ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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※今回はラブライブ原作キャラは登場しません。あらかじめご承知おきください。



告白され"疲れ"に癒しのリフレ!?

 千砂都と別れて帰路に就く。

 お互いの気持ちを確かめ合ってから結構話込んでしまったからか、夜も晩飯時を過ぎていい時間となっていた。街中はまだ人が多かったが住宅街はかなり静かだ。ほとんどの人は今頃自分の家で一日の疲れを癒していることだろう。

 各住宅の窓から漏れる光や街灯の灯りが照らす道を歩く。雰囲気は物寂しい感じだが、考え事をするにはこの静寂はむしろ集中できる。胸につっかえている違和感を取り除くためにも一人で没頭できる時間が欲しかったからちょうどいい。

 

 気になっているのは、俺が告白に慣れてしまっていることだ。いやそれ自体は別にいい。むしろこれまでの人生で何十回もされていることだ、慣れてない方がおかしいだろう。

 考え事をしている最もな原因は、慣れ過ぎているが故に女の子からの告白を受け止め切れているのかって話だ。もちろん一人一人の想いはしっかり受け取っているはずだし、気になっているからと言って俺自身がアイツらの気持ちを軽んじているとか、そんなことは決してない。それは断言できる。

 

 ただ、アイツらから呼び出されて告白されるなって察した瞬間に『また告白の時間だ』とか『今度はコイツと向き合う時が来た』と思ってしまう。なんかこう、もっと自然に心構えができないのかな、と。四季や千砂都に『慣れてます?』って聞かれるくらいだし、もしかしたら俺の余裕過ぎる態度が目に見える形で出ていたのかもしれない。別に本人たちはそんな俺に対して告白したことを後悔するわけでもなく、逆に『それこそ先生らしい』と言ってくれたからアイツらは何も思ってないはず。つまり俺だけが勝手に気になっているだけだ。

 

 くだらねぇこと一人で考えてるなと思いつつ、ただ胸に一本の極小さな針が刺さっている違和感は拭えない。痛いわけでも悩んでいるわけでもなく、単に気になっているだけだ。Liellaで俺に想いを伝えてくれた子はこれまでで5人。残り6人を相手にこの気持ち悪い腑に落ちなさを持ったままでいいのかと考え、何か解決方法を探したいんだ。誰かに相談するか?

 

 とは言いつつ、たくさんの女の子から告白を受け慣れすぎて新鮮味が薄くなってるなんて、どこの誰が共感してくれるんだよって話だ。俺の立場を俺以上に理解しているような奴で、俺の性格から表裏の思考まで読みつくせるような奴じゃないと。そんな奴がどこに――――

 

 そんなことを考えながら家に着いたので玄関のドアを開ける。

 

 

「お帰り――――お兄ちゃん!」

 

 

 いた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ほぇ~贅沢な違和感だねぇ~」

「はは、言われると思った……」

 

 

 晩飯を食いながら自分の抱く違和感を口に出して見ると、楓は感嘆を漏らした。

 

 神崎楓。俺の二つ下の妹だ。

 一言でいえば、勉強家事スポーツ万能スタイル抜群超美少女ブラコン妹ってところか。一言で言えねぇから無理矢理属性をくっ付けたけど、あまりにもパーフェクト過ぎるだろコイツ。

 元μ'sのメンバーでもあり、その容姿端麗さはすれ違えば誰もが振り返るほど。何千年に一度の美少女と称され、安易に目を向ければあまりの容貌の眩さに視力がなくなるとまで言われている。

 

 ちなみにコイツは昨年度に大学を卒業しているが、特に定職には就いてない。希望は俺の専業主婦。兄妹だけど恋人という歪な関係を高校時代に交わして、それ以来ずっと夢見てた職業らしい。なんともブラコンのコイツらしいが、全く仕事をしていないわけではなく、その容姿端麗さ故に数多の業界から様々なオファーが来ている。ファッション、美容、グルメ、料理や家事と言ったライフスタイルなど主に女性向けの宣伝の顔として出演することが多い。もちろん本人にやる気はないが、家にいるだけでは暇なので小遣い稼ぎで引き受けているそうだ。そんな感じなので仕事はコイツが選び放題であり、かつ小遣いとは言えないほど稼いでいる。俺なんかよりもよっぽど……って、悲しくなるからやめよう。

 

 話を戻すと、コイツなら俺のことを隅から隅まで知り尽くしている。それどころかジョハリの窓、俺自身の知らない自分をコイツなら完璧に理解している。悩みってほど大したものじゃないけど、ちょっと胸のつっかえがあるどうでもいいことを話す相手としてはピッタリだ。

 

 

「そんなことに違和感を抱く男なんて、世界中を探してもお兄ちゃんだけだよ。そして、それを分かってあげられるのも世界中で私だけ。兄妹だからね」

「じゃあお前がこのつっかえを外してくれるのか?」

「そのために私を頼ったんでしょ? 任せておいて。妹ってのはね、お兄ちゃんのストレス発散のために存在してるんだよ。その役目を全うしてあげる」

「嬉しいけど、とりあえず全世界の妹に謝っとけ……」

 

 

 別に俺が恒常的にDVをしているとかではなく、単にコイツがブラコン脳なだけだ。生きる意味が兄のため、自分の存在価値は兄によって決まると本気で思い込んでいるヤバい奴。マルガレーテや七海もそうだし、どうしてこうも人生観が狂ってる奴らが俺の周りに集まるかねぇ。まあ裏を返せばそれだけ慕ってくれてるって意味だからいいんだけどさ。

 

 自分の役目を果たせることに対して既に満足そうな楓。もしかして俺の抱く違和感を一撃で吹き飛ばす効果的な策を思い付いたのだろうか。

 

 

「よしっ、食べ終わったらお風呂に入ろう! 一緒に!」

「はぁ? なんで?」

「お兄ちゃんはね、疲れてるんだよ。日々の告白ラッシュに知らず知らずのうちに緊張が高まっている。もちろんお兄ちゃんのことだから女の子からの想いはないがしろにしない。それは分かってる。でもね、たまにはな~んにも考えずに休息するってのも重要なんだよ。だってほら、どうせ明日はこの子の告白、次はこの子って次から次へと予定が埋まってるでしょ? お兄ちゃんは告白慣れしてるだろうけど、心の疲労ってのは自覚しにくいの」

「まあそうかもしれねぇけど、それでどうして一緒に入ることに繋がるんだよ……」

「妹リフレってやつかな。言ったでしょ、お兄ちゃんのストレス発散は妹の役目だって。裸で開放的になりながらもぼぉ~っと妹と時を過ごせば、いつの間にか疲労なんてなくなってるから」

「お前が一緒に入りたいだけなんじゃねぇのか……」

「あはは、それもある! でも一番の目的は癒しだから! リフレってやつ?」

 

 

 上手いこと自分の欲望まで絡めてくるなんて抜け目のない奴め。

 ただコイツの言っていることは一理ある。もちろんみんなからの想いは一人一人大切に受け止めてはいるものの、心のどこかで受け止めることを義務に感じていたのかもしれない。自然に心構えで来ていなかったのも頷ける。

 

 ま、ここらでゆっくり一服してもいいかもしれないな。アイツらと向き合うのに余計な思考に乱されないようにしたい。俺の意識が100%アイツらに集中できるようにしないと。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 場所は変わって風呂の湯舟の中。楓は俺に背を向ける形で混浴する。

 なんか普通に受け入れてるけど、これが休息になるのは俺たちくらいな気がする。エロ同人とかならここから一線を超える展開があるのだが、俺たちはとっくの昔に越えていて混浴も日常茶飯事ではないが全くないこともないため、このフォーメーションでの入浴が休息になるくらい普通になっているのが常識外れ過ぎる。一般的な展開だったら兄か妹のどちらかが発情するのだろうが、お互いに至って冷静でいられるのが俺たち兄妹の異常なところだ。

 

 ちなみにポジションの都合上で髪を結っている楓の頭が目の前にあるのだが、うなじがこれでもかってくらい晒されている。全裸美少女のうなじなんて他の男が見たら一発で血を噴いて倒れちゃうぞ。湯が入浴剤で着色しているせいで肝心の裸は見えないけどな。

 

 

「なんか久しぶりだね一緒に入るの」

「そりゃ俺たちもう社会人なんだぞ。今でも兄妹で混浴する方がおかしいだろ」

「なに? たくさんのオンナと裸の付き合いをしてるくせに恥ずかしいの?」

「んなわけねぇだろ。お前はどうなんだよ」

「あのねぇ、私たちはもう二十歳越えで思春期じゃないんだよ。今更お兄ちゃんの裸を見て興奮するような低俗なオンナじゃないって」

 

 

 まあ俺もコイツもお互いで卑猥な妄想をしてた時代もあったし、それを考えると何の下劣な欲もなく混浴しているのは成長の証かもしれない。二十歳越えで兄弟で混浴してる時点で逆に何も変わってないのかもしれないけど……。

 

 ただ、コイツと一緒だと安心感が全身に流れてくる。いつも見ている顔、聞いている声、感じている温もりだからだろうか。もうこうしているだけでもさっきの違和感がどうでもいいことのように流せてしまいそうだ。

 

 

「それにしても告白され過ぎて流れ作業に感じちゃいそうだって、相変わらずどれだけのオンナを手籠めにすれば気が済むの。虹ヶ先の件で女の子の愛を受け止めるキャパが広がったのが影響してるんじゃない? 器が大きくなったからってその分だけ詰め込んでいいわけないでしょ」

「今も昔も好きでやってるわけじゃない。それにキャパが限界を迎えてたのも俺の(あずか)り知らぬところだったし、あの時はマジで死にそうだったんだぞ」

「あの時こそ私に相談がなかったこと、今でも怒ってるからね。キスなんて私が何回もしてあげたのに」

「回数じゃなくて人数が必要だったんだよ。まあお前に心配をかけたくないから黙ってたってのもあるけどさ」

 

 

 大学生時代に女の子の愛を受け止めるキャパが限界を迎えて俺の身体が爆発四散しそうになる事件があった。それを解決するためには女の子たちとキスをする必要があったのだが、どうやらその輪に入れてもらえなかったことにご立腹だった様子。全てが解決した後に事の顛末を打ち明けたのだが、その時は珍しくガチでキレられた。俺も秋葉も心配をかけぬよう黙っていたのだが、俺もコイツと同じ立場になれば怒る気がするので気持ちは凄く分かる。

 

 つまりは俺のことをそこまで心配してくれてるってことだ。自分のことをそれだけ見守ってくれている奴とこうして混浴で世間話をする。それだけで癒しになるのかもしれない。

 

 

「怒るって言えば、お前いつの間にか俺が他の女の子と仲良くなっても嫌味を言わなくなったよな」

「そりゃもう大人だもん。メスガキ相手に張り合ってどうすんのって話。それに教師と生徒なんて枷をハメたまま恋愛するなんて、そんな窮屈に耐えられないね私は」

「兄妹っつう一番の枷をハメてる奴が何言ってんだ……」

「それはデバフじゃない、バフですぅ~。バチバチに背徳性を感じるからこその興奮じゃん」

「背徳って言ってる時点で後ろめたいことだって分かってんじゃねぇか……」

 

 

 兄妹ってものに対する倫理観の無さは相変わらずだ。俺に告白する前はその関係性に対して悩みに悩んでいたが、俺が兄妹でも恋人になったっていいって力説してから全ての(たが)が外れた。そう考えるとコイツは真っ当な倫理観を持っていたけど、それをぶち壊したのは俺のせいってことか? じゃあ俺にツッコミを入れる権利はないのでは……? これをコイツに話したら確実に煽られるので黙っておこう。

 

 

「大人になったからこそ、そんなちっぽけなことでわざわざ怒らないってことだよ。まあ何の前触れもなしにお兄ちゃんが私の前から消えるようなことがあれば話は別だけど」

「んなことねぇよ。秋葉が余計なことをしない限りはな」

「お姉ちゃん今年はずっと海外だから平和も平和だよねぇ。なんか幼児化させる薬を作ってるみたいな話をしてたけど、私たちには関係ないか」

「だといいんだけどな」

「お兄ちゃんがお姉ちゃんに連れ去られたら、私が薙刀持って助けに行くからね」

「物騒過ぎるから正攻法で来てくれ……」

 

 

 その薬は以前に使われたけどな。すみれの妹に会った時に。

 でもそれ以来アイツの薬で事件に陥ったことはない。あくまで薬なだけで変な発明品の被害はたくさんあったけど……って、ただフラグのような気がしてならないから心の中で言及することすらやめておこう。ガキの姿にされたら抵抗できないし、それでどこかへ連行されて逃げる隙もないとかアイツを関わってたらあり得ない未来じゃないからな。

 

 そんな世間話を繰り広げる中、俺に背を向けていた楓は突然反転して俺と向き合った。

 湯に二つの半球が浮いている。ギリギリ先端は見えないが、その浮き具合で分かる大きさに目を奪われそうになるも、こっちをじっと見つめる視線から逃れることはできずにこちらも見つめ返した。

 

 

「いきなりどうした?」

「うん、いつもの顔に戻ってる。帰って来た時は少し辛気臭い顔してたからね、戻って良かった」

「そうか。お前とただ駄弁ってただけなのに不思議だな。いやお前だからこそか」

「そうそう。妹の私にしかできないことだよ」

 

 

 特に何か解決方法が提示されたわけではない。ただ腑に落ちないことが『まあいいか』で済ませられるようになったのは、やはり考え過ぎていただけという単純な原因が故かもしれない。別にいつも楓と人並みには会話してるけど、ここまで一緒に、しかもこれほど密着することは久々だったからそれこそ『癒し』を貰ったのだろう。

 

 

「どうだった妹リフレは?」

「淫語みたいだなそれ……」

「ふふっ、じゃあ今晩はお兄ちゃんと一緒に寝るね」

「えっ、そこまでやるのか……」

「言ったでしょ。兄のストレス発散は妹の役目だって。徹底してやってあげるよ」

 

 

 笑顔を向ける楓。

 その顔を見られただけでも全ての憂いは吹き飛ぶが、ここはコイツに任せてみよう。流れでベッドで脱がされるとか……ないよな??

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 今晩は楓とずっと一緒にいた。寝る前も俺の部屋でくだらない話を語り尽くし、いつの間にか就寝時間となる。

 灯りを消してお互いに一つのベッドに入る。一緒に寝るのも久しぶりだ。冬のベッドって入る時に冷たくて寒さを感じるのに、コイツが引っ付いてくるからかその温もりで寒さはかき消された。

 

 消灯したしこのまま寝ようと思った矢先、楓に顔を掴まれて強制的に横へ向けさせられる。そして間近でお互いに向き合う形となった。どうやらもっと話をしたい模様。あれだけ喋ったのにまだ語ってないことがあるのか。

 

 

「どう? 告白され『疲れ』は取れた?」

「言っておくけど俺は疲れちゃいねぇよ。アイツらと向き合う時は純度100%の本気で疲れなんて感じてない。ただその前段、心構えで余計な思考が邪魔をするだけだ。向き合う時はちゃんとそれを振り払ってるよ。だからアイツらの気持ちを受け止めそこなってはいない」

「大丈夫、そこまで熱くならなくても分かってるよ。妹だもん」

 

 

 飯を食ってる時や混浴している時の明るい笑顔とは違う、優しい微笑みを俺に向ける。消灯された部屋のベッドの中という無音のゆったりとした雰囲気に合っている。こういうさりげない振舞いができるのも流石だが、これも俺を癒す目的を果たすためにコイツが人生の中で自然に身に着けたことだろう。これまでも一緒にベッドインする時は活発な妹キャラから慎ましいキャラになることが多かった。

 

 しばらく沈黙が流れた後、楓は続ける。

 

 

「私ね、自分をお兄ちゃんの癒しスポットだと思ってるの。お兄ちゃんの帰る場所、それが私」

「帰る場所?」

 

 

 いきなり包容力が生まれて一気に包み込まれた感じがする。

 楓はそのまま続ける。

 

 

「うん。私にとってお兄ちゃんは最強のお兄ちゃんだよ? でもこの世に完璧はない。だって最強なのにあんな些細でどうでもいいことに思考回路を奪われちゃうんだから。それ以外にも教師としてのストレスや女の子たちとの出会い、悩みの解決、恋愛、たくさんの子たちとのコミュニケーションがある。お兄ちゃんは疲れてるとか思ってないし、実際にそうかもしれない。でもね、それでも人間は誰しも休息と癒しが必要なんだよ。だから私がお兄ちゃんにそれを与えてあげるの。どんなことがあったとしても、一日の最後には帰ってくる場所。どんな疲れもストレスも癒してあげられる、そんな場所。これまでもずっとそれになってたつもりだけど、これからはもっとそうなりたいな」

 

 

 母性が滴るほどの微笑み。

 コイツと話して安堵できた理由が分かった気がする。俺にとっての日常の象徴だったからだ。外に出ればたくさんの女の子たと会い、関係も大きく進展する。もちろんそれは嬉しいことで、女の子から好意を向けられることはむしろ自尊心が上がるためストレスなんて感じることはない。

 ただその人数は増え続けるばかりで、当然周りの環境も変化していく。もうすぐかのんたちが卒業することもそうだし、皆からの告白を受け続けて関係性が進むのもそうだ。環境が変われば誰もが少なからず緊張もするし、緊張すれば目に見えない疲労も溜まる。しかも俺の場合は事件に巻き込まれ体質だし、女の子の悩みを受けて解決に勤しむこともある。それが日常化しているので自分に緊張が蓄積していることも忘れてしまう。そのせいで溜まったいた緊張感が俺に自然な振舞いをさせぬよう妨害していたのかもしれない。

 

 そして、楓はそれを解消してくれる存在だ。

 帰る場所。激動する環境の中で、唯一変わらない場所。

 

 

「私の幸せはお兄ちゃんの幸せなの。だから毎日お兄ちゃんが家に帰って来た時、おかえりって言うとお兄ちゃんが安心した顔でただいまって言ってくれる。そのやり取りが何より大好きなんだから。どんなことがあったとしても私だけは変わらない。お兄ちゃんにとっての安らぎの居場所。だからお兄ちゃんはお兄ちゃんのやりたいようにやればいいんだよ。ちょっとくらい悩んだっていい。帰ってきたら溜めに溜め込んだ疲れも憂いも何もかも、私が全部癒してあげるからね」

 

 

 これからも俺は様々な環境に身を投じるだろう。結ヶ丘にいるのもそう長くはない可能性がある。主に秋葉が人助けが必要なところへ強制的に連行しやがるのだが、だからこそ心の安寧が保てる場所、回復ができるスポットが必要だ。

 それがまさにここ。楓という存在がいるから外で思うがままに振る舞い、無茶をすることだってできる。知らず知らずのうちに溜まった悪玉をコイツが全て浄化してくれるから。

 

 帰る場所。いい響きだ。当たり前のことだけど言葉にされないと実感しないものの筆頭だな。

 

 

「そうか。そこまでして俺を待っていてくれるのなら這ってでも帰ってこないとな」

「そうそう。妹の手料理に混浴、そして添い寝。それで全てのストレスを発散させてあげるから。なんならエッチなことでもいいよ?」

「せっかくいい話だったのにお前なぁ……」

「あははっ! もう言いたいことも言えたし、じゃあもう寝よっか」

 

 

 今晩はいつもより安眠できた気がする。そういや最近は寝る前も『明日はコイツと会う約束があるから告白あるだろうな』とか考えることが多かった。もちろん面倒なんて微塵も思ってないけど、やはりどこかで新鮮味が多少薄まっていたのだろう。多分これからも同じことを考えるだろうけど、それはそれでもういいかと流してしまえるようになった。どのみちいつもの俺でいることが自然なことなんだから。アイツらもそれが分かっている。本当にどうでもいいことだった。悩みですらない。なのに一人で勝手に、盲目的な違和感を抱いていたのも目に見えない疲労ってやつなのかもな。

 

 そして、そう思えたのは今晩コイツとずっといたおかげだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌朝。通勤のため玄関へ。靴紐を縛っていざ出かけようとした矢先、楓のいつもの一言。

 

 

「いってらっしゃい! 今日も頑張って!」

 

 

 太陽のような笑顔でお見送り。天気の良い朝にはピッタリの表情だ。

 この笑顔を見て、今日も俺のやるべきことを全力で成し遂げ、絶対にここへ帰って来るんだと心に決めた。

 

 

 

 

 

 




 各章に一回は登場ノルマがある妹の楓の回でした。
 あまりにもお兄ちゃん大好きな出来過ぎた妹キャラで兄の帰る場所。だからこそ蓮ノ空編で彼が勝手に連れ去られたと知った彼女があそこまでの暴挙に出た、その理由が分かる気がします(笑)
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