ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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終わらぬ夢から目覚めて(覚醒)

 先生の登場で状況が一変した。

 七海ちゃんが私たちから『スクールアイドル』の概念を奪おうとしたその時、見計らったかのように登場。あまりにも都合が良すぎると思ったけど、どうやら私たちの会話を裏でずっと聞いていたみたい。

 その姿を見ただけで私たちは心情は安堵、七海ちゃんは驚きに変わった。姿を見せるだけで人の心の余裕をここまで変えられるなんて、相変わらず主人公過ぎると言うか何と言うか……。

 

 

「そっか。じゃあ先生は演技をしてたんだ……」

「あぁ。上手いだろ」

「流石は女優の息子だね。ま、あの程度のヒントも気付けない私も私だったけどさ」

 

 

 先生はこの世界の異変に気付いていながらも私たちの前では認識改変されたフリをしていたことになる。一応私たちに真実が伝わるようにさりげなくヒントは伝えてくれたみたいだけど、正直マルガレーテちゃんと冬毬ちゃんに聞かされるまでは全く気付かなかった。今思い返せば私のトラウマを解消した経緯や可可ちゃんが結ヶ丘に来た理由はスクールアイドルに由来するものだから、そこでおかしいって簡単に気付けたよね。うっかりしてたなぁと思うけど、先生との関係が断ち切れたことに絶望してたから仕方ないか。

 

 そして七海ちゃんも同じことを思っているみたい。ただ私たちとは逆で悦びから戸惑いに変わっているようだ。私たち以外からスクールアイドルの概念を消失させ、私たちを出し抜く形で先生にアプローチを仕掛けようとしていた作戦は破綻した。このままだと七海ちゃんはもうこの作戦を諦めるしかないと思うんだけど、認識改変できる装置みたいなものがまだ手にある以上は油断できない。なんたって私たちまでスクールアイドルの概念を奪わるわけにはいかないから。

 

 だから七海ちゃんの暴走を止める必要があるんだけど、彼女の行いを非難する気は一切ない。ヤケになりかかっているので下手な刺激を与えたらダメなのはもちろん、それ以上に私、いや私たちは七海ちゃんの心の叫びが痛いほど身に染みたからだ。

 全ての原因は私たちにある。私たちが先生との関係を進めずに足踏みしていたことで七海ちゃんの反感を買ってしまった。秋葉先生の定めたルールとは言え、七海ちゃんは私たちに先生との接触を譲ってくれていた。そして自分は後から追いつくつもりだったけど、譲った相手が手をこまねいている姿を見たらそりゃストレスが溜まるのは仕方のないことだ。私も同じ立場だったら同じ気持ちになっていたと思う。

 正直、先生との関係は今のままでも十分に居心地が良いと思っていた。もっと踏み込んだ関係になりたいと願わなかったと言えばウソになる。でももう一歩踏み出すのは、『ラブライブ!』を二連覇して自分自身が最高に輝いている姿を見てもらった方が都合が良いと考えてしまっていた。ただ七海ちゃんからしてもそうだし、私たちもその動きはかなり遅いと感じる。『ラブライブ!』の決勝が終わるのは年明け。七海ちゃんは私と同じ三年生だからそこまで待っていたら卒業まで時間がない。そこのところ、全く考えられていなかった。

 

 自分たちが立ち止まっていること、そして七海ちゃんが先生のことを猛烈に大好きなのを知っていたこと。自分の都合だけで彼女に迷惑をかけてしまっているため、だからこそさっきの叫びは心に大きく響いた。それが例え八つ当たりだったとしても、先生を好きなのは私たちだって同じこと。同じ立場だからこそ気持ちが分かる。

 

 

「みんな、私の気持ちを察してるような顔してるね。気にしなくていいよ。どうせ半ば自暴自棄だったし、いかなる理由があるにせよ世界を変えてまで欲しいモノを手に入れようなんて論外だしね」

「そこの良識はちゃんとあるんだ……。でも七海ちゃんの主張は最もだと思うよ。私も先生の隣に居心地の良さを感じてたのは本当だから……」

「可可も、顧問に先生がいてくれるだけで満足していたんだと思いマス……」

「私も同じだよ。部長として先生と二人きりで色々教えてもらう時間が大好きで、こんな関係と時間が続けばいいなぁっていつも考えてるから」

「去年の文化祭の時も同じようなことを考えていた気がするわね。結局、居心地のいい空間ってのは慣れちゃうのよ。それも怠惰だけど」

「そうだとしても、七海さんの立場を知っている身からすると自分と慣れてしまった日常に甘えすぎたかもしれません」

 

 

 去年の文化祭で七海ちゃんが本性を現した時も、先生とこのままの関係ではいられないことを実感させられた。

 そして、今も同じことを感じている。去年に比べれば一歩進んだ関係になれたとはいえ、特に問題もなく安寧を保った日常だとどうしてもその環境に慣れてしまう。更にそこから前進しようという意識すら薄れてしまい、いつの間にか時間だけを浪費していた。ずっと待ってくれていた七海ちゃんからしてみれば、そんな私たちに不満を漏らすのは当然だよね……。

 

 

「反省してくれてるのはいいんだけどさ、どのみちこの世界をどうするかは未だに私の手の中なんだよ。なんか計画もおじゃんになっちゃったし、どうせなら暴れるだけ暴れてストレス発散するのもいいかなって」

「そ、そんな! でもそんなことをしても先生からはスクールアイドルの概念が消えないので、多分意味がないと思うっす!」

「それに先生にはもうバレてるんだから、ここでなりふり構っても無駄だろ!」

「むしろ余計に誰にも振り向いてもらえなくなる。ここで暴れても非効率的」

「七海先輩の気持ちは私たちに伝わっていますの! だから無茶なことはやめて欲しいですの!」

 

 

 七海ちゃんのやさぐれ行動を二年生たちが必死に止めようとする。私たちは自身の怠慢を再度自覚し、それを七海ちゃんにも伝えることはできた。だけどもう彼女は止まることはできないみたいだ。ぱっと見は落ち着いているように見えるけど、さっき心の奥底から感情を噴き出した影響で衝動が抑えきれないんだと思う。いつもの余裕のある感じは一切なく、自分自身を嘲笑しながら今にも壊れてしまいそうだ。多分、自分でもどうしたらいいのか分からなくなっているのだろう。

 

 ただ、どんなことがあっても『スクールアイドル』の概念を消させることは阻止しないと。もし消してしまったら私たちもそうだけど、それ以上に七海ちゃん自身がもう元には戻れなくなってしまいそうだから。みんなもそれを分かっていて止めているんだと思う。

 

 

「いい加減にしなさい。そんなことをしたとしてもあなたの心が崩れ去るだけ。何の意味もないことよ。今ならまだ引き返せるわ」

「勝者のセリフだね。マルちゃんが高みに上がってくれて、幼馴染としては鼻が高いよ」

「そんな煽りを言っているつもりはないって、自分でも分かっているくせに……」

「マルちゃんなら知ってるでしょ? 自分の人生が先生のためだけのものだって。それが叶わなくなった今、もうどうなったっていいよ」

 

 

 幼馴染のマルガレーテちゃんでも七海ちゃんを止められないなんて……。

 となると、もう彼女の心を救えるのは一人しかいない。だけどさっきからずっと黙ったままだ。私たちからスクールアイドルの概念が奪われそうになったから咄嗟に飛び出してきたんだと思ったけど、もしかしたら違うのかな……? 考えがあるとは言ってたけど……。

 

 

「先生、マルガレーテが時間を稼いでくれていますよ。早く七草先輩に声をかけてあげないと取り返しにつかないことに……って、さっきからどうして黙っているんですか? 先生? 先生!」

 

 

 冬毬ちゃんが先生を焚きつけようとするけど、依然として先生は黙ったままだ。ただ七海ちゃんをじっと見つめるだけで喋らないし動かない。先生、あなたは一体なにを……!!

 

 

「う~ん? 先生、さっきから私のことずっと見てるよね? チャンスだよ。弱った女子を自分のモノにする、ね。(なだ)めたり励ましてくれるのかな? こんな状態の女子に優しい言葉をかけたらすぐに堕ちちゃうかも……」

 

 

 七海ちゃんの声には覇気がない。もしかしたら最後の悪あがきのようなものかもしれない。確かに先生は私たちの心も救ってくれた。だからこうして今『Liella』が存在し、このメンバーが集まっている。先生なら心傷ついた人を放っておかない。ぶっきらぼうに見えて根は優しい人の典型みたいな人だから。

 

 そして、遂に先生がその口を開く。

 

 

「宥めもしないし慰めもしない。お前がしたことは俺にとってはどうでもいいことだ」

「え……?」

 

 

 先生の言葉に七海ちゃんが声を漏らすが、それは私たちも同じだった。

 今から主人公のようにまた一人の女の子を救い出す展開かと思っていた。でも先生はそれとは真逆の言葉を投げかけた。

 表情も目も優しくないけど、私たちは先生のこの雰囲気に見覚えがあった。先生が自分の意見を貫き通す時になるモード。マルガレーテちゃん曰く『ご主人様モード』であり、他者の意見など一切受け入れずにひたすら自分の主張だけを吐いてそれを認めさせる。女の子を壁に追い込んで逃げられなくしてから、ってパターンが多いとマルガレーテちゃんが言っていた気がする。

 

 まさにその通りになった。

 先生は一歩どころか七海ちゃんに近づくと、彼女を壁際に追い込んだ。本来の彼女の性格なら先生に迫られて嬉しいはずなのに、どこか不安そうな顔をしているのはさっきまでの心情が表に出ているからだろう。

 

 

「どうでもいいって、私のしたことを(ゆる)すってこと……?」

「赦すも赦さないもない。お前が何をしでかしたなんて興味がない。同情したり反省を促したりもしない。だからこんなことで俺がお前を見る目が変わったりもしない」

「こんなことって、そんな簡単に済ませられることじゃないでしょ。澁谷ちゃんたちと離れ離れになっちゃってたかもよ……」

「お前、俺がこの程度の事件をあっさり解決できないと思っているのか? それにコイツらも言ってただろ、絆は断ち切れちゃいねぇって。最初から切れることなんてないんだよ」

「どうして?」

「俺だからだよ。それ以外の理由はないし、これ以上の根拠は存在しない」

 

 

 あまりにも暴論。でも先生の言葉は概念消失したこの世界に翻弄されていた私たちや、自暴自棄になっている七海ちゃんの心の動揺を抑え込んだ。『この人、何言ってるの??』とツッコミを入れたくなるけど逆にそのおかげで意識が全て先生に向き、それで揺れ動く思考や感情が一旦停止するため、こういった状況では相手の注目を煽るのに非常に効果的だ。まあそれができるのも先生だからだろうだけど……。

 

 

「厳しい意見だね。女の子を笑顔にするって先生の夢とはかけ離れた言葉だよ……」

「別に俺は全ての女の子を笑顔にしたいわけじゃない。コイツと見定めた奴に限る。だって俺の隣に立つんだぞ? そのへんの小物を相手にしてどうすんだよ。隣に立ってもらうからにはその子にとっての最大の魅力を放ってもらう。それが条件だ。俺はそれしか見ていない。誰が何をやらかそうが、過去にどんな功績があろうが、逆にどんな悲痛な過去があろうがどうだっていい。今どんな輝きがあるのか、そして俺をどれだけ魅了してくれるか。それだけだ。むしろ過去の経緯や心情に同情するって、そんなお情けの絆なんて繋がる意味ねぇだろ」

「それ、私のことを小物だってこと……?」

「どう捉えるかはお前次第だ。お前の考えなんて俺の考えに全く影響しないからな」

 

 

 聞く人によっては憤慨しそうな考えだけど、今この状況に至っては先生が場を支配している。別に状況を選ぶことはなくいつもそうなんだけど、先生の厳粛な雰囲気も相まって主張の説得力が段違いだ。そういえば侑さんが言っていた。『お兄さんと一緒にいる以上、お兄さんの世界で生きる覚悟を持たないとね』と。それくらい先生の影響力は凄まじい。

 

 ただ私たちも知っての通り、誰も先生から離れようとする人はいない。今もそうだし、過去に知り合ってきたスクールアイドルもみんな同じらしい。そんな力強い先生に感化されて惚れてきた。虜になってむしろこちらからしがみつきたいと思うくらいに。まさにご主人様気質、まさに圧倒的なカリスマ。マルガレーテちゃんや七海ちゃんが心酔してしまう理由もちょっと分かる気がする。

 

 

「お前は俺の眼鏡に適うに値しなかった。本心も見せずに裏でコソコソするばかり。そんな奴を自分の隣に立たせたいと思うか?」

「聞き逃さなかったよ。過去形だったね、最初の。じゃあ今は目をつけてくれてるんだ」

「あぁ。見せてくれたからな、お前の真の本性」

「スクールアイドルを消しちゃおうとしてたのに信じちゃうの?」

「言っただろ、そんなの俺には関係ないって。お前がどれだけ性悪であろうともどうでもいい。ソイツにとっての魅惑を感じられればな。お前の魅力がこの事件を通して発揮されるのならむしろもっと見てみたいって思うよ。そのたびに俺が止めればいいだけの話だしな」

 

 

 先生は自分にとって相手の女の子が魅力的に映るかどうかしか見ていない。どんな壮絶な功績やトラウマ級の過去があろうともそれを自分の尺度には含めない。その徹底したスタンスだからこそみんなは先生についていくのかもしれない。どんなことがあっても先生は今の自分を見てくれる。そう信じさせてくれるから。

 

 そして先生は一度言葉を区切る。

 改めて七海ちゃん、そして私たち一人ひとりを見渡して再び彼女に視線を戻す。

 

 

「俺は俺のステージに上がってきた奴なら誰でも受け入れるよ。いい子ちゃんはもちろん、どれだけ性格が終わってる奴であろうとな」

 

 

 知っていたことではある。でも先生の口から直接その言葉を聞けるのは嬉しい。だって先生は既に受け入れ態勢が万全ということだから。あとは私たち自身が動くだけ。それで私たちの想いが一つになれる。

 

 そんな中、七海ちゃんの表情が一変した。さっきまで強張ってたりヘタレていた顔に笑みが戻りつつある。

 そして間もなくしないうちに裏の顔の象徴である、目を細めて口角を上げた小悪魔の表情に戻っていた。

 

 

「そうそう、これだよこれ。私が好きになったのはこういうセンセーなんだから。ブレない信念と上から目線のご主人様気どり。周りがひれ伏すような持論に、内容がめちゃくちゃでも相手を従わせるカリスマ性。そういうところに惚れたんだよ私は。センセーにとってはちっぽけな悩みだったってことだねこれも。そう考えたら私も何もかもどうでもよくなってきちゃった。もちろん自暴自棄って意味じゃなくて、こんな世界を作らなくてもいいって意味でね」

 

 

 あっ、先生の言い方が『先生』から『センセー』と伸ばす形に戻ってる。言い方ひとつでここまで人の感情を読み取れるなんて、七海ちゃんって意外と分かりやすい?? こんなことを言ったらカウンターで馬鹿にされそうだから絶対に言えないけど……。

 

 

「いくら性格が終わってようが、お前はそれ以外が完璧だ。顔も体も声も色気も。俺に合わせてくれたんだろうが、だったらそれで勝負すればいい。秋葉のルールなんて知ったことか。お前の破天荒さでそんなのぶっ壊せばいいだろ。安心しろ、アイツに何かされても俺が守ってやるよ」

「ッ……!? もう、惚れちゃうよ……」

「それに性格が終わってるやつには慣れてる。でなきゃ秋葉を隣に置いたりしない」

「あはは、そりゃそうだ」

 

 

 なんていうか先生、七海ちゃんの扱いが上手いかも。いや女の子全般に言えるか。厳しい言葉をかけたかと思えば今度は褒める。見事な飴と鞭。私たちもも同じ経験をしたことがあるけど、客観的に見えるとこんな簡単に先生の優しさに吸引されちゃうんだね……。

 

 

「それで七海ちゃん、世界を元に戻してくれるの? スクールアイドルを、返してくれるの……?」

「性格が終わっているなら、終わってるのを武器にすればいいってことだしね。だから裏切ってもいいってことだね」

「えっ、まさかこのままにしておく気!?」

「違うそういうことじゃない。秋葉(あのひと)のルールを破って先生とお付き合いしてもいいんだってことだよ。だったらもう私の人生にスクールアイドルがあってもなくてもどうだっていいし、だったら返してあげようかな。しょーがない」

「そ、そう、それはありがとう」

 

 

 どうして私はお礼を言ってるんだろう……。

 でもこのイタズラな笑顔、七海ちゃんが戻って来たって感じがするよ。いつも弄られまくってるけど、もうそれが日常になっちゃってるから調子を取り戻してくれないと逆にこっちも調子が狂っちゃう。決してイジメられることが好きなってわけではないけど……。

 

 

「戻さないとピーピーうるさい子たちがいるから戻しちゃうか」

「七海ちゃんのせいなのは変わらないけどね……」

「おやぁ~? そんな態度でいいのかなぁ~? 世界の命運はまだ私が握ってるんだよ??」

「分かった分かった! 元に戻してくださいお願いします! これでいいでしょ!」

「オーケーオーケー。ま、スクールアイドルじゃない抜け殻の澁谷ちゃんをイジメても仕方ないし、戻してあげるよ」

「何をやっているのよあなたたち……」

「でもいつもの光景が見られてきな子嬉しいっす!」

 

 

 マルガレーテちゃんに呆れられながらもみんなに笑顔が戻る。私が弄られる光景が懐かしいってのもちょっと腑に落ちないけど、私もどこか安心感を覚えたからこれで良かったんだろうな。

 

 

「じゃあ元に戻すよ。眩しいからもしれないから注意してね」

 

 

 七海ちゃんが装置のボタンを押す。

 その瞬間、目の前が白い光に包まれた。思わず目を閉じる。

 

 そして――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おお~っ!! 戻ってきてマス!! あれはまさしく『ラブライブ!』本戦出場の垂れ幕!!」

「本当に戻って来たんだな!! 一日見ないだけでこんなに懐かしく思えるなんて、私もっとスクールアイドルのことが好きになった!!」

 

 

 私たちは無事に『スクールアイドル』の概念を取り戻した。校舎の入り口で可可ちゃんとメイちゃんが垂れ幕を見て涙を流している。『ラブライブ!』に対する思い入れが強い二人だからこそのリアクションだね。

 

 

「それにしても概念を書き換えられるなんて物凄い装置ですの。それを使えば世界を牛耳ることも可能で、ほんのちょっぴり羨ましいですの」

「あはは、そうだね。でも残念ながら私の技術では一回起動して一回元に戻すだけで精一杯。今のコイツはただの文鎮だよ」

「それに概念を変えても先生が元に戻しちゃうでしょ。どれだけ主人公なのよ」

「先生中心で世界が回っているって話、あながちウソじゃないかもね」

 

 

 先生の影響力にはまた驚かされた。普段は気ダルそうにしてるけど、何か起こるといつの間にか先陣を切ってるから頼りになるんだよね。これまでの人生の中でもダントツのトップで運命的な出会いの人だって思えるよ。

 

 

「今回も先生のおかげで助かりました。ありがとうございます」

「いや、お前らが自分たちで立ち上がったおかげだよ。ヒントを与えたとはいえ立ち上がったのはお前たち自身の力だ。それにコイツの心をこじ開ける役目を果たしてくれたからこっちこそ助かった。俺はマイナスをゼロに戻しただけだからな」

「でも先生も性格が悪い。途中までずっと隠れて見てただなんて」

「そうですよ! 概念が変わったことを認知していたのであれば、最初から登場してくださったら話は早かったはずです!」

「言ったろ、俺にも考えがあるって。七海の本当の叫びを聞きたかったってのもあるし、お前らにも現状に気付いて欲しかったんだよ。だから俺が初っ端から出るわけにはいかなかったんだ。思考停止で俺に頼らないよう仕向けるためにな」

 

 

 なるほど。私たちは先生を頼りにし過ぎている。先生さえいれば事件くらい簡単に解決できると誰しもが思っていた。だからこそ先生は敢えて裏方に回ったんだ。それに私たちが先生との関係に足踏みをしていたことをより実感させるための行動でもあった。

 

 結果は先生の思惑通り。私たちは決断しないといけない。今後先生とどう歩んでいくのかを。スクールアイドルが消えちゃった時はかなり焦ったし絶望もしちゃったけど、結果的にこの事件は私たちに大切なことを気付かせてくれた。そう考えると七海ちゃんは今回もスクールアイドルのサポートをしてくれただけでなく、私たちの背中を押して恋路を進ませてくれたことになる。去年の文化祭も間接的にそうだった。性格が終わってるって言われてるけど、それだけ優しさもあるんだろうなと思った。それに温情がなければ自分の目的のためとはいえ三年間も私たちをサポートしてくれたりしないもんね。

 

 ん? そういえば先生の言葉に違和感があったような……?

 それは七海ちゃんも同じようで、私の目を見た後に驚いた顔で先生の方へ振り向いた。

 

 

「え、今なんて!? な、名前で……七海って……」

「俺と同じステージに立ったからには当然だろ。他人じゃねぇんだし」

「そ、そっか、え、えへへ……♪」

「えっ、七海ちゃんのそんな嬉しそうな顔初めて見た……!!」

「七海の純粋な笑顔は貴重よ。今後一生見られないかもしれないから目に焼き付けておきなさい」

「もう今の私は無敵すぎて、何を言われても受け入れちゃうね!」

「名前呼びごときで現金だな。チョロい奴め」

「チョロくて結構! そんな罵倒もききませ~ん!!」

 

 

 経緯はなんであれ無事にハッピーエンド。概念改変なんて非現実的なことが起きても大団円にするなんて、先生だからこそ成せる業なのかもね。

 でも先生は私たちのおかげとも言ってくれた。この事件で経験した大切なこと。自分自身で立ち上がることができたからこそ実感できた。

 先生の隣は居心地が良くて今まで甘えていたけど、あと一歩、最後の一歩は自分で踏み出す必要がある。三年生はもう卒業も近い。二年生たちも一年生たちも先生にかける想いは本物だ。各々がそれぞれの一歩を踏みしめる。

 

 その覚悟を決める時が遂に来たみたいだ。

 




 これにて長編は完結となります。ここまでお付き合いいただいた方、本当にありがとうございました!
 最終回っぽい雰囲気で語っちゃいましたが、彼と彼女たちの関係はここからが本番です。三年生や二年生たちは去年の自分たちの気持ちを踏まえ、一年生たちは新たな気持ちを胸に彼に臨みます。
 そのため、次回以降は個人回が多めとなります。基本はほぼ個人回ベースになる予定です。



 この長編ではかのんたちの成長と零がこの小説の主人公たる所以を同時に描くことができて私は満足しました。それを叶えてくれた七海には感謝すべきですね(笑)
 アニメからかなりキャラを変更してしまい皆さんには受け入れづらかったかもしれませんし、この長編も七海がキーパーソンでほぼ私の自慰行為と言っても差し支えない内容だったのでお見苦しいところがあったかもしれません。次回からはLiellaキャラ本筋に戻るのでご安心ください!
 とは言っても、この小説をこの話だけ見たって人以外はもうこの展開にも慣れっこかもしれませんが(笑)
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