ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

666 / 704
開花する初恋、昇華する激情

「はぁ~流石に疲れたな……。早く帰るとは言ったけどまさか日帰りになるとは……」

 

 

 ファンタジー世界でのいざこざがあったその同日、俺は事件の元凶であり悲劇のヒロインでもあった一華(いちか) 梨鈴(りり)の母親を救うために学校の外に出ていた。

 一華の母親は楽譜の呪いによってずっと絶望に浸されているのだが、秋葉が楽譜の力を解析したことで解呪できるようになった。だったら善は急げと思い、事件解決後にその足でアイツの母親がいる病院に向かったんだ。

 ちなみに解呪の結果は良好。まだ目を覚ましてはいないが苦しみからは解放されたようで、安心しきった様子でぐっすり眠っていた。これまで絶望に苛まれていた分いい夢を見ているのだろう。

 

 そして現在、俺は一人で蓮ノ空に戻ってきて家への道のりを歩いている。一華は自身にかかっている呪いも解かなきゃいけないし、秋葉はその手術を担う役目があるから戻って来たのは俺だけだ。

 ファンタジー世界から帰還したときですら既に暗かったのに、まさかの日帰りでの外出だったからか戻ってきた頃には完全に夜も更けている。ただでさえ冒険で疲労も溜まってるっつうのに、その後にまた一人救いに出かけるなんて重労働が過ぎる。まあ善は急げと急かしたのは俺なのだが、やっぱり子供の姿だとスタミナが長時間持続しないな。

 

 それに身体の節々が痛む。あの楽譜の呪いが無駄な抵抗をしたせいだ。一華の母親から取り出そうとしたときに次は一華本人に乗り移ろうとしたからまたそこで一悶着あった。なんとか危機は回避したのだが、病院でも最後まで気を抜けなかったな。ただでさえ疲労困憊だってのに余計な仕事を増やしやがって。道を歩くこの足もかなり重くなっている。

 

 腹も減ったし風呂も入りたい。そしてゆっくりと休みたい。大人のときでも一日中ここまで動きっぱなしだったことってなかったんじゃないか。事件には慣れたくねぇけど俺とは切っても切り離せないものだろうし、またしばらくガキの姿でいることになるから慣れておいて損はないかもな。慣れるのかすら怪しいけど……。

 

 しばらく歩くと家が見えてきた。俺とスクールアイドルクラブの連中が同棲している家だ。

 夜も遅いし、アイツらはもう寝ているだろう。今日中に帰るとだけ連絡したからさやかが飯を作り置きしてくれているはず。ただ安眠の邪魔をしないように静かに家に上がらないと。アイツらも冒険が終わったのも束の間、希望の光をHPが尽きた奴に返還する作業を担わされたから疲れてるだろうしな。

 

 遂に家の玄関が視界に入ってきた。これでようやく休むことができる。

 そう思った矢先、玄関先に見知った影が目に飛び込んできた。

 

 

「ん……? 花帆?」

「あっ、零クン!」

「えっ――――うわっ!?」

 

 

 俺は花帆に包み込まれるように抱きしめられてしまった。ガキの姿だから身長差を考慮すれば当然のポジショニングだが、そもそもどうして抱きしめられているのか分からない。待ち望んでいた相手に遂に会えたみたいな逸る様子。とはいってもたったの数時間ぶりなので胸を焦がされるほどではないと思うが……。

 

 

「お前いきなりどうした……? てか寝てなかったのかよ」

「零クンが最後の大仕事をしてるんだもん! あたしたちだけが休むなんて許されないよ!」

「別に許されると思うけど……って、あたし『たち』? お前ら全員起きてんのかよ?」

「うん! みんなで零クンに『おかえりなさい』を言うまで寝られないって満場一致だったんだよ!」

「そりゃ随分と待たせちまったな」

「たくさん待ったんだから! ほら、手を繋いであげるから行こ!」

「ガキ扱いすんな」

「見るからに疲れてるのに遠慮しない! ほらほら!」

 

 

 花帆に手を引かれて家に入る。

 これでようやく帰宅。帰るまでが遠足なのであれば事件はこの瞬間に解決したと言ってもいいだろう。そう考えると安心感で脱力して今にもぐったりしてしまいそうだ。

 

 そう安堵しながらリビングへと足を踏み入れる。

 そこには――――

 

 

「「「「「「「「おかえりなさい~!」」」」」」」」

 

 

「た、ただいま……」

 

 

 リビングで待っていた全員の声がハモる。あまりの元気の良さに呆気に取られて普通の返事しかできなかった。ちょっとは皮肉ってやろうと思ったが驚きと疲れによって余計なことを口にする余裕すらない。揃いも揃ってこんな夜遅くまで起きてるだなんて、どれだけお人好しなんだよ。

 

 

「なんで待ってんだよ。お前らだって疲れてるだろ」

「それはそうだけど、あなたが帰宅したときに家の中が静まり返っていたら寂しいのではないかと思ったのよ」

「せっかくみんなで事件を解決したのに、あんただけがひっそりとエンディングを迎えるなんてめぐちゃんたちがさせないから!」

「それに零先輩が病院で事件の後始末をしているのに、私たちが呑気に寝るだなんてできるはずないですよ」

「徒町は皆さんに希望を返し終えた後、残った時間で師匠に頑張れって気合いを送り続けていました!」

 

 

 どうやら先に休んでおこうとは本当に誰も思っていなかったらしい。あれだけの冒険を繰り広げて中には絶望の淵に立たされていた奴もいるのに、そんな疲労をものともせず俺のことを待ち続けてたなんてな。これもスクールアイドルをやっているが故の体力か。いや、それ以上に想いの相手の凱旋であればどれだけでも待っていられるというコイツらの想いの強さかもしれない。

 

 

「綴理まで起きてるなんてな。お前この時間はいつも寝てるだろ」

「うん。でもみんなと同じ気持ちだよ。れいにおかえりって言うまで今日は終われないと思ってた。それにまだご飯を食べてないから眠くないよ」

「え、まだ晩飯食ってねぇのか?」

「はい。夕飯は零さんが帰宅してからと決めていましたから。それにわたしたちは一つ同じ屋根の下に住んでいます。だったら食卓も全員で囲む、当然のことです」

「流石にお風呂に入って汗は流しちゃいましたけどね~。れいくんせんぱいをお迎えするのに汚れたままってわけにもいきませんから」

「零くんがいつ帰って来るか分からなかったから、そこはね。ご飯も作り置きになっちゃったけど、ルリたちの気持ちがたっぷり詰まってるから絶対にまだ美味しいよ!」

 

 

 なんか、あったけぇ奴らだな。普段からこうして全員の足並みをそろえて前へ進んでいたのだろう。誰かが突っ走ったら全員で走り、誰かが立ち止まったらみんなで振り向いてその場に戻る。全員の意気が合っていなければ満場一致で俺を待つなんて意見は出なかっただろうしな。一年生たちが入ってからの一年間にどんなことが起きたのかは全然聞いてないのだが、『ラブライブ!』に優勝するくらいだからそれなりの苦難をみんなの足並みをそろえて乗り越えてきたのだろう。つまりこの暖かさがごく自然に感じられるのも当然ってことか。

 

 そんなわけで俺が帰宅したことでコイツらも待望の飯の時間になる。

 テーブルにはからあげ大盛が大皿に盛りつけてあったり、大きな桶にちらしずしが敷き詰められていたり、刺身やサラダが並べられていたりと居酒屋を疑うラインナップだが、簡単に用意できてみんなでテーブルを囲める料理を用意したのだろう。

 結構な量だけど今の俺たちは食に飢えた獣。女の子ばかりとはいえ成長期の運動部で俺の帰宅までずっとお預けだったんだ。そりゃ食べるペースも早くなる。その喰いっぷりはまるで餌に群がる狼だ。

 

 そんな中で病院で起こった出来事を話した。

 

 

「そう。一華さんのお母様が無事で良かったわ。それに一華さん自身の呪いも解けるのであれば、これで事件は万事解決ね」

「でもせっかく仲直りできそうだったのに、このまま転校だなんてちょっと寂しいです……。徒町、お友達になりたかったのに……」

「アイツにとってここにいる意味がもうなくなったからな。しばらく入院する必要があるし、退院したら地元の学校に戻るそうだ。ただ寮の部屋に置いてあるものを取りに来るタイミングがあるから、話たけりゃそこでするのがいいんじゃねぇか。アイツもまた元気になったら正式に謝りたいって言ってたし、自ずと機会は訪れるだろ」

「やったことは決して擁護はできませんが、境遇を考えればあの方の選択を完全に非難することはできませんでした。そういった意味でもわたしたちも希望を振りまくスクールアイドルとして、色々と勉強になったと思います。極限状態でも夢を見失わないことを」

「さやかせんぱいは相変わらずストイックですね~あの出来事まで自分の糧にしてしまうとは……。でもアタシも希望を諦めないことがハッピーエンドに繋がるんだって知れて、いい経験になった気がします」

 

 

 さやかの言った通り、アイツがやらかしたことは褒められたことではない。だが自分の大切な人が誰かの犠牲を伴うことでしか復活しないと思い込んでしまった際、どう折り合いをつけるかを学ぶきっかけにはなったと思う。コイツらにその決断を迫られるタイミングが来るかは分からないが、もしそのときが来ても希望を捨てない覚悟を持つ、と意気込むことができるようになっただけでも収穫だっただろう。

 

 

「それにしても零クンは今回も凄く大活躍だったよね! あたし、ずっとドキドキしっぱなしだったよ! 零クンのカッコいいところが見られるならまた事件が起きてもいいかなぁ~って思っちゃうくらい!」

「そんな頻繁に起こってたら俺の身体がもたねぇよ。それに活躍って言ったって、ああいったことに慣れてる奴が率先して動くのは当然だろ。まあ現実離れした世界に行くのは久々だったから最初は戸惑ってたけどな」

「むしろ経験がある方が凄いですよ……。でも先輩たちが零先輩のことを評価していた理由が私もよく分かりました。それに花帆先輩がドキドキする気持ちも共感できると言いますか……」

「おやおや~? もしかして吟子ちゃん、零に惚れちゃった~? いつの間にか名前呼びになってるしね~」

「な゛っ、慈先輩近いです! それに惚れたとかそういうのではなくて、単にカッコいいなと思っただけで……」

「それ、かほと同じ感想だ。ボクも好きだよ、れいがキラキラしているところを見るの。お菓子を食べながらずっと見ていられるよね」

「俺の活躍を映画にでもしてんのか……」

 

 

 それにこんな話は普通本人がいないところでするものだろ。ガールズトークに本人を混ぜるとかどんな拷問だよ。もちろん褒められるのは嬉しいけど、こんな大勢の中で飯を食いながら言われてもむず痒い以前に飯の味が薄まっちまう。みんなの想いが濃い味のせいでな。

 

 とはいえ、コイツらに大きな影響を与えられたと自負はしている。特に一年生たちと心の距離が近くなれば必然的にコミュニケーションを取る機会も増え、スクールアイドル病の調査もかなり捗るだろう。俺にとってあんな事件はただの回り道。目下の目標は吟子、小鈴、姫芽の三人にスクールアイドル病の証である傷があるかどうか、それを調べることだ。そのためには脱いでもらうかハプニングに遭遇して偶然発見する以外に方法はないのだが、一緒にいられる時間が増えるって意味でも今回の事件でコイツらが俺を慕うようになってくれただけ結果オーライだったかもしれない。

 

 

「そういえばひめっちも結構女の子なカオになってたよね~。最初は零くんのことをイケメンショタとか煽って可愛がってたのに!」

「るりちゃんせんぱい、そんなあることないことを……!! ただ印象が変わったのはマジの話ですね~。れいくんせんぱいが常に前にいたので後ろからその背中を眺めることが多かったんですけど、いつもとは違って数倍は大きく見えましたので~」

(わたくし)たちと全く同じ経験をしたのね。そのときに生まれた熱い感情を絶やさず、ずっと心に燃やしておくといいことがあるかもしれないわよ。ね、零君」

「どんな期待をしてるのかは知らねぇけど、俺は俺のやるべきことをやるだけだ」

「周りの刺激を受けてもブレず、自分の野望を徹頭徹尾を守り抜く初志貫徹力! 徹底して首尾一貫なところ、徒町は見習いたく思います!」

「まだ勝手に弟子を続けるつもりかよ、小鈴」

「はっ!? はわわ……」

「なんだよ」

「い、いやぁ~まだ名前を呼ばれるのが慣れないといいますか~……」

 

 

 なんでそんなことで恥ずかしがってんだよ。と思うが、吟子と姫芽も名前を呼ぶと少し身体をぴくりとさせることがある。これまでオスのオーラを漂わせる威圧的な先輩に名字で呼ばれていたのに、いきなり名前呼びに切り替わったので女の子の本能が刺激されてしまったのかもしれない。ガキの姿だからオスの威厳があるのかって話だけど、自らの恋色が変化したことでただの名前呼びでも受け取るニュアンスが全然違うのだろう。

 

 

「あたしも最初名前を叫ばれたときにビックリしちゃったからね! 『花帆!!』って、いきなり呼ぶし大きな声だし突き刺すような圧力でもうキュンキュンしちゃったよ!」

「怖かったとかじゃないんですね……。私も経験しちゃったんで気持ちが分からなくもないですけど……」

「気持ちは人それぞれですけど、零さんとの関係が進展したのは間違いなくそのときでした。それでいつの間にかなくはならない存在になって、今でもそれは同じです」

「そういえば、部員名簿にはずっと師匠の名前が残っていたんですよね! 先輩方が師匠の名を守り抜いた理由、徒町も今なら分かる気がします!」

「そうね。椎菜さんに除名されそうになったこともあったけれど、みんなで頭を下げてずっと残してもらうようお願いしたの。そう(わたくし)たちに思わせるくらい強烈な印象を与えたのよ、零君は」

「よくアイツが承諾したな。てかお前らがしつこかったからじゃねぇのか……?」

「まあそれもあるんだけどね。でも椎菜ちゃん、ルリたちの気持ちを分かってたみたいなんだよね。零くんがいなくなった後も一年生が入って来てからもずっと零くんの話をしてたから。それくらい想いを向ける人だったら特別ですよ、って言ってたよ」

 

 

 椎葉の奴、言動はまさに絵に描いたような規律正しい生徒会長そのものだが意外と柔軟性もある。一度退学した俺の名前を名簿に残すなんて普通ならあり得ないが、生徒会長特権で許すなんて余裕の職権乱用だ。それすらも辞さないってことはアイツにとって何かしらメリットがあるのか、それとも同情する心があるのかどちらかだろう。だったら俺にももっと優しくしてほしいものだけどな。

 

 それにしても、花帆たちも俺に対する想いが想像以上に膨れ上がってきているようだ。俺がいない間は相当抑圧されていたらしいので、1週間前に俺と再会したときの感情はこちらが想像できないくらい爆発していたことだろう。

 俺がここに来た目的は一年生たちのスクールアイドル病の調査だが、コイツらがここまで俺への気持ちを膨張させているのであればそれも無視できない。スクールアイドル病のことだけでなく、その心に応えてやる必要があるかもな。それに抑圧されていた分のガス抜きもしてあげた方がいいだろう。

 

 

「ボクもれいのカッコいいところ、もっと見たい。もっとボクの心を燃やすどころか燃やし尽くしてほしい。だから今からでも事件を探しに行きたいくらい」

「お、行っちゃう? あのつづたんが男にメロメロになって堕ちちゃうところも見たいしね!」

「それはめぐもだよね?」

「ん゛っ? ま、まあそれはいいじゃん! あはは……」

「マッチポンプだけは勘弁してくれ……」

 

 

 芽生えた恋と更に燃え上る激情。ここまで来るとスクールアイドル病だけ解決してさよならはできないな。

 それに俺にだって変化した心境はある。コイツら一人一人と向き合うこと。スクールアイドル病の調査とは別ベクトルで大切なこと。それこそコイツらを笑顔にさせることに繋がる。

 

 ここからが新たなスタート。俺たちの関係はこれからが本番だ。

 ただ今日は、いや明日くらいまではゆっくり休ませてくれ……。

 




 ヒーローにも休息は必要なので、今回は久しぶりにゆったりとした感じになりました。
 とはいえどもガールズトークに本人が巻き込まれてしまっているので、逆に落ち着かなかったかもしれません(笑)




【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢   → 梢
・夕霧綴理  → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈   → 慈
・百生吟子  → 吟子
・徒町小鈴  → 小鈴
・安養寺姫芽 → 姫芽

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100 ※限界突破アリ)
・日野下花帆 → 零クン   (120)
・村野さやか → 零さん   (120)
・乙宗梢   → 零君    (120)
・夕霧綴理  → れい    (120)
・大沢瑠璃乃 → 零くん   (120)
・藤島慈   → 零     (120)
・百生吟子  → 零先輩   (81)
・徒町小鈴  → 零師匠   (88)
・安養寺姫芽 → れいくんせんぱい(85)

スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 治療済
・村野さやか → 治療済
・乙宗梢   → 治療済
・夕霧綴理  → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・藤島慈   → 治療済
・百生吟子  → 傷の位置調査中
・徒町小鈴  → 傷の位置調査中
・安養寺姫芽 → 傷の位置調査中
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。