蓮華祭当日。
今日は朝から外部の客たちもたくさん入り、今年度最後のイベントは大いに盛り上がっている。生徒にとっては一年間の集大成、特に三年生にとっては高校生活最後のイベントであることから、客だけでなく生徒たちの熱気も凄まじい。三月の半分以上が準備期間だったのだが、その間みんなのやる気がずっと衰えなかった理由が分かる気がするよ。それだけ大切な催しなんだなって。
それにしても、ここまで大規模な文化祭を年に三回も開いてるらしいから大変なもんだ。偏差値もそれなりで勉学にも力を入れてるのに、こんなお祭りごとがシーズンごとに訪れていたら生徒も学校の運営も中々気が休まらないだろう。ただこんな山奥の監獄に好き好んで滞在する集団だ、大変だと思いつつも楽しんでいるのが同じ敷地で生活していて伝わってくる。不便なところも多いけど、なんだかんだみんなこの学校が好きなんだろうな。
それほどまでに大切なイベントが始まっている中で、俺も運命の日がやってきた。そう、全ての目的を成し遂げた俺が再度この学校を去る日だ。
前回は当日の連絡だったためか花帆たちに怒られてしまったのだが、今回は蓮華祭が終わるまでと公言していたので事を荒立てずに済んだ。とは言いつつも俺とは今日、三年生たちとは明日と別れが続く在校生たちの寂しさは完全に消えることはないだろう。泣くか笑うか、アイツらの心構え次第だ。
「これ、見回り表です」
「えっ? って、お前……」
ベンチに座ってぼぉ~っとしていると、冷徹生徒会長の椎葉椎菜がタブレットを渡してきた。画面には各ブースの点検結果を記すためのチェックリストが列挙されている。画面を見ているだけでも面倒臭そうでつまらなそうな仕事だ。
「てか俺は生徒会でも実行委員でもないんだが?」
「暇そうにしているので仕事を分け与えているのです。それにあなたの最終日とはいえ、まだ今日までは蓮ノ空の生徒ということでもあります。つまりここの生徒である以上、蓮華祭のために働くのは当然の責務です」
「相変わらず理路整然としてるなお前……。そんなアイスエイジだと生徒に嫌われるぞ」
「問題ありません。支持率は95%を超えているので。それにアンチが現れたとしても口勝負で玉砕させる自信があります」
「その支持率ってカリスマ性ってより恐怖政治なんじゃねぇの……?」
ただコイツのマネジメントの手腕が優れているのは確かで、それはこの学校の教師や生徒なら誰もが知っていることだ。蓮華祭の準備だって実行委員と並行して生徒会も率先して動いていたし、途中かなり切羽詰まったときがあったけど、それでもコイツのおかげで無事に軌道修正できた。正論爆撃で相手を論破して捻じ伏せる性格は困ったものだけど、その毅然とし過ぎる態度はコイツに任せておけば問題ないという安心感をみんなに植え付ける。それは俺もであり、夢を見る楽譜の事件のとき、俺たちが冒険している間に他の生徒の救出を任せたのもコイツの優秀さを買っていたからだ。
「ともかく、手が空いているのであれば協力してください。それに、各ブースを見回るついでに最後の思い出くらいは作れるでしょう。この学校には、あなたと思い出を作りたい人がたくさんいるみたいですから」
「えっ、じゃあ俺に仕事を与えたのはそれが理由? 俺に情けをかけるなんてどんな心境の変化だよ」
「あなたがいれば学校の秩序が良くも悪くも守られるので、一応そのお礼です」
「お礼が仕事を与えることって……。ま、俺も世話になったしな。気遣いありがとう。素直に受け取っておくよ」
「あなたが私に感謝を示すなんて、心境も変化するものですね」
相変わらず一言多いねぇコイツは。
ただなんだろう、コイツとは妙な信頼関係がある気がする。花帆たちとは違う、別の繋がりが。大賀美との関係性に似てるだろうか。言葉で言い表すのは難しいけど、強いて挙げるなら……悪友?
仕事を押し付けるだけ押し付け、言いたいことだけ言って椎葉は背を向けて立ち去る。
しかし、数歩進んだ後、立ち止まって首だけこちらを振り返った。
「名前くらいは生徒一覧に残しておきますから、また気が向いたときにでもどうぞ。それでは、また――――神崎零君」
「!? あぁ、またな――――椎菜」
初めて名前で呼び合った。
稲荷火の事件のときにABCトリオとも名前で呼び合うことになったのだが、コイツとは妙な関係性もあってか事件以降も『お前』『あなた』と呼び合っていた。まさか最後の最後でどんでん返しとは、アイツらからヒロインの座を奪いそうになってやがる。
それにしても最後の思い出作り……か。
悪くないし、いっちょコイツの策略に乗ってやるか。
~※~
「えっ、零クンが当日もお仕事をしてるなんて!? はむっ! そんなに性格が丸くなっちゃうなんて……もぐもぐ……世界をも見下すトゲトゲしい零クンはどこ行っちゃたの? もぐもぐ……」
「椎菜に押し付けられただけだよ。てか食いながら喋んなよ……」
「烏骨鶏カステラだよ! 零クンも食べる?」
「金沢のお菓子か。学校の出店らしくねぇな。普通は焼きそばや唐揚げとかだと思うけど」
「蓮華祭はいつも金沢のご当地メニューが集結するのよ。一年間の最後のイベントを豪勢に盛り上げるためらしいわ」
「それにしても花帆先輩、さっきから食べ過ぎ! 胃もたれしてライブに出る気!?」
出店ブースに出向いたところ、『スリーズブーケ』の奴らに遭遇した。
花帆が暴走気味で他の二人がそれを宥めるいつもの光景。結局最後になっても変わんねぇな。いや、最後だからこそ変わらないようにしているのか。
「零君は蓮華祭はもちろん蓮ノ空の文化祭自体が初めてよね? どうかしら、雰囲気は?」
「他の二つがどうかは分かんねぇけど、今日のは優雅でいいんじゃねぇか。この桜も三年生の追い出しにはピッタリの風情だよ」
「ふふっ、追い出されるのはあなたもでしょう? しかも
「そうだな。
「泣かないわよ! 多分……」
三年生は蓮華祭の片付けがあるから明日まで居残りだ。だから俺が一足先にここから退散することになる。一日くらい待てないのかと思われるかもしれないけど、秋葉曰く、もう次の現場の予定がギリギリだそうだ。休みなく次って、どれだけブラックで働いてんだよ俺……。
「零先輩。お仕事中なのは重々承知しているんですけど、少しだけ私たちと一緒に蓮華祭を回りませんか?」
「あぁ、いいよ。元からそのつもりだったしな」
「ありがとうございます! って、感謝する必要はないんですけど、やっぱり先輩と一緒にいられる時間が最後だと思うと寂しくなっちゃって……。花帆先輩には笑顔で送り出そうって励まされましたけど、その時が迫ってしまうとどうしても……。それに春からは梢先輩もいなくなってしまって、もう未来のことを考えるだけで頭がくちゃくちゃになっちゃってます……」
「も、もうっ! 吟子ちゃんは心配性なんだから!」
「そりゃ不安にもなりますよ。寂しくならないように、不安にならないように、今日はあまり楽しい思い出を作らない方がいいかなと思ってたくらいで……」
「吟子さん……」
まあこうなるよな。前回の花帆たちだってこんな感じだった。
ただ吟子は慎重な性格が故に未来の不安に苛まれやすい。これまで同年代の友達があまりいなかったって言ってたから、別れを経験したことが全然ないのだろう。だからこそ劇的な出会いをした俺たちとの別れに悲しみを感じるのも分かる。まあそれをストレートに伝えられるのはコイツのいいところだと思うけどな。
「お前の気持ちはわかるよ。でも、先を見通し過ぎていささか今を捨てているような気もするな。確かに別れの寂しさや悲しみは拭えないし、未来への不安が積もるのも分かる。ただその未来を作るのは今なんだ。周りを見てみろよ。蓮華祭を彩る笑顔がそこらじゅうに広がっている。生徒も来場者も、いい表情をしてるじゃねぇか。それにお前もその生徒の一員としてこれまで準備を頑張ってきたんだろ? じゃあそのための今を楽しまなきゃ損ってもんだ。前向きでいれば、もしかしたら悩みなんて自然に消えるかもしれないぞ」
「先輩……」
気休めな励ましかもしれない。だからといって俺や梢たちがここにずっといるわけにもいかないから、結局は受け入れてもらうしかない。ただ事実は変えられなくても自分の心の在り方は変えられる。そのためには、今まさに自分の楽しいって思えることに熱中して前向きにならないとな。
「それに、今日のライブをそんな沈んだ心境でやるつもりか? 俺にシケた顔を向けんじゃねぇぞ」
「えっ? そ、そうですね……。はぁ……相変わらず励まし方が飴と鞭。そうやって強引に前を突き進もうとする信念、誰かさんに伝染したせいでその後輩の私は大変なんですから」
「なんであたしを見るの!? でもそんな軽口を叩けるなんて、吟子ちゃんいつもの調子が戻ってきた?」
「そうですね。やっぱり零先輩に発破をかけてもらうのが一番の特効薬です。ありがとうございます、先輩。確かにこの瞬間を楽しめなかったら、明るい未来は絶対にやって来ませんよね」
なんで最終日なのにまだメンタルケアをしなきゃいけないんだか。まあ心を強くしてもらって次の再会をより感動的にするってのなら、これも意味のあることなのかもな。それに依存気味に好きにさせてしまった女の子の精神を保つことこそ俺の役目でもある。9人同時に幸せにするって豪語している以上、1人でも取りこぼすなんて許されないから。
「話が落ち着いたところで、零君の仕事を手伝いながらみんなでこのあたりを回ってみましょうか。彼との時間はどれだけあっても堪能しきれないもの。ここで少しでもその欲求を発散しておかないとね」
「だったら零クン! この際だからたくさん食べ歩こうよ! ほら、あっちからいい匂いするよ!」
「いや花帆先輩は食べ過ぎだから! また太っても知らんから、もう……」
「再会した時にぶよぶよになっているのだけはやめてくれよ」
「ならないもん! ね? 梢センパイ!」
「
「梢せんぱ~いっ!!」
梯子を外されて味方の消失に嘆く花帆。最初から食べ歩きをしたかったのはコイツだけなのかもしれないが……。
ただこっちに来てから名物らしいモノを食ったことがなかったので、いい機会だってことを伝えたら花帆は目を輝かせて他の二人にドヤ顔していた。最後の思い出が食い意地でいいのかと思いつつも、こうした何気ない日常こそが俺たちに似合っているので、むしろ特別なイベントは不要なのだろう。いつものゆったりとした日常こそが最高の思い出になるのは間違いない。
~※~
「えぇっ!? 徒町、破門ですか!? どこか至らぬ点があったのでしょうか!? もっと師匠の身の回りのお世話をしたり、師匠の偉大さを学校中どころか全国、いや全世界に伝えたり、それとも師匠を好きな女の子をたくさん連れてきて、師匠の男性としてのランクを上げた方が良かったのでしょうか!?」
「どれも余計なお世話だ。てか弟子を取ったつもりもねぇよ。お前が勝手に言い出したんだろうが……」
「もう自然に師匠呼びが馴染んでいますけど、思い返してみれば出会ったばかりの男性を自分の師匠に仕立て上げるとか、中々に奇妙なことをしていましたね……」
「ボクたちがれいのことを話し過ぎて、すずたちにとっては初対面とは思えなかったんじゃないかな? すずとひめはれいと仲良くなるの、早かったよね」
「俺は戸惑ってたけどな。コイツらの距離の近さに……」
次のブースの見回りで『DOLLCHESTRA』とエンカウントした。
その際、そろそろ師匠呼びは卒業したらどうだと小鈴に軽く提案したら、まるで男に突き放されたヤンデレ彼女みたいに絶望の声色でまくし立ててきた。そこまで本気で弟子入りしていたのかと驚いたが、コイツは冗談は言わないタイプだからマジだったのかもしれない。そもそもどんな経緯で師匠と呼ばれ始めたのかすら、こっちは忘れちまってるけど。向こうはこっちを一方的に知ってたけど俺の方は知らなかったという歪な関係。出会ってすぐに訳の分からないまま師匠認定されてた記憶しかない。
「それより、お前ら休憩場で何やってんだよ?」
「さっきまでライブで使用する機材の確認をしていたので、次の作業の時間までちょっと休憩をと思いまして。ついでにこのあたり一帯のゴミ拾いをしていました」
「結局仕事してるじゃねぇか。自分の担当でもないのにご苦労なことで」
「来てくれた人みんなを笑顔にするために、小さいことでもコツコツやるよ。れいがやっていたみたいにね。裏でずっとボクたちのことを守ってくれていたんだよね? それと同じだよ。ボクたちはれいの魂を受け継いでいるんだ」
「そりゃ存在感を露わにした甲斐があったってもんだ。俺は目立つって柄じゃねぇのによ」
「いやいや、零さんは歩いてるだけでも目立ち過ぎですよ! それで柄じゃないって言うのは無理があります!」
それって女子高に異性のガキいるって異質さで目立ってるだけじゃねぇのか……?
ただ女の子の笑顔を見たいという夢が形で示される結果になったことは素直に嬉しいかな。別に意識してはいないが、こうして生徒たちが俺の魂を引き継いで蓮華祭という笑顔が咲くイベントを盛り上げている。俺の夢を叶える場所としてここまで至高な空間はないだろう。
「うぅ、でも師匠はもうお帰りになって、しかも破門までされるなんて、徒町はこれからどうすれば……!!」
「お前は目標に向かって常に真っすぐだけど、まだ全部誰か依存。最初はそれでよかったのかもしれない。でもお前も間もなく先輩になるんだ。誰かの背中を追いかけてばかりじゃなくて、自分でも背を見せられるようにならないとな。そりゃ師匠って慕ってくれるのは嬉しいけどさ、人から学びを吸収してばかりじゃなくて吐き出すことも必要だ。誰かの模倣ではない、お前自身がやりたいことを貫くためにも。今度は誰かの輝きをスポットライトにするんじゃなくて、自分でその光を作り出して浴びるんだ」
「師匠……。もしかして、徒町を破門したのも独り立ちさせるため!?」
「だから破門じゃねぇって……まあ同じことだからそれでいいよ」
小鈴も俺にかなり拘っていたため、師匠呼びをやめて一人で輝けるようになれと最初から激励したつもりだったのだが、ようやく理解したみたいだ。これで俺がいなくなったとしても後輩に失望されることはないだろう。だけどそんなことはさやかから既に学んでいるはずなので、余計なお世話だったかもしれない。自分でも分かってはいるが、俺と別れる故の寂しさから生まれた、吟子と同じ不安があったから弱音を吐いただけだろう。
「最後の最後まで誰かを導くとは、零さんは相変わらずのお節介ですね」
「お前らがもっと強くなれば余計なことをする必要もないんだけどな」
「でもそうなってしまうと零先輩に会えなくなってしまいますよ! 強くはなりたいですけど、ちょっとくらいは弱点を残して先輩に慰めてもらわないと!」
「じゃあボクもできないことがあったら、れいにたくさん電話するね。『今日の晩御飯は何にしよう』とか『明日は何時に起きればいい』とか」
「自作自演はダメですよ! ていうか綴理先輩のはただ怠けてるだけなのでは!? 零さんに会うためなら何でもするって気持ちは分からなくもないですけど……」
味方と思わせてすぐ裏切るのやめろ。
ただ何かしら問題がある奴らのところに俺が送り込まれるのは事実。それを逆手にとって俺に会おうとするのは策士なのか……いや、ただのバカだ。もしコイツらとの関係性がそんな事務的な繋がりだったら、スクールアイドル病が解決した時点でとっくに帰ってるっつうの。
「そんな後ろ向きな話ばかりしてないで、自分たちが作ったこの祭りを回ったらどうだ? 三人のユニットでの思い出作りも、もう今日しかできないんだからさ」
「そうですね、集めたゴミを片付けたら回りましょうか。零さんもご一緒に」
「『DOLLCHESTRA』としてもそうだけど、れいとも最後だからね」
「はいっ! 師匠も一緒に楽しみましょう!」
「また呼び方が戻ってますよ!」
「あっ!? でもよく考えてみたら、今日までは関係が変わらないので師匠呼びでいいのでは!? じゃあ呼び方収めにたくさんお名前を呼ばせてもらいます! いつもの『ちぇすと!』の代わりに師匠のお名前を気合の謳い文句にして!」
「それを恥ずかしいと思わない図太い精神、感服するよ……」
小鈴含めコイツら三人は俺とは別ベクトルで肝が据わってる。それ恥ずかしくないのかよって思うことでも平然としていたりするしな。以前に映像を観たけど客冷え冷えのコントとか……。
『DOLLCHESTRA』ってユニット名だけだと硬派っぽいけど、その実さっきも言った通り割とバカをやってたりする。先輩や後輩同士の友情というよりも家族の絆の印象の方が強く、それ故に雰囲気も温和。最後にこの空気を堪能するのも悪くないな。
~※~
「どういうことですか、れいくんせんぱい! めぐちゃんせんぱいとちゅーしただなんて!!」
「そんなとこまで関係が進展してただなんて、ルリまったく知らねーんですけど!?」
「声がデケェよ! てかお前も何でバラしてんだよ……」
「だって秘密にしろだなんて言われてないしー。それに幸せなことはみんなに共有するのがみらぱだから!」
「それ嫉妬を買われるだけじゃねぇのか……」
次は屋外ステージの見回りに来たのだが、そこで『みらくらぱーく!』の奴らに取り囲まれる。
いきなり迫ってきて困惑したのだが、姫芽と瑠璃乃の話を聞いて全てを察した。どうやら慈が俺とキスしたことを暴露したらしい。言った通り秘密にはしていないのだが、まさか俺がここから立ち去るその日に口外するとは思わなかった。ただでさえ俺との別れでナーバスになっているこの二人に、そんな特大級の爆弾を投下してまともでいられるはずがない。現に俺に詰め寄りながらも超戸惑っている。
「最後の日になんてことしてくれてんだよお前は……」
「別に隠すことじゃないじゃん! 今まで以上にもっと積極的になれば私と同じ興奮を味わえるよって二人に教えてあげたんだよ!」
「件の零くんは一旦今日でいなくなっちゃうじゃん! でもめぐちゃんみたいに推しが強かったら、零くんとそこまでできるんだね……ふ~ん」
「俺はゲームのキャラじゃないから、コイツと同じ攻略法で同じ結果になるとは限らないぞ」
「大丈夫! ルリはルリの方法で零くんとの恋路を極めてみせるよ! 最後の日に決断するようなことじゃないかもだけど……」
「いいんじゃねぇの。わちゃわちゃしてる方がお前らっぽいよ。ただ大声で話すことではないと思うが……」
慈は自身の幸福を知らしめることができてご満悦そうだ。瑠璃乃も姫芽も俺への好意を一切隠すことがないので、傍から見たらもう付き合っていると誤解されても仕方ないだろう。実際にクラスメイトからはよくそのことでイジられてたしな。
「大好きを表にするのは得意ですけど、その対象がいなくなってしまうのは寂しいですね……。あまり悲観しないようにしてはいたんですけど、先日心が通じ合って己の恋心も自覚できたばかりなのに、次の再会までそれをずっと閉まっておかないといけないなんて……」
「別に抑え込む必要はねぇんじゃねぇの?」
「え?」
「その俺への想いを、お前が好きな歌や配信に乗せればいいだろ。もちろん男との関係を歌詞や配信の直接的なネタにするわけにはいかない。だけどその衝動はライブや配信への熱中に変換できるはずだ。そうすればいつだって俺はお前の中にいる。物理的にはすぐに会えなくても、俺がお前のことを片時も忘れないように、お前だって想いの炎をずっと燃やし続けられるはずだ。お前らの好きなこと、例えそれが想いの人への熱烈な愛情表現だったとしても、その燃料を糧にして全世界を夢中にさせる。つうかそれこそ最強を目指す『みらくらぱーく!』だろ? 寂しさを楽しいに変換させるほどの心意気くらいねぇとな」
このユニットに悲壮感は似合わない。どのユニットもそうなんだけど、ここはどこよりも笑っていてほしいもんだ。俺の夢とユニットの方針がここまで合致するなんてミラクルが起きてるんだから、そりゃその奇跡にあやかって余計なお節介を焼いてしまうさ。
「おおっ! やっぱりれいくんせんぱいに心を掌握されるのは、なんとも痛く気持ちいいですね~!」
「なんだよ急に元気になりやがって……」
「だってれいくんせんぱいに首根っこを掴まれて無理矢理にでも立たせられるのって、気合の入り方がいつもと全然違うんですよ~。るりちゃんせんぱいがれいくんせんぱいに抱き着くと急速充電できるみたいに、アタシも気力がすぐに回復します!」
「ちょっとひめっち!? その事実は外では言わないって約束じゃん!」
「いいじゃん別に。大好きなことは曝け出してこうよ! 事実なんだしね!」
「ルリのプライベートまで公にするな!! 秘密のままにしておいた方がいいこともあるだろうが!!」
そういや瑠璃乃が段ボールに入っているところ、二年生になってからあまり見ていない気がする。それだけ充電のキャパが増えて長持ちするようになったのか、それとも気を張ることが少なくなったのか。まあ元々俺と一緒にいるときは充電が減ること自体がなかったっぽいから、段ボール姿自体全然見たことないんだけどな。
「よ~しっ、れいくんせんぱいとちゅーをするため、来年度からもみらぱ頑張っちゃいますよ~」
「それが目標でいいのかよ……」
「キスをするならしっかりとロマンチックなムードを選ぶこと! 恋愛の先輩としてアドバイスしちゃうぞ☆」
「でもめぐちゃん、さっき大倉庫でキスしたって言ってなかったっけ? ロマンチックな場所かなぁそれ……」
「うぐっ! 言ったなぁ……!! 零! 今からステージに立つよ! こうなったら無理矢理にでもみんなの記憶に残る最高のキスを披露してやる!」
「お前正気か!? 腕を掴むな!」
「元々他の部のステージを観に来たんですけど、こりゃ思わぬサプライズで愉しくなりそうですね~。うぉおおおおおっ!! じゃあアタシ、ステージ割り込みの交渉をしてきます!! 蓮華祭中の注目をお二人に集めちゃいましょう!!」
「ちょっと待ってひめっち! あぁもうっ! 零くん最後の日だってのにめちゃくちゃだよ!」
それは俺が言いたいよ……。
結局慈と姫芽の野望は瑠璃乃が止めてくれたおかげで回避された。そもそもステージのスケジュールが決まっている中でのっとりなんて不可能だからな。
にしても、キスをしたことをバラされるとは。これは下級生たちにもすぐ噂が広まりそうだ。これでみんなからのアプローチが過激になる未来が見える。もちろんそれはそれで嬉しいことなので、別に悲観するほどのこともないけどさ。
てか、コイツらとの最後の思い出がこんな欲望塗れの会話で良かったのか……?
ま、この適当さこそがコイツららしいのかもな。
To Be Continued……
この小説の最終回特有のキャラが順番に出演して彼と絡むスタイル。このスタイルで話を描くたびに最終回のカタルシスを感じてしまいますね。
特に蓮ノ空の映画を初日で観た影響でしょうか、彼女たちとのお別れに敏感になっているのかもしれません……
次回はいよいよ蓮ノ空104期編の最終回後半戦!
一年間続いた彼らのストーリーのクライマックス、是非見届けてあげてください!