ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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想いが煌めく一等星

「改めてありがとうございます。こんな時間にお付き合いしてもらって」

「問題ない。つうかお前こそ明日卒業式なのにこんなアグレッシブでいいのかよ」

「むしろ卒業式の前である必要があるんです。まあ決心や動き出しが遅いのはいつもの私ですけど……」

「そういや以前もそうだったな」

 

 

 かのんのお願いで夜にバイクを走らせている。行き先は天体観測がしやすい丘。昨年度にもコイツを連れて行ったことがあった。

 少し前からお願いされていたこととは言え、まさか卒業式の前夜にこんなことをするとは思っていなかったな。教師が生徒をこんな時間に連れ出すなんてお縄にされる事案だが、それをコイツの母親に相談したらありあと二人で愛の逃避行をするのではと何故か黄色い声で楽しそうにしてたし、同居人のマルガレーテは全てを察していたようで快く送り出しの許可を得た。マルガレーテはともかく親と妹にまで何をするのかバレているようなので、普段のコイツって俺をダシにしてからかわれてそうだとちょっと不憫に思ったぞ。

 

 都会から少し離れた場所へ向かっているため、この時間になると人通りはかなり少ない。そのため会話がなければバイクの音と風を淡く切る音だけが耳に響く。3月中旬で春到来とは言っても夜はまだやや冷える。だから厚着をしてもらったのだが、なのにも関わらずさっきからずっと俺に密着しっぱなしだ。いや後ろに乗ってるんだからそりゃ抱き着くだろって話だけど、なんか近すぎる気がする。密着ってより接着と言った方が正しいと言わんばかりの一体感だ。

 

 そんな中で適当に会話を挟みながら目的地へと到着する。星が見やすい場所とは言えども特別なスポットってわけではないため人はいない。ただ今から超プライベートな話が展開されると思うとむしろ誰もない静まり返ったところの方がいい。だからここは雰囲気の良さも相まってデート感覚で来るには絶好のスポットだ。

 

 バイクを停め、ヘルメットを外して丘の頂上までの階段を上がる。

 

 

「なんだか前にここに上った時のことがつい先日のように感じます」

「そうだな。前は『ラブライブ!』の前だったから時の経過が早く感じるよ」

 

 

 以前にここでコイツの気持ちを聞いてから『ラブライブ!』を二回も経験している今。だけどその時の雰囲気やお互いの表情、言葉、何もかも鮮明に思い出すことができる。ついこの前のように感じるのもコイツらとの日々が濃厚で楽しかったからなのか。教師としても全学年に生徒が揃った今年度は色々多忙だったのに、振り返ってみればもう卒業の時期。オッサンみたいなこと言うけど一年の流れって本当に早い。

 

 他愛ない会話をしながら丘の上に辿り着く。

 そこから見えるのは相変わらずの満天の星空。月明りの中に星の銀砂が煌めき、無数の光が夢の景色のように広がり眺めが美しい。その星々はその間を指でくっきりとなぞれるくらいに綺麗に輝いており、実際にかのんが指を伸ばして星と星と繋げようとしていた。彼女の目も星に負けないくらいに輝いており、前にも同じ光景を見たことがあるにも関わらず初見の時と同じ衝撃を受けているようだ。

 

 

「前に先生に連れてきてもらった時から星を観るのが好きになって、実は一人でもよく観るようになったんですよ。今では立派に趣味の1つです!」

「へぇ。じゃああれからここに来たりしたのか?」

「いえ。ここへは先生と来る、先生としか来ないと決めているので。私と先生だけの思い出の場所。だけって、響きが好きなんですよね」

 

 

 かのんは苦笑する。敢えて二人だけのパーソナルスペースを確保したいって気持ちがあるのか。さっきも言った通りここは隠れスポットっぽく人の出入りも少ないため、安易に誰かに教えたくないってのもあるのだろう。それが例え親しい友人だったとしても、いつどこで誰が情報を漏らすか分からないからな。真に秘密にしておきたいことは誰に対してだろうが一切口外しないに限る。

 

 

「それにしても、こんな晴れやかな気持ちで星を観るのは初めてかもしれません。天体観測は先生に悩みを聞いていただいた時の思い出。その影響で自分の中で考え事がある時に見上げる光景だって印象が強かったです。でも今は違う。迷いも憂いも一切ない。何もかもを乗り越えてこの場所に先生と一緒に立っている。もう私の卒業式はこれでいいかなって思っちゃいます、あはは……」

「そこまでかよ……。つうか迷いがないって、俺に言いたいことがあるんじゃねぇのか? もうそれすら自分の中で決着がついてるから、伝えた先がどうなろうが気にしてないってことか?」

「気にしてないと言うより、先生の受け入れ態勢が万全なら後は私の覚悟だけですから。そしてその覚悟ができた。だからもう緊張することは何もないんです」

 

 

 さっぱりとした表情で柵の手すりにもたれ掛かるかのん。

 見た目もそうだが雰囲気も精神もこの三年間でしっかりと大人になった。他の奴らにも言えることだが、当初恋愛方面では俺が今まで知りあってきた子の中でも最弱レベルだったのに、いつの間にやら羞恥心で過度に取り乱すこともなくなっている。やはりそれだけ相手に想いを伝える覚悟が固まっているということなのだろう。この精神力が構築されるまで三年間か、一年は短いけどそこだけは長く感じたな。

 

 

「まだ決断を下すのは遅れちゃったりしますが、いざという時に緊張が少なくなったのは自分でも成長かなって思います。入学当初は人前に立つだけでもアガってたのに、いつの間にかあんなに大きなステージに平気で立てるくらいに度胸がついた。Liellaのリーダーとしてみんなを引っ張っていけるのか最初は不安だったけど、いつの間にか後輩たちに頼られるくらいにリーダーシップを磨けた。多大なる緊張と悩みを乗り越えたからこそだと思っています。そしてそれを乗り越えられたのはLiellaのみんなと、なにより先生のおかげです」

 

 

 夜空の下、星空が照らすだけの暗い場所なのも関わらずかのんの頬が紅くなっているのが分かる。同時にその優しい笑みは容姿端麗な面持ちなことも相まって芸術かと疑うくらいに綺麗だ。星々の下でそのような表情を向ける美少女の存在は、恋する乙女が放つ純情たるこのムードの構築に拍車をかける要因となっている。思わず彼女の作り出す安らかな空間に吸い込まれてしまいそうな、そんな予感がするほどだ。

 

 

「私の高校生活は先生なくしては語れません。面倒事からは逃げ、歌う前にはアガって、何事もまず否定的で、そんな自分がイヤになって自暴自棄になり荒れる。治したい性格だと分かっていても自分に立ち向かう勇気もなく、折れた方が楽だと悟って結局帰着するのはいつもの心の殻の中。スクールアイドルをやり始める前は特に顕著でしたけど、始めた後もしばらくは全然治らなくて、安心できる心の殻に閉じこもって自分を慰めることもありました。でも先生が殻をこじ開けてくれた。それも私が不快にならないよう、時には強引に、時には一旦殻の外で待って様子を見てくれて、そこの塩梅がとてもお上手ですよね。そのおかげで毎回止めていた歩みを再開できたので、とても感謝しています」

 

 

 一年生の頃のコイツのネガティブ思考は極まっていた。何をするにもまず『無理無理』と首を横に振るし、緊張から逃げの一手に走るのは当たり前。俺やみんなに諭されて渋々受け入れることが多かったし、周りに流されることも多かったからこれでよくスクールアイドルを名乗れるなと疑問に思ったよ。

 

 ただ人の決断に身を任せることを良しとせず、迷いに迷いながらも自分で決断して殻の中から出る努力は惜しまなかった。定期的に後ろ向きにはなれど最後は必ず前を向き歩みを進めていた。その覚悟を持てたのは俺たちのおかげでもあり、そしてコイツ自身の諦めない心のおかげでもあるだろう。ま、一年生の頃のコイツは他の誰よりも繊細でコミュニケーションのどこに地雷が埋まっているのか分からなかったから、俺も多少は慎重になってたけどな。だから決してコイツの後押しは簡単ではなかった、そんな記憶がある。

 

 

「この三年間は間違いなく先生と共に歩んだ道。自分の記憶のどこを切り取っても先生との思い出があります。楽しかった時も辛く悩んでいた時も、どんな時も先生は隣にいてくれました。人生がここまで彩られたのは先生のおかげです。そんな先生の隣にいるといつもドキドキの繰り返しで、たまに事件が起こってハラハラする時もありましたけど、今となってはどれも充実した日々だったと言い切れます。そして、そこまでの刺激と安心をバランス良く与えてくれる先生のこと、私は好きです」

 

 

 かのんは星空を見上げると、すぐに顔を俺の方へと向けた。

 告白なんてコイツが最も取り乱す行為で、これまでも恋愛話になると取り乱してすぐに話題を変えるほどだったらしい。特にありあやコイツの母さんからそのことをよく聞かされていた。

 だけど今はそんな様子は一切見せず、やはり覚悟を決めたと豪語しただけのことはあるのか想いを伝えることに迷いはないようだ。その表情も先程から変わらず優しい微笑みのままであり、自分の心から溢れる愛を花束として渡す。そう感じられるくらいの愛情がその想いには込められている。まさに恋する乙女。その様子を見ている俺も心の鼓動は高鳴っていた。

 

 

「記憶を辿るたびに膨らんでいくこの気持ち。記憶の中の先生の表情1つ1つが私の心を熱くさせる。この想いを輝かせてくれる唯一の存在。もう止められない。だから、改めて――――」

 

 

 かのんは柵から離れると、前へ踏み出し俺の手を握る。

 

 

「大好きです! 世界で一番、誰よりも!」

 

 

 夜風が俺たちの間を吹き抜ける。

 手を握られ、上目遣いで見つめられ、その声が耳の中で響き、その想いの熱さが場の空気と同化して俺を包み込む。気持ちだけではなくあらゆるところから俺はかのんに釘付けにされていた。

 もちろん不快なんてことはない。むしろ心地いい。一年生の頃からコイツが俺に向ける気持ちは理解していた。ようやくだ。ようやくここで俺たちの心が本当に1つとなった瞬間だ。最後のハードルを飛び越えたかのんの気持ちは熱く、受け取り準備ができていると言ったのにも関わらずその熱さにやられ一瞬だけ余裕を忘れてしまった。

 

 どう答えるかなど最初から決まっていたが、このムードに飲まれてしまい少しの間だけ沈黙する。

 それでもかのんはその視線を俺から逸らすことはしない。手を握る力が僅かに強くなったり、こちらに対してまた一歩を踏み出したりと珍しく俺が押されている展開だと察した。

 ここまでみんなの告白を受けてきて、今それが走馬灯のように思い返される。みんな違った想いを俺に向けてくれていて、その熱量はかのんと負けず劣らずだ。そしてこれが11人で最後の告白となる。彼女たちからの愛を思いっきり抱きしめるのもこれが最後なので少し名残惜しい。だから少し沈黙してしまったんだ。

 

 たが、最後だからこそここで躊躇するわけにはいかない。

 俺は優しくかのんに握られていた手を解き、その手を肩に置いた。

 

 

「俺も好きだ。みんなと同じ、世界で一番……な」

 

 

 素直に告白に返答をする。

 吸い込まれそうなくらい綺麗な瞳をこちらに向けるかのん。しばらく夜風がささやく音だけが聞こえる。

 

 こちらの返答に対して更にどう返すのか気になっていたが、その後すぐにかのんが口角を上げた。

 

 

「ぷっ! みんなが一番ってそれ『一番』じゃないですよ! あははっ!」

「えっ、いや俺にとってはみんな一番なんだよ! それはLiellaだけじゃなくて、他の奴らもみんなそうだ!」

「分かってます! 分かってますますよもちろん! いや先生らしい端的な返事だなと思ってたら、言葉の矛盾を発見して思わず笑っちゃいました!」

「んだよ雰囲気壊しやがって……」

「ゴメンなさい! 急に面白くなっちゃってつい!」

 

 

 かのんは涙が出そうなくらい爆笑した。俺にとっては普通の返事のつもりだったけど、そりゃ女の子目線からしたら全員が一番なんておかしいのか。今まで全然気にしたことがなかったな……。

 

 星空の下での告白というあまりに神秘的な雰囲気から一転、笑いが響くコミカル調な空気となってしまった。俺の返事が発端なので俺が原因なんだろうけど、まあお互いに告白とその返事を交わして肩の荷が下りたってことで緩々なムードがいいのかもしれない。

 

 

「でも安心しました。いつもの先生のままで」

「いいのかよ。ナチュラルに他の女の子のことも一番って言っちゃう男だぞ?」

「そんなのもう二年前から分かっていることですよ! それに私もみんなとギスギスなんてしたくないので! むしろ先生が私とみんなを繋いでくれるならそれが一番ベストかな~と思います!」

「お前も大概ぶっ飛んだこと言ってるぞ。俺と一緒になったことでお前も常識人の枠組みから外れること、覚悟しておけよ」

「それはもう随分と前から分かってることなので平気です!」

 

 

 これで他の女とは別れてとか言い出す奴はそもそも俺に告白なんてしないか。でも自分で色んな女の子に手を出しておきながらだけど、女の子側はよく許してくれるなと改めて思ってしまう。多分女の子同士での横の繋がりが強すぎて、俺の周りで一緒にいられるならそれでいいじゃん理論とかとか。であってもこんな特殊な恋愛をしている俺に対して素直に気持ちをぶつけられたコイツら、本当にすげぇよ。そりゃこんな男に告白するんだったら覚悟の1つ2つくらいいるわな。

 

 かのんは全部出し切ったと言わんばかりに気の抜けた表情を見せる。

 全て終わったのであればそろそろ帰ろうかな。明日は卒業式、ただでさえ夜遅いのに無理はできない。

 

 

「来たばかりのような気もするけど、、やることが終わったなら帰るか」

「いや、まだです!」

「えっ?」

 

 

 かのんは俺の左腕に抱き着いてきた。恋愛下手で俺との身体接触に過剰反応していたコイツがここまで積極的になるなんて、告白の成功体験を経て更に成長したらしい。恋の力は偉大だな。

 

 

「もう少しだけ一緒に星を観たいです。だって二人きりの時でないとここには来られませんから。みんなが一番はもちろん承知ですけど、今だけは先生と二人で星を観たい。ウィーンに行ったらあまりこういう機会もないので、今のうちにたくさん思い出を作りたいです!」

「そうか。じゃあもうちょっとだけな」

「はい! ありがとうございます!」

 

 

 かのんのお願いを聞き入れ、しばらくこの場に留まることになった。星を見上げながら思い出を語り合ったり今後のことを話し合ったり、結ばれた後の初デートとは程遠い内容かもしれないが、俺たちの心は間違いなく今まで以上に強固に繋がっていた。

 




 かのん編のラストでした!
 やはり一期生はアニメ3期分丸々の出演があっただけに成長が目に見えて感じられ、最終回付近を観ると感慨深さがあります。彼女も最初は精神ボロボロに弱かったのに、徐々に頼りがいのある姿になって(アニメ制作の都合もあったかもですが笑)いったことは是非この小説でもピックアップしようと思っていました。

 そんなリーダーシップもありイケメンなところも多かった彼女ですが、たまに歳相応に表情が崩れて可愛くなるところ(初めて先輩と呼ばれてニヤケるところとか)も好きだったりします!(笑)



 これにて個人回は全て終了です。
 メインの11人に加え、途中で挟んだ七海や楓、サニパを加えると個人回自体は結構長い期間やってましたね。お疲れ様でした!



 そして次回はいよいよ最終回となります。
 恐らく前後編に分割されると思いますが、是非最後までお付き合いいただけると嬉しいです!
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