ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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蓮ノ空ファンタジー5~希望の代価~

 寮母から夢を見る楽譜の真実を聞かされた俺たち。楽譜の正体、それは使用者に強烈な多幸感のある夢を前借として与え、後に絶望を見せることで借金を取り立てる呪物だった。寮母が学生時代に秘かに問題になり旧校舎に封印されたらしいのだが、今回とある奴が世に解き放ったせいで異常事態が引き起こされている。ただファンタジーの世界になっていたり使用者ではない人が絶望に打ちひしがれていたりと、寮母の話には存在しなかった事態も発生していた。どんな謎があるのせよ、その旧校舎に行けば全てが判明するだろう。どうやら楽譜が封印されてるのはそこみたいだしな。

 

 

「よし、そろそろ行くぞ。お前ら準備できてるか?」

「ピカピカになるまで杖を磨いておきました! 炎の魔法で黒焦げになるまで使い倒しちゃいます! ちぇすとーっ!」

「それ暴発してるだろ。焦がすのは敵にしてくれ……」

「さっきのドラゴン戦でドロップした強い剣を装備しておきました~。ブレイド部分が敵の血に染まるまで使い倒してやりますよ~」

「今お前の目が血走ってるぞ。やる気があるのはいいけどさ……」

「ここまで溜めたお金でポーションを買いだめしたので、これで道中MPを使って回復する必要はなくなります。最終決戦までにMPは温存したいですから」

「MP効率まで考えられるようになったのか。成長早いなお前……」

 

 

 一年生たちは準備万端みたいだ。自分たちが役に立っていないのではないかとローテンションで相談しに来たのだが、俺の希望の一端を担ってくれと言ったら無事に復活した。誰しも自分にしかできない役割があると自信が持てるものだ。それに根拠はなくても自信のある奴が仲間にいるってのは頼もしいしな。

 

 

「おい、花帆たちはどうした? さっきから姿を見てねぇけど……」

「も、もしかして外に出て敵にやられちゃったとかではないでしょうか!? 綴理先輩が外の空気を吸うためにふらっと外に出ちゃって……!!」

「いやいや、さすがに綴理先輩と言ってもそれは……あるかも?」

「それかめぐちゃんせんぱいが『レベル上げめぐ~』って言って、せんぱいたちを巻き込んで外に出て……」

「いやそれも……あるかも?」

「お~吟子ちゃん、さっきから言うねぇ~」

「その度胸、徒町も見習いたいです!」

「言い出しっぺは二人でしょ!?」

 

 

 随分と和やかだ。ついさっきまでしおれそうなくらい落ち込んでたのにこの様変わり。まあ希望を持ってもらうために発破をかけたんだ、これくらい元気になってもらわないと鼓舞した甲斐もないか。冗談を言い合うくらいの余裕があるってことでポジティブに捉えておこう。

 

 

「ボクなんなの……」

「言いたいこと言ってくれちゃって、生意気になったねぇおチビちゃんたち!」

「な゛っ、綴理先輩!? 慈先輩!?」

「あたしたちもいるよ! いやぁ~吟子ちゃんたちがそこまで言うようになったなんて、成長したね~」

「お前ら遅いぞ。もう準備はできてるのか?」

「すみません。ちょっと話し込んでいまして……」

「遅れてゴメンなさい。準備はもう万端よ」

「遂に最終決戦だもんね! ルリも一年生たちに負けないやる気が漲ってるぜ!」

 

 

 花帆たち6人はどうやら一緒にいたらしい。6人で一体なにを話していたのだろうか。百生たちを励ますために何かアクションを起こそうとしていたのか。それとも本当にレベル上げ……と思ったが、コイツらのステータスを見る限り何も変わっていない。先輩として後輩を守れるようパーティバトルのいろはでも復習してたか。

 

 

「先輩たちって前向きですよね。戦いが怖いとか自分が役に立たなかったかもとか、そういった悩みはないんですか?」

「なるほど、吟子さんたちが暗い顔をしていたのはそのことだったのね」

「うっ、やっぱりバレてましたか~」

「それは顔を見れば分かりますよ。でも吹っ切れたようでよかったです。これも零さんに希望をもらったおかげでしょうか」

「はい! 人の心を簡単に浄化して掌握できる、流石は師匠です!」

「なんか俺が変な宗教の教祖みたいじゃねぇか、その言い方……」

 

 

 俺としては別に大層なことを言ってるつもりはないけどな。ただ自分が思っていることをそのまま口に出しているだけだ。そんな簡単なことで失意に堕ちる女の子の笑顔を取り戻せるのならいくらでも相手になってやる。それに隣で曇ってる奴がいるのも辛気臭いだけだから、隣にいるのならせめて前向きであってほしいんだ。

 

 

「ボクたちも怖いって思うよ。でも、れいがいるおかげで目の前がずっと希望の光に照らされてるんだ。悪夢を見せてくるお化けが出たときもそうだった。本気で怖くて足腰が立たなくなってたけど、れいがボクたちを奮い立たせてくれたんだ」

「マジヤバな事件を乗り越えた経験があるからね私たちは。しかも何度も。度胸が鍛えられたっていうか、ちょっとやそっとのことでは挫けない心の強さを身に付けたんだよ。それもこれも零が支えてくれたから、ってのもあるかな」

「いやはや零くんのリーダーシップ力が凄すぎて、まさにフィクションにいる正義のヒーローだもん。そんな人の隣にいたら自然とやる気も上がっちゃうよ。流石はルリの理想のヒーロー像!」

「だからあたしたちは絶対に希望を見失ったりしないんだよね。なんたってあたしたちにとっての希望は零クンなんだもん! 零クンは何が合っても絶対に諦めない、イコールあたしたちの希望はずっと輝いてるってことなんだから!」

 

 

 一年前に何回も厄介な事件に巻き込まれたが、そのおかげで多少のことには動じない強靭な心に育ったのだろう。特に悪夢を流し込んでくるあの幽霊騒動では平凡な日常を送っていたコイツらにとっては非日常の出来事すぎた。本物の幽霊に自分たちが標的にされていると身をもって体感したとき、もはやその場でへたり込んでしまうほどの恐怖を感じていたんだ。それを乗り越えて今に至るんだからそりゃ心も強くなるよな。

 

 

「なるほど~。れいくんせんぱい、もはやスクールアイドルクラブのリーダーですね~」

「威圧的な励まし方なのも実力派のリーダーみたいです!」

「バーカ、俺はただの居候だよ」

 

 

 全員の統制が取れるのであれば威圧的でもなんでもいい。それで全てがまとまって物事が真っすぐ進むのであれば暴君的な発言も許されよう。切り取って見れば俺の発言を咎める奴も多いが、長い目で見れば結果的にハッピーエンドに向かうわけだからこうやって分かってくれる奴も増えてくる。今回はそんな奴が三人、増えただけの話だ。

 

 

「ったく、俺たちもいつぶっ倒れた奴らみたいになるか分からないから心して臨めよ。話はそれだけ。そろそろ行くぞ」

「「「「「「「「「おーーっ!」」」」」」」」」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ラストダンジョン(と勝手に思ってる)である旧校舎へと到着した。

 やはりと言うべきか当然と言うべきか中はかなり暗く、外から差し込む光を頼りにしないと前がほとんど見えない状況だった。それでもモンスターは容赦なく襲ってくるが、コイツらは俺たちが見えているのだろうか。ずっとここにいた設定だろうからコウモリみたいにエコーロケーションで周りを察知しているのか。ラストダンジョンなのにそこまで敵のレベルは高くないが、周りの視認性が悪いせいで攻略難易度が少し上がってしまっている。

 

 それでもお互いに連携を取りつつ敵を倒して進み、寮母から教えてもらった旧校舎の地下へ続く隠し通路の場所を特定した。

 

 

「まさか地下に続く階段が校舎の三階にあるなんて……。例の楽譜ってのはよほど誰にも見つけられたくねぇのか」

「わざわざ封印の部屋を地下に作ったのに、その入り口を三階に設置しているくらいですからね」

「あぁ。そろそろ本丸だ、気を引き締めろ」

 

 

 三階から地下までの長い階段を下る。

 この狭い空間でモンスターは出現しないようだが、その代わりにみんなの緊張感はかなり高まっていた。戦闘があればそれに集中するから気も紛れるものの、ただ黙って階段を降りるだけでは足音しか響かないのでその物悲しさが緊迫感を更に上げてしまう。出発前にやる気がMAX状態であったとしても一寸先は闇状態では警戒心を持って当然だろう。

 

 そして遂に地下室への扉の前をと辿り着く。

 後ろにいるコイツらがどんな表情をしているのかずっと先頭にいたため分からないが、ここに来て決心が鈍ることもない。俺は地下室を隔てる大きな扉を開け放った。

 

 その先は大広間ではあったがただのコンクリート壁で囲まれた、ぱっと見では学校内の部屋とは思えない質素な造りの部屋だ。まあ楽譜を封印するためだけに作られたのであれば誰も立ち入らないし、そんな荘厳な造りにしなくてもいいんだろうな。ダンジョン化しているせいで牢獄みたいな様相になっているのかもしれないけど。

 

 そんなチープな造りの部屋のど真ん中、俺たちの目を惹きつけたのは桃色の小さな三角錐の結界だった。

 透過されているので中が見えるようになっており、その中には座っている女の子が一人と広げられた楽譜が存在していた。ただその子は大量の汗をかいており、結界の中にいるだけで持続ダメージを受けているようだ。逆に楽譜の方はその子から発せられたり壁を貫通してきた光の玉を逐次吸収しており、無機物なのに満足そうにしている雰囲気を感じ取れる。あの光は俺の剣に宿った光と同じ、希望の光だろう。

 

 女の子はかなり辛そうにしている。このまま手を出していいのかと、みんなは困惑して目の前の状況に釘付けになっていた。

 そんな中、結界内にいた女の子は俺たちの気配に気づいたようだ。向こうも驚いた様子を示すと、楽譜を閉じて自分を包み込んでいた結界を解除する。その後すぐに俺たちと相対するため立ち上がったのだが、やはりダメージを受けていたのか足がふらつき真っすぐ立とうとした際に危うくバランスを崩しそうだった。

 

 

「あなたたち、スクールアイドルクラブですか……?」

「お前が一華(いちか) 梨鈴(りり)だな。蓮ノ空をこんな世界にしちまった張本人、ようやく見つけたぞ」

「どうしてここが……?」

「婆さん……寮母に聞いたんだ。あの人は当時の芸楽部、その楽譜についてよく知ってたよ」

「そう……。じゃあ私のことも……」

「あぁ、教えてもらった。お前がその楽譜で犠牲になった当時の生徒の孫だってこともな」

 

 

 数か月前に転校してきたらしい一年生の一華(いちか) 梨鈴(りり)。ここにいるってことは今回の黒幕はコイツで間違いないようだ。

 背は低く瑠璃乃や徒町と同じかそれを下回る(それでも俺の方が低いが)。でも目は色鮮やかなエメラルドグリーンで、ダメージを受けて疲労困憊状態なのにも関わらずその輝きは失われていない。ただ髪はかなり乱れており、綺麗な葦毛が台無しになっている。どうやらここに籠って自己犠牲を伴う何かをしていた、そう捉えられる。

 

 意外と話が通じそうな奴だと知って花帆たちも僅かに肩の荷が下りたようだ。いきなりラスボスが襲い掛かってきて戦闘開始の可能性もあったからな。話し合いをする余地はあるみたいだ。そもそも向こうが疲れを見せているからまともに戦えなさそう、ってのもあるが……。

 

 

「色々訊きたいことはあるけれど、まずあなた大丈夫なのかしら……? もう既にボロボロだけれど……」

「大丈夫ではないです。自分の未来を代価としてこの楽譜に力を捧げていましたから……。他の人の分と併せて少しでも多く希望を集めないと……」

「どうして!? どうしてそんなヒドいことをするの!? ここに来るまでの間、HPがゼロになって絶望の悪夢を見せられている人をたくさん見てきた。みんな辛そうであたしたちにも悲しみが伝わってきたんだから!」

「仕方のないことです。私もできる限りこんなことはしたくなかったので……」

「そもそもどうしてこんなことを……? わたしたち、ずっとそれが気になっていました。他人を巻き込んであそこまでの絶望を与えて、あなたは一体なにをしようとしているんですか?」

 

 

 どうやら愉快犯ではないようだ。ただ自分の欲望を満たすため、人に不幸を叩きつけて愉しむだけのシリアルキラーではないらしい。その点からもまだ話が通じそうな奴であることに俺も安心したが、結果としてやってることは愉快犯と何ら変わりはない。しかもコイツは申し訳なさを出しながらも今やっていることに相当の覚悟を持っている様子。

 

 そんな奴から語られる今回の真相。一体どんな謎が暴かれるのか。

 

 

「寮母さんから話を聞いているのであればご存じでしょう。この楽譜は夢を見る楽譜なんて代物ではありません。人の夢を代価に絶望を見せることで帳尻を合わせる、いわば闇金のようなもの。私の祖母の末路を考えれば闇金すらも生温いかもしれません」

「うん、それは寮母さんが教えてくれたよ。楽譜のせいであなたのお婆さんがなくなった可能性があるって。でも元々病気だったから楽譜との因果関係は不明とも言ってたけど……」

「いや、間違いなく楽譜のせいです。でも今の私はこの呪いの楽譜を頼らざるを得なくなった。祖母と同じ症状で苦しむ母を救うために……」

「一華ちゃんのお母さんが!? ルリたちそれは知らないけどどういうこと!?」

「言った通りです。母は祖母と同じ症状に苦しめられて臥せっています。そして母に持病はない。あるとすれば当時の呪いが母を生んだ祖母から引き継がれていること。絶望に浸って泣き叫び続ける、この楽譜の呪いが母に発症したのです。半年前、あまりにも突然の出来事でした」

 

 

 想像以上に重い話に花帆たちは絶句していた。まさか楽譜の影響が子供にまで引き継がれているなんて夢にも思わなかっただろう。絶望に浸って泣き叫び続けるなんて症状はまさにこの楽譜の呪いそのもの。コイツの言っていることに間違いはないように思える。フィクションみたいな話だが、現実問題あの楽譜は目の前に存在している。もはやどんなことが起きても不思議じゃない。

 

 

「私は祖母に引き続き母までその病に陥ったことに恐怖を覚えました。なのでこの連鎖を打破しようと祖母が生前につけていた日記を読み漁り、打開策のヒントを得たのです」

「それがボクたちから希望を奪うことなの……? みんなをあそこまで絶望に与えることがその打開策なの……?」

「はい。日記によればこの楽譜はただ作詞作曲をしてくれるだけではない、願いであれば芸術関連でなくとも叶えてくれるそうです。事実は秘匿されていますが蓮ノ空でも実際に私利私欲の願いを叶えた人はいたと日記に記されていました。そして与えてくれる夢や希望は人の絶望を吸い取れば吸い取るほど大きくなる。より良い結果が得られるようです」

「じゃあ一華さんはお母さんを助けるために蓮ノ空のみんなから希望を吸い上げていたってこと……? それだけのために??」

「はい。そうでないと母の娘である私自身もいずれ同じ呪いに……」

「あっ……」

 

 

 なるほど。寮母の話によれば呪いの効力は長期間だが徐々に消えていくようで、当時患っていた人たちも今は健康でいるらしい。だがコイツの婆さんだけは別。呪いを克服できない体質だったせいで娘であるコイツの母親にも遺伝してしまったのだろう。そう考えるとコイツ自身にも恐らく……。

 

 

「私自身のことはどうでもいいです。自分の夢や希望を代償に母を救い出すことができれば……。蓮ノ空の生徒は大きな夢を持っている人が多く吸い取れる希望もそれなりの規模になります。この楽譜にそれだけの力を与えれば、きっと母は救われます」

「う~ん、梨鈴ちゃんが楽譜の存在と封印場所を知ったのもそのお婆さんの日記から嗅ぎ付けたってコト……? じゃあ蓮ノ空に転校してきたのもまさか……」

「はい。この楽譜を利用するためです」

「じゃあこのファンタジーの世界は……?」

「私が好きなゲームがファンタジーのRPGだったからでしょう。楽譜の効力は使用者の夢を体現する。つまり楽譜が私の潜在意識を勝手に覗いた結果、ということです。私自身もこうなるとは思ってませんでした。でもそのおかげでHPがゼロになったら希望を奪われるという都合のいい設定の世界になってくれました。女子高の生徒はゲーム慣れしていない人も多いですから、楽譜は都合よく希望を回収できる世界に作り替えたのだと思っています。大人を排除したのも夢を大きく持つ学生を対象にした方が良いと楽譜が判断したのでしょう。ただ寮母さんが残っていたのは、私が一度この事件について昔の話を聞いてみたいと前から思っていたので。だから唯一残留していたのだと考えます」

 

 

 これで謎がほぼ全て明らかとなった。楽譜の真の効力、そしてこの世界の秘密まで一応腑には落ちる。もちろん納得しているわけではないが、コイツにもコイツなりの事情があるってことは分かる。同情するかはさておき背景事情の重さは鮮明に伝わってきた。

 

 

「これってどうしたらいいのでしょうか……? 徒町たちがこの世界を元に戻してしまったら、梨鈴ちゃんのお母さんが……! でもこのままだと蓮ノ空のみんなが!!」

 

 

 徒町もみんなも究極の二択を迫られているって感じだ。誰かの希望を守るためには誰かに絶望を与えなくてはいけない。今まで自分たちはもちろんファンや観客、誰しもに夢を見せてきたスクールアイドルのコイツらにとっては思考停止してしまうような選択だ。どちらかなんて選ぶことができない、そんな困惑の表情を浮かべている。

 

 

「絶望に苛まれてはいますが、それは一時的。命の危機にある母と比べるまでもありません」

「それはそうかもしれないけど……」

 

 

 一華は淡々と話しているが覚悟は本物のようなので、真相を教えてくれる間にも心からの悲痛な叫びが伝わってきた。

 それを受け取ったのはコイツらも同じで、だからこそ究極の選択に迷いが生じているのだろう。いや、どちらかと言えば一華寄りにシフトしている。コイツの家族が特別なだけであって他の奴らは一定期間絶望を味わうだけ。過去の楽譜使用者も今は呪いが消えて健康になった人ばかりだから、命との天秤にかけられたときにどちらに傾くかは明々白々。蓮ノ空の生徒は希望がたっぷりだから吸い取り甲斐があるなんて愚弄されたとしても、命と引き換えである以上は言い返せないし割り切るしかない。コイツらもそう思っているのだろう。

 

 

「こちらの意図に同意していただけたのであればここから立ち去ってください。今も現在進行形でHPがゼロになった人たちの希望が集まっています。これに加えて私の未来も捧げれば楽譜のパワーも申し分ないでしょう。ただ私もずっと一人で胸に抱えていた秘密を吐き出せて少し楽になりました。話し相手になってくださったあなたたちは見逃してあげましょう。お願いです。是非私の気持ち汲み取ってください……」

「現在進行形って、今もどこかで誰かが敵にやられて……」

 

 

 こうして話している間にも、光の玉が壁を貫通して誰かの希望が楽譜に吸い込まれていく。蓮ノ空の生徒は多い。俺たちや椎葉が避難誘導できたとして全員が無事であるわけもない。ゲーム慣れしてないとゴブリン並みの雑魚敵ですら歯が立たないだろう。

 だが負けたとしても命が奪われるわけではない。だからこそ生徒たちの希望を代価にしたとしても現在進行形で苦しんでいる自分の母親の命を救う選択をする。そっちの方が重要だと一華はもちろん花帆たちも思い込んでいそうだ。そもそも命を天秤で測ること自体が間違っている。花帆たちの意志は揺らぎに揺らいでいた。

 

 そんな中、俺は――――

 

 

「分からねぇよ」

「え……?」

「お前の気持ちなんて分からねぇって言ってんだ」

「零クン……?」

「例えどんな事情があるにせよ、どれだけ窮地に立たされていたとしても、それで他人を傷つけたり絶望に堕とす奴の気持ちなんて分からねぇよ。分かりたくもないな」

 

 

 一華側の選択に傾いていた花帆たちだが、俺の言葉を聞いて目を見開く。コイツなに言ってんだと思われるかもしれないが、だってそうだろ? 誰が何の権利で無関係の人を絶望させてるんだ。もし自分が被害者側だったら堪ったものじゃないだろう。誰かの命がかかってるからって自分が犠牲になるなんて納得できるはずもない。

 

 

「それではあなたは、私の母がどうなってもいいと思っているのですか?」

「それ以前の問題だ。そもそもこんなに無関係な人を巻き込む方法に納得できるはずねぇだろ。絶望は一時的だからいいって、数日やそこらの話でないのによく言うよ。みんなこの学校に夢と希望を抱いて入学したのに、こんなことでソイツらの道が絶たれるなんてありえねぇだろ」

「こっちは生命がかかっているのです。綺麗事ですよ、そんなことは」

「違う。お前が諦めたからだ。こんなやり方しかないって勝手に決めて、その愚考に他の奴らが巻き込まれている。独りよがりの決断に対して誰からも一切の同意がない。そんな横暴な奴の気持ちを汲み取れって、んなことできるわけねぇだろ。結局お前は心が折れたツケを俺たちにも払わせようとしている、ただの厄介者だよ。悲劇のヒロインでもなんでもない」

「考えられる手は考えました……!! でも残る手段はこれだけ、こうするしかなかったのです!! これでも断腸の思いだったのです!!」

「そう思い込んでいるだけだ。他の奴らもお前の母親と同じ絶望の渦に飲み込まれるかもしれないとも考えない。お前の婆さんと同じ末路を辿るかもしれないと考えない。もしくは考えてたけど見て見ぬふりをしたんだ。結局自分がよければそれでいい、最悪の自己中心だよ」

「つ……!? うるさいっ!!」

 

 

 突如一華は黒い手を四本生み出すと、その手で俺と後ろの3つのパーティに迫り寄った。

 俺は咄嗟に反応して剣でなんとか切り落とすことができたが、後ろの対処まで気を回すことはできなかった。ただここまで戦闘経験を積んできたコイツらなら問題なく対処できている。そう思っていたのだが――――

 

 

「花帆先輩! 梢先輩!?」

「さやか先輩! 綴理先輩! 大丈夫ですか!」

「るりちゃんせんぱい! めぐちゃんせんぱい! そんな、アタシを庇って……!!」

「これは……?」

 

 

 どうやら後輩たちを庇って花帆たちが自ら攻撃を受けたようだ。捌ける攻撃だと思ったけどずっと動きを警戒していた俺とは違い反応に遅れてしまい、咄嗟に後輩を庇うことしかできなかったのだろう。

 HPを見るとゼロにはなっていない。ただ黒い瘴気に包まれており、これは間違いなくHPがゼロになった奴が陥っている症状そのものだ。でもコイツらは座り込んでしまってはいるが倒れていない。一体どういうことだ……?

 

 それに庇うにしても6人同時に後輩の盾になるって、そんな示し合わせたようなことありえるのか……?

 

 

「私の攻撃はHPをゼロにしなくてもゼロになったときと同様の絶望を植え付けられる。その人たちは間もなく悪夢を体験することになります。成功体験がスクールアイドルなのであれば、悪夢もスクールアイドル絡みでしょう。例えば自分のせいでスクールアイドルクラブが崩壊したり、大型大会で負けてしまったり……。特にこの学校のスクールアイドルクラブは『ラブライブ!』に優勝していますから、奪い取られる希望も大きいでしょう」

「そ、そんな……!!」

「大丈夫ですか先輩方!? 先輩!?」

「うむむ、ラスボス故のチート攻撃ってやつですか……」

 

 

 一華が放った黒い手による攻撃はダメージを与えた奴に強制的に絶望を与えるらしい。そのせいで百生たちを庇った花帆たちに甚大な影響が出ている。HPがゼロになり倒れていた奴らと同様、目の焦点が合わなくなってきており今にも絶望の世界に飲み込まれてしまうだろう。そこでは自分の経験してきたハッピーエンドがバッドエンドに置き換わる、そんな悪夢。

 

 

「でもどうして私たちを庇ったりなんか……」

「だって吟子ちゃんたちはあたしたちの希望だから……」

「あなたたちはこれから蓮ノ空のスクールアイドルを引っ張っていく、いわばスクールアイドルクラブの未来なのよ……」

「なのでこんな絶望に浸らせている場合じゃないです……」

「だから蓮ノ空の、みんなの希望でもあるれいに力を貸してあげて……」

「これも先輩としてルリたちの役目ってね……」

「ちょっとくらいカッコつけたっていいじゃん。それで希望を守れるのならね……」

「お前ら、出発前に話し合ってたのってこのことかよ」

 

 

 寮を出る前、コイツらは集合時間に遅れていた。集まって何か話し合っていたらしいがまさかこんなことだっただなんてな。後輩になにかあったときに庇ってでも守る。6人でそう決めていたのか。コイツらも本当に実行するとは思っていなかっただろうが、咄嗟に6人が同時に行動したってことは誰もが冗談だとは思っておらず、本気で後輩の三人を考えてのことなのだろう。

 

 遂に蓮ノ空ファンタジーの最終決戦が始まった。だがその直後に一気に花帆たち6人がダウン。HPが尽きてはいないもののコイツらの戦闘の続行はこのままだと不可能だ。そして先輩の捨て身の献身っぷりに動揺する一年生たち。このまま俺たちは勝利して世界を救うことが、果たしてできるのか……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 花帆たち先輩の覚悟がここまで極まっているのも前作の出来事のおかげ。こうして連載を続けていくとキャラの成長を自然に描くことができて楽しかったりします。


 前回の後書きで今回が蓮ノ空ファンタジー編の最終回かもと言いましたが、やはり展開的に1話伸びちゃいました。次回は絶対に最終回になります!
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