最初に出会ったときは、ちょっと背伸びをしている可愛い年下の先輩としか思っていなかった。
事前に貫禄がある人だと聞いてはいて、実際に普通の中学生とは一線を画す雄々しさに目を見張るものがあった。だけどその認識でも先輩ながらに子供のようにしか見えなくて、当時からせんぱいへの好感度は高かったけど、それも尊敬とかではなくただ可愛いから。その一点のみで同棲生活も受け入れていた。
るりちゃんとめぐちゃんを取られたと思い込んで無駄に騒いでいた、れいくんせんぱいとの最初の日常。実はあのときの気持ちは半分、いや8割くらいは本音だったりする。ポッと出の男に敬愛する二人がメスの顔をしてる姿を見れば、そりゃあ嫉妬もしちゃうって話ですよ。
ただ、今となってはこうして隣で一緒にゲームをする仲にまでなっちゃってるんですけどね~。
出会ってまだ二週間半くらいだけど、まさかここまで心境が変化するなんて……。れいくんせんぱいが放つ魅力に虜になっちゃったってことかな? るりちゃんせんぱいとめぐちゃんせんぱいが慕うのも今なら分かる気がする。せんぱいと出会ってからのこの二週間半、とても短い期間とは思えないほど一緒にいたからそりゃね~。
「れいくんせんぱいはどんなゲームでも強いですね~。初見でもすぐに操作を身につけて勝ち方まで導き出すなんてセンスの塊ですよ~。いっそのこともうプロゲーマーになったらどうですか~?」
「収入が不安定な職業はゴメンだ。ま、今でも安定した職とは言い切れねぇけどな。秋葉が無茶ばっか言って連れ回すせいで……」
「おおぅ、到底中学生とは思えないセリフ……」
「あ、いや、まあ色々あんだよ」
れいくんせんぱいが普通の中学生じゃないってことは薄々勘付いている。それは吟子ちゃんも小鈴ちゃんも、せんぱいたちもそうで、だけど余計な詮索はしないとアタシたちの中で暗黙の了解となっている。だってせんぱいが誰であろうが、アタシたちが思いを寄せるせんぱいは今この眼に映っているせんぱいだから。それにせんぱいは恐らく何か目的を持って蓮ノ空に来てるから、アタシたちはその邪魔をしたくない。秘密を隠すために苦労をさせてしまうくらいなら、アタシたちは知らず存ぜぬを貫き通す。そう決めた。
「それにしてもすみません、村から戻って来た夜にゲームに付き合わせちゃって……。また大変なことに巻き込まれてたって話ですし、お疲れじゃないかなぁ~って」
「じゃあなんで誘ったんだよ……。ただお前は人を理不尽に巻き込む奴じゃない。だから俺が疲れてるって分かってるのに誘ってきたってことは、それなりの決意があるってことだろ?」
「にゃはは~……毎回察しが良すぎて怖くなっちゃいますよ~。ありていに言えばそうですね~。ただ決意と言っても御大層な理由があるわけじゃなく、単にせんぱいとゲームがしたいって欲望なだけですけども」
「いいんじゃねぇの別に。用事がないけど一緒にいたいとか、相手のことが好きなら普通だろ」
「せんぱいって受け入れ範囲も広いですよね~」
「お前らがちょっとやそっとのことで悩み過ぎなだけだ。俺になんて遠慮しなくてもいいのによ」
画面を見ながら苦言を呈するれいくんせんぱい。そしてそんなせんぱいの顔を見つめるアタシ。普通の中学生よりも一回り幼いのに、最近はその顔つきがとても大人っぽく映る。それはせんぱいの風格や自信から来ているもので、言動の一つ一つに頼もしさを感じてしまう。相手のペースに一切乗らない自分の太い芯を貫き通すその様に、アタシは惚れてしまっている。
本来なら親身になったり同情したり相手に寄り添うことで共感を得るものだと思うけど、れいくんせんぱいは全く違う。相手の気持ちは汲み取るけど、ただ話を聞いてあげるだけ。相手の事情関係なく自分の意見を主張する。相手によって考えを変えず、自分はこうだからと頑なに一直線。アタシは相手に合わせて感情がぶれちゃうタイプだから、我が道を行く王者の魂に尊敬の念を抱かざるを得ない。あの我が強いめぐちゃんせんぱいまでもが惹かれる理由、この二週間半で分かった気がするなぁ~って。
「あっ、負けちゃいましたぁ~……」
「なによそ見してんだよ。その程度のハンデでも勝てると思ったか?」
「いやいや、アタシの目的はせんぱいを誘うことでしたから~。つまりアタシの部屋で一緒にゲームをしている時点で、もうアタシの勝ちのようなものです!」
「珍しいな。バトルジャンキーなお前が勝ち負けに拘らないなんて」
「それくらい夢中になっちゃってるんですよ。れいくんせんぱいに~」
「相変わらず、好きになったら強火だなお前。それを隠さずに曝け出してんだから相当だよ」
「それがアタシの流派でもありますので~」
自分の好きなことを表に出すのは恥ずかしいと思う人もいるけど、アタシの場合は好き過ぎて隠したくても露出しちゃうってカンジかなぁ。自分でも抑えきれぬテンションが胸の内に秘めた欲望をいつの間にか解放しちゃっている。
これまではるりちゃんとめぐちゃん、そしてゲームの話題がその対象だったけど、今ではれいくんせんぱいも含まれる。だけどせんぱいに対して抱く感情はオタクとしての興奮ではなく、恐らく一人の異性としての恋慕。その人のそばに行きたくてたまらなく思う気持ちで溢れている。だから今晩、せんぱいが疲れていようが忙しかろうが一緒にいたい気持ちが勝って誘ってしまった。迷惑だからと分かっていながらも衝動を抑えられなかった。
多分だけど、れいくんせんぱいへ向ける熱はるりちゃんやめぐちゃん、ゲームへ抱く想いとは全然違う。大好きなみらぱやゲームに対しては自分の心を燃やし尽くすかのように灼熱の炎を焚くけど、れいくんせんぱいに対しては火山の噴火ではなく心地良い温もりに包まれている感じ。熱いというより暖かい。もちろんそれでも推しを強く求めてしまうのには変わりはないですけどね~。
でもまさかこんなスキのカタチがあるなんて。ゲームやみらぱばかりに夢中でこれまで男性経験とか全然なく、好きって気持ちに熱さではなくぽかぽかとした温かみを感じた初めての経験。せんぱいを求める理由はその温もりをもっと体感したい、ってのもあるかもしれない。
「お前は俺を受け入れるの早かったよな。瑠璃乃はやや他人行儀だったし、慈は警戒心MAXだったからさ」
「最初はるりちゃんめぐちゃんが取られちゃう~って思って、少しは警戒してましたけどね。でもどんな人かを見定めるために観察してたら自然と興味が湧いちゃったんですよ~」
「それでミイラ取りがミイラになっちゃ世話がねぇわな」
「れいくんせんぱいの求心力が高すぎるんですよ~。事前にもっと『俺に深追いすると惚れるぞ』って注意してくれないと~」
「別に深追いしなくても惚れるだろ」
「うぉっ!? ナチュラルなイケメン発言に横転しちゃいそうでした~! そういうせんぱいの姿をもっと拝んで興奮したいんですからアタシ!」
「興奮って、温もりはどこいったんだよ……」
恋は温もり。でもれいくんせんぱいのイケイケ発言による煽りには熱狂し、心の薪に着火される。周りを巻き込んで脇道にいる人を自分の道に立たせるその強引さ。自分について来いと自信満々に、一切の迷いがない。そういうところに惚れてしまった。
アタシはたまに自分の考えを優先すべきか、相手に合わせて同情するかで迷ってしまうことがある。竜胆祭で泉ちゃんにも指摘されたことで、あの時にある程度は折り合いがついたつもり。だけど人の弱点はそう簡単に克服できない。アタシは家庭の境遇もあるし、なによりれいくんせんぱいの存在が思考を狂わせる。
せんぱいは凄い。人懐っこい小鈴ちゃんはともかく、アタシ以上に自分を警戒していた吟子ちゃんとも数日で親密になった。復学してからの蓮ノ空はまるで環境が変わったかのようにせんぱい一色で染め上がった。誰に対して優しいわけでも甘いわけでもない、どちらかと言えばちょっぴりシビアな性格をしている人だと思う。それでもみんながせんぱいに従うのは、それだけの信頼をせんぱいが勝ち取っているということ。ひたすら自分の道を歩いているだけなのにここまで慕われているなんて、アタシでは到底真似できない芸当だ。
そんなあまりにも存在感が大きいれいくんせんぱいに対して、アタシ自身どう接したらいいのか疑問に思うことがある。
さっきも言った通り、せんぱいは蓮ノ空に何かしら目的を持って編入している。だからなのか、たまにアタシの目に映らない遠くを見つめている気がしてならない。隣にいるのにどこか違う世界の人のような気がする。
もちろん秘密があるのは誰でもそう。だからそこは問題ではない。気になるのはアタシがせんぱいの隣にいることで余計な負担を与えていないか、ということ。
かつて人に関わり過ぎたことで所属していたプロチームが解散したことがあって、その失敗が今でも脳裏をよぎる。せんぱいの場合は特に重大なミッションがあると思われるので、その邪魔をしたくない遠慮が働いてしまう。しかもそのミッションは多分アタシたちに関するなにか。だったら私欲でせんぱいを求めるなんて無駄な横槍を入れず、ただ従順な後輩を演じればせんぱいも事が運びやすいだろうなぁと邪推しちゃったり……。
「せんぱいのカッコいい姿に惚れて、大した依頼でもないのに大袈裟に騒ぎ立ててせんぱいを呼び込む人もいるらしいですねぇ。迷惑に思ったりはしないんですか?」
「そりゃ思うだろ。でも頼りにされるのは承認欲求を満たされるから、別に目くじらを立てて怒るほどでもないかな」
「でもせんぱいがここにいる目的とは絶対に関係ないことばかりですよね? 鬱陶しいとか思わないんですか?」
「いや思うって。でもどんな些細な依頼でも、解決してあげたらみんな笑顔で喜ぶし、その顔が見れただけでもまあいいかなって勝手に落としどころを決めてるよ」
「はぇ~。やっぱりるりちゃんせんぱいみたいに悩み相談なんでもOKのスタイルとは違うんですね~」
「聖母すぎるアイツと一緒にすんな。いつか貧乏くじ引くぞアイツ」
う~ん、思ってた通り余計な邪魔が入らないことに越したことはないみたい。だったらアタシも無暗にお誘いするのは控えた方がいいかなぁと思ったり。今日は勢いで部屋に呼んじゃったけど、これからはせんぱいとの付き合い方を変えていく必要があるかも……。
そんなことを考えていると、せんぱいがこちらをじっと見つめていることに気が付く。さっきまでずっと画面を見ながらしゃべってたのに。
ゲームが起動しているのにも関わらず誰も画面を見ず、お互いに見つめ合う謎の構図。いやそうなると恥ずかしくなって目を逸らしたくなるのはこっちなんですけどね~。吟子ちゃんや小鈴ちゃんの可愛い反応を見るためにイタズラで見つめてみることは何度かあったけど、まさかアタシがこんなあっさり負けちゃう相手がいるなんて……。
そんなことより、せんぱいの気持ちを考えると身の引き方を考えた方がいいかも。そしてそれを伝えておけばせんぱいも自分の目的を達成しやすくなるはず。アタシたちのために何かをしてくれているのなら、なおさらアタシからアクションを仕掛ける必要はない。だから――――
「せんぱい、アタシ――――」
「たまにはこうやってゆっくりするのもいいかもな」
「えっ?」
「確かにお前の言う通り、目的を果たすために色々考えて、みんなからの信頼を獲得するために無理をすることはある。だからこそ癒しの時間が欲しんだよ。でも自分から誰かに求めるのはプライドが邪魔をする。つまりだ、お前みたいに容赦なく誘ってくれると嬉しいんだよ。今この時間と空間は、自身の目的も厄介な事件も何も関係ない、ただただゆったりとした日常が流れてる。夜に女の子の部屋で、隣で肩が触れ合いそうになりながら一緒にゲーム。最高のシチュエーションじゃねぇか。ひと時の休息くらい蓮ノ空での目的も面倒な事件も何もかも忘れたいしな。お前はそんな時間を適度に作ってくれる。お前の雰囲気が緩いってのもあるけど、それが俺の休息にピッタリなんだ。ありがとな、誘ってくれて」
もしかしてアタシの思考がバレてた? それともナチュラルな想い?
なんにせよ、アタシの中で渦巻いていた悩みが一気に晴れた。それに伴って自ら後ずさりして離れたれいくんせんぱいとの距離が、またグッと近づいた気がする。
まさかせんぱいがアタシのことを癒しだと思ってくれていたなんて。自分がせんぱいと一緒にいたいからと、ただ無自覚に遊びに誘っていたことがせんぱいの負担になっていると思っていた。距離を取ろうとしていたのも、過去の失敗の経験を活かした最善の策だと信じ込んでいた。
だけどせんぱいは受け入れてくれた。いや、アタシの考え過ぎなだけだったかもしれない。多分スクールアイドルクラブのみんなも同じことを言うかも。
ただ、れいくんせんぱいに受け入れてもらえた充足感は他の人では得られない。恋をしているからこそ、必要とされていると自覚したときの高揚感が半端ない。
「まさかれいくんせんぱいがお礼を言うなんて……。アタシってそこまでせんぱいの癒しに貢献してたんですか……!?」
「なんかさ、俺からお礼を言うのが珍しいみたいな風潮あるよな……。それはいいとして、お前分かりやす過ぎるんだよ。いつもは何かと距離を詰めようとしてくるくせに、急に付き合い方を測るような真似しやがって。俺でなくても怪しむよそんな素振り」
「あぁ~そんな態度に出てましたかねぇ……」
確かに結構焦ってたところはあるかも……。
だけど悟られたおかげでせんぱいに受け入れられてることを知れたから、結果オーライかな。
「それにお前、俺が自分の目的以外を蛇足だと思ってるって本気で信じてるのか?」
「ふぇ?」
「お前の知る神崎零は、蓮ノ空に来た目的以外に己のリソースを使いたくない奴だと本気で思ってんのかって訊いてんだ。確かに課せられたミッションは大事だよ。でも他の奴らからの些細な依頼だったり、すげぇ面倒な事件だったり、それこそお前らからのちょっとしたお誘いだったり、そんなの俺ならいくらでも両立できる。いくら草鞋を履かされようとも関係ない。依頼はしっかり完遂するし、事件は全てを暴いて解決する。お前らの誘いはお前らが自然と笑顔になれるような時間を作る。お前が二週間で見てきた俺はどれか一つしか達成できないような、取捨選択を取り続ける奴だったか?」
「ち、違います! アタシの好きなれいくんせんぱいは孤高で気高く、目に映る手に取る全てをハッピーエンドにできる最高最強のせんぱいです!」
「そうだ。だからお前が気遣う必要は全くない。お前は持ち前の限界オタク並みの欲望を素直にぶつけてりゃいいんだ。俺はどんなお前だって受け入れてやる」
やばっ、カッコいい……!!
そうだ、アタシが好きなれいくんせんぱいはまさにこのせんぱいだ。言動が常に一貫した、他者を巻き込み、そして腕を引っ張ってでも無理矢理歩かせるその勇壮なスタイル。俺について来いと言わんばかりの勇ましさに惚れ、同じ道を歩むことにとてつもない幸福を感じてしまう。
自分がれいくんせんぱいを好きになった理由を忘れてしまい、勝手な思い込みで離れようとしてしまった。
だけどせんぱいにとってはアタシの悩みなんて些細なこと。全部受け止める凛々しい言動を見せつけるだけで解決してしまった。そんな豪快なところが好きになったんだアタシは。
同時に見習いたいとも思った。人間関係になるとどうも距離を測ってしまい立ち止まってしまう自分。それは空気感を読めるという長所でもあるけど、過去の失敗における言い訳を土台にはしたくない。だから自信を持って人と暖かい絆を紡ぐ。まさにせんぱいが今やっていることを、アタシも身に付けられるようにしたい。好きの対象でもあり成長の目標でもあるって、アタシの憧れを悉く自分の色に染めるなんてれいくんせんぱいらしい。でもそれが堪らなく胸熱なんだよね~。
「決めました! だったらこれからは毎晩せんぱいをお誘いします!」
「急に元気になりやがって……。てかその言い方はちょっとどうかと思うぞ。相手は中学生だけど男だってこと忘れんなよ」
「え~アタシはれいくんせんぱいだったら別にいいんですけどね~」
「別にいいとか、そんな妥協を含んだ覚悟では抱けねぇよ。あっちの意味で誘惑したいなら本気で来い」
まだ中学生の年齢のはずなのに、どうしてこんなにも男らしく見えるんだろう。気骨がありすぎて同年齢、いやそれ以上に思えてしまう。
そんなせんぱいのことが好きだから、もしここで本気で誘惑したらどうなるんだろうと考えてしまう。もしかしてせんぱいも本気になってくれるのかな? でも雄々しさがあると言っても小柄で非力なはずなので、意外とアタシでもベッドに抑え込めるかもしれない。そう考えるとそれはそれでまた推せる……!! おねショタは趣味じゃないけど目醒めてしまいそう……!!
いやいや、冷静になれ……。そうだ、誘惑ではないけどプチお誘いをしたらどう反応するのか試したい。敢えて煽ってれいくんせんぱいの逞しい姿を見るという、もはやメスの根性が染みついちゃってるかも……。
「せんぱい。だったらせんぱいのお願いを1つだけアタシが実現する、ではどうですか~?」
「いやどんな流れで……?」
「普通に誘惑するにはまだお互い本気にはなれないですけど、でも癒し担当としては何かしてあげたいと思ってるので~」
「そうか、じゃあ……」
えっ、れいくんせんぱいが突然真剣モードに!?
お互いに本気じゃないって言ったけど、それはアタシだけで実はせんぱいは最初から本気だったり……??
さ、さっきからまたずっと見つめられて顔が熱くなってきた……!!
なにをされちゃうんだ、アタシ!!
To Be Continued……
姫芽の個人回の前編でした。
姫芽って他の同期2人と比べても最初からそこそこ人間が出来ていたので、個人回特有のお悩み披露の内容をどうするかちょっと迷った裏話があります。
ただ人間関係のトラウマがあるので、零やみらぱのような力強く前を向いて進む人に憧れるんだろうなと思います!
次回は新キャラ個人回でおなじみ、零視点で後編となります。
彼女とスクールアイドル病の行方も次回!