そうは言っても内容もノリも今までと変わったところは全然ありません。むしろ零君たちのテンションだけなら今までよりも格段に向上してます!
今回は普通に日常回。
新章一発目は大体この4人から始まります。スクフェスに出てくる先生もチラッと登場するのでご期待(?)を!!
7月。
照りつける日光が容赦なく肌を突き刺す時期となり、今年の夏が遂に活動を開始した。朝はセミの忌々しい鳴き声で起床、昼間は教室の冷房で一息つき、夜は蒸し暑さの中で就寝という人間の身体にダメージを与えるサイクルを余儀なくさせられる。μ'sとてそれは例外ではなく、特に練習をする屋上は灼熱地獄。全身を使ってファイアーダンスをするような激暑に見舞われる。
そのためか、最近は放課後の練習も見送られることが多い。熱中症対策はもちろんのこと、酷暑の中での練習は身体的だけでなく脳にも多大な影響を与えることが医学的に証明されている(西木野真姫談)。特に俺や穂乃果、ことりに海未。俺たち4人にとって、脳細胞を暑さでダウンさせてしまうのは自殺行為に等しい。
何故かって?この時期に頭が回らないとどうなるかというと――――
「あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
教室に穂乃果の叫び声が響き渡る。その手には一枚の紙が握られ、努力の甲斐も虚しい『31』という無慈悲な数字がチラチラと俺の目に写りこんでいた。いや、これも当然の結果だな。
「中間テストでは60点だったのに……どうしてほとんど同じ範囲のテストで点が半分になっちゃうの!?ねぇ零君!!」
「うるせぇ!!!!耳元で騒ぐな!!」
穂乃果は何故か俺の耳元へ詰め寄り、さっきの叫び声と声量を全く変えずに怒鳴りつけてきた。
穂乃果の手にあるくしゃっと握られた解答用紙を見てみると、大量の『×』マークがまるで花火を表現しているかのように広がっていた。なんとまぁ汚い花火だ……。
「お前、ライブが終わった後ずっとぐぅたらしてたからなぁ~」
「だってあの余韻を消したくなかったんだもん!!」
「その結果がこれだ」
「うぅうううううううううううううううううううううう……」
過酷な現実をまだ受け入れたくないのか、穂乃果は意味不明な呻き声を呟く。
この前と言っても2週間前、μ'sは単独ライブに向け躍起になっていた。もちろん高校生組は期末テストが控えているので、あの同棲生活の間にも何度か勉強会が開かれていたんだ。ライブは成功したけどテストで転けましたぁ~!!なんて本末転倒な事態は避けないといけなかったはずなのに……
コイツの場合、ライブが終わった後まともにテスト勉強なんてしていなかったのだろう。もういっそのことずっと同棲してた方が生活にメリハリが付くのでは?と思ってしまう。
「でも穂乃果ちゃん、海未ちゃんが作った小テストでは80点だったから次は大丈夫だよ!!」
「こ、ことりちゃん!!もう心の友はことりちゃんだけだよ!!」
「私は心の友じゃないと……?」
「だって絶対グチグチ言われるに決まってるもん」
「当たり前です!!どうして小テストはできて本番のテストではできないんですか!?」
「ライブの余韻に浸ってぼぉ~っとしてたら忘れちゃったんだよ!!悪い!?」
「なんで逆ギレしてんだよ……」
どうせライブがなくても1人だと勉強しなかっただろというツッコミは野暮なのか。
とにもかくにも1年前なら笑って済まされるような点数なのだが、今の俺たちにとってそうは言っていられない。俺たちはれっきとした受験生なんだから。模試の合格判定で、俺たち4人の判定が『A』『B』『C』『D』とアルファベット順に並んでるのを見てすごーーい!!と叫ぶ時代はもう終わったんだよ。(1年前の話)
「うぅ~……数学では敵わないかもしれないけど、これなら勝てる自信がある!!」
穂乃果は自信満々に別の解答用紙を俺たちに見せつける。その用紙は数学の解答用紙とは違ってシワ1つなく、額縁に入れて飾れそうなくらい綺麗だった。
だが俺はその解答用紙の教科欄と点数を見て戦慄する。
「ほ、保健体育……きゅ、97点!?」
「へっ、へーん♪流石の零君でもこの点数は越えられないでしょ?」
この1年間、ほとんど学力が変わらなかった穂乃果が点数を伸ばした科目が2つある。
1つは音楽。
これはスクールアイドルを始めたことによる影響で言わずもがなだ。
そしてそのもう1つが保健体育である。
「それで、零君は何点だったの?」
「っ…………86点」
「フッ……」
「お前!!今鼻で笑いやがったな!!」
「あの変態の零君がそんな点数だなんて……ぷぷぷっ♪笑いが止まらないよ!!」
「くそっ、結果が結果だけに何も言えねぇ……」
いくら受験に関係ない科目であろうとも、テストの点数で穂乃果に負けるとは俺のプライドが許さない。だが非情にも、10点以上もの差を付けられ俺は歴史的大敗を喫してしまった。机に手を着き項垂れる俺と、口角を上げながら俺を嘲笑う穂乃果。いつもの立場が逆転したこんな珍しい光景、UFOが飛来してきた時よりも貴重な映像だぞ。
「あなたたち、たかが1教科ぐらいで一喜一憂するよりも、その時間を復習の時間に当てたらどうですか?」
「復習の時間かぁ~……じゃあ男性器と女性器の復習でも――――」
「そ、それはしなくてもいいです!!」
「えぇ?海未ちゃんがさっきしろって言ったじゃん!!」
「そんなものは家でこっそりとしなさい!!」
「お前意外とムッツリなのか……?」
「殴りますよ?」
「なんで!?!?」
出たよ出たよ!!海未の都合が悪くなったら俺を殴っておけばいい謎理論が!!今の俺、全然悪いところなかったよね!?正直言って今まで悪いところだらけだったけど、今回だけは断言できるぞ!!
「そういうお前は何点なんだよ、保健体育」
「…………内緒です」
「穂乃果たちの点数を見ておいて自分だけ見せないのは卑怯だよ海未ちゃん!!」
「あなたたちが勝手に騒いでいただけでしょう!?」
「どうせ自分の点数が低かったから見せたくないんだろ。分かるぞその気持ち。穂乃果に馬鹿にされるのは人生最大の屈辱だもんな。今までの経歴に傷が付くレベルだ」
「ヒドい!!」
俺たちが馬鹿騒ぎをしているそんな中、海未は背後から忍び寄る1人の影に気付かなかった。
その影は右腕を海未の机へ伸ばすと、机の上に置いてあった保健体育の解答用紙を目にも止まらぬ速さで摘んで取り上げる。
「えへへ♪いただきぃ~♪」
「「ことり!?」」
「ことりちゃん!?」
ことりはまるで秘境に眠る財宝を遂に見つけたと言わんばかりに右手を高らかに上げ、小悪魔のようなしてやったりの顔で微笑む。音もなく背後に忍び寄り、華麗なる手捌きで海未が大切に守っていたものを素早く奪うその姿に、教室中から驚きの声が上がった。ことりは満足気な表情でその歓声に応えて手を振っている。俺たちも目を丸くして、ことりの鮮やかさに見惚れるしかなかった。
だが……手にしているのはただの保健体育の解答用紙だ。
「す、すごいよことりちゃん……忍者みたい」
「えへへ♪誰にも見つからないようによく部屋へ忍び込んでいたから、その経験が生きちゃった♪」
「ん?おいことり、それって……」
「えぇ~?なんのことかなぁ~♪」
コイツ!!いい笑顔で白々しいな!!明らかにその"部屋"は"俺の部屋"だろ!!
あの同棲生活中、気付かなかっただけで服以外にも色々な私物を取られていた。シャツや下着だけならまだしも、ゴミ箱から俺が使ったストローや紙スプーンが抜き取られているのを見た時は本気で震え上がってしまった。
さらにもっと恐ろしいのは、盗まれたモノがあれ以降一切俺の手元に帰ってきていないことだ。ゴミはいいとしても服は返せよ……
「こ、ことり!!返してください!!」
「えぇ~と、海未ちゃんの保健体育の点数は……っと」
「ことり!!」
「……こ、これって!!」
ことりは海未の保健体育の点数を見て目を見開く。その反応を見る限り相当低い点数だったのか?でも海未だったら無理もない。今回の範囲のほとんどが、海未の言葉を借りれば"破廉恥"な話題だったからな。
「そんなに衝撃だったのか!?」
「なになに?ことりちゃん!!穂乃果にも見せて!!」
「あ、あなたたちまで!!ことり!!絶対に見せてはいけませんよ!!」
俺達は海未の保健体育の点数を赤裸々にしようと目論み、彼女の言葉を無視してことりの元へ詰め寄る。
だがその時。
「いい加減にしろ。神崎、高坂、南、園田」
「「「「せ、先生……」」」」
ここでまさかの先生乱入イベント。だがその圧力だけで俺たちは既に敗北していた。
笹原京子先生。
普段は大人びたクールな女性なのだが、今はいいカモを見つけた詐欺師ような笑顔を見せている。
マズイな、笹原先生に目を付けられたら最後……まず無事に帰宅することはできない。何とか俺だけでも罰を逃れる方法を考えなくては!!
「まだ授業中だということを忘れるなよ。なぁ神崎」
「なんでいつもいつも俺だけを目の敵にするんですか!?そもそもの主犯は、すぐに点数を見せない海未でしょ!?」
「ちょっと待ってください!!それはどこをどう考えてもおかしいですよね!?初めに点数を自慢し始めたのは穂乃果でしょう!?」
「なんでこっちに飛び火するの!?零君が海未ちゃんに点数を聞いたのがいけないんでしょ!?」
「お前もノリノリだっただろうが!!」
「みんな騒がしかったと思うけど……」
「もう間を取って、ことりが悪いってことでいいよ」
「えっ!?どの間を取ったの!?」
そして今度は責任をお互いに擦り付け合い、怒涛の罰ゲーム回避合戦が始まった。今のこの状況を客観的に見てみると、仲間同士の絆で『ラブライブ!』を制したグループとは到底思えない。己が身に降りかかる罰ゲームを回避するため、仲間の悪行を赤裸々に告白する責任転嫁大会を開いていると他のメンバーに知られたらどうなるのか……。
だが、その大会にはあっさりと終止符が打たれる。
笹原先生は、その綺麗で整いつつもブラック過ぎる笑顔で俺の胸倉を掴んできた。
くっ、苦しいけど先生からいい匂いするじゃねぇか……
「丁度良かった。屋上が汚いから、誰かに掃除をさせないといけなかったんだよ。この時期になると、あんな灼熱地獄の中で掃除したがる奴はいなくてなぁ~。そうだろ、神崎?」
「だからなんで俺だけ!?」
「もちろんそこの3人も一緒だ。お前ら、罰として屋上掃除な」
「「「「えぇ~……」」」」
「断ったらテストの点数1割減だから」
「「「「やります!!」」」」
そして俺たちは罰ゲームとして、極暑の中での強制労働を言い渡されたのだった。
これが権力ってやつか……。
~※~
「くっそぉ~……どうして俺がこんなことに……」
「自業自得です。それは私たち全員に言えることですが……」
放課後、俺たちはデッキブラシとバケツを手に勤務時間外労働をさせられていた。
屋上は今日1日分の日光を存分に吸収していたため、まるで熱々の鉄板の上を掃除しているかのようだ。掃除が終わる頃には、俺たちも熱されて食べ頃となっているだろう。
「でもμ'sの練習でいつも使っている場所なんだし、ことりたちが掃除をするのは当たり前なんだよね」
「そうなんだけど、流石に今日は暑すぎるよぉ~……穂乃果ちょっと休憩」
「こんなところで休憩したら、お前が真っ先に焼肉になるぞ」
「もーーーう!!あーーつーーいーー!!」
「ちょ、ちょっと穂乃果!!服乱れてますよ!?」
「いいじゃん体操服なんだしぃ~……」
暑さで朦朧として今まであまり気にしていいなかったのだが、穂乃果たちは今体操服で掃除しているのである。そして屋上はこの暑さ、体操服は白、この方程式から導き出される解は――――――透けブラだ!!
夏といえば、女の子の身を包む法衣が薄くなる時期!!特にシャツや体操服姿はただでさえ何もしていなくても透けるというのに、そこに汗が加わればもはや衣服を着用していないも同然だ!!
穂乃果は黄色!!ことりは白!!海未は水色!!
同棲生活中に下着ぐらいは幾度となく見てきたのだが、やはりこうしていつも見られないモノが見られるというのは心底興奮する!!パンツだって生で見せられるより、スカートが捲れ上がってパンチラした方がより興奮するだろ?それと同じだよ!!いつでも好きな時に見られるのはありがたみがなくなるからな。
「零?どうしたのですかぼぉっとして?まさか熱中症……?」
「い、いやなんでもない!!ほらほらとっとと掃除終わらせるぞ!!」
「零くん♪」
「なんだことり?」
「ことりの下着の色は何だったでしょう?」
「白だよ……あっ!!」
俺は勢いに身を任せ、ことりの下着の色をズバリ言い当ててしまう。もちろんそれに気付いた頃には時すでに遅し。海未は左腕で自分の透けブラを隠しながら、右手でデッキブラシを持ち俺へ向かって思いっきり振り下ろす。だがなんとか俺は間一髪のところでその攻撃を避け、俺がいた場所からデッキブラシとコンクリート床のぶつかり合う鈍い音が響く。
「零!!あなたって人はどこまでいってもどうしようもない人ですね!!」
「待て待て!!デッキブラシはハンマーじゃない!!形状は似てるけど!!」
「毎回毎回そんな破廉恥なことしか考えられないその頭は、一度壊してしまった方がいいみたいですね!!」
「壊れたら治らねぇよ!!」
「そんなもの、知ったことはないですよ!!」
「俺、お前の彼氏なんだよな!?恋人同士なんだよな!?俺への扱いが段々ヒドくなっている気がするんですけど!?」
「むしろ恋人同士だからこそ更生させてあげますよ!!」
海未もこの暑さで怒りの制御ができていないのか、デッキブラシをブンブン振り回して俺を屋上の隅へと追い詰めていく。そのデッキブラシ裁きは、幾千もの戦闘を乗り越えてきた猛者のものだ。今まで弓などの遠距離武器しか使えないと思っていたんだが、まさか近接戦闘の心得まで身につけていたとは。
「穂乃果!?ことり!?海未を止めてくれ……って、ん?」
「穂乃果ちゃんの下着、涼しそうでいいなぁ~~それでいてオシャレ!!
「ありがとう♪ことりちゃんの下着も可愛いよ!!でもあまり見たことないデザインだね?」
「ありがとぉ~♪実はオーダーメイドなんだ♪」
「オーダーメイド!?ことりちゃん衣装だけじゃないくて、下着もデザインできるんだ!?」
「今度穂乃果ちゃんの下着もデザインしてあげるよ♪」
「ホントに!?やったぁ♪」
「コ゛ラァあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
まさか屋上で下着の褒め合いをしているとは、アイツら自分がスクールアイドルって自覚あるのかよ!?しかもちょっと脱いでるし!!くそぅ~俺もあの会議に参加してぇ~!!
でも俺の眼前には、海未がデッキブラシをクルクルと高速回転させながら迫っている。あのミキサーに飲み込まれたら……間違いなく身体が引き裂かれるだろう。
万事休すか、そう思った瞬間だった。
屋上のゆっくり扉が開いた。そこから顔を覗かせたのは――――
「雪穂!?」
「「「あっ……」」」
「い、一体なにを……?」
だがそこで雪穂の言葉が途切れる。
そりゃあそうだ。自分の服を捲って下着を見せ合っている穂乃果とことり、透けブラを隠しながらデッキブラシを高速回転させている海未、そして尻餅を付き後ずさりしながら下着の見せ合い会場を凝視していた俺……どこからどう見てもマトモに掃除をしている連中には見えない。それどころかどことなく卑猥な雰囲気が漂っているように見える。
雪穂の手には洗剤とバケツが握られていた。大方笹原先生に無理矢理、俺たちのところへそれを持っていくように命令されたのだろう。だが雪穂は何も喋らず表情も変えずにゆっくりと扉を閉め始めた。『コイツらには関わらない方がいい』と言わんばかりの……それで正解だ、俺も今そう思っているから。
そして、遂に――――
扉の閉まる音が、物悲しげに響いた。
「…………やるか、掃除」
「そうだね……」
「やろっか……」
「はい……」
~※~
「おい、高坂妹」
「笹原先生……」
「どうして洗剤とバケツを持って階段を下りてくる?アイツらのところへ持って行けと言っただろう」
「そ、それはぁ~……屋上の雰囲気と言いますか……なんて言うんですかね……」
「もういい。大体事情は分かった。全くアイツらは……」
そして俺たちは、1週間の屋上掃除を言い渡された。
~※~
「そう言えば、海未の保健体育の点数って何点だったんだ?」
「教えませんからね!!」
「99点だよ♪」
「「え゛っ!?」」
「こ、ことりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
ちなみにことりちゃんは100点です。
とりあえずこの話から見てくれている新規読者様のため(いるのか?)に、大体新章一発目はドタバタネタにしています。
他の方の小説に比べてリアリティの欠片もなくキャラ崩壊も凄まじいですが、それがこの小説の持ち味なので今後共お付き合いして頂ければと思います。この話で1つでもクスっと笑っていただけたのなら嬉しいです!
新規さんに媚を売るのはこの辺にして―――
こんな感じでまたダラダラと零君とμ'sの日常を描いていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします!
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