一年生たちのスクールアイドル病を治療したことで、俺が蓮ノ空に再転入した目的を果たすことができた。今回もスクールアイドル病とは全く関係のない事件に巻き込まれたりして大変だったけど、結果的に体調不良者が出る前に事を済ませられたから良かったよ。おかげで女の子の笑顔を守るという、俺の信念も貫くことができたしな。
吟子のスクールアイドル病を治した翌日、秋葉に呼び出されて理科実験室へと来ていた。
そういやコイツ、蓮ノ空に来てからは目立った行動をしてないよな。持ち前の発明で俺たちを面倒に陥れることはなく、むしろ事件が起きた際には積極的に協力してくれる。これが飴と鞭の飴ってやつか。次に何かやらかす時、蓮ノ空ではずっと味方だったから多少のやり過ぎは見逃してもらおうって策かもしれない。それともスクールアイドル病がそれなりに未知の病気で油断できないから、警戒のために自分から波を立てないようにしていたとか。なんにせよ、コイツのおかげで救われた奴もいるし、俺はとやかく言える立場でもないけどな。夢見る楽譜の事件とか、瑞河の事件ではコイツなしでは解決できなかっただろう。
「三人のスクールアイドル病を治すまでに約三週間。君にしては時間がかかったね。前回は6人を三週間で完治させたのに」
「こっちだって色々苦労したんだよ。そのほとんどが関係のない事件ばっかだったけどな」
「女の子の尊厳に拘らなければ一日で解決できるのにね。あの子たちの命が危なかったのに、結構悠長にしてた気もするけど?」
「確かにそうだけど、俺は女の子を同意なしに脱がすことなんてできねぇよ」
「思春期の頃は性欲魔人だったのに立派に成長しちゃって……。ま、今はまた子供に戻っちゃってるけどね!」
「それはお前のせいだろ……」
そういや今の俺って子供なんだった。もうこの姿がデフォルトとして固定されつつあるの、人間の慣れって怖すぎるな。もう元の姿に戻らなくても不自由なく生活できるくらいに俺がこの身体に馴染んでしまっている。
そしてこんなことになった原因はコイツだ。さっき秋葉が蓮ノ空で面倒事を引き起こさないって言ったが、この姿にした元凶がコイツだってことすら忘れてたよ。
ただ、子供姿だからこそ花帆たちと打ち解けるまでが早かったのではと思う。大人のままでは歳の差でアイツらも多少萎縮すると思うが、この姿なら生意気なガキ扱いされるから遠慮されることもない。生徒同士という同じ立場でもあるから、結果的にはガキの姿で転入したのは正解だったかもな。大人として教師やコーチの立場だったら、生徒同士の立場よりもアイツらと日常的に会うことも少なくなる。秋葉はそこまで見越していたのかもしれない。
「まあ私は君に仕事を請け負ってもらってる立場だし、スクールアイドル病を治療さえしてくれればその過程はどうでもいいんだけどね。現にこうして役目を無事に果たしてくれたわけで、私としてはこれ以上にない結果だよ」
「だったら遅いとか言うなよ……」
「言ったでしょ。君の助けを待っている子はたくさんいるって。だからあまりダラダラされても困るんだよねぇ」
「それって、どうしても俺じゃないと解決できないことなのか? お前ほどの天才ならどうとでもなるだろ」
「全知全能ってのは案外つまらないものなんだよ? それに知ってると思うけど、私は君の活躍する姿が見たいの。それだけが生きがいなんだから」
だろうな。そうでなきゃ俺の奔走する姿を見るためだけに施設に炎を放ったりしない。もしかしたら過去に起きた事件も俺が知らないだけでコイツのマッチポンプだった可能性もある。もしかしたら今回のスクールアイドル病も可能性がゼロではないかも……?
「俺を待ってる奴がいるにせよ、こっちにはまだやるべきことがあるんだ。だからまだ
「零君ってば随分とみんなに気に入られちゃって。確かにあんなに好き好きオーラを発してる子たちに対して、スクールアイドル病を治してすぐ『はい、さよなら』なんて言えないか。向こうは君に並々ならぬ愛情を抱いてるわけだしね。恋愛感情を植え付けるだけ植え付けて後はさよなら~って、ヤリ捨てもいいところだし」
「言い方はアレだけど、まあそういうことだよ。まだ1 on 1で心の内を吐き出していない奴がいる。ただソイツらはもう決心してるみたいだから、あとは二人きりの時間を作るだけだ」
特に梢、綴理、慈は蓮華祭が終わったら蓮ノ空を離れてしまう。一生涯の別れではないけど、散り散りになってしまえば会える機会は蓮ノ空にいるときよりも減ってしまうだろう。だったらここにいる間にアイツらが抱く想いを満たしてやる必要がある。全ての決着を果たしてからでないと俺も蓮ノ空から去ることはできない。目的はスクールアイドル病の治療だけど、俺としてはそれよりも女の子からの想いに応え、こちらからの気持ちも伝えることの方が終着点だ。
「なるほど。子供の姿になっても、女の子からの好意に真摯に向き合う姿勢は変わってないか」
「あぁ。だから前みたいに寝ている間に連れ出すとかやめてくれよ」
「そんなことしないって。でもあの子たちに悔いは残さないように。君はまたここから離れる運命だから、あの子たちが名残惜しさで押し潰されないように心のケアは万全にしてあげないと」
「もちろん、分かってるよ」
どうやら俺の意向を無視して次の現場に連れていく、なんて暴挙に出ることはないらしい。蓮ノ空の初転入時や瑞河の事件に巻き込まれた時、どちらも寝てる間に勝手に連れ出しやがったからな。ただ俺と女の子たちが結ばれることについては、コイツも容認して推し進めてくれている。たくさんの女の子と繋がることも俺の活躍の一種だから、コイツからすれば周りに女の子が増えることも俺への期待の一つなのかもしれないな。
~※~
蓮華祭の準備もいよいよ大詰め。
花帆たちはスクールアイドルの練習もあるので超忙しく、毎日忙しなく働いては休む間もなく練習。そのせいか、夜になると疲れているのか早めに寝ることが多い。もうすぐ俺がここを離れそうなことはアイツらもなんとなく察してるっぽく、俺と一緒にいる時間を増やしたいと思っているそうだが、現実こうも忙しいと中々暇を見つけることもできない状況だ。幸いにも同じ家に同棲しているから、会話するタイミングくらいは全然あるけどな。ただある程度まとまった時間がないとお互いの気持ちに向き合うことも難しい。もっと早めに行動すれば良かったんだけど、スクールアイドル病の治療が優先だったからな。無駄に事件にも巻き込まれるし……。
そんなことを考えながら廊下を歩く。秋葉にいきなり呼び出されたから準備を途中で抜け出してきたんだよな。早く戻らねぇと椎葉にまたグチグチ言われちまう。
急ぎ足で戻る中、何者かが俺の背後にもたれかかってきた。
「誰だ!?」
「せんぱ~いっ! いつになく不用心じゃないですか~?」
「姫芽……」
「おおっ! 相変わらず抱き心地サイコーですね~。最近ちょっと疲れ気味なんですけど、れいくんせんぱい分を補充して一気に元気になったかもです!」
「んだよそれ……」
俺を襲ってきたのは姫芽だった。コイツ、俺が悩みを解決してやってから身体接触が妙に多くなりやがった。最初からそれなりに好意的ではあったものの、以前コイツの気持ちを受け入れたことで心理的な距離がほぼゼロになったのだろう。隔てるものは何もなく、周りの目すらも気にせず俺への想いを見せつけている。
「もう姫芽ってば、先輩が困ってるでしょ!」
「え~? だったら吟子ちゃんもやってみれば? 日頃の疲れが吹き飛んじゃうよ~!」
「そ、それは願ったり叶ったりだけど……って、違う違う! 先輩に迷惑だって話だから!」
「徒町も師匠に元気もらってるよ! たまに!」
「小鈴もやってるの!? もしかして、やってないのって私だけ……!?」
「今度吟子ちゃんにも貸してあげるよ!」
「俺は人形かよ……」
俺の背は瑠璃乃や小鈴よりも低いから、後ろから抱きしめられたら必然的に包み込まれる形となってしまう。力もガキ相応に下がってるから、普段から鍛えているコイツらにパワーで抵抗できるはずもなく、ただされるがままになっているのが日常だ。体力も切れやすくなったし、ガキの姿になって一番困ってるのは実は身体能力の低下だったりする。
「れいくんせんぱいに抱き着くだけで、一日に必要な栄養素を全て摂取できるからね~。完全栄養食すらも凌駕する、せんぱいさえいればもし世界が食品危機に陥っても大丈夫かも」
「師匠に抱き着くだけで、酔いそうなくらいのエネルギーが五臓六腑に染み渡るよ! これで夢心地に浸るように有頂天になって、気付いたらベッドで爆睡できるほどの脳内麻薬!」
「身体にいいのか悪いのかどっちなん!? と、とにかく、そこまで凄いのなら私も……」
「えっ、いま?」
何故か吟子の目が捕食者の眼になる。姫芽と小鈴が裏でこっそり俺とじゃれていたことに嫉妬しているのか。そういや昨晩俺の部屋に来たとき、俺との関係の進展が二人より遅れているかもって悩んでたっけ。結局自分のやりたいように、自分なりに積極的に攻める姿勢を持つことで解決したけど、まさかこんな廊下でやらかすのかコイツ……?
既に廊下をすれ違う生徒からは微笑ましい目で見られている。俺が女の子とじゃれあう姿は日常茶飯事なので、もはや廊下の真ん中でうるさくしてようが気にしてないのだろう。それが認めらてるポジションもどうなんだ……。
「こらこらおチビちゃんたち! 大衆の面前で破廉恥行為は禁止だよ!」
「めぐちゃんせんぱい!?」
「綴理先輩に梢先輩も!?」
「おチビちゃんって、私と姫芽は慈先輩よりも背高いんですけど……」
「細かいことはいーの! 人目を気にせずイチャコラしてるってところが子供っぽいんだよ」
廊下のど真ん中でやいのやいのしていたら先輩ズも合流した。
てか慈の奴、俺を含めコイツらのこと子供とか言ってるけど、自分だって振る舞いがガキっぽいことが多々あるぞ。結局卒業するまでずっと勉強をあらゆる手で拒み続け、多種多様なワガママで乗り切ったらしい。これはほんの一例で、他にも挙げればたくさん出てくるだろう。そういうところだよ、子供っぽいの。
「すずたちはここで何をしていたの?」
「零師匠を吸い込むと、酔っぱらって天に召されそうって話です!」
「れいくんせんぱいを食べると、健康的になり過ぎて不老不死になるって話です!」
「言っていることが真逆のようだけど……。それに吸ったり食べたりって、廊下でそんな猟奇的な話を……?」
「違います梢先輩! 零先輩に密着すると活力が貰えるよねって話を二人が大袈裟に表現しているだけで……!!」
「なるほど、そういうことだったのね」
「ボクもその気持ちが分かるよ。零を抱き枕にして寝ると、心地よくていつもより2時間は長く寝られるから」
「その時の綴理ってさやかちゃんが起こしても起きないから、寝心地は相当なんだろうね……」
なんか俺を玩具にする流れになってないか? ガキだから抱き着きやすいのは事実だが、確かに最近はよく身体接触をよく受ける。同棲しているからかハードルもなければ遠慮もないらしい。まあ男からすれば得する展開なのだが、子ども扱いされるのはなんともな。たまに赤ちゃん言葉であやしてくることもあるので、それだけは勘弁してほしいが……。
「それにしても、一年生ちゃんたち零のこと好き過ぎだよね~。最近は子犬みたいに尻尾を振ってデレてるしさ」
「そうね。傍から見ても可愛らしいと思うわ」
「梢先輩まで何を言っているんですか!? そりゃ好きはそうなんですけど、そこまで目立ちますか……?」
「みんな、れいのことが大好きなんだって伝わってくるよ。だってれいの周りの子、ずっと笑顔だもん」
「確かに、師匠と一緒にいると常に笑顔になれますよね! 徒町が子犬みたいって言われるのも、ちょっと納得しちゃうくらいにはしゃいでる気がします!」
「れいくんせんぱいにまだ特殊能力があったとは……。女の子を犬のように自分に忠実に従わせる、なんてエロ同人向きな能力……!!」
「従わせてはねぇよ。お前らが勝手に懐いてるだけだろ」
だが傍から見ると、俺が魅了スキルを持っていると錯覚されることが多い。美少女ばかりを周りに置いているのは、俺が何かしらのチャームで女の子を惑わせているのではないかと。過去にそんなあらぬ噂が立ったこともある。創作の読み過ぎだと言いたくなるが、現実この状況こそギャルゲーそのものだとツッコミをされたら反論しようもないがな。
ちなみに一年生たちが子犬っぽいと言われたら俺もそう思っている。けどそれは三年生も同じで、コイツらは大型犬。だったら中型犬、それに最も俺と一緒にいる時間が多いせいでより懐き具合が高い奴らと言えば――――
「あれぇ~!? またあたしたちだけハブられてない!? 卒業式のときもみんな零クンのところに集まってたけど、またあたしたちだけ除け者にされてるよ!?」
「恐らくこれは零さんの作戦ですよ。わたしたちは教室で一緒にいられますから、全員に平等な時間を与えるために零さんが上手く立ち回っているのかと」
「えぇ~っと、そこまでかなぁ~……。でも最近はクラスの出し物より他のところへ応援に行ってることが多いし、ルリたちが蔑ろにされてるような気がしなくはない……」
「まさかれいくんせんぱい、ここに来て好感度低下イベント発生!? 流石に9人同時に攻略するのは無理があったのかもしれませんね~」
「んなわけねぇだろ。てかお前らは何しに来たんだよ」
「零クンを探しに来たの。秋葉さんに呼ばれてから、連絡してもずっと返信なかったから」
「悪い気付かなかった。ちょっと考え事をしてたからさ」
こうしてスクールアイドルクラブ全員が集結する。家や部室でもなく、連絡を取り合って呼び寄せたわけでもない。自然な流れで偶然9人が集まった。頻繁にこうなるからもう偶然などの奇跡ではなく、もはや運命と言ってもいいかもしれない。俺たちの絆の強さや愛情の深さが相手を手繰り寄せている。スピリチュアルな思考だが、俺たちの関係性を考慮すると特段不思議なことでもないのかもしれない。
そしてまた、最近ずっと考えていることに戻る。
ここまで運命を引き寄せる俺たちだが、この連中で集まれるのはもう数日しかない。三年生の旅立ちや俺の離脱もあり、散り散りになってしまえば例え運命で繋がっていようともそう簡単に集結はできなくなるだろう。それまでにコイツら全員の想いを訊き、それに応えるのが俺のやりたいことだ。
さやか、瑠璃乃、吟子、小鈴、姫芽は既に気持ちをお互いに聞き届けている。だから残りの僅かな日数で後の4人から想いを訊き出す。最期の最期でコイツらに後悔を残さないためにも、俺自身の気持ちを伝えるためにも。
「零さん? どうかされたのですか? まさか秋葉先生に呼ばれたのって、すぐにでも帰らないといけない……とか??」
「えぇっ!? また突然!? せめて蓮華祭が終わるまで待てないの!?」
「ちげーよ。まあ俺を連れ出すつもりだったらしいけど、俺から頼んだんだよ。もう少しだけここに居させてくれってな」
「零くんがデレた!? ルリたち、今世紀最大の珍現象を目の当たりにしてる……!!」
「ちょっと欲望を出しただけでデレ判定かよ。こちとらやることがあるんだよ。それに、今すぐ俺がいなくなって困るのはお前らもだろ」
「それはもちろん!」
花帆は首が取れそうなくらいに大きく頷く。単に俺と一緒にいたいだけかもしれないけど、それ以上にやはり俺に伝えなきゃいけないことがあるのだろう。それなりの必死さが伝わってくる。
「あなたの目的は、やはり
「あぁ。むしろ俺が蓮ノ空にいる理由はそれしかない」
「最後の最後までボクたちのために隣にいてくれるんだね。だったらボクたちも、最後までれいとの日常を楽しむよ」
「むしろあんたの方から私らと離れたくないって泣いちゃうくらいにね!」
「じゃあ期待してるよ。お前らの想いが俺に名残惜しいと思わせるくらい、強烈なインパクトを放つことをな」
俺たちの繋がりの強さはこれ以上ないってくらい固くなっている。あとは残りの全員とお互いの気持ちを交換するだけ。
もう時間も少ない。好きという気持ちとそれを伝える覚悟はもう俺もコイツらも決まっている。スクールアイドル病が解決した今だからこそ、コイツらの心に決着をつけさせる時だ。
小三角からスクールアイドル病を取り除いた後もすぐには帰らず、メタ的に言えば個人回をやっていない残りの4人と気持ちの決着をつける、まさに104期編のクライマックスになります!
次回からはまず大三角の個人回を3週連続で投稿予定です!