ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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思い出の架け橋

「せんせ~いっ! お待たせしマシタ!」

「なんだ。もう姉との電話終わったのか? せっかく『ラブライブ!』の優勝報告だってのにあっさりしてんな」

「既にメッセージはしていたので。でもやっぱり生声で報告すると興奮度合いがより伝わりマス!」

 

 

 今日は可可の部屋に来ていた。男性教師が女子生徒の部屋に上がるという傍から見たら犯罪なのだが、もはや何度も来ているためそんな罪悪感は一切ない。それに部屋と言うより物置と言った方が適切で、あちらこちらにスクールアイドル関連のブツが散らばっているのはいつもの光景だ。つまり女の子の部屋って感じがしないので俺も特に身構えることはない。倉庫の掃除を手伝いに来ている感覚だ。

 

 そう、掃除。さっきも言ったがコイツは散らかし癖があるので誰かが定期的に掃除に来ている。もちろん家族と離れ日本で一人暮らしのため、その手伝いはスクールアイドル部の部員の仕事。しかも本人がスクールアイドル好きのせいで気付けば購入したグッズが雑多に並べられている状態で、それらに触れず倒さずで掃除をするのは至難の業のようだ。

 ただコイツ、手先が器用だから色々勧誘看板とか垂れ幕とか作ったりするのだが、そういうのはマジのゴミとしてそこらに散乱させてあるのがこれまた掃除のやりにくさを加速させている。冬毬やマルガレーテも最初は驚いていた。てかかのんたちならまだしも後輩にそんなこと依頼させんなよな……。

 

 ちなみに俺は去年ここに来たことがある。そして今日もコイツに呼び出された。

 七海の事件と『ラブライブ!』の優勝といった一連の流れの後での呼び出し。これは掃除してもらいたいってのは名目で、本題は間違いなく()()だろう。

 

 

「にしてもまた一段と増えたなスクールアイドルのグッズ。こんなに集めて何に使うんだよ」

「毎日拝み倒して活力をいただくのデス! 神聖なるスクールアイドルサマたちから得られるスピリチュアルパワーのおかげで『ラブライブ!』を二連覇できたと言っても過言ではありマセン!」

 

 

 スピリチュアルって、某エセ関西弁の掃除しかやってるところを見たことがないエセ巫女を思い出す。なんかそういうオカルトを簡単に信じそうだよなコイツ。上手く言いくるめられそうだから将来変な壺とか売りつけられなきゃいいが。

 

 ただスクールアイドルたちから力を貰ってるってのはコイツの場合はまさにそうで、なんたって日本に来たのだってスクールアイドルに憧れて自分でもやりたいと思ったからだ。今やスクールアイドルは全世界にいるが、パイオニアである日本がコンテンツとして一番盛り上がっているのは確かなので、スクールアイドルになりたいがために来日している外国の奴らは結構いる。コイツもその勢いだけで日本の高校を受けて合格するくらいだから、他のスクールアイドルから与えられた力ってのはオカルト染みているけどコイツに至っては本物なのだろう。

 

 そう考えると飾ってるグッズ類も丁重に扱ってやろうって意識も湧いて出る。だったらこんな物置みたいな部屋じゃなく、綺麗な部屋に飾ってやれよとも思うけど……。

 

 

「パワーをいただくのはもちろんなのデスが、このグッズたちも可可の思い出なのデスよ。日本に来てから積み上げられた、可可の大切な思い出」

 

 

 思い出か。コイツは人情に厚く、友情や結束を重んじる義理堅い奴だ。だからこそ仲間と作り上げてきたスクールアイドルというコンテンツにここまで入れ込んでいるのだろう。

 その証拠に好きなスクールアイドルのグッズが並べられているだけでなく、Liellaの奴らの写真も多く飾ってある。ライブシーンや衣装での撮影はもちろん、普段の日常で撮られたものも多数ある。ごちゃごちゃと綺麗に並べられないくらい、たくさんの思い出に囲まれている。

 

 見れば結ヶ丘の合格証書までもが飾られていた。それと一緒に多分初めて制服に腕を通した時の写真であろう、まだ顔付きに幼さが残る(今でも割とそうだが)彼女の写真も添えてある。結ヶ丘に入学する直前からこれまでの軌跡を大切に残してあるのだろう。それだけコイツにとって思い出ってのがどれだけ大切なのかが分かる。

 冬毬やマルガレーテの写真も多く、まだ一年も一緒にいないのにたくさん撮ってある。まあ出会って一年経つ頃には卒業してるし、アイツらとの思い出こそ今だけだもんな。たくさん撮っておきたい気持ちは分からなくもない。

 

 そんな想像をしていると、可可が何やら不満そうな表情で俺を見つめていることに気が付く。

 

 

「なんだよ……」

「いや、相変わらず先生の写真が一枚もないなと思いマシテ……。それもこれも先生がカメラに写ってくれないからデスよ!! いつもいつもシャッターから逃げてばかり! そんなに可可に思い出を作らせたくないのデスか!?」

「んだよそんなことか。俺は目立ちたくないんだよ。ただでさえ女を侍らすだとかスクールアイドルキラーとか不名誉が独り歩きしてるんだ、あまり人の目に留まるような行動はしたくない」

「えっ、いつも気配を消してるつもりだったのデスか?? 目立ちまくってマスよいつも。先生目的でこの学校に来たって一年生もいると聞きマシタ」

「そうなんだよな。変に有名になりすぎちまったから反省してるんだけど……」

「事件があればすぐ首を突っ込みマスし、人の心に土足で入って来るしで全然反省できてないと思いマス……」

 

 

 それは俺のパーソナルスペースで事件が起きやすいことや心傷の奴らが集まりやすいせいだろ。つまり自分の体質であり治せるものではない。だったら必然的に目立つ行動を取らざるを得ないってことか……? ヤな天性だねぇ……。

 

 

「それはともかくデス。とは言いつつも先生との思い出は可可の心の中にたっっっっくさん保管してありマス! なので物が存在しなくとも問題ありマセン!」

「お前よく俺との馴れ初めとか思い出を今見たかのように鮮明に語るよな。それだけの記憶があれば物がなくても……ってことか」

「そうデスそうデス! もちろんツーショットが欲しいとか色々欲望はありマスが、日本に来て最も忘れられない思い出が先生なのデス! 先生は可可の夢を叶えてくれマシタから、思い出としてあなたが強烈に印象付けられるのは当然のことデス!」

 

 

 新任教師なのに早速新入生たちの担任にさせられたのだが、受け持ったクラスの中にコイツがいた。そしてこの三年間ずっとそうであり、スクールアイドルの顧問としても関わっていたからコイツとの縁は濃密すぎる。だからコイツの夢を最初から最後まで見届けたと言っても過言ではない。

 

 

「先生は可可が夢のスタートを切る瞬間とゴールした瞬間も目撃した唯一のお方デス。スクールアイドルとしてのスタート、クーカーとしてかのんを誘う時から色々相談に乗ってもらいマシタ。そして『ラブライブ!』に優勝し、無事に卒業を迎えられるゴール地点がもう間近。可可の夢の開始も途中も、そして終わりにもいつも先生がいて、可可を見守ってくれた。時には助けてくださって、時には身体を張り、時には優しく微笑みかけてくれる。可可の夢は先生によって支えられ、思い出として積み重なっている。いいえ、積み重なっているのは思い出だけではなく、この想いもずっと……」

 

 

 コイツの始まりから終わりまで一緒にいたってのは本当の話だ。入学直後からコイツ結構危なっかしかったんだよな。スクールアイドルを結成しようと学校中を駆け巡って勧誘活動をしてたからあっという間に有名人になったのだが、それでも止まることを知らずに当時は氷の女王と呼ばれていた恋にまで怯まず噛みつき、やる気がかなり空回りしていた。だから声をかけずにはいられなかったんだ。早々にパンクしてしまわないように。

 

 そしてなんだかんだここまで来た。『ラブライブ!』を優勝するどころか二連覇し、スクールアイドルとして最高の舞台で輝き優勝できたことでコイツの夢は一段落したのだろう。途中結果が出せなかったら上海に帰るみたいなプチ騒動もあったが問題なくケリをつけ、あとは無事に卒業を迎えるのを待つだけとなっている。

 

 あと1つ。やるべきことを残して――――

 

 

「進路希望でお話ししマシタが、可可の次の夢はもう決まっていマス。あっ、そういえばすみれにはまだ話さないで欲しいってお願い、まだ守ってくれていマスか?」

「誰にも何も言ってねぇよ。でも驚いたよ。まさか今度は夢を追う立場じゃなくて、夢を追う人をサポートする立場になりたいだなんて」

「はい。夢を追う旅は可可としてやり切ったと思っていマス。その旅路の中で夢を追う情熱に憧れ、たまに襲い掛かる焦燥や憂いも含め、結果的に何もかもが心をうずうずさせてくれマシタ。楽しさも悲しみもひっくるめて思い出で、自分で言うのもおかしいデスがとても素敵だったなって思いマス。だから今度はその夢追う旅で新しい思い出を積み上げていく人のお手伝いがしたいと思ったのデス。今の思い出から次の思い出を作る架け橋。その建設をサポートしてあげたいデス」

「最初聞いたときも思ったけど、お前にピッタリだと思うよ。この三年間で時には高くジャンプして、時には転んで這いつくばって、天と地を両方見つめてきたお前だからこそできることもあるだろ」

 

 

 すみれが芸能事務所に復帰したってのは周知の事実だが、まさかコイツが同じ事務所で働くことになるとは誰も想像していないだろう。かのんたちに進路を聞かれても誤魔化しているようで秘匿を徹底している。進路希望で必然的に知ることになる学校関係者と親族以外には内緒にし、サプライズで公表したいそうだ。

 

 さっきもコイツが言った通り事務所の所属と言ってもすみれのような女優路線ではなく、あくまでマネージャー業などの裏方作業。裏方と言うとやや地味に聞こえるが、誰かの夢を支えて輝かせるために必要不可欠な存在だ。コイツはこれからも好きなスクールアイドル関係の道に行くと思ってたから意外だった。でも己の経験を活かして誰かの思い出からの思い出の橋渡しをしたい、というのであればその道を歩むのも納得できる。元々人の長所を褒めるのはコイツの得意としていたところなので、夢追い人のサポーターとしてはピッタリだろう。

 

 

「そうやって大層に語っていマスけど、可可もまだやり残していることが1つあるので架け橋をかける前にやっておかないとデスね」

 

 

 そうだ。それこそ俺をここへ呼んだ理由であり、夢を叶えて栄光まで手にしたコイツがそれ以上に果たすべき最後の決着。

 

 可可は狭い部屋の中心、さっき俺が片付けてやった場所へと歩み寄ると。こちらに振り向き向かい合う。

 これまで可可が自分の気持ちを示したことは何度もあった。人懐っこいからというのもあるけど、外部からの刺激を受けて溜め込めて感情を発散するのが好きなのだろう。その時の笑顔は無邪気そのものだ。

 

 だが今は違う。表情は晴れやかだけど、その微笑みはどこか優しさを感じさせる。もう既に自分の気持ちにブレはなく一直線に伝える覚悟は整っているのだろう。そんな余裕もある表情だ。

 

 数泊の間を置き、可可が口を切る。

 

 

「可可の夢を最初から最後まで見届けてくださった先生。どんな時も隣にいて支え続けてくださった先生。そんな先生のことが大好きデス。これからも一緒に紡いで欲しいデス。思い出を繋ぐため、永遠に……」

 

 

 眩い夢を持ち来日し、それを叶えて思い出とし、更に今後はその橋渡し役となる可可。告白のセリフはまさにそんな彼女らしい。最初から最後まで全速力で駆け抜け、勢いのままにスタート地点から終着を一本の線で結んだ者としての告白。故にあまりに説得力があってその気持ちが思う存分に俺の心に刻み込まれた。他の奴らもそうだったけど、自分の経験が告白にしっかり反映されているから気持ちを受け取りやすい。

 

 だってコイツらの経験は俺の経験でもあるんだから、そりゃ同じ道を歩んできた者として想いが共鳴するのも当然だ。

 だから俺の応えはもう決まっている。

 

 

「永遠なんてよく言い切ったな。でも俺と一緒にいたらもっと強く結んでやるよ。夢を絶対に諦めさせないくらいの線を、スタートからゴールまでな。そして一度夢が完結して思い出になったら、また思い出作りにいつでも連れて行ってやる。誰かを支えるお前を支える。それこそ俺だってお前の架け橋になってやるよ」

 

 

 やることはそう変わらない。でも自分が導いてきた子たちが大成する姿を見るのはこちらとしても自信に繋がる。いくら幾多の女の子と接してきた俺だからと言って、毎回完璧なコミュニケーションができるとは思っていない。だからこそその子が夢を叶えて清々しい表情をしているのを見ると嬉しいと同時に安心するんだ。自分の導き方は正解だったんだって。

 

 

「これで可可が高校生の間にやりたかったことは全て完了しマシタ。それも嬉しいことデスが、なによりこれからも先生と一緒にいられることが一番嬉しいデス!」

「三年間ずっと絆を育んできたんだ。卒業だけで切れるとは思えねぇけどな」

「切れたらそれこそ先生が困るのではないデスか?」

「そりゃ切れたらイヤだけど、困るっつうのは?」 

 

 

 可可は俺に近づいて上目遣いで顔を見上げてくる。あざといが別に狙ってはいないだろう。それよりもコイツに何か諭されるようなことあったかな……?

 

 

「先生の夢って女の子の笑顔を見ることデスよね? だったらそれって終わることのない夢だと思いマス。つまり誰かが先生と一緒にスタートからゴールまで付き添ってくれる人、一緒に線を結んでくれる人が必要だと思うのデス。だから可可がその役目になりたいのデス!」

 

 

 なるほど。さっきの告白は俺の気持ちに訴えかける目的だったが、同時に俺の夢も一緒に追いかけたいってことだったのか。人情を重んじるコイツらしいな。

 

 

「ありがとう。でも終わらないってのは語弊があるよ。確かに笑顔の探求は終わらないけど、女の子単位で見れば俺が納得する笑顔をしてくれた時点で俺の目標は達成できる。今のお前みたいにな。もちろんお前との関係はこれからも続くけど、これで一区切り、一旦の終わりってことでもある。だから全体で見れば終わらないけど、一区切りって意味では終わりはあるんだよ。だから思い出もたくさんできる。一段落した後にその思い出を想起することなんて、今まで数えきれないくらいやってきた。そして俺も次の思い出作りに入る。つまり、お前の力が必要な時が何回も訪れるってことだ」

 

 

 そもそも終わりのないこと、ゴールのないことを追い続けるのは精神的にもしんどくなるためさっき言ったように区切りは自分の中でつけている。ま、大枠で見たら終わりはないんだけど、要所要所で女の子の綺麗な笑顔を見られればそれでいい。今のコイツの、全てをやり切った晴れやかな笑顔でそれを感じている。

 直近ではコイツらの卒業で一区切りだし、この先もまだ知らない子たちとの出会いもあるだろう。いずれソイツらとの思い出もできる。そしてまた次の思い出へと続く。俺といる限りは夢と完結と思い出になる瞬間、そして次への架け橋は幾度となく見られるだろう。

 

 

「お~っ! 先生にそこまで期待されると自分の将来にもたくさん希望が持ててきマシタ! これからも可可の思い出に先生をたくさん刻み込みマス! そして先生の思い出にも可可をたくさん登場させてあげマス!」

「そうか。じゃあちゃんと俺について来いよ」

「もちろんデス! 改めてよろしくお願いしマス!」

 

 

 可可は夢を見ていたスタートから全て思い出となったゴールまで綺麗なストーリーを描き、それに一旦の区切りをつけた。

 そんな彼女も近々新しい道を歩み始める。今度はどんな思い出を残していくのか。彼女の走る道を期待して一緒に歩んでいくとしよう。

 




 可可の最後の個人回でした。
 かのんたち三年生は入学時点からストーリーを見てきた都合上、過去シリーズのキャラよりも夢を最も叶えて卒業する子たちという印象があります。可可なんて特にそうで、海外から飛び出してきたからこそ夢を終えて思い出が強く形成されているように思えます。
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