ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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葛藤、それでも愛してる(前編)

 百生吟子です。

 今日は土曜日で休日だったけど、蓮華祭の準備の追い込みのため全員が馬車馬のように働いた。そのせいか小鈴も姫芽も、先輩方もぐったりとした様子を見せ、夜になるとみんな自室に引きこもってしまった。恐らく既に就寝していたり、自分の好きなことをしてゆっくりしているんだと思う。

 

 そんな中、零先輩だけはまだ忙しくしている。実は蓮華祭の準備の中で一部作業工程に結構な誤りがあったらしく、運営委員や生徒会だけでは計画の修正に手が回らないので先輩に白羽の矢が立った。先輩は陣頭指揮も取れるし現場でも活躍できるオールラウンダーで、蓮ノ空の生徒なら誰しもが知っていること。だから椎菜生徒会長が直々に依頼して先輩が引き受けた。

 

 そのようなことがあったから、先輩は今も自室で作業をしているはず。恐らく夜も遅くまで起きている。昨日はスクールアイドルの裏クラブの事件を解決したばかりなに、相変わらず先輩は忙しいな。

 

 ちなみに私は何をしているのかと言うと、先輩のためにコーヒーを淹れているところだ。特に頼まれたわけじゃないけど、いつもあんな小さな身体でオーバーパフォーマンスを発揮する先輩を見ているとどうしてもお世話をしたくなってくる。さやか先輩のお世話癖がこびり付いてしまったのかも……?

 ただ義務感とか、仕方ないからお世話をするなんて感覚は一切ない。先輩方が言っていた。零先輩と一緒にいると自然と給仕になってしまうって。先輩がご主人様気質なのもあるかもしれないけど、それ以上に常に前線に立って奮闘する姿を見て、女性側が『この人を支えてあげたい』という献身欲を抱くのが一番の理由だと思っている。この人だったら仕えてもいい、そう心に決めさせるくらい先輩は偉大な存在だ。

 

 その影響をもろに受けている私。零先輩と出会った当初は警戒しすぎるほどに警戒していたのに、今となっては常に隣にいたいと思ってしまうほどに心を奪われてしまった。でも先輩は秘密の目的を達成したらこの学校から去ってしまうらしい。だからそれまでに私ができることはやってあげたい、そう決めている。

 

 実は先輩にコーヒーを淹れることもやりたいことの一つだ。

 先輩ってその時々によって好みが変わって、梢先輩が淹れる紅茶も同じで決まった味や淹れ方を好むわけではない。だから先輩に対して嗜好飲料を提供する場合、その時の気分や状況を慎重に見極める必要がある。非常にデリケートだけど、それを上手く読み切った上で先輩に満足してもらえたら喜びはひとしおだ。

 

 

「よし、完璧……!」

 

 

 今の先輩の置かれている状況や心情を鑑みて、私なりに満足のいくコーヒーが淹れられたと思う。先輩とは出会ってまだ三週間で、こうして好みのコーヒーを淹れるようになったのは更に最近。でも先輩の様子を観察するようになってからは、あの人の好みが大体察せるようになっていた。

 

 コーヒーカップをトレイに乗せて先輩の部屋の前に到着する。忙しいと言われて門前払いされたらどうしようとか考えちゃうけど、何もせずに引き返す方がよっぽど損だ。

 

 

「先輩。吟子です。コーヒーを淹れたんですけど、いかがですか……?」

 

 

 夜の静かな家の中、そこまで大きな声を出していないのに、私の声が家中に響き渡ったような感覚だ。

 緊張の中、部屋の中から先輩の声が聞こえてきた。

 

 

『サンキュ。入ってくれ』

「はい。失礼します」

 

 

 許可を得られたので先輩の部屋に入らせてもらう。

 まず目に飛び込んできたのはパソコンの画面に映し出されている電子資料。2画面を使っても画面を埋め尽くすほどの文字、グラフ、地図に目が回りそうになる。私は梢先輩ほどではないにせよパソコン関連は疎いから、自分だったら30分もしないうちに頭が沸騰しそう……。

 

 

「お疲れかなと思ったので、コーヒーを淹れてきました。お邪魔だったらすみません……」

「いや全然。そろそろ休憩しようと思ってたところだ。まあもうすぐ終わるんだけどな」

「え、もう終わりですか? 生徒会長から依頼された時は、今晩は徹夜だからその分の報酬を寄こせって言ってたのに……」

「仕事ってのはな、、大した量じゃなくても時間がかかるって愚痴るもんなんだよ。でないと今後も都合良く使われるだけだからな」

「勉強になる……って言ってもいいのでしょうか……」

 

 

 確かに先輩は色んな人から色んなことを頼まれるから、程よくセーブしたり遠慮する態度を見せる必要があるのかもしれない。際限なく仕事を受け入れてパンクするようなお人好しではないにせよ、依頼を断って相手を残念がらせるくらいなら、最初から門前払いをする態度を取ることも重要らしい。ただ小鈴も姫芽も、先輩方も結構容赦ない気がするけど……。

 

 

「あ、コーヒーを淹れてきました。どうぞ」

「ありがとう。じゃあいただくよ――――――うん、美味い。今の俺好みだ。よく分かったな、甘めの気分だって」

「頭を使って糖分が不足していると思ったので。それでももしブラックがいいなんて言われたら、本当にどうしようかと思いましたけど……」

「お前はもう十分神崎零検定を合格できるラインにいるよ」

「それは喜んでいいんですか……?」

「当然。だって花帆なんて梢の影響で紅茶を淹れる練習をしてるけど、未だに俺の好みに合うようには淹れられないからな。その点、お前は最初からいい腕だったし、これで俺の残りの生活も安泰だな。こうして美味い紅茶やコーヒーを淹れてくれる奴が隣にいるんだから」

 

 

 先輩の無邪気な笑みに思わず心が高鳴ってしまう

 さやか先輩も言っていた。いつもはクールでカッコいいのに、美味しい料理を食べている時は子供のようにあどけない。そういうギャップに姫芽の言葉を借りれば『推せる』。もうこうして満足してもらえただけでも夜遅くまで起きていた甲斐があったというものだ。

 

 

「それにしても珍しいな。お前が俺の部屋に来るなんて。最近は小鈴と姫芽がよく来るんだよ。大した用事もないのによ」

「二人共、外でも先輩との距離が近くなりましたよね。先輩と一緒にいるとずっとニコニコしてるし……。まああの二人は人と距離感を縮めるのが上手なので、それだけ先輩が好きだってことだと思うんですけど……」

「ま、色々あったしな。それに迷惑とは思ってないから、俺としてはむしろ歓迎だよ」

「そうなんですか? 先輩方も割と容赦なく先輩に絡みに行ってるし、やっぱり私も……」

「ん?」

「あ、いえ、なんでも!」

 

 

 小鈴や姫芽を見ていると、誰の目からしても零先輩のことが好きなんだなと分かる。もちろんその好きは尊敬以上に異性として。それは先輩方も同じだ。一つ屋根の下で一緒に暮らしているからこそよりその想いがこちらにも伝わってくる。

 

 ただそんな中で、私は先輩との関係があまり進展していないような気がする。

 当初目的を隠して女子高に編入する男性生徒ってことで警戒レベルは高かったけど、今ではこうして部屋で二人きりで話せるほど仲良くはなっている。でもそれだけだ。流石に小鈴や姫芽みたいに抱き着いたりしようとは思わないけど、それでももっとこの関係を進展させたいとは思っている。先に零先輩と出会っていた先輩方と比べても仕方ない。だけど小鈴と姫芽とは先輩との距離の差で大きく引き離されていて、相変わらずの自分の弱さに葛藤せざるを得ない。

 

 もちろん二人と競い合うつもりは全くない。零先輩は全てを受け入れると宣言している。私たち9人どころか、それ以上の人数でさえ全員を幸せにできる器がこの人にはある。

 だから関係性を進展させられないのは私のせい。そりゃ小鈴と姫芽みたいな積極性はないし、そもそも人と話すことが得意なわけでもない。スクールアイドルを始めてから後ろ向きな性格を少しは治せたけど、流石に恋愛は未経験すぎて立ち往生してしまっている。スクールアイドルを始めた時の自信のなさもそうだったけど、新しいことを始めるのにまず抵抗感を抱いちゃうのはなんとかしたい性格だなぁ……。

 

 

「もし仮になんですけど、私も先輩の部屋に頻繁に遊びに来たとしたら……迷惑でしょうか?」

「いや全然。俺があとどれだけここにいられるのかも分からないし、帰る前にお前らと思い出作りできるならそれに越したことはないよ」

「だから小鈴と姫芽が突撃してきても歓迎なんですね。そっか、歓迎か……」

 

 

 私も先輩のことが好きだ。最初は尊大で横暴な人だと思って警戒してたけど、大きな事件、主に山でのサバイバルや夢を見る楽譜の出来事を経た結果、先輩に対する見方も変わった。私は引っ込み思案な性格だから、花帆先輩みたいに無理矢理にでも手を引っ張ってくれる人に惹かれるんだと思う。そして、零先輩こそまさにその要素を満たしている。

 零先輩はあのリーダー気質のある花帆先輩すらも率いる力を持ち、それでいて常に前線に立って私たちに背中を見せてくれる。決して自分だけ奥に引っ込んで指令だけ出すような人ではない。だから先輩と一緒にいるとどんな困難でも安心感が得られるのと同時に、共に過ごす時間が増えるので女心も自然とときめく頻度も多いのだろう。

 

 私はそんな先輩のカッコいい姿を見るたびにドキドキしていた。もはや大きな事件なんて関係なく、普段の日常でも先輩を目で追う時が増えた。周りを鼓舞する勇気、光を照らす希望、一体感のある絆。先輩と一緒にいると後ろ向きがちな私でも常に前向きでいられる。

 年下だけど先輩、ちょっと歪な関係。でもそんなことは関係ない。私はそんな勇ましい先輩のことが好きになった。私の弱点を補ってくれる、なんて打算的な『好き』でもある。ただそれ以上に一緒にいて楽しいって方が大きいかな。好きな人といる時間が楽しいなんてとても単純な想いだけど、自分で自分を気難しいと思っているこの私がここまで惹かれる男性が出現した。これはもう運命と言っていいのかもしれない。

 

 

「やっぱお前は小鈴や姫芽みたいにグイグイは来られないか」

「えっ、なんですかいきなり!?」

「いや顔に書いてあるって。それで気付かねぇ方がおかしいだろ」

「そう、ですね……。はい、今の私ではあの二人みたいに積極的になれないと思います。ただ、そうであったとしても先輩との時間をもっと作りたいです。引っ込み思案の私と積極的になろうとする私で葛藤が起きています。先輩と一緒にいると楽しいと思える中で、ドキドキしすぎたり緊張してしまったり、恥ずかしいこともあったりと、プラスとマイナスの感情が互いに打ち消し合って立ち止まってしまうんです……」

 

 

 これが私の弱いところだ。恐らくこの先もずっとこの性格とは付き合っていく必要がある。なにか急ぎで決断を下す場合、今みたいにグズグズしてたらダメなんだよね。先輩といられる時間が残り僅かだからこそなおさら。

 

 

「焦らなくても、自分の会いたいときに会いにきていいんだぞ。お前は自分のことを卑下して積極性がないとか言ってるけど、別に無理に治す必要はない。そもそもお前、わざわざコーヒーを淹れてきてくれたじゃねぇか。しかもこんな夜に一人で。だから俺はお前が意気地なしとか、そんなことは一切思ってない。俺のことを想ってくれる気持ちは誰にも負けてないんだから、自分の負の面を見るよりプラスな面を見ないとな。そうしないとストレスで潰れちまう」

「今の私のまま、先輩に会ってもいいんですか?」

「もちろん。それに弱くてもいいじゃねぇか。昨日梢たちの同期を迎えに行った時もそうだったけど、弱いからってそれに絶対に克服しなきゃいけないってこともない。お前の場合は周りにフォローしてくれる仲間がいるだろ? それにお前だって仲間の弱点をカバーしてる。そうやって持ちつ持たれつの関係なんだよ仲間って。誰かが助けてくれるって考えれば、ちょっとは前進しやすくないか?」

「確かに、それはそうかもしれません」

「今この場合だって、俺がお前の弱みにつけ込むようなことをすると思うか? お前が信じる俺は相手を楽しまることに長けた奴だ。だから仲間を、想い慕う相手を信じてみろよ」

「先輩……」

 

 

 先輩から励ましをもらって安心した。そう、なんだかんだ迷いつつも私もそのことは理解していた。だけど相手からお墨付きをもらうまで一抹の不安は消えないことが、私にはよくある。自分でも分かっているんだけど相手から言ってほしいみたいな、ちょっと、いやかなりワガママでイヤな性格だ。

 でもそうだとしても、先輩と一緒にいられる時間が増えるのであればそれでいい。どんなワガママだろうが、先輩が微笑みかけてくれる空間に一緒にいられるだけで幸せなのだから。多少強引でも不安に駆られたまま立ち往生するより全然マシだ。

 

 先輩に心の内を晒すことができて、少し気持ちが軽くなった気がする。コーヒーを淹れているときはやる気に満ち溢れていたのに……。

 もしかしたら、先輩に喜んでもらいたいと緊張すら忘れるほどの想いが昂れば、小鈴や姫芽みたいな積極性が発揮できるのかもしれない。

 

 だとすれば――――

 

 

「先輩、お出かけしましょう! 今から!」

「今から!? こんな夜に街に出ようってのか?」

「いや流石にバスなしでそれは危ないので、学校の周りを散策するくらいですけど……。でも絶対に思い出に残ると思うんです。先輩と二人きりで校則破りの外出だなんて、とてもワクワクしますね!」

「発破かけたら悪い子になっちまったか」

「弱点はカバーしてくれる。ですよね?」

「それは曲解し過ぎな気が……。まあいいや、じゃあ残りの作業がもう少しで終わるから待っててくれ」

「はい、それでは着替えてきますね」

 

 

 結構唐突な依頼だったけど、先輩は快く承諾してくれた。

 確かに私らしくない攻め方だったかもしれない。でも弱点を抱えたままでもいいとアドバイスされたとき、私の中で少し吹っ切れたような気がした。小鈴と姫芽が先輩と仲良くなる中で私だけが置いていかれていたけど、多分この遠慮はするけどし過ぎない程度の積極性が二人にはあって私にない物だったんだ。

 

 それを手に入れた今、私だって先輩との距離をもっと縮めてみせる。

 先輩が秘密の目的を果たして蓮ノ空からいなくなる時は、私の予感だけどそろそろやって来る。それまでに好きになった先輩ともっとたくさんの時間を共有しないと!

 

 そのためには気分を上げないといけない。私も、そして先輩も。

 だったら私が着ていく服、それは――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 恋愛に積極的な吟子が見たいと、実はこの104期編が始まる前から思っていました。なので念願の吟子イケイケ回が描けそうでテンションが上がってます!
 自分の押しが弱いと嘆く彼女ですが、過去にはもっと恋愛クソ雑魚ちゃんたちがいたので、私たち目線からすれば全然気にすることはないですね! むしろ強者側だと誇ってもいいくらいな……


 次回は零視点で吟子個人回の後編です。
 彼女のスクールアイドル病も遂に決着……?
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