ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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 後書きにミニ告知があるので、是非最後までご覧ください。



輝きへと至る軌跡

「あれ、お前だけか? 他の奴らはどうした?」

「はい。今日はみんな用事で来られないみたいなので、きな子一人っす」

 

 

 生徒会室に顔を出してみると、きな子が生徒会長の席に座って書類仕事をしていた。もうすぐ卒業と入学の時期だから生徒会も忙しいのだろう、特に生徒会長であるコイツは『ラブライブ!』を終えたことで今年度に残されたイベントはもうないため、こうして生徒会業務に勤しむことを日々の慰めとしている。生徒会長になってもうすぐ半年なので仕事にはかなり慣れている頃だが、流石に繁忙期の経験はないからか現在進行形で苦戦をしている。

 とは言え汗水垂らしながらも何事も真剣に取り組むコイツのことだ、ギブアップすることはないだろう。そう、今のコイツであればな。

 

 

「えぇっと、そんなに見つめられると恥ずかしいと言いますか……」

「あぁいや別に。ただ今日も頑張ってんなって思っただけだよ。『ラブライブ!』が終わったってのにギアを止めず、むしろ加速させてるように見えるからさ」

「もちろん! これから生徒の長として学校を引っ張っていく存在っすから! まだ先輩たちがいますけど、最上級生になった時に在校生や新入生に頼り甲斐のある人って思ってもらいたい。なので勉強のために今から頑張っているっす!」

 

 

 きな子はやる気に満ちている。

 随分と逞しく育ったものだ。出会った頃は引っ込み思案で自分の長所を語るどころか自分を魅せることもしなかった。スクールアイドルなのに自分をアピールしないのは致命的だ。スクールアイドルに入る手引きをしてやったはいいものの、この調子で本当にやっていけるのかと少し不安を抱いていた。

 でも今や自分が生徒のトップに立つことを恐れておらず、むしろ意識高い系の高揚しか感じられないのでこれまでのコイツとは別人かと思ってしまうくらいだ。そう見えてしまうくらいに成長したと言うことだろう。弱々しい雰囲気を醸し出していた入学当初とは大違いだ。

 

 

「なんか、今日はやたら先生の視線が熱いっす……。もしかしてこんなやる気があるきな子、やっぱり変だったっすか!?」

「急に冷静になるなよ……。全然そんなこと思ってない。むしろ自然と前向きになっているお前を見て、俺も嬉しくなっただけだ」

「嬉しい? きな子が前向きになると、嬉しい……?」

「あぁ。それだけお前の笑顔が見られるっつうことだから」

「そ、そうっすか……」

 

 

 きな子は羞恥心をくすぐられたのか、作業する手を止めて俯いてしまった。赤くなった頬を隠すためだろう。まあそんなことをしても丸見えなんだけど……。

 

 

「おどおどしまくってた頃に比べたら変わったよなお前。ま、あれだけ大きなステージに何度も立ってちゃ肝も据わるか」

「はい……。確かにこの前の『ラブライブ!』の時も緊張はあまりなかったっす。一度経験しているというのもありますが、なにより先生に輝いている自分を見てもらいたいって気持ちが強かったっすから」

「なるほど。でもそれだとお前の成長の源は俺ってことになるけど?」

「実際にそうっすよ。輝く自分を自分自身が見てみたいって朧気に思っていたことこそ結ヶ丘への入学のきっかけでしたけど、それを形にしようと思ったのは先生のおかげっす。先生と出会ってその優しさに触れて、きな子の理想の男性像でもあり、もっとこの人に自分を見てもらいたい。だから今の臆病な自分じゃなくて、入学前に秘かに抱いていた輝ける自分を目指さないとって」

「…………」

「え、なんすか黙って……?」

「いや、なんでもない」

 

 

 敢えて何も言わなかったけど、コイツさっき普通に恥ずかしいこと口走らなかったか? 俺って理想の男性像だったんだなコイツの。今までそんなこと一言も口に出したことがなかったのに自然にポロっと漏れてしまうってことは、もしかしてコイツも()()の決心をした後なのかもしれない。自分の気持ちに素直になっているからこそ漏れてしまった、みたいな。まあ俺から指摘を入れると下手に羞恥心を刺激してしまいそうなのでやめておこう。決心をしたのにまた心を揺さぶる必要はないからな。

 

 ただ、きな子が自分を輝かせたい気持ちがあるってことは知っていた。そしてなんとなく誰かのためにそうなりたいと思っていることも薄々勘付いていたので、さっきのお漏らしに驚いているわけでもない。あのアガリ症のコイツが恋愛話に容赦がなくなっていることに少し意外と感じただけだ。

 

 俺の沈黙にきな子は首を傾げるも、そのまま話を続ける。

 唐突な自分語りだが、どうせこの部屋には俺たち二人しかいない。それにこの後に恒例の重要イベントが訪れるはず。ここは黙って耳を傾けておこう。あまり自分のことを話さないコイツから思いの丈を聞けるなんて中々ないことだしな。

 

 

「入学する前、そして入学してからしばらく、きな子の目に映るもの全てがきらきらしていてその眩しさで立ち眩みするほどだったっす。でもそんな輝きに負けないくらい自分を変えたいと思ったのは先生や先輩たちと出会ったからっす。スクールアイドルのライブを目の当たりにして、手が届きそうな輝きがそこにはあった。もちろんスクールアイドルを軽んじているわけではなく、スクールアイドルこそが自ら輝くためのスタートラインなんだと思ったっす。体力のないきな子は練習前のストレッチだけでもヘトヘトになったり、チャームポイントがないから笑顔が堅かったり、苦労したことは多かったっす。でも先生や先輩はそんなきな子を見捨てなかった。特に先生は口数は少なかったすけど助言がいつも的確で、きな子の心に寄り添ってくれました。いつの間にか惹かれて事あるごとに先生に相談していた気がするっす。そして先生の夢を知った時にきな子は願った。どうせ輝くのであれば、先生のお眼鏡に適う輝きを放ちたいって。そして先生と毎日を過ごしていくうちに、その先生のためって意識がどんどん大きくなっていったっす」

 

 

 俺を意識しているのは知っていたが、原動力の大半を占めているとは思わなかった。あくまで自分が納得するための輝き、その結果に至る指標として『俺の注目を煽る』ことを定性評価として設定しているものと思っていた。話によると途中までは自分のためだったそうだが、日に日に想いが肥大化していったのだろう。輝きを求めるそのものの理由を俺のため、自分ではなく好きな相手のためだと秘めるようになった。

 

 確かにコイツの成長具合は凄まじい伸びだった記憶がある。好きな相手ができると自分をより魅力的に磨こうとするのは恋愛の常で、コイツもそれに違わぬ意欲を持ったらしい。つまり俺がきな子のことを成長したと思ったことについて、もしかしたらコイツにそう感じさせられていたのかもしれない。自分のためではなく好きな相手のために輝く、そう決意して自分を磨いたコイツに俺の感情が誘導された。真偽は不明だが、そう思った方がなんか詩的だろう。

 

 

「それでもやっぱり輝くって凄く難しいことなんだと痛感した時もありました。ただ同級生の仲間ができて、慣れない者同士で切磋琢磨し合って、そして一度『ラブライブ!』を優勝した。その時には先生への想いはとても大きくなっていて、もうこのままゴールしてもいいのではと思っていたっす。でも先輩たちや同級生のみんなは止まらなかった。連覇を狙ってまだ輝き続けようとするみんなを見て、私ももっと輝きたい。この人たちとであればもっと先生の目を惹きつけられると思ったっす。田舎町から出てきた地味なきな子がどこまで輝けるか、自分自身で楽しみになっていました。その時からだったかもしれません。今の前向きな気持ちになれたのは。今までは照らされた道を歩いていただけですけど、自ら輝きを放って突き進むことができたっす」

 

 

 自分のことをイモいと称して何事も後ろ向きに考えてしまうきな子だったが、今やそんな毛はあまり見られない。自分磨きを極めた結果だろう。ネガティブ発言が目立った去年と比べれば今年のコイツは自信を自ら生み出して内に抱えるようになっており、たまに転ぶ時もあるけどめげずに立ち上がる。以前だったら転んで意気消沈したら立ち直るまで時間がかかってたから立派な成長だ。

 

 

「その行き着いた結果がこれか。『ラブライブ!』の連覇に生徒会長への抜擢。もはや地味な田舎っ子だなんて誰も思わねぇし、そうも見えなくなってきた。お前の雰囲気がいい方向に変わったからだろうな。尊敬されることも多くなってきただろ。一年生に話しかけられてるところよく見るから」

「はい、嬉しいことに。誰かに認めてもらえていること、それこそ自分が輝いている証にもなったっす。まあそれでも恋先輩から生徒会長を推薦された時は戸惑いましたし、マルガレーテちゃんから体力がなさ過ぎると面と向かって言われてグサッと来たことはありますけど……。そんな心の弱さを持っているのもきな子なんです。いくら自信がついても小心者の自分は消えることはありません。でもそれでいいと思ってるっす。そんな弱さも受け入れたからこそきな子は前向きに、そして輝けたのではないかと……。えへへ、柄にもなくちょっとクサかったっすかね」

「いいや、全然」

 

 

 コイツが変わったってのはそうなのだが、実際には自分の弱さを包み込めるくらいの強さを手に入れたから、つまり変わったと言うより自分を認める包容力が生まれたからだろう。その強さこそが自信であり、コイツを輝きを彩っている一番の要因なのかもしれない。存在しているだけで愛嬌を振りまくマスコット的な奴もいるがそれは例外中の例外で、大抵の奴らは自分で動かなければ輝くことができない。きな子の場合はスクールアイドルに入ったこと、そして自分の心を強くしたことで己を輝かせたのだろう。

 

 

「先輩たちや同級生のみんなからも変わったねって言われて、後輩たちからも尊敬の眼差しで見つめられて、ステージに立つ時よりもそっちの方が恥ずかしかったりするっす。でもさっきい言った自分の輝いた証は、一番見せたかった人にまだ見せられていません」

 

 

 ここで話が戻る。そう、コイツが自分をここまで輝かせたいと思った最大の理由。

 

 

「先生。きな子は――――輝いていましたか?」

 

 

 真剣な眼差し。曇りもないため迷いがない。俺がどう反応するか既に分かっているかのようだ。ただそれくらい自分に自信があるのだろう。以前のコイツでは考えられなかった前向きな思考。

 なんだか口車に乗ってしまう気がするから癪だが、今のコイツを見ているとそんな悶々とした気持ちなんてどうでもよくなる。だって他の誰もが今のコイツを見たとして、答えはどうせ1つしかないんだから。

 

 

「あぁ、目が潰されるくらいに輝いてるよ」

 

 

 誰も否定なんてできない。ここまでの軌跡をリアルタイムで追ってきた俺がそう思ったんだ、否定できないどころかその権利すら誰にもない。

 俺の返答を聞いたきな子は何も話さず、ただ小さく笑みを浮かべて幸福にふけっているようだ。自分が輝けている自信があったとしても、実際に言葉で認めてもらえて安心したってのもあるのだろう。そりゃそうだ、なんたって俺に魅せるための輝きだったんだから。

 

 ただし、コイツの本音は更にその先にある。

 どうしてそこまで俺に己の輝きを披露したかったのか。考えるまでもない。コイツが俺に向ける感情を知ってさえいれば。

 

 きな子は落ち着いたのか目を閉じ、しばらくして再び俺に向き直る。そして再度その眼差しに光を宿していた。もうそれだけでコイツの想いの強さが窺える。

 そして、軌跡の終着点に至る最後の言葉を放った。

 

 

「ようやく自分の想いを伝えることができます。自分で納得のいく自分になることができて、魅力たっぷりの先生の隣に並び立つに相応しい輝きを持つことができたと自負しているっす。だから――――」

 

 

 きな子は立ち上がって一歩前へ出る。眼前に迫るポジションとなった。

 以前のコイツならこの距離感だと照れくさくなって恥じらいに惑わされていただろう。だが今のコイツは前を向き一直線に走る。これまでの軌跡を辿り、振り返らずただ目の前の終着点である俺だけを見て――――

 

 

「これからはもっと先生の隣にいさせてください。先生をもっと近くでこの瞳に映したい。先生の輝きをたくさん感じたい! 先生の優しさも厳しさも、逞しさも勇ましさも、その全ての輝きにきな子は惚れて、好きになったっすから!」

 

 

 俺の近くにいれば好きな相手が目に入る機会も多くなる。単純なことに思えるが、好きな異性だったら目で捉えたいって気持ちは分かる。気になる奴を目で追っちまうような感覚と一緒だ。

 そして隣にいればそんな奴の輝きを浴びることができる。そのために自分を磨いて並び立つに相応しくなった。一途って言葉が最も似合うなコイツ。

 

 

「もちろん、拒否する理由なんてないよ。ただ1つだけ条件がある」

「えっ……?」

「身構えるなよ。これからも輝き続けて欲しい、それだけだ。お前の高校生活はまだ一年ある。スクールアイドルを続けるからにはこれまで以上に魅せて欲しいんだ。今よりも、もっと成長したお前を」

 

 

 きな子の想いは受け入れる。最初から決めていたことだ。

 でもそれだけではなく更なる注文をつけてしまった。ここからまた更に成長しなきゃいけないのかと高いハードルを置かれたと思われるかもしれない。でも今のコイツにとって俺の言葉は全て鼓舞にしかならないだろう。

 

 現にほら、やる気の満ちた瞳をしている。

 

 

「先生に言われずともそうすると決めていたっす! 春からはスクールアイドルとしても三年目で手練れになって、生徒として最上級生で生徒会長。きな子の伸びしろはまだまだたくさんあるっす!」

 

 

 あまりにも前向き過ぎる発言。これ以上の成長なんて無理と嘆く姿は想像できたが、実際にはそうではない。もう昔の弱い自分とは違うんだと、想像の中のきな子が妄想をぶち壊してきやがった。

 それくらい彼女の印象が変わった。ひたすら前を突っ走る彼女に俺も(おく)れを取らないようにしないとな。

 

 

「あのぉ……もう少し近くに寄ってもいいっすか?」

「ん? いいけど」

「もう少し」

「あぁ」

「もう少し」

「あぁ」

「もう少し」

「もう抱きつけそうになってるぞ……」

 

 

 告白の時点で結構迫って来ていたきな子だが、更にどんどん近づいて、気付けばほぼ密着状態にまでなっていた。

 そして俺の腰に軽く両腕を回し、頭を俺の胸に預ける。前向きな自信を持ち始めたおかげか積極性も上がったようだ。

 

 

「これからは新しい道のりを歩み始めます。でも今だけ。今だけは軌跡の終着点に到着したってことで感傷に浸らせて欲しいっす。ダメ……ですか?」

「いやもう抱き着いちゃってるし……。いいよ、満足するまでそうしてろ」

 

 

 その返事を聞いたきな子はくしゃっとした笑顔を見せた。こんな笑顔を見せられたら俺も改めて決意するしかない。この笑顔を守りつつ、これ以上の輝かしい笑顔を見せてもらうために俺だってより一層コイツの、みんなの隣にいられるようにしないとな。

 

 ただ今だけは立ち止まってコイツの成長を祝福する。

 守るべきこの笑顔を、自分の瞳と記憶、そして心に焼き付けながら。

 




 きな子が生徒会長になる流れは生徒会に属しているのでなんとなく想像していましたが、実際にアニメでその話を観てみると彼女の成長っぷりに感動した記憶があります。二期生の中で一番最初に加入した影響で、加入前後の心理描写も多くて彼女のことを理解していたからかもしれません。

 これで個人回は残り3人となりました。
 これまでこ個人の想いをここまで伝える描写ってあったかなかったかレベルなので、長岩数をかけていますがそれだけ新鮮だったりします(笑)


 ここでちょっとした告知です。
 Liella編もクライマックスが近くなってきました。そして良いタイミングでゴールデンウイークとなったので、この期間中は追い込みを入れるために投稿回数を増やそうと思います。(ただ、この期間内に完結はしないです)
 現在予定しているのは以下の日時となっていますので、ご都合が合えば是非遊びに来てください。もし予定がズレる場合はX(旧Twitter)か活動報告で連絡します。

・4/30(水) 0:00
・5/2(金) 0:00
・5/5(月) 0:00
・5/7(水) 0:00











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