ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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尊崇たる愛慕、涜神たる傾慕

「そろそろあなたの新しい写真が欲しくなってきたわ。そのためにスマホの容量を拡張したのよ」

「盗撮すんなよ」

「だからこうして許可を貰いに来たのでしょう?」

「さっきので承諾を得られると思ったのか……」

 

 

 澁谷家、マルガレーテの部屋。今日はLiellaの『ラブライブ!』優勝記念スイーツを作ったとありあから連絡を受け、前と同じく味見の依頼を受けてここへ訪れた。

 訪れたまではいいのだが、食い終わってすぐマルガレーテに話があると誘われて部屋に連れ込まれてしまった。何やら神妙な面持ちだったのでコイツも冬毬と同様に自分の気持ちに整理がついたのかと思ったら、部屋での開口一番がさっきのセリフだ。拍子抜け以上に敵陣に無防備で乗り込んでしまった感があってちょっと怖いんだけど……。隠しカメラとかねぇよな?

 

 

「そんなに挙動不審になる必要はないわ。カメラなんて仕込んでいない。あなたを写すのであれば自らの手で撮る。自分の手で撮影した写真だからこそ愛が込められる。そうでしょう?」

「正論っぽいこと言っても騙されねぇぞ。いつも俺の目があるところで許可なく撮りまくっているだろうが。盗撮じゃないからOK理論じゃねぇんだよ」

「あなたがモラルを語るなんてね。いつの間に常識の枠に収まる無味乾燥な器になったのかしら?」

「ああ言えばこう言うな、相変わらず。そういうところ七海とそっくりだ」

「反吐が出る名前を出すのはやめなさい」

 

 

 お前が先に仕掛けて来たんだろと追撃したくなるが、実りのない論戦をしても時間を浪費するだけなのでここでやめることにする。

 ただ減らず口は七海とコイツ揃っての得意技だ。秋葉も同じのため教育者の悪癖が伝染したのだろう。しかも揃いも揃って頭が回るためワードチョイスもねちっこいったらありゃしない。それに付き合えてしまう俺も俺だし、だから向こうも愉しくなって驕り高ぶるのだろう。

 

 閑話休題。

 真面目な話がしたいからとベッドに腰をかけるよう促される。くだらない余興はいいからさっさと話せよと言いたくなるが、さっきのはさっきので自分のペースを取り戻すためだった可能性もある。大事な話の前だから落ち着きたい気持ちがあるのかもしれない。って、それはポジティブに捉えすぎだろうか。

 

 マルガレーテは床のクッションに腰を下ろす。

 位置的にこちらを見上げる形となり、その眼光は俺の目を捉えて離さない。たださっきまで私欲をダダ洩れしていたのも関わらず、その翡翠色の瞳は純潔で一切の曇りがない。真っ向からの盗撮なんてふざけた行動をすることもあるけど、本人は至って真面目なんだ。本当に、ただ純粋に俺のことが好きってだけの一途さがある。だからと言って奇行を許すわけじゃないが、本人はそれくらい本気なんだってことを言いたかっただけだ。

 

 相変わらずクールな表情は崩さないマルガレーテ。ただ俺を見つめたまま何かアクションを起こすわけでもなく、ただ沈黙を貫くのみだ。真面目な話とやらはどこへ行ったのか、俺を自分の部屋へ連れ込んだ目的からかなり逸脱している気がする。いつもなら容赦なく本音をぶつけてくるのに今日はやたらと遠回りだ。そもそも心ここにあらずって感じだけど……。

 

 あまりにも話が進まないので、痺れを切らしてしまった俺が先に話しかけてしまった。

 

 

「おい、いつまで黙ってるつもりだ?」

「――――――あっ、ゴメンなさい。あなたに見惚れてたわ」

「マジで意識飛んでたのかよ……」

「えぇ、夢だと思ったのもの。あなたが私の部屋にいることが。ずっとこの時を待っていた。あなたを私一色の空間に呼ぶこの時を……」

「なんか監禁願望があるみたいに聞こえるけど……」

「違うわ。あなたを私の土俵に立たせる必要があったのよ。あなたは人を囲い込むのが上手い。いつペースを崩されるか分からないからこそ本気の話をする時は自分の土俵に誘い込む必要がある。そうでないと十全な力を発揮できないの」

 

 

 なるほど、所構わず俺にアプローチを仕掛けてきていると思っていたけど、あれはあれで俺のペースに必死に抗っていた結果なのか。もはや俺に容赦もなければ羞恥心も感じない、ナチュラルに無心な性格かと思っていたがここへ来て予想外の事実だ。

 

 ただ気持ちは分からなくもない。そりゃ物心が付いた時からずっと好きだった相手で、高校に入ってようやく一緒の空間にいられるようになったんだ。十数年も蓄えてきたその想いをようやく発揮するタイミングが来た。それだけ積もりに積もらされた相手だ、平常心でいられる方がおかしいのかもしれない。今までのコイツを見てると一切の緊張もなかったように見えた俺の目は節穴だったか。まあ体裁だけでも冷静を装っていたたけでも凄まじい精神力だが。

 

 

「へぇ、純粋に可愛いところあるんだなお前」

「なに? 馬鹿にされてるの私?」

「いや人並みにプレッシャーを感じることもあるんだなって」

「人並みって、これでも普通の女性として普通の恋愛をしているつもりよ。人を監禁したり概念を消したりする無法者のあの子とは違ってね」

「はは……」

 

 

 七海と比較すれば確かに同じ境遇で同じ教育者から育ち、同じ相手を好きになったのに恋愛の仕方はまるで違う。アイツは他者を巻き込んで多少被害が出ようがおかまいなしの暴走特急だが、コイツは周りの人間に配慮しつつも自分の気持ちを貫く直球さを見せている。普段の口調から冷徹だと思われがちな彼女だが、その実かなり思慮深いんだ。まあそれは七海も似たようなところはある。引き起こす事態が大か小なだけで……。

 

 

「お前が思ったより普通だってのは俺もアイツらもよく分かってることだ。一年前の『ラブライブ!』、お前一人だけのステージを観た時は誰もが圧倒的な孤高の存在と信じてたから。そう信じさせられたって方が正しいか。七海に監禁された事件の時のお前も凄い啖呵の切りようだったし、その態度に周りが萎縮するのも無理はなかったよ。でもLiellaに入ってから印象が変わった。確かに言葉がナイフになることもあるけど、きな子や夏美のウィークポイントを堂々と指摘したり、自分の練習方法を取り入れるよう千砂都に提案したり、衣装やステージ照明のアドバイスにも積極的だったり、普通に仲間想いだってことがよく分かったよ」

「なによ急に褒めて……。せっかく自分のフィールドにおびき寄せたのに、これだといつもと変わらないじゃない……」

「俺がそんなことで調子を崩すわけねぇだろうが。つうか女子の部屋なんて過去に何回入ったことがあると思ってんだ。部屋どころかベッドとか風呂とか、女の子のあらゆるプライベートに侵食しまくってるっつうの」

「敵陣で自我を保つ理由がそれだなんて王者すぎるわよあなた。ただそういうところが好きになったのよね……」

 

 

 だって事実なんだから仕方がない。そりゃ昔は女の子の些細な言動で狼狽えていたこともあったけど、今となっては器も広がったのか多少の厄介事ですら受け入れられる。七海の事件だって俺からは何も咎めなかったしな。

 

 対してマルガレーテは自陣でも自分のペースに乗せられずに苦戦しているようだ。意外と自分を律することに意固地になっていることには驚いたが、それも人間味を感じられる可愛い一面だ。入学当初も孤高の存在で高嶺の花とか言われて、Liellaの連中も同じメンバーとなった時には戦慄してたからな。まあ蓋を開けてみたらさっき言ったみたいに仲間想いのいい奴だったわけだが。

 

 その時、マルガレーテが小さく深呼吸する。何か心境が変わったのか決心がついたのか、自慢のツリ目でこちらを見上げた。その瞳の輝きは鋭くこちらを今にも貫通しそうな勢いだ。珍しく熱が籠っているようにも見える。

 そして、再び口を開く。

 

 

「逆に私から見たあなたの存在は、崇め奉りたくなるくらいに昇華したわ。あなたの活躍を実際にこの目で見られて心が震えた。普段は目立たないようにしてるけど、顧問として教師として、男としてかのんたちの救世主になる姿、事件解決に奔走する姿、何もかもが魅力的で心を打たれたの。何もかもを見通して、たくさんの女性に好かれるその気骨さと勇猛さ。まさに人の上に立つに相応しい王者の貫禄。私が幼い頃からずっと見たかった光景がそこにはあった。あなたが漢を発揮すればするほど私も興奮してしまうほどに惚れ尽くしてしまった。純粋に恋する者として崇拝していたのはもちろんだけど、同時に冒涜するくらい狂おしい愛を抱いているのも事実。その善悪の愛が私があなたに向ける想いを更に増幅させている! もう私を飲み込んでしまうくらい! その混沌とした愛の潮があなたをも飲み込んでしまうくらいに!!」

 

 

 マルガレーテは立ち上がり、今度は俺を見下ろす体制となった。

 自我を狂わせながらヒートアップしている。さっき体裁だけは冷静を保つことができて凄いと思ったが、俺に対する気持ちが増大するとここまで壊れるのか。声を荒げるなんて初めて見たから驚いたけど、これこそがコイツの本心らしい。これまで愚直だが素直にアプローチを仕掛けてきたコイツの真の気持ち。あれだけ真っ向から気持ちを伝えてもなお発散できていなかった想いが、今まさに噴火のように吐き出されたってことだ。こりゃとんでもねぇ災害だぞ。

 

 

「一途にあなたを慕って敬愛する清らかな愛と、自分が乱心してもいいしあなたをその狂乱に巻き込んでもいいと思う混濁した愛! 善と悪の愛どちらも私の想いの全て! 私にとって王でもあり神でもあるあなたが周りに振りまく誠実な態度にも惹かれ、逆にアウトローな面にも骨抜きになる! 受け入れてもらえるかは今はどうだっていい! これが差し当たる私の気持ちよ!」

 

 

 叩きつけるような想いの吐露。白と黒が互いに滲み合ったその愛が十数年の時を経て全て外界へと放たれた。

 マルガレーテがここまで感情的になるのは珍しい。いついかなる時も、七海にスクールアイドルの概念を消されようが『ラブライブ!』の決勝前だろうが泰然(たいぜん)とした態度こそ彼女たる所以だった。その気高く透き通るような声色は大衆を魅了するが、今のような勢い任せの咆哮を聞くと彼女がいつもの彼女とは思えなくなってくる。

 

 だが、その想いは間違いなく俺が知っているコイツのものだ。純粋に満ちる愛も狂気に乱れる愛もどちらも知っている。だからこそいつもと違うコイツの雰囲気に飲まれずにその気持ちを受け止めることができた。自分がどれだけ愛されているのか身をもって全身にひりつくほど感じられたんだ。

 

 マルガレーテは軽く息切れを起こす。荒げた声を上げるなんて慣れてないから一気に体力を持っていかれたのだろう。

 

 

「はぁ……。取り乱して悪かったわ。でも自分の気持ちのありのままを伝えたつもり。さっきも言った通り、現時点での……だけれど」

「今のって、告白ってわけじゃないみたいだな……」

「はぁ? そんなわけないでしょう。あなたへの想いがあれで語り尽くせると思ってたら大間違いよ。もっと私のことも勉強することね」

「あれでまだ終わりじゃねぇのかよ……」

 

 

 あんなに炎を噴出させていたのにまだ燃え盛り足りないのか。コイツが秘める俺への想いはまだ相当煮え滾っているらしい。さっき以上の大噴火って、もうコイツのキャラが崩壊しちまうんじゃねぇか? 今もかなりぶっ壊れてたけどさ……。

 

 

「私の高校生活はまだ二年もあるもの。その間に私の知らないあなたの顔を発掘できるかもしれないし、私の魅力もあなたにより多く伝えることができる。こんなところでゴールしたら勿体ないわ」

「冬毬と同じこと言いやがって。かのんたちには聞かせられねぇな……」

「あの子たちみたいに焦る必要もないし、ついでに七海も消えるから動きやすくもなるし、故にあなたと一緒にいる時間は今よりも増える。ここで行き急ぐ必要はないのよ」

「そりゃそうだろうけど、言いたい放題だなお前……」

 

 

 人を蹴落としてでも自分の恋愛を成就させたいという猟奇的な思考ではないにせよ、俺の周りから人が減ればそれだけコミュニケーションを取りやすくなるという利己的な思考。ただそれは誰かの存在や行動に左右されない芯の強さとプラスに考えることもできる。俺に対する想いは清らかだったり混濁していたりするけど、それを伝える道筋は綺麗な一本線ってことか。

 

 

「それに、ここで告白してもその余韻は次のイベントでかき消されてしまうだろうから、無暗に急ぐ必要はないわ」

「イベントって、まさか卒業式のことか?」

「えぇ。あなたにとって初めて生徒を見送る大切なイベントだもの。それで私の告白の熱が冷めるのは萎えるから、ここは溜まっていた想いの一部を吐き出すだけで我慢しておくわ。まぁ、私の情熱的な告白で卒業式に集中できなくなるくらい虜にするのも悪くないけれどもね」

「はは……気遣い感謝するよ」

 

 

 案外気にかけてくれていたのか。七海と言いコイツと言い、奇天烈な時もあるけど根は心遣いできる奴らなんだよな。教育者の秋葉も性格は終わってるけど微量の温情は残されてるし、やっぱ子は親に似るってのはその通りかもしれない。まあ養子としての親は別にいるらしいから、その親の性格が良かっただけかもしれないけど。

 

 ともかく、マルガレーテの本音を知ることができたいい機会だった。加えて普段見ることのない彼女の表情も見ることができたし、あそこまで情熱的になれるんだってことも知れた。これまで以上に接しやすくなったし、思ったより子供っぽくて可愛い言動もするって分かったからより愛着が湧いたよ。やはり本音を聞かされると心の距離が近くなるな。

 

 

「そういやお前はどうなんだよ? 卒業式、何か思わないのか?」

「別に。一応スクールアイドルとして楽しい思い出を作れたのは先輩たちのおかげだから、そこは感謝してるわ。だってLiellaがあったおかげであなたの懐に入り込むことができたわけだもの」

「楽しい思い出ってそれかよ……」

「なんだかんだこの一年は有意義にやらせてもらったわ。でも本番はこれから。覚悟しておきなさい、私のアプローチはまだまだこんなものではないのだから」

 

 

 ツリ上がった眼で真っすぐ俺を捉える。新たな決意表明。あれだけの想いで俺の胸を抉りながらもまだその威力を高める気でいる。

 これあと一年もしないうちに俺を殺せるパワーになるんじゃねぇか。こっちも防御力を高めてマジで覚悟しておかないといけないけど、それはそれで楽しみになってきたな。

 

 

「じゃあ行きましょう」

「え、まだどこかに行くのか?」

「どこって、優勝祝いスイーツの味見よ。さっきのはありあが作った分で、私の分がまだあるから。ちなみにフルーツもケーキもクリームも盛り沢山よ」

「あ、そう……」

 

 

 コイツの熱狂的な愛を受け入れる覚悟より、どうやらまず腹を壊す覚悟をする必要がありそうだ……。

 




 マルガレーテの最後の個人回でした。
 この小説の彼女はアニメと違ってクール系にしてみたいのですが、私の中では結構ハマったかなと思っています。アニメ3期だと強キャラが仲間になってポンコツになる典型例みたいな言動も多かったですが、小説ではイイ感じに威厳を残させたかなと(笑)

 ていうか冬毬もですが、小説だとかのんたちとは違ってこの章でしかメインキャラとして活躍できないので、かのんたちに負けないくらいの精神と威厳を持たせないと目立たないだろうなって思いがあり、冬毬も含めて強キャラ感にしたという経緯があったりします。
 結果、二人さすがに告白までには至りませんでしたが、彼に現在の想いをしっかり伝えられていい締めくくりになったのではないかと思っています。



 次回も個人回で遂にラストの1人です!
 投稿は5/7(水)の0時を予定します。
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