ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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兄のように慕い、妹のように恋する

「いらっしゃいませーっ! たこ焼きお持ち帰りですね! 500円になりまーす!」

 

 

 とある街中の広場にて千砂都の元気な声が響き渡る。アイツが接客と注文を取り、裏で店長がたこ焼きを作って渡す華麗なるコンビプレー。時間が経つとそのポジションが入れ替えわり、単調作業で手や気分が鈍らないようにしているっぽい。もう三年間も二人で同じルーティンをしているためか客を捌くスピードも速い。平日の夕方だからか帰宅している人がそれなりに来店するのだが、それでも列を作らせないほどの迅速さでたこ焼きを提供している。ここまで来ると円熟の域だろう。

 

 それで俺はと言うと、千砂都に呼ばれて屋台の側に設置されているベンチに腰をかけていた。どうやらバイトが終わったら話があるとのことで、この流れは誰もがお察しのこと十中八九あのことだろう。

 ただバイト場所に呼びつけるなんておかしな話だ。昨日の四季も大概だったがここは逆に人通りが多い。まさかこんなところで告白されるのだろうか。俺は別にいいけど、恥ずかしくないのかアイツ……。

 

 そんなことを考えながらたこ焼きを食いつつ千砂都の働きっぷりを見る。ちなみに店長の好意もあって無料だ。何故か金を払わされたありあ&マルガレーテのスペシャルパフェの時とは待遇の差が天と地との差。しかも向こうのはやたらと高かったし……いや高かったからこそ無料にできないのか。なんにせよタダよりありがたいものはない。

 

 

「あっ、また来てくれたんですね! えっ、この子って4月から小学生でしたっけ? いやぁ~2年前に初めて来たときは凄く小さかったのに、時が経つのは早いなぁ~」

 

 

 お母さんとその娘らしき親子と親し気に会話をしている。

 アイツのバイトの様子は何回か見たことがあるが、元々人当たりのいい性格も相まってか接客が(ほが)らかで笑顔が絶えない。そのおかげで彼女目的で来るリピーターもいるほど。店長もアイツをバイトとして雇ったのは大正解だと嬉しく語るくらいだ。

 

 バイト以外でもいつも元気いっぱいで、周りを巻き込む行動力と部長として人を率いるカリスマ、戦略的な考えが得意な知性も兼ね備えている。頼りになる存在ながらもその小柄な身体と明るい笑顔を見ると子供のように純粋無垢で、たまにアイツのことを妹みたいに思ってしまうことがある。まあそんなことを言ったら俺の本物の妹が黙っちゃいないだろうけど……。

 

 しばらくしてエプロンを外した千砂都が屋台から出てきた。どうやらバイトが終わったようだ。ただまだ閉店時間ではないようだがいいのだろうか。

 

 

「お待たせしました!」

「もう終わったのか? 営業時間っていつまでだっけ」

「今日はこの時間までって店長に頼んでいたんです。だって先生と一緒にいる時間が減っちゃうじゃないですか」

「だったらバイトがない日にすればいいのに」

「バイト姿も見て欲しかったんですよ。先生には私の色んな姿を見てもらいたいし、それに高校卒業を期に辞めちゃいますからね、このバイト」

 

 

 その話は前に聞いていた。大学がこことは離れてしまうから仕方ない。

 ただわざわざバイトの時間に俺を呼んだ理由が分かった。コイツは俺に自分を見てもらうのが好きだ。スクールアイドルをやっている自分も、ダンスをしている自分も、バイトをしている自分も何かも。コイツは同級生の他の4人と比べたら最初からある程度は積極的な性格で、その性が惜しみなく発揮されている。

 しかし、俺に見てもらいたい理由は俺自身も知らない。元から人懐っこい性格をしているからか、ダンスの経験で人目で評価されることを常日頃から望んでいるのか。もしかしたら今日はその理由も聞けるかもしれない。

 

 

「ちょっと移動しましょうか」

「なんだ? やっぱり恥ずかしいのか?」

「そりゃそうですよ! ていうか私の話したいこと分かってますよねその反応……」

「まあな。こういうことには慣れてる」

「うわぁ強者男性のセリフだ……。慣れてるのはいいですけど、事務的にはならないでくださいね。これでも緊張はしてるんですから」

「大丈夫。受け入れ態勢は万全だよ」

 

 

 千砂都は口を尖らせるが、想いを伝えようと意気込んでる奴の出鼻を挫いたりはしない。 

 ただ事務的か……。ちょっと思うところはあるのだが今はそんな雑念を抱いている場合ではない。目の前にいるコイツだけに集中しよう。

 

 そして俺たちは屋台から少し離れたベンチへと移動した。

 ただここも全く人通りがないわけではないので、俺たちみたいにな年頃の男女が横並びで密着しそうなくらいの幅で座っていたら確実に勘繰られるだろう。だから状況はあまり変わってない気もするが、結局はコイツの捉え方次第なのでコイツが良ければそれでいい。

 

 

「とりあえず、バイト終わりの一杯を飲んでいいですか? ダメと言われても飲みますけど」

「仕事終わりのビールみたいに言うなよ……」

「水ですから大丈夫ですよ!」

 

 

 千砂都はカバンから新品のペットボトルを取り出し、唇をつけて一気に胃へと流し込む。

 ただ勢いがあったのかペットボトルの口から少し水が漏れ出す。

 

 

「お前って割と子供っぽいよな。ほら、ハンカチ」

「え~? そこは拭いてくれる場面じゃないですか~?」

「なにガキみたいなこと言ってんだ。これがもうすぐ高校卒業する奴の姿かよ。しかも三年間も部長してるくせに、威厳が台無しだ」

「こんな姿は先生にしか見せないですよ。なんか甘えたくなっちゃうんですよね。あっ、もちろん他の人にはこんなこと絶対にしないですよ!」

「じゃあ俺はナメられてるってことかよ」

「むぐっ!! ぷはっ! もうっ、急にハンカチで押さえつけないでください! って、ナメてはないです決して!」

 

 

 ダンスに真剣な姿や部活で部長としてみんなを指導しているところとかはカッコいいのに、どうして俺と二人きりになるとこうも子供っぽくなるかねぇ。それだけ俺に心を許しているのか。普段は頼り甲斐がある大人っぽいのに、この幼さを見ると本当に妹キャラっぽいなコイツ。

 

 

「ふ~……。でもこうやってハメも外したくなりますよ。そんな姿を容赦なく見せられるのは先生だけです。だってお兄ちゃんっぽいんですもん、先生って」

 

 

 マジか。まさかコイツも同じことを思っていたとは。もう疑似兄妹みたいになってるじゃねぇか。

 

 

「もちろん教師としても尊敬していますよ。ダンスとスクールアイドルどちらをやるかで迷っていた時を始めとして、部長としての悩みとか将来のこととか色々相談に乗ってもらいましたから。でもそうやって接していくうちに、いつの間にか『お兄ちゃん』って感じが強くなっていったんだと思います。だってほら、普通の教師ならわざわざダンス大会なんて見に来ませんよ。だってダンスはあくまで個人でやってること。まあ先生の勧めで学校の推薦は借りましたけど、それでもあそこまで親身になってくれる人は家族以外にいませんでした。だからイコール先生は家族、年齢を考えると私のお兄ちゃん……みたいな??」

「確かに。教師に対する態度じゃねぇもんなお前のコミュニケーション。まあ辛うじて敬語だけは残ってるけど」

「これも先生に対してだけですよ。困っている時のアドバイスに忖度も容赦もなし、でも所々に優しさがあって、私が悩んでいる時や重要な場面では必ず駆けつけてくれる。まさに私が理想としているお兄ちゃんです!」

 

 

 千砂都は無邪気に微笑む。

 コイツの俺への対応が他の奴らと違うことは知ってたけど、まさか兄のように慕われているとは思わなかった。ただ俺がコイツのことを妹のようだと思っていたってことはその逆も然り。しかも俺自身に実妹がいるから兄ムーヴが板についているのだろう。だから兄のように見られても不思議ではないか。

 

 

「そんな自分の思い描く最高の男性が近くにいて、そりゃ好きにならないはずがないってことですよ。だからつい甘えちゃうんです。でも先生はそんな私にも面倒くさがらずに応えてくれる。どんな時でも隣にいてくれる。笑顔にさせてくれる。そんな安心感が兄のようで、私は妹のように恋をしてしまいました。でも本当の兄妹じゃない。だから言える――――」

 

 

 一呼吸置く。

 そして、俺の目を改めて見つめ直す。

 

 

「あなたのことがずっと好きでした。これまで以上に一緒に、今度からは心でも隣に居続けたいです。兄のような優しさ、教師としての頼もしさ、零さん個人としての逞しさ。どれもが大好きで、どれもずっと感じていたい」

 

 

 自然な流れでの告白。

 知略に富んだ思考の持ち主らしく、あらゆる側面の俺を評価して好きの勘定に加える。ここまで多角的な視点での告白はコイツだからこそできるのだろう。学校では教師として、ダンスレッスンのようなプライベートでは兄として、恋愛ではそれをひっくるめた神崎零自身として好きになった。紛うことなき俺を網羅した上での告白。相手のことを隅々まで知って、しかも自分の好みの男性と運命的なほどマッチしているからこそ好きになり、心を許して甘えたくなるのかもしれない。その隙を見せてもいいほどに相手を知り尽くしているから。

 

 

「一年生の頃からずっと好きでした。だから先生に何かを相談しに行く時、世間話をする時、とにかくお話しできるタイミングが訪れる時は毎回心を躍らせていたんです。多分それって恋心の高鳴りだったんだと思います。理想の兄を具現化したような先生に、ちょっと甘えた感じで相談したりお話ししたりする。卒業を期に改められる関係ではありますが、今後もそんな幸せをずっと続けられたらいいな……と」

 

 

 兄妹のような温もりをずっと感じていたい。同時に恋人の熱い繋がりも欲しい。強欲だが二兎を追う者は二兎とも取る俺の信念を真似ているのか。やはり俺のことを隅々まで理解している。

 曝け出された彼女の本音。一年生の頃は自分の本心を溜め込みがちで、スクールアイドルを手伝いながらも自分は一歩引くという微妙な立ち位置だったこともあった。あの頃と比べたら自分の気持ちを惜しみなく、しかもちゃっかり欲望に塗れた状態で吐露できるんだからコイツも成長した。

 

 そんな暖かい想いを告げられたら、こちらからの返答はもう決まっている。

 

 

「あぁ。続けさせてやるよ、その幸せ。俺の隣にいる限り、ずっとな」

「先生らしい自信満々の応えですね。やはりそう来ましたか」

「なに? もしかして図られたのか俺」

「もちろんそんなことは! 先生なら絶対にOKしてくれると思ってただけです。ただ、実際に返答を貰うとのがこれほど嬉しいことだなんて……」

 

 

 言葉にできないほどの幸福に包まれる千砂都。頬がゆるゆるになって表情筋が解れ過ぎているため痛快、と言った方がいいだろうか。

 なんにせよ『ラブライブ!』前に気分は絶好調って感じだな。他の奴らももちろん自分の想いを伝えて肩の荷が下りているだろうが、部長のコイツが前向きであれば他の連中もそれに追随して高揚するに違いない。今も幸せなのに更なる幸せを求め、更に兄弟のような関係を保ちつつ恋人になりたいという欲深さ。そんな俺と同じ手で前向きになるだなんて、これも兄妹っぽく性格は似るってやつか?

 

 

「というか、先生ってあまり反応が変わらないですよね。女の子として告白は最大級のイベントなのに、先生はテンションがそのままと言うか……。やっぱり慣れてます?」

「あぁ慣れてるよ。だからと言って惰性でいるわけでは……ないか」

「なんでちょっと間があったんですか……。まあいいや、そっちの方が先生っぽいし」

 

 

 女の子からの告白を事務的に流したりはしていない。一人一人の想いにしっかりと感銘を受けている。ただここまで連日連続で告白されるなんて今までなかったから、それで自分の気付かないところで非日常を感じているのかもしれない。

 

 

「そうだ!」

「なんだいきなり大声出して……」

「試しに一回だけ『お兄ちゃん』って呼んでもいいですか? あっ、でも本当の妹さんがいるのでダメですかね……?」

「いいんじゃね。(アイツ)にバレなければ」

「そう、ですか……。じゃあ――――」

 

 

 千砂都は深呼吸を二回する。

 なんか告白よりも緊張してないか……? 緊張感も今の方が張り詰めてるっつうか、コイツにとってこっちの方が本題のような気がしてならない。

 

 そしてまた改めて俺の目を見直す。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 

 とんでもない笑顔からの『お兄ちゃん』呼び。思わず頬が熱くなりそう、てか多分熱くなっている。告白を受けた時よりも衝撃的なのは、やっぱり妹っぽい奴から『お兄ちゃん』呼びされることが好きだからだろうか。学生時代は俺を兄扱いする奴らは多かったけど、今となってはソイツらも大人になってそう扱われることはあまりなくなった。だからこそパっと見で幼く見えるコイツの『お兄ちゃん』呼びは効く。特段妹萌えではないのだが、なまじ実妹と歪な関係だからこそ妹キャラに対して一定の熱量があるのは間違いない。

 

 つうかこの歳になっても癖ってのは変わらないんだな。安心していいのか危機感を覚えた方がいいのか……。

 ま、コイツが満足そうにしてるからそれでいいか。

 

 

「なんと言いますか、イイですねこの呼び方! 言ってる自分が言うのもおかしいですけど!」

「いいかもしれねぇけどこれっきりにしておけ。慣れちゃうと日常生活でもついうっかり呼んじまうぞ。それに(アイツ)にバレた時の反応とか想像したくもねぇ」

「あはは、ですよね。じゃあ二人きりの時だけ、ここぞって時にまた妹にならせてください」

 

 

 最初に妹っぽいって勝手に思ってただけなのに、まさか本当にロールプレイをする段階になるとは……。

 ただこういったプレイができるのも想いを伝え合った者同士だからかもしれない。だって教師と生徒って関係だけで兄妹プレイをするなんて、むしろ俺の方が自分自身を冷ややかな目で見てしまいそうだからな……。

 

 

「にしても、妹になったり恋人になったり大変だな」

「ダンスとスクールアイドルどちらを取るか迷ってた時、どっちもやれと言ったのは先生ですよ? だからこれから二者択一で迷ったらどっちも取りますよ。そういう風に指導してきたのはそちらですから。私をこんな欲深い性格にした責任、取ってくださいね。お兄ちゃん先生♪」

「呼び方まで欲張りセットやめろ……」

 

 

 こう見えて計算高い千砂都。ちょくちょく俺の癖にチクチクと刺してくるのは狙ってるのか……? あまりこのロールプレイに付き合うと俺まで没頭しそうになるから警戒しないとな……。

 

 そんな感じでコイツの告白の最後はふざけ合って終わってしまった。

 でもコイツの場合は無邪気で無垢な笑顔が似合うからこれでいいのかもしれない。綺麗な笑顔は『ラブライブ!』の決勝で拝ませてもらうとするか。

 




 千砂都のラスト個人回でした。
 Liellaの中で妹キャラっぽいのは誰かと聞かれたら、三年生だけど千砂都か可可かどちらかかなぁと勝手に妄想していました(笑)
 アニメ一期の頃は本心を隠したがる傾向にあった彼女も、今では兄妹プレイをするくらいにまで本音と欲望を解放させるくらいに成長しました。これを成長と言っていいのか疑問ではありますが(笑)


 さて、Liella編の第三章も残り話数について、おおよその目途が立ちました。
 Liellaのキャラで章立てになるのはこれで最後になると思われるので、最後にしっかり締めたいところです。
 残り書くことが確定しているのは以下で、どの順番で投稿するかは未定です。告白回が連打されてマンネリ化しないようにはするつもりです。
《メイン個人回》
 かのん、可可、きな子、夏美、マルガレーテ、冬毬
《サブキャラ回》
 楓、Sunny Passion、七海

 あと2か月ほどで完結見込み。最後までお付き合い頂けると嬉しいです!
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