ダンスも歌も威圧的で、バックに炎が燃え滾っているかのような錯覚を引き起こされそうになった。その結果多くのパフォーマンスポイントを稼いで勝利。対戦相手のライブも素人目線でそれなりのものだったが、相手を焼却しつくさんとする圧巻のライブには叶わなかった。アイツのライブは観客を大いに熱狂させ、ステージの近くにいたのだが鼓膜がはち切れそうだったぞ……。
俺は色んなスクールアイドルのライブを観慣れてるからこんなものだろうと思うだけだったが、この三人は違う。
目を丸くして絶句している。かつての仲間がここまで成長していることに驚いたのか、それともこれまでにない狂乱に満ちたライブに思考がバグったか。なんにせよ、これまで経験してきたスクールアイドルのライブではないことはその目で耳で、全身に染みて実感しているだろう。
天井に吊るされているモニタには、片城澄奈の勝利が表示されている。『Aランク』の試合だったらしいのだが、これはこの裏クラブでのコイツらの階級だろうか。てことは普通に考えれば最高ランクってことになる。そりゃこれだけ場をエキサイトさせられるんだ、これで下位ランクなんてことはないだろう。つまりアイツは裏クラブでのトップ。こりゃここから連れ戻すのはかなり難しそうだな。
~※~
三年ぶりの再会は一体どんな空気になるのかと思ったし、そもそも会ってくれるかも分からなかったが、意外にもあっさり控室に通してくれた。
光のステージに立つ梢たちが闇のステージに立つ自分に会いに来たってことは相当な理由があるから、ここで拒んでもコイツらは帰らないと思ったのかもしれない。なんにせよ門前払いをくらわなくて良かったよ。
ただ、本番はここからだ。流石に初対面の俺が説得するなんて無理だから、コイツらのやり方に委ねるしかない。
「澄奈、久しぶりね。まさかこんなところにいるなんて思ってもみなかったわ」
「本当に久しぶりだ。でも驚いたのはこっちもだよ。まさか君たちがここに来るなんて。まさかとは思うけど、このクラブのスクールアイドルになりに来た……ってことはないよね?」
「そんなわけないじゃん! それに質問したいのはこっちだよ。澄奈こそ、どうして裏クラブなんかでスクールアイドルをやってるワケ?」
「ボクたち、心配してたんだよ。ここのライブは独特で興味深くはあるけど、夢や希望、楽しさや輝かしさが一切ない気がするから……」
お互いに懐古しながらも、久しぶりの身の上話をするような団欒とした雰囲気ではない。別に一触即発なムードでもないけど、お互いに本題に切り出せない気まずい緊張が流れている。街でばったりとかだったらまだしも、こんなアングラな場所で再会したんだから無理はない。
「
「なるほど。だから私がここにいると知って、真意を問いただしに来たわけか。それにしてもよく分かったね、私がここにいるって。君たちみたいな光の道を歩む人間が、このようなふきだまりに来るなんて似合ってないからさ」
「私たちのバックに超情報通がいるからね。そしたらこんなところでスクールアイドルをしてるって知って、驚き桃の木だったんだから」
「卒業前に君の行方を知りたかったんだ。だからその人に君の場所を調べてもらって、そしてここに来たんだよ。あれだけスクールアイドルに情熱を注いでいた君が、どうしてこんなところにいるのか理由を訊くために」
「そうか……。たった一ヶ月一緒にいただけの奴を心配するなんて、随分とお人好しなんだな君たちは」
「期間なんて関係ない。あなたは
どうやら険悪な雰囲気ってわけでもないみたいだ。控室に通すだけ通して、拒絶してからすぐ退出させるみたいな可能性もありえたからな。少なくともこっちの話には乗ってくれるらしい。片城澄奈の様子から特に動揺したり冷静さを欠いていないように見える。だから変に話が拗れることも……ないといいなぁ。
「話を訊くより前に、この子は一体誰なんだい? 君たちに弟がいたとは聞いたことがないけど……」
「ボクたちの後輩だよ」
「えっ、だって蓮ノ空って女子高……」
「これには深い事情があるの! とにかく、今はこっちが問い詰めるターンだから!」
何も関係のないガキが紛れ込んでたら誰でも疑問に思うか。この地下に潜入する時もやんわりと断られたし、当然だけど観客内に子供はいなかった。そのせいで客たちから不審な目線を向けられて、かなり居心地が悪かったんだよな。
「スクールアイドルを続けていたことは嬉しいけどさ、どうしてこんな地下でライブをしてるワケ? だってここ、未成年を食い物にして賭け事をしてる非合法な場所でしょ? さっきのライブで儲けてる人もいたみたいだし、正直に言ってスクールアイドルが汚い娯楽に利用されて胸糞悪いんだけど!」
「そう思うのも無理はない。でもここが今の私の居場所なんだ。連れ戻しに来たのかは知らないけど、私はここを出る気はないよ」
「どうして? ライブならここじゃなくてもできるのに……」
「残念ながら私は表舞台で輝けるようなスターではなかったのさ。君たちみたいにね」
「どうやらここに居続ける深い理由があるみたいね。差し支えなければ聞かせてもらえるかしら?」
「いいよ。そうでもしないと君たちは意地でもここを離れなさそうだからね」
どうやらここからが本題のようだ。片城はこちらの事情を察して温和な応対をしてくれているが、ここから先はデリケートな話題になることが予想される。その場合、言葉選びを一つ間違えただけで相手の地雷を踏みぬく可能性があるため注意が必要だ。そのことは事前にコイツらに伝えてあるが、果たして平和にコイツを連れ戻すことができるのか。コイツらの過去の事情も知らない初対面の俺は安易に出しゃばれないから、コイツらの手腕だけが頼りだ。
「私は家庭の都合で蓮ノ空から転校した後もスクールアイドルを続けようと思った。ただ転校先はスクールアイドルが存在しなくてね、最初は諦めようかと思ったよ。でもたった一ヶ月だけど蓮ノ空での活動が忘れられなくて、苦労はしたけど学校の認可を得て活動することができたんだ。仲間も見つけてそれからしばらくはライブにも出ていたんだけど、大きく注目されることはなかったよ。それで徐々に仲間のやる気が下がって、いつの間にかグループは私一人になってしまった。ただ昨今はスクールアイドルブーム。そうやって辞めていく人たちはたくさんいる。私もその一人になるんだろうと、若干諦めかけていたんだ。それでもなんとか再起しようとがむしゃらになっていたよ、最初の一年間は」
「頑張ってたのは知ってたよ。ライブ配信をしてた頃は欠かさず観てたからね」
「そのときはかなり精力的に活動していたからね。でも二年生になってから、私の心境は変わった。結局自分の芽が出ることはなかったんだ。共にスクールアイドルをする仲間もいなかったからね。だからこそ強烈なコンプレックスを抱いたのかもしれない、君たちに……」
「ボクたち? 何かやっちゃった……?」
「いや、君たちは何もしていない。全ては私自身の弱さだよ。君たちが二年生、103期の活動を始めてから蓮ノ空のスクールアイドルは目まぐるしい成長を遂げた。新入部員が君たちの人生を大きく変えたみたいだね。正直に言って羨ましかった。転校せずに蓮ノ空に残っていたら、私も君たちと同じ素敵なステージに立つことができたんじゃないかって。君たちはライブもスクコネの配信も盛況で、対して自分はもはや光も当たらない影の存在。最初は同じ部に所属していたはずなのにどうしてここまで差がついてしまったんだろうと、思い悩むようになっていたんだ」
転校イベントが発生しなければ自分も同じ光を享受できたかもしれない、ってことか。どうしてアイツらだけと羨ましがったり嫉妬したりするのはよくある話だけど、コイツらが憎まれていないだけまだマシか。ただコイツらに敵意を抱いても仕方ないし、そもそも自分の今の境遇はコイツらの仕業ではないから、理不尽に敵意を抱いていないコイツはそれなりに大人なのだろう。
梢も綴理も慈も、黙って片城の話を聴いている。別に自分たちは何の関係もないことなのに他人事とは思えないのだろう。コイツらは一度仲が拗れた経験があるため、人との繋がりをより大事にしている。だからたった一ヶ月でも一緒にいた仲間の苦しみから目を背けられないのだろう。
「分かっているんだ、自分自身の問題であることくらい。でも私も大衆に注目されたかった。観客と共に盛り上がれるライブをしたかった。君たちが光の道を歩む中、私だけが取り残されている感覚。そのとき、ひょんなことから同じコンプレックスを抱く人たちのコミュニティを見つけたんだ。同じくスクールアイドルで己を満たすことができなかった人たちが集う場所。そう、裏クラブだ。ここでなら自分の実力がランクとして可視化され、観客と共に自分も熱狂できる。ライブ対決に勝てば勝つほど注目されるようになり、ファンも増えてより多くの歓声を浴びることができる。ここは私の寂しさを埋めてくれただけじゃない、再び情熱を与えてくれた場所でもあるんだ」
「話してくれてありがとう。あなたが転校してから、どのような気持ちでスクールアイドルを続けていたのかがよく分かったわ」
「世間のスクールアイドルとは全く別の方向性で活動しているけどね」
端的に言えば承認欲求が故の裏クラブへの参入か。同期のコイツらが大きく花開いたのにも関わらず、自分だけが一向に芽が出ないとあればそりゃ焦りもするか。自分のミスで大成しないのであればまだしも、あずかり知らぬところで決められた転校を強制されてしまったので余計に理不尽感が募ったのかもしれない。行き場のない惑いを褒められない方法で発散する。よくあることだ。教師をしていたからこそよく分かる。
「話は以上だ。満足したのなら早くここから出て行った方がいい。君たちみたいな光の人間がいるべき場所ではないからね。余計な詮索を続けるとタダでは帰らせてもらえなくなる可能性もある。下手をすると、裏クラブのスクールアイドルにならないと帰さないと脅しをかけてくるかもしれないよ」
「ただ話を訊きに来ただけとか、そんなのあるわけないじゃん! 私たちはね、説得して連れ戻しに来たの! だってスクールアイドルを食い物にしてる連中がいるステージだなんて、そんなのスクールアイドルじゃないよ! ぜんっぜんキラキラしてない!」
「そりゃそう思うよね君たちは。でも定義なんて個人が好きに決めればいいと思ってるよ。スクールアイドルの表現が多様なようにね」
「でもあなたも蓮ノ空にいた頃に沙知先輩に教わったはず。スクールアイドルたるもの、スクールアイドルの流儀を。ステージに立つ人も観客も、みんなが笑顔になる素敵な空間。スクールアイドルは夢を届けるメッセンジャー。情熱的に華やかに彩る舞台、それこそがスクールアイドルのステージたる所以。だけれど、ここはお金の匂いがする欲望が交錯しすぎているわ。彩の欠片もない。あなたが好きなスクールアイドルは、こんなに穢れたものだったの?」
「スクールアイドル同士が潰し合うみたいなこと、ボクは好きじゃないな。ここのライブは相手を蹴落とすためのもの。相手を徹底的に燃やし尽くして、たった一人の勝者を決める。『ラブライブ!』と根本は似てるけど、そこに至るまでの過程が全然違う。勝者は敗者の屍の上に立ち、敗者はただ這いつくばるだけ。さっき君に負けたスクールアイドルの子、ランクが降格になって大泣きしてた。観客からも怒号が飛んできて、もう見るに堪えなかったよ。ここでのスクールアイドルは弱肉強食、弱者にならないための生か死かの戦い。そんなのがスクールアイドルだなんて、ボクは認めたくない……」
各々が心に溜め込んでいた考えを吐き出す。この三年間で培ってきたスクールアイドル論を展開し、本当のスクールアイドルとはなんたるかを片城に連続で叩き込む。今年『ラブライブ!』を優勝した奴らからの発言は説得力があり、特に蓮ノ大三角と言えばスクールアイドル界隈に轟く名前のため、コイツらのありがたいお言葉とあれば感銘を受ける奴も多いだろう。
俺からしても、コイツらの持論は間違っているとは思わない。コイツらだから辿り着いた極地というより、スクールアイドル経験が豊富な奴らなら誰しもが辿り着ける普通の考えだ。今の花帆たち二年生どころか、吟子たち一年生でも同じ回答を出すだろう。だからコイツらの発言に粗はない。
だが、説得の内容として正解かと言われたら――――
「そうか。だったらもう話すことはない。帰ってくれ」
「はぁ!? あんた沙知先輩から何も学ばなかったの!? 仮にも一年は表舞台にいて何も感じなかったの!? 今やってることがスクールアイドルだなんてありえないから! そりゃプレッシャーがあったことは同情できるけどさ、だからといってスクールアイドルを戦いの道具にするのはおかしいじゃん!」
「ボクは君がここでのライブと共に燃え尽きようとしている、そう感じたよ。そんなの絶対にダメ。だから見逃すことなんてできない。もう誰一人として仲間を失いたくないから……」
「あなたの苦労が間違った道を歩ませているのは承知しているわ。だからこそ卒業前の今、心機一転その道を正すべきではないかしら。ここでスクールアイドルをやるのは普通ではない。あなたは汚い大人たちの娯楽に利用されているだけなのよ」
「あまりこういう言葉を使いたくなかったんだけど、全く理解できていないようだから言うしかないみたいだ。所詮、君たちに私の気持ちは分からない。君たちもこの三年間で苦労してきたことあると思うけど、やはり『ラブライブ!』の優勝者、結局は勝者は敗者の気持ちなんて分からないんだ。努力は実るとか、親ガチャはないとか、無責任なことを言う人たちと同じだね」
梢と慈は表情を更に強張らせ、綴理はより怪訝な顔になる。片城はコイツらが自分の気持ちを分かっていないと言ったが、それはコイツらからしてもそうだろう。決して交わることのない心にお互いにどんどん疑心暗鬼になっていく。まだ話し合う前の方が片城を連れ戻せる可能性が高かったが、完全に地雷を踏みぬいてしまった今、その確率は限りなくゼロになってしまった。
「澄奈、聞いて。スクールアイドルというのは――――」
「もう帰ってくれと言っているだろう! 私はAランクのスクールアイドル。つまりは数少ない最高ランクなんだ。だからある程度の権力がある。屈強なスタッフを呼んで君たちを強引に摘まみ出し、未来永劫出入り禁止にしてしまうこともできるんだ。怪我をしたくなければ何も言わずに立ち去ってくれ。さぁ早く!」
「ちょっと待って! 話はまだ――――」
「そこまでだ。帰るぞ」
「れい? どうして……?」
「これ以上は身の危険があるからな。それに、今のお前らじゃこの事態を解決するのは無理だ」
「君は梢たちよりよっぽどしっかりしてるね。まだ子供なのに。君が説得をしてくれたら少しは考えたかもしれないよ」
「あっそ」
どうでもいい冗談をかます片城澄奈。ただそれだけまだ心の余裕があるのだろう。もちろんいつ爆発してもおかしくないし、そうなったら今後一切コイツらとコンタクトを取らなくなると思うので、導火線をチラつかせているこの段階で退散した方がいい。
~※~
連れ戻すどころか無駄に関係を拗らせてしまう結果となった。あの場で俺がどうにかできたわけでもないので仕方ないところもあるが、それでも失敗は失敗だ。
控室から出て、人通りが少ない廊下の踊り場に移動する。
部屋ではコイツらもかなりヒートアップしていたが、移動する間に冷静になったのか今の表情にはやや後悔の色が見え始めていた。
「あれだけ言葉選びは慎重にって言ったのに、まんまと地雷を踏みやがって。向こうは拒絶する立場だから言いたいことを言ってくるけど、こっちもそれに対抗してどうすんだよ」
「ごめん、なんか熱くなっちゃった……。いつもみたいに調子が出なくって、なんでだろ……」
「
「ボクたちはスクールアイドルの魅力を知ってほしかっただけなのに、なんでこうなったんだろう……」
いつものコイツららしくないと言えばそうだった。この三年間で培ってきた経験は間違いないのに、それでも相手を納得させることはできなかった。言い争いになったことに後悔はすれど、何がダメでここからどうするかは全く想像できていないようだ。
「お前らの持論は間違っちゃいないよ。それがお前らの中で作り上げてきたスクールアイドル論で、他のスクールアイドルたちからしても納得できる内容だ。もちろん俺もな」
「じゃあどうして澄奈は……」
「間違ってはいないけど、それが正しいとは限らないってことさ。アイツはアイツのスクールアイドル像があって、お前らはお前らの考えがある。お互いにそれを叩きつけ合ったら衝突するに決まってるだろ。お前らの中でのスクールアイドルってさ、ああやって誰かの想像を捻じ伏せて、自分たちが作る世界に相手を幽閉することなのか?」
「そ、それは違う! ボクたちはみんな笑顔で……あっ!」
「そうだ。さっきお前らは自分のスクールアイドル像を武器にしていた。この三年間で色々あったらしいけど、苦労したからこそ自分の行き着いたスクールアイドル像に自信を持ってるんだよな。だから武器にしちゃうのも無理はない。でもお前らの目的は、その武器で相手の気持ちごとまとめて突き刺すことじゃないよな?」
「うん、そうだね……」
ここまでの道のりが長く険しかったからこそ、自分の持論への信頼がより強くなる。だから知らず知らずのうちに自分の考えは正しいんだと思い込み、相手に強要させてしまう。経験者だからこそ陥りやすい傾向だ。だから片城に悩める人の気持ちが分からない、って言われてしまったんだ。
「お前らは三年間で大きく花が咲いて成長したけど、その過程で失ってしまったものがある。それを取り戻す時が来たみたいだな」
「自分の中で理想が固まり過ぎていて、それ故に相手の本心を汲み取れなかった。そんなことは今までなかったから、
「お前らの中でスクールアイドルってのはさ、自分の気持ちを相手に押し付けることなのか?」
「うぅん、違う。みんなで同じ夢を見て、同じ情熱を感じること」
「澄奈にはそれも違うこれも違うって、単に私たちの理想を押し付けてるだけだったね……」
悔いのない卒業を迎え、蓮華祭の準備も滞りなく、蓮ノ空を去るのを待つだけのコイツらにとって、もはや悩みなんて一切ない。来年度からの新天地でまた成長することはあれど、高校生活での成長はカンストしている。だからこそ自分に自信を持っており、だからこそ持論が押し付けがましくなる。凝り固まった自信は時にして軋轢を生む。今がまさにその時だ。
「ここは一旦出直した方がいいのかしら? 追い出されてしまって、向こうも顔を合わせたくないでしょうから……」
「いや、撤退はしたけど逃げるつもりはねぇよ」
「あれ、そうなんだ」
「いくら事情があるとはいえ、こんな非合法なスクールアイドルは公式が当然認めるはずがない。もちろんここを壊滅させるなんて無茶はしないけど、お前らの考えくらいはアイツに伝えられるんじゃないか。それでアイツがここから抜ける気になれば道を正すことができる。私情がなんであれ、犯罪の臭いがする場所に未成年を拘束するわけにはいかねぇからな。それにさっきも言ったけど、お前らの考え自体は間違ってないんだから、逃げ帰る必要なんてねぇよ」
それはそれ、これはこれ。片城の個人的な事情は別として、担いでいる犯罪の片棒は撤去する必要がある。俺たちだけでは裏クラブのスクールアイドル全員を解放することはできないが、アイツ一人くらいならなんとかなるだろう。事情が事情だからって、賭けライブに加担していい理由にはならないからな。
「控室からは追い出されたけど、幸いなことに会場からは摘まみ出されてない。つまりまだ打つ手はいくらでもあるってことだ」
「澄奈に会う算段があるのかしら?」
「でもボクたち、次はどんな言葉で伝えればいいのかな……? まだ全然考えつかないよ」
「何言ってんだ。伝え方は言葉だけじゃない。スクールアイドルがスクールアイドルに向けて気持ちを届ける。その一番の方法は……分かるだろ?」
「ライブ! 私たちのライブだ!」
慈の叫びに梢と綴理も全てを察したようだ。
そう、言葉で伝えても平行線になるだけ。特に向こうは臨戦態勢だから、言葉では心に響かせるどころか受け入れてすらもらえないだろう。だったらスクールアイドルとして手っ取り早いのがライブ。歌詞やメロディに気持ちを込め続けてきたスクールアイドルであれば、その音に感情を乗せられる。同じスクールアイドル相手ならこれほど有効な手はないだろう。
「でもちょっと待って! 私たち衣装もライブ音源も何も持ってきてないんだけど!」
「秋葉が言ってただろ。欲しい物があればこのスマホで連絡しろって。物を物理的に送ることができるってな」
「そっか。それでボクたちの衣装を送ってもらえば……」
「もしかして秋葉先生、この展開を予想していたのかしら……?」
「さぁ、どうだろうな。とにかく、話をするなら相手と同じ土俵に立つことだ。地下ライブで結果を出して、注目が集まればアイツもお前らを無視できなくなる。アングラの勝負にお前らを立たせるのは不本意だけど、今はこれしか手がねぇからな」
「えぇ、問題ないわ」
「ここの運営に加担するのは癪だけど、むしろ本場のスクールアイドルの力を見せつけるチャンスじゃん!」
「うん、頑張ろー」
ここからのアクションは決まった。
さっきは言葉で伝えることに失敗したけど、今度はコイツらの得意分野で勝負。ライブとなればコイツらの独壇場だ。
ただこの状況に適した新曲があるわけでもないし、ライブ対決をするにせよ完全にアウェーだ。
だけどコイツらならやってくれそうな気しかしない。自分の信じるスクールアイドルのため、死力を尽すときだ。これがコイツら三年間の最期の試練になるかもな。
To Be Continued……
個人的に私なりの大三角の集大成を描きたかった、という回になっています。アプリの活動記録でも大三角が合流して時事ネタ的にもちょうどいいですね!
この小説で大三角がメインになるのはこの104期編が最後になるので、この章が終わるまでにたっぷりと活躍の場を描いてあげるつもりです!
次回は解決編です。