ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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未来へのエチュード

「ふ~ん、優勝かぁ~。ま、頑張った方じゃない? 私が発破をかけておきながら負けるなんてあり得ないけどね」

 

 

 七海はスマホで『ラブライブ!』の結果を閲覧しながら憎まれ口を叩く。

 何故か俺の左の太ももに座りながら……。

 

 

「おい、座るならせめてケツの半分を右にも乗せてくれ。身体の重心が傾くだろ」

「センセーって右利きでしょ? 右利きの人は知らず知らずのうちに身体も右寄りになっちゃうんだって。だから矯正してあげてるんだよ」

「頼んでねぇけどな……」

 

 

 いつものように空き部屋を我が物顔で占領してデスクワークをしていると、七海が前触れもなく入ってきて何の躊躇もなく俺の左太ももに腰を下ろした。目的は一切語らずに『ラブライブ!』の結果の記事を読むだけ読んで、どこか面白くなさそうな顔をしている。荒事ではあったがアイツらの優勝のために背中を押してくれた一番の存在だっつうのに、どうしてそこまで不満そうなんだか。

 

 そう、Liellaは『ラブライブ!』を優勝した。去年から引き続きの連覇だ。これはスクールアイドル界隈でも偉業の中の偉業であり、これまでそのアチーブメントを解放できたのはLiella以外だとμ'sしかいない。その間で7年も空いてるんだから偉業と言われる所以も分かってもらえるだろう。

 ちなみに二連覇したことで学校は大盛り上がり。去年もアイツらをダシに新入生の入学を募っていたが、今年も同じような手口で都合良く広告塔にされるのだろう。あのズル賢い理事長が考えそうなことだ。まぁそれで入学者が増えれば資金問題も当面は心配しなくてもよくなるし、使えるものは使うのは悪くない。

 

 そんな計略がある奴と言えば、俺の左太ももに座っているコイツもLiellaの動きによって人生が左右されていた一人だ。実質の育て親でもある秋葉に俺と恋愛するために必要な条件が与えられていた。それはアイツらを俺と結びつけること。そうなると当然一番の分かりやすい目に見える結果は『ラブライブ!』の優勝ってことになる。優勝のために俺とアイツらは密接に関わらないといけなくなるからな。教師と生徒の関係を上手いこと鎖で結び付けた。

 

 そして実際に去年Liellaが優勝したのだが、アイツらが俺との距離を今一歩保った状態だったのでコイツが業を煮やし、それで引き起こされたのが先日のスクールアイドル概念消失事件だ。

 なんだかんだありつつ無事に解決したのだが、その事件で各々決心が着いたのがきっかけで『ラブライブ!』を二連覇することができたと言っても過言ではない。つまりコイツの功績ってのは華々しく、コイツの裏の性格からすればそれを誇りに思っていそうだが何故か不満気だ。

 

 また何かやらかすのか。

 俺を監禁したり世界の常識を改変したりと、自分の思い通りにならないとホントに何しでかすか分からないのが怖すぎるな。

 

 

「で? お前何しに来たんだよ? また面倒なことに巻き込もうって魂胆じゃねぇだろうな……」

「いやぁ~あのあと告ってきた子、何人いたのかなぁと思ってね」

「そんなのお前に教えるわけねぇだろ。土足でプライベートに踏み込むなよ」

「人の心を無許可で侵入するセンセーに言われたくないんですケド。ま、炙り出せばいいよ。優勝して浮かれムードだから警戒も緩いでしょ」

「ったく……」

 

 

 なんでコイツは毎回強硬手段に出るんだよ。もうちょっと穏便にコミュニケーションできないかねぇ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おいゴルァ!! まだ告白してねぇ小心者はいねぇかァ!!」

「えっ!? なに? 七海ちゃん!?」

 

 

 スクールアイドル部の部室に殴り込みをかけた七海。ドアを勢いよく開けてドスの効いた声でかのんたちを威圧する。

 『ラブライブ!』優勝を果たして部としての目標は達成したため最近の活動は控えめなものの、かのんたち三年生はもうすぐ卒業だ。そのため今後どうするかを残りの期間でゆっくり決めている。今日は久々に全員集合のミーティングだったのだが、七海はそのタイミングを見計らって突撃した。どこで情報を仕入れたのかは知らないが、余計なことをしでかしそうだから同行して正解だったかもな。

 

 でもそのサングラスと竹刀はどこから持ってきたんだよ。他校にカチコミに行く中学生じゃねぇんだから……。

 

 

「あれだけこっちがお膳立てしてあげたのに、まだ告ってない臆病者がいると聞いて喝を入れに来たんだよ。『ラブライブ!』の優勝如きで浮かれてる場合じゃないぞ、ゴラァ」

「聞いてって……まさか先生、ななみんに可可たちのことゲロったのデスか!?」

「んなプライベートなこと喋るかよ。コイツが勝手に暴走してるだけだ」

「分かるんだよねぇ。男と一緒になった女からはその男の匂いがする。まるで私はもうその男のモノですよと、自らのメスをアピールする鼻が曲がりそうな臭い。逆に言えばその香りがしない清廉潔白な女こそ処女の証。告ってない奴を見つけ出す何よりの証拠になるんだよ」

「処女って、ここにいる誰ともそんなことやってねぇよ……」

 

 

 コイツまさか、告白=性行為の同意と思ってるんじゃねぇだろうな。物心が付いた時からずっと俺のことを追い求めている歪んだ愛を持っている奴だ、性のハードルもあやふやになっている可能性はある。

 同行しておきながらだけど、しばらくコイツの好きにさせておくか。多分いつものストレス発散だ。それにかのんたちも『ラブライブ!』を終えて肩の荷が下りてるだろうし、コイツの茶番に付き合う余裕はあるだろう。あの事件以降コイツのやんちゃっぷりは鳴りを潜めており、恐らく『ラブライブ!』を間近に控えるアイツらにちょっかいをかけたくないという、ある種の優しさがあったのかもしれない。その我慢のせいで鬱憤が溜まっていたのだろう。

 

 

「七海先輩また一段と荒れてますの。また変なことに巻き込まれそうから逃げた方がいいんですの……?」

「Stay Stay 七海ちゃん。ここで目立つとターゲットにされる。時には影となり身を潜めるべき」

「まあ私たちは狙われることはないんじゃねぇか? だって『ラブライブ!』の前に事は済ませてあるわけだし……」

「と言いながらきな子を盾にするのはやめて欲しいっす! そんなことしたら七海先輩にバレて――――あっ!」

 

 

 部室の隅っこで騒ぎ立てる二年生たち。もちろん七海がそれに気付かないはずもなく、標的がかのん(何故か最初に狙われてた)からアイツらに変わる。

 そして、コイツがさっき言っていた匂いを嗅ぎつけた。鼻腔に流れ込むイヤな臭いを察したのか、眉をしかめた後に竹刀に手をかける。

 

 刹那、物凄い勢いで隅で固まるきな子たちにその竹刀を振り下ろした。流石にそこまでしないだろうと思っていたかのんたちは目を丸くする。

 

 

「痛――――くないっす。あれ……?」

 

 

 竹刀はきな子の眉間ギリギリのところで寸止めされていた。ストレス発散にコイツらにちょっかいをかけているとは言っても傷つけることはしないか。それで良識があると思っちゃうのは違う気もするけど……。

 

 

「なんでまだ告白してないの?」

「そ、それはぁ……きな子の晴れ姿を先生の目に焼き付けてからと、前からずっと決めていたので……。きな子は田舎者で同い年の夏美ちゃんや四季ちゃん、メイちゃんに比べても地味でしたから、だったらなおさらきな子の輝いている姿、自分でも納得する姿で先生に臨みたかったっす!」

「…………」

「……せ、先輩?」

「あっそ。ま、精々頑張って」

「は、はい。ありがとうございます……」

 

 

 さっきまで不良少女っぽい言動で迫ってきたのに急に優しくなる不思議。まだ告白をしていなくても意欲を見せれば赦してもらえるようだ。まあ何故コイツの赦しが必要なのか、コイツの顔色を窺う必要があるのかは意味が分からないけども。他人事だけど大変だな、コイツらの恋愛。

 

 

「さて、次はあなたたち最下級生だけど……」

「私は告白なんてするつもりはないわよ、今はね」

「右に同じです。まだあと二年もありますし、焦る必要はないかと」

「それは卒業まであと二か月ちょっとしかない私に対してのあてつけ?」

「そうやって他人に八つ当たりするその悪辣さ、相変わらずね。いい女になりたいのであれば悔い改めなさい」

「…………」

「いたっ! 痛いって七海ちゃん!」

 

 

 七海は無言でかのんを竹刀で軽く叩き続ける。どうやらマルガレーテと冬毬の余裕がコイツの嫉妬に火を点けたようだ。

 コイツが八つ当たりしがちなのは去年からそうだった。自分の思い通りに事が進まないと強硬手段に出て、俺の周りを排除しようとするのは監禁事件や概念消失事件での手口そのものだ。そもそもこの状況だってストレス発散が目的だろうがコイツらに当たり散らしているので、見ようによっては八つ当たりと思えなくもない。自分が告白のお膳立てしたのにまだしてない奴らに憤ってカチコミとか、自分に対する偏愛主義すぎる。まあコイツ自身の能力は他の奴らと比にならないくらい高いけど。

 

 

「澁谷ちゃんも告白まだだよね? だったら叩かれるべきだよ」

「いたたっ! って、な、なんで知ってるの!?」

「昔から度胸ないでしょ。それくらい分かるって」

「そんなこと言ったら、七海ちゃんだって先生と恋愛できるくせにまだ告白してないじゃん!」

「!?」

 

 

 部室が一瞬で静まり返る。開けてはならないパンドラの箱の蓋を開け、中身が見えるか見えないか固唾を飲んで待っているような状況。

 七海もまさか反撃を去れるとは思っていなかったのだろう、竹刀を振り上げた手が止まる。脳天を守るために少し身を屈めているかのんを冷たい目で見下す七海だが、小さく深呼吸をするとニッコリと微笑む。それに対しかのんも愛想笑いをするが、その瞬間振り上げていた竹刀をそれなりに強い力で振り下ろした。かのんの脳天に――――

 

 

「いたぁ!?」

「この澁谷かのん如きがぁあああああああああああああ!! 私を小馬鹿にするなんて許さねぇええええええええええええええええええええ!!」

「落ち着いてくだサイななみん! 叩きのめすなら可可がサンドバッグになりマス! これ以上かのんの脳細胞を死滅させておバカになったら可可が耐えられません!!」

「それ私が元々バカみたいな言い方になってるよ!? もっと言い方あるでしょ!?」

「オーケー、じゃあそこにおしり出して。桃からリンゴの赤になるくらい叩いてあげるから」

「ぐっ!? かのんがおバカになる代償に比べたら可可のおしりくらい……!! あっ先生、一応あちらを向いてもらいたいデス……」

「おら、早く脱げ。でないと叩く代わりに、その二つの穴に竹刀をぶっ刺すから」

「くっ、せめて処女は残してくだサイ……!!」

 

「なにやってんのよアンタたち……」

 

 

 これがもうすぐ卒業する奴らの姿かよ。マルガレーテ以外の後輩たち呆然としてるけど大丈夫か……?

 すみれが溜息をつくが、流石に見かねたのかケツをこちらに突き出そうとする可可と竹刀を横持ちにしてぶっ刺そうとする七海の間に割って入った。

 

 

「落ち着きなさいよ。いい加減に自分に対して素直になったらどうなの? アンタ、いつも何も話さずまず手荒な真似から入るじゃない」

「あん?」

 

 

 なんでここで煽る……。

 また別のレスバが始まると思ったが、それはあまりにも無意味だと悟った千砂都と恋が更に割って入った。

 

 

「まぁまぁ! かのんちゃんもすみれちゃんも悪気があるわけじゃないから! 七海ちゃんも長年の付き合いで分かってるでしょ、ね?」

「そうです! それに私たちも七海さんの本心を知りたいというのは本当ですから! 親友として七海さんの真っすぐな気持ちを受け止めたいんです!」

「ふん……」

 

 

 七海が竹刀を下げた。流石は部長に元生徒会長、人の心理の扱いには慣れてるな。

 ただ、千砂都と恋の言ったことは七海に刺さる。コイツらは三年間の付き合いだからお互いのことが分かっているようで、実はかのんたち方面から七海については知らないことがまだたくさんある。もうすぐ卒業なのにだ。だからこれを機に本心を知りたいのだろう。あれだけの事件を起こした本人が俺とどう向き合っていくのかを。何かと自分たちを巻き込んだんだ、その詫びとして本心を教えてくれるくらいはあってもいいと思っているに違いない。

 

 七海もそれには一理あると思ったのか、小さく息を吐いて自分を落ち着かせる。サングラスも外してたので真面目モードに入ったようだ。

 

 

「なんかあなたたちを見てると人が良すぎるって言うか、真っすぐ過ぎて捻くれる方も大変だわ」

「別に狙って捻るくれる必要はないと思うけど……」

 

 

 からかってもいい反応をするが反撃はしてこないので、七海にとっては格好の的だったのだろう。ただコイツらがあまりにも素直過ぎるからからかう側も拍子抜けするらしい。今のように時としてその愚直さに根負けすることもあり、そういった意味ではパワーバランスは取れているのかも。それに相性が悪いんだったら三年間も一緒にいねぇだろうしな。

 

 

「私はセンセーのことが好き。愛している。それは間違いない。でも告白はまだしない。素の自分を見せてから一年ちょっとしか経ってないし、それに私がセンセーのことを一方的に知ってるだけだしね。まだ私のことを熟知されるほどの交流もない。だからもっと私の魅力をその目と記憶、心に刻み込ませてから告白するよ。今ここでしたいのはもちろんだけどね、それは尚早。高校時代にできなかったのは残念だけど、長いプロローグだって思えばなんともないかな。ま、色々事件を起こしてこっちも身銭を切ったわけだし、センセーに私と言う存在が強く印象付けられているのならゴールは意外と近いと思ってるよ。暗澹(あんたん)な未来を見ていた頃に比べれば、今の私の未来はとても明るいもんね」

 

 

 なるほど、それがコイツの未来か。あれだけ俺に拘っていたのに無難な落としどころだ。もっと自分を知ってもらいたいという気持ちはマルガレーテや冬毬と同じだが、もう卒業という身でもあるのでまた曇らないかちょっと心配してはいた。でも自分で歩む道を決めているのであれば問題ない。曇るだけならいいけど、またコイツらを巻き込んで八つ当たりされるのは堪ったモノじゃねぇからな。でもヤケになっていた頃と比べればコイツも成長したってことか。 

 

 ただ、未来について1つ気になることがあった。

 

 

「お前、進路届出してないだろ。お前の未来は分かったけど、まず卒業後にどうするかを考えた方がいいんじゃねぇのか?」

「ん~? 決めてるよ。ウィーンの学校に行くから」

「は?」

「えっ!?」

 

 

 俺だけでなくかのんも驚く。そりゃそうだ、だって自分の進路と全く同じなんだから。そして本日マルガレーテが初めて七海を見つめた。表情には出ていないがどうやら彼女もビックリしているようだ。

 

 

「ウィーンって簡単に言うけど、日本からは招待がないと入学できないんだぞ?」

「あるぇ~? そういう根回しができる人、センセーならよく知ってるよね?」

「秋葉か……」

「そうそう。まあ私はちょっとリズム感がないことを除けば多才だし、そこらの有象無象よりも遥かに天才だもん」

「そりゃそうだけど、でもどうしてウィーンに?」

「スクールアイドルを間近で見てきて、音楽に興味を持ったからかな。今まではセンセーと恋愛するためだけに生きて来たけど、この学校でその条件は果たされた。だから次は自分のやりたいことを全力でやり通して、自分の魅力を磨くターンだよ」

「……そうか。お前がいいならそれでいい」

 

 

 七海はニカッと笑う。まさかあの名門校のウィーンに裏口入学とはな。能力が高いから全然やっていけるだろうが、なんか裏口と知ってて黙っていると俺も犯罪の片棒を担がされている気がするぞ……。

 

 これで七海関連で不明だった点は全て洗い出された。高校生活を通してお騒がせだった印象が強いが、実際には自分の計画を果たしやすくするために周りにはいい子ちゃんを貫いていた。いわゆる表の顔ってやつで打算的ではあるのだが、それに助けられた人は多い。生徒だけでなく先生たちもそうであり、善悪でこれほどまでに振れ幅があるのは珍しい。

 ただ俺はどんな女の子だろうが顔と魅力が良ければ受け入れる。コイツの悪行もたまにはスパイス……にしては辛すぎる気もするが、日常に刺激を加える意味では十分に受け入れるに値する。そこまで豪語するなら見せてもらおう。お前の魅力の磨き方、そしてその結果をな。

 

 

「そう。じゃあかのんとはまた同じ学校の同級生ね」

「同級生かぁ~。正直海外に行くのは不安なところもあるから、知ってる人がいると安心かな」

「澁谷ちゃんドイツ語話せないでしょ。仕方ないなぁ~今まで以上にもっと一緒にいてあげるよ」

「えっ、七海ちゃん話せるの!? 流石は天才――――ん? ずっと一緒??」

 

 

 かのんはあることに気が付く。高校時代に自分が受けていた仕打ち。それらがフラッシュバックされ、未来への妄想にも侵食してきたようだ。

 

 

「よ~しっ! 卒業しても澁谷ちゃんをイジメられるぞ! これからもよろしくね!」

「いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 俺もかのんの留学は心配だったけど、コイツが一緒にいてくれたら安心だと思ってた。

 大丈夫……だよな??

 




 七海編ラストの回でした。
 一応アニメにも登場している彼女ですが、肉付けしまくった結果かのんたちと並ぶくらいLiella編で活躍するキャラになってしましました。でも長編では彼女のおかげでかのんたちの恋愛ストーリーを進めることができましたし、Liellaはみんなイイ子たちばかりなので、こういったプチヴィランみたいなキャラがいてくれて話が作りやすかったです。
 あまりオリキャラ(原作キャラではありますが)は入れないようにしたいのですが、彼女は登場させて良かったなと思います。
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