないから、これくらい当然よ」

「自分じゃなくて先生のためってことか。いつもブレないよなお前」

「自分の魅力を知ってもらうために、自分の長所を見せ付けるのは当たり前のことでしょ。あなたたちはそういうことをしてないの?」

「私は特にこれといってはしていませんの……」

「かのんたちと同じなのね。私よりも一緒似た時間が年単位で多いのに、勿体ない」

 

 

 以前にかのんたちにも言った言葉だ。俺に会うことを待ち焦がれていたからこそ、同じ時間を共に過ごしているのにも関わらず何も関係が進展しない奴を見ると呆れてしまう。もちろん恋の事情なんて人それぞれ抱えているものは違うのだが、自分の人生の目的がたった1人の男のためだけと生まれた時から意識付けられ、それこそが生きがいとして生きてきたため、積極的にならない奴に対して少々辛辣になってしまうのは仕方ないだろう。

 

 

「マルガレーテちゃんは強い決意を持ってる。私はまだ迷ってることがあるからそこまで割り切れない」

「別に決意があるとは思ってないわ。私はただ先生が好きで、いずれ添い遂げたいと思っているだけ。そのために自分を知ってもらう必要がある。ようやくこうして同じ場所で同じ時間を過ごすことができるようになったのだから、その機会を無駄なく存分に活かすのは普通のことでしょ。だって私はこのために生きてきたんだから。生まれた時からここまでずっと、ずっと……」

 

 

 マルガレーテの熱い視線がこちらに向けられる。

 普段は淡々と告白紛いな言葉を放ったり、ナチュラルに盗撮をしたりするだけで、さっきも言った通りあまり熱っぽさは感じられなかった。

 でも今は初めてコイツから『熱さ』を感じた。傍から見たら奇行めいた言動を繰り返しているだけのようだが、粘り気のある愛情を俺に付着させて逃げられないようにするというのは、長年待ち続けていた相手とようやく一緒の空間を共にできる嬉しさものあるのだろう。それを見た周りからは『おかしな奴』と思われるかもしれないが、他人からの評価なんてコイツには関係ない。ただ相手に縋り付くくらいに粘着し、自分という存在を強烈に印象付ける。

 

 やり方はどうであれコイツは本気なんだ。そして明らかに先輩たちより俺との関係が縮まる速度は速い。恋愛のペースなんて誰かと比べるものではないが、コイツの登場によりみんなは恋愛観を大きく考える必要が出てきた。それは先日のかのんたちもそうだし、今ここに居るきな子たちもだ。

 別にマルガレーテは自分たちから俺を取るわけでもないし、むしろ俺の来るもの拒まず受け入れる性格を知っているから独占欲みたいなものはないのだろう。でもそう分かっていても起爆剤が投与されたら焦る。自分たちも動かなきゃいけない、今の関係のままでは終わりたくないって危機感が生まれる。

 

 マルガレーテの入学とスクールアイドル部への加入は、そういった意味ではコイツらにとって重大なイベントだ。そう、去年の文化祭で()()()が本性を現し、俺たちの関係が大きく前進した時と同じように……。

 

 

「狂おしいほど好き、ということですか。あなたがそこまで先生が好きな理由は分かりませんが、幼い頃から好きだというからには壮大な過去があったのでしょうか」

「冬毬にはまだ話したことなかったわね。壮大と言われると一般的にはそうかもしれない。ただここで話すと時間もかかるし、また暇な時にでも話してあげる。でも、1つ言えるのは――――」

「?」

「過去が濃かろうが薄かろうが、そんなもの何の関係もないわ。どんなバックグランドがあるにせよ、私が彼のことを好きである事実は変わらない。そして私は過去への同情を武器にしたりはしない。なんなら昔から好きだったって情報もこの人に伝える必要もない。だって好きな人には自分の『今』を見て欲しいから。だから積極的に攻めるの。『今』を魅せるには『今』動かないといけないもの。過去のことを考えたり、緊張だの迷ったりだのしてる暇なんてないわ」

 

 

 あまりにもさっぱりとした考え方。でもおかげで決意が固まっているのだろう。コイツからしてみれば決意ってほどでもなくごく普通の考えかもしれないけど。

 マルガレーテは確かに過去をネタに俺にアプローチをかけてきたりはしない。さっき冬毬に聞かれても先延ばしにしているあたり、本当に信頼している人に対し、かつ時間がある時にしか喋らないようにしているのだろう。同情を誘って自分の気持ちを受け入れられたとしても、それは自分の本心に応えてくれたのではなく過去のエピソードに引かれただけだ。そう思っているに違いない。

 それに下手に話題に出せば、周りからも過去の同情で男を釣ったと思われかねないだろうしな。同時に、何か壮大な経験がないと俺との距離を詰めるのは難しいだろうと他の奴らに悩んで欲しくない、とも。さっきも言ったが彼女は自我は強いが他の奴らの恋愛を邪魔する奴ではないので、私に流されずに自分だけの恋愛をしろと言う意味でも発破をかけているのかもしれない。

 

 そこのところ、ツンデレではないが似たような不器用さと優しさがあるな。

 

 

「なるほど、マルガレーテは過去のおかげで恋愛観を構築する上で有利な立場にいると思っていたのですが、どうやらそうではないようです」

「えぇ。それに真っ向からの想いを受け入れることを何より望んでいるのは、まさにこの人なんだから」

「そうなのですか?」

「まぁな。でも誤解して欲しくないのは、別に俺は過去の同情で誘ってくれてもいいってことだ。アプローチの仕方なんて人それぞれだしな。ま、それに靡くかどうかは俺次第だけど」

「あまり重要視はしていないようですね」

「あぁ。コイツの言う通り、『今』の気持ちを伝えてくれた方がよっぽどいい」

 

 

 昔話は結構だけど、懐かしいって感情しか浮かばない。昔はこうだったけど、今の想いはこうだと伝えてくれた方がいい。ノスタルジーに浸るのも悪くないが、それを武器にして欲しくはないってことだ。

 自分で自分の攻略方法を語るなんて、なんか変な感じだ。すげぇ自惚れても見えるな……。

 

 きな子たちは去年の文化祭以降に俺との距離が一気に縮まったが、それからの進展は特にない。そのまま翌年度の今になってしまい本人たちもかのんたちまでとは行かないが、今の関係のままで良いのか迷っていただろう。まだ2年生だから時間もあるし、悠長にしていたのは否めないだろう。

 

 ただ、マルガレーテが発破をかけてくれたおかげで決意が固まったと言うには程遠いが、少なくとも踏み出せない状況から歩み始めることはできたようだ。その証拠に、最初は眉をしかめて話を聞いていた2年生たちの表情が凛と引き締まっている。

 

 

「マルガレーテちゃん、ありがとう。自分がどうしたいのか分かってきた気がする」

「別にお礼を言われることではないわ。これ、かのんたちにも言ったような……」

「まだマルガレーテみたいな心意気は持てたわけじゃないけど、このままじゃダメだってことは自覚できたよ」

「そうっす! ずっと待ってるだけでは時間は過ぎ去っていくのみっすから」

「これはこれはみんなやる気ですの。先生、これから忙しくなりますの!」

「オメーもだろ……」

 

 

 夏美の煽りはさて置き、俺ものんびりしていられないのは事実。去年みんなとあれだけ距離を縮めたのにそれから何もアクションがなかったのも、半分は俺のせいで何もしなかったのが実情だ。俺も今の関係が居心地良くて不満もなかったから、逆にこっちから仕掛けて面倒事になるくらいならこのままでいいと思っていた部分もあった。前に3年生が発破をかけられた時と同様、今回もマルガレーテにより平和ボケから叩き起こされたので、俺も気を引き締める必要がありそうだ。

 

 新入生にして高すぎる愛の濃度、決意の強度を持ったマルガレーテ。ここ最近でもその成熟した精神を見て本当に去年まで中学生だったのかと驚かされる。おかげでみんなの意識を大きく変えることができたので、カンフル剤としてちょうど良かったが――――

 

 

「おい、また盗撮しただろ……」

「決意を改めた勇ましい顔をしてたから、つい……ね」

 

 

 ただこの奇行を見ると、大人にはまだ遠いって思っちゃうな……。

 




 今回はマルガレーテ回&プチ2年生回でした。どちらかと言えば前回の続きの印象が強かったと思います。

 虹ヶ先の子たちとは打って変わって恋愛に奥手の子が多いLiellaの子たちですが、積極性の見本となる子が同じメンバーになって少しずつ意識も変わってきました。零も平和ボケから叩き起こされたので、女の子たちからのアタックを受ける準備をしっかりしないと押し倒されちゃいそうです(笑)

 Liella編は第三章ですが、新規キャラの恋愛模様+既存キャラとの関係性の模様も描く必要があるので、蓮ノ空編みたいに後半に詰め込み過ぎないよう、まだ章の序盤にして結構真面目な話が続いちゃっています。
 ほのぼの日常回を期待されている方は申し訳ございません。
 ちなみに次回は普通に全員集合の日常回の予定です!
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