ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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私にとって、最上級の指導者

 俺はスクールアイドル部の顧問をやっているだけではなく、生徒会の顧問も兼任している。

 いや、させられている、と言った方が自然か。これも理事長による押し付けによるもので、昨今の教師不足が復建して間もない結ヶ丘にも波及していた。一応あのババアに反抗することはできるのだが、もう学生じゃないんだ。社会人なら多少の理不尽は受け入れる。それに理事長も形なりにも俺のヘッドでもあるので、事務面の面倒事を引き受けてくれると思えばそれに応えてやろうという気も湧いてくる。それにあれでも恋の母代わりみたいなところもあるしな。僅かながらの情はある。

 

 そういえば、生徒会はこの秋から冬にかけてメンバーが再編成された。三年間ずっと生徒会長を務めていた恋は当然その役職を降り、なんと書記であったきな子がその地位に抜擢。副会長以下のメンバーも二年生以下の奴らで組みなおされた。

 意外だったのが新役員の募集にまあまあの人数が集まったこと。生徒会ってやたらと忙しいイメージがあり、内申点が良くなるとは言えども費用対効果に合っていないのが実情だ。でも恋たちの働きが功を奏したのか、この学校を良くしたいと思う奴らが後輩に増えたことで募集が増えたのだろう。旧メンバーの内4人に3人はスクールアイドルも兼任していてこの結果だから、そりゃアイツら良くやったよ。

 

 何もかもが順風満帆に事が進んでいるように見える。しかし、まさか奇妙な弊害が出ているとは誰も思うまい。

 

 

「時間が有り余っていますがやることがありません。先生、何卒この私のお仕事を……」

「働きたいタイプの社畜かよ……」

 

 

 そういうタイプって、あまり成果は出さずに無駄に残業だけして残業代をかっさらうから危険人物なんだよな……。

 コイツの場合はそうでないが、冗談はさて置く。最近の恋はこんな調子でよく俺のところへ来る。大学は推薦で決まっているので受験の必要はなく、生徒会長の座も降りたので時間が余っている状況なのだ。『ラブライブ!』の向けての練習はあるのはあるのだが、最近は決勝直前ってこともあり、身体の故障を危惧してストレッチと軽い練習に留まっている。何事もMAX火力で取り組む恋にとって自分の原動力である三軸が立て続けに緩んでしまったので、俺に仕事を求めてなんとか支えになる物を見つけたいのだろう。

 

 

「コーヒー淹れますか? 肩も凝っている、いや凝っていなくても揉み解します! あっ、鍼灸(はりきゅう)もできますよ!」

「落ち着け。てか最後のは無免許だろ」

「でも何かしらやっていないと居ても立っても居られなくて……」

「練習がない理由くらい知ってるだろ。休めってことだよ。それでも何かしたいんだったら俺の話し相手にでもなってろ」

「うっ、またそれですか……」

「いやなら帰れ」

「い、いえっ! お供します!」

 

 

 別にどこへ行くわけでもないけどな……。

 

 恋は俺の隣に立つ。

 たまに一人で静かに作業したいことがあるから空き教室にいることがある。今もそうだ。だがコイツはそんなことお構いなしで突入してくるので意外と大胆。生徒会の関係で俺と関わることも多かったからか二人きりの状況でも特に緊張の色は見られない。むしろ俺との空間を作り出すことには積極的になっている節があり、大胆になっていることからもそれが窺える。

 

 

「お供するとは言いましたが、先生と何を話したらいいのか捻り出す必要があるくらいは話題が尽きてしまったような気がします」

「お前とも長かったからな。生徒会がお前一人だけだった頃からの付き合いだし」

「あの頃は……失礼な態度ばかり取ってしまって申し訳ございません」

「そんな時もあったな。でもあの頃はあの頃で社会を何も知らないガキっぽくて、今とは別の意味で可愛げがあったよ」

「あれは少し黒歴史も混ざっていると言いますか……。ともかく、成長した今にしてみれば良い糧になったと言えます」

 

 

 スクールアイドルを始める前は周りを凍てつかせるくらいの冷気を放ってたからな。触れたら指の先どころか手首まで凍っちまいそうだった。

 最初俺が生徒会に仕向けられた時は猛反発してたけど、接していくうちに氷塊が溶けて俺だけにはある程度コミュニケーションを取ってくれるようになった。私念もあったとは言え、かのんたちにはあんなにツンツンしてたのにな。どうしてこう歴代の生徒会長ってのはスクールアイドルを敵視するかねぇ……。

 

 そして、そんな奴が今やこんな立派に成長しちゃうのもいつもの流れだ。特にコイツの場合は三年間ずっと一緒にいたからってのもあり、その成長がより鮮明に感じられる。

 

 

「自分でも自身が立派に成長したと自負できます。私はすみれさんみたいに自分を魅せるのは得意ではないのですが、それだけは自信を持って断言できます。そして、それは先生のおかげです」

「いや、お前のおかげだよ。いくら的確なアドバイスを貰ったって、それを活かすのはその人次第。スペックが高いスマホを持っても、写真やSNSしかしないような奴には宝の持ち腐れになるのと一緒だな」

「先生ならそう言うと思いました。でもいくら先生のご考えでもこれだけは譲れません。何と言われようと先生のおかげなのです」

 

 

 恋がここまで強情なのは非常に珍しい。いつものコイツは典型的な人に譲るタイプであり、ここまで意固地になることはない。しかもわざわざ言葉で『譲れない』とまで宣言して、よほど自分の考えを曲げたくないようだ。

 そこから見受けられるのは覚悟。そしてその覚悟は先日だけでも2回見たことがある。やっぱりコイツもアイツらと同じく本心を打ち明ける決意が固まったのかもしれない。

 

 

「私がひとりぼっちの時も、母の過去との因縁でスクールアイドルと対立していた時も、本当はスクールアイドルに入りたいと思っていた時も、スクールアイドルに入った後も、生徒会長として活動している時も、いついかなる時も先生がお隣にいらっしゃいました。そして私が立ち止まっている時は手を引いてくれて、歩み始めたら優しく見守ってくださる。間違いなく先生なしでは今と同じ未来には辿り着けなかったでしょう。この三年間、先生が私の指導者であったことを誇りに思います」

 

 

 恋から全幅の信頼を寄せられていることは分かっていた。これもスクールアイドル活動だけではなく生徒会でも一緒にいたが故だろう。

 それにコイツからしてみれば、最も指導者として参考にすべき親に少々問題があったと言わざるを得ないため、必然的に俺が指導者の代表格になるのも頷ける。母は幼い頃に亡くなり、父は海外にいることが多く、サヤは召使の立場が故に安易に口出しできず、理事長は母の親友というポジションに過ぎない。もしかしたらここまで自分の近くにいてくれる大人は俺が最初だった可能性まである。だからこそ余計に俺への肩入れに熱が入ってしまうのかもしれない。もちろんそれは悪いことではなく、誇りに思ってくれるのであればそれほど俺も嬉しいことはない。

 

 とは言え、信頼を寄せているのは俺も同じだ。最初はたった一人の生徒会をお守りしなきゃいけないと理事長に命令された時は面倒だと思ってたけど、恋が学生のトップとして学校を牽引できるようになってからはほぼ眺めているだけだったし、俺もそれだけコイツにおんぶに抱っこだった。それだけ頼りにしていたってことだ。

 

 相手への感謝が終わったのも束の間、恋の頬が少し紅くなる。

 自分の言葉を思い返して恥ずかしくなったのか。それともこの後に放つ言葉を用意している間に羞恥心を刺激されたのか。なんにせよ、ここは静かに待って彼女の言葉を受け止めてあげよう。

 

 しばらくした後、恋は沈黙を破る。

 

 

「ずっと好きでした。多分一年生の頃に助けてもらった時からずっと。先生との出会いは人生を変える出来事でした。頼れる指導者として、一人の男性として、どちらの意味でも惚れていたのだと思います。私も将来そんな教育者になりたいという憧れの対象であり、素直にこんな男性ともっと一緒にいたいという個人的な欲求もあります。その気持ちを過去からずっと伝えたいと思っていました。しかし自分の心が未熟なせいで奥手となってしまい、中々言い出すことができず卒業前のこの時期になりました。ただ、先日七海さんのあの事件を機に決心したのです。七海さんのしたことは決して誉められることではありませんが、先生に向けるあの情熱は感化されるものがありましたから……」

 

 

 長い前置き。

 だがそれは恋が本当の気持ちを伝えるためには必要なコンセントレーションなのだろう。三年間ずっと溜め込んできた想いを遂に発動するんだ。すみれのようなさっぱりとした性格出ない限りいきなり言葉には出せない。溜めて溜めて溜め込んで、ありったけの感情を込めて相手に想いを伝える。いいじゃないか、ロマンティックで。告白の方法は千差万別。その子の本気の想いが個々の彩を添えて伝わってくる。俺が女の子と接する上で一番好きな瞬間かもしれない。

 

 そして、その時が訪れる。

 

 

「先生、好きです。今後は今まで以上にお隣にいさせてください」

 

 

 頬を染めながらも目は決意に満ち、声は惑いなくはっきりとしている。本気で本当の想い。それが俺の胸に届けられた。

 その告白はあまりにも誠実。出会った頃から好きになるまでの過程、想いを伝えるに至った経緯と決意。それでお膳立てした上での筋道を立てた告白。いかにも恋らしい。言葉自体は短かったけど、そこまでの軌跡が凝縮されているため密度は濃い。結論は短く簡潔に。そこもコイツらしい。

 

 

「あぁ。好きなだけ隣にいろ。本格的に逃げられなくなってもいい、ってのならな」

「逃げるって、正式に先生の隣にいられるのにそんなことをするわけないじゃないですか!」

「意外と俺は独占欲が強いんだ。イヤでも離れられないかもしれないぞ」

「分かっていますよ。この三年間で先生が私のことを見てくださっていたように、私も先生のことを熟知していますから」

「三年ごときで俺のことを知った気でいるのはまだまだ甘いな」

「だとしたら、余計に隣で先生のことを観察する必要がありそうです」

 

 

 微笑む恋。言うようになったなと思いつつ、それだけ俺の隣にいる覚悟があると言うことだろう。ま、告白してきたのなら当然か。 

 

 

「思いましたけど、先生からの返事はOKという意味で良かったのですか……?」

「今の会話の流れでそうじゃない方がおかしいだろ」

「いや、先生の様子が全く変わらないもので……。告白というものはもっと一世一代のイベントな気がするので、想像よりもあっさりしているような……」

「お前が本気の覚悟で伝えてくれた言葉は俺の心に届いてるよ。これでも感動してるんだ。そうは見えないだけで」

「相変わらずのいつも通りですね。これしきのことで一喜一憂しないのも我が道を行く先生らしいです」

 

 

 なんかいつも告白したのにテンションが平常運転だとか、返事してるのかしてないのか分からないって文句が来ている気がする。別にロボットじゃねぇんだ、人並みに感情はあるぞ。

 でもいちいち大袈裟に盛り上がる必要はないし、それこそ捏造してまで余計に舞い上がる必要はない。それにさっきも言った通りこれでも感動はしているんだ。今でも女の子から想いを伝えられるのはとても嬉しいし、本気で受け止める覚悟はいつでもできている。

 

 だが返事はもっとまともにした方がいい気がしてきた。ここまで三連続でツッコミを入れられているので、ここはフィードバックを活かすべきだろう。この先あと何人の告白を受けるのか。直近だと指で数えられるけど、将来的には全然読めねぇしな。

 

 

「でもずっと先生の隣にいると言うことは、それすなわちずっと先生にご指導ご鞭撻をいだだけるのでは……? 人生は常に学びですから、先生がお隣にいてくださると心強いです」

「俺は人の人生を導けるほど成熟してねぇよ。それに物理的な距離でずっと近くにいてやれるかは分からない。知ってるだろ?」

「はい。先生はこの学校だけではなく、もっともっとたくさんの人をお助けするヒーローですから。物理的な距離は無理でも、心はずっと隣にいるので心配ありません。むしろ先生が寂しくならないように笑顔でお見送りできるようにします」

「そりゃ頼もしいな」

 

 

 俺と会えなくなるって可能性くらいコイツ、いやコイツらなら覚悟したうえで告白してきているだろう。またいつ次の舞台へ移動するか分からないけど、それでみんなとの絆が途切れることはない。前の事件でスクールアイドルの概念が消えて、俺たちの関係が離れたように見えたあの現象と同じようにな。

 

 

「これで卒業後も先生にご指導いただくお墨付きを得たのは良かったです。先生は私にとって最高の、いえ最上級の指導者ですから」

「言い直したけど違いあんのかよ……」

「最上級の方が地位の高い人のように感じませんか? 先生の性格的に、自分のポジションを他人に持ち上げてもらうのがお好きだと思ったので……」

「よくご存じで。でも過度な誉め言葉は逆に安っぽく聞こえるから、使いどころは弁えるようにな。例え俺のことがどれだけ好きだとしてもさ」

「もちろんです。偉大で大好きな人の株を落とすようなことはしません。そんな方へ少しずつでも近づけるように、これから私も自分のことをもっともっと磨いていこうと思います」

 

 

 恋は俺のことを称えてくれる。それは憧れでもあり好きな人でもあるから。そして自分もそんな相手の隣に立つため、相応しい人間になるためにこれからもっともっと成長していく。さっきは今後も俺の指導が欲しいと言っていたが、恐らく俺がいなくてもコイツは隣で輝き続けられるだろう。

 

 そしていつの日か、同じ教師として本当に同じ舞台に立つときが来るかもしれないな。

 




 恋の個人回ラストまで漕ぎ着けました。
 彼女の立場からすると彼は一人の男性としてはもちろん、教師としての存在も大きかったかなと思います。認められない系の生徒会長を宥めるのは彼の役割とは言え、三年間も一緒にいれば男としても教師としても好きになる存在になるでしょう。


 告白回を連続でやり過ぎて私自身もマンネリになってきたので、次回は別の回にしようと思っています。
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