「ぬぉ~~んっ! プチ炎上しちゃってますの~っ!」
「なんだよいきなり……」
夏美に話があるって中庭に呼ばれてみれば、いきなり嘆いて叫んで
「動画のコメントやSNSに、少量ですが男の影があると噂されてますの……。これは、これは――――有名インフルエンサーにありがちな彼氏疑惑をかけられていますの! それつまり、私も――――超有名になったってことですの!」
「泣くのか喜んでんのかどっちだよ……」
「有名になれた喜びと、こんな大切な時期にあらぬ疑いをかけられてる心配の両方で……。感情がぐっちゃぐちゃですの!」
相変わらず表情変化が忙しい奴だ。瞬きするたびに表情が変わるくらいに豊かだから、表情筋の解れ具合はLiella随一だろう。そういや四季が言ってたな、自分の表情の堅さを克服するために夏美を見て勉強してるって。
それはさて置き、悩みの種が何なのかと思えば至極どうでもいいことだった。まあコイツの場合はようやく名が知られ始めたくらいだし、実際に自分が炎上の元になっていると考えると取り乱すのは無理もないだろう。
「先生のことを私の彼氏だと思ってる人が何人かいるみたいで、その人たちが話題に出していましたの。スクールアイドルなのに熱愛発覚かって……」
「別に女子の部活に男が顧問をするなんて、運動部では良くある話だろ。まともに受け止めてるお前もお前だ。そりゃSNSって火が点いたら中々収まらないし、下手な擁護も油を注ぐだけってのは分かる。でもそれは一部の少数が騒いでるだけだ。声が大きいから規模も大きく見えるだけだよ」
「そんなものなんですの……?」
「あぁ、だから放っておけばいいんだよ。てかお前、有名になりたいって言ってた割にこんなことで取り乱しやがって……」
「そりゃ対岸の火事の時は観客気分でしたが、いざ自分が火元になってみると色んな方向から攻撃されるんだなと……」
「それが有名税ってやつだ。だからいちいち気にすんな」
スクールアイドルとはプロでないにしても仮にもアイドルを冠している。つまり美女美少女の集まりが故に厄介な男のファンも付きやすく、だからアイドルたちの恋愛沙汰にも敏感なのだろう。実際にこれまでもそういった噂を流されたことは何回もある。μ'sの時だってそうだし、Aqoursや虹ヶ先にいた頃だってそうだ。まあ本当に俺という男がいるから噂自体は本当なんだけど、所詮は小さい噂で黙っていれば勝手に風化する。
「つうかお前も炎上する時代か。小物感が満載だった二年前とはえらい違いだな」
「これも私の隠れたカリスマがあってこそですの! と言いたいところですけど、やっぱりみんな、なにより先生のおかげですの。私の野望は皆さんに叶えてもらったに等しい。だからいつか感謝を伝えたいと思っていましたの」
「意外とそういうところが律儀だよなお前」
「意外とは余計ですの。これでもケジメはしっかりつけるタイプなので」
自分の長所に胸を張る夏美。
実際に小物だった時代から義理堅いところはあった。当初はLiellaを利用して動画インフルエンサーとして名を上げようと色々画策していたし、それこそ今自分の身に起きているのと同じ炎上動画を上げようとしたこともあるので流石に擁護できない部分もある。それでも非を追及された時には素直に謝れるし、Liellaに加入した後は自らの行いで清算することも増えた。それ以前に夢を諦める奴に対してはやたらと敏感であり、Liellaの誘いを受けるか迷っているきな子を諭したこともあったとか。
憎みたいけど憎めない奴ってコイツみたいな奴のことを言うんだろうな。根は良い子だけど空回りしながら汚い手を使っちゃう奴。俺が関わって来たスクールアイドルにも何人かいた。そういう奴は決まって義理堅い性格で、自分の夢に我武者羅な連中ばかりだったな。
そう、夢。今はプチ炎上しちゃうくらい自分の夢を叶えつつあるのがコイツだ。
「でも良かったじゃねぇか。有名になって金も稼げて。まあスクールアイドルだからグッズの売り上げとかは個人の懐に入んねぇけど、動画収益は結構あるだろ」
「そうですけど、Liellaのチャンネルとして投稿している以上はLiellaのためだけに使うって決めていますし、それがみんなとの約束ですの。ようやく掴んだなりたい自分になれた自分。私利私欲で失いたくはない。有名になるとかお金を稼げるとかはもちろん嬉しいことですが、それ以上にこの居場所を大切にしていきたいんですの」
夏美は具体的な夢を持ちたいってのが夢だった。そんなの持つだけなら勝手に持てばいいって話なのだが、何事も中途半端な結果にしか到達できない性分だから夢見る願望すら抱きにくかったのだろう。
だがコイツの凄いところは、そんな自分に嫌悪感を抱かずに前を進み続けたこと。目に光を宿し続けたことでようやくスクールアイドルという自分の輝ける場所を見つけた。当初はインフルエンサーとして有名になって金稼ぎする踏み台としか見ていなかったスクールアイドルだが、まさかそれこそ自分の天職だったとは本人も思わなかっただろう。これが闇堕ちの逆バージョンの光堕ちってやつか。
スクールアイドルになってからは何事も順風満帆であり、お得意の動画制作もライブの宣伝に活かされている。Liellaの日常の様子や練習風景などを投稿してファンを集めたり、たまに遊び系や身体を張ったギャグ系の企画まで投稿してLiellaというグループを盛り上げている。最初こそ加入までにいざこざがあったものの、Liellaが音楽系以外のコンテンツからもファンを獲得できた要因は間違いなくコイツの功績だ。
そして夏美もそれが分かっているからこそ今の居場所を大切にしたいのだろう。自分の願望を叶えてくれる人たちがいる場所だからこそLiellaの盛り上げに貢献したい。去年一度『ラブライブ!』で優勝して目的はとうの昔に果たされてる気もするが、自分がスクールアイドルを続ける限りはスクールアイドル兼インフルエンサーを続けていくだろう。
「そこまで自分のやりたいことに入れ込んでるんだ、『ラブライブ!』の決勝目前なのもあって大切な時期にプチでも炎上したくねぇ気持ちは分かるよ」
「それも確かに大切ですが、私が言った大切な時期というのはもっと別の意味がありまして……」
「えっ、そうなのか。って、わざわざ俺を呼び出した時点でお前にとってはそっちの覚悟の方が大きいか」
「流石に何が起こるかはもうご存じですの。ま、七海先輩にあれだけ背中を蹴られたらこうもなりますの」
いつも通り告白されるだろうなってのは感じ取っていた。
だけど昨日までのような身構えるような義務感は抱いていない。違和感なく自然に受け入れ姿勢が整っている。こんなスッキリとした気分になれるんだ、昨日の夜に楓と共に一夜を明かしたのは正解だったな。
少し間が空いた後、夏美は語り始める。
「ようやく走り続けられる夢を見つけられた。諦めなかったというのもそうですが、同時に挫折の恐れから汚い手段を取ることを厭わない思考もありましたの。でも、そんな自分から足を洗えた。それもみんなと先生のおかげ。特に先生は私が一心不乱に金儲けだけを考えている頃からお世話になりましたの」
「まああの頃のお前はちょっと危なっかしかったからな。なんで入学早々に金のことしか考えてねぇんだろうなって。家が貧乏の苦学生だと思ったらそうでもないみたいだし、気になってたんだよ」
「でも気にしてくれたおかげで今の私がいますの。先生は自らのやりたいことを我が道を進む勢いでやり通し、それを実現させている。何事も中途半端で終わってしまう私にとって願望が具現化した存在でしたの。そんな存在が近くにいたからこそ勇気を貰えてスクールアイドルに手を伸ばすことができた。北海道できな子たちにスクールアイドルに誘われた時、迷いを振り払ってその手を取ることができた。先生が私の願いの光だったおかげで、最後の最後で一歩を踏み出して今の居場所に辿り着くことができましたの」
自分の願望を形にしたのが俺ってことか。まさか象徴みたいに思われていたとは考えもしていなかった。
確かに俺は自分のやりたいようにやってるし、理事長や他の先生たちからもそうさせてもらっている。環境が整っているのが俺の利己主義な思考に拍車をかけているのかもしれないが、やりたいことを貫いて結果を出すってのは羨ましく思われがちなのかもしれない。それこそ夏美のように挫折と再起を繰り返してきたような奴らにはな。
「そうしてスクールアイドルになって、たくさんの問題事はありましたがここまで上手くやれていると思いますの。ずっと追い求めていた自分だけの輝きを見つけることができた。だけど、万事順調のまま現状に甘えたくはありません。『ラブライブ!』の二回目の優勝、そして先生との関係も……」
「そうか。俺の背中を見て怖気づくことなく、むしろ同じ光を宿してやろうなんて意志だけは堅かったみたいだな。そういうところだよ、お前が今のお前になれたのは」
「あっ、もしかしてこの人生経験を本にしたら売れるのでは……? 今の知名度ならファンは手に取ってくれるだろうし、印税も一定数は見積れるかも……!!」
「性根にある承認欲求は変わらねぇな……」
ま、いくら成長しようが根本は中々変わらないものだ。コイツは金稼ぎに特別何かを求めていたわけではなく、ただいつか自分が熱中して結果を見い出せる夢ができた時のための貯蓄だった。それでも再生数の伸びやSNSのインプレッション、金絡みになるとがめつくなるのは元々の性根が故だろう。悪い意味のように思えるが、挫折しても何度も挑戦し続けてきた高みを望み続ける根性と言えばプラス面として捉えることもできる。それもコイツの長所だろう。
閑話休題。
別のノリで話が逸れたが、コイツが伝えたいことは次が本番だ。
「願いの象徴であった先生の背中を見て、隣に立って、正面から向き合って、馳せていた想いは時間が経つにつれて膨れ上がりましたの。もし私がその象徴と同じ我が道を歩み始めることができた時、その想いを昇華させると決めていた。そして、今がまさにその時ですの!」
夏美は大きく深呼吸し、そして立ち上がると俺と向き合った。
「出会った頃から好きです。この瞳にその姿が映るたびに惚れ惚れしていました。一切迷いのない前向きな姿を、これからもお傍で見させてください。そして、私が我が道を突き進む姿も見届けて欲しいです」
これまで折れることはあっても立ち止まらなかった奴だからこそのこの告白か。ここまで前のめりな告白は初めてだが、だからこそ俺の信念とマッチして想いが同調しやすくなる。お互いに相手の歩き方を知っていれば歩幅も合わせやすいだろう。今まで背中を見てきた奴の隣にようやく立つことができ、同じ価値観を共有しながら歩くことができる。さっきの告白には夏美の喜びが大いに含まれていた。
ただ、そこまで成長してもなお俺の活躍を見てまだ惚れ惚れしたいという貪欲さ。自分が欲しいモノは喉から手が出て、その手で絡め取るくらいに巻き付いて手に入れる欲深さ。そんなコイツの心意気に対して、俺は――――
「俺に魅せてみろ。その道を突き進んだ先、お前が胸を張って夢を叶えられたと言い張れる功績を。それに俺の隣にいたら必然的に感じることになるさ、俺の活躍っぷりくらいな。ま、隣にいたらいたらで事件に巻き込まれる頻度は増えるだろうけど」
「そんなこと承知の上ですの!」
「俺に惚れすぎて歩みを止めてしまわないように気を付けるんだな」
「そ、それは大丈夫ですの! 多分!」
「いやそこは前向き思考のまま言い切れよ! ったく……」
ここまでずっと曇りもなく自分の意志を貫いてきたのにこのタイミングで失速するのか。まあ告白が成功した喜びで内心は舞い上がっているだろうし、そんな状況で好きな男に惚れまくる自分の妄想をしちまったらそりゃ戸惑いもするか。
一連の話が終わり言いたいことを全て言い切った夏美は、安心しきったように息を吐く。大舞台の前だ、内に秘めたままの想いを重荷にはしたくなかったのだろう。これで思う存分決勝のステージで輝いてくれるに違いない。
「よーしっ! このまま優勝して早速夢への跳躍を開始しますの!」
優勝が始まり、か。しかも二回目の優勝に王手をかけているのにまだ通過点と思っているらしい。やりたいことを全力でやり、挫折しても再び走り始める。それを繰り返してきたからこその考え方だろう。恐ろしいほどに前向きだ。だがそれがいい。彼女の最大の魅力を思う存分に感じることができるから。
そして、そんな彼女が何よりも眩しい。
コイツが隣にいたら見せつけてくれるだろう。夢を追い続ける者の輝きってやつを。
夏美の個人回のラストでした。
彼女はLiellaのキャラの中でも初登場時からトップクラスで成長したキャラだと思います。当初こそ批判が集まりがちな言動をしていましたが、冬毬との仲直り回を見て私の中の彼女の評価は一変しました。動きや表情変化も大袈裟で、ギャグもツッコミもできるので見ていて楽しい子だなと思っています(笑)