ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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終わらぬ夢から目覚めて(夢裡)

 七草七海ちゃん。

 私の三年間通してのクラスメイト。私が可可ちゃんと2人でスクールアイドルを始めた頃から、まだ部が存在せずに非公式で活動していた頃から手助けしてくれている。他の部活動にも助っ人として顔を出しており、しかもそこで一定の功績を上げるほどの多芸。成績もトップクラスで文句なしの文武両道。それでいて実力の高さに偉ぶらず人当たりもいいため、同級生や後輩、先生たちからも信頼されている。学校の中での人気はLiellaも高い方だと思うけど、個人部門があれば間違いなく彼女がトップだと思っている。

 

 身体が小柄だが豊満な肉体を持つ、いわゆるトランジスタグラマーというものらしい。髪は赤を濃くした鮮血のような色で、正式には朱殷(しゅあん)色。ボリュームのあるツインテールは彼女の象徴的な髪型であり、その特徴的な髪色も相まってこの学校の人であれば遠目からでもすぐ彼女の存在に気が付けるほどだ。小柄で活発で人当たりがいい子だからそりゃ人気も出るよねって話だよ。

 

 ただ、それは表向きの顔。

 裏の顔は一言で言ってしまえば性悪。先生はよく小悪魔と称している。裏の表情は助っ人として活躍しているヒーローの輝きとは一変、目を細めて口角を上げ、にんまりと微笑む憎たらしい顔。小悪魔のようにイタズラや憎まれ口などの言動をするようになるので、表と裏の彼女で本当に同一人物かと疑ってしまうくらい。煽りを込めた口調は何もかもを見下した態度で、持ち前の頭の回転の早さも相まって私たちは何度もしてやられている。

 

 七海ちゃんがこのような表と裏を使い分けているのは明確な理由があるんだけど、今はそれどころではないから一先ず置いておくことにする。

 ちなみに今は表……のような気がする。あどけない表情と少し媚びた声は表の顔の時にするものだから。

 

 

「なんだか珍しい組み合わせだね。一年生から三年生までみんな揃ってる。これって何の集まり?」

「じ、実は友達なんだよ私たち。趣味も会うから意気投合しちゃって……」

「そうなんだ! 同じ部活とかでもないのに趣味が合う人同士で集まるなんて、しかも全学年が揃うなんてホントに珍しいね!」

「ねぇ七海ちゃん、スクールアイドルって知ってる……?」

「え、なにそれ。学校の……アイドル?」

 

 

 同じ部活ではないとまで言われてしまった。そっか、スクールアイドル部が存在してないからこの11人で集まっているのは周りから見ると不自然なんだね。確かに学年が違う人たちがこれだけ集まってるんだ、何かの共通点がないと違和感を抱いてしまうのは当然だ。

 

 そして案の定スクールアイドルのことは知らないようだった。七海ちゃんは『学校に通いながらアイドルをやってる子、ウチにいたっけ? 今思い出すから待ってて』と言い、可愛く唸りながら記憶を探っている。完全に表の顔で自然な仕草。惚けたフリをしてからかっているわけではないのかな、多分、分からないけど……。

 

 その時、マルガレーテちゃんが私たちより一歩前へ出た。それを見た七海ちゃんも彼女の方を向く。

 

 

「マルちゃん? どうしたの?」

「その呼び方、私のことは幼馴染として認識しているみたいね」

「え、なにその確認……。生まれてからの幼馴染だけど、まさか誰かの変装とかじゃないよね? 私とマルちゃんの個人情報を聞き出そうとしてる??」

「そんなわけないでしょ」

「そう……。でもマルちゃんが誰かとつるんでるなんて珍しいね。何してるの?」

「そのガラスケースを見ていたのよ。各部が獲得したトロフィーをね。私たちの活動の成果もいつか飾ってもらいたいから、ゲン担ぎのために他の部からパワーを貰いに来たってわけ」

「ふ~ん、意外とスピリチュアルなことに頼るんだね。現実主義者だと思ってたから意外」

 

 

 七海ちゃんはガラスケースに近づく。

 すると、とある一点を見つめて不思議そうな顔をした。

 

 

「ねぇ、ここ不自然に1つ空いてない? 超目立つ位置なのに何もないよ。周りにはトロフィーとか盾とか置いてあるのに、ここだけ空いてる……」

 

 

 そりゃそうだよ。だってその位置には元々私たちが去年『ラブライブ!』を優勝した時のトロフィーが飾られていたんだから。スクールアイドルの概念が消えたからそこだけがぽっかりと空席になっている。さっき可可ちゃんが顔をガラスケースに押し付けてまで嘆いていた場所だ。

 

 

「でもさぁ、これって――――」

 

 

 何かを悟ったかのような反応をした七海ちゃん。

 そして、首をゆっくりとこちらに向けながら――――

 

 

「最初は何かが置いてあったみたいだね。いきなりそれだけが忽然と消えた、そう感じられるよ……」

 

 

 私たちの背筋に悪寒が走った。

 さっきまで無邪気で明るかった彼女の様子が一瞬だけ変わった気がしたからだ。気付かぬうちにじわりじわりと追い詰められていたかのような、突然後ろから別の何かの気配を感じたかのような、一筋の悪寒が私たちの思考も身体も硬直させる。

 

 

「な~んてね! じゃあ用事があるからこれで! また教室でね!」

 

 

 束の間、七海ちゃんは明るい笑顔に戻った後そそくさと去っていった。

 あのあどけない表情を見ると自分たちの勘違いだと思い込んでしまう。

 

 

「七海さん、少し身震いしましたけど目立った怪しいところはなかったような気がします」

「可可もななみんの日頃の行いから仕草とか気にしていマシタが、至って普通ようデス」

「私たちのトロフィーがないことに気付いたのは、単に察しが良かっただけってことかしら」

「七海ちゃん賢いし察しがいいからね。そういう違和感にはすぐ気づくんじゃないかな」

 

 

 私と同じく七海ちゃんと付き合いの長い三年生のみんなも意見は一致しているみたい。表の顔をしている時の七海ちゃんは本当にイイ人なんだよね。表の顔をしている時は、だけど。

 

 

「あっ、もうそろそろ先生が出勤してくる時間」

「確認しに行くのは怖いけど、先生の連絡先がない以上は直接会ってみるしかないよな……」

「でもそれできな子たちのことを覚えていたら嬉しすぎるっす! それに先生ならこの事態もあっさり解決してくれるはず!」

「ただ先生がこの学校の先生としているかすらも疑問ですの……。スクールアイドルの概念がなかったら先生は先生ではなくなっている可能性も……」

「姉者、不吉なことを言わないでください。でもあり得る未来かもしれないので、やはりこのまま手をこまねくより教師用の入り口に出向いた方が良さそうです」

 

 

 満場一致。

 私も先生との絆が断ち切れていることを自覚するのは怖いし、そもそも先生がこの学校に存在していない可能性もある。その事実を知らないでずっと不安に思うより、ひと時の絶望を味わってそこから立ち直った方が吹っ切ることができるかもしれない。それに可能性は低いけど、もし先生がスクールアイドルのことを覚えていたら事件解決が楽になる。先生なら絶対になんとかしてくれるから。だから確かめに行く必要があるんだ。

 

 みんなが教師用の入り口に向かいだす。

 その時、一番後ろを歩いていた私は同じく後ろにいるマルガレーテちゃんに小声で話しかけられた。

 

 

「気を付けておいた方がいいわ、七海のこと」

「えっ、そうなの? あまり変なところはなかった気がするけど……」

「髪型よ」

「髪型? あっ……!!」

 

 

 思い出した。七海ちゃんは表と裏の顔で髪型を変えている。表の時は三つ編みツインテールだけど、裏の時は同じツインテールだけど髪にボリュームを持たせるため編んではいない。

 そしてさっき会った七海ちゃんは髪型は――――後者だ。

 

 

「じゃあもしかしてウソをついてたってこと?」

「それは分からない」

「七海ちゃんを見た時から分かってたんでしょ? どうしてさっき直接指摘しなかったの?」

「指摘してもはぐらかされるだけよ。それにスクールアイドルの概念がなくなった影響で、もしかしたらあの子に表も裏もない可能性だってあるしね」

「1つの概念が消えただけでどこにどう影響してるか分からなくなるから、考えてるだけでも頭が痛くなりそう……」

「バタフライエフェクトに似てるわね。とにかく、先に先生のところへ行きましょう。今も教師であるのであれば、だけど」

「マルガレーテちゃんまで怖いことを……」

 

 

 七海ちゃんのことは気になるけど、まずは先生だ。

 廊下を一歩一歩進むたびに緊張と不安が膨れ上がる。果たして先生は私たちのことを『スクールアイドル』として認識しているのか……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ありましたの! シューズラックの1つに先生の名前が書かれているですの!」

「よかったっす! これで先生はこの学校の教師だってことが確定したっすね!」

「まずは第一関門突破」

「本番はここからだな」

 

 

 どうやらスクールアイドルの概念がなくても先生は教師になっていたみたい。とりあえず先生の存在が確認できただけでも一安心で、本当に最悪な事態は回避された。

 あとはスクールアイドルの概念が残っていれば話は早いんだけど……。

 

 いつもみたいに朝の低血圧で若干低めの声になった先生の肉声で挨拶をされたい。朝は特に気ダルそうにしているけどそういう儚げな表情も眉目秀麗。信頼している人の前ほど先生はより態度を崩すようになり、荒々しい言動になるもののそのおかげで気っ風がより良くなる。そんな姿をもはや自分の日常になるほどに見てきた。

 今日もその姿を見せて欲しい。いつもと何も変わらぬその姿をもう一度目に焼き付けさせて欲しい。まさか見慣れた光景をここまで渇望するなんて今までの人生でなかったから、こうして待つだけで緊張がどんどん高まっていくのも仕方がないか。

 

 先生が来る間にも他の先生たちが出勤してくる。そのたびに挨拶をするけど、やはり『スクールアイドル』に言及する人はいなかった。多分さっきの七海ちゃんと同じく何の繋がりもない一年生から三年生までが揃って何をしているんだろう、と疑問に思われていると思う。これだけの生徒が教師用の入り口に集まっていること自体がおかしな話だもんね……。

 

 

「皆さん、来たみたいです」

「遂にお出ましね」

 

 

 冬毬ちゃんの声でみんなが一斉に入り口に目を向ける。

 先生の姿が見えた。こちらに近づいてくる先生の様子に特におかしなところはない。ただ入り口に私たちが(たむろ)しているのを見て、歩みは止めないながらも驚いてはいるみたいだ。私たちがじっと見つめているからなおさらかもしれない。

 

 そして、とうとう入り口で対面する。

 

 

「おはよう」

「「「「「「「「「「おはようございます……」」」」」」」」」」

 

 

 私たち(マルガレーテちゃん以外)が挨拶をするけど、こちらにだけ流れる異様な緊張感に煽られて意気消沈な声色になってしまった。

 ただ、先生は特に何も言わずに靴をシューズラックに入れて校内用の靴に履き直す。

 

 この時点でみんな99%を悟った。

 スクールアイドル部の全員が集結しているのに、顧問である先生が何も言わないのはおかしいと。それはつまり、先生から『スクールアイドル』の概念が消失しているということ。ショックで頭の中が真っ白になりそうだがすんでのところで踏みとどまる。

 

 

「あぁ、ちょうどいい。葉月」

「は、はい!?」

「今日生徒会に行くの遅れるから」

「は、はい……」

「あと、嵐」

「はい!」

「ダンス大会の申込書、学校に届いてるから後で職員室に取りに行け」

「わ、分かりました……」

 

 

 恋ちゃんと千砂都ちゃんが声をかけられるも、どちらも事務連絡。ただその内容はどうでもよく、私たちはさっきの会話だけでさっきのショックに更なる追い打ちをかけられていた。

 先生は私たちのことを下の名前で呼ぶけど、それは部活などあくまで私たちしかいない空間に限られる。授業中など教師の責務を全うする、いわゆるお仕事モード中は苗字呼びになる。しかも名前はよほど絆を結んだ仲でないと呼ばない性格だ。

 

 そう、今この場には私たちスクールアイドル部しかいなかったのに苗字呼びだった。

 あまりにも他人行儀。強めな口調なのは変わらないけど、だからこそ私たちだけが別世界に放り出された感覚がより一層強い。ここまで紡いできた絆と愛が全てリセットされ、先生にとって私たちはモブキャラになってしまったんだと自覚させられる。そう考えれば考えるほど私たちの心の深部まで絶望が侵食する。

 

 大好きな先生が振り向いてくれない。その事実だけで先生に心から親愛している私たちへのダメージは絶大だ。

 

 

「先生は! スクールアイドルってご存じっすか!?」

「き、きな子お前……」

「スクール、アイドル……? 聞いたことないけど、そんなのがあるのか?」

「そ、そうっすか……。なんでもないっす……」

 

 

 我慢できずにきな子ちゃんが本題へ切り込んだけど撃沈。予想通り先生はスクールアイドルの認識を持っていなかった。

 つまりスクールアイドルで繋がっていた私たちと先生の関係が消えたことも確定。先生と作ってきた思い出が、ここまで積み重ねてきたことが過去に置き去りにされてしまった。ここまでお互いに築き上げてきた想いも何もかも。『悲しい』なんて、そんな言葉だけでは言い表せない悲壮感が漂う。

 

 

「先輩方、どうされましたか? 先輩!」

 

 

 冬毬ちゃんの緊迫した声が響く。だけどそれに応答することはできなかった。

 冬毬ちゃんとマルガレーテちゃん以外のみんなも私がさっき語った気持ちと同じ、多大なるショックを受けているんだと思う。去年私もみんなも先生と大なり小なり想いを繋ぎ合った仲だ。流石に恋人とかそこまで踏み込んだ関係に発展したわけじゃないけど、各々相手が好きという気持ちを僅かばかりだけど伝え合っていたはず。ただ、大好きな先生が別人のようになってしまったことでそれが全て瓦解してしまった。想いも、私たちの心も……。

 

 

「おい、どうした?」

「あなた、本当に何も覚えていないの? 覚えてると言っていいのかニュアンスは怪しいけど、この集まりを見ても何も感じない?」

「そりゃ同じ部活でもないのに一年生から三年生まで集まって違和感はあるけど……」

 

 

 マルガレーテちゃんが問いかけるも先生の反応は淡泊だ。やっぱり私たちのことは自分にとって一人の生徒、たったそれだけの認識なんだと思う。先生にとって特別な人であることに私たちは一種の喜びを感じていた。少なからず想いを伝えてそんな関係になれたんだと思っていた。だからこそ、この現実を受け止めるのが辛い。

 

 先生にも私たちの悲痛だけど外には出せない叫びはなんとなく伝わっているようで、怪訝な顔で私たちを見つめていた。

 

 

「お前らが何で悩んでいるのかは知らないけど、もしかして俺が何か忘れてることがあるのか?」

「だとしたら、あなたはどうする?」

「どうするも何も全く知らないことをどうこうできないだろ。でも1つ言えるのは――――」

 

 

 先生は一旦言葉を区切る。

 

 

「俺は常に前を向く人間だと自負してるけど、だからと言って過去の思い出を忘れることは絶対にない。誰かの手によって忘れさせられようとしてるとか、認識が変えられそうになってるとか、そんなの俺には通用しねぇよ。ま、誰を中心にこの世界が回ってるんだって話だ」

「そ、それはそうですけど……」

「澁谷。お前だって人前ではアガッて歌えなかったトラウマ級の黒歴史があるけど、その過去も思い出の1つだろ? 今後絶対に忘れることのない、大切な思い出のはずだ。それと同じく俺だって忘れることはねぇよ」

 

 

 自分に自信満々な性格なのはどんな状況であっても変わってないみたい。

 ただ、私たちがスクールアイドルによって繋がっていたことは忘れてしまっている。先生がいつもの先生だってことには安心したけど、結局私たちとの絆は取り戻せていない。私たちを落ち着かせようとしてくれているのは嬉しいけどね……。

 

 そんなカッコつけたセリフ吐いてるけど認識改変されてるじゃん、とツッコミを入れたくなるのはさて置き、ここからどうしようかと考えようとする。だけど先生との関係が断ち切られたことにショックで頭が全然回らない。改めて私たちの中で先生の存在の大きさを実感した。

 

 そして会話も終わり、先生がここから去ろうとする。正直ここで別れたくはなかった。別れると本当に教師と生徒だけの関係になってしまいそうで、ここにいればまだ繋ぎ止められると思ったから。

 

 その時、先生の後ろからひょっこり影が現れた。

 

 

「センセー! おっはようございまーすっ!」

「うぉ、なんだ七草か。おはよう」

「も~うっ、名前でいいですっていつも言ってるのに!」

「じゃあまず腰に抱き着くのやめろ」

「え~JKに抱き着かれるなんて男として最高でしょ。女子の身体を合法的に堪能できるもんね!」

「合法なのかこれ……。最近は教師の不祥事が多いから、こういうことには敏感なんだよ」

「大丈夫。センセーはイケメンさんだから」

「理由になってねぇ……」

 

 

 また七海ちゃんが現れた。笑顔で先生の腰に纏わりつく。

 さっき会った時と同じく無邪気な言動だけど、その先生とのやり取りを見て私たちはより精神ダメージを受けた。

 

 先生と七海ちゃんは変わらず良好な関係を築いているからだ。確かにこの2人の関係は『スクールアイドル』の存在によって変化するものではないので変わっていないのは当然だけど、でもこうして自分たちとの絆の差を見せつけられると衝撃が大きい。

 もちろん七海ちゃんに嫉妬しているとか、取られたと思っているとか、そういうのではない。抱き着くまではしないものの、私たちも同じくらい先生と親しい関係だったはず。そこから切り離された私たちの目に変わらぬ絆を育む先生と七海ちゃんを見ると過去の自分と先生の関係を想起させられる。でもそれは今や失われてしまった思い出であり、この2人を見ていると心苦しさが更に強くなってしまう。

 

 

「あれ、かのんちゃんたちここにもいる! 今度は教師用の入り口に集まっちゃって、どしたの?」

「い、いや、ちょっと先生に用事があって……」

「そうなんだ。へぇ~……」

 

 

 一瞬だけど、七海ちゃんが目を細めて悪戯っぽく微笑んだような気がした。すぐに無邪気な様子に戻っちゃったけど、その刹那だけ裏の顔が帰って来たかのような感じがした。でも流石に気のせいかな……。

 

 

「センセー、今日の日直は私だから早く日誌ちょーだい!」

「来たばかりだから持ってねぇっつうの」

「じゃあ一緒に行こうよ!」

「じゃあ離れろ」

「それはヤダ」

「お前、いつになく積極的だな……」

「そうだよ、だって――――」

 

 

 七海ちゃんは一瞬だけチラッとこちらを見る。そしてすぐに先生に視線を戻した。

 

 

「こうなる時を、ずっと待ってたんだから!」

 

 

 恋する純粋無垢な少女が放つ希望に溢れた声。本当の本当の本心からの声、そんな気がした。

 でもどこか粘っこくて、まるで()()()()()()()()()ような感じもした。私たちの耳にへばりつくくらいに、ねっとりとした感情もあるような……。

 

 

「じゃあ、俺はそろそろ行くから。悩み事、解決するといいな。また何かあったら相談してくれ」

 

 

 先生は七海ちゃんに巻きつかれながらこの場を去ろうとしていた。

 その時、可可ちゃんが一歩踏み出す。

 

 

「先生! 先生は、ご自身の夢を覚えていマスか!?」

「夢? 女の子の笑顔を見ることだけど」

「覚えてるのデスね……」

「当たり前だ。それはお前だって同じだろ。自分の留学してきた理由が、そのまま今の夢になっている。それを忘れるなんてありえないって自分でも思うだろ?」

「は、はい……」

「じゃあ、また教室でな」

「私は日誌を取りに行くから、また後で!」

 

 

 先生と七海ちゃんは去ってしまった。

 寂しさ、悲しさ、虚無感など、ありとあらゆる負の感情が私たちを巻き込んで渦巻く。果たしてここからどうしたらいいのか、マイナス思考に苛まれて考えることもできなくなっていた。

 

 

「皆さん、大丈夫ですか?」

「冬毬、大丈夫ですの……」

「姉者、皆さん……その、涙が……」

 

 

 冬毬ちゃんに言われて気付いた。一年生以外のみんなが涙を零していたことに。

 あまりの負の感情に支配されていたせいでみんな自分の身に起きていることを察知できなかった。

 

 ただ自分が涙していると知った瞬間、私もみんなも感情が徐々に抑えきれなくなっていき――――

 

 

「み、皆さん!」

「まんまとしてやられているわね、この世界に……」

 

 

 言葉にならない感情が涙として吐露される。

 私たちはしばらくの間ここから動くことができず、そんな私たちを冬毬ちゃんとマルガレーテちゃんはそっと見守ってくれていた。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 零との関係が断ち切られて失意に堕ちるかのんたち。それを見て冬毬やマルガレーテはどう動くのか。かのんたちは零抜きで立ち直れるのか。ここまではLiellaが悲壮に苛まれてきましたが、次回からはスクールアイドルの概念が消えた世界の真相に近づいていきます。

 また時折揺らぎを見せる七海の言動、そして零は……
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