ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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ヒーロー・オブ・ヒーロー

 めぐちゃんたちの卒業式が執り行われた日の翌日。蓮ノ空では再び蓮華祭に向けた慌ただしい準備の日が戻って来た。昨日は卒業の寂しさと新たな旅を予感させる高揚感が混じり合った独特の雰囲気があったけど、今日になるとここ一ヶ月の忙しない雰囲気が戻ってきた感じだ。卒業とは言っても蓮華祭があるからまだみんな学校にはいるわけだし、真に別れを実感するのはもう少し先になるのかもね。

 

 ルリたちも今日は午前中は練習、午後は蓮華祭の準備と卒業式前と変わらない日常を過ごしている。めぐちゃんたち三年生的には卒業式よりも蓮華祭のステージこそが高校生活の区切りだと思ってるから、式はあくまで学校行事としての通過儀礼にすぎないらしい。だから式を終えた後の練習はより一層気合が入っていた。こずパイセンやめぐちゃんはともかく、つづパイセンが分かりやすくやる気を出していたのは珍しい光景で驚いちゃったよ。

 

 ルリ自身もまだ先輩たちが卒業したって感覚は全然ない。卒業式では『あぁ~あのめぐちゃんも大人になったんだなぁ~』と謎の親目線になったりもしたけど、結局のところお別れで寂しいって気分にはならなかったんだよね。蓮華祭が無事に終わって本当にお別れをする瞬間が来たら、そのときはもしかしたら感極まっちゃうのかもかも……?

 

 ただ、ルリはそれ以上に決着をつけないといけないことがある。先輩たちの卒業のこともそりゃ向き合わなきゃいけないけど、それよりも自分の気持ちにひとまずの決着をつける必要がある。その想いを寄せる相手こそ、先輩たちと違っていついなくなってしまうのか分からないから……。

 

 

「この倉庫も割と綺麗になったんだな。あの事件までは物が外にまで雑多に溢れかえってたのに」

「沙知先輩と椎菜ちゃんが去年頑張って片付けてたよ。地下への入り口も封鎖して、万が一でも誰かが迷まないようにしたみたい」

「外から見たら事件の匂いなんて一切しなくなったな。ま、あの出来事は掘り返さない方がいいか」

 

 

 ルリと零くんは今校舎から少し離れた倉庫に来ている。この倉庫は以前にスクールアイドルに悪夢を見せる幽霊が出た事件で、ルリたちが霊魂によって地下へと引きずり込まれた場所。あのときの倉庫は結構ボロっちかったけど、今は生徒会の手によって綺麗に補修され、イベントで使用する横断幕などかさばるモノを保管する場所になっている。つまりルリと零くんは蓮華祭やライブで使う諸々を取りに来たってワケ。

 

 ここに来ると零くんが蓮ノ空に来て間もなくのことを思い出す。零くんのこと、ルリは最初からどちらかと言えば好意的だった。初対面の人と相対すると相手がどのような人が分かるまでこっちは身を少し引いたりするんだけど、零くんに対しては警戒はしつつも最初からそれなりに自分を曝け出していた気がする。零くんが自分を隠さない性格で、転入数日で学校中を牛耳る存在になっていたってのもある。零くんについていくだけで周りの人たちがどんどん笑顔になるから、零くんの周りってすっごく居心地がいいんだよね。

 

 そんな快適な日々を送りながらも一週間くらいが経った頃に事件は起きた。ルリたちは寝ている間に悪夢を見せられて、脳内に悲しみの啜り声が絶えず響いていた。紆余曲折あって零くんのおかげで事件は解決。そのときからだ、ルリが零くんに秘かな想いを寄せるようになったのは。

 

 

「それにしても、零くんが真面目に仕事してるのって珍しいね。昨日の卒業式はとっとと帰っちゃったのに」

「役目が割り振られてるのならミッションは遂行するよ。卒業式は別に俺がいなくても回るし、そもそも堅苦しいのは好きじゃねぇからな。その分、蓮華祭の準備はただ働くだけで物事が勝手に進んでくんだから楽なもんだろ。それに何もしてないとまた面倒な事件を引き寄せちまいそうだからな」

「そうやって自分の信念を強く持って行動できるところは羨ましいよ。事件については同情しちゃうけど……」

 

 

 ルリは結構優柔不断なところがあるから、常に一貫した主張ができる零くんを羨ましく思っちゃう。ただこれは自分の性格だから仕方ないし、去年に零くんにこのことを相談したら、別にルリはルリらしくやればいいって発破をかけてもらったから悩みはない。でもルリにとって零くんはいつだって一番の目標だ。

 

 部内でも学校のことでもなんでも問題が起きた場合、零くんは颯爽とそれを解決する。どんな謎も騒動も、悩みも困難も先頭に立って乗り越える。そんな勇姿にルリたちは勇気づけられ、誰もが彼を中心に一体となり、そして最終的には笑顔になる。歓喜に包まれたハッピーエンドという、誰もが夢を見る結末を零くんは自ら手繰り寄せる。 

 それはまさにルリの描く最高の未来そのもの。100人中99人が笑顔になればそれは大成功と言えるという一般的な考えを、ルリは絶対に許さない。その残された一人を漏らさず笑顔を届けてこそ、真のハッピーエンドだと思ってるから。だからこそ、それを自然に成し遂げる零くんに強い憧れを抱いてるんだ。

 

 

「おい、さっきからジロジロ見過ぎだ。手を動かせ手を。まさか俺がサボらないように監督役としてついてきたんじゃねぇだろうな?」

「あ、ゴメンゴメン! いやぁ零くんってサボり魔のように見えるけど、ルリからしたら超働き者だからね。ほら、一昨日だって稲荷火サマの事件を解決したばかりだし、なんだかんだ数日に一回は大きな騒ぎに巻き込まれてるじゃん? だから本来なら何もない今日なんてゆっくり休みたいって思うはずなのに、こうして率先して蓮華祭の準備を手伝ってくれてさ」

「外れ者になってクラスで淘汰されるわけにはいかねぇからな。働きアリとしての役目はしっかり果たすよ。ゆっくりしたいと思うことはあれど、結局一人で休むことなんてできない。俺には俺の目的があって、今こうして蓮華祭のために動いてるのもその目的達成に必要なことだから。だから手伝ってるって表現はゲストみたいで嬉しくないな。再転入してきた身だけど、この学校の一員としての責務果たすさ」

「おぉ~っ! いつもふんぞり返ってる零くんがなんて律儀な……。でもそういう義理堅いところがあるからみんな好きになっちゃうんだよね。俺サマ系だけど決して自分勝手ではないところがね」

 

 

 普段は俺様気質を発揮する横暴なご主人様ってカンジで、どちらかと言えばルリは身勝手に振舞う人は苦手な部類だったりする。でも零くんはこんな性格でも誰かの悩みに真摯に向き合って、必ず問題を解決してくれる。決してこちらの期待を裏切ったりしない。そんな安心感からこの人なら信頼してもいい、隣にいてもいいと捻じ伏せるかのように実感させられる。

 

 ちなみに、そのことで前から思っていたことがある。

 零くんは毎日なにかに巻き込まれたり追われたりしてるみたいだけど、疲れてはないのかなって。一昨日も神様が登場するようなすっごい事件を前線に立って解決したから、数日の休暇くらい取っても誰も文句を言わないはず。でも今もこうして働いている。その小さなカラダを動かして、そこそこ面倒な倉庫の行き来すらも文句を垂れながらもサボることなく遂行する。

 

 さっきは自分の目的のためだと言っていた。それはつまり、自分に課されたミッションとは一切関係のない事件に巻き込まれた上で、更に本来の目的までもを達成しようと奔走しているってこと。

 だとしたら零くんは毎日が忙しなさ過ぎる。零くんが何か秘密の目的で蓮ノ空に、ひいてはルリたちに接触してきたのは偶然ではないことは分かっている。最初はルリたちも怪しんでいた。でも零くんと一緒に生活して、その人となりを知っていくうちにどんな秘密を抱えられていようとも、恐らくルリたちを救ってくれることだから口出ししないと暗黙の了解が定められた。多分零くんもそれに気付いてるはず。それでもなお自分の目的を放置して誰かのために全力になる。聖人なんてこの世にはいないと思ってるけど、零くんこそその存在に一番近いんじゃないかと思ってしまう。自身の目的に何の関係もないルリたちの悩みを解決するだけじゃなく、ちょっとした騒動も、そして人の命運を揺るがす大事件すらも先頭に立って尽力するんだから。

 

 

「ねぇ零くん、これ運び終わったら休憩しよっか。あと今日の準備が終わったら、気分転換でちょっくら遊びに行かない?」

「なんだよいきなり。さっきから俺を見つめて考え事をしてることに何か関連があるのか?」

「そうやって人の心情に敏感なの、いつも指摘されるたびにドキッとさせられるなぁ……。まあでもその通り、ちょっと今の零くんの働きに思うところがあってね。ルリの力で解決してあげたいって思うんですよ」

「思うところって、上司の立場で説教を垂れる気かよ」

「違う違う! そういう意味じゃないって! ただいつも頑張ってる零くんを見ててね、そんなキミをルリが支えてあげたい。そう思ってるんだ」

 

 

 零くんは訝し気な表情をする。そりゃ倉庫に物を取りに来ただけなのに、いきなりこんなことを言われたら怪しんじゃうよね……。自分でも唐突だなって思っちゃった。でも零くんと二人きりでゆっくりお話しできる時間って同棲していても中々取れないから、今がまさに貴重なタイミングだったりする。さっき言っていた想いを寄せる相手に対し、自分の気持ちと向き合って言葉にして伝える。この瞬間こそまさにそのときなんだ。

 

 

「超超超余計なお世話かもしれないこと言うよ? 零くんがルリやみんなのヒーローだったら、ルリは零くんのヒーローになりたい。だって零くん、自分の目的もあるのに蓮ノ空みんなの問題や悩みを解決して、そして全く関係のない大きな事件に巻き込まれて、とっても大変な人生を歩んでるなって思ってるんだ。零くんは大丈夫って言ってたし、交友関係が広いから無理をしそうになっても誰かが助けてくれるはず。でもね、誰かがそう明言することで零くんは安心できると思うんだよね。零くんは何でも一人でできちゃうから敢えて誰も口にしない。多分ルリが今ここで宣言しなくても、零くんのやることなすことは変わらない。ルリが手助けしなくても、どんな問題であろうとハッピーエンドに導ける。でも、もしそうだとしてもルリは零くんの隣にいたい。ちょっとでも悲痛な感情が芽生えたら助けてあげたい。上から目線かもしれないけど、去年零くんが教えてくれたルリ自身のやりたいことがこれなんだよ」

 

 

 零くんは自分が忙しいとは思ってないかもだし、疲れたとも思ってなく、そもそも助けを必要としていないかもしれない。だからルリの助力なんて無駄どころか余計なお世話かもしれない。

 だけど自分のやりたいことを貫き通すため、色々考えた結果がこれ。好きな人の隣にいたいって口実なだけかもしれないけどね。それはそれでアリ。だって零くんだってたまにグサグサと突き刺す言葉で人の心に土足で上がり込んだりするんだから、こっちからも遠慮なく突撃してもいいよね!

 

 ルリの決意を聞いて零君は目を瞑って微笑んだ。そんなことかと嘲笑われたのかと思ったけど、流石の零くんでも人の決心をバカにするようなことは……ないよね?

 

 

「中々決断できずなよなよしてたお前が、そこまで言い切れるなんて成長したな。身長は変わってねぇのに」

「この状況でルリを刺す必要あった!? それに身長なら零くんも変わってねぇし! てかむしろ縮んでない……?」

「まあそれはそれとして。じゃあお前は俺のヒーローになるってか」

「そういうことになるね。まさにヒーローのヒーローだ!」

「大きく出たな。他の奴らは隣にいたいってだけなのに、お前は俺を助けるときた。自分で言っちゃアレだけど、相当な面倒事ばかりに巻き込まれるぞ」

「承知の上、だよ! それに零くんの隣にいたいのはルリだってそう。その気持ちに関してはヒーローとか抜きにして、ただ単に女の子としての想いから……かな」

 

 

 零くんを助けてあげたいってのはルリの夢のため。そして零くんの隣にいたいっていうのは、単純に好きだから。もしかしたらヒーローになりたいって感情は零くんに注目してほしいから、もっとルリのことを見てほしいからなのかもしれない。

 誰も漏らさず笑顔にしたいという夢は広義的な意味でみんなに話したりしてるけど、特定の誰かに向かって、その人のためだけにヒーローになるって誓ったのは零くんに対してが初めて。そしてこの先、他の誰にもそんなことはしないと思う。だって一人だけのヒーローになっちゃったら、悲観的な人を誰も逃さず助けることなんてできないからね。矛盾した夢のようだけど、それはそれでこれはこれ。零くんに曰く『二兎を追う者は二兎とも取れ』。それを実現すればいいだけ!

 

 

「俺もお前みたいな救世主が近くにいてくれれば安心できるよ。これでも全く悩みがないってわけじゃないからな」

「え、そうなんだ! いつも自信満々だし、常に最適な解法を導き出せるスーパーマンかと思ってた!」

「んなわけねぇだろ人間なんだから。悩める誰かを諭すときも、本当にこの言葉選びで大丈夫なのかとか、事件のときも本当にこの方法で解決できるのかと自身に問いかけることがある。それでも自信があるのはそれだけ自分の力を信じてるからだ。それに俺が不安そうにしてるとお前らも余計に不安になるだろ? みんなが前向きなら絶対に事態は終息できる。そう思ってるから俺は目を伏せないんだ」

「なるほど。自分自身に鼓舞されてるなんて零くんらしいや。でもそういうときこそルリの出番かもね!」

「そうだな。俺のヒーローになると宣言した奴が、隣にいてくれるだけで心強いよ」

「えっ、いるだけでいいの!? そこは相談してよ!!」

「まだお前はヒーローじゃない。真に自分の夢を目指すときが来たら、その際は利用させてもらうよ」

「利用って、なんかビジネスみたいになってっし……」

 

 

 零くんはボソッと『花帆とさやかとよく話し合うんだな』と呟いた。多分独り言のつもりだったんだろうけど、一体どういう意味かはルリにはまだ分からなかった。

 

 ともあれ、零くんに対して抱いていた感情を吐き出すことができて満足。ただヒーローとは言いつつも、その名を冠するにはまだ遠い。これからもっともっと勉強して経験を積まないと! そのためにはトラブル引き寄せ体質の零くんの側にいるのが一番いいよね! まあ事件が起こったら起こったで大変ではあるんだけど……。

 

 

「じゃあ早速お助けマンに仕事だ。この横断幕を運べ。俺はこっちを運ぶから」

「それ小物じゃん! しかもこの横断幕、大きすぎてルリの身体じゃ抱えきれねーし!」

「音を上げるのが早いな。困ってる奴を誰一人として見逃さないんじゃなかったのか」

「いやいや、これ雑用じゃん!」

「ここの仕事を請け負った時点で雑用みたいなもんだろ。それにお前の方が背が高いんだから、その役目を誇っていいぞ」

「うぐぐ、零くんがいると『スクールアイドルクラブの中で一番背が低い』自虐ネタを使えない……」

「ヒーロー業も前途多難だな」

「これは絶対に違う気がする!」

 

 

 なんかこれからヒーローだからって雑用を押し付けられそうな気がするんだけど……。

 だけどルリの夢を改めて零くんに認知してもらえたのは事実。これで合法的に一緒にいる時間も作れるのかな……? 零くんはまたいつ蓮ノ空を去ってしまうのか分からない。それまでにもっと零くんと一緒にいて、これまでよりももっと助けてあげられるようにならないと!

 

 大好きな、キミのためにも!

 




 瑠璃乃の個人回でした!
 ただ助けられるだけのヒロインではなく、彼を救ってあげたいというまさに瑠璃乃らしさを前面に押し出してみました。若干恋愛要素が薄い気もしますが、彼女にはまだ三年生を残しているため、次はガチのヒロインらしくデレッデレなところも描いてみたく思っています。





【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢   → 梢
・夕霧綴理  → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈   → 慈
・百生吟子  → 吟子
・徒町小鈴  → 小鈴
・安養寺姫芽 → 姫芽

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100 ※限界突破アリ)
・日野下花帆 → 零クン   (120)
・村野さやか → 零さん   (120)
・乙宗梢   → 零君    (120)
・夕霧綴理  → れい    (120)
・大沢瑠璃乃 → 零くん   (120)
・藤島慈   → 零     (120)
・百生吟子  → 零先輩   (84)
・徒町小鈴  → 零師匠   (100)
・安養寺姫芽 → れいくんせんぱい(100)

スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 治療済
・村野さやか → 治療済
・乙宗梢   → 治療済
・夕霧綴理  → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・藤島慈   → 治療済
・百生吟子  → 傷の位置調査中
・徒町小鈴  → 治療済
・安養寺姫芽 → 治療済
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