ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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隣に立つは銀河級であるべき

 三年生たちの卒業も近くなってきた。残り数か月、各々は自分の進路に向けてラストスパートと言った感じだ。来る大学入試に向けて勉強を重ねる者、芸術や芸能系の道へ進むために更に己を磨いている者、既に就職が決まっていて専門スキルを会得しようとしている者、この時期はみんな忙しない。

 ちなみに部活動は基本は夏で引退なのだが、文化部系の一部は冬や春の大会に向けて活動している奴らもいる。そういう奴らは大抵推薦や就職で受験組よりは時間が空いている奴が多く、俺が指揮するスクールアイドル部も漏れなくその一部だ。まあメンバーの中には受験するにも関わらず『ラブライブ!』に出ようとする猛者もいるのだが、スクールアイドルではもはや当然のことだ。よく考えてみたら大会の実施時期が受験の追い込みシーズンと被ってるの意味が分からねぇな……。

 

 そんなわけで、この時期の三年生は授業も少なくなっているため校内の三年生エリアはそれなりに閑散としている。教師の俺は下級生の授業があるため暇ではないが、自分も昔はこんな時期があったと懐かしく思えるよ。俺と同じ大学に行くために一心不乱になる穂乃果をことりと海未とで全力サポートしていた。まあ結果的にはかなり余裕で入試はパスしたのだが、今も教室を見てると同じ立場で切磋琢磨している奴らがいるので、教師目線で再びその光景を見るのは感慨深い。

 

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、階段から金髪女子が上がってくるのが見えた。

 

 

「あっ、先生」

「すみれ、来てたのか。今日は授業も練習もないはずだけど」

「あなたに渡したいのがあるのよ。今日来たのはそのため。ちょうどいいからここで渡すわ」

 

 

 渡されたのは封筒。中を開けて見るとしっかりとした紙が一枚。それに書かれている内容を確認してみると――――

 

 

「所属事務所決定――――って、話早いな」

「ふふん、これも私の実力が成せる業ってわけよ。ていうのは半分冗談で、事務所からのオファーがあったからなんだけどね」

「でも自分が行きたいところだったから良かったじゃねぇか。おめでとう」

「ふふっ、ありがとう」

 

 

 契約上での双方の合意は当たり前のことだけど、お互いが求めることがここまで合致しているのは珍しい。だからこそとんとん拍子で話が進んだのだろう。秋に芸能界への進出が決まったかと思えば事務所までスピード決定。コイツは半分冗談って言ってたけど間違いなく自分の実力だ。

 

 一年生の当初は芸能界に復帰するためにスクールアイドルを踏み台にしようとしていた。スカウトされるために渋谷の街に繰り出すほどであり、毎度毎度撃沈して帰宅するのが常だった。

 だが今は違う。あれだけナメ腐っていたスクールアイドルに全力で取り組み、その結果去年『ラブライブ!』に優勝。それでコイツ自身の知名度も大きく上がり、元々の容姿端麗さも相まってファンは急増して芸能事務所からも注目されるほどに至った。一度グソクムシなんて底辺を経験しておきながらまさかの躍進。当時のコイツを知る者からすればここまでの飛躍を想像できないだろう。

 

 

「ねぇ、次って授業ある?」

「いや」

「そう。もし時間があるんだったら少し付き合ってくれない? 別に校外へ行こうってわけじゃなくて、単にちょっと話したいことがあるのよ」

「あぁ、問題ない」

 

 

 すみれから放たれる真剣さから、その話が『ちょっと』の枠で収まらないことは容易に想像できる。自分の進路の話はしたからそれ以外となると、やはり先日のスクールアイドル概念消失事件に基づく話以外にないだろう。自分の想いを誰よりも早く伝えようとしているのか。だとしたらもし時間がなかったとしてもこの誘いを断るわけにはいかない。遂に真の想いを受け止めることができるのだから。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「さむっ! 今日は最近だと結構暖かい日だけど、流石に屋上は風もそれなりで寒いわね……」

「当たり前だろ。てかどうしてここなんだよ……」

 

 

 冬場における校内で考えうる限りトップクラスに来ちゃいけない場所だ。夏は日が照り付け捲るし、冬は風が強くてまともな練習にならないことも多い。

 でもスクールアイドルの奴らってやたらと屋上好きだよな。μ'sの連中は学校の屋上こそが根城だったし、Aqoursの奴らも寄生していた。そのせいか夏や冬は言った通りの地獄を味わうことになるので、あまりに辛い場合は外に出たり貸しスペースを借りたりしていた。

 

 そんな悪条件の中に現在進行形で苛まれる中、ここへ連れて来たコイツの真意は――――

 

 

「告白の定番って屋上じゃない? それにそっちの方がカッコいいからよ」

「そんな理由で低気温に晒されてるのか俺たち……」

 

 

 真っ当な理由かと思ったらただの欲望だった。意外とシチュエーション重視なのかコイツ……?

 とは言え流石に寒いので、屋上へ出る手前の階段まで戻った。ここも外からの隙間風で若干冷えるが屋上に比べれば何百倍もマシだ。

 

 

「せっかく勢いのまま言っちゃおうと思ったのに出鼻をくじかれちゃったわ」

「そりゃそうなるだろ……。でもやっぱりそうなんだな」

「なにが?」

「気付いてないのか。お前さっき漏らしてたぞ――――告白だって」

「な゛っ……!?」

 

 

 マジで無意識だったんだな。ただナチュラルに口に出してしまうくらいだから緊張はそれほどでもなさそうだ。

 すみれは一息入れると俺と向き合った。階段の上から俺を見下ろす形。普段は人が通らない場所なので消灯しておりそれなりに暗いのだが、そのせいか屋上の扉から差し込む光ですみれがいい感じに照らされ神々しく見える。何もしなくても既に輝きを放ちまくっているコイツだが、ちょっとシチュエーションが足されるだけでここまで魅力が増すのかと思わず見惚れそうになった。

 

 僅かな沈黙が流れる。

 そして――――

 

 

「先生――――好きです。私と付き合ってください」

 

 

 一切の取り繕いもない真っすぐな告白。でもその言葉をどれだけ待ちわびたことか。

 正直もう少し話を引っ張るのかと思っていたのだが、そこは何事も率直にストレート発言する彼女の性格が出ている。告白の仕方もあっさりだが、惑いのない言葉を相手に直球でぶつけることこそ彼女の性。緊張による戸惑いも性急に過ぎることもない。この落ち着きは既に女優の卵にしては風格が出過ぎているようだ。

 

 その言葉を聞いて俺がじっと見つめ続けても、彼女の表情や瞳からは焦りが一切見えない。俺がどう応じるのか既に分かっているからってのもあるだろうが、自分自身に自信があるからこそ、そしてその想いに真っ向から向き合ったからこそだろう。

 

 

「ようやくここまで来たか。ずっと待たせやがって」

「えっ、真面目に告白したのに返事がそれ!? アンタねぇ、もっとムードってものに合わせなさいよ」

「俺はいつでも自分の気持ちを示してるぞ。だから俺から返事をするってよりもお前らの告白こそ俺への返事なんだよ。せっかくの雰囲気をぶち壊したことは申し訳ないと思ってるけどさ、少しは」

「少しじゃない! ったく……まあでも、私たちに堅苦しいのは似合わないか」

 

 

 別に誰からの告白でも砕けた感じで返答するとは限らない。コイツの場合はこう応じた方がいいと思っただけだ。他の奴らがどんな告白をしてくるかは分からないが、期待を裏切る反応は絶対にしない。

 ちなみに真面目な告白をしてきたんだから真面目に返せよと思われるかもしれない。でも俺が余裕を見せたのは相手がすみれだからこその理由があった。

 

 

「相変わらず『自分について来られる奴だけついてこい』スタイルなのね。教師と生徒の立場は変わらないってのに、生徒の告白なんて受けて全く罪悪感に駆られてないのもそのせいかしら」

「今更なに言ってんだ。俺の周りは俺だけの世界だ。つまりその世界に足を踏み込んだからには俺の常識で生きてもらうってことだよ」

「そうね。あなたのそういうところを好きになったのよ」

 

 

 すみれは階段を降りると俺の隣に並ぶ。俺は屋上側を向いているが、彼女は校舎側を向く。

 目を閉じて過去の出来事を想起する。

 

 

「私が求める男性は、私の隣に立つのに相応しい人。私よりも自信過剰で、力強くて、恰幅が良くて、私すらも霞んで見えるくらいの色気を持った男性。もう随分前からあなたは私の好みに合致する人って分かってたけれど、前の事件のあなたの姿を見て改めて惚れ直したわ。相手が如何に同情を誘おうと、如何に相手の土俵に引きずり込まれようと、あなたは頑なにマイルールを貫き通す。その誇り高い意志と雄々しい態度は私の恋心をすこぶる刺激させるのよ。そんな凛々しいあなたに意気が上がりっぱなし。絶対に告白しようと思ったわ。『ラブライブ!』を優勝してからなんて待てない。私に相応しい男は、もうこの人しか考えられないってね。逸る気持ちが抑えられなかったのよ」

 

 

 自分を誇示するほどプライドが高いコイツがここまで人を褒めるのは珍しいことだ。思いやりに満ちた人格の良さがあるのはもちろんだが、それに相反する気高さも一年生の頃から変わっていない。だからこそ隣にいる男は自分と同等以上で弱々しい奴は認めない。自分の輝きを放てばそれを上書きしてくるような強い男であるべき。そう考えているのだろう。

 

 そして、俺がコイツの告白を受けて余裕の態度を見せていた理由はまさにそれ。コイツがその高慢な価値観を持っていると知っていたからだ。だから真面目にならなかった。いつもの傲慢な態度は崩さない。どれだけ不遜な態度を取ろうが、むしろコイツが抱く印象ではプラスになる。

 自我を強烈に表に出せるってのはやりやすい。強い言葉を思う存分振りかざせる。

 

 

「にしてもお前、変わるところはいい方向に変わって、変える必要のないところはそのままだよな」

「なによ、いきなり」

「いや、そんまんまだよ。出会った頃は口だけで実力を伴っていなかったお前が、スクールアイドルを経てとてつもなく成長した。個人主義からチーム主義へ、根っこにある人の悲しみが理解できる優しい性格が徐々に浮き彫りになりつつも気高さは一切失わなかった。底辺に落ちて再び芸能界へとのし上がる。そのために自分の誇りだけは変えずに守り続けたみたいだな」

 

 

 Liellaに加入した頃なんてスクールアイドルをナメまくってたけど、いつしか夢のための踏み台ではなくLiellaとしてみんなで輝きたいと思うまでになった。考え方の変わりようはかのんたち他の三年生と比べても一番かもしれない。それでも自分を良く魅せることだけは一年生の頃から一切ブレないので、そこは俺にとってもコイツの魅力の一つだ。

 

 

「ショウビジネスの世界に再び立つ。確かにその野望のためのプライドってのもあったけど、一番の理由はあなたよ」

「俺?」

「えぇ。前の事件の時に言ってたけど、あなたは自分の隣に立つ女性にその個人の魅惑を期待している。じゃあ私のチャームポイントは何か。そう聞かれたら間違いなく自分自身って答えるわ。だからプライドを持ち続けた。もちろん一年生の頃は先生の考え方なんて知る由もなかったけど、多分潜在的に感じていたんでしょうね。あなたの隣にいるなら自分が信じる最後の砦だけは崩さず、それをアピールしなきゃいけないって」

「なるほど、じゃあ昔から俺の重圧を受けてたわけだ」

「そうね。そのせいであなた専用の価値観に染まっちゃって、いい迷惑よ」

 

 

 侑みたいなこと言い出すなコイツ。まあアイツは俺の横暴な態度に未だに難色を示してるから本当に迷惑だと思ってそうだけど……。

 

 それにしても、己のプライドの高さを保ち続けた要因は俺だったのか。元の性格からして変えられない性根なんだろうけど、まさか俺の隣に立つために自らのチャームポイントを無意識的にアピールし続けてたとは。じゃあその頃からもう告白されていたと言っても過言ではないな。

 コイツは告白する時に俺が自分の隣に相応しいからと言っていた。だけど自分も同じポジションになるのだから、自分も相手に相応しい人間になる必要がある。知らぬうちにお互いの好みに合わせていたわけだ。俺たちは本来そういった高貴な考えの持ち主だから決して無理に合わせていたわけじゃないけど、お互いに意識はしていたってことか。

 

 告白へ至る想いを打ち明けたすみれ。

 少し間が空いた後、今度はこちらをじっと見つめだした。

 

 

「ねぇ、告白し終えて返事もOKなんだったら私たち、もう付き合ってるってコトよね……?」

「そうだけど、それがどうした?」

「いやなんか、心情的に全然いつもと変わらないんだけど。なんか一世一代の告白を終えて肩の荷が下りたとか、付き合えたから舞い上がるほど嬉しいとか、そういうのが全くないわ。会話の調子もいつも通りだし……」

「いいんだよいつも通りで。お前が劇的に何か変わったことをしたいってのなら乗ってやるけどさ」

「そう。ならいいわよ、いつも通りで。なんだかんだこの空気感が一番安心するのよね。それがより身近になったってことだけでも満足しておいてやるわ」

「どうして上から目線なんだよ……」

 

 

 これまでもそうだけど、告白と言っても恋人同士になったって感覚はあまりない。告白なんてせずともお互いの気持ちは知ってたし、それを言語化したってだけで関係が大きく変化するわけでもない。ただ想いを胸に秘めているだけだとモヤつくので、言葉に出来ただけでもやり切った感を味わえる。それでお互いの距離が更に近づくってのもあるだろう。

 

 そう考えると、誰が『恋人』かだなんてほとんど意識していない。高校生の頃は青春時代の血気盛んな性欲があったため舞い上がっていたが、もはや告白を受け取り過ぎてそれが日常と化している。だから他の奴らもあまり俺と『恋人』関係だとは思っていないだろう。だって告白する前から繋がりは強固で、言葉でそれを確かめ合っただけだから。俺としては日常茶飯事だけど、なんか男として凄く贅沢なことを言ってる気がするな……。

 

 

「とりあえず、私の隣に立てたことは幸運ね。だってこの後『ラブライブ!』を優勝して、もっと輝く私の姿を間近で見られるんだから。それだけでも付き合ったことを感謝させてあげるわよ」

「相変わらず口は達者だな。それも手が届くどころか鷲掴みに出来る実力があるからか。楽しみにしてるよ」

 

 

 自分を豪傑に見せる奴は見ていて気持ちがいい。特にコイツの場合は以前のような小物感は全くなく、実力で栄光を手にするだけの力がある。光る前の未熟な輝きも調教し甲斐があるが、こういった勝手に輝くことで俺の隣という居場所の価値を上げてくれる奴も大好きだ。

 

 

「精々頑張れよ。無様な醜態を晒してその光輝がくすまないようにな」

「えぇ。『ラブライブ!』だけでなく永遠に魅せてあげるわよ。この平安名すみれの閃きをね!」

 

 

 俺とすみれの関係は一旦これで一区切り。でもこれからが本番で再スタート。彼女はスクールアイドルでも芸能界でも今よりもっと眩い美しさを魅せてくれるだろう。

 誇り高い銀河の女王。俺をどこまで満足させてくれるのか。これからこそが楽しみだ。

 




 すみれ個人回としては最後の回でした。
 彼女が実際に男を好きになるなら彼のような性格の男を好きになりそうですが、案外世話焼きなのでだらしない系の男子でも似合いそうです。

 これで一人目。
 これからは皆さんお察しの通り告白ラッシュです(笑) 何回か普通の日常回を挟む予定ですが個人回がメインとなる予定です。


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