ゆるふわっとパジャマパーティー
とある日の夜、俺は葉月邸へ来ていた。
どんな用事なのかは詳しく聞かされていないが、どうやら俺ともっと親しくなりたいが故の交流会を開きたいらしい。入学して半年程度の冬毬やマルガレーテが言い出すのは分かるけど、既に1年以上の関係である奴らから言い出すなんて今更過ぎる気もする。断る理由はないので了承したが、何の記念でもないのにこの期に及んでどうしてこんなことをしているのやら。
もしかしたら、以前にマルガレーテに発破をかけられたことが影響しているのかもしれない。かのんたち3年生、きな子たち2年生、いずれも去年俺との距離が密接になるほどに接近したが、ただそれだけだ。いわゆる男女関係というお互いの心を絡ませ合うことはしていない。あくまで距離が近づいただけだ。だからマルガレーテに年単位の時間があったのに何もしていないと呆れられてしまい、俺との関係性を改めて自覚するようになった。その影響から今回の企画が計画されたのだろうか。
なんの目的があるにせよ、俺が拒む理由はない。むしろ俺だってアイツらとまた向き合わないといけないと思ってたし、向こうから仕掛けてくれるのならいい機会だ。意外とこうしてプライベートでガッツリ交流する機会ってなかったしな。
そんなわけで葉月家のメイドであるサヤに案内される形で屋敷の廊下を歩む。
「恋お嬢様たちは既に着替えられてお部屋に集まっております。先生はご一緒ではなかったのですね」
「あぁ、仕事だったからな」
「お疲れ様です。どうりでメスを屈服させるオス臭がプンプンすると思ったのですが、仕事でお疲れだったからなのですね」
「お前、変わんねぇな」
「性癖というものはそう簡単に捻じ曲がるものではありませんよ。それに先生の匂いが良いのは事実ですが、私が屈服したいのはお嬢様のみなのでご期待されぬよう」
「俺をお前と同列に扱うな。サディスト好きだと思われるだろ」
メイドとしての能力は高いサヤだが、性癖は会話の通り中々に終わっている。主である恋に躾られたいというマゾ願望持ち。趣味として恋に着させたいボンテージ衣装を所持している他、SMプレイ用に鞭やロウソクまですぐ使えるように用意してあるとか。まあ実際に恋とそういった関係にはなっていないので使い道はないようだが、いつもコイツと2人きりでいる時にそういう目で見られているアイツが不憫でならねぇよ。
ちなみに俺はコイツに恋との関係が疑われ、この屋敷に監禁させられた挙句に前述したSMアイテムで調教されそうになったことがある。ギリギリ難を逃れたが、当時はコイツの本性を知った時の衝撃ったら半端なかったな。
「先生にはこれからシャワーで身体を清めていただいた後、お嬢様たちにお会いするのに相応しい服に着替えていただきます」
「えっ、別にこのままでいいよ。どうせ友達同士で集まってワイワイするだけって感じだし、そこまで畏まらなくてもいいだろ」
「つまりいつも通りだから適当で良い、と。でも今回は特別です。お嬢様たちも本気なのです」
「なんなんだよ、ったく……」
何をしようとしているのかは知らないが、普通に飯食って適当に駄弁って終わりの普通の夕食会とは違うのか。ここまで改まって俺を呼び出すなんてこれまであまりなかった気がする。やっぱり俺との関係性を意識しているのか。毎日会ってるのにこう勿体ぶられると変な感じだな。妙な緊張感がありやがる。
サヤに導かれるままにシャワーを浴び、用意された服に着替える。流石にSMに特化した衣装ではなく、むしろふわもこ感があるがスーツっぽさもあるグレーのパジャマだった。成人の男が着るにはいささか子供っぽい気もするけど何故これに着替える必要があるのか。アイツらが待っていることと何か関係しているのか……?
「意外と似合っていますね。成人男性がゆるもこパジャマなんて不似合いだと進言したのですが、皆さんがどうしてもと押し切って来たので渋々用意しました。しかしこうして実際に見るとやはり美男、と言ったところでしょうか」
「こんなの着させて何を企んでんだよ……」
「企むとは人聞きの悪い。今から夢のような空間に飛び込まれると言うのに」
「なんだよそれ」
「もう間もなく分かります」
「どこへ向かってんだ?」
「小規模パーティを行うための会場です。それほど広くはありませんが、それ故に部屋の用意は短時間で抜群に仕上げておきました」
さっきから物凄くハードルを上げてるけど、ホントに何が起こるのか気になって仕方がない。プライベートで俺と会うためだけにここまでやるか普通……?
そして遂にアイツらがいるであろう部屋の前に辿り着いた。サヤがドアに手をかける。
「それでは、あなただけの上質な空間を是非お楽しみください」
意味深なセリフと共に部屋のドアが開け放たれる。
まず目に飛び込んできたのは、高級感が溢れるベージュ色の柄のレースやカーテンで飾られた内装。落ち着いた雰囲気がありつつも、どこか上流貴族のような高貴さに仕上がっている。
それになにより、一番驚きなのは――――
「「「「「「「「「「「先生、お仕事お疲れ様です!」」」」」」」」」」
ベージュ色のシルクのパジャマワンピースを着たLiellaメンバー11人全員に出迎えられる。目を疑うとはまでは行かないが、コイツらが本当にいつものアイツらなのかと錯覚してしまうくらいだ。それくらいみんなの雰囲気がいつもと大きく異なり、言葉が詰まるほどには衝撃を受けていた。
制服でもなければ練習着でもない、スクールアイドルの衣装でもない、1人1人が名家のお嬢様(本当にお嬢様の奴らもいるが)のような気品の高い風貌だ。個人の顔を見るたびに惚れてしまいそうになるくらい、個々人が1つの作品として売り出せるほどに魅惑がある。
テーブルに目を向けるとティーカップや洋菓子など、ザ・お茶会と言わんばかりの面子が揃っている。絨毯、ソファ、クッション、シャンデリア、壁紙、カーテン等々、部屋の高潔な様相がコイツらの上品さをより際立たせている。男の俺がいることでその質が一気に落ちてしまうのではないかと心配になるくらいだ。
「ささ、先生こっちこっち!」
最も側にいた千砂都に手を引かれ、そのままテーブルの中央付近に連れられて座らさられる。未だに状況が呑み込めておらず、あまりに異質な空間に圧倒されるばかりだ。
「あら? もしかして緊張してるのかしら? 流石の先生もこれだけの美少女たちに囲まれたら気が張っちゃうのね」
「当たりめぇだろ。いきなりこんなとこに連れ込みやがって……」
すみれの煽りを皮切りに他の奴らも苦笑する。そりゃ寝巻の女子高生だらけの狭い空間に理由もなく放り込まれたら誰でもこうなるだろ。性欲真っ盛りな思春期時代の俺であっても欲望を忘れてこの状況は目を丸くするだけだと思うぞ。それくらい上品な雰囲気なんだ。
「突然のことで申し訳ございません。実は先生と交流を図るための場として、今回私の屋敷の部屋でパジャマパーティーをすることになりまして……」
「なるほど、俺の予想は大体当たってたってわけか。でもわざわざ畏まって呼び出さなくても、お前らの誘いならいつでも付き合うぞ」
「先生、相変わらず察しが良すぎるし器も大きすぎるっす……!」
「理解力が高くて話が早いのは助かる」
「そのせいで自分でも把握してない欠点をズバズバ突き刺してくるから、たまに心抉られることはあるけどな」
「俺の分析はどうでもいいから、質問に答えろ」
「実は先生とプライベートで一緒になることが少ないと感じたので、こうしてみんなで計画しましたの。まあここまで豪華になるとは私も思っていませんでしたが……」
「でも普段と違うからこそ気持ちの整理ができるというものデス。いつもと同じ空気だったら、それこそこれまでと同じくダラダラと時間を浪費するだけデスから」
つまりは特別な空間を作り出すことで、一歩でも心の距離を詰めたいというコイツらの作戦ってことか。わざわざ俺を秘密裏に呼び出したのもいつも通りの日常を過ごしてしまう、なんてことを防ぐためだろう。自分たちの勝手で先生を呼び寄せたので何かしらの成果を持ち帰る空気を無理矢理にでも作りたい、ということか。別に焦ってはいないだろうが、かなり積極的に動いてきたなって思うよ。
その中で、特にまだ積極的にならなくてもいいこの2人も同じパジャマワンピースを着て、テーブルを挟んで俺の向かい側にいた。マルガレーテと冬毬だ。
「なによジロジロ見て……」
「あまり良い視線とは思えませんね。パジャマ姿に欲情される癖の持ち主なのですか?」
「んなわけあるか。ただお前らも参加してるのがちょっと意外だっただけだ」
「そう? 先生と同じ空間にいられる時間があるのなら、私が拒否するわけがないわ」
「それに先生のことをもっと知りたくて、交流の場が欲しいと思っていたので丁度良い機会です」
「さいで」
1年生の2人は俺との距離を詰めることに対し、先輩たちより圧倒的に前のめりだ。マルガレーテは元々俺のためにこの学校に来たようなものだし、分析派の冬毬としては顧問である俺の情報を把握しなければ気が済まないのだろう。この企画自体うっすいネグリジェを着るわけでもないので、参加することに特別ハードルがあったわけでもなさそうだしな。つまりエロで釣るような真似はしていない。そりゃコイツらがいてもおかしくはないか。
そんな中、隣に座っているかのんが少し心配そうな様子で俺の顔を覗き込むようにチラ見してきた。
「なんだ?」
「あっ、いや、もしかしてご迷惑だったかなぁと思っちゃって。戸惑っているご様子だったので……」
「あぁ、そういう。心配すんな、誘ってくれて嬉しいと思ってるよ。ただ理由もなくこんなサプライズをされて色々理由を聞きたかっただけだ。やっぱ圧強かったか?」
「いえいえ! むしろいつも通りで安心しました。先生が牙を抜いたら、それはもう私たちの知る先生じゃないですから」
「俺ってそんなとげとげしかったっけ……?」
人の心に土足で踏み込んで不安や不満を掘るだけでなく、それを現実問題として突き付けるような真似をするからそう思われても仕方ないのかもしれない。繊細な奴を相手にする場合はそれなりに気を使ってはいるが、いつか真面目にその横暴さを指摘されそうだな。そんな奴と今後出会えばの話だけど。
こうして俺が迎えられた理由が判明し、コイツらがこの企画を開いた意図も把握した。かと言ってこれ以上なにかをするわけでもなく菓子や飲み物を啜りながら駄弁るだけのようだ。正直晩飯を食ってきてないのでもっとガッツリとしたモノを食いたいと思ったけど、このふんわりしたムードをぶち壊したくないので伏せておく。あとでサヤに頼んで何か作ってもらうか。
そんなことを考えている中、改めてコイツらの姿を見て1つ気が付いたことがある。
「全員いつもと髪型が違うのか」
「おっ、やーーっと気付いた。女の子の髪型に気を払わないのは男性としてマイナスですよ、先生!」
千砂都が口角を上げた笑顔で俺の肩を叩いてくる。意外と痛い。
「てか普通に気付くだろ。いつもどれだけお前らのことを見てると思ってんだ。お前らのことくらい脳裏に刻み込まれるくらい把握してるよ」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
「なんだよ一斉に黙って」
「そういうところよ。ナチュラルに『私、先生に見守られてるんだ』という安心感を与える、そのデキる男ムーヴ」
「別に顧問なんだから普通だろ」
「そういう些細なことを積み重ねていった結果、というわけね。こうして女子を囲んだお茶会ができるのも」
「なんかトゲしかねぇ言い方だな……」
「事実でしょ」
女子を囲んだというより、過去からずっと勝手に囲まれていたと言った方が自然だ。じゃあ意図的ではないのかと言われたら怪しいけど、秋葉の仕向けにより派遣される先が毎回女子校なのは確実に狙っている。だから行く先々で女をとっかえひっかえしてるなんて噂が流れんだよな。常にスキャンダルを首にぶら下げてるようなものだ。今の状況だって、下手をしたら教師が女子生徒を囲んで夜にお茶会(意味深)だなんて不名誉を流されかねない。まあスクールアイドルをやるような美女美少女たちに囲まれるのは悪い気はしない、どころか気分はいいけども。
「そんな女癖の悪い先生ですが」
「冬毬、お前も半年の付き合いのくせに言うようになったな」
「誰が誰の髪型をしているのか当てられますか? 私たちへの理解力を確かめさせてもらいます」
「かのんが恋、恋が夏美、夏美が四季、四季が可可、可可が千砂都、千砂都がすみれ、すみれがきな子、きな子がメイ、メイがかのん。そしてお前とマルガレーテはお互いに。これでどうだ?」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
「いやだからなんか言えよ」
あまりに即答し過ぎて逆にキモかったか?? でも髪型なんていつも見てるから誰のかなんてすぐ分かるし、こんなの問題にすらなってないと思うけど。
「そこまでスラスラと答えられるなんて、ビックリしましたの」
「即興で噛まずにストレートに言えたのも凄い。座っている順番じゃなくて、上手く名前を繋げてたのも凄い」
「それくらい私たちのことを普段から観察してたってコトよね。私たちのギャラクシー級の魅力に取り憑かれちゃったのかしら?」
「そうだよ、最初から」
「うぐっ! そこはいつも通り皮肉めいてカウンターするところでしょ! 素直なストレートは聞いてない!」
いつも正直な気持ちを晒しているつもりなんだけど……。そこでダメージを受けるのは自分が直球な思いを受け取ることに慣れていないか、恥ずかしいだけなんじゃないかと思う。それはすみれだけじゃなくて他の奴らもそうだけどな。
そんな折、恋が俺のカップにコーヒーを淹れてくれた。
「先生、どうぞ」
「ああ、サンキュ。って、お前こんなことできたっけ?」
「サヤさんに教えてもらいました。先生がよくコーヒーや紅茶を飲まれていると知って、いつか淹れて差し上げたいなと……」
「わぁっ、恋ちゃん健気!」
「ヒューヒュー恋ちゃん!」
「ちょっ、かのんさんも千砂都さんもやめてください!」
「先生!」
「え、どうしたマルガレーテ……」
「コーヒーも紅茶も私だって淹れられるから!」
「あぁ、次は頼むよ……」
恋といいマルガレーテといい、飲み物をカップに注ぐのは上流階級の作法なのか? マルガレーテは珍しく対抗心を剥き出しにしてるけど、俺絡みになるといつものクールの皮が剥げるのも平常運転か。
「先生、次はこれを食べて欲しい」
「四季? これは、マドレーヌ? お前が作ったのか?」
「そう。メイと可可先輩と一緒に」
「なんかあまり料理をしなさそうなメンツだな」
「だからこそデスよ! 不器用なりに不器用に作ったお菓子こそ、男子ウケが良いと聞きマシタ!」
「実は何回も失敗しちゃったんだけど、サヤさんに教えてもらいながらも割といいモノができたと自負してるから先生には是非食べて欲しいんだ」
「じゃあいただくよ」
見た目もしっかりホタテ貝で香りも甘くかなりマドレーヌのそれっぽい。料理が不得意そうなメンツにしてはこれだけでも上出来だ。早速口にしてみる。
卵の優しい風味とバターのミルキーでリッチな香りが口いっぱいに広がる。柔らかくボリューミーだが食べやすい軽い触感で、噛んだ瞬間にとろけて甘みが漏れ出す。マドレーヌのテイストとしては完璧だった。
「うん、美味いよ。女の子たちから色々手作りお菓子を貰うことは結構あるけど、それに負けないくらいよくできてる」
「ほっ、良かった。先生の口に合うように味は試行錯誤したから」
「俺のために?」
「そうそう。よくお菓子をあげてる人とかに聞いて回ってさ、先生の好みを把握してから作り始めたんだ」
「つまり可可たちの愛情の他に、汗と涙の結晶も含まれてるわけデス!」
「体液は汚いからやめてくれ」
「言葉の綾デスよ!」
コイツらも俺のためにお菓子を作ってくれたのか。しかも事前に情報収集までするなんて相当手が込んでいる。そこから垣間見えるコイツらの想い、やはり俺に向けての愛情表現ということなのだろう。
そんな時、不意に写真を撮られた音がしたので振り向く。そこにはカメラを構えた鬼塚姉妹がいた。
「なんだよ急に。プライバシーもあったものじゃねぇな」
「マルガレーテからいつも盗撮されているので、今更気にすることではないでしょう」
「いや気にするわ。てかなんでカメラ構えてんだ?」
「それは思い出作り係だからですの。こうして先生との思い出を激写しておくことで、先生と一緒に居られる時間をより濃密に感じられますの」
「こういう情報収集や写真整理は私や姉者の得意分野ですから、私たちが担当することになったのです。もしかして、お気に障りましたか?」
「いや。むしろ素敵なことだと思うよ」
「素敵って、先生ってそんなロマンティストな言葉を使う人でしたの……?」
「俺は素直だよ、誰よりもな」
一緒に思い出を作りたい、か。いつも一緒なんだから別に普通のことだと思ったけど、口にしないと案外意識ってしてないものだな。普段はスクールアイドルと一緒に写真を撮ってしまうと、それが何かの手違いで拡散された際にコイツら自身に迷惑がかかると思って一緒に写るのは避けてきた。だけどプライベートで思い出作りのためだけならいいのかもしれない。俺との思い出を作れない機会損失でコイツらに後悔を与えるのだけは避けたいところだ。
「先生のためって言うのなら、先生のパジャマのデザインはきな子たちが考えたっす!」
「えっ、これオーダーメイドなの?」
「そうよ。モデル業も兼任する私とスクールアイドル衣装も担当している千砂都、素朴な発想のきな子が合わさった、先生のために考えたパジャマよ」
「なるほど、ふわもこなのにスーツっぽいスタイリッシュな感じなんて組み合わせ珍しいから、こんなのどこに売ってるんだと思ったよ」
「これも友達たちにアンケートを取ったんですよ。そしてその結果と私たちの感性を総合して、先生に似合うパジャマを仕立て上げました!」
「サヤさんにも手伝ってもらって、きな子たちで作ったっす!」
「オーダーメイドじゃなくてハンドメイドだったのか。てかサヤの奴なんでもできるんだな……。まあとにかくサンキュな。着心地もいいしデザインもよくて普段使いに困らなさそうだ」
服を作るには俺の背丈を知らないといけないはずだが、どこで知ったのだろうか。パジャマだからある程度ぶかぶかでも成り立つが、そこは俺の情報を何故か緻密に把握しているマルガレーテから聞いたのかもしれない。俺の情報が俺の知らない闇ルートで散布されてるのはよくあることなので、もう今更気にしないけどさ。
そしてしばらく歓談。今度はマルガレーテがみんなにコーヒーを淹れたり、みんながお互いに作ったお菓子を分け合ったり、鬼塚姉妹がパジャマ姿のみんなを撮影するなどで盛り上がっている。
そんな中、隣にいたかのんに話しかけられた。
「先生。ごめんなさい、私だけ何も用意してないんです」
「あぁそういえば。別に気にすることじゃねぇだろ。その姿を見せてくれただけでも眼福っつうか、お前らの可愛いところをまた1つ知れることができたから十分な収穫だよ」
「そう言ってもらえると企画した意味があって良かったです。みんな今日のために先生に喜んでもらえることをたくさん調べたり聞いて回って、そのおかげでこのパーティを実現できました。私はおこぼれだけ貰った感じになっちゃいましたけど、あはは……」
「おこぼれ?」
「先生と一緒にいる時間のことです。みんなも私も先生のことが大好きだから、一緒にいられる時間だけでも宝物なんです。だから今まさに宝物を貰っています」
みんながそれぞれの方法で心の距離を縮めようとしている。今回その想いを真正面から受け止めたことでその心意気が伝わって来た。コイツらがいつか本気で想いをぶつけてきた際には、俺も本気で受け止める覚悟を持たなければならないと本格的に自覚する。意外と距離は縮まっており、すぐそこにまで迫っているのかもしれない。
そう考えるのは、コイツらがここまで積極的になるのは珍しいから。恋愛クソ雑魚とはもう呼ばせないくらいの愛の伝え方に、ただ受け取っているだけではダメだと今度は俺が焦らされるほどだ。もちろん焦ってなどいないが、1人1人真剣に向き合う意識は常に持っておく必要があるな。もういつコイツらからその思いの丈をぶつけられるか分からないから、心構えは常備しておかなければ。
「だから私も先生にたくさんの宝物を作ってあげたいです。だから今日できなかった私のおもてなし、いつか披露してみせます」
「別に無理しなくていいぞ、とは言えねぇな。じゃあ楽しみにしてるよ」
「先生もサプライズしてくれてもいいんですよ?」
「俺がいるだけで宝物が生まれるなら、それでいいだろ」
「女の子は貪欲なんです」
「恋愛もまともにしたことねぇくせによく言うよ」
そしてお互いに笑みを浮かべた。
女の子たちの想いと俺の想いが徐々に交わりそうになる。まだ途中だけど、もしかしたら交差するのはそう遠くないのかもしれない。3年生は卒業まで半年もないので遠くなりすぎても困るのだが、それ故にお互いがアクションを起こして心を接近させて想いを伝える必要があるだろう。グズグズはしていられない。
その後は談笑を続けながらこのパーティを大いに堪能した。コイツらとこうしてプライベートで集まる機会がなかったので新鮮だったけど、こうして想いの内を晒しながら話すことでみんなの想いの強さを実感できたし、自分たちが相手に気持ちを伝える意味でも俺にそれを自覚させる意味でもこの企画は大成功だったと思うよ。
特に何か事件があって関係が進展したわけではないが、たまにはこうゆったりしながら親交を結ぶのもいいな。
山も谷もない話でしたが、たまにはこうしたゆるゆるな話もいいかと。
小説のタグにもある通り一応『ハーレム』系の小説として謳っていますが、久々にそれっぽい話を描いたなぁと思いました。もちろん今までもそうだったのですが、恋愛回って基本は個人回になることが多いので、あまり『ハーレム』系要素を感じないとLiella編や蓮ノ空編を描いていて思いました。
こういう話をたくさん描けたらいいんですけどね。流石にストーリーを進めるためには個人回にした方が楽なので(笑)
もしもっと『ハーレム』系を望んでくださっている方がいましたらゴメンなさいですが、もうここまで話数を重ねるとそれ目的で読みに来てくださる方は少ないのかな?