ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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【最終話】Let’s be LOVE(前編)

 遂に卒業式の当日がやって来た。

 晩冬が過ぎ去り桜が芽吹くこの季節。卒業生を暖かく迎えるいい空模様だ。穏やかな気候が式の参列者の雰囲気にも影響しており、和気藹々としていたり哀愁を漂わせていたりと様々な様子で活気が溢れている。中には寂しさを感じている人もいるだろうが、その哀愁を含めてこその卒業式だ。式を彩るエッセンスになる。

 

 ただこの学校の卒業式への気合の入れようは他と比べると少し行き過ぎかもしれない。校舎の飾りだけでなく垂れ幕をかけたり、コサージュも高そうなのを注文したりと中々力が入っている。

 これはこの学校、結ヶ丘が再設立されてから初めての卒業式だからだ。結ヶ丘一期生として入学した記念すべき生徒たちが卒業する、いわば伝統の最初の終わりを迎える。再設立校ということで当時入学した生徒はあまり多くはなかったものの、スクールアイドルや他の部活の目覚ましい活躍により次年度からは入学者も増え、今となっては世間的にも認知されるほどの学校へと成長した。そんな学校の救済を最も後押しした一期生たちの卒業式なんだ、学校として気合を入れるのは当然だろう。

 

 卒業式まではまだ時間があるが、結構な生徒や保護者、来賓が集まっている。一部の在校生や教師たちは会場や来場者リストのチェックなどの最終確認があるため朝早くに来ているが、そうでない奴らも既に大勢来ているということはみんな居ても立っても居られなくなっているのだろう。送り出す側も出される側も、当日って自分がどんな気持ちを抱くのか予想できないところあるもんな。だから家にいても息が詰まるだけなので、こうして早めに現地に来て落ち着かない気分を発散させているのかもしれない。

 

 そして俺は何をしているのかと言うと、いつも通りのサボり――――ではなくさっきまで会場のセッティングの最終調整を行っており、今しがた終わったところだ。

 俺の仕事は完遂したので後は式に参列するのみ。ただ朝早くに来たせいか仕事も早々に終わったので式の開始までまだ時間がある。だから普段とは違う学校の様子でも見て回ろうと思い、こうして校庭を散歩しているわけだ。まあさっきから生徒や保護者に声をかけられまくっているので、あまり周りの様子ってのは観察できてないけど……。

 

 そんな中、こちらにやって来る久しぶりに見た姿があった。

 

 

「やあ零君、久しぶり!」

「秋葉! お前帰って来てたのか?」

「いやぁ~このままだと今年度の出番が一切なかったからね」

「別に誰も求めてねぇし、むしろみんな引っ込んどけって思ってるよ」

「ひどっ!? 久々に会った開口一番が嫌味とか心なさすぎ!」

 

 

 現れたのは俺の姉、神崎秋葉だ。

 秋葉は人類史に残る最高峰の卓越した頭脳を持つ研究者だが、悪魔の魂を宿す者として異名(勝手に名付けた)があり、その脳は基本俺を弄ぶことにしか使われない。そしてその大抵がタチの悪いイタズラを軽々超えるあくどい嫌がらせのため、俺やその周りの子たちはコイツの名を聞くだけで身構える体質となってしまった。とは言えきまぐれに人のために動くこともあるし、気が向けば真面目に仕事をする時もあるので完全な悪でないのが憎めないところだ。

 

 ちなみに今年度はずっと海外で忙しそうにしてたから、そのおかげで俺の周りはかなり平和だった。秋葉関連の出来事は七海が起こしたスクールアイドル概念の消失事件くらいだし、あまりに気配がないせいでもはや存在すら忘れそうだったぞ。とか言っちゃうと定期的に平和を破壊しようとしてくるだろうから、嫌味で煽るのはこのくらいにしておこう。

 

 

「私だって非常勤とは言えどここの教師だし、教え子たちを見送りたいわけだよ。だから引っ込めと言われてもおいそれとはできないね」

「またなんか企んでんじゃねぇだろうな……」

「いやいや、流石の私でも倫理観はあるって! みんなの門出を祝う華の卒業式なんだよ? 穢すような真似するわけないじゃん!」

「その笑顔が怖いんだよ……」

 

 

 非常勤とは言えどかのんたち三年生とはそれなりの付き合いだし、ソイツらの卒業を見届けたい気持ちは本物なんだろうか。そういやコイツ、俺の小中高大すべての卒業式に来てたな。高校までならまだしも大学にまで来るのかよと思ったが、どうやらそういう催し物には律儀に参加するらしい。そういうところで人情味をアピールすることで悪魔の汚名を払拭しようとしてるのかもしれないな。小賢しい。

 

 

「ところで零君、あの子たちには会ったの?」

「かのんたちか? いいやまだだ。式が終わった後に嫌でも顔を合わせるだろうし、今はまだいいかなって」

「それらしい理由をつけちゃってまぁ。考え中なんでしょ? あの子たちと最後にどんな顔をして会うのか、どんな言葉をかけてあげるのか」

「そうだけど、よく分かったな」

「お姉ちゃんだもん」

 

 

 茶化した笑顔から一転、諭すような温和な微笑みに変わった。

 本当に、たまにだけど保護者面してくる時がある。俺の未来に対してだけは真面目なんだよなコイツ。俺の立場がどう変わろうがコイツは血を分けた姉、変わらないポジションにいるってことか。

 

 

「零君にとっては教師生活最初の卒業生だもんね。そりゃ感慨深くもなるよ」

「そうだな。今まで音ノ木坂や浦の星、虹ヶ先で卒業生を傍観者として眺めていたことはあったけど、自分の教え子たちが巣立つのを見届ける覚悟とは訳が違う。緊張はしてねぇけど何を話すかなぁ~って感じかな。今まで卒業する奴ら相手にこんな細かいことを考えたことがない」

「私としては感情的になる零君が見られるから嬉しい限りだよ。だからこそあらゆる実験を君で試しているんだけどね!」

「マジで今日だけはおとなしくしろよ……」

 

 

 俺の感情的、特に必死な姿を見たいがために人がいる建物に笑顔で放火する奴だからな。ガチの犯罪者が目の前にいるとなるとやっぱ警戒しておくべきか。さっきの優しい保護者面と比べると二重人格なのではと疑っちゃうな。

 

 それはさて置き、教師になって初めての教え子を見送るってことで多少物思いに耽っているのは確かだ。アイツらと顔を合わせた時に何を話すのかなんて全く考えていないが、いつも通りその時の俺に任せるとしよう。今考えても卒業式の最中に感情が揺れて言いたいことも変わるかもしれないし、カンペを用意しておくなんて柄じゃない。

 

 

「じゃあ私はかのんちゃんたちに会いに行こうかな」

「アイツらにこそ存在を忘れられてるかもな」

「んなことないでしょ。たくさんインパクトは残したつもりだし」

「いい方向の印象じゃねぇだろそれ……」

 

 

 そして秋葉は俺に小さく手を振ってこの場を去った。

 この卒業式で俺の心はどう動くか少し気にしていたが、秋葉と会ったことでいらぬ心配も全部吹き飛んでしまった。悪魔と言えどやはり肉親ゆえの安心感か。まあアイツの登場で何か起こらないかって新しい懸念も出てきたわけだが、流石に大丈夫だと信じたい……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 再び校舎回りの散策をしていると、七海とLiellaの二年生ズが集まっているのが見えた。

 ただ七海は珍しく少し困った様子だ。いつも余裕綽々の態度でそんな表情は一切見せない。

 疑問に思っていると、アイツも俺に気付いたようで口角を上げて手を振って来た。てかその表情と仕草、秋葉にそっくりだな。指導者と教え子で似た者同士ってか。

 

 

「センセーじゃん。私との別れが惜しくて会いに来ちゃった?」

「たまたま通りかかっただけだ。つうかお前らが七海と一緒にいるなんて珍しいな。また皮肉でも言われたか?」

「違うっす! きな子たち、七海先輩にお礼を言ってたっす!」

「え、お礼? コイツに??」

「そんな意外そうな顔をするとか心外なんですケド! まるで私が人望ないみたいじゃん!」

 

 

 コイツが引き起こしてきた事件はどれも笑い話で済まされる規模じゃなかったから、それでまだ人望があると思ってる方がおかしいだろ。まあそれは裏の顔での話だから、善人の表の顔に対してお礼を言われてるのなら分からなくもないけどな。

 

 

「私たちは素直に七海先輩に感謝していますの。だって先生に本当の想いを伝えられたのは、ひとえに先輩が背中を蹴ってくれたおかげですから」

「強引な方法ではあったし、スクールアイドルの概念が消えるなんて二度と経験したくねーけど、そのおかげで重かった一歩を踏み出せたんだ」

「Me too。決意が定まらないままだったからどのみちカンフル剤は必要だった。こればかりは先生はもちろん、先輩は先輩たちの恋愛事情があるから誰にも相談できなかった。だから助かった」

「やりかたはともかく、結果オーライと思えるくらいにみんながハッピーエンドを迎えられたっす! だから七海先輩にお礼を伝えに来たっす、けど……」

「なるほど。だからお前困ってたのか。コイツらから感謝なんて言われ慣れていねぇから」

「そうだね。あの事件は私のワガママだったし、お礼なんて言われる要素ないって思ってたから」

 

 

 自分でも暴走し過ぎたと反省しているからこそ、後輩たちから謝辞を述べられることに抵抗があるのだろう。ただ悪い気はしてないようなので単に照れくさいだけなのかもしれない。くすぐったそうな表情をしているのがその証拠だ。

 

 

「別に今更後ろめたいことはないんだし、感謝くらい素直に受け取っておけばいいだろ。まさか自分のキャラが壊れるとか思ってんじゃねぇだろうな……」

「えっ、そうなのか!? 先輩って意外と可愛いところあるんだな……」

「プライドが高いだけのような気もしますの」

「うるさっ! ガキのくせに調子に乗るなっての!」

「一歳差なのにガキ扱いされたっす!?」

「でも先輩の方が背が低い。小柄だから可愛く見えるのかもしれない」

「キミたちねぇ……」

 

 

 二年生ズの怒涛の攻撃に思わず反撃の言葉が間に合わない七海。素直に褒められると弱いってのはクソガキ属性を持つ奴らには有効な手なのだろう。高校時代の楓もそうだったしな。

 

 

「それにしても先輩って意外と話しやすいっす! こんなことならもっと早くお礼を言えば良かったなぁ……なんて!」

「確かに。なんだかんだ卒業式になっちゃったもんな」

「ま、お礼を言われただけ暴れた甲斐があったってものだよ。おかげでようやく私も自分の恋愛ができるようになったし、こっちとしても結果オーライだったかな」

「でもウィーンに行っちゃったら先生と遠距離恋愛ですの」

「やはりダイレクトに会わないと恋が冷めると聞く」

「コラ、イイ感じで締めようとしているのに水を差すんじゃないよ」

 

 

 別にいがみ合っていたわけではないが、お互いに積極的なコミュニケーションを取っていたかと言えばそうではなかった。過去の所業が所業だし、特に後輩からは裏の顔のコイツに話しかけづらいだろう。だから卒業式になったとは言えどもこうしてフレンドリーに会話し合っている姿を見られて安心したよ。ギスギスしたままの関係でお別れなんて七海は気にしないだろうが、きな子たちは心残りになっちまいそうだったしな。

 

 ちなみに七海に感謝をしているのはコイツらだけじゃなくてかのんたち三年生もそうだ。本人に伝えているかは知らないが、最後にして最大の一歩を踏み出す覚悟を決められたのも七海の事件のおかげだって言ってたし、だからこそこの小悪魔のイタズラにもしっかり意味があったってわけだ。俺もLiellaの連中も七海にはかなり振り回されたが、結局誰もコイツを憎んだりしていない。結果良ければ全て良しってはまさにコイツとの関係のことだな。

 

 

「なぁにセンセー、さっきからジロジロと……。まさか時間差で私のことを好きになったとか??」

「どうだかな。俺に好かれたいのならもっと自分を磨くことだ」

「分かってる。だから大学でもかのんちゃんをイジメて自分を輝かせるから」

「またそれかよ。懲りねぇな」

「別の角度から見れば、人を輝かせることで自分も輝くってことだよ。かのんちゃんはイジられてこそ真価を発揮するし、私も誰かをイジメている時こそ生を実感するんだから」

「卒業しても性格の悪さと性根の腐敗を治さねぇのかよ」

「性格が悪いことこそ私のアイデンティだからね! 大学でもこの長所を活かしてイジリを頑張るよ!」

 

 

 無邪気な笑顔でそんなことを決意されても……。

 だけど強引に相手の背中を蹴ってでも前へ進ませる力はある。相手の迷惑を考えないからこそ成せる業だ。誰かを無理にでも輝かせられるそのやり方を貫けるのはコイツの長所であり魅力なのかもしれない。実際に俺を隠し部屋に監禁した事件やスクールアイドル概念消失事件はLiella全員の恋愛事情を大きく押し進めたし、みんなが告白の決意を固める転換期でもあった。恐らくコイツがいなかったら俺が直接動かざるを得なかったし、その場合みんなは想いの相手が動いてくれるから自分からアクションする必要がないと思い立ち止まっていた可能性もある。

 だから自分で考えて自分で一歩を踏み出す勇気を持たせることを促した、コイツの功績ってのはやはり感謝されるべきことなのだろう。もちろんやり方が過激すぎたことは擁護できないけど……。

 

 

「大学ってウィーンだよな? 気になってたけど、音楽系の学校なのに先輩大丈夫なのかよ。ちょっとリズム音痴だってマルガレーテが言ってたけど」

「少しくらい大丈夫だよ。私にはキミたち凡人を遥かに上回る頭脳と才能があるからね」

「確かに先輩の成績は群を抜いていると聞いている。だから多少のハンデくらい帳消しにできると思う」

「だったらスクールアイドルとか、何か一緒に活動してみたかったっす」

「だとしたらLiellaが12人になって大所帯ですの。ちなみに先輩って誕生日はいつですの?」

「え、なにその前後の関連性のない質問……。9月13日だけど」

「え゛っ!? つまり乙女座っすか!?」

「そうだけど、その盛り上がりはなに??」

「Liellaには唯一、十二星座で乙女座がいなかった。星をモチーフにしたスクールアイドルながら気になっていた部分」

「ということは、七海先輩こそ真の12人目のメンバーだったってことか!? マジすげぇよそれ!!」

 

 

 何この急などんでん返し。

 そういや星座が1つ足りないとか話をしているのを小耳に挟んだことがある。そんな話題があったからこそLiellaに欠けているたった1つの星座を七海が埋められると知れば運命を感じるのも当然か。乙女座の誕生日を持つ奴は学校内にもそこら中にいるだろうが、コイツらと関わりが深いってところがミソだ。

 

 

「これはアレですの、ゲームで特定のルートを進まないと仲間に出来ない系のサプライズ要素。つまり今から七海先輩を仲間にするには周回プレイしないと無理ですの」

「仲間になんてなるか! スクールアイドルなんてお遊び、高貴な私には似合わないから!」

「えぇ~似合いそうっすよスクールアイドル」

「先輩可愛い系だからフリフリ衣装も似合うと思う」

「えぇいしつこい! そんなこと言ってる暇があったら送辞の練習でもしときなよ!」

「もっと早く知ってれば勧誘できたのに、勿体ねぇな」

「適材適所ってものがあるでしょ。さっきも言ったけど、私は輝かせる側だから」

 

 

 コイツがスクールアイドルか、想像できなくはない。でもやっぱりコイツはお邪魔キャラがお似合いだ。その程度のモブキャラって意味ではなく、誰かに挫折や苦労と言ったハードルを与える意味での程よいハプニング要素としてな。薬とも毒にもなるトラブルメーカーだ。

 

 そんな感じで話が斜め上に盛り上がりながらも一息つく。特に七海は後輩に予想外にしてやられたので式の前なのに少しやつれた様子だ。ただ少し嬉しそうにしているため、人を貶める狡賢い性格でもこういったほのぼのとした良好な関係は好きなのだろう。

 

 

「もうそろそろみんなと合流するよ。じゃあセンセー、また後で」

「あぁ」

 

「きな子は送辞の練習の続きだな」

「まだ噛みっ噛みでしたの」

「本番までまだ時間はある。大丈夫、私たちが付き合うから。ずっと見てる」

「見てるだけっすか~っ!?」

 

 

 生徒会長になる度胸がついたとは言っても格式の高い壇上に上がるのはまだ緊張するか。ライブ経験がたっぷりだから発声だけはいいんだけどな。送辞の練習をしているところをたまに見てたけど、当日の緊張を予感してしまってどうしても流暢に言葉が出せないことがあった。それを当日までまだ引っ張ってたとは……。

 

 まあ練習はコイツらに任せて、俺は徘徊に戻るとするか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 目的もなくただウロウロするのも疲れたので、不特定多数に見つからない場所で休むことにする。かつ深く腰をかけられてリラックスできるソファがある、まさに安息の地。それがどこかと言えば――――

 

 

「やっぱ理事長室は誰も来ないし、無駄にクソ高いソファまで置いてあるし、飲み物もタダで出てくるし、ホント休憩にはピッタリだな」

「ここはレストルームでも喫茶店でものよ……」

 

 

 理事長が苦笑いで俺を咎める。

 卒業式の当日なのに別で仕事があると愚痴を聞かされていたのを思い出したのでここへ寄らせてもらった。ここなら理事長の相手をするだけでゆっくりできるし、この人の相手をするだけなら適当にあしらっておけばいいから楽だ。もはや自宅のような空間だと思ってるからよりリラックスできる。

 

 

「仮にも学校のトップである私にお茶を淹れさせるなんて、あなたにしかできないことよ」

「俺がこの学校にもたらした功績を考えれば、それくらいのもてなしでは全然感謝の印にもなってねぇぞ」

「出会った頃からもそうだったけど、今のあなたは一回りも二回りも態度が大きくなったわね」

「そんな俺を野放しにしてるアンタもアンタだろ」

「だってイケメンで頼り甲斐のある男って素敵じゃない。そういう子が好きで見届けたいのよ、私」

 

 

 え、なにいきなり。もしかして変なフラグ立ってる?? 誰がこんな年増を相手にするかと思ったけど、言うほど歳を食ってないはず。となると俺とアイツらの年齢差と同じだろうから別にああり得なくはないのか。イヤあり得ねぇよ絶対。

 

 

「冗談は抜きにしても、あなたのことが気になっているのは本当よ。もちろん教師としてね。新任教師として初めての卒業生を迎えて、あなたがこの三年間で何を見て何を学んだのか。いくらあなたが超人的な才能を持っているにせよ人生というのは学びの繰り返し。新しい環境で様々な経験を重ねてあなたが何を思ったのか、私はとても気になるわ」

 

 

 いきなり教育者らしいことを言いだす理事長。

 それはずっと俺も考えていたことだ。振り返るだけでもフラッシュバックされる記憶が多く、それを整理するだけでも頭痛がしそうだったので保留にしていた。

 ただもう先延ばしにはできない。だから秋葉と話す前は漠然と誰に何を伝えるか考えてたけど、とりあえずは出たとこ勝負にすると決めたばかりだ。どうせ卒業式後にアイツらと対面したら言いたいことなんて無限に出てくるだろう。今でも考えれば考えるだけ気持ちが溢れてくる。だから今はのんびりすることにした。

 

 

「また聞かせてもらえると嬉しいわ、あなたが経験から何を得たのか。そうだ、それをレポートとして提出してもらおうかしら」

「また俺にだけ余計なタスク課しやがって! 教育実習じゃねぇんだからそんなのいらないだろ!」

「なんだかあなたが息子のように思えてきて、ついつい教育に熱が入っちゃうのよね」

「余計なお世話だっつうの」

「またまた、あなたと私の仲じゃない? それに若々しくてエネルギッシュなあなたを見ていると、なんだか自分まで若くなったような気がして活力が生まれるのよ」

「おいこっち来んな!!」

 

 

 理事長席で走らせていたペンを置き、俺の腰かけているソファーににじり寄って来る。俺のガキっぽい態度を取るせいかもしれないが、コイツもコイツで距離が近いことがあるんだよな。そっちの趣味はないからやめてくれマジで。

 それにコイツいつも理事長という学校トップの立場を利用して無駄な仕事を押し付けてきやがる。しかも悪気もなく笑顔で。だから裏でババアとか言われるんだぞ、俺だけだけど。

 

 その時、理事長室のドアがノックされる。

 

 

「どうぞ」

 

 

 理事長が返事をするとすぐに向こうから『失礼します』と声が聞こえ、ドアが開かれる。

 入って来たのは冬毬とマルガレーテだった。

 そして二人は目を見開く。当然だ、何故か俺と理事長が同じソファに横並びで座っているんだから……。

 

 

「コサージュですが、理事長の分をお持ちしま―――――あっ、もしかしてお楽しみでしたか。確かにここは学校の中で一番のプライベート空間、誰にも邪魔されない絶好の同衾場所ですね」

「直属の上司すら手籠めにするなんて、流石は王ってところかしら」

「んなわけねぇだろ……」

 

 

 卒業式直前になんて会話してんだよ。しかもコイツら一切驚いていない。高校一年生にしては達観し過ぎだと思っていたが、まさかこの現場を見ても動じないとは……。もしかして俺が一回り年上もストライクゾーンだと思われてんのか……?

 

 あぁなんか俺も七海みたいに疲れちゃいそうだ。

 こんなところでストレスを溜めるのはアホらしいので、ここは式前の堅苦しい空気が解れたと思って我慢しておくか。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 最終回なので第三章には未出演だった秋葉と理事長も滑り込みで登場させました(笑)
 理事長はともかく秋葉がここまで出てないのは珍しかったり……

 そういえばこの小説では珍しくアニメと時間が同期しました。一応アニメで流れた話はこの小説でも発生しており、その合間でこの小説の話が挟まっているという構成なのですが遂に足並みが揃いました! とは言っても内容はアニメとは関係なさ過ぎますが(笑)

 他にも色々と語りたいことはあるのですが、それは全てが終わった後の後書きに持ち越そうかと思います!

 そして次回は最終回の後編で、Liella編の本当のラストです。
 零君も教師生活で初の卒業式見送りということで、今までオープンになっていなかった気持ちが明らかになります。女の子側→零君への想いはたくさん描いてきましたが、その逆は地の文のみであまり語ったことがなかったような気がします。

 ここまで来てあと一息。是非最後までお付き合いください!
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