ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

690 / 703
不在の間の季節イベント、全部やる!(前編)

「はいこれ」

「慈……? なんだよそれ?」

 

 

 編入生活リトライ、20日目。同棲ハウス内。自室を出てリビングへ向かおうとしたとき、ばったり出会った慈から何やら包装された箱を渡された。可愛げのある赤のリボンに包まれており、見ただけでも何か特別感のあるプレゼントだと分かる。

 ただ、コイツから贈り物をもらうようなイベントがあったか全く心当たりがない。好感度が一定値に達したとか、恋愛ゲームでもあるまいし。

 先日はコイツら三年生の卒業式だったから、渡すとしたらむしろこっちからだろう。どんな風の吹き回しか、それとも俺のあずかり知らぬところで何かをやらかしてバレる前にその詫びをしているのか。コイツから好意を向けられることは多々あれど、こうして贈り物をされるのはほぼないから疑問が絶えない。

 

 

「チョコレートだよ。めぐちゃん特製の手作りだから」

「チョコ? バレンタインは1ヶ月も前だぞ」

「アンタが戻ってくるのが遅いからでしょ! いつアンタが戻ってきてもいいように、しっかり準備してたんだから! バレンタインだけじゃなくてその前も前も、この一年間ずっとね!」

「そりゃ別に俺のせいじゃねぇって……。えっ、じゃあそのチョコ、1ヶ月ずっと冷蔵庫に入ってたのか? 保存がきく市販品ならともかく、手作りのやつじゃな……」

「作り直したんだよ昨日! 卒業式も終わったし、忙しかった日々からちょっとは解放されたからね。私のお手製だなんて、めぐ党さんが貰ったら尊くて卒倒するレベルなんだから。心から感謝して味わうよーに!」

 

 

 わざわざ一から作り直しただなんて律儀な奴だ。それだけ俺に自作のチョコを食ってほしかったってことか。なら普通に渡せばいいのに妙なツンデレを発揮しやがって。俺の前だと素直じゃねぇよなコイツ。

 

 にしても季節イベントのたびに俺のための準備をしてくれてたなんて、連絡もなしに不在にしてたのが申し訳なくなってくるな。まあそれは秋葉が連絡を遮断していたのが原因なんだけど、それでも俺のことを想ってくれてのことだからバカにはできない。ただいつ帰って来るか分からない、その場にいない奴のために準備を進めるって、俺の立場以外の奴らから見たら相当イカれてるけどな。

 

 

「あーーーーっ!! 慈センパイが抜け駆けしてる!!」

「うるさいのが来た……」

「お邪魔虫みたいに言わないでくださいよ! ていうか、零クンにチョコをあげるならみんなでって言ってたのになんで一人で、しかも廊下でこんなこっそり渡してるんですか!?」

「いやだってバレンタインなんてとっくに過ぎてるし、条約も自然破棄されてるのかと思って。だってほら、あのときコイツ用に作ったチョコはみんなで食べちゃったでしょ」

「だとしても、また作り直すとか聞いてませんよ! 昨日キッチンに立ってたのってこれが理由だったんですか!?」

「まあね! 卒業はしたけど蓮華祭まではまだちょっと時間があるわけじゃん? だったら零とやりたいこと、特に実現できなかった季節イベントは今のうちにやっておいた方がいいと思ってね!」

「そういうのはあたしたちに事前に相談してくださいよ~! ほら、みんなのところへ行きましょう! 慈センパイだけ零クンを独占なんてズルいです!」

「ちょっ、引っ張るな!」

 

 

 てっきりイベントのたびに準備してたのは慈だけかと思ってたけど、全員なのかよ。いつ帰って来るか分からない奴のためにそこまで労力をかけるなんて、純情というべきか拗らせているというべきか……。

 

 

「零クンも来てね! いい機会だから、今までできなかった季節イベント全部やろうよ!」

 

 

 花帆は慈の腕を引っ張ってリビングへと連行する。

 次のイベントを待つのではなく、渋滞待ちを消化しようとする花帆。相変わらずの行動力だけど、まあ三年生が蓮ノ空を去るまでの時間を考えれば即行動に移すのも無理ないか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「というわけで、今まで実現できなかった『零クンと季節イベントを楽しんじゃおう会』を開催しちゃいまーすっ!」

「わーい! ぱちぱちかちまち~!」

「いきなりなんですか!? なんなんですか!?」

「かほはいつも楽しそうなことを思いつくよね。楽しみだ」

 

 

 リビングにて、これまで暖め過ぎて腐ってるんじゃないかってくらいのイベントが開かれることになった。他の奴らの反応は様々だが、花帆の思いつき行動には既に慣れっこなのか止める奴はいない。むしろコイツらも同じく待ち望んでいた側だろうから、そもそも遮る気なんて全くないだろう。

 

 

「今からここで一年間分のイベントをやっちゃおうだなんて、花帆先輩は全くもう……」

「いいのではないかしら。零君がまたいつ去ってしまうか分からない以上、やれるときにやっておかないとね」

「いいじゃんいいじゃん! ルリたち、明日こそは零くんが帰って来るかもっていつもそわそわしてたし、その鬱憤を晴らせるときが来た!」

「れいくんせんぱいと出会う前は『どうして先輩方はそこまで本気なんだろう』って思ってましたけど、今ならアタシならその気持ち分かります。俄然やる気が出てきましたよ~!」

 

 

 確かに姫芽の言う通り、一年生たちは俺のことを知らない状態で巻き込まれてたってことか。先輩たちが自分たちの出会ったことのない男に想いを馳せてる姿を見て、一体どう思っていたのか。しかもいつ帰って来るかも分からない男のために、無駄になるかもしれない準備までしてるその姿を見て……。コイツらが俺のことを初対面からある程度把握していたのもその影響が故なのかもしれないな。

 

 

「遡って、まずはバレンタインから! とは言っても、慈センパイが抜け駆けしたせいで他の誰もチョコを用意してないんだよね……。うぅ、あたしも零クンにチョコあげたかったのに!」

「別にそれはいつでもできるだろ。突貫工事で作られるよりも、しっかり手間暇かけてくれた方が俺も嬉しいよ」

「ちなみに私が悪いみたいな言い方してるけどさぁ~、実はもう一人一緒に用意してた子がいるんだよね~。ねぇ~、さやかちゃん?」

「う゛っ!?」

「えっ、さやかちゃんも!?」

「は、はい……。昨晩たまたま慈センパイがキッチンに立っているところを目撃したので、何を作っているのかを聞いたらそのまま流れでわたしも……」

 

 

 さやかはバツが悪そうに目を逸らす。

 ここに来てまさかの伏兵登場。便乗してチョコ作りするあたり料理好きの血が騒いだか。単に俺に料理を腕を振舞うのが好きだからってのもあるだろう。以前にコイツに弁当を振舞われ、同時に敬愛を示されて以降、俺に対する積極性が更に増した気もする。

 

 

「せっかくだからさやかちゃんも今あげちゃえばいいよ。バレンタインを再現しようとしてるわけだしね」

「そうですね、渡すために作ったわけですし……。零さん、ちょっと待っていてください」

 

 

 さやかは冷蔵庫へ向かい、チョコを持ち出して戻って来た。以前に俺に対して気持ちを打ち明けて心がレベルアップしたのか、以前のように想いを伝えるのに羞恥心でそわそわする様子は見られない。

 

 

「受け取ってください、零さん。ハッピーバレンタイン」

「あぁ、ありがとう」

「私からもハッピーバレンタイン。どうせなら今食べてみてよ! さっき私があげたのも含めてね!」

「じゃあちょっとだけいただくよ」

 

 

 リボンを解いて箱を開ける。慈の作ったチョコはピンク色で紛れもないイチゴ味であることが分かる。さやかのはオーソドックスだが、形が綺麗に整えられていて見た目だけでは高級品と大差ない。

 流石に今の状況で全部を食ってる時間はないので、それぞれ一粒ずつ食す。どちらも想像通りの味と言えばそうなのだが、やはり女の子が俺のために作ってくれたという優越感がなにより旨味を引き出している。舌でとろける十分な甘さがあり、完全にこちらの好みを理解しているようだ。

 

 

「その表情、どうやら満足してくれたみたいだね」

「零さんはコーヒーに関しては苦味派ですが、お菓子やスイーツは甘さ成分たっぷりの方が好きなんですよね。それくらい熟知してますよ」

「ありがとな。残りは後でゆっくり味わわせてもらうよ」

 

 

 一緒にいた日数は合計するとそこまで長くないものの、時間で換算すればかなり濃密。今でこそ同棲をしているため、俺の食の好みも自然と覚えていたのだろう。女の子が手作りのお菓子にその知識を発揮してくれるなんて、男としてこれほど嬉しいことはないな。

 

 

「むぅ、零クンにあんなに褒めてもらえるなんて……。あたしも後で絶対にチョコ作る!! なんなら今から作る!!」

「どうどう花帆ちゃん! 今からは流石にムリっしょ! とりあえず次のイベントに行こうよ。遡るとなると、次はお正月?」

「正月って初詣くらいしかやることねぇだろ。かるたとか福笑いとか羽子板とか、それこそ今大々的にやることじゃないと思うけど」

「お餅つきなら徒町の実家でやりましたよ! 杵と臼が必要なので、今度持ってきますね!」

「そんな大きなモノを持ってくるくらいなら、直接小鈴ちゃんの家に言った方がいいんじゃないかなぁ~……」

「お正月をこの場ですぐ再現するのは、準備するものが多くて難しそうね。次へ行きましょう」

 

 

 正月の楽しみと言えば女の子の振袖姿を拝むことくらいだけど、着付けに時間がかかり過ぎるのでこの場で披露するのは無理か。コイツらの晴れ着姿は見たことがないから、いずれ是非生で拝んでみたいものだ。懇願すれば時間をかけてでも着替えてはくれるだろう。つくづくいいポジションにいるよな俺って。

 

 

「次はクリスマスですよね。これも用意が必要なものが多い気がしますけど、零先輩はいつもクリスマスになにをされてますか?」

「特別なことは何も。妹が豪華な飯を作ってくれるくらいかな」

「ケーキ、お肉、ポテト、ピザ……うん、ボク全部食べたい」

「それ綴理先輩の好みじゃないですか! クリスマスといえばプレゼント交換ですが、それも結局準備ありきですし、そう考えると突発的にできることはそうないのかもしれません」

「そうですね~。自分自身をプレゼントにすることならできるかもです。ほら、裸リボンで『私を食べて』ってやつ。ね、吟子ちゃん!」

「なんで私に振るの!? いくら先輩相手でもそんなこと絶対にやらないから!」

 

 

 それ別にクリスマス関係なくないか? 別に俺はサプライズもおもてなしもされるのであれば、イベントにかこつける必要なんてないと思っている。ただコイツら的には俺との季節イベントを一年間ずっと心待ちにしてたようだし、今はその念願が叶いそうで沸き立っているため、わざわざ俺から水を差す必要もないだろう。今回は何も被害を被っていないわけだしな。与えられる無償の愛を享受するだけでいい。

 

 クリスマスもスルーになるのか。そう思いきや、瑠璃乃が小さく手を上げた。

 

 

「えぇっと、実はルリとこずこず先輩はプレゼントあったりして……」

「えっ、瑠璃乃ちゃん!? さやかちゃんといい、あたしの同級生が抜け駆け上等なんだけど!?」

「別にそんなつもりはないよ! ただこずこず先輩とお出かけしたときに零くんに似合うマフラーとニット帽を見つけたから、1つずつ買っていつかプレゼントしようって話になって……」

「そうね。そもそもクリスマスとは関係なく、いつ渡そうか悩んでいたのよ。だから花帆、落ち着いて、ね?」

「でもせっかくだから今渡しちゃいましょっか!」

「えぇ、渡す機会としては絶好ね。部屋に取りに行くから、待っていてもらえるかしら」

「みんなどうしてそんな準備万端なの!?」

 

 

 自分で開催した季節イベント体験会なのに、自分以外の奴らがしっかり準備済で焦る花帆。とはいえコイツらも個人的に俺にプレゼントしようと思っていただけであって、特段誰かを出し抜こうだなんて思っていないだろう。だからこそ無策の花帆が一番不憫なんだけど……。

 

 そして瑠璃乃と梢が部屋から戻って来た。プレゼント用の包装がされた袋を渡される。中を見てみると、さっき言っていた赤黒のチェック柄のマフラーと黒のニット帽が入っていた。

 

 

「もう三月だから必要ないかもしれないけれど、もしお気に召したら次のシーズンで使ってくれると嬉しいわ。(わたくし)からのクリスマスプレゼント、受け取ってもらえるかしら?」

「ルリは特別ファッションセンスがあるわけじゃないけど、零くんに絶対に似合うって、ファーストインスピレーションを信じて買ったんだ。日頃のお世話のお礼と思って受け取ってほしいな」

「必要ないとか、似合わないとか全然思ってない。お前らの気持ちが籠ってるだけでも嬉しいよ、ありがとな」

 

 

 こうして貢がれることは多々あるけど、意外と親密に関わっている奴らから貰うことは少ない。蓮ノ空にいても他の生徒からプレゼントを渡されることは多いけど、コイツらからはあまりない。いつも一緒にいるが故に、わざわざ物で好意を示す必要がないってことだろうか。だからこそいつもとは違う形で想いを向けられて、新鮮で嬉しかったりもする。わざわざ自腹を切ってまで、感激しそうだよ。

 

 

「ぐぬぬ、次こそはあたしの番だよ!」

「次って言ってももう夏までイベントなくない? まさか花帆ちゃん、水着なんて二番煎じを……」

「ちっちっち、クリスマスの次が夏だなんて甘いですね慈センパイ! 11月にはあのイベントあるじゃないですか! 11月11日、ポッキーの日が!!」

「え、それってイベントなの?」

「あたしが特別だと思ったら特別なんです! というわけで零くん、ポッキーゲームしよう! ちょうどおやつとして買ってきてたから! ようやくあたしも『いいタイミング』って言えるときが来たよ!」

 

 

 ここでまさかの季節イベントではなく、企業戦略に乗せられた俗物イベントが発生する。

 ポッキーゲームとは互いに端っこを加えて食べ進める遊び。そうなると当然いずれは二人の唇がくっつく、つまりキスをしてしまうわけだが、そこで恥ずかしがって顔を背け、先にポッキーを折ってしまった方が負けになる。いわゆるチキンレースってやつだな。

 

 

「れいとお菓子食べられるの? ボクもやりた~い」

「綴理センパイ! いいですよ一緒にやりましょう! でも前にセンパイとやったとき顔色一つ変えずに迫ってきて、キスしちゃいそうだったからあたしがあっさり負けちゃったんだよね……」

「女同士でやったのかよ」

「うん、美味しかったよポッキー」

「ゲームじゃなくて味の感想かよ……」

「じゃあ三人でやろうよ! ほらほら、零クンはチョコ側を咥えてね!」

 

 

 そんなこんなで俺にはやるかどうか訊かれぬままポッキーゲームに強制参加させられた。

 しかも2 vs 1。俺が二本分のチョコレート側の先端をそれぞれ指一本分の隙間が空くくらいの間隔で咥え、花帆と綴理が一本ずつ持ち手側の末端を咥える謎の構図。これ、どう頑張っても俺側が二本同時に食べ進めるの無理じゃないか? 二本まとめて実質一本のように扱えるらまだしも、二本を離して咥えてるから明らかにこちらが不利すぎる。まあ勝とうが負けようがどうでもいいんだけど、あっさり終わるのもそれはそれでコイツらも見てる奴らも楽しみが失せてしまうだろう。

 

 にしても、当然だが花帆と綴理の顔がめちゃくちゃ至近距離にある。周りの奴らも含め、かつてこれほどまでに近づいたことはそうない。俺はこれまでの人生で経験があるので平気だが、コイツらは既に頬が紅い。この二人は俺に対して容赦のないボディタッチを仕掛けてくるので羞恥心はそれほどないとは思うが、やはり一歩間違えればキスになりかねないこの状況は流石に意識せざるを得ないか。

 

 そして間もなくして二人はボリボリとポッキーを食べ進める。ただ俺はさっき言った通り二本を独立して咥えているため噛み進めることさえ難しい。更にその二本を斜め向きに咥えている影響で、ちょっとでも歯に力を入れたらすぐ折れてしまいそうだ。だが向こうは当然ながらポッキーと垂直に顔面があるので、なんの憂いもなく食べ進められる。

 

 

「零先輩、全然動いてないけど大丈夫なのかな……?」

「いやぁ~斜め向きで二本も咥えてたら、噛んだらすぐ折れちゃうから動けないんだと思うよ~」

「でもこのままだとお三方がキスしちゃいますよ! 花帆先輩も綴理先輩も止まりそうにないです!」

 

 

 傍観者の方が赤面してるじゃねぇか……。

 

 俺が食べ方を試行錯誤している間にも、二人の食べ進めは止まることを知らない。徐々に徐々に俺たちの唇が近づく。必然的に顔も触れ合いそうな距離になるが、どちらもその瞳で俺の目をしっかりと捉えている。捕食する獣、とまではいかないが、例え恥ずかしくても中途半端なところでポッキーを折ったりはしなさそうだ。

 

 間もなく唇が触れ合う。

 まだ止まらない花帆と綴理。その様子を見て興奮に震える奴ら。そして俺は噛めば折れるので全く動けない。

 

 果たして、このゲームが行きつく先は――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 そもそもこの小説で季節イベントを描くことが少ない(あとで時系列を変えたいときに取り返しがつかなくなるのを避けるため)のですが、描きたい欲求はあるのでこんな形で実現させてみました。

 後編では夏と春のイベントをやります。小三角のメインはそこで!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。