ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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全てを手に入れた者の、ひと時の休息

 なんだか、それなりに脱力している。

 それもそうだ。俺が蓮ノ空に来た目的はスクールアイドル病を治療すること。そして初転入時から続くアイツらの想いに応えること。特に卒業生の三人は今しかまともに接触できるチャンスがなかったため、スクールアイドル病のことはもちろんだけど、それと並んでアイツらと心を通わせることも最重要ミッションだった。

 

 そんな目的を抱えながら過ごした高校生活リターンズ。相変わらず目的とは関係のない事件に巻き込まれはしたが、無事に一年生たちのスクールアイドル病の治療が完了した。

 それだけではなく、三日間連続で綴理、慈、梢と想いを交換し、遂に親友以上の関係に昇華することもできた。まさか全員がキスをしてくるとは思わなかったけど、それだけ俺への愛が深いことが分かったし、アイツらも満足したことだろう。

 

 転入生活リトライ、27日目。ほぼほぼ1ヶ月を費やして目的は全て完遂した。とは言えまだ二人きりで胸の内を晒してない奴が一人いるのだが、ソイツは卒業生ではないのでどこかでタイミングは作れるだろう。

 

 スクールアイドル病の治療も女の子と関係の進展も、簡単にやっているようでどちらもかなりの労力だ。スクールアイドル病はいつ重症化するか分からないし、女心を汲み取るのだってかなり慎重になる。だからどちらも完遂したことで肩の荷が下り、急激な脱力感が襲ってきたんだ。

 しかも連日続く蓮華祭の準備により、肉体的にも疲労が溜まっていたのだろう。こうしてリビングのソファから動けずに眠気に襲われてしまう。まだ昼間だってのに呑気な話だ。ただ、準備が順調に終わりそうなのもあって先日からそれなりに時間が空くことも多い。そのおかげでアイツらと逢瀬を楽しむことができたわけだけど、身体的には結局休みなしだったから今こそゆっくりする時なのかもな。アイツらも体力維持のため練習はほどほどになってるし、あとは静かに待っていれば本番はやって来る。二度目の蓮ノ空生活の終わりが迫って来てる感じがするよ。

 

 

「零さん? リビングでぼぉ~っとしているなんて珍しいですね」

「さやか……。たまにはいいだろ。こっちは色々あって休息が必要なんだよ」

「なるほど。その弛緩している様子を見れば、果たすべきことを成して脱力しているのは分かります。わたしが言うのもアレですが、よく頑張りましたね」

「いきなりどうした……」

「大きなことを成し遂げたのですから、素直に褒められるべきなんですよ。隠密行動をされていたとはいえ、誰にも褒められないなんて悲しいじゃないですか」

 

 

 このまま寝ちまおうと思った矢先にさやかがやって来た。

 休憩が必要と言った瞬間、まるで母親かのように寄り添ってきやがる。しかも自然な流れで隣に腰を下ろし、心理的にも物理的にも一気に距離を詰められた。

 

 

「そんな零さんにご褒美を差し上げましょう。さぁ、来てください」

「へ?」

 

 

 さやかは自分の太ももを指さす。まさか膝枕をしてくれるってことだろうか。

 聖母のように微笑むさやかに雰囲気に煽られ、同時に眠かったのも相まってか吸い込まれるように頭を彼女の太ももに置いた。

 

 

「自分から誘ってこんなことを言うのもおかしいのですが、零さんがここまで素直なのは珍しいですね。家の主のプライドとして、膝枕をされるのなんて屈辱的なことだと思っていました」

「俺はいつだって欲望に忠実だよ。それに今は抵抗する思考力もないくらい眠いんだ。このまま寝ても十分安眠できるけど、それ以上に快眠できる手段があれば喜んで飛びつくさ」

「ふふっ、それでしたらわたしの膝枕くらいいくらでもどうぞ」

「あぁ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

「はい、おやすみなさい」

 

 

 さやかは俺の頭を撫でながら、小さくも優しい声色で俺の入眠を促す。これが今まで綴理にしてきた手なのだろうか。いやアイツは膝枕なんてなくてもどこでも勝手に寝られるか。

 本当に母さんのような振る舞いを見せる彼女に寝かしつけられる。このままこの脱力感も取れるだろう――――と、この瞬間までは思っていた。

 

 

「さやかせんぱ~いっ! それはズルってもんですよ~」

「姫芽さん!?」

 

 

 目を瞑って今にも夢の中に入り浸ろうとした時、耳元から姫芽の声が聞こえてきた。

 恐らくしゃがみ込んでソファの座面に両手をかけ、顔だけ出す形で俺をまじまじと見つめているのだろう。それくらいコイツとの距離が近いのが声の発生位置で分かる。もう少しで眠れそうだったのに一気に現実に引き戻されちまったよ。

 

 

「れいくんせんぱいのきゃわいい姿を見かけたら、すぐアタシに連絡してくださいってお願いしてたじゃないですか~っ! 独り占めはよくないです!」

「それは知ってはいましたけど、零さんは安息を求めていたので、皆さんが集まって騒がしくしてしまうのはどうかと……」

「大丈夫ですよ! こうして黙って見つめるだけですから!」

「でもちょっと息が荒くなってませんか!? 零さんの寝顔で興奮してますよね!?」

「そりゃ普段はイケメンなのに寝顔はこんなきゃわわだなんて、おねショタの血が騒がないわけないですよ!」

 

 

 俺、今すぐここから逃げた方がいいんじゃねぇか……? コイツ出会った当初からそんな毛色はあったが、俺への恋心を自覚してから歯車の回転の速度が大幅に上がっている。瑠璃乃や慈に対する尊敬と憧れも相当な度を越えているが俺に対してはあまりにも変態すぎるから、扱いに手を焼くどころか触れたら火傷するレベルだ。

 

 

「あれ? さやかちゃんとひめっちが二人で集まってるなんて珍しいね」

「ホントだ! 二人も休憩中?」

「るりちゃんせんぱい! かほせんぱい!」

「しーっ! 静かに。零さんが起きてしまうので」

「あっ、零クンがさやかちゃんに膝枕されてる!?」

「だからお静かに!」

 

 

 お前も相当うるさいけどな。つうか目は瞑ってるけど、目の前でずっと会話を繰り広げられているせいで寝るに寝られねぇ。ここで起きると眠気も完全に吹き飛んでしまいそうなので、できればまだ若干残っているこの微睡み状態を維持したい。夢と現実をうつらうつらしている状態って結構気持ちいいんだよな。

 

 ただ、花帆と瑠璃乃も合流したせいで本格的に寝るのは無理な気がしてきた……。

 

 

「零くんってルリたちの前で弱音を吐くことはもちろん、疲れた様子も涙を流すところすらも一切見せたことないよね。だからかな、こうしてゆっくり寝ている姿を見て安心しちゃったよ」

「そうだね。あたしたちに常に背中を見せて不安にさせないように、希望を持ち続けさせるように堂々と振舞ってる。零クンはそうでもないよって言うかもしれないけど、相当なプレッシャーなんじゃないかな」

「本人はそれに慣れてるっぽいですけどね~。でも、いくら平気とは言えども人間なのでどこかで休まないと疲れちゃいますよ」

「はい。なのでこうして太ももを貸すくらい、むしろこちらから癒させてくださいと頭を下げるくらいです」

 

 

 他人が自分を分析しているところを直に聞くのは少し恥ずかしい。まあコイツらは俺が熟睡してると思い込んでいるだろうから、俺に聞かせるつもりは全くないと思うが……。

 ただコイツらの言ってることは概ね当たっていて、確かに俺は女の子の前で弱いところは見せないようにしている。そもそも弱音を吐くような状況に陥ることがないと言った方がいいだろうか。スクールアイドル病の治療も大型事件の解決も大変だったのは間違いないけど、じゃあ音を上げるほどかと言われたそうではない。ま、それでも強気で居続けるのは自分も気付かないプレッシャーかもな。

 

 

「そう考えると、零くんはもっとルリたちに甘えてくれてもいいのにね。外でたくさん頑張ってるから、せめて家の中だけでもルリたちがストレスを発散させてあげないと。せっかく同棲してるんだから」

「確かに! 零クンならいつでも抱っこしてあげるし、ぎゅ~ってしてあげるし、添い寝もしてあげられるもん!」

「それだと零さんが赤ちゃんになっちゃいますよ!? ただでさえ綴理先輩がいるというのに!」

「ボクなんなのって、また言われちゃいますよそれ……。でもせんぱいにもっと甘えてほしいのはそうですね~。なんなら一緒にお風呂にも入りますし、周りに女の子がたくさんいて色々と溜まってると思うので、そっちのお世話も大歓迎ですよ!!」

「そっちって?」

「花帆さんは知らなくてもいいんですよ!」

「ひめっち!」

「いや~興奮してつい本音が……」

 

 

 謝りもせずに逆に認めるのかよ……。

 ちなみに甘えたいかと問われたら、そりゃできればそうしたいよ。でも見た目はガキでも中身は大人だから、年下の女子に甘える姿なんて自分自身が一番見たくない。だから精々今やってもらってるような膝枕で十分だよ。ま、添い寝や混浴は俺にとっては普通なので、そんなことは元々甘えること自体に含まれないけどな。

 

 

「ただいま帰りましたーっ!」

「あれ、ソファに集まって一体何を?」

「小鈴ちゃん! 吟子ちゃん! しーっ!」

「お口チャックですね! でもどうして……?」

「あっ、零先輩がお昼寝してる……。しかもさやか先輩の膝枕で……!!」

 

 

 吟子と小鈴も来たのか。ただでさえコイツらの会話がノイズで眠れないのに、人数が増えたら余計に目が覚めてしまう。もうこのまま膝枕されているだけで満足するしかないのかもしれない。さやかにされてるってだけでも十分に勝ち組なんだろうけども。

 

 

「あれ? そういえばめぐちゃんたちは? ステージ演出の最終打ち合わせ、確か先輩たちと一緒だったよね?」

「先輩方とは打ち合わせ後に別行動になりました。蓮ノ空を去る前に、お世話になった方々に挨拶して回りたいからと」

「いよいよ別れの時だと思うと寂しいですが、先輩たちは悲しそうにしているどころか浮ついた様子でした!」

「そう言われてみれば、今日の梢先輩はかなり上機嫌だったかも……」

「綴理先輩もここ数日はずっとそうですよ。分かりやすくご満悦で……」

「めぐちゃんだってずっと頬が緩みっぱなしだよ。なにかあったのかなぁ?」

「三人に共通することはたくさんありますけど、揃って晴れ晴れとしているってことは……やっぱりれいくんせんぱいが原因ですかね~」

 

 

 目を瞑っているため分からないが、全員の視線が一気にこっちに集まっている感じがする。

 ぶっちゃけ姫芽の推理は当たっていると思う。アイツらが経験した直近のイベントはまさに俺への告白だし、しかも己の恋が成就したとなれば有頂天になるのも仕方ないだろう。ただいきなり愉快さが高まったから、やはり後輩たちには怪しまれていたか。

 

 

「蓮ノ空を去るとなれば零さんと会う機会も減ってしまうかもしれないので、もしかしたら各々二人きりになるタイミングを掴んで、もしかしたらその時に告白に成功したのかも……」

 

 

 なんだコイツら名探偵かよ……。

 いや同棲しているせいか。日常的にこれだけ距離が近かったら俺たちの関係性なんて大体察せる。それにコイツらだって似たような立場だから、俺や梢たちの関係性がどう進展したのかを予測するくらい容易なのだろう。それにしても鬼の観察力と言わざるを得ないが……。

 

 

「流石は師匠です! あの高嶺の花とも呼ばれた大三角の先輩方を、見事手中に収めてみせるとは!!」

「それだとアタシたちがハーレムのトロフィーみたいになっちゃうよ……。でもまあ、れいくんせんぱいに口説き落とされるのならアリよりのアリなんですけどねぇ。部屋で二人きりになった時に既にそういうムードになってたので……」

「徒町もお出かけに誘ってもらったけど、零先輩と一緒にいるだけでも楽しくて、大好きな男性とのデートってこんなにドキドキするんだなって思ったよ!」

「そ、それなら私だって夜中に先輩とこっそり学内デートしたよ! 誰かに見つかるかもって緊張感も相まって、常に先輩に寄り添って距離も近かったから!」

「なんで対抗する!? ていうかしれっと校則違反してるけど大丈夫!? ただルリだって零くんとお互いに支え合うって誓ったエピソードがあるから、みんなには後れを取らないんだけども……」

「わたしも手作りのお弁当を評価していただいたりしたので、なんだかんだ皆さん零さんと二人きりの思い出はあるみたいですね」

 

 

 客観的に見ると俺が数多の女の子に同時に手を出すヤベー奴に思えるな。いや実際そうなんだけどさ……。

 ただコイツらの話を聞く限り満足しているようでなによりだよ。最初から好感度が高かった奴もいれば低かった奴もいる。コイツらを笑顔にできたとあれば、奇病であるスクールアイドル病を人知れず治療する苦労も喜んで受け入れられるな。

 

 ちなみに、さっきさやかが言っていた『皆さん零さんと二人きりの思い出はある』というのは誤りがある。

 実はまだ一人だけ――――

 

 

「あ、あれ? もしかしてあたしだけ零クンと二人きりの思い出がない!?」

「花帆先輩はいつも零先輩にくっついてるから、特別な時間とかいらないんじゃないの……?」

「あたしだって特別になりたいの! お部屋デートでもお出かけでもなんでもいい! 零クン起きて! 今なら時間があるからどこか行こうよ!」

「花帆ちゃんストップストップ! せっかくの休息なんだから今は休ませてあげようよ!」

 

 

 いや起きてるんだけどね。コイツら声量を落とさず会話し続けるから寝られねぇっつうの。

 

 なお、花帆だけを放置していたとかではないのであしからず。要はタイミングが合わなかっただけで、俺が蓮ノ空(ここ)を去る前に絶対にコイツとも向き合う。

 ただここまで取り乱すとは思わなかったので、蓮華祭が始まるまでにはなんとか。まあ蓮華祭は明後日なので、もう今日の夜か明日しか時間がないんだけどな。

 

 

「大丈夫ですよ花帆さん。零さんのことですから、最後の最後に特大のサプライズを用意しているかもしれません」

「サプライズ……? そっかぁ~えへへ、楽しみだな~」

「師匠にはいつも驚かされっぱなしですから、多分花帆先輩がメロメロになるようなサプライズを用意しているに違いありません!」

「零クンにはもう既にメロメロなんだけどね~」

「花帆ちゃん頬が溶けそうなくらい緩々だよ! 気持ちはわかるけども、期待させすぎも良くないかなって!」

「いい意味で期待を裏切るのが零クンの得意技だから!」

「ハードルがグングン上がってますねぇ……。こりゃれいくんせんぱい、かほせんぱいを満足させられるまで蓮ノ空からは帰れないかも……」

「先輩には絶対に聞かせられないよねこれ。起きてなくて良かった……」

 

 

 いや起きてるっつうの。こんなことになるなら姫芽が割り込んできた時点で目を開けておくべきだったな。変に寝込みをキメ込んだせいで暴走する妄想を聞かされるハメになっちまった。

 

 このタイミングで目を覚ましてコイツらのパニックを助長させるのも気が引けるので、もう何も聞いてないフリをして黙っておこう。ぶっちゃけ女子トークは本人がいないところでやってほしい。こっちはどう反応したらいいのか困るからさ。

 結局その後、誰も俺の狸寝入りに気付かなかった。本人の前で堂々と俺の話ばかり繰り広げ、よくもまぁそんな長時間一人の男の話題で盛り上がれるもんだと感心する。ただ自分がコイツらにそれだけいい印象を与えられたってことでもあるため、女の子の心を掴むことができたと誇りに思っておくとしよう。

 

 そんなこんなで休息を取れたかと言われたらそれほどだけど、ゆったりとした時間は過ごせたと思う。コイツらが満足しているだけでも俺の接し方は間違っていなかっただなと安心もできる。

 

 もちろんまだ終わっていない。目の前でぶーたれているコイツにも、最後の華を咲かせてやらないとな。




毎回全てを手に入れてばかりのような気もしますが、それなりに大きい厄介ごとを乗り越えているので許してあげてください!

次回は花帆の個人回となります。
投稿時間は6日(水) 0時を予定しています。
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