ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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オーバーテイク恋愛観

 スクールアイドルの概念消失事件が終わり、俺たちはいつもの日常に帰って来た。

 概念消失前後で世界を見比べてみると、自分の目に映る世界が案外違って見える。自分にとって関わりが大きい概念が消えたからこそ僅かながら物足りなさを感じた。スクールアイドル自体は俺にとってどうでもいいコンテンツだが、それによって俺の周りの女の子が最高級の輝きを魅せているのは事実。だからこそその概念が消失したらどこか空虚さを抱いてしまうのかもしれない。俺の関わってきた女の子たちがスクールアイドルだけで魅力が成り立っているとは思ってないが、華やかな舞台で際立たせてくれているのはスクールアイドルのおかげでもあるからな。それがなくなってしまうのは避けたい。

 

 なんか弁明みたいになったけど、あの後にかのんたちに『先生ってスクールアイドルのこと嫌いなんですか?』と割とマジトーンで聞かれたから釈明しておいた。俺にとってのスクールアイドルは女の子の魅惑を引き出すための手段として利用しているだけだが、別に嫌いではない。ただ女の子を好きになる尺度としては含めていないだけだ。故に『ラブライブ!』で優勝したところで俺の女の子を見る目に変化はない。まあ七海と相対したあの時はかなり攻撃的な態度と口調だったから萎縮されるのも仕方がないか。

 

 そんなこともあったのが先日。今日はいつもの教師生活を謳歌しつつも理事長室に段ボールたちを運んでいた。理事長が腰をやらかして動けないので運んで欲しいと依頼を受けた。相変わらず無茶振りが過ぎるっつうか、あのババアいつも俺ばかりに面倒押し付けてきてないか? 俺のこと好きなのかよ、って聞いたら――――

 

 

『あら、こんなババアでいいの……?』

 

 

 と俺がいつも呼んでいる呼び方で自虐風煽りをしながらも顔を赤らめてきやがったので、遠慮なくその場で吐く真似をして外に出てきた。

 そのまま帰っても良かったんだけど、腰は割と辛そうだったので仕方なく運んでやることにした次第だ。

 

 それにしても台車が全部出払っているせいか、一人で大きな段ボール二つ抱えることになったがかなりキツイ。二往復するのが面倒で横着しちゃったけど、どこかにセーブポイントを作ってそこで休んだ方がいいかもな。

 

 そんな時、後ろから声をかけられる。

 

 

「先生、お手伝いしましょうか?」

「ん? あぁ冬毬か」

 

 

 冬毬は俺の返事を聞くまでもなく、二段重ねのうち上の段ボールを持って下ろした。

 ひとつひとつもそれなりの重さのはずなのに、高校一年生の女子が軽々と抱えられているところを見るとやはり体力や体幹の良さには自信があるのだろう。自らアピールポイントにするだけのことはある。表情も変えず身体の軸もブレないその逞しさには感心すらしてしまう。

 

 

「まだ何も言ってねぇんだけど」

「無理をすると理事長みたいに腰を壊しますよ」

「あんな年増と一緒にすんな。こっちはまだ若い」

「前から思ってますけど、理事長に対して容赦がないですね。一応上司でしょう?」

「一応って付けてる時点でお前もちょっと信用ねぇじゃねぇか」

 

 

 直属の上司ではある。ただ理事長は俺のことを息子のように思っているのか、あれこれと無理難題を笑顔で押し付けてくる毒親のような振る舞いをする。だからこちらとしても敬意を込めることはあまりなく、教師としてこの学校で好きなようにやらせてもらってるその一点しか感謝すべきところはない。学校を再建したけどすぐに経営難になりかけて、それで俺を広告塔にしようとする秋葉の策に乗るしかない情けなさだからな。理事長としての手腕を疑うのも無理はない。

 

 そんな話はさて置き、冬毬に手伝ってもらったおかげで任務は容易に遂行できた。理事長室に段ボールを運び終えて部屋の外へ出る。

 

 

「この後どうする? もう部室に行くか?」

「はい。ただその前に先生とお話しさせてください。実はそのために探していたのですが、見つけた矢先にご大変そうでしたので思わずお声がけを……」

「いや助かったよ、サンキュ。じゃあなんか飲みに行くか」

「えっ、この時間から飲酒……?」

「んなわけねーだろ。校内の自販機スペースに行くだけだ」

 

 

 冬毬ってたまに真顔で無自覚にボケる時ある。慣れないとツッコミ待ちなのかガチの発言なのか判断ができないこともあった。真面目すぎて頭カッチンなのは初期の恋を彷彿とさせる。俺に対する警戒心がなかっただけ接しやすくはあったけどな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 校舎間を繋ぐ外の渡り廊下に設置された自販機スペース。そこで冬毬の話を聞くことにした。

 状況からして先日のスクールアイドル概念消失事件の煽りを受けていることは明白。かのんたちは俺との関係を進展させる決意を持った。だからコイツも同じだと思うのだが、Liellaの中では一番俺と一緒にいた時間が短いため、まだ一年にも満たない関係でどう心境が変化したのか気になるところだ。Liellaに入ってからの観点ではマルガレーテも同じだけど、アイツは物心が付いた時から俺のことは知ってたからコイツとは立場が違う。

 そう考えると、俺の周りという異質な世界に飛び込んで間もないのに割と順応してるんだよな。まあコイツは疑問があれば相手に即質問し、自分の中で結論を出してすぐに割り切るタイプなので、侑みたいに俺の世界に飲まれることにそれほど違和感は抱いていなかったのだろう。教師なのに複数の女子と付き合っているって知ったら普通は嫌悪するなりヤバい奴だと思うが、コイツは特に気にしていないみたいだった。

 

 自販機に鎮座している新作と思われる極濃ミルクセーキを買い、冬毬に奢る。地雷覚悟で半ば冗談気分で渡したのだが、意外と美味しそうに飲んでいるので味に問題はないらしい。そういや甘党だったなコイツ。

 

 そして、ようやく本題。

 

 

「この前はありがとうございました。スクールアイドルを取り戻してくださって」

「あぁそのことか。取り戻したのはお前らだ。俺は援護射撃したに過ぎないよ」

「そうですか。であれば自分の功績を素直に受け止めておきます」

「そういう下手に謙遜を続けないところ、俺は好きだぞ」

「…………なるほど、そうやって急に好意を示してくるのですね。先輩方が先生の不意打ちは心臓に悪いと言っていました」

 

 

 それはアイツらが恋愛弱者なだけなんじゃねぇのか……? ただ褒めているだけなのに精神攻撃とみなされるのは勘弁願いたい。

 

 

「だったら俺もお前に感謝することがある。お前がかのんたちに発破をかけてくれたんだろ? 俺との関係が失われたと思って絶望していたアイツらに、俺との絆はスクールアイドルで繋がっているわけじゃないと伝えてくれたって聞いたぞ」

「そ、それは……。多分私の立場のおかげかと思います。私は先生と一緒にいた時間が皆さんより短く、皆さんよりも心を通わせてはいなかった。幸か不幸かそのおかげで絶望に浸ることはなく冷静でいられました。もちろん先生との繋がりをどうでも良いと思ってはいません。相対的な話なので、皆さんと比べれば……ということですね」

「そうか。でもなんにせよ、お前とマルガレーテのおかげでアイツらが立ち直ることができたのは事実だ。あの事件を俺だけで終わらせることはできなかったし、そういった意味ではお前も立派な解決の貢献者だよ」

「恐縮です。あのあと先輩方からもお礼を言われましたが、改めてその感謝を受け取っておこうと思います」

 

 

 あの事件で全員が打ちのめされていたらLiellaが再起不能になっていた可能性があるから、それを考えると冬毬とマルガレーテが成した功績は計り知れない。最初から俺が出しゃばれば一旦の解決はするだろうが、かのんたちの精神的な成長には繋がらなかっただろう。それに七海やアイツらとの不和も解消されないまま終わっていたと思う。

 

 

「話の主題は俺にお礼を言うこと……ではないみたいだな。わざわざ呼び出して言うほどのことでもねぇし」

「はい、もちろん。主題は私の今の気持ちを整理しておきたかったのです。私が先生のことをどう想っているのかを。先日その整理に便利な出来事が立て続けに起こったので、丁度良い機会かと思いまして」

「お前にとっても実りのある事件だったわけだ」

「はい。非常に刺激的でした」

 

 

 あと一歩でスクールアイドルが奪われたままになるかもしれなかったのに、良い経験として自分の糧としてしまうコイツの図太さったら半端ねぇな。今年の一年生の精神が子供とは思えないのは錯覚ではないようだ。

 

 それにしても、俺への想いの尺度を確かめるために当の本人を呼ぶなんて相当な度胸がある。もし仮に相手が自分のことを好きではないと判明したらどうするのだろうか。もちろん俺がコイツを嫌いになることはないので、もしかしたら自分がマイナスになることはないと読んでの行動なのかもしれない。それにしても並大抵の自信じゃできないけどな。少なくともアイツらの場合は去年の時点どころか今でもコイツと同じ真似はできないだろう。曖昧なことは確定するまで追い求め、そこに迷いはない。冬毬のそんな性格が良く出ている。

 

 

「結論から先に言いますが、私はまだ先生のことを恋愛的に好きかどうか測りかねています」

「その心は?」

「まだ、教師と生徒という関係性が濃いからだと思います。先生がそう思っていらっしゃらないのなら申し訳ないのですが……」

「なんかフラれたみたいになってる……? 俺も多少はそう思ってるけど、それも他の奴らと相対的に比べたらって話だ。ただ、俺はお前のことを一人の女の子として見てる。スクールアイドルとは関係なくな」

「なんというか、頻繁にそういう心をくすぐることを言ってきますよね……」

「お前だってたまに直球過ぎて懐えぐってくるからな……」

 

 

 お互いにコミュニケーションには難があるようだ。

 それはともかく、冬毬の中では俺は想いの人というよりも自分の教師というキャラの方がまだ濃いらしい。アイツらに比べたらかなり慎重な考えだが、恋愛に鈍感だからそう簡単に惚の字にはならないのだろう。どちらかと言えば興味の対象、といった側面が強いのかもしれない。

 ただ本当にそうなのかを解き明かすために日々恋愛を勉強しているので、本心に気付いた時はどっぷり浸かってしまう可能性もあるかもな。

 

 

「皆さんの心の声が一斉に外に吐き出されたあの時、私はその一つ一つをじっくり聞いていました。七草先輩の叫びも、かのん先輩たちの想いも、先生の主張も。私が持つ恋愛観の構築に使わせていただきました」

「それでもまだ答えは出てないと」

「はい。しかし、誰かを好きになると熱さは実感しました。先生を巡る恋模様に私は参戦していませんでしたが、各々が抱く想いの熱量は伝わってきました。そして、私は似たような経験があると言えばあります。それは姉者との(わだかま)りが解消する前、先輩たちやマルガレーテが家に押しかけて来た時、先生と二人きりでお話ししたあの時間のことです」

 

 

 そういやそんなこともあったっけ。

 かつて夏美と冬毬は折り合いが良くなかった。当初は夢を見て様々なことに体当たりでチャレンジする夏美を応援していたコイツだが、毎回姉が玉砕して涙をする姿を見て、安易に夢を持つものではないと所謂リアリスト的な思考を持つようになった。度重なる失敗を続けてきた夏美が今度はスクールアイドルで輝くことを夢見た結果、それを咎めるようになったのもその考え方が故だ。

 ただ夏美の方は冬毬の考え方に一定の理解は示しており、コイツもコイツでただ否定をするだけでなく、スクールアイドルが本当に姉の輝ける舞台であるかを確かめるため自らかのんとマルガレーテに合流するなど、お互いに真っ向から相手を否定していたわけではなかった。姉妹だから完全に(たもと)を分かつことはせず、むしろ好きだから歩み寄ろうとはしていただろう。

 

 俺はその時、コイツにその話をした。

 あの時コイツが夏美やかのんたちの前で夢を見過ぎることを厳しく非難して部屋に閉じこもったが、そのせいで連れ出すのは大変だったな。

 

 

「思い返せば言葉巧みに夜の街に連れていかれた気がします」

「そのセリフだけ切り取ると犯罪臭が半端ないから、絶対に誰にも言うなよ……。でも、そのおかげでお前と二人きりで話せたんだ。初めてな」

「はい。正直連れ出された後も内心では心が暴走していたのを覚えています。でも先生に諭されたおかげで落ち着けました」

「俺は話を聞いてやっただけだ」

「それだけでも安心できますよ。マルガレーテが言っていた、困った時は何故かいつも先生が隣にいる、という言葉。今なら理解できます。そして、その時に感じた熱さがまさに七草先輩やかのん先輩たちの想いの熱と同じだった気がするのです」

 

 

 心の拠り所、という意味かもしれない。

 七海もかのんたちもそうだったが、俺を心の安寧の象徴としている節がある。それは前の事件でのアイツらの反応を見れば雰囲気で分かる。それとコイツの心が共鳴したということだろう。これまでは自分の恋愛観を人の言葉を頼りに構築していたが、初めて心から共感できたんだと思う。だから自分の恋愛観を今アップデートしているのだろう。

 

 

「もちろん本当の気持ちは自分で見つける必要があります。そのためには私が自分の目で先生を見定め、本当にこの人が想いの方なのかを判断する。これが先生とコミュニケーションを取る上での最優先事項です」

「随分と慎重だな。俺の周りの女の子たちは惚れやすいから、お前のような常に一線を引くタイプは珍しいよ。だとしたら俺もお前のお眼鏡に適うように頑張らねぇと」

「そんな別に先生を試す意図はありません! それに先生が頼りになる方だと既に知っていますから。侑さんが言っていたではないですか。『何か困ったことがあったら、絶対にお兄さんに頼って』と。実際に本当に先生がなんとかしてしまったので、頼りになるという担保は取れました」

 

 

 なんか面接を受けている気分だ。グループディスカッションの様子を社員に観察されているみたいにも感じる。要するにじっくりと俺という人間を見極めようとしているってことだ。流石は完璧主義者の鬼塚冬毬、恋愛に関しても一切の妥協はしない。曖昧な気持ちのままで俺の隣に来ることはない。

 

 

「で? 具体的な策はあるのか? このまま『ラブライブ!』を優勝するだけでは自分を魅せることはできても、俺を見定めることはできねぇぞ」

「もちろん分かっています。したがって、今日の会話の整理ができたらまたお話にお誘いしようと思います。今度は学校ではなくプライベートで。以前はマルガレーテや侑さんがいて二人きりではありませんでしたから。デートというものであれば先生は真価を発揮できると思いますし、二人きりなら外部の雑音なしで見極めることができます」

「堂々とデートに誘う発言……。お前本当に結ヶ丘の生徒か?」

「どういう意味ですか……」

 

 

 だって結ヶ丘の生徒はこれまで恋愛クソ雑魚だったから、冬毬やマルガレーテみたいな強者がいきなり来たらそりゃ驚くだろって。

 にしても、やっぱり試されてるよな俺……。俺が恋愛をしてきた女の子で相手をここまで見定めようとしている奴はいなかった。お堅い性格で厳粛な奴らなら何人もいたが、結局俺にハマって性格が柔らかくなるのが常だったので冬毬のようにブレないのは珍しすぎる。マルガレーテも今までにないタイプだし、今年の一年生のキャラの濃さはこれまでと一線を画してるな……。

 

 

「じゃあ楽しみにしてるよ、お前が誘ってくれる時を。でも忘れるなよ。俺もお前を見てるってことをな」

「臨むところです。私を教えてあげましょう」

 

 

 慎重だけど自信はたっぷりと。もうその度胸を見せてくれるだけでも十分にコイツの魅力は伝わっている。

 ただ俺のことをもっと知ろうとするなら、その探求心を爆発させている時のコイツはもっと輝いて見えるかもしれない。今までになかったタイプだ。俺もコイツとのデートが楽しみになってきたよ。

 

 まだ距離は離れている気がするけど、あと1つ。何かあと1つだけきっかけがあればその間は急速に縮まるだろう。

 プライベートで二人きりになった時に何が起こるのか。期待して待っておこう。

 




 今回は冬毬の個人回でした。
 本編中でも彼が言っていましたが、結ヶ丘の生徒なのに彼に対して照れないし羞恥心が爆発しない鋼メンタルは珍しくて(笑)
 でもいざ付き合い始めて見ると今度は結構依存されそうな気がします!


 彼女の個人回の完結編はまたいずれ。
 次回も引き続き別キャラの個人回の予定です。
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