「なんでこんなところにテントを張ってんだよ……」
決して下ネタではない。今時こんな安直なネタを想像する奴はいないと思うけど。
今日は四季に呼ばれて学校の敷地内の広場にやって来た。
それはいいのだが、広い芝生の上に黒色のテントがひっそりと鎮座。しかも真ん中ではなく端の方に設置してあるものだから、既に夜も更けており敷地内が暗いことも相まってその存在すら気付きにくい。夜の闇の中に黒のテントって、人を呼びつけておきながらこんな分かりにくいところを集合場所にすんなよな……。
どうして校内でテントを張っているのかは不明だが、とりあえず声をかけてみることにする。傍から見ると女子のソロキャンパーをナンパする輩だなこれ。別に俺の立場からして女の子に嫌悪感を抱かれることはないのだが、世間的に問題になっているせいで女の子とコミュニケーションを取る時はいちいちチラつくんだよなそういう話題。
テントに近づいてみる。
特に光は漏れておらず、世界の雑音から切り離されてぽつんと佇んでいる。いかにも四季が好きそうな場所だ。なんとなくだがアイツがテントまで張って俺を呼び出した理由が分かった気がする。
その理由は後でアイツから説明されるから置いておくとして、目的は間違いなく俺たちの中で最近流行りの
そして今回も呼び出し。過去の経験から踏まえるにこれから起こることくらい容易に想像できる。告白が当たり前のようになってる日常ってよく考えなくてもすげぇ話だな。それもう非日常なんじゃないかと思ってしまう。そんなことを言ったら俺の周りに美女美少女ばかり集まってるこの境遇こそ、普通の人にとっての非日常だけど。
「来たぞ。中にいるのか?」
『いる。入ってきて』
相変わらずの低音ボイス。こう言っては申し訳ないが、闇夜に潜むテントからそんな低音が聞こえてきたら何も知らない奴はビビるだろうな。
そんな冗談を心の中で吐露しつつ、遂にテントの中へと侵入する。
「暗い……」
「こういう雰囲気の方が好きだから」
「お前らしいな」
四季はこの孤独感のある物静かな雰囲気を好む。スクールアイドルでは和気藹々としてるからそうは見えないけど、その雰囲気が好きな性格は別のところで発揮されている。
結局コイツが兼部する科学部に人が入ることはなく、この二年間は一人で活動していた。だからと言って悲観することもなく、むしろ一人で趣味に没頭できる場所として使っていたので部員の勧誘はしていない。ある意味でコイツのストレス発散や休憩所みたいになっていた。スクールアイドルなんて陽キャの筆頭みたいな活動をしていながらも、本人は静かで落ち着いた場所の方が好きなので、こういう暗くて雑音が入らない場所こそがホームグラウンドなんだろう。科学部の部室でもよく電気を点けずに謎の実験をしていた。
「とりあえず座ってください。狭いところですけど」
ゆったりとした空間に胡坐をかいて腰を下ろす。
テントの中は小さいテーブルとテント用のヒーター、寝袋に毛布、本が数冊転がっていた。食料も用意してあるので本格的だが本気でここで夜を越すつもりなのだろうか。ランタンもあるけど灯りは最小限で、そりゃ外に光が一切漏れないわけだ。
間もなくしてコーヒーを淹れてくれたので、それを口にしながら本題へと移る。
「聞きたいことがあるって顔をしているので、まずはそれをどうぞ。千本ノックのように捌いていく」
「どうして校内でテントを?」
「キャンプが趣味が故。久々にしたいと思って。でももうすぐ『ラブライブ!』だから遠出をして体調を崩したりするリスクを考え、校内ですることにした」
「きな子や理事長の許可は?」
「きな子ちゃんは情に訴えかければイケる。理事長は適当な人だから」
「学校を率いる生徒会長と理事長がそんなのでいいのかよ……。で、俺をここへ呼び出したのは?」
「想いを伝えるため。二人だけの空間が欲しかった」
淡々とした口調で語ってるけどワイルドすぎるだろ。無口無害そうに見えてやることは意外と大胆だったりする。仲間内だったら冗談にも乗っかるしやんちゃもする。表情も出会った当初は固かったけど、流石にスクールアイドルを二年も続ければ顔の筋肉も柔らかくなる。二年生になってからは部活仲間以外との会話でも色んな表情をするようになった。大胆な行動を取れるようになったのもそのおかげで前向きになれたってのが大きいのだろう。
ただ、コイツがその境地に至れたのは自身のコンプレックスを乗り越えたからだ。Liellaの中でも成長後の行動が目に見えて良く現れている。
そんな中での呼び出し。しかもこんな灯りも乏しい閉鎖空間に。いくら本人が陽キャ寄りに成長しようが自分が好きな雰囲気ってのは変わらないようだ。まあただ校内でテントはどうかとは思うし、それを承諾した生徒会長のきな子と理事長の頭は大丈夫かよとも思うけど。確かにあの二人なら簡単に押し切れそうだな……。
俺からの疑問点を捌いた四季は、しばらくコーヒーを飲みながら黙っていた。体育座りをして雰囲気だけでなく自分も身を縮こませてこじんまりしているため、ムードを作るために形から入るタイプなのかと勘繰ってしまう。ただ科学部御用達の白衣を着たままなのはキャンプの雰囲気にそぐわない気もするが……。
しばしの沈黙。だが呼び出された俺から話すこともないので彼女の動き待ちだ。
暗いテントに流れるのは小型ヒーターが駆動する小さな音、俺たちがコーヒーを啜る音くらいだ。外からの雑音は一切ない。物理的にも雰囲気的にも二人だけの空間。もしかしたらそれを堪能しているのかもしれない。
そんな緩んだ時間が流れる中、思わぬ形で静寂が破られる。
「好きです。彼女にしてください」
いつもと変わらぬ平凡な口調。そのせいで告白されたことに気付くのに多少間が空いてしまった。今告白されたのかと自問自答してしまうくらいに。
もちろんされた。あまりにも唐突だからビビってしまったが、まずは返答するのが先決だろう。
「もちろん。いいよ」
こっちもあっさりとした回答になってしまった。
それに対して四季の反応は――――
「そう、良かった。これで先生とまた一歩特別な関係になれた」
優しい笑みを浮かべていた。
可愛いとは思うが膨れ上がる疑問に邪魔をされて素直な反応ができないでいた。そんな俺を余所にコイツはやり切った感を出してるけど、これほどまでに片方が不完全燃焼で終われるわけねぇだろうが。
「さっき告白、したんだよな……?」
「うん、した」
「にしてはあっさりしてないか? もっとこう、緊張して溜めがあるものかと……」
「そう? これでも覚悟は決めていた。あれが私の告白。緊張は……あまりなかったかも。自分が好きな落ち着いた空間だからかもしれない」
そうか、これが若菜四季なんだ。
これまでの三人の告白は大々的なものだったけど、コイツの性格からしてそんなのは似合わない。一世一代の決意を持っているのは他の奴らと同じだろうが、だからと言って仰々しくやる必要があるわけではない。熱意がより焚きつけられて場も雰囲気も晴れやかになるのがこれまでの通例だったから、あまりにも抑揚がない告白を受けて思わず怯んでしまった。
ただ、これがコイツのやり方。本人からすればこれがロマンティックなのだ。物理的にも雰囲気的にも二人きりの静かな空間で、悠然と想いを伝える。恋愛への情熱があるからと言って気分を盛り上げる必要はなく、むしろこれこそコイツが最も高揚するシチュエーションなのだろう。
その事実を嚙み締めた瞬間、さっきの告白を素直に受け入れることができた。贅沢なことだけど今までたくさんの女の子と想いを繋いできた。でもここまで物静かな告白は初めてだ。もちろんどんな告白であれ俺の恋心が刺激されることに変わりはない。
「先生、いつもの顔に戻った。やっぱりこんなところで告白なんて変だった……?」
「いや、お前しかできない想いの伝え方だったよ」
「あんな単調な言葉でも?」
「伝える方法は言葉だけじゃねぇだろ。場所込み雰囲気込み、あとは相手込みだ。お前だからこそこの方法が成立して、一寸の曇りもない気持ちを伝えられるんだ」
「そう……。そう思ってもらえると頑張って考えた甲斐があった。先生とどう向き合うかずっと思い描いていたから」
このシチュエーションを作り出すために色々と考えていたらしい。確かに夜の校内の敷地にテントを張ってそこに男を呼び出すって常人では中々考えつかないし、それに思いついたとしても実行に移すことはしないだろう。
そして自分はどういった場面で告白したいのかを考えた結果がこれだ。どうせ想いを伝えるなら熱い場面でなくとも自分に合ったムードは欲しいもんな。そして実際に成功したからコイツの発想勝ちだ。
「でもいきなり告白してきたのは驚いたよ。こういう時で前語りや思い出を助走にしてからだと思ってたからさ」
「すぐに言いたかった。先生の驚く顔も見られたからプチドッキリ成功。あ、告白はドッキリじゃなくて本気。本気と書いてマジ」
「分かってるよ」
やはりやんちゃな性格をしている。コイツを外面しか知らない奴が見たらギャップを感じるだろう。
前向きになったのもやんちゃするのも、やはり自分の中で困難を解消できたおかげか。昔は自分の意見を主張することに苦手意識を持っていたけど、今では迷わず結論からド直球に伝えるくらいに成長した。告白でそれが活かしてくるとは思ってなかったけどな。
「そもそも告白をする勇気をくれたのも先生のおかげ。前の私では自分をここまで前面に押し出すなんてできなかったから。スクールアイドルを始める前も、始めた後も、ずっと先生に手を引かれてきた。そして今日、ようやくその手を借りずに初めてあなたと向かい合うことができた。だから満足」
「二年生になってからのお前は十分に一人で歩けてたと思うぞ。ほら、初めてセンターになったことあったろ」
「それは先生やみんなのおかげ。こうして素直に笑えるようになれたからセンターになる決意も固められた。私の表情を柔らかくしてくれたのも先生だから。面白いことを言って笑わせてくれる、カッコいいところを見せつけて見惚れさせてくれる、奇想天外な言動で驚かせてくれる、困っている時は優しく微笑みかけてくれる。先生と一緒にいると自分が自分でなくなるくらいの顔になる。でも、そんなあなたと一緒にいるのが楽しい。そんな興味深いあなたを観察するのが好き。だから好きになった。先生の七変化する姿は私にとって目指すべき象徴だから。一緒にいるのが楽しくて観察もできて、それでいて自分の憧れとしての象徴。これは告白をするしかないと思った」
興味深い観察対象として思われてたのか……。思考がゴリゴリの理系女子って感じだな。
ただ相手に抱く想いは人それぞれ、惚れる理由も誰一人として違う。コイツが俺の表情や言動に魅力を感じて惚れたのであれば、それを好きになる理由にもなろう。でもまさか象徴とまで思われてるとは考えもしなかったけど。教師になってからそれなりにクール系っぽく振舞ってる気もするが、まあ周りに色んな性格の奴らが群がってくるからそりゃ表情も七変化するわな。
更に話によれば俺の自己主張の強さも受け継いだらしい。二年生になった春に部長の千砂都からとある曲のセンターを任された時はかなり戸惑っていた。自己主張が乏しくて基本はサポート役が似合っていると思っていた四季が前のめりになる大きな転換期だったと言える。迷いに迷い紆余曲折あったが、その時はどんな心情の変化でセンターになる決意をしたのか詳しくは聞かなかった。だがそれも俺の生き様を勝手に受け継いだと思えば納得できる。そこまで自分を180度変えてくれた男に出会えたら、自分で言うのもおかしいけど惚れても仕方ないか。
「告白しようとはずっと思ってた。だけど最後の一歩の勇気が出なかった。こればっかりは成長しても緊張する。でも七海先輩の事件を経て決心がついた。先生を失う怖さを知ったからこそ、早く想いを伝えて一緒になろうと思ったから。大切な人を絶対に離さないためにも」
みんな結局それきっかけになるんだな。そう考えると七海のしでかしたことって実は功績だったのではと錯覚してしまう。みんなの背中を押してくれてありがとうってお礼を言わないといけないレベルかもしれない。やり方は強引だったけど、そのおかげで俺との距離感に安心感を覚えていたアイツらのくすぶった心を揺さぶったんだから。強烈な絶望には陥ったけど思い返せばいい刺激になったんじゃないかな。
ま、二度とあんな状況には苛まれたくないだろうけど……。
「これでやるべきことは終わってすっきりしたし、あとは『ラブライブ!』で悔いを残さないだけ」
「もうすぐか。それにしてはゆったりし過ぎなような気がするけど、緊張しても仕方ないしこれくらいがちょうどいいのかもな」
「うん。去年優勝したおかげで緊張はない。ステージで私を魅せる、私が考えているのはただそれだけ」
「自己主張が壊滅的だったお前が自分を魅せる意気込みをするなんてな。目に焼き付けておいてやるよ、お前がステージで披露する百面相」
「変な顔をし過ぎて観客の度肝を抜いてしまうかもしれない」
「それはそれで……楽しみかな」
慎ましい佇まいながらも内に秘める『ラブライブ!』に向ける情熱は燃え盛っている。コンプレックスを乗り越えて好きな相手への告白も終えたので、今の四季は憂いもない完全無欠状態。果たしてステージ上でどんな
四季のラスト個人回でした。
これまでの告白回とは違って静かな雰囲気でしたが、彼女の想いの熱さは他の子たちと変わらず。彼もいつも通りその熱さを受け取りました。
さて次回は誰になるかな……?