ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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いきなりピンチ!?危険な再会!(後編)

「どうしましょう梢センパイ!? あたしの衣装が――――なくなっちゃいました!」

「えぇっ!?」

 

 

 スクールアイドルたちの控室の近くを通りかかると、花帆の深刻そうな声が聞こえてきた。

 それだけでもう自分の中の事件センサーがけたたましく鳴り響く。秋葉に強制的に連行され、無理矢理スクールアイドルイベントのスタッフのアルバイトに借り出されたってだけでも面倒なのに、ここでまた面倒事が増えるのか。

 まあ俺の人生はいつもこうだからもう慣れてるけどな。むしろまだ軽そうな事件だからマシな部類だ。やれ幽霊だの、やれ認識改変だの、これまで幾多も経験してきた超常現象に比べれば全然だ。

 

 そもそも首を突っ込まなければいいのでは、という話でもある。ただ話を聞いてしまったら気になるし、それに俺にとっては些細な事件でも本人にとっては重大な事だったりもする。だから話が耳に入ってきた以上は見て見ぬふりはできないんだよ。回避しようと思っても自ら渦中に赴く、悲しい性分だねぇ……。

 

 

「しっかり確認したの? (わたくし)たちの衣装はまとめてハンガーで吊るしてあったと思うのだけれど……」

「はい! それはもう部屋の壁に穴が開く程に確認しました!」

 

 

 気付かれないように一瞬だけ控室の中を覗いてみた。

 すると花帆以外のメンバーはライブの衣装に着替えているが、アイツだけは制服のまま。どうやら消えたのは花帆の衣装だけらしい。

 確かスクールアイドルたちの衣装は別室にまとめてあるはずだ。当日の持ち込み物を減らすため、事前に宅配で配送して別室に保管していると聞いた。着替えるまでコイツらが一度もその部屋に入っていないのであれば、恐らく衣装が消えたのはそこだろう。

 

 

「もしかして配送するときに数えミスった!? ルリが確認したときは全員分あったと思うけど……」

「花帆さんの衣装だけ配送漏れ……いやハンガーボックスでみんなの分をまとめて送ったのでそれはないはず。となると、スタッフさんがハンガーボックスから出したときに紛失してしまった……とか」

「あの別室、このイベントに参加してるスクールアイドル全員分の衣装を置いてありますもんね~。あれだけの量なので間違えてどこかに紛れ込んだとかありそうかも……」

「だったら早く花帆先輩の衣装を探さないと! もう私たちのライブまで時間ないし……」

「うんっ、行こう! 徒町たち全員で探せばまだ間に合うかも!」

 

 

 どうやらあまり時間は残されていないようだ。

 それにしても衣装が突然消えるなんて、そんなことありえるのか? 飛び込みでここのバイトに入って数時間、これまでそんな事態は起きていない。それに俺が来る前も特に問題はなかったらしいから、花帆だけの衣装が紛失しているのが妙に引っかかる。もちろん可能性としてゼロではないんだろうけど……。

 

 

「いえ、探している時間はないわ」

「え゛っ!? どうしてですか梢センパイ!!」

「直前のミーティングで情報共有したでしょう? 自分たちの2つ前のグループのライブが始まるまでには、ステージ袖に待機しておくようにとイベントの流れをね」

「そうだっけ。今ってボクたちのいくつ前がライブをしてるの?」

「私たちの3つ前が始まった頃かな。だからそれが終わるまでにステージ袖に行かないとダメってコトかぁ……。ああっ! 超メンドいルールじゃん! 全然時間あるのに縛りキツすぎ!」

「これだけの数のグループがいるのだから、ある程度のまとまった規定があるのは仕方ないわ」

「そ、そんな……」

 

 

 事態は一刻を争うらしい。こんな大人数で探し回ったら確実にライブの時間には間に合わないだろう。

 それをアイツらも分かっているのか、全員に不安と焦りの色が見え始める。スタッフに遅刻を連絡しようにも、ここまで大きなイベントだからそう簡単に予定を変更してくれるとは思えない。しかもこんな直前になってだからなおさらだ。

 

 花帆は項垂れて考え事をしている様子。どうしたらいいのかと焦る一年生、なんとか解決方法を模索しようと思考をこねくり回す二年生と三年生。

 少しして花帆は何かしらの結論に至ったのか、意を決した表情で顔を上げた。

 

 

「今回はあたし抜きでライブをしてほしい! だってこのまま蓮ノ空が辞退ってなると、来てくれたファンの人たちに申し訳ないから! あたしがいない分フォーメーションが少し歪で見た目がちょっとおかしくなっちゃうかもだけど、それでもやらないよりかはマシだよ!」

「花帆……」

 

 

 どうやら花帆は自分を除く8人でのライブの決行を期待しているようだ。確かにそうすればイベントの予定を崩さずに済むし、欠員で心配されるだろうがファンにライブは届けられる。それが自分たち以外にとっては穏便に済む方法かもしれない。今からどことも分からない場所にあるだろう衣装を探す暇があれば、8人でライブをすると運営に伝えた方が早いからな。

 しかし、他の奴らはそう簡単に同意できるものではなく――――

 

 

「そんな、花帆先輩抜きだなんて……」

「大丈夫だよ吟子ちゃん。8人でもやり遂げられるって信じてるから!」

「そこじゃなくて! せっかく9人揃ってライブができる最後の大型イベントかもしれないのに……」

「吟子ちゃん……」

 

 

 吟子と呼ばれる黒髪の少女の伝えたい意図を花帆は感じ取ったようだ。それは他の奴らも同じ様子。

 そうか、もう三年生たちの卒業が鮮明になる時期だからか。大型のイベントでみんな揃ってライブができる機会はもう少ない。もしかしたらこれがラストになるかもしれない。その雑念が花帆の提案を受け入れることを拒む。それは当の本人も同様で、吟子と呼ばれる少女の言葉を受けて再び思い悩んでしまった。

 

 このままだと確実にタイムアップになる。

 衣装を隅々まで探す時間はない。捜索するなら見当をつけてピンポイントで狙い撃ちするしか方法はないだろう。

 

 ただアイツらは余計な雑念に思考を邪魔されてそんな余裕はないようだ。だったら俺がやるしかないか……。

 

 衣装が消えたってことは、配送に手違いがあったかスタッフが整理するときに紛失したか。だけどその可能性が真実だった場合はどうにも間に合わないのでお手上げだ。コイツらでも俺でも運営でもどうしようもない。

 だからその候補はもう考えないことにして、残る可能性があるとすれば――――誰かが間違えて持ち去ったか、それか着てしまったか。

 

 間違えて着てしまった、か……。

 そういえば、スクールアイドルの衣装って大体同じように見えるよなぁとか思ってたような――――あっ、そうだ!

 

 

「イベントのパンフレットにグループの紹介があったはずだ。しかも今回のライブで着る衣装で写真を撮ってたはず……!」

 

 

 ズボンの後ろポケットに入れたままであったパンフレットを引っ張り出すと、そこに掲載されているグループ一覧までページを飛ばす。

 やはり衣装を着て撮影された写真が掲載されていた。そこからアイツらの衣装と似た衣装、かつアイツらの前にライブを行う奴らを探す。ライブを行う順番に掲載されているわけではないから探すのは面倒だが、消えた衣装を探すより圧倒的に楽だ。ライブスケジュールを見てアイツらの前、ついでに2つ前のグループの名前を記憶して再びパンフレットに目を向ける。

 

 

「あった! コイツらだ!」

 

 

 条件が限定的なおかげですぐ一意に定めることができた。写真の花帆の衣装と似たオレンジ色(本人曰くおひさま色と呼ぶらしい)とデザインの衣装を着た奴が他のグループの写真にいる。偏見かもしれないので申し訳ないが、顔を見る限りではかなりドジっ子そうだ。いや俺のスクールアイドルを見る直感は長年の付き合いで鍛えられてるんだ、間違いない。コイツなら人の衣装を間違えて着るなんてドジを簡単に踏みそうだ。それに歴代オレンジ髪はそういう抜けてる性格の奴、結構多かったから大体察するよ。

 

 冗談はさて置き、この事実をアイツらにどう伝えるかだ。間違って着ていることを伝えて着替えをするだけだったらまだ間に合うはず。だから早く対応方法を伝えたいのだが、これ以上この大人のままアイツらに接触するのはリスクが高すぎる。ただでさえさっきも神崎零だって疑われてた(実際にそうだが)から、もうこの姿のままでアイツらの前に出るわけにはいかない。人助けをしたのに自分の身体は溶け落ちて終わりなんて、そんな自己犠牲みたいなことできるか。俺を置いてお前は先に行け理論は今の自分の場合、本当に死を意味する。

 

 

「だったら相手の方に知らせるしかねぇよな……」

 

 

 既に身体は動いていた。走ってライブステージ袖の入口へと向かう。

 ただ到着と同時にさっきバイトでやった誘導作業のことを思い出した。袖口へ行くための入り口には扉があり、そこには電子ロックがかけられていて関係者以外は入れない。当然のセキュリティだが、バイトの俺が持つカードではそこに入れないのだ。入るためには運営の正社員スタッフ、かつ誘導係に任命されている人でなければならない。

 しかし周りには誰もいない。常に人が立っているわけではなくスクールアイドルを誘導する人が女の子たちをステージ袖へ通す手はずのため、ここに誰もいないのは不思議ではない。

 

 となるとここを開けられるスタッフを探す必要がある。でも次に来るのは蓮ノ空の連中をここへ通すときだ。それだと間に合わない。

 こっちから探しに行ってもいいけど、事情を説明して入りがギリギリになることの同意を得るまでがワンセットだ。その時間があるか分からない。

 

 どうする? 他に方法はあるか? ピンチを前にここから大逆転できるような奇跡のような何か。そんな方法が果たして……。

 

 

「おやぁ~? どうやらお困りのようだねぇ」

「秋葉!?」

「クリティカルな状況なんでしょ? だったら何も言わずにこれあげる。ちょうどそこにトイレがあるから……ね」

「こ、これって……」

 

 

 突然秋葉が後ろから話しかけてきた。

 振り返った瞬間に理由も告げられず薬の入った小瓶と女性用のウィッグを渡される。

 

 秋葉は憎たらしい笑みを浮かべていた。こんなモノを持ってきてただなんて、もしかしてまた不測の事態を予測してたのか……? それとも意図していたのか。だとしたら安易に()()を使うのはコイツの口車に乗っている気もする。

 疑問は耐えないが迷っている暇はない。コイツの事情がどうであれ()()を使えばこの状況を乗り切れるはず。

 

 俺は渡されたものを手にトイレに駆け込んだ。

 そして――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 女性のスタッフを目撃したタイミングと俺がトイレを出たのは同時だった。

 首から下げているカードの色を見るに正社員のスタッフだ。そうと分かると俺は迷いなくそのスタッフの前に飛び出した。

 

 

「すみません! 私がバックダンサーをするライブがもうすぐなんですけど、準備に遅れちゃって……。この中へ入れてくれませんか?」

「えっ、そうなの! じゃあ早く行かないと! 開けてあげるから早くみんなと合流して!」

「はい! ありがとうございます!」

 

 

 よし、上手く行った。

 やはり()()だから何の疑いもなく、しかも詳細な理由もなしにセキュリティの扉を通してくれたぞ。子供の口調を真似するのはちょっと恥ずかしいけど仕方がない。

 いやまさかまた子供の姿に戻ることになるなんてな。しかも今回はウィッグという女装のオマケつきだ。子供の顔ならメイクとかしなくてもウィッグだけで女の子に見えるし、そもそもこのイベントは未来のスクールアイドルのために子供たちにバックダンサーをやってもらう制度があるから、今の俺みたいな女児がうろついていてもお咎めなしだから助かったよ。だから準備に遅れたバックダンサーという簡単なウソだけであっさり通してもらうことができた。衣装をなくした云々の事情を1から説明する時間を省けたのは大きい。事が大きくなるのも面倒だしな。

 

 あとは花帆の衣装を間違えて着てしまったドジっ子ちゃんを見つけるだけ。

 とはいってもステージ袖は自分たちの番を待機している人しかいないので、見つけるのは容易い――――と思っていた矢先に見つけた。

 

 当然自分のミスには気づかず自分たちの番を今か今かと待っている。今やっている奴らの次の次なのでまだ時間に若干の猶予はある。これであれば高速で着替えれば何とかなるはずだ。

 

 緊張している中で悪いが話しかけさせてもらおう。そこそこガチガチになってるから突然話しかけたらきっとびっくりさせてしまうだろう。でも余裕がないんだ、諦めてくれ。

 そうだ、子供の真似を忘れずにっと。

 

 

「ねぇお姉ちゃん」

「うぇっ!? な、なに!? えぇっと、バックダンサーの子……?」

「うん。お姉ちゃんの衣装って他のお姉ちゃんたちのとはちょっと違うんだなと思って。ほら、首元の花の飾りとかスカートのひらひらの部分とか……あっ、お姉ちゃんたちの次にライブをする蓮ノ空って人たちの衣装に似てるかも!」

「えっ、ウソ!?」

「あっ、本当よあなた! 着る衣装を間違えているわ!? もしかしたら蓮ノ空の人のかも……」

「きゃっ、ホントだ!! ゴメンなさい、今すぐ着替えてきます!」

「えぇ、まだ少しだけ時間があるけど急いでね。もちろん蓮ノ空の方への謝罪も忘れないように!」

「はいっ!」

 

 

 名も知らぬオレンジ髪の少女に衣装間違えを指摘した瞬間、それにすぐ気付いた本人と他メンバーの全員。その子はまだギリギリ時間があるからと近くにいるスタッフに声をかけ、急いで着替えに戻っていった。

 

 ふぅ……これでなんとかなったな。アイツらにも謝罪するって言ってたから事情は説明されるだろうし、ここからは俺が出しゃばらなくても大丈夫だろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 騒ぎに乗じてこっそりステージ袖から離れ、ウィッグを外す。あとは誰にも見つからずに大人にも戻れば万事解決だ。そのために秋葉から元の姿に戻る薬をもらわないと。

 

 

「おい秋葉。やること終わったから早く薬よこせ」

「さっすが私の零君! こんなことは朝飯前だね!」

「御託は良いから早くしろ」

「でもこれからが本番だから! それが終わらないのに元に戻られたら私が困るよ」

「はぁ? ボヤは鎮火させたし、もう俺にやることはねぇって」

「キミになくても私にはある。気にならなかった? 私がここへ来て何をしているのかって」

「なに……?」

 

 

 そういえばそうだった。俺をバイトへ送り出すときに見せた不穏な笑み。何か裏があるのではないかと思っていたが、蓮ノ空の連中と会ったりプチ事件が起きたせいですっかり忘れていた。

 もしかしてコイツ、この期に及んで何かしでかす気じゃねぇだろうな……?

 

 

「私の目的はキミも知ってるあの奇病、スクールアイドル病のことだよ」

「えっ、それってスクールアイドルが発症するってあの謎の?」

「うん。どうやらこのイベントに参加する子たちの中にスクールアイドル病の兆候のある子がいるみたいだね、調査しに来たんだよ」

 

 

 まさかあのスクールアイドル病にまた関わることになるとは……。

 スクールアイドル病とはその名の通りスクールアイドルが患う病気のこと。身体のどこかに本人や周りの人までもが視認できない小さな傷ができ、その傷口は時が経過するにつれてどんどん赤くなり広がっていく。その広がりに際限はなく、やがて全身を蝕み身体の崩壊を招く中々に危険な病気だ。しかも本人が自分の病状を知ってしまうと、その瞬間に傷口が全身に蔓延する厄介な特性を持っている。

 その病気を治療する唯一の方法は、俺の手でその傷口に触れること。そうすれば傷口は瞬く間に塞がり、ものの数秒で真っ新で綺麗な肌に戻る。何故俺だけが治療できるのかは秋葉曰く不明らしい。なんせその傷を視覚できる存在も俺ただ一人だ。ただスクールアイドル病を患う奴らがいるかも、ってことくらいは秋葉の方でも認知できるらしい。実際に1年半前に蓮ノ空に連行されたのもそれが理由だったしな。

 

 そして、スクールアイドル病の話題を出されたことでこの先の展開のおおよそを察した。

 俺をこの姿にした上での自分の目的を公開するこの流れ、蓮ノ空への連れ去り初日と同じだ。

 

 

「おい、もしかしてまたガキの姿の俺をどこかの学校へ放り込む予定じゃねぇだろうな……」

「おおっ! さっすが察しがいいね!」

「マジ……? てかそうならそうと最初から説明しろよ! それにスクールアイドル病を治療するくらいこの姿にならなくてもできるだろ!」

「いや今更大人の姿なんて晒せないでしょ。一回その姿でみんなに印象付けちゃったからねぇ」

「一回って、まさか行き先って……!!」

「そう、蓮ノ空女学院だよ」

 

 

 またかよ!! 前に頑張って全員の治療を終わらせたってのにまた蔓延してるとか、もう全校的に無病息災のお祓いとかしてもらった方がいいんじゃねぇのか……? あの学校、怨念を持った幽霊なんかも出現したから何か良くないものに取り憑かれている気がしてならない。

 

 ただそんなこといっても俺が解決するしかないのでやるしかない。スクールアイドル病はスクールアイドルのみ発症する病気。ただ一度治療に成功すれば二度目はないらしいので、となると罹患しているのは出会ったあの一年生の誰かか。前みたいに結局全員でしたってパターンかもしれないけど……。

 

 

「はぁ……。まさかお前じゃねぇだろうな、さっきの事件を起こしたの。俺をガキにするためにわざわざ回りくどい手を使って、あくまで自然を装おうとしてたとか……」

「いやいやアレはホントに偶然だよ! まあ薬を飲ませる手は色々用意してたけど、どれもキミに警戒されるだろうなぁって思ってたからね。その矢先に自然発生の事件が起きてくれて助かった助かった!」

「自然発生って、普段は人為的に引き起こしてるみてぇだな……」

「どうであれ、キミはあの子たちを見捨てることはできない。例え初対面の子たちであろうともね。どうせ逃げられないし逃げるつもりもないんでしょ? だったら観念したら?」

「こんな方法じゃなけりゃ納得してたっつうの」

 

 

 また蓮ノ空でスクールアイドル病が蔓延したから、治療するために子供の姿で再潜入してほしいって最初から素直に言ってくれればそれでいいんだよ。毎回試すような真似しやがって。ただコイツは俺の活躍するところを見届けたい、必死に苦労して足掻いている姿を見て興奮するという特殊性癖持ちだ。だからそう簡単に俺を導かないのは当然かもしれない。こっちからしたら面倒以外の何物でもないけど……。

 

 

「じゃあまたよろしく頼むよ。転入手続きはもう済ませてあるから、何の憂いもなく三度目の高校生活を楽しんできて」

「あのなぁ、そんな安心できる病気じゃねぇだろアレは……。てかいつ行くんだよ?」

「あっ、ちゃんと挨拶もしておかないとね!」

「え?」

 

 

 秋葉が俺の背後、廊下の曲がり角を指さす。

 すると間もなく高速で着替えが終わったであろう花帆、そして蓮ノ空の全員が姿を現した。

 

 向こうもこちらの存在を認知したようで、立ち止まって無言でこちらを見つめる。俺もこの姿でどう会話を切り出すとか全く考えていないまま再会してしまったので言葉に詰まってしまう。

 数泊の静寂が続いた後、花帆がゆっくり口を開いた。

 

 

「れ……」

「れ?」

「零クンだぁ~~っ!!」

「えっ、おいっ!? うぶっ!!」

 

 

 花帆はこちらに走り寄ってきて、その勢いで抱き着いてきた。

 身体が小さくなっているためコイツの全身に簡単に包み込まれてしまう。なんか前よりも一回り背が低くなったような気がしないでもないが、それよりも圧迫感が凄まじくて息苦しい。衣装が薄着のせいで身体の凹凸がしっかり感じられるせいかもしれない。

 そんな中で他の奴らも駆け寄って来た。

 

 

「零さん!? 本当に零さんですか!? まさかこんなところでお会いできるなんて……!!」

「まさかルリたちのライブを観に来てくれたとか!? 会いに来てくれたの!?」

「あれからずっと会いたかった。再会できて嬉しい」

「別れてからずっと音信不通で全然連絡取れなかったじゃん! めぐちゃんたちを心配させやがってぇこのぉ~!」

「ずっと会いたいと思っていた人と突然再会する。思いもよらぬ奇跡ね。なしのつぶてでずっとあなたの動向が気になってたから……」

 

「分かった! 分かったから! 離れてくれ!」

 

 

 圧死しそうになってる状況で更に群がられたら、ただでさえ薄い空気すらも取り込めずに酸欠になってしまう。

 なんとか花帆の腕の中から脱出し、息を整えたのち服を整えて改めてコイツらと向き合う。

 

 

「久しぶりだな」

「ホントだよ零クン! この瞬間をどれだけ待ちわびたことか……」

「秋葉先生も、お久しぶりです」

「うん、久しぶり。みんな元気そうだね」

 

 

 落ち着いて再会の言葉を交わす俺たち。こちらの存在を知る6人は各々思い思いの気持ちを打ち明ける。主に別れて以降連絡が取れなかったことだが、正体ばれ回避のため秋葉が勝手に音信不通にしやがった……とは言えず口ごもってしまう。

 そんな中、初対面の一年生の3人は先輩たちの後ろで固まって小声で話していた。

 

 

「お~あれが噂の神崎零せんぱいかぁ~。写真で見るよりもちっちゃいねぇ~」

「確かに。中学生らしいけど、それにしても小鈴や瑠璃乃先輩よりも小さいかも。それにもっと大物感の溢れるオーラがある人かと思ってた」

「うん、カッコ可愛いっていうのかな? あのお兄さんがそのまま小さくなったみたいな感じ!」

「そう言われてみると、あのせんぱいを見てるとショタ好きになる人の気持ちが分かるかも……」

「どんな目で見てるの……。ただあの先輩たちが好きになった人だもんね。それくらい魅力があるのかも」

「なんにせよ、ずっと会いたいって言ってた人に会えて喜んでる先輩たちを見られて、徒町も嬉しいよ!」

 

 

 なんか核心に迫られていた感じがするけど気にしないでおこう。余計な弁解は逆に真実の裏付けになってしまう。沈黙は金とはよく言ったものだ。

 

 

「それで、どうして零さんはここへ?」

「実はね、またキミたちにこの子を預かってもらいたいんだ!」

「えっ、それってつまり……」

 

 

「そう、また蓮ノ空でよろしく頼むよ――――今日から!」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」

 

 

 一難去ってまた一難。今度は再度蓮ノ空に赴いてスクールアイドル病の治療をすることになった。

 ただ秋葉から衝撃の言葉が。間髪入れずにまさかの本日からミッション開始。病気の実態を考えると早急な対応が必要なのは分かるが、まさか何の準備もなしに今から始まるらしい。当然俺もコイツらも驚きを隠せない突発イベント。こんなセンセーショナル過ぎる事実を与えて、コイツら自分たちのライブに集中できるのかよ。ライブまでもうすぐだぞ。余計な他念を植え付けやがって……。

 

 兎にも角にも、また秘密の学校生活(シークレット・スクールライフ)が幕を開けた。

 短期間で女の子からの好感度を上げ、お互いの距離を詰めないといけないから結構大変なんだよな。でも秋葉は『キミなら余裕でしょ』と言い張って頑なに高難易度ミッションの参加を強要し続ける。女の子の命を天秤に預けているんだからもっと協力的になってほいしいものだ。

 

 思うところはあるけど、いつも通り新しい子との出会いで新しい笑顔が見られるとプラスに考えて我慢しておくか……。

 




 蓮ノ空編の第二章、プロローグ編の後編でした!
 ごく自然(?)な流れで再び子供の姿に戻り、またしてもスクールアイドル病の治療ミッションの完遂を求められてしまいました。今回から初登場の一年生たちをメインに、既存メンバーとの話もどんどん膨らませていく予定なのでお楽しみください!

 また、彼の姿のご想像のアップデートもお願いします!
 なんせLiella編では成長しきった教師の印象が強く、まだ大人びた彼のイメージの方が多いでしょうから(笑)

 次回からは舞台がまた蓮ノ空女学院へ移ります。9人との物語も本格的に始動するので是非ご期待ください!
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