ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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蓮ノ空ファンタジー4~夢を奪う楽譜~

 夢を見る楽譜の噂の真実を確かめるため、蓮ノ空に長年勤める寮母に話を訊きに行こうとする俺たち。

 だが寮の近くで寮母が大きな灰色のドラゴンに襲われていた。やむなく戦闘を開始したのだが、ドラゴンの先制攻撃の竜巻によって俺たちのHPは大きく削られてしまった。明らかに雑魚敵とは思えないその見た目。もしかしたら俺たちのレベルではまだ触れてはいけないエンカウントだったのかもしれない。

 しかし、寮母を救出できなければどのみち俺たちの冒険は詰んでしまう。厳しい状況だがなんとか今の状況から逆転するしかない。

 

 

「徒町たち、あと一撃でも受けたら終わっちゃいます! 姫芽ちゃん、なんとかならない!?」

「低レベルクリアは何度もやったことあるけど、事前知識が何もないゲームだと……」

「それじゃあ私たちも、さっき倒れていた人たちみたいになっちゃうってこと……?」

「落ち着け! これはRPG、敵は行動後のウェイトタイムに入ってるからすぐには動かない! その間に回復と防御を固めてくれ! こっちは10人いるんだ! 回復の魔法が間に合わなかったら道具を使え!」

「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」

 

 

 なんとか敵のウェイトタイム中に全員の回復が間に合う。更に隙があったので黒魔導士組にバリアも張ってもらうことにも成功し、これで多分一撃で玉砕されることはなくなっただろう。

 でももちろん守っているだけでは勝てない。次にいつ大打撃を受けてもいいように魔導士組は攻撃魔法を使用せずMPは温存し、なるべく前衛組の俺とみらぱの連中だけで攻撃を仕掛けることにする。どれだけダメージが通るのかも確認しておきたいしな。

 

 

「もう時間がない! 準備は良いか!?」

「オーケー! 行くよるりちゃん! 姫芽ちゃん!」

「いいダメージもらちゃったからね。倍にして返してやるぜ~!」

「ドデカいのぶちかましちゃいますよ~!」

 

 

 まずはジャブ程度の攻撃にするはずだったのだが、もう最初から大技を打ち込むつもりのようだ。まあ下手に長引かせても勝ち目はないし、攻撃役はある程度ぶっぱなしてもいいか。

 俺に続いてみらぱの三人もドラゴンの攻撃に参加する。それなりの威力が見込める攻撃を連続で叩き込み、相手のウェイトタイムが解除される寸前だったので急いでその場から離れる。まだ敵のHPの減りは確認できていないが、正直かなり手ごたえはあった。

 

 間もなく次の攻撃が来る。こちらはみんなで守りを固めようと動く、その一瞬に敵のHPを確認する。

 

 

「えっ?」

 

 

 全然減っていなかった。俺はともかくアイツらはかなりの大技を打ち込んだはずだ。だけど減少したHPは僅か。ちまちま削れば勝てそうだが想像以上に耐久戦を強いられそうだ。

 しかし、耐久できるのかも問題である。MPの残量的に大技を打ち込める回数は多くないし、そもそも攻撃と守りのサイクルを繰り返す中で守りを担っているスリブの奴らのMPが枯渇する。黒魔導士のドルケの奴らも攻撃に参加すればいいが、コイツらもコイツらで道具で回復を担わないと俺たちは一撃で瓦解する。

 

 だとするとどうやってコイツのHPを削り切る?

 と考えている間に、ドラゴンが行動を開始する。口に火に大きな球体を作り、その玉を俺たちに向かって吐き出した。

 

 地面に着弾すると轟音が響き渡る。その音だけでも威力のヤバさが伝わってきた。後ろにいる花帆たちの悲鳴すらも聞き取れないくらいだ。流石にゲームなので本物の炎を浴びるほどの衝撃や熱傷はないものの、人によっては耐えがたくなるほどの熱さが襲い掛かってきたのは事実。全員が自分の防衛に集中して周りに気を回せないほどだ。

 

 周りが炎に満ちる中、ドラゴンが再びウェイトタイムに入り行動に余裕ができたので全員のHPを確認する。

 すると、さっきの竜巻以上のダメージを全員が受けていた。それはつまり、さっきと同じ回復量では回復が間に合わないことを意味していた。ここから全員をMAXまで回復させないと次の攻撃を耐えられそうにないが、俺たちのレベルの回復量的にそれができるのか怪しかった。

 

 

「熱い……。けどあたしたちが回復しないといけないよね……」

「でも(わたくし)たちだけでは全員の回復は間に合わないわ……」

「でしたらわたしたちも道具の出し惜しみなしで回復をお手伝いします!」

「でも、ボクの回復道具はもうほとんど残ってないよ……」

「じゃあやっぱり、私たちこのままここで……!?」

「徒町たちが挑むには早い相手だったのでしょうか……」

 

 

 そうだ、仮にここで全力で回復して次は耐えられてもその次は耐えられるか分からない。つまり何か逆転の一手を見つけ出す必要がある。

 

 

「ひめっち、なにか打開策ってあったりする……?」

「いやぁ……力の差が歴然過ぎますね。初見で低レベルクリアに挑んでるようなものですし……」

「それにボス戦だから逃げられないしね。さっきコマンド入力しようと思ったけどムリだったよ。これ本格的にヤバいね……」

 

 

 マズイ、全員の士気が下がりまくっている。このままだとこちらのHPが尽きる前に気力で負けてしまう。そうなったらもう逆転の芽は完全に潰れる。ドラゴンではなく己で自滅するようなものだ。

 いや、希望を捨てなければ必ず対応策はあるはずだ。俺はこれまでこんな困難すら何度も乗り越えてきた。常に運命が味方して……じゃない、俺自身が運命なんだ。自らの手で未来を切り開いてきた。絶望に浸っていたら目の前が真っ暗になるだけ。希望を持ち続けて考えろ。この状況を打破する作戦を。みんなを守り、そしてこの戦闘を切り抜け、そしてこの世界から脱出する。その希望は決して消さない。

 

 その時、俺の剣が淡く光り出した。何事かと思ったが、ふとあることを思い出す。

 そういえば冒険が始まる時に一通り所持品の説明文を読み込んでおいたんだ。そしてこの剣の説明書きは『希望を1つにして力を発揮する』とあったような気がする。

 もしかして急に光り出したのは俺が諦めずに希望を持っていたから? だとすると逆転の芽はこれしかない。

 

 

「お前らまだ終わってねぇぞ。さっき倒れてる奴らを見て、今度は自分がああなるかもって恐怖を感じる気持ちは分かる。でも希望を捨てるな。俺がすぐなんとかしてやっから、安心しろ」

「なんとかって、零クンなにか作戦があるの?」

「奇跡っつうのはな、希望を捨ててない奴にだけ起こるもんだ。絶望を抱く者はただ堕ちていくだけ。だから絶望を感じてるのなら何の根拠もなくていい、俺だけを信じろ。もし今、誰かに希望を委ねるとしたら俺に託せ。そうしたらおまえらにも見せてやるよ、本当の希望ってやつを」

 

 

 自分でそう言った瞬間、この言葉は純度100%の自分の言葉ではないと気付いた。どこかで聞いたことがあるような気がする。

 そうだ、この世界がファンタジーになる前のこと。コイツらの練習に付き合うためにみんなで廊下を歩いていた時にすれ違った女の子の言葉だ。

 

 

『もしたった一人に夢と希望を託すとしたら、あなたは誰に託す?』

 

 

 この世界になってからすっかり忘れてたけど無意識に心に残っていた。

 今がまさにその言葉通りの状況。ゲームに慣れている安養寺たちですら諦めかけており、さっきイヤと言うほど見た何かに震えて倒れ込む人たちと同じ末路を辿る。そんな未来に絶望しているコイツらに何とか奮起してもらおうと希望を示すこの状況こそ、まさにその言葉通りだ。

 

 もしかしたらと半信半疑ではあったけど、やっぱアイツなにか知ってるんじゃ……。

 

 ただ考え事は後回しだ。花帆たちは今にも終わりそうな強張る表情から一転、俺の言葉が効いたのか瞳に光を取り戻した。

 その瞬間、俺の剣に九つの色の光が集まって1つに宿り始める。このカラーはまさしくコイツらの色そのもの。予想通り『希望を1つにして力を発揮する』説明文通りらしい。

 

 

「師匠の剣に光がどんどん集まっていきます!」

「お前らが希望を託してくれたおかげだ。なぁに心配すんな。勝利ってのは常に希望を一番強く持ち続けた奴にのみに訪れる。それは俺のことだ」

「またナマイキ言っちゃって。でもあんたこそ私たちの希望に間違いないって、認めざるを得ないね」

「あ、れいの剣が大きくなっていくよ。みんなの希望が合わさった力だからかな?」

「もしかしたらですけど、今のれいくんせんぱいの剣ならドラゴンに有効なダメージを与えられるかもです!」

「それならドラゴンもやっつけられるよ! やっちゃえ零クン!」

 

 

 9人の希望が合わさった剣は光を纏いながらどんどん大きくなっていく。持てなくなることはなく、むしろ物質を感じないくらいの優しい手触りで元の剣よりも軽くなっていた。

 このターン、残りの行動権を残しているのは俺のみ。やることはただ一つ。

 

 俺は大きくなった光の剣を構えると、そのままドラゴンに向かって振り下ろした。

 すると今までのダメージがウソのような威力を与え、なんとドラゴンを一撃で屠る。あまりの威力に花帆たちも目を丸くするが、その巨体が倒れて消えていく様子を見ると安堵したのか地に尻をついたり深呼吸するなど平静を取り戻したようだった。

 

 

「わたしたちの勝利、みたいですね……。まさに奇跡、いや零さんが故の必然でしょうか。どちらにせよありがとうございます」

「いやお前らが希望を持ってくれたおかげだよ。あの言葉でも再起しなかったらここで終わってたからな」

「零君、あなた本当に凄いわね。スクールアイドルクラブの部長の座、譲りたくなってしまうくらいよ」

「なに言ってんだ。事務作業は苦手だから遠慮させてくれ」

「あははっ! 零くんはふんぞり返って肝心な時だけ頼りになるのが一番だとルリ思う!」

「それバカにしてねぇか……?」

「神崎先輩……」

「百生……?」

 

 

 百生は何か言いたそうにしているが口を噤んでしまった。ただ何か不安に押しつぶされそうになっている様子はなく、むしろ頬を紅くして内に秘めた気持ちを吐き出そうとして我に返った。そんな感じがする。ここで掘り下げても羞恥心を刺激してより深くに引きこもってしまうので、本人の踏ん切りがつくのを待った方がいいだろう。

 

 

「あっ、そういえば寮母さんのこと忘れてました! 寮母さーーんっ! 大丈夫ですかーーっ!」

 

 

 ドラゴンを討伐して肩の力が抜けたせいか誰もが寮母の存在を忘れてしまっていた。徒町の言葉で気付いた俺たちは、いつの間にか木陰に避難していた寮母の容態を確認する。ドラゴンの攻撃に巻き込まれてHPゼロになっていないか心配だったが、どうやら難は逃れたようだ。すぐにこちらに注意を惹きつけたのが功を奏したな。

 

 

「ありがとう皆さん。私のためにこんな危険なことまで……」

「アンタに訊きたいことがあるんだ。だからここでくたばってもらっちゃ困る。つうかどうして外に出てたんだ危ねぇだろ」

「寮には何人もの生徒が怪物に襲われながらも逃げ込んできたの。だから他に困っている子たちも助けに行かないと、と思って……」

「無茶しやがって。とりあえず寮に行こう。訊きたいこともあるし、何より休みたいしな」

 

 

 ようやく目的である例の噂の真相を暴けそうだ。話によれば寮の中は安全地帯っぽいし、RPGでいえば宿屋のような立ち位置なのだろう。そこでゆっくりしながら話を訊いて、今後の対策を立てるとするか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なるほど、今になってその話が広まり出すなんて……。あの時代に葬られた事実だと思っていたけれど……」

「それでは知っているのですか? 夢を見る楽譜のお話……」

「えぇ。当事者に近い立場でもあったから、今でも鮮明に覚えています」

 

 

 俺たちは寮母の部屋に集まって噂の話を訊くことにした。

 しかしなにやらただならぬ雰囲気。どうやらあまり掘り返したくない話題らしい。噂という不確定な状態で拡散されていたのも真実を隠したい奴がいたからかもしれないな。

 

 

「夢を見る楽譜は蓮ノ空に存在していました。出どころは不明。だけど蓮ノ空にこっそりと伝わっていて、一部の生徒しか知り得ないものでした。その筆頭が芸楽部。つまりスクールアイドルであるあなたたちの先輩にあたる人たちが主に使用していました」

「その楽譜は人のインスピレーションを受けて、まさに思い描く通りに曲や歌詞を完成させてくれる代物だと聞きました。それは本当なのでしょうか?」

「えぇ、本当のことです。自分の表現をありのままの姿で世に顕現させられる。それがあればスランプとは無縁となり、誰もが目を惹き耳に残る曲をずっと作り続けられる。曲作りは本来自分の心と魂を込めるもの。それが一部の狂いもなくありのままの状態で完成するのですから、ライブで披露した際の反響は凄まじいものになります。なんたって自分の全てを思いのままに伝えることができるのですから」

「確かに曲作りは楽になるかもしれませんが、著しく蓮ノ空の伝統を穢しているように思えます。祖母が言っていました。蓮ノ空の伝統は在籍する生徒一人一人が自分を高め、みんなで力を合わせて築き上げるものだと。楽譜の力に頼っているばかりでは自らを磨き上げることはできないと思います」

「あなたの伝統を重んじる姿勢は素晴らしいです、百生さん。確かに仰る通りです。ただ現実にそのような便利な楽譜があれば誰もが手にしてしまうもの。想像してみてください。卒業するまでにスクールアイドル生活。曲作りに一切困らず、自分の表現したいことを1から10まで全て形にしてくれる楽譜がある。それを使わない選択肢を取ることができるでしょうか」

 

 

 花帆たち全員は反論できずに黙り込む。

 そりゃそうだ。いくら綺麗事を並べたとしても目先の圧倒的利益を前に目を奪われない奴はいない。俺はこれまで幾多のスクールアイドルと関わってきたが曲作りに苦労していない奴はいなかったからな。そんな代物があれば飛びついてしまうのは今も過去も同じだってことか。スクールアイドルは短いスパンでコンスタントに新曲を作る必要がある以上、それを考える時間をほぼゼロにできるモノがあれば誰もが利用したくなるだろう。ただ百生が言った通り、そんなのに頼っていては自身の創作スキルを上げることはできなくなるけどな。

 

 

「でもそんな便利な楽譜があったら、今の蓮ノ空にも噂じゃなくて本物が伝わってそうな気もするんですけど……」

「そうですね。しかし、伝わってはならない理由があるのです。考えてみてください、そんな人の夢を具現化するような楽譜が何のリスクもなく使用することができるのかと。便利なものには必ずそれに伴う対価がある。その楽譜は使用者の夢を映す反面、夢を奪う楽譜でもある」

「夢を、奪う……?」

「はい。かつて蓮ノ空では原因不明の症状で病に臥す人が増加しました。ある者は何かに怯え、ある者は誰かに謝り続け、まるで夢の中で絶望に見舞われているのではないかと察するほどでした。解決策もなく学校の対応も手詰まりになったとき、その調査結果から1つの結果が導き出されます。それはその症状に陥った生徒は皆あの楽譜の使用者であったこと。結論、あの楽譜の人の夢を具現化する力は使用者の未来を対価にしている。使用者に夢を見させるほどの曲を与えつつ、その後しばらくするとその代償として絶望を与える。絶望に苛まれると廃人になったかの如く悪夢の世界に囚われる。まさに人の夢を奪う楽譜、というわけです」

「待って、さっき倒れてた人たちってそれと全く同じ症状なんじゃ……!!」

「どうやらそうみたいですねぇ……。となると今回の元凶はやっぱりその楽譜ってことですか……」

 

 

 間違いないと思う。ただ使用者に絶望を見せるのであれば俺たちが巻き込まれる理由が分からない。HPがゼロになって未来という名の夢が奪われる。それがルールの世界観であれば無理矢理にでも納得せざるを得ないが……。

 

 ただ、その謎を探る手立てはある。

 

 

「その廃人になった人たちって今は元に戻っているのでしょうか?」

「えぇ、ほとんどの人は健康体になっていますよ。とはいえ、見せられていた悪夢は記憶に残り続けているようです。誰も口に出したがらないが故に話が広まることもないのでしょう」

「ほとんどの人ってことは、未だに苦しんでいる人もいるってこと?」

「はい、一人だけ。とは言ってももう既に亡くなられています」

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

「元々身体が弱く持病持ちだったのです。つまりその楽譜の影響なのか持病が悪化したのかは切り分けできていません。ただどちらにせよ楽譜は危険だと判断され、今は使われていない旧校舎に封印されることになりました。どこにどう封印されたのかまでは把握していないのですが、以降は噂レベルでも楽譜の話題は禁止とされています。それを入手するために旧校舎に無断で立ち入る人がいるかもしれませんから」

 

 

 なんかここに来てすげぇフィクション風になってきたな。そんな夢物語が実在するなんて現実じゃありえねぇぞ。

 ただ実際には存在していた。オカルトっぽい話だが幽霊が実在する以上は特に変でもないか。ただこの学校は以前もスクールアイドルに復讐したい幽霊がいたことがあるから、どれだけいわく付きなんだよここのスクールアイドル……。

 

 話を戻すと、楽譜をまた利用している奴がいる。怪しい奴の目星はもうついていた。

 

 

「おいお前ら。あの時にすれ違った葦毛の女の子、最近転校してきたっつってただろ。ソイツの名前知らねぇのか?」

「えっ、どうしたんですか先輩。いきなり関係のない話を……」

「関係ある。なんとか捻り出して答えろ」

「徒町、喉まで出かかってます! 確かとても綺麗なお花だった印象が……あっ! いやまだ喉に引っかかってました……」

「なんだよ……」

「一華……」

「えっ?」

一華(いちか) 梨鈴(りり)さんだったと思います。私も綺麗な名前だってことは記憶の片隅にあったので、なんとか思い出せました」

「そういえばそんな名前だったねぇ~。でもせんぱい、あの子の名前が今回の件とどう関係があるんですか?」

「関係があるかは寮母が知ってるはずだ。そうだよな?」

 

 

 俺の予想が正しければ、今回の件を引き起こした張本人は――――

 

 

「一華さん……」

「寮母さん、知ってるんですか?」

「えぇ、もちろん。さきほど楽譜の出来事と同時期にお亡くなりになった人のことをお話ししました。その人が一華さんだったのです。年代を考えると、転校してきた一華さんはお孫さんでしょう。名字が一緒だとは思っていましたがまさかあの子が……」

「これで繋がったな。次に話を訊かなきゃいけないのはソイツだ」

 

 

 これで過去の事件と噂の楽譜の真実、アイツの正体が全て判明した。あとはどうして世界を変えたのか、そして目的を明らかにする必要がある。そのためには直接その一華って奴に会うのが手っ取り早いだろう。

 

 

「おい婆さん、旧校舎ってのはどこにある? そこに楽譜が封印されてんだろ? アイツは多分そこにいる」

「あとで地図をお渡ししましょう。本来なら生徒をこんな危険な目に遭わせるわけにはいきませんが、緊急事態です。あなたたちに蓮ノ空の未来を託しましょう。この学校を救ってください。そして私の友の魂も」

「友……? なるほど、仕方ない」

 

 

 また随分と大きな期待を背負わせてきやがるな。

 そして友ってのは恐らく亡くなった人と寮母が親友だったのだろう。そもそも楽譜の話は限られた関係者以外には知られていないので、寮母が知っている時点で当時なにかしら噛んでいたと思っていたのだが、まさかそこまで近しい関係だっただなんてな。まあ元芸楽部だから楽譜との繋がりは濃厚だったか。

 

 となると、大人が誰もいなくなったこの世界で寮母だけいる謎もちょっと分かった気がする。当時の関係者だからなのか。まあ結局その疑問も張本人から教えてもらわない限り確証はないけどな。

 

 

「じゃあ早速行こう! 蓮ノ空の未来はあたしたちの手にかかってるんだから!」

「ボスの居城に乗り込みですか~。いよいよクライマックスって感じがしてきましたね~」

「やる気があるのは結構なことですが、少し休憩してください。そうでなければ寮母権限で外出許可は出せません。そんなボロボロの状態でモンスターがいる外へ向かわせるわけにはいきませんので。聞けばほぼ休みなくこの寮までやってきた様子。しっかり英気を養うことです」

 

 

 そりゃそうだ。さっきのドラゴン戦どころか、世界が変わってからここに来るまでほぼノンストップだった。いきなりファンタジー風の世界になって頭の整理もついていない中であれこれ推理してここまで辿り着いた。俺は別に疲れてないが、この後もコイツらを伴って出かけるのであればここで休息は必須だろう。

 

 寮母に窘められたことで少しの間ここで休むことにした。それにコイツらにしてみれば久々の寮だ。安否が気になっている友達もたくさんいるだろう。それを知るためにも時間を作ってやった方がよさそうだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あ~ダメだ。やっぱこの世界からは繋がらないか……」

 

 

 各々で休憩を取っている間、俺は寮のラウンジのソファに腰をかけて携帯を弄っていた。とはいえ外部への連絡手段は絶たれており、端末から見られるのは精々パーティのステータスや持ち物くらいだ。当然オンラインゲームでもないのでログアウトなんてものもない。改めてみるととんでもねぇ世界に連行されちまったな。

 

 この世界が元の世界から断絶されているのかそれともパラレルワールドなのかは分からないが、秋葉なら異変を察知してコンタクトを取って来ると思っている。だから冒険中も休憩中も頻繁に携帯をチェックしてるんだけど――――

 

 

「えっ、まさか」

 

 

「師匠!」

 

 

 いきなり徒町にソファの後ろから話しかけられる。その背後には百生と安養寺もいて小三角が揃い踏みだった。どうやら他の奴らはいないみたいだ。

 なにやら俺に話があるようで三人もソファに腰をかける。

 

 

「さっき携帯を見て驚いてましたけど、なにかあったんですか~?」

「いやなんでも。それより話ってなんだ?」

「神崎先輩にお礼を言いたくて。さっき助けてもらったお礼を……」

「まだ何も解決してねぇのにか?」

「はい! それに徒町たち、ちょっと不安に思っていることもありまして……」

 

 

 さっき希望を与えてやったのにまだ何か引っかかることがあるのか。まあ冒険が始まってようやく一息つけたから、落ち着いて心の整理をしたが故に湧き出てくる思いってのもあるだろう。

 

 

「さきほどはありがとうございました。先輩がいなかったらあそこで終わっていたかと思うと、今でもちょっと怖気が走ります……」

「プロゲーマーと言えどアタシも全く役に立たなかったですし、れいくんせんぱいがいてくれて本当によかったです」

「お前らとは踏んだ場数が違うんだ。ま、こんなこと経験しない方がいいけどな」

「さすがは師匠です! でも師匠って本当に中学生なんですか? なんかそうとは思えないような達観ぶりですけど……」

「何言ってんだ。サバ読んでどうすんだよ」

 

 

 また気付かれそうになってるよ。でも実力を隠したらこの世界から脱出なんてできないし、自分の素を晒したとしてもある程度は仕方ないか。

 

 

「先輩の頼もしさを身に染みて実感したさっきの戦闘ですけど、当時に私たちが足手纏いなのではないかと不安にも駆られました。部室で待機していろと命令した先輩に対してやる気を見せて同行する選択を取ったはいいものの、あまり活躍で来ていないような気がして……。特に私は姫芽と違ってゲームは得意じゃないし、小鈴みたいにセンスがあるわけでもないので……」

「徒町だって結局皆さんに頼りっきりで、同じ黒魔導士のさやか先輩や綴理先輩は魔法の使い方がどんどん上手くなっているのに、徒町はまだまだ未熟で足を引っ張るばかりです……」

「アタシもゲーマーとしてみんなの先頭に立つとかイキがっておきながら、さっきの戦闘は何もできずにれいくんせんぱいに何もかもを頼っちゃいました。なんというか、自分が役に立ってないことが申し訳ないと言いますか……」

 

 

 どうやら自分たちの立場に疑問を抱いている様子。さっきのドラゴン戦も俺に任せっきりだったから、自分たちは何もしていないからと思っているのだろう。

 うん、よくある話だ。

 

 

「そんなことか」

「そんなことって、私たちにとってはとても重要なことで……!!」

「分かってる。でもお前らが希望を俺に託してくれたおかげでドラゴンを撃破できたんだ。もしかしたら一人分の希望が欠けてたら威力が足りずに倒せなかったかもしれない。もうそれだけでお前らは十分に貢献してるよ。それでも納得がいかないってのなら俺に力を与える存在、そう思っていればいい。どのファンタジーでも主人公とそれを支える脇役がいるだろ? 目立たなくてもその脇役がいないと主人公が際立たない、いわゆる縁の下の力持ちだ。目立った活躍なんてなくても俺に力を貸してくれるだけでいい。そうしたら俺がお前らに希望を見せてやる。この世界から脱出するって希望をな」

 

 

 俺が小三角を慰めている中、同時にラウンジの入り口で俺の話を聞いている影が1つ。

 花帆は何か決心をしたようだ。

 

 

「そうだよね。零クンがあたしたちの希望なんだ。だからあたしたちのやるべきことは――――あっ、梢センパイ、みんな! いいところに! ちょっとお願いがあります!」

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 本編中でもありましたが、この小説の蓮ノ空のスクールアイドルが過去に恨まれ過ぎてして本気でお祓いとかかしてもらった方がいい気がしてきました(笑)
 百年以上の伝統があるからこそこういった設定の話が作りやすくて、ネタとしてはむしろありがたいんですけどね(笑)


 次回で蓮ノ空ファンタジー編は最終回にしようと思っていますが、文字数の関係で一話増えるかも……

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