スクールアイドル応援イベントの参加権獲得のため、海外受けも考慮した曲と衣装を作成し、それを披露することにした俺たち。
実際に壇上で披露するのは元μ'sで知名度もスクールアイドル力も抜群の穂乃果、曲はアメリカからの留学生で作曲家の家系であるクロエ・テイラー、衣装は海外のファッションデザインに詳しい川本美里、宣伝や広報は薫子、全体統括は俺が担当。それぞれ具体的な案はこれから出し合うのだが、各々の夢のためにスタートを切れたのは大きな第一歩だろう。ただ大学の平穏を貪り食っていた日々に比べると、目標ができたことで日常も充実している気がする。
そんなわけで、今日は衣装デザインの案を考えるために美里に付き合っている。穂乃果、薫子、クロエはそれぞれのやることや別の用事のため不在。代わりに時間の空いていたことりを連れ、美里の家にお邪魔した。
「もうお母さんってば、零君が家に来ただけなのに大騒ぎして……。ゴメンね、見苦しくて」
「お前が謝る必要はない。仕方ないよ。今まで男の気配が全くなかった娘が、いきなり男を連れて来たんだから。でもことりを連れてきている時点で、二人で怪しいことをするなんて妄想は捨ててほしかったものだけど……」
「私のお母さんも、零くんが家に来るといつも大喜びするよね! 零くんと一緒にいると一回りも二回りも若返ったように感じるから嬉しいって!」
「あの親鳥まだそんなこと言ってんのか。音ノ木坂の理事長のくせに生徒に手を出そうとすんなよ、あの阿婆擦れが……」
離婚してもいない、むしろ夫婦円満な女性に何故か言い寄られていた俺。高校を卒業してから顔を合わせたことはないけど、ことりの話からすればまだ諦めてはいないようだ。コイツも高校生の頃はかなり脳内ラブホテルだったが、大学生となり大人の階段を上ったためか今は落ち着いている。だからこそ余計に悪目立ちするんだよな、彼女の母親にアプローチされるっつうエロ同人やエロゲのような展開が……。
美里の母さんは流石に親鳥ほどではなかったが、それでもテンションの上がり様は半端ではなかった。確かに美里って幸薄い系だから、男の影とかこれまで全くなかったのだろう。そんな娘が男を連れて来たとなると、例え隣に別の女の子がいても親として喜んでしまうのかもしれない。
「わぁ~っ! 美里ちゃんのお部屋、本棚がたくさんあるね! あっ、こっちはファッション誌ばかり!」
「子供の頃からお洋服が大好きで、本や雑誌で世界中の衣装を見るのが趣味になっちゃったの。お母さんがファッションデザイナーの仕事をしていて、物心がついた頃から衣装の資料が手に取れる範囲にあったから、眺めている間に興味が出てきたのよ」
「これとか全部英語だし、わざわざ海外の資料まで取り寄せているなんて随分と熱心だな」
「小さい頃から世界を夢見ていたなんて、美里ちゃんは立派だなぁ。私はスクールアイドルを通じて興味を抱いて、その道を目指そうと思ったのはつい最近のことだから」
「でもことりちゃんは実際にμ'sとして活動していたから、それだけ結果を出している。ことりちゃんの方が何十倍も立派よ。わたしなんか、よりもね……」
含みのある言い方をする美里。どこか寂しそうで、どこか投げやりな様子。
傍から見れば、コイツの夢は誰しもが立派と称えるだろう。実際に英会話もそれなりに堪能で、衣装作りのスキルもある。SNSで投稿するくらいでコンテストなど公式の場で賞を獲得したとか、そこまでではないらしいのだが、それでも同じ夢を持つことりに比べると何歩も先へ進んでいるのは間違いないだろう。
ただ、自分を卑下して相手を持ち上げるのは美里の性格だ。自分に自信がないのかは分からないが、出会った頃から自分を過小に評価しがちである。だからこそ今回のイベントに一緒に参加してくれるとなって遂にやる気を見せたのかと思ったんだけど、どうやら根本は変わっていないようだ。
「本題に入るけど、お前スクールアイドルのライブって見たことあるのか? 衣装の案を出し合うとは言っても、知らなかったらアイデアも出てこないだろ」
「見たことはあるわよ。ことりちゃんたち、μ'sのライブもね」
「えへへ、ありがとう! だったら穂乃果ちゃんにとっても百人力だね!」
「そんなに持ち上げないで……。見たとは言っても、スクールアイドルみたいに可愛い衣装はこれまで作ったことがないから……」
「いつもはどんなのを作ってたんだ?」
「これとかこれとか。地味でしょ? これでコンテストに応募するなんて無謀だから、今まで公の場に踏み出したことがなかったのよ……」
「そうなんだ。私はこのシックな感じ、大好きだけどなぁ」
「ふふっ、ありがとう。相変わらずことりちゃんは優しいのね」
あの全肯定のことりをもってしても、美里の過小評価の癖を矯正させることは難しいみたいだ。
しかし素人の俺から見れば、コイツの作った服はそこらの店に置いてあるのと遜色はない。むしろフリマサイトで売れば高く売れそうなくらい綺麗な服ばかりだ。地味と言われればそうなんだけど、これくらいノーマルでいいんだよと思う人も多いだろう。だからもっと自分のスキルを自慢していいと思うのだが、心にブレーキをかける何かがあるのか。
「とりあえず、どこか適当なところに座って待ってて。飲み物を持ってくるから」
「あ、あぁ――――ん? カバンが……」
「あっ、ゴメンなさい! 片付け忘れていたわ!」
俺が座ろうとしていたところに小さなカバンが口を開けた状態で置いてあった。
美里は見たことのないスピードで床から拾い上げると、クローゼットの中に雑に押し込めてしまう。いつもゆったりしているコイツがここまで分かりやすく焦るのは珍しいが、カバンの中身を見てしまった以上、大体の事情を察することはできる。
その後、美里はそそくさと部屋を抜け出した。飲み物を持ってくるためだと言い張っていたが、若干の気まずさもあったのだろう。
「美里ちゃん、どうしちゃったのかな? かなり慌ててたけど……」
「薬が入ってるのを見ちまったからな。あのカバンの中に」
「薬? あっ、もしかして……」
「アイツは身体が弱い。いつ体調不良になってもおかしくないって言ってたし、もしもの時に飲むものだと思う。ま、人に見せるものでもないだろうな。それが親友相手だったらなおさら」
「そっか、余計な気遣いをさせちゃうもんね。でも私たちに配慮する必要なんてないのに……」
「俺たちが大丈夫でも、アイツは気にするんだろ。自分が病弱なことに対して不安と不満を溜め込んでるっぽいし」
アイツの妙な自信のなさは、やはり病弱体質が故だからだろうか。それでも英会話を学んだり、ここまで素敵な服を作るスキルを磨いてきたことは誇っていいと思うけどな。ただ、境遇が違う俺たちがアイツの気持ちを真に理解することはできない。事例が違えど、薫子のときと一緒だな。
「私たちで元気づけてあげられないかな? だってこれまでイベントに参加してこなかった美里ちゃんが、今回は零くんたちと一緒に参加するって決意を表明したんだもん。。親友として背中を押してあげないと!」
「そうだな。俺たちと最初の一歩を踏み出したんだ。手を繋いで一緒に道を進まなきゃ意味がない。お節介かもしれねぇけどな」
「お節介なんて零くんの得意技なのに、そんなの今更だよ~」
「そんな笑顔で言うなよ……」
俺が押しつけがましいと思われるだろ。まあ間違っちゃいないが……。ていうか、俺の周りの女の子たちが爆弾を抱えすぎなんだよ。こちとら何度その解体作業をやってると思ってんだ。しかもいつ爆発するか分からないから毎度緊張するし……。
ただ、今回は俺の夢を見つけるためでもある。もし美里にドロップアウトされてしまったら、俺(と、ついでに穂乃果)がまた路頭に迷ってしまうかもしれない。病弱体質と聞いてこれまでは心配するだけだったが、ここまで親密になった以上は心に寄り添わないといけないな。
~※~
「ゴメンね美里ちゃん。せっかく家のお邪魔したのに、すぐ外に連れ出しちゃって……」
「うぅん。むしろ感謝しているわ。アイドル衣装やコスプレがあるお店って、地味なわたしだけではどうしても入りにくかったから、連れてきてもらえて嬉しいわ」
美里の気持ちを僅かでも晴れやかにするため、ことりの提案で外に連れ出すことになった。
来たのはアイドル衣装などコスプレを扱っている店。購入することはもちろん、レンタルで借りて撮影することも可能だ。コスプレと聞くとオタクっぽいイメージがあり、実際にキャラクターの衣装も多い。ただ昨今はサブカルチャーが現代に溶け込んでいる時代。一時のイベントや、それこそ学校の文化祭などでコスプレを見かけることも多くなってきた。つまりは一般にもある程度の認知はされている趣味のため、オタク界隈に噛んでいない一般人の客もそれなりにいる。
ただ、派手な衣装が並んでインパクトが強いため、美里のような引っ込み思案な性格の女子が一人で来るのはハードルは高いのかもしれない。
「これでお前のアイデアが刺激されてくれればいいんだけどな。好きなんだろ、こういうの」
「え、えぇ。でもどうして急にここへ?」
「引きこもっているよりも動くタイプなんだ、俺たちは」
「主に穂乃果ちゃんがじっとしていられないタイプだったからね……」
流石にお前のポジティブを引き出すため、なんてことは言えない。ただでさえ自己嫌悪に陥りそうな奴に、俺たちに余計な気遣いをさせていると更に負担をかけるのは逆効果だ。実力は本物なんだから、あと1ミリでも自信を持ってくれるだけでいいんだけどな。
最初は派手な衣装の軍団に圧倒される美里だったが、店内を回っている間に自分の興味の方が緊張を上回ったのか、途中からは目を輝かせていた。コイツがここまで前のめりに好奇心をさらけ出す姿は初めて見る。強引だったけど外へ連れ出したのは正解だったか。
そんな美里の様子を窺いつつ店内を回る。時折ノートにアイデアを書き留めているため、目論見通り刺激を受けているようだ。これなら衣装作りは順調に進みそうだな。
そして、そろそろ店を出ようとしたとき、入り口でとある二人とばったり遭遇した。
「雪穂ちゃん!? 亜里沙ちゃん!?」
「あれ、零くんにことりちゃん! 偶然だね!」
「お前ら、どうしてここに?」
「次のライブで使う衣装の生地を買いに来たんだよ。新曲だから、気合を入れて衣装も一から作ることになったの」
出くわしたのは雪穂と亜里沙だった。
高坂雪穂と絢瀬亜里沙。それぞれ穂乃果と絵里の妹であり、俺たちの2つ下で現在高校二年生。絵里たちの卒業を機に入れ替わりでμ'sに加入しており、進級後も新生μ'sとしての活動を続けている。現実主義で泰然自若な雪穂と、自由奔放で純粋無垢な亜里沙。性格は全く違うけど二人のコンビネーションはピッタリであり、妹キャラという推しが生まれやすい立場なのも相まってスクールアイドル界隈では人気が高い。また、少し前から読者モデルとして活躍もしているため、そっち方面での注目も徐々に高まっている。夢探しで道に迷っている俺と比べてよっぽど未来を見据えられてるな、コイツら。
「雪穂さんと亜里沙さん……? まさか、最近雑誌に載っていたあの!?」
「そうですけど……。えぇっと、この方は零君たちの大学の友達とか?」
「うん、川本美里ちゃん。私と同じ、海外でのファッションデザイナーの仕事を目指してるんだ」
「ことりちゃんと同じ……。だったら、英語ペラペラで可愛い衣装とかたくさん作れるんですか!?」
「え、えぇっと、それほどでもない……ですよ?」
なんでも興味を持つ亜里沙。相手の長所や趣味を褒めに褒めまくり、好奇心旺盛で話題に乗るその無邪気なところは何も変わっていない。まあ美里みたいに押しに弱い奴からすると接しづらい奴なのかもしれないけど……。
「つうかお前、なんだか余所余所しくないか? 敬語になってたし……」
「だってお二人が載っている雑誌はずっと購読していて、まだ高校二年生なのにボーイッシュとガーリッシュの服をペアで見事に着こなして、カッコいいと可愛いが両立して……なんていうかもう、素敵です!」
「要するにファンなんだな……」
「最近増えたよね、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんのファン」
「たまたまスカウトされてやってみただけなんだけど、そうやって目を輝かせてくれる人を見るのはやっぱり嬉しいね! 人を笑顔にするスクールアイドルと同じ楽しさがあるよ!」
「私は元々注目されるのは苦手だったけど、スクールアイドルで慣れちゃった。更に読者モデルだなんて、二年前の自分に教えても信じてもらえないよ絶対」
こうして見ると、この二人の大物感が半端ねぇな。スクールアイドルでも活躍し、読者モデルとしても既に地位を築いているなんて、いつの間にか手の届かない高みへ昇っちまったもんだ。こちとらまだ未来を探している最中だってのにな。
そして美里は絶賛感動している。コイツにも熱く燃える魂があったんだな。雪穂と亜里沙に出会ったのは偶然だけど、コイツの高揚を引き出してくれて助かったよ。
「零君たちはどうしてここに? って、そういえばお姉ちゃんから聞いてたっけ。スクールアイドルの応援イベントに参加するため、なんだよね? 海外受けする曲や衣装を作るって話」
「あぁ、その衣装担当が美里なんだ。だからインスピレーションを得るためにここへ来たんだよ」
「私も海外でのお仕事に向けて、今度コスプレ衣装とか複雑で派手な衣装を作ってみようと思ってるんだ。だから私も勉強中!」
「わたしはことりちゃんほど自信を持って夢を公言することはできないわ。でもだからこそ今度のイベントに参加して、少しでも自信をつけられたらなって思ったのよ。穂乃果ちゃんの輝きのおこぼれを授かりたい、って打算的な考えもあったけど……」
「それでもいいんじゃないかな。夢の海を渡って海外へ行くためだもん」
今まで孤独に自分の趣味を突き詰めてきた美里にとって、同じ夢を持つことりとの出会いは運命的だっただろう。こうして未知の世界に案内してくれることりに対し、美里は事あるごとに感謝をしている。今だってそうだ。世界に羽ばたきたいが、ずっと鳥かごの中に閉じこもっていた自分を、こうして外の世界へ連れ出してくれたんだから。
「自信かぁ。そういえば私も、最初はスクールアイドルをやることに全然自信がなかったよ。あったのはお姉ちゃんたちの一年間を見て、自分もやってみたいという単純な欲だけ」
「そうなんですね……。では、どうやって自信を得たのでしょうか?」
「そんな大した話ではないですよ。ただ仲間が隣にいた、それだけです。同級生の亜里沙と楓、そして先輩たちに零君。心強い人たちが隣にいたから。たったそれだけの理由です」
「私もだよ! お姉ちゃんたちのライブを観て凄いなぁやってみたいなぁって強い願いはあったけど、実際にいざスクールアイドルになってみると楽しいこともあれど不安なこともたくさんありました。でも雪穂と同じ、仲間がいたから自信を持てたんです! 読者モデルに参加してみようってなったのも雪穂がいたからだもん!」
「そう、ですか……」
美里は考え込む。今回を機に自分の殻を破る時が来たのかもしれない。これまで入院しがちなのも相まって、友達はそれほど多くないと本人が言っていた。つまり仲間という意識を持つことすらなかったのだろう。
ただ今回、穂乃果の誘いによってイベントの参観権利獲得のために活動を共にすることになった。自分のためみんなのため、ようやく動き出すチャンスが巡ってきた。これまでのコイツの人生からすれば好機に他ならない。あとはコイツがそれを素直に受け入れるかどうかだが……。
「ありがとうございます。雪穂さん、亜里沙さん。少しだけ、自信がついたような気がします」
「良かったです! 楽しみに待っています、美里さんのスクールアイドル衣装!」
「それだと美里さんがスクールアイドルになるみたいじゃん……。頑張ってください、応援しています」
「はい、ありがとうございます」
受け入れたのかは分からないが、とりあえず自分を悲観することはなかったようだ。繊細な、ガラス細工を扱うかのようなメンタルの弱さ。病弱体質が故の悩みってのは真の意味で理解してやれないけど、それでも仲間が隣にいることで多少なりとも勇気を与えられるものなんだな。俺もまだまだ学ぶべきことが多そうだ。
「じゃあ一通り見て回ったし、俺たちは美里の家に戻るか。衣装の案を考えないとだしな」
「そうだね。それじゃあ雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん、また今度! あっ、今度のライブも観に行くからね!」
「ありがとう! 零くんも絶対に来てね!」
「あぁ、分かってる」
「あとたまにはウチにも来てね。お母さんが零君の顔を見たがってるから」
「親戚の集まりじゃねぇんだから……」
絵里と希もそうだったけど、みんな元気そうで良かったよ。
全員と付き合うって決めたんだから、もっと積極的に関わっていかないとダメだよな。だったらなおさら夢なんて早々に見つけて、コイツらと優雅でゆったりとした日常を送りたいもんだ。
「零君、ことりちゃん。ゴメンなさい、店先で待っていてくれる? お手洗いに行ってくるから……」
「あぁ……」
美里もこれで前向きになってくれればいいんだけど、それもアイツの心の強さ次第ってことか。でも友達である俺たちがある程度なら支えてやれるはず。この店に来て色んな衣装を目の当たりにしたことや、雪穂と亜里沙の出会いで魂に熱さを感じたと思うから、あとはこのまま上手くいくことを願うばかりだ。
~※~
そして、女子トイレでは――――
「ゴホッゴホッ! こんな時に、わたし……!!」
To Be Continued……
大学一年生なので、ちょっとばかり力不足を感じる零君にしているつもりなのですが、読者の方に上手く伝わっているのかな……?
時系列上Aqours編以降をまだ経験していないので、比較すると若干察しの悪いところがあるかもですね。蓮ノ空編の彼が完全無欠で強すぎるとも言える。
今回のゲストは雪穂と亜里沙でした!
この小説の独自設定でμ'sメンバーになっていて、当時は読者の方に受けつけてもらえるか心配をしていましたが、もう一人の妹と合わせて好意的に受け入れられて安心した記憶があります!