ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

623 / 703
もっと知りたい!先生のこと!

 俺は相手の内情を洗いざらい引き出させるのが得意技ではあるが、自分のことはあまり人に喋らない。女の子と話をする時は基本相手の話題に合わせて会話をするので、話のネタのベースは女の子側に寄せることが多い。そのため自分のことを曝け出す機会って少ないんだ。

 それは女の子側も分かっているようで、たまに俺自身の話もして欲しいとせがまれる時もある。実際にこの前だってそうであり、俺がこうして休日に水族館に出向いているのもそれが理由だ。

 

 話の発端は冬毬が俺のことをもっと知りたいと懇願してきたこと。まだ出会って半年程度であり、プライベートでもあまり一緒になったことはないので世間話の回数も少なく知らないのも無理はない。でも男を相手にそこまで真正面から切り込むなんて、同じ一年生の頃のかのんたちならまず羞恥心に負けていただろう。その点、冬毬は自分の気になることは徹底的に解明しないと気が済まない完璧主義者だ。迷うより即行動派の人間。羞恥心より先にエビデンスを取得したい欲求が勝るのだろう。

 

 そんなわけで、ほぼ初めてレベルと言ってもいいプライベートでのお出かけイベントが計画されて現在に至る。

 参加者は冬毬とついでにその話を聞いていたマルガレーテ。1対1ではないのでデートではないものの、自分に好意を抱く美少女を連れまわしているって意味では変わらないかもしれない。そもそも教師と生徒がプライベートで一緒にお出かけって、教師の性犯罪が取り沙汰される昨今ではかなりマズイけどな……。ま、俺の場合は大学生はもちろん高校生にも見えなくもない若さだから問題ないと信じたい。

 

 そんなこんなで水族館の入り口に到着。既に2人は集まっていた。

 

 

「先生、ご足労いただきありがとうございます」

「こっちこそサンキュ。こういう機会でもないとゆっくり話す時間もないからな」

「そうね。学校では他の女子の相手もしなきゃいけないし、こうしてこっちから時間を作らないと全然捕まらないから。モテすぎる相手を好きになるのも困りものね」

「なるほど、勉強になります」

「俺のことを知りたいって言って、最初に知るのが人の捕らえ方かよ」

「あなたの立場を端的に表していると思うわ」

 

 

 好きな食い物とか趣味とか、軽めのジャブから入るだろ普通。なんでいきなり嫌味混じりで紹介されなきゃいけねぇんだよ……。

 ただマルガレーテの言ってることは本当だ。相手をしているのはLiellaだけじゃねぇからな。今年度から三学年の全てが揃ったってことで生徒数も増え、それだけ関わる奴らも増えている。別に面倒とは全く思ってないし、可愛い子に囲まれるのは男なら誰でも嬉しいからむしろ歓迎。まあそれでコイツにはよく嫌味を言われちゃうんだけどさ。

 

 

「俺のことを知りたいっつっても、別に面白いことは何もねぇぞ。叩いて埃が出てくるような人生は歩んでねぇし」

「それを自分で言いきってしまうのが凄いですね……」

「その言葉が真実か偽りか、流石の私もあなたの全てを理解しているわけではない。出会う前からあなたの活躍は秋葉(あのひと)が盗撮してくれた映像で観てきたけれどね。それはもう子供がお気に入りの教育番組の録画を何度も見直すのと同じように、私もあなたをしゃぶりつくすように画面に釘付けになっていたわ」

「サラッと怖いこと言うな……」

「画面をしゃぶろうとしていたのですか……」

「それくらいやっても、こうして実際に会ってみると知らないことが多かったと言いたかったのよ。つまり、私では冬毬に先生の魅力を完全には教えられない。だから助っ人を用意したわ」

 

 

 マルガレーテが匙を投げるなんて珍しい。プライドが高いから何が何でも自分が俺の魅力を伝えることに躍起になると思っていたが、どうせ中途半端になるくらいなら別の手を使おうということだろう。ここで俺の解説ができないのなら、そのしゃぶるように見ていた俺の映像は何だったんだと逆に怖くなるな……。

 

 

「助っ人って、先輩の誰かを連れて来たのか?」

「もっとあなたのことを知っている人よ。さぁ、もう出てきていいわ」

 

 

 マルガレーテの言葉により近くの柱の裏から何者かが姿を現す。

 黒髪で毛先が緑色のグラデーション。それほど背は高くないが、Liellaの中でもトップクラスにスタイルのいいこの2人と並んでもそこまで遜色はない。人を惹きつける可愛さであればこの2人すら追い抜くあどけなさもある。

 それになにより、俺はコイツに見覚えがあり過ぎた。

 

 

「やっほーっ! マルガレーテちゃん、冬毬ちゃん、そして――――お兄さん!」

「侑? どうして?」

 

 

 正体は高咲侑だった。

 虹ヶ先のスクールアイドルのマネージャーをやっていた経験があり、俺はその時に知り合った。以降はマネージャー見習いとして俺の下でスキルを磨きつつも、恋愛関係になることはなく現在に至る。恋愛関係でないと言ってしまうと他の女の子より希薄な仲だと思われるかもしれないが、その実、『相棒』という他の子たちにはない奇妙でそれでいて強い別の絆で結ばれている。腐れ縁と言ってもいい関係が続いているのもその他にはない絆が故だろう。

 

 ちなみに今は大学2年生。高校時代に自慢だったツインテールは、流石にこの歳になると媚びてる風に見えるからストレートにしている。ガキっぽさしかなかった高校時代に比べるとかなり大人っぽくなった。もう今は十八歳で成人だからもう大人と言えばそうなんだけどさ。

 

 

「実は秋葉さん経由で連絡を貰ってね。お兄さんのことを知りたいのであればこれほどの適任はいないって。あっ、2人は初めましてだね。高咲侑、元虹ヶ先スクールアイドルのマネージャーだよ」

「初めまして、鬼塚冬毬です。今年からLiellaの新メンバーとなりました。以後お見知りおきを」

「ウィーン・マルガレーテ。冬毬と同じよ」

「2人の活躍はライブの映像でたくさん見てるよ。その本人たちと実際に会えるなんて感激だなぁ~」

 

 

 侑は虹ヶ先のマネージャーをやる前、せつ菜のライブを観てから無類のスクールアイドル好きになった。それは大学生になっても相変わらずで、現行のスクールアイドルはメジャーどころマイナーどころ問わず追い続けている。将来はスクールアイドルに関わる仕事をしたいと聞いているので、絵里や希と同じ職に就くのだろうか。

 

 

「私たちのことはどうでもいいの。今日はこの人のことを隅から隅まであなたに教えてもらう日なんだから」

「分かってる分かってる。お兄さんのことなら何でも話してあげるよ。1から10まで、イイところから反吐が出るくらい悪いところまで全部ね!」

「お前絶対に後者がメインだろ。愚痴ってストレス発散するために来たんじゃねぇだろうな」

「あはは、それもありますね~。なんせ私の周りって、お兄さんをよいしょする人しかいませんから」

 

 

 歩夢たちのことか。アイツらもマルガレーテと同じ過去を持つ、虹ヶ先チルドレンの先輩でもある。秋葉によって俺を敬愛するように教育されており、そんな奴らに囲まれた学校生活を余儀なくされていたと言えば侑の苦労が伝わるだろう。最初は真面目な思考を持つのがコイツだけで、俺だけでなく歩夢たちへのツッコミにも苦労してたもんな。しばらくして例の過去に関与しない栞子たち追加メンバーが入ってからはある程度楽にはなったようだ。

 

 

「それでは高咲さん、本日は先生のことを洗いざらい教えてください」

「まかせて! 罪状を全て赤裸々にしちゃうから!」

「なんか俺のことを知るってより、これまでやらかしたことを暴露する会にしようとしてねぇか……?」

「そのやらかしもあなたの魅力だってことよ」

「フォローになってねぇ……」

 

 

 そんなわけで突然の巡り合わせを含めた4人で水族館を回りつつ、俺のことを根掘り葉掘り聞く会が始まった。

 てかよく考えれば別に誰か経由で自分のことを話してもらわなくても、俺自身で喋れば済む話では……? 客観的に見た俺の印象を伝えるって意味では助っ人は有効な手かもしれないが、なんとも悪印象を伝えられそうでちょっと怖い……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 海中をイメージした神秘的なイルミネーション。青と黒を基調として全体的に暗めだが、逆にそれが地上とは思えぬ空間を際立たせる。水中にいるというイメージを来場者に持たせるためだろう。それに海中にいる生物は日の光があまり差し込まないところにいる奴もいるから、生きる環境を整える意味でも館内を暗くしているのかもしれない。

 

 そんな中、冬毬はとある水槽の前に釘付けになっていた。

 

 

「これだけたくさんのクラゲをこんな大きな水槽で見られるなんて……」

「冬毬ちゃんってクラゲ好きなの?」

「えぇ、自室の水槽で飼ってるわ。自分のお姉さんや私、先生の名前を付けてね」

「おぉっ、中々フレンドリーに接してるんだね」

 

 

 フレンドリーなのか? ペットに知り合いの名前を付けるのって呼ぶときに恥ずかしくないのだろうか。本人がそれでいいのであれば何も言うことはないけど。

 

 冬毬が見ているクラゲの水槽はそれなりに大きく、1匹の大きいクラゲに小さいクラゲが追従していた。そのしなやかで綺麗な流れに目を奪われたのだろう。

 

 

「さて問題です」

「なんだよいきなり」

「その大きなクラゲは小さなクラゲをたくさん率いている、つまり大きい方はお兄さんだと見なすことができるわけだよ」

「できるか?」

「いつも周りに女の子をたくさん引き連れているお兄さん。そこで問題。お兄さんは数多の女性を手籠めにしてきてるけど、その人数は一体どれくらいでしょうか?」

「手籠めって……」

 

 

 悪意しかないだろその問題。普通に知り合いレベル以上で何人いるのかを問えばよかったものの、侑の奴やっぱり日頃の恨みを晴らそうとしてないか……?

 

 

「先生がたくさん女性と関係を持っていることは知っています。したがって、多く見積もっても――――30人くらいでしょうか」

「ブッブー、残念。正解はその倍以上。推定でも60人以上はいると思うな」

「思うって、知らないのですか? それよりも、そんなに自分の配下が多いのですか先生って」

「そんなの数えたことねぇから知らねぇよ」

「強者の余裕ね。普通自分の付き合ったことのある女の数くらい覚えてるでしょ。男にとって何よりのステータスになるわけだし。でもこの人は覚えてない。つまりそういうことよ」

「使い捨てるほどお付き合いをしてきた、ということですか」

「おい勝手に納得すんな」

 

 

 今日の3人揃って口が悪いな。冬毬は侑とマルガレーテの誘導に乗せられているだけだと思うけど……。

 ちなみに数えたことがないってのは本当で、その気になれば携帯の連絡先から集計することは可能だ。スクールアイドルの奴らだけでも50人はいるか? それ以外にも関わりのある子はいて、家族や幽霊まで含めたら確かに60人は超えるかもしれない。あながち間違ってないのでツッコミを入れようにも入れづらいが、別に全員が全員恋仲というわけでもないため、それでステータスを感じているとかはない。使い捨てるなんて(もっ)ての外だ。まあコイツらも冗談で言ってるだけだと思うが。

 

 

「その中には実の姉と妹、母親も含まれてるわ。近親相姦上等、そんな社会のレールから外れながらも教師を務めているクレイジーな人なのよ」

「えっ、そうなのですか!? 破天荒な方だとは思っていましたが、まさかそんな趣味が……!!」

「趣味じゃねぇ!!」

「まあそれは大袈裟だけど、妹さんとそういった関係なのは確かだよ。ですよね?」

「答えづらい質問を振るんじゃねぇよ」

「つまりは肯定。これから先生に常識を説かれたら冷めた目で見るようにします」

「俺の株下がってんじゃねぇか……」

 

 

 そりゃ妹と肉体関係を持ってる奴に常識を指導されたくないわな。俺だってそう思うよ。

 ていうか本当に俺の罪状を晒してるじゃねぇか。このまま行くと冬毬の俺に向ける目が変わってしまいそうだ。とは言いつつも自分の行いを是正するつもりはないし、親しくなっていけばいつかはバレることだ。コイツの先輩たちはそのことを知ったうえで俺のことを教師として信頼し、恋愛対象である異性として見てくれてるわけだしな。自分の良さで今受けた衝撃を上塗りしてやればいい。

 

 

「さて続いて問題です。それだけたくさんの女性を口説いてきたお兄さんですが、実は常套手段があります。それは一体なんでしょう」

「常套手段……。先生は人の考えを読むのが上手いので、心に土足で付け入ることでしょうか」

「さっきからやたらと辛辣じゃねぇか? もっと手心ねぇのかよ」

「それもあるけど、もっと女性を惹きつける言動があるよ。それは人を壁際に追い込んで顔を近づけ、上から目線で声を荒げて無理矢理にでも心に響かせる。自分を強い男だと認めさせて説得力を高める、何度も見てきたよ」

「あっ、それ私もされました」

「やっぱり!? お兄さんっていつになっても変わらないですね」

「なんで呆れられなきゃいけないんだよ……」

 

 

 自分ではいつも同じ手を使っていると気付かないが、侑を始めとしてよく言われることではある。教師になってからは荒々しい言動は慎むように気にかけてはいるものの、性根ってのはそう簡単に矯正できるものではないようだ。

 

 

「でもそんな強い男に惚れちゃうのよね。高圧的なのは圧倒的な自信の表れ。そんなものを眼前に突き付けられたら好きになってしまうに決まってるわ。目の前にいるのは頼れる男だって無意識にイメージを植え付けられてしまうもの」

「一種の洗脳だよね。言葉巧みに誘導されて、いつの間にかお兄さんの常識が自分の常識になっちゃう。周りにそんな人たちばかりで、一般常識持ちの私は苦労したよ」

「お前は俺に唯一染まらない体質だもんな」

「だからこうして、お兄さんに惚れかけてる女の子たちに忠告しに来たんですよ!」

「俺のイイところを教えるためじゃねぇのかよ……」

 

 

 笑顔で俺の特徴(負)を言いふらす侑。別に暴露されたこと全部がマイナス印象になるわけではないが、初耳情報ばかりの冬毬にとってはいくら頭の回転が速いとはいえ処理しきれないだろう。常識の逸脱はもちろん、恋愛ってこんなのだっけと錯覚させてしまいそうだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、あそこでアイス食べようよ! 奢っちゃうよ――――お兄さんが!」

「なんで俺なんだよ。てかお前今日楽しそうだな……」

「自分の苦労を誰かに共有できると思うと嬉しくてうれしくて!」

 

 

 虹ヶ先という俺を崇拝する奴らばかりいる学校にただ1人の常識人だったもんな。大学に入学してからは人脈が広がったからある程度は解消されたものの、高校時代の友人たちと会う時はやはり常識の違いで苦労しているらしい。特に歩夢たちと集まる時は常識のすれ違いが起こるどころか、向こうはさも当然かのように非常識を常識と思い込み、侑のツッコミに対してもきょとんとするため呆れてしまうようだ。

 

 いったん館内から外に出て、売っていたアイスクリームを食うことになった。

 流れで全員分奢ることになってしまったが、この中では唯一の社会人なので当然か。

 

 

「そういえば、クラゲのアイスクリームなるものがあるみたいね。大量発生したエチゼンクラゲを処理するために有効活用しているとか」

「ちょっとマルガレーテ怖いこと言わないでください! まさか共食いだとでもいいたいのですか!?」

「いやそこまでは……。あなたの髪型はクラゲみたいだけど」

「これからの人生、アイスを食べられなくなったらマルガレーテのせいにします……」

 

 

 少なくとも水族館で話す話題ではないな。たまに館内の飲食店で刺身が売ってるとか聞くけど、あれはフェイクなのだろうか。少なくともこの水族館にはなかったが、あるとしたら何とも微妙な気持ちになるな。

 

 

「食べ物と言えば、さてここで問題です」

「毎回唐突過ぎる……」

「お兄さんが好きな食べ物はなんでしょう。飲み物でも可」

「今度はまともな問題ですね。先生が飲み食いしているところをあまり見たことがありませんが、部室ではよくコーヒーを淹れてもらって飲んでいるのでコーヒーでしょうか」

「う~ん、それも正解だけどね。もっと抽象的なものっていうか、これだってものがあるんだよ」

「好きな食べ物に抽象的? 意味が解りません」

「答えは『女の子が作ってくれた、愛情が籠った手料理』よ。女性の手料理であればレシピは何でもいいの」

「マルガレーテちゃん、正解!」

 

 

 これは無難な問題な気がする。高校二年生までは1人暮らしだったものの、楓が家に戻ってきて以降はずっと妹の手料理を食ってるし、楓がいなくて秋葉がいる時はアイツが作ってくれる。浦の星で教育実習をするために沼津に住んでいた時は、楓がいなかったからずっと秋葉が作ってくれていた。

 

 

「妹さんやお姉さんに手料理を作ってもらい、定期的に色んな女の子から手作りのお菓子を貰って、家に誰もいない時は手頃な女の子を呼び出して料理を作らせる。だからお兄さんの胃袋は女の子の愛情でないと満たせないんだよ。贅沢だよね~」

「そういえば、部室ではいつも恋先輩が先生のためにコーヒーを淹れていますね。千砂都先輩からはたこ焼きを貰っていたり、他の人からも色々受け取っているのを見たことがあります。でも家に呼びつけて作らせるのはちょっと……」

「なんだよその目は……」

「ご主人様気質なのよ。普段はクールだけど無自覚にご主人様オーラが滲み出てる。オスとして頂点に立って玉座に座っているような存在感がね。頼んでもないのに女たちが献身的になっているのも、そういうオスのオーラが出ているからだと思うわ」

「私も何度も呼び出されてるから、もう特技に料理って書けるくらいに上手くなっちゃったよ。どうしてくれるんですか?」

 

 

 いや一斉にこっちを見られてもなんて返していいのか分からない。

 ここまで自分の特徴を分析されると恥ずかしいな。最初は自分が全部答えるから侑は不要とか思ってたけど、今はその逆。侑やマルガレーテが教えるのであれば俺の方がいらねぇじゃん。こうして無駄に居心地が悪くなるだけだ。

 

 

「先生が高圧的で俺様系であることは知っていましたが、お話を聞いて思っていた以上だと実感させられました」

「お前らのせいで俺の株が下がったような気がするんだけど、どう落とし前つけんだよ……」

「知ったことで余計にどう接するのか難しくなったような気がします」

「あはは、そんな身構えるほどの人柄でもないよお兄さんは」

「おい」

 

 

 侑は笑いながら立ち上がり、俺たちに背中を向けながら少し歩みを進める。

 そして、『でも……』と呟いたうえで、俺たちに振り返った。

 

 

「何か困ったことがあったら、絶対にお兄さんに頼って。どんな困難でもお兄さんなら絶対に一緒に解決してくれる。気楽なものだよ? こんなヒーローさんが隣にいるのはね。なんたって何があっても100%なんとかしてくれるから、その安心感で心も楽になっちゃうよね。今まで散々言ってきたけど私は無条件に信頼していいと思うな、お兄さんのこと」

 

 

 侑はさっきまでの茶化した笑顔ではない、微笑みかけるような優しい表情になった。

 その言葉を聞いて顔を見た冬毬は少し考え込むも、彼女の表情もすぐに柔らかい笑みに変わった。

 

 

「はい、承知しています。私が今Liellaにいるのも先生のおかげですから、その時の先生の熱いお気持ちはずっと忘れることはありません。先生の掟破りな性格を深く知ってしまい、少々戸惑ってしまったのは事実ですが……」

「悪かったな常識がなくて」

「驚きはしましたが、優しい先生であることは分かっていますよ。あの時からずっと」

「なんだかんだ信頼されるから、誰もこの人を憎まないのよね」

 

 

 急な持ち上げ。でも軽蔑されることもあれど最終的に信じてくれるのであればそれで問題ない。最初は信頼されていたのに、粗が見えまくって徐々に失望されるよりかはよっぽどマシだ。これまで自分のやり方を貫いて女の子たちと接してきたけど、誰もが同じやり方でウマが合うとは思っていない。もしかしたら今後誰かとは絶対に分かり合えない時が来るかもしれない。

 でも、冬毬とはそういう関係にならなそうで良かったよ。例え半年間でも築き上げてきた思い出があるわけで、それを忘れたい記憶にはしたくねぇからな。

 

 ただ、今回みたいに俺の本性を暴く会は俺がいないところでやってくれ。途中冬毬が冷ややかな目になったが、そういうのあまり見たくないんだよ。心臓に悪い。

 

 

「これで評価のバランスは取りました。だから悪評を広めたことはチャラですよね、お兄さん♪」

「俺の取扱説明書かよお前……」

「相棒ですから!」

 

 

 あまり大きくない胸を張る侑。

 コイツは俺に苦労させられたと言ってた。だけど俺がこれから新しい女の子と出会うたびにコイツがあらぬことを吹き込みそうで、今度からは俺も苦労させられそうだ。そういう迷惑をかけあっていることも相棒たる所以なのかもしれない。

 




 予告なく突然の侑の登場。前回の投稿時点では次は別の話の予定だったのですが、先にこの話の方が冒頭からオチまで思い浮かんだため優先して投稿しました。
 零のことを客観的に評価するなら彼女が適任でしょう。秋葉や楓の場合は思いっきり主観と忖度が入りそうで……(笑)

 気付いている方がいるのかいないのかは分かりませんが、物語を動かすのに必要な秋葉を除けば侑と楓は毎章皆勤賞だったりします。私が贔屓しているので意図的っちゃ意図的なんですけども、こういう過去のキャラがゲストで登場するのは盛り上がるので私は好きです。
 ただゲストが多すぎるとメインキャラの活躍が減ってしまうので、そこは過去キャラの登場回数は最小限にしつつ、メインキャラを引き立たせるように頑張ってたりします(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。