ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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夢見た普通の『女の子』

 これまで幾多の女の子と親しい関係になってきたが、中には自分が女の子らしくないと思っている奴がちらほらいた。

 ただ、そういった奴は大抵自分は女の子だと自覚しながらも周りにより魅力的な子がいるから、という理由で自身を卑下している奴ばかりだ。スクールアイドルをやっている以上は一定の可愛さは保証されているので、傍から見たら贅沢な悩みというか嫌味に聞こえなくもないが、同じスクールアイドルの仲間が周りにたくさんいるからこその葛藤なのかもしれない。アマチュアでも仮にもアイドルだから必然的にも可愛い奴らで集まる。その中で自分は一番下だと、自信のない奴は思い込んでしまうのも仕方がないところもある。

 

 難儀な性格だが、その中でも特に憂き目を経験した奴がいる。

 まあ今の様子を見る限りではそんな悩みなんて一切ないように見受けられるが……。

 

 

「えっ、これってあの人気の猫カフェの優待券!? どうしたんだよ先生! こんな貴重なものを……!!」

「どうしたって、ちょっと前にお前が頼んできたじゃねぇか。抽選で当たる確率を増やしたいから、応募のために先生の名前も貸してくれって」

「そういやそんなこともあったっけ。『ラブライブ!』の追い込みで忙しかったから忘れてた……。あっ、まさかそれが先生のところに!?」

「あぁ、昨日届いてたよ」

「やっぱり主人公属性って運も最強なんだな……」

 

 

 と言いながらも目を輝かせているメイ。俺の豪運に驚いているのはそうだが、それ以上に人気の猫カフェに行ける権利の獲得に心を躍らせているのだろう。

 コイツが猫好きってのは意外と知られていない一面だったりする。それもそのはず、スクールアイドル好きよりもその趣味を隠しているからだ。その理由はさっき言っていた難儀な性格に由来する。こうして趣味に溺れて蕩ける表情を見られる奴はごく限られているってわけだ。

 

 

「これ、私にくれるのか……?」

「そりゃお前が欲しがってたものだから、お前に渡すのは当然だろ。てかそのために俺の名前も使って応募したんじゃねぇのかよ」

「そうだけど……」

 

 

 妙に歯切れが悪い。何が言いたいのかは最初から分かっているけど後押しはしない。覚悟を決めている最中に余計な水を差す真似はできないからな。

 

 

「私と一緒に行って欲しい、この猫カフェに……」

 

 

 言えたじゃねぇか。応募口を増やしたいのなら俺以外の奴らにも名前を借りるはずなのに、俺にだけ猫カフェに行きたいことを明かしていたってことはそういう意味だってことはすぐに察した。用意周到だけど分かりやすいんだよ。

 

 

「いいよ。行こう」

「えっ、そんなあっさり……」

「それが目的だったんだろ。だったら最初から断る理由はねぇよ」

「誘うために結構用意したのに……」

「やっぱりな。そんな回りくどいことをしなくてもいいって。気持ちを素直にぶつけてくれればそのまま受け止めるよ」

「そ、そうか……。じゃあ次の休みに一緒に行って欲しい。『ラブライブ!』前の休養期間で練習もないし、ちょうどいいかなって」

「あぁ。楽しみにしておくよ」

 

 

 見た目は快活そうに見えるが中身はかなり繊細で、そこも本人が難儀する性格の一つだ。だからメイからこうして俺にプライベートの頼みごとをしてくるなんてほとんどないんだけど、前のスクールアイドル概念消失の事件の煽りもあってか前向きにはなれているようだ。コイツも何かしらの覚悟を決めているのかもしれない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うっはぁ~っ!! こんな私でもこんな可愛い子たちに好かれるなんて、口コミには夢の世界って書かれてたけど本当に桃源郷だったんだな! な! 先生!」

 

 

 すっげぇ喜び様。俺がコイツと知り合ってきてからこれまでで一番女の子の顔をしている気がする。スクールアイドルに燃えている時はどちらかと言えばオタク風味だから、ここまで少女オーラを前面に出すのは珍しすぎることだ。

 

 俺たちは例の猫カフェに来ていた。人気店だけあってか内装も華やかで猫たちの毛並みも良く生き生きしており、人懐っこいためかはたまたメイに何かしらの吸引力があるのか知らないが、彼女に結構な数の猫が集まっていた。

 ちなみに今日のメイの格好はいつもとは違ってガーリー系だ。普段の練習着もプライベートの普段着でも男っぽい服を着ているイメージがあるが、今日はフリルをあしらったワンピースにリボンで髪を結っておさげを二つにしている、まさに純粋無垢な少女のようだ。いつものコイツを知っていれば今の見た目からよほど気合が入っているのが見て取れるが、まさかここまでキメてくるとは思わなかった。それだけ俺とここへ来ることを期待していたってことだろうか。

 

 

「私ってあまり動物に好かれないから、こんなに擦り寄ってくれるなんて天国だよここは! いや、ここの猫が人間慣れしてるだけなのか……」

「そうかもしれないけど、コイツらの目から見ても今日のお前が魅力的に映ってるからだと思うぞ。猫好きってのもそうだけど、そういったガーリー系も秘かに好きで、それを着ている自分に満足感を得ている。だからその高揚感が周りの目を惹きつけてるんじゃないかってな。ほら、ポジティブな奴が近くにいるとこっちも調子よくなることあるだろ。それと同じだよ」

「そうなのかな……。だったら先生も私のことがその……魅力的に見えてたりするのか?」

「もちろん。可愛いよ」

 

 

 メイの顔色が一気に赤くなる。猫に囲まれていた興奮で元から赤くなっていたと言えばなってたけど、俺に直接感想をぶつけられてより一層色味が増した。相変わらず自分が女の子に見られることに慣れてないのか、それか相手が俺だからか、スクールアイドルなんて女の子の象徴みたいなことやっておきながら未だに恥ずかしがるのもやっぱりコイツ自身の性分なのだろう。

 

 

「私みたいな男勝りな奴がこんな可愛い服を着るなんて似合わないと思うけど、先生と二人で出かけるなら絶対に着たかったんだ。そのために買ったんだからな……」

「俺のために?」

「あぁ。可愛いから着てみたいって私欲はもちろんあるけど、これを着て先生とデートしたいって夢の方が大きかったんだ。正直昨日の夜からこの服を着ていくかどうか恥ずかしくて何も手が付かないくらいだったけど、素直に褒めてもらえたから覚悟を決めて良かったよ」

 

 

 メイの悩みは男と勘違いされる言動にある。それだけだったら改善できるかもしれないが、ツリ目が原因で良く不良面と勘違いされることもあったらしい。考え事をしていて少ししかめっ面になっただけでも威圧感が出ていたためか、友達作りにはかなり苦戦を強いられていたようだ。そのせいで半分グレて更に男勝りな言動に磨きがかかる。まさに負のスパイラルだ。

 それが前に言っていた難儀な性格の正体であり、自分が女の子っぽくないと思っている子の中でも特異な事情を持つ奴だ。自分が猫好きだったりファンシー系が好きだったりと、女の子の典型のような趣味をしているせいで余計にそのギャップに悩んでいたこともある。

 

 だが、スクールアイドルをやり始めてからはその問題はかなり解消されているはずだ。実際にLiellaに加入する前も同じ悩みを抱いていたが周りのおかげで一歩を踏み出せているし、なんなら今もフリルのワンピースを着ている。そのためある程度は女の子を曝け出すことに違和感はなくなったものの、緊張は隠せてないことからまだ抵抗感はあるみたいだ。

 Liellaで活躍するようになってからは結ヶ丘の生徒はもちろん、ファンも一定数いるのでコイツのフェミニンな側面は認知されつつある。内に秘めた自分の女子力を全部解放するのはまだ恥ずかしいのかもしれないが、自分が嫌いだと思っていた頃と比べると着実に自分を好きになってきているだろう。

 

 

「私はただ普通の『女の子』になりたかったんだ。Liellaのみんなと比べるとちっぽけな夢だし、女の子なんだから女の子であることが普通で言わばマイナスをゼロにするみたいなものだけど、それでも私にとっては憧れだった。それを先生が叶えてくれたんだよ。私が自分のことを男っぽいと自虐しても、先生はそれに同調したことは一度もなかった。それどころか私が女の子たる所以を事細かに伝えてくるから、逆にこっちが恥ずかしくなるくらいだった。でも、そのおかげで私が女の子になれた。先生と、先生が導いてくれたスクールアイドルに入ったおかげだ」

 

 

 そんなこともあったなと想起する。今はあまりないけど、昔はライブのためにフリフリした衣装を着るだけでも激しく自虐していた時代があったのは懐かしい。

 だが、俺はコイツを宥めるために説いていたわけではなかった。

 

 

「別にお前を安心させようとは思ってなかったけどな。女の子に可愛いって言うくらい普通のことだろ。俺はそんなことでウソをつかないしお世辞も言わない。ただの本心をそのままお前に伝えていただけだ。ただの感想だよ。そこに同情なんか存在しない」

「私からすればそれで良かったんだよ。その飾りっ気のない率直な気持ちがむしろありがたかった。だから私は前に向けたんだ。私のことを女の子として見てくれている人が隣にいるって、その安心感があったから。そして自分を貫き通す逞しさに、私は憧れて好きになったんだ。前の事件の時に先生のそのスタンスをより強烈に印象付けられた。私はその時、もう……」

 

 

 そこでメイは口を(つぐ)んだ。周りを見て慌てて話を止めたようだ。

 確かにその先の話を猫カフェの中でするのは場違いだもんな。フロアの端の方にいるから他の人には聞こえていないだろうが、男女の甘いムードってのは会話の内容関係なく相手に伝わってしまうもの。たまにいる公衆の面前で正面から抱き合ってたり、キスするような迷惑カップルのような感じだ。

 

 

「出よう! 伝えたいことが、あるんだ……」

「お前がいいならいいけど、ここ人気の猫カフェなんだろ? もう出るのか?」

「たっぷり堪能したから大丈夫。先生は?」

「お前以上に猫たちがじゃれてきたから、まあそれなりに楽しかったよ」

「あとから名簿を見たけど、先生に寄って来てたのみんなメスの猫だったぞ。人間じゃなくて猫の女の子にも好かれるんだな」

「はは……」

 

 

 付き添いで動物と触れ合う場所に来ることはたまにある。ただ毎回メスばかりに懐かれるんだよな。音ノ木坂にいた頃からアルパカのメスが舐めかかろうとしてきやがるくらいだったし、俺の特有の体質は人間だけでなく生物であれば有効らしい。動物に好かれるのはいいけど、たまに度を越した奴らがいるのは勘弁して欲しいな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 猫カフェを退店して人があまりいない静かな場所へ向かう。なんか下品なことをしようとしているみたいだが、二人でゆっくり話せる場所が欲しかっただけだ。だからと言って少し離れた公園の隅っこで男女二人きりってのも怪しそうなシチュエーションだけど……。

 

 静かな雰囲気の中。幸い公園には誰もおらず、図らずも自分たちだけの空間が出来上がっている。

 そんな中でメイは先程の話を続ける。

 

 

「今日は伝えたいことがあって先生を誘ったんだ。猫カフェは前座というか、そのためのきっかけかな」

 

 

 そうだろうとは思っていた。だけど口には出さない。覚悟を決めて最後の一歩を踏み出そうとしているんだ。ここで気を逸らすことはできない。

 

 

「最初から一人の女性として接してくれたこと。私に前向きになる覚悟を教えてくれたこと。先生にとっては『何もしてない』って思うかもしれないけど、そのおかげで私はちっぽけな夢を叶えることができた。今まではそんな先生の背中を見て前を向く勇気を貰ってたけど、次は先生の隣で同じ景色を見たい! 隣で一歩を踏み出したい! だ、だから――――」

 

 

 次第に声が大きくなってきているメイ。感情の高ぶりを抑えられないのだろう。

 そして、遂に真の本音が解放されるときが来る。

 

 

「先生のことが好きだ! 今度は一緒に夢を見させてくれ!」

 

 

 力強い告白。これを聞くと勢いだけのように聞こえるが、今日の気合の入った服といいここまで告白を引っ張ったことといい本人は相当な覚悟を組み立ててきたのだろう。告白前はまだ多少の羞恥心は残っていただろうが、言い切った後の顔からはそんな様子は一切見られない。一つの曇りもない本音。今まで手を引いてくれていた人の横に立ちたいという勇気。今まで自分は女の子らしくないから、男っぽいからと卑下してきた奴の最大級の覚悟。一人の女としての告白。もうそこに負の感情は一切ない。あるのは前向きな希望だけだ。

 

 彼女はじっと俺の応えを待つ。

 当然、俺の伝える言葉は一つだけだ。

 

 

「あぁ、俺の隣にいればそんなのいくらでも見させてやる。お前が次の夢に向かって踏み出す覚悟を、その心に秘めている限りはな」

「じゃ、じゃあ返事はOKってこと……だよな??」

「さっきのがNOに聞こえたか?」

「い、いや、遂にこの時が来たんだなって思うとイマイチ現実味がなくて……。私自身ここまで勇気を振り絞ることが奇跡みたいだったから……」

「現実だよ。今この瞬間に繋がることができたんだ」

 

 

 どちらかと言えば今までは導く者と導かれる者の関係だった。それがたった今横並びとなり、遂に目に見える景色が同じになった瞬間だ。横に立ったことで繋いでいるのは手だけでなく、今度は心でより強く繋がっている。

 

 

「これで私も一端の女の子ってわけか。なんか実感ねぇな……」

「いや元々女の子だろ。それに俺はお前に女の子を自覚させるために話しかけてたわけでもない」

「じゃあなんで……?」

「バーカ。俺が気になったからに決まってんだろ。自分が可愛いと思った女の子には積極的にコミュニケーションを取りに行く。男が女の子にハマる理由なんてな、たったそれだけの浅い理由でいいんだよ。女みたいに仰々しい理由や前振りなんていらねぇんだ」

「そ、そうだったのか……。相変わらず自分に忠実というか何と言うか……。ていうか私はあんな覚悟を持って想いを伝えたのに、そっちはそんなあっさりと自分の気持ちを曝け出せるなんてちょっとズルくないか……?」

「なんでだよ……」

 

 

 そりゃこちとらどれだけの場数を踏んでるんだよって話だ。感謝され慣れてるし告白もされ慣れている。誉め言葉なんて今まで何度浴びてきたのか分からない。それだけの経験をしてきて未だに緊張する方がおかしいだろ。唯一心構えをするのは相手の気持ちを受け入れていいのかどうかを判断する時だけだ。

 

 

「これで一応、七海先輩にキレられることはなくなったってことでいいんだよな……? 付き合うとかあまり実感がないけど……」

「そうだな。むしろこれでアイツが不満気だったら一体どうしたらいいんだよって詰め寄ってやれ。ま、実感が薄いのは追々思い出を作っていけばいいさ」

「いつも通りなのは変わらずか。今この瞬間から恋人っぽく振舞えってのは私も無理だけど……」

「そうそう。もう気持ちを伝え合ったんだ。これからは急ぐ必要はない」

 

 

 すみれの時もいつも通りだって言われた気がする。逆に告白されてすぐに何か言動が変わるかと言われたらそうそう変わらないだろう。しかも俺は常日頃から伝えるべき気持ちは伝えているつもりなので、お付き合いをする関係性になったからと言って俺が成すべきことが変化することもない。俺からすれば想いを伝え合った仲であればそっちこそもっと積極的になれよと言いたいくらいだ。

 

 ただ、そんな関係になったからこそより相手に期待するものもある。

 

 

「急ぐ必要はないけど、直近ですぐに見せてくれるものがあるだろ。それには期待してるよ。俺の隣に立ったからには、お前の夢の先にあるアレを見せてみろ」

「アレって優勝のことだよな……。すげぇハードル上げるじゃねぇか! でも告白のおかげでその覚悟はもう完璧にできた! 『女の子』としてのスクールアイドル以上に、米女メイとしての『ラブライブ!』優勝を見せてやる!」

 

 

 女の子としてという名目は既に達成された。だから今度は自分自身としての輝きを魅せる意気込みのようだ。

 男らしいから女らしくなりたい。言い換えれば女子力を追求するとも言える。そのおかげでコイツはそこらの何もしない女の子よりも何倍も輝いて見える。隣に立ったことでこれからももっと見せてくれるだろう。女の子としてではない、彼女自身の魅力を、もっとたくさん。

 




 メイの個人回のラストでした。
 ラブライブのシリーズって不良系のキャラって彼女くらいしかいない気がします。ダウナー系とかもっと掘れるキャラはたくさんいると思うので、いつかどこかのシリーズで出して欲しいものです。メタ的に言えばもしこの小説で出す時に話のネタが広がるからいいなぁって話ですが(笑)
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