ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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蓮ノ空ファンタジー6~トゥルーエンド~

「あ、あたしが出しゃばったせいでスクールアイドルクラブが崩壊……??」

「花帆先輩! それは夢です! 戻ってきてください!」

 

 

 今回の事件の黒幕である一華(いちか) 梨鈴(りり)の攻撃から後輩である百生たちを庇った花帆たち先輩組6人。本来はHPが尽きないと絶望に陥ることはないが、ラスボス特権なのかダメージを受けるだけで悪夢を見せられている様子。花帆たちの身体には黒い瘴気が渦巻き現在絶賛体験中だろう。順風満帆だったスクールアイドル人生が崩壊する瞬間、しかも自分が原因となっているクリティカルヒットな夢を体験させられているのか。コイツらの心を抉って絶望させるにはうってつけの方法だな。

 

 

「『ラブライブ!』を優勝するくらい希望に満ちた方々ですから、その裏に潜む絶望の色も相当濃いのでしょう。まだ希望が抜き取られてはいないようですが、どれだけ大きな光が楽譜に吸収されるのか見ものです。でも許してください。これも母を救い、楽譜の呪いによる負の連鎖を断ち切るためですので」

 

 

 花帆はいつもの突拍子もない言動があらぬ方向に進んだせいで崩壊したクラブの夢を見ているのか。梢と綴理は大賀美との蟠りも解けず慈も復帰せず、そして花帆とさやかすらも入ってこずに空中分解した空虚さを味わっているのか。さやかは入学当初のコンプレックスが解消せずにスクールアイドルを辞めるIFルートに悲しんでいるのか。瑠璃乃は理想のヒーローに憧れるも人の心に上手く寄り添えずに失敗を繰り返しているのか。慈はクラブに永遠に復帰することなく輝く自分を見失って自暴自棄になっているのか。

 

 コイツらが呟く言葉でなんとなく分かる。人のコンプレックスに徹底的に付け入って絶望を与える。これまでこの方法で効率良く他人の希望を奪っていたのだろう。自分にとっての究極のバッドエンドを脳内で強制的に上映されてるようなものだ。そりゃ絶望もするよな。

 

 段々と顔色が悪くなる先輩を前に心配する声を上げることしかできない一年生たち。自分たちの身代わりになってこうなったのだから必死にもなるだろう。

 

 

「吟子ちゃん! 回復魔法で先輩たちを治せないの!?」

「やってるけど治らない! そもそもこれ状態異常じゃないみたいだし……」

「えぇっ、じゃあせんぱいたちもHPがゼロになった人たちみたいにずっと絶望を見続けて……!!」

「はい。魔法で治癒することも道具で回復することもできません。自然治癒するまでずっとそのままです。当然その間もずっと再生されるわけですが、絶望に至るまでの悪夢を……」

「そ、そんなことって……。徒町たちを庇ったせいで……」

 

 

 もし治るのであれば、寮に行く途中でコイツらが倒れてる奴らを運んだときに解決している。そんな生温いファンタジーの世界ではないってことだ。

 一華はもう攻撃を仕掛けてこない。俺の煽りが刺さり過ぎて一時の怒りに支配されていただけなのか。それともコイツら6人の希望だけでも十分な量を奪い取れると思ったのか。どちらにせよもう俺たちに勝ち目はないと思っているのだろう。

 

 いずれ楽譜に希望を粗方吸収させたらコイツはこの世界を元に戻すだろう。そして自分の夢をも犠牲にして母親の命を救い出す。それに希望を奪われても死にやしない。つまり俺たちは静観しているだけでも事件は解決する。安直な考えだが、ダウンした先輩たちを見て一年生たちは狼狽してもはや一華に抵抗すらできない。。このまま待っているだけでこの世界が閉じられるのであればそれも一つの方法。

 

 パーティの頭数も減ったし、ここで終わり――――――――なわけねぇだろ。当然な。

 

 

「お前ら、立て。まだ何も終わってないぞ」

「終わってないって、先輩たちは私たちを庇ってこうなったのに……!!」

「分かんねぇのか! ソイツらは俺とお前らに希望を託したんだ! なのにここで諦めてどうすんだよ! 夢も希望も個人で輝くものではなく継いでいくものだって、スクールアイドルを通して何も学ばなかったのか! そうやって泣き続けることがコイツらの希望を引き継ぐことになるのかよ!」

「で、でも、徒町たちだけで勝てるのでしょうか!?」

「勝てる。俺がいるからだ。寮で言ったろ、根拠なんてなくてもいいから俺に希望を預けろってな。お前ら今にも絶望しそうだけど我武者羅でいい。何もできないかもしれないけどそれでいい。俺を信用して隣に立つ。それだけで俺たちは勝てる」

「れいくんせんぱいのことを……? でもせんぱいたちの苦しむ姿から目を背けられないと言いますか……」

「ソイツらは絶望なんてしねぇよ。今は闇に堕ちそうなってるけど絶対に戻ってくる。お前らも知ってるだろ、自分の先輩たちのタフさってやつを。ソイツらは俺のことを想っている。だから絶望に淵に立たされようがその夢の中にいる俺が助け出すはずだ。現実にも心にも俺がいるからこそお前らの先輩たちは絶望しない。それにお前らって希望もあるんだ。もし起きたときにお前らが泣いてたら逆に心配されるぞ」

 

 

 三人を奮い立たせようとするが、悶える先輩たちを前にそう簡単にはいかないようだ。コイツらの表情からも希望を絶望の狭間で混濁しそうになっているのが窺える。そりゃこんな状況に陥るのは初めてだろうし、そう簡単に前向きにはなれないか。

 だが俺たちが勝利するためにはここにいる全員が希望を持つしかない。俺はもちろん倒れてる花帆たちもきっとまだ絶望していない。だから残るはコイツらだけ。ここでコイツらが立てば勝ち、立てなければ負け。目覚めさせるしかない。その心に希望の光で情熱を灯す。

 

 

「百生、徒町、安養寺。いや――――吟子! 小鈴! 姫芽! 立て!」

「「「!?」」」

「世界を救って自慢してやろう。そこでへたり込んでる奴らにも、学校中の誰にもな。みんなの希望を取り戻し、俺たちが世界を救ったんだって。大丈夫だお前たちだけじゃない、俺がいる。前の宝探しのときだってそうだったろ。絶対にハッピーエンドで終わる。俺と一緒にいれば、必ずな」

 

 

 僅かな間があった。涙を流しながらもへたり込みながら俺の顔を見上げる三人。

 今どんな気持ちがコイツらの中で渦巻いているのか。だが嵐のような波は収まりつつあり、次第に自分でコントロールできるようになってきたようだ。

 

 やがて、三人の顔付きが――――変わった。

 

 

「神崎先輩……。零先輩……はいっ、やります!」

「零師匠! 徒町、最後の力を振り絞ります!」

「それいいですねぇ~れいくんせんぱい! 伝説になっちゃいますか~!」

 

 

 冒険が始まった直後は取り乱し、戦闘に慣れてきたら勢いづき、ドラゴン戦で無力を感じ、寮でまた覚醒。先輩たちに庇われて絶望を引き受けさせてしまったことでまた混迷し、俺の言葉で再起する。コイツら今日だけで何回希望と絶望の間を行き来してるんだよ。でもここぞってときに立ち上がってくれたらそれでいい。そして今こそがそのここぞだ。これまで浮き沈みが激しかったのもここで立ち上がるための予行練習だと思えば無駄ではなかったな。

 

 三人のやる気はこれまでにないくらい最高潮だ。

 だが一華は表情を一切崩していない。そもそもさっき黒い腕を放ったとき以外はずっと真顔だったので感情表現が苦手なのかもしれない。なんにせよ向こうは余裕綽々のようだ。

 

 

「無駄ですよ。ただでさえ全員揃っていても勝てないのに、パーティの人数が半分以上減ってまだ可能性が残されているとでも?」

「ああそうだ。俺たちが100%勝つ可能性しか残ってない。コイツらが立ち上がった時点でな」

「さっきからなんですか? その根拠のない自信は……」

「根拠はある。俺だから。それが全てだ」

「零先輩、知ってはいたけど唯我独尊すぎない……?」

「だって徒町の師匠だもん! いついかなるときも自信満々なところが痺れるし憧れます!」

「俺様系イケメンショタとかマジで惚れる要素しかないじゃないですか~。こっちもせんぱいにつられて自信、漲っちゃいますよ~!」

 

 

 そうだ。トップに立つ奴が余裕を見せれば配下の奴らの自信に繋がる。逆に上の人間が不安を見せれば下の人間もその影響を受ける。例えブラフであってもポーカーフェイスと余裕のあるオーラってのは重要だな。

 ま、俺の場合はブラフでもなんでもなく必然なわけだが。

 

 

「見ろ、俺の剣にデカい光が宿ってる。お前らの色の光だ」

「ドラゴンのときよりも光ってる……。これが私たちの希望の光……」

「無駄です。その希望すらも奪い去って楽譜の力にしてあげましょう。行きますよ」

 

 

 ここまで静観していた一華だが、遂に攻撃を仕掛ける態勢に入った。さっき花帆たちにダメージを与えた攻撃と同じく、背中から黒い手を伸ばす技を繰り出す。

 

 

「任せてください!」

 

 

 吟子が前に出ると、バリアを展開して俺たちを黒い手から守る。

 だがそれだけだと相手の猛攻は防げない。

 

 

「次は徒町が行きます! 培ってきた魔法の使い方、ここで披露します!」

 

 

 今度は小鈴が前に出て炎の魔法をぶっぱなす。するとその炎が黒い手を燃やし尽くし、そのまま腕に引火し導火線のように一華へ炎が伝っていく。

 もちろんこのままじゃ全焼するため一華は黒い手を腕ごと引っ込めるが、その隙を姫芽が見逃さなかった。

 

 

「隙アリ~! ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね~」

「ッ!?」

 

 

 姫芽は一瞬の間を見切って一華へと切り込む。対戦ゲームのプロとはいえどもソロゲームの知識もたっぷりのようで、経験があるからこその成せる隙をつく見事な業だ。

 しかし一華も間一髪のところで後ろにジャンプして姫芽の剣を回避する。向こうはこの世界を作り出した張本人。まともな戦闘で勝てるようには仕込まれていないだろうから当然の結果か。

 

 

「そんな攻撃では私に傷一つも付けられませんよ」

「でもさっきのいい連携だったんじゃないかな!?」

「うん。ゲームは苦手だけど、そんな自分でもこれは行けるって思ったよ」

「なんたってれいくんせんぱいが何とかしてくれるって思うと前向きになれちゃうからね~。身体もしなやかに動いちゃうよ」

「…………」

 

 

 反撃は失敗したものの連携は完璧だったので三人の自信に繋がった。

 そう、それでいい。常に前を向いて希望を持ち続けながら勝利の夢に向かって走る。その勇姿を見せるだけで俺の剣の力は高まっていく。コイツらが放つ希望の光は俺たちの勝利を神々しく照らしていた。

 

 逆に途端に勢いづいたコイツらを目の当たりにして一華は顔色が変わる。さっきまでの余裕の仏頂面はどこへやら、流石にゲームマスターとは言えど看過できない流れになってきたか。

 更にここに来て一華に追い打ちをかける出来事、つまり俺たちの勝利をより確実なものになる出来事が起こる。

 

 

「な、なぜ!? 楽譜が吸収した希望の光が、あなたの剣に……!!」

「凄い! 師匠の剣にみんなの希望が集まってます!」

「もしかして、アタシたちの勇気に倒れた皆さんが応えてくれたのかもしれませんね~」

「だとしたらまたやれるかもって自信が出てきたかも。零先輩に集まる希望こそ、私たちの希望だから」

「そ、そんな、どうして……!?」

「言ったろ。勝利ってのはその場で最も希望を強く持ってる奴に訪れるって。まあそれはお前じゃなくてコイツらに言ったんだけど、つまりそういうことだ。この光たちも分かってんだよ。誰に夢を託せばいいかってな」

 

 

 楽譜に蓄積されていた希望が俺の剣に続々と集まってきていた。そしてドラゴン戦と同じように剣が大きくなっていく。

 ファンタジーの世界は夢が現実になる空間。つまり夢はその持ち主そのもの。自我を持っているのであればこの場で誰に従えばいいのかなんてもはや歴然。たった一人の野望のために自らの夢を消費されるなんてゴメンだからな。

 

 だが俺の剣はこれで完成ではない。完全な勝利のためにも後ろで転がってる奴らをそろそろ起こしてやるか。

 

 

「おいお前ら、いつまで寝てんだ。早く起きろ!」

 

 

 剣から希望の光を取り出し、絶望の淵に立たされているであろう花帆たちに無理矢理宿す。他人の光だがそれを埋め込むのではなく、その希望の眩さでコイツらの悪夢を照らしてくれるだけでいい。

 すると6人は驚嘆の声を上げると同時に叩き起こされたかのように上体を上げた。まるで目覚まし時計が鳴らずに寝坊を確信したときのようだ。

 

 

「え、先輩たち復活したんですか……!? さっきので!?」

「い、いやぁ~悪夢の中に零クンがでてきて、イヤなことを全部解決してくれちゃったんだよね……」

「あなたがいきなり妄想の中に出現して、早送りしてるかのごとく何もかも解決してこっちも訳が分からなかったわ……」

「零さんがいてくれるから絶望はしないと強がってはいましたけど、こうもあっさりと乗り越えられるとは……」

「でもれいとぎんとすずとひめがここまで頑張ってくれたおかげだよ。ボクたちが絶望しなかったのも」

「うんっ! ルリたちが庇った甲斐があったってもんだよ!」

「悪夢は漫画の打ち切りエンドみたいな終わり方で拍子抜けだったけどね! でもあのくらいの絶望で私たちを堕とせると思うなよ!」

「先輩方……良かった! 良かったです!」

「こんな簡単に倒れてたせんぱいたちを……。れいくんせんぱいの希望のパワー、半端ないですね~」

 

 

 脳内で自分のコンプレックスを刺激するバッドエンドを流されていたものの、どうやら俺が現れたことですべて解決してくれたらしい。希望を与えられたことで悪夢が解決したってことは、それつまりコイツらにとっての一番の希望は俺だってことだ。どれだけ依存してんだよって話だが、女の子たちにそこまで慕われるのは悪い気分ではない。むしろ今回はその強い恋情のおかげで絶望に飲み込まれずに済んだからな。

 

 だが唯一この状況に危機感を抱いている奴、一華は自分の計画が悉く崩されてもはや当初の余裕は一切失われたようだった。

 

 

「ありえないですそんなこと……。私が間違ってた……。いや、今にも死にそうな母を救う! そしてもう一度その温かい腕で抱きしめてもらいたい! それの何がいけないのですか!?」

 

 

 一華は絶叫しながら無数の黒い腕を出現させると、その腕を俺たちに向かって襲わせた。あまりの波状攻撃に飲み込まれそうになってしまうものの、そこはこれまでの経験を活かしたコイツらの出番、白魔導士組のスリブがバリアを展開してダメージを防ぎ、剣士組のみらぱが腕を攻撃して迫りくる勢いを弱め、黒魔導士組のドルケが魔法攻撃で燃やして腕を完全に消滅させる。

 完璧なコンビネーションだが相手の黒い腕は無数に放たれる。このままでは魔導士組のMPがもたないだろう。そもそもターン制の概念すら失われている無法地帯で向こうは常に攻撃を仕掛けてくる。気を抜いて防御を緩めればひとたまりもない。

 

 しかし、余裕綽々なのは戦況とは真逆でこちらの方だ。コイツらのやる気は既に最高潮。対して一華の必死さは変わらない。戦況は不利だが心理状態は圧倒的にこっちが優位に立っている。

 俺は何も動かずこの状況を観察していたが、ここでアイツに最後の謎について訊いてみることにする。これがこの世界を救い、また何もかもを円満に解決できる質問になるかもしれない。

 

 

「お前、もしかして助けを求めていたんじゃないのか?」

「い、いきなり何を……」

「この世界に変わる前、お前が俺たちとすれ違うときに呟いてただろ。『もしたった一人に夢と希望を託すとしたら、あなたは誰に託す?』って。最初は煽りなのかと思ってた。でもお前の心の叫びを受け止めてみると別の意味にも聞こえたんだよ。もしかしたら蓮ノ空の生徒たちから希望を吸い上げるのもマジの本意ではなく、仕方なくやってることなんじゃないかって。話を聞いてたらなんとなく分かったよ。その証拠にお前は一度俺たちを見逃がそうとした。諦めてしまったからそれ以外の方法を見つけられなかったんだろ? だから誰もかもを絶望に堕とすような外道じゃない。そうじゃないのか?」

「それは……」

 

 

 別に性根が腐っているわけじゃない。ただ他人の希望を奪う選択肢しかないと信じ込んでしまったが故の行動であり、その根底で願っていたのは誰にも迷惑をかけない純粋な救いのはずだ。コイツの反応を見るにすれ違ったときに漏らした言葉はその願いの底から湧き出たものだろう。いくら最近の転校生だからって俺の噂と功績は知っているはず。だから最後に縋りたかったに違いない。

 

 とは言えこうするしかないって強迫観念に負けてしまった。たったそれだけのこと。もしかしたら花帆たちだって仲間を救うためなら非情な決断も辞さないかもしれない。窮地に立たされたときのトロッコ問題ほど決断に迷うのは当然だ。それに親から子に楽譜の呪いの引き継がれているので自分の末路を想像すると恐怖する気持ちだけは分かる。どんな理由があれ他人に絶望を与える奴の気持ちには寄り添えないが、境遇だけは同情の余地はあるかもしれない。

 

 

「もうこうするしかないんです! もう後には引けない! しばらくの間だけ誰かが傷つこうとも、最終的に全員が救われるこの方法が一番無難な落としどころ! だから邪魔しないでください!」

 

 

 一華は黒い腕を更に増殖させて俺たちにその切っ先を向ける。こちらの手数は変わらないのに向こうの出力が増大したら段々と捌き切れなくなるが、それでも花帆たちは諦めずにバリアの強化、魔法の継続詠唱、剣による腕の切断を止めることはない。

 

 アイツを止めるには力技じゃ無理だ。心の奥底にある本当の願い。救いを叶える必要がある。じゃあ俺がやるべきことは――――

 

 

「お前だって望んでたんじゃないのか? 誰もが傷つかない究極のハッピーエンドってやつを! 蓮ノ空の生徒を犠牲にすることなく、そして自分も母親も救われるそんな都合のいい展開を! 最終的に誰もが笑顔で終われる結末ってやつを!」

「当たり前です! でもそんなもの都合がいいだけですよ! できないことに対し労力を割く時間なんて残されていません!」

「いや、俺ならそれができる! 今からそれを見せてやる!」

「一体なにを……」

「そろそろだな」

「な゛っ!?」

 

 

 突然、一華から放たれていた黒い腕と手が一瞬にして消え失せた。花帆たちも目を丸くして驚くが、一華も唖然としていることから彼女が自ら力を抑えたのではないとすぐに察したようだ。

 じゃあ一体なにが起きたのか。この世界が神と言う名のゲームマスターが作り出した空間なら、対抗するには悪魔の力を持った奴が必要だろう。

 

 つまり――――

 

 

『やっほーっ! やっと楽譜の力を全部掌握できたよ~』

「えっ、その声……秋葉先生!?」

『そうだよん! でも久々に弄り甲斐のある呪物だったから解析するだけでも愉しかったよ!』

 

 

 秋葉の声が校内放送のように空間に響き渡る。

 そう、アイツが外から干渉してくれたんだ。悪魔の力ってのも使いよう。今回のような有事の際にはこれほど役に立つ奴もいない。まあ逆に言えばこういうときくらいしか役に立たないわけだが……。

 

 

「ど、どうやってこの世界に干渉を……?」

「そういう奴なんだよアイツは。俺たちがこの旧校舎に踏み入れる前、寮にいたときから干渉はあったんだ。そのときはまだ声は聞こえなかったけど俺の携帯にだけチャット機能を復活させてくれた」

「あ、じゃあ徒町が話しかける直前、師匠がスマホを見ながらビックリしてたのって……!」

「あぁ、いきなりメッセージが飛んできたから驚いたよ。でもそのおかげで今回の作戦を立てられたんだけどな」

「作戦、ですか?」

『そう。完全な干渉をするためには楽譜が力を増幅し続ける限り無理なの。だから零君にはみんなの希望を奪い返して自分の剣に集めてもらうよう指示してたってわけ。でもあっさりとそれをやってのけるなんて流石だねぇ~』

「ほぇ~もはやれいくんせんぱいと秋葉先生の力の方が絶望的に怖いですよ~」

 

 

 俺だってアイツの力がこえぇよ。どうやってこの空間に干渉しているのか具体的なことは俺にだって一切分からないからな。まあ教えてもらったとしても俺の頭では到底理解できないんだろうけど。

 なんにせよこれで中の世界をと外の世界が繋がった。喋っている間にも楽譜の希望は俺の剣に集まり続け、いつの間にかすべて集まっている。だったらあとはこの世界をぶっ壊して脱出するだけだ。

 

 

「おい、ここから出られる方法も調べはついてんだろうな?」

『もち! その光の剣で空間を引き裂けば一発だよ。蓮ノ空のみんなの夢と希望は決して幻想なんかじゃない。つまりその力は世界を現実にする力もあるってこと』

「ちょっと待ってください。この世界を壊すってことは、もう私の母は救えないということですよね……」

「いや、全員を救うんだ。蓮ノ空の生徒もお前の母親も、そしてお前自身もな」

「え?」

「言ったろ、俺ならできるって。こうやって作り物の世界を掌握する奴を従えてるんだぞ? 俺と秋葉ならお前らを救える。そして蓮ノ空の生徒はコイツらが救ってくれるはずだ」

「ん? あたしたち!?」

「そりゃそうだろ。希望の光を集めたは良いが、全てが終わったら持ち主に戻す必要があるからな。それはお前らの仕事だ」

 

 

 俺の信条は誰も逃しはしないこと。これまでだってそうだ。俺に想いを向けてきた女の子を誰一人としてその気持ちに応えないことはなかった。一人一人と向き合って全員の想いに応えてきた。昔のとある出来事で抱いたこの信念は今回も揺らぐことはない。だから一華もコイツの母親も、蓮ノ空の生徒も、そして後ろにいるスクールアイドルクラブの奴らにもハッピーエンドを届ける。それが最高の終わり方なのであれば誰かが犠牲になるなんて妥協は絶対にしない。普通そうだろ?

 

 

「皆さんは最後の最後まで諦めなかった。何も失わない選択肢を現実のモノにしようとしている……」

「ボクたちはスクールアイドルでワガママだから。スクールアイドルはみんなを笑顔にする。だから心の中で泣いている人を誰も見逃したりしないよ」

「『ラブライブ!』のプレーオフのときもそうだったものね。黙っていれば勝てた試合だけど、それでは笑顔になれない人たちがいた。だから茨の道だと分かっていながらも踏み込んだの」

「これも零から受け継がれたことだけどね。でも私たちスクールアイドル以外でも、蓮ノ空の生徒だったら大体がそうなんじゃないかな。誰も見捨てずに希望を分け合う。そういった信念が根付いてると思うよ」

「確かに転校してきてまだ二か月も経っていませんが、生徒さんたちの意識の高さは感じていました。だからかもしれません。この希望を奪う後ろめたさがあったのと、その強い希望を奪えば母を救うことができると同時に思い込んでしまったのは……」

 

 

 夢を追う奴らが集まってる学校だからこそ楽譜の希望を集めるのに絶好のスポットだったのだろう。だがそう簡単に全員から希望を奪えるわけではない。コイツらスクールアイドルみたいに誰かのために誰かを笑顔にさせるための活動をしている奴らなら、その持ち前の夢と希望でどんな絶望にだって屈指はしない。どうやら『ラブライブ!』の優勝を経験したことで俺の想像すらも遥かに凌駕する精神的な成長を遂げていたみたいだ。特に花帆たち先輩6人は今回の事件でも一切弱音を吐かなかったどころか後輩を庇って自ら悪夢に囚われたからな。大した奴らだよ。

 

 不可能を可能にするほどの力を見せた俺たちに、一華はもう諦めたようだ。同時に安堵の表情が浮かび、仏頂面ながらも気迫は完全に消え去って落ち着いているように見える。どうやら気持ちの整理がついたのだろう。まあここで抗っても秋葉に世界を掌握されている限り何もできないんだけどさ。

 

 

「分かりました。私の希望はあなたたちに託します。母を救ってください」

「あぁ。じゃあこの世界は壊しても構わないな?」

「はい、お願いします」

 

 

 HPがゼロとなった奴らの希望とスクールアイドル9人の希望、そして一華が楽譜に吸わせていた自分の希望も俺の剣が奪い返した。一回りも二回りも大きくなった剣だがドラゴン戦と同様に相変わらず軽く、持っている感触すら感じられない程だ。だからこそ大きく振りかぶることができる。

 

 俺は空間を引き裂くように剣を振り下ろした。

 たった一振りだったがこの力があれば十分。ファンタジーの世界はパズルのピースが外れるかの如く少しずつ崩れ去り、その崩れたところから眩い光が差し込む。

 

 やがてその光の量が増えると俺たちを包み込み―――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「う~ん……はっ! こ、ここは……蓮ノ空!? 現実の蓮ノ空だ!? 戻って来たんだよあたしたち!」

「どうやらそうみたいですね……。さっきの世界だと周りの景色がファンタジー風でしたが、今は見覚えのある場所になっています」

「てか暗くねって思ったら日が沈んでる! どれだけの時間冒険してたのルリたち!?」

 

 

 いつの間にか校舎の前へとワープしていた。話の通り無事に元の世界の蓮ノ空に戻ってこられたみたいだ。ただ周りは既に暗くなっており、あの世界で冒険している間も現実世界では当然のように時間が進んでいたらしい。

 終わったと思ったら疲労感ものしかかってきた。創作の世界のキャラは疲れを知らないのかってくらい休憩の描写がないけど、実際に俺たちもあれだけの戦闘をしたのにそこまで疲れてはいなかった。でもそれはあの世界だけの話。現実に戻ってきた瞬間にこれだからスタミナの借金をしてたんだろうな。

 

 

「ご苦労さん! みんな無事でなによりだよ!」

「秋葉……。もっと労いの言葉はねぇかよ」

「誰のおかげで元の世界に戻れたと思ってるのやら。ま、本番はこれからだけどね」

「あぁ、さっさと行ってサクっと解決してやるか。その呪いってやつを」

「えっ、今から行くのですか? もう夜なのに……」

「こっちもこっちで別件があるんだよ。だったら速攻で終わるタスクは先に片付けておくに限る」

「はぁ、そういうものなのですか……」

 

 

 忘れかけてたけど、こちとらスクールアイドル病の調査をするって目的があるんだよ。だから一年生たちからあまり目を離せない。前のさやかみたいにいつ発症して倒れるか分からねぇからな。だけど一華の母親も危機的状況なのは事実。ここはサッと解決してサッと帰って来るに限る。

 

 

「私のせいですみません。希望を返すという尻拭いをさせてしまって……」

「全然OKだよ! むしろ皆さんへ希望をお届けするのは徒町たちスクールアイドルとしての本業だからね!」

「それに倒れている人たちを安全なところへ避難させたのは私たちだから、助けるのなら最後までその役目をやり切るよ」

「でもこれだけの希望の光を持ち主にお返しするのは、9人でもちょっと大変かもしれないね~」

 

 

「それでしたらお手伝いしましょう」

 

 

「「「椎菜生徒会長!?」」」

 

 

「あなたたちが去った後に校内放送ができるように修理をして、その呼びかけである程度の生徒の避難には成功していました。動ける人たちの力を総動すればその希望とやらも迅速に届けられるでしょう」

 

 

 椎葉もこの場に現れた。ずっと生徒会室にいたからやられてはいないと思ったが、どうやらコイツも自分の役目を果たしたらしいな。てかあの世界で校内放送ができるようにしたって、コイツもコイツでとんでもないスキルを持ってんな……。

 

 

「ナイスだよ椎菜ちゃん! じゃあ零クンが外に行っちゃう代わりにあたしたちの指揮官役をお願いね!」

「外……? 本来は外出届が必要なのですが、のっぴきならない事情があるので今回は見逃してあげましょう。まああなたならそんな届け出がなくても勝手に脱走するでしょうけど」

「お前ももっと労わりの言葉とかねぇのかよ……。ったく、役割分担ができたのなら行くぞ。秋葉、車を出してくれ」

「ほいほい。あ、そういえば楽譜は私がちゃんと管理するから安心して!」

「安心できねぇけどお前以外の奴に悪用されるよりかはマシか……」

 

 

 まだやるべきことはあるけど99%は終わったと言っていい。今回も壮大な大事件だったがなんだかんだハッピーエンドになるものだな。毎回そうだから最後の最後で大団円になると信じていれば自然と諦めるなんて気持ちは消え失せる。ま、こんなことが起きないことが一番の幸せなんだけどさ。そう考えると楽譜なんかよりも俺の方がよっぽど事件を呼び込む死神な気もするぞ……。

 

 そんな感じで各々が自らの役目を果たすために動き出す。

 そのとき、一年生たちが俺のところへとやって来た。

 

 

「どうした?」

「零先輩、今回はありがとうございました。私たちだけだったら先輩たちがやられちゃった時点で諦めていたかもしれません。でも零先輩がたくさん勇気をくれたことで希望を紡ぐ大切さを教わり、最後の最後まで立っていることができました」

「零師匠のおかげでたくさん成長できました! 常に挫けない心を胸に秘めて歩み続けるそのお姿、徒町も見習いたいです! ともあれたくさんの希望を見せていただき、ありがとうございました!」

「れいくんせんぱいその小さな背中がとても大きく見えて、思わずうっとりしちゃい、いやしちゃってました~。アタシたちを含めたくさんの夢を守ってくれて、とても感謝で嬉しいです! ありがとうございました~!」

「吟子、小鈴、姫芽……。感謝するのは俺もだよ。お前らが最後に立ち上がってくれたからこそ事件を解決できたんだ。流石はスクールアイドル一年生で『ラブライブ!』に優勝しただけのことはある根性だ。よくやったな」

「「「先輩……!!」」」

「まだ最後の仕上げが残ってる。みんなに希望を返してやってくれ。そしてソイツらが目を開けたら笑顔で迎えること。絶望から目覚めたばかりで心が死んだままかもしれないからな。できるか?」

「「「はいっ!」」」

 

 

 今回の事件で何が一番収穫だったかって、コイツらとの絆が大きく深まったことだ。以前のサバイバルで絆が芽生えたばかりだが、これほどまでの困難を一緒に乗り越えたら吊り橋効果を期待してもいいだろう。

 もちろん狙っていたわけではないものの自分の勇姿もコイツらの目に焼き付けられたので、俺の対するコイツらの心情も大きく変化しているはず。心の距離が大幅に縮まったことで俺としてもお近づきになりやすくなった。スクールアイドル病の発症の証でもある身体の傷の位置の特定もこれでやりやすくなっただろう。

 

 それになにより、コイツらの魅力を再発見できたのも大きい。スクールアイドル病の調査は義務感だが、女の子としてのステータスを知るのは完全に自分の趣味。極限状態であったからこそ強みと弱みを同時に、しかも包み隠されずに知ることができる。心の距離の縮まりってのは単純に仲が深まっただけではなく、お互いに相手への思慕の念も生まれている。スクールアイドル病なんて関係なく、これからもっとコイツらとたくさん一緒にいたい。もっとコイツらのことが知りたい。そう思ったよ。

 




 これで蓮ノ空ファンタジー編は終了となります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました!(ただあまりファンタジー感はなかったかも笑)
 かつてないほど大規模な事件になったものの、零がいるので絶望的な状況でも安心感があり、逆にこういったことが初体験の小三角は初々しかったり、対して花帆たちは前の章の経験から先輩として頼もしかったり、それぞれのキャラの立ち位置を予定通りに描けたので長編の目標は達成したかなと思います。

 次回はまたいつもの展開に戻ります。お互いに名前呼びにもなったことで今後の話にもご注目ください!(以下の設定集も久々に更新しました!)

 なお、次の更新日は意欲が高まっているので17日(水) 0時の予定です!
 週の真ん中も是非遊びに来てください!



【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢   → 梢
・夕霧綴理  → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈   → 慈
・百生吟子  → 吟子
・徒町小鈴  → 小鈴
・安養寺姫芽 → 姫芽

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100 ※限界突破アリ)
・日野下花帆 → 零クン   (100→120)
・村野さやか → 零さん   (100→120)
・乙宗梢   → 零君    (100→120)
・夕霧綴理  → れい    (100→120)
・大沢瑠璃乃 → 零くん   (100→120)
・藤島慈   → 零     (100→120)
・百生吟子  → 零先輩   (48→81)
・徒町小鈴  → 零師匠   (72→88)
・安養寺姫芽 → れいくんせんぱい(58→85)

スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 治療済
・村野さやか → 治療済
・乙宗梢   → 治療済
・夕霧綴理  → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・藤島慈   → 治療済
・百生吟子  → 傷の位置調査中
・徒町小鈴  → 傷の位置調査中
・安養寺姫芽 → 傷の位置調査中
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