ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 EX~   作:薮椿

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夢の情熱を燃やしていますか

「インスピレーションが湧いてこないわ。一切ね」

「マジかよ……」

 

 

 大学のキャンパス内、講義が開催されていない空きの教室。クロエ・テイラーは作曲活動に勤しんでいた。

 スクールアイドルの応援イベントに参加するため、何かしらの成果物を提出してアンバサダーになる必要がある。俺たちは海外向けの曲や衣装を作成して穂乃果が披露する、という案で進めているのだが、どうやらクロエの作曲の進捗は滞っているらしい。有名な作曲家系の娘だから円滑に進むのかと思っていたけど、コイツもコイツで苦戦しているようだ。薫子といい美里といい、一筋縄ではいかない奴ばかりだなホント……。

 

 

「そもそも、穂乃果(あのこ)の指示が抽象的過ぎるのよ。海外受けをするように、ゴージャスでフラッシーでショウイーって、知っている『派手』の単語を並べただけじゃないの。どういう思考をしているのよ、あなたの彼女は……」

「アイツは元々感覚派なんだ。面倒なことを考えず、とりあえずの思い付きで突き進んできた奴だからな。μ'sを始めた勢いもそんな感じだった」

「それはそれは、μ'sの作曲家さんも相当苦労したでしょうね」

「そりゃまぁ、うん……」

 

 

 そういや真姫も穂乃果の抽象的なイメージを形にすることに苦労していたな。アイツもストレートに気持ちをぶつける性格だから、穂乃果にクロエと同じ文句を言ってたっけ。それでも最終的には曲に落とし込むんだからすげぇ話だよ。

 

 

「で? どうすんだ? 他の奴らはタスクを順調に片付けてるぞ。止まっているのはお前だけだ」

「随分と厳しいのね、マネージャーさん?」

「人によって態度は変えるさ。お前はストイックだから、こっちもある程度のスパルタ精神を持った方がいいだろ」

「えぇ、そうね。おしりを蹴られた方がありがたいわ。薫子も美里も最近はやる気満々だから、こっちもギアチェンジしてエンジンをかけないとね」

 

 

 薫子も美里も腫れ物が落ち、そのおかげか最近は己のタスクをそつなくこなしている。薫子は各種申請やら広報や宣伝など事務作業、美里は衣装作りで持ち前の才能を存分に活かしている。だからクロエに割り当てた作曲の配役は適任だと思っていたのだが、軽くスランプ状態に陥っているようだ。

 

 ただ本人もこのままでは埒が明かないことを理解しているため、何かしら外部からの刺激を欲しているみたいだ。真姫も行き詰まったときは普段と違うことをして新鮮なアイデアを取り入れるって言ってたし、作曲って本当にイメージが重要なんだな。右脳が強くないと苦労しそうな仕事だ。

 

 

「困っているメンバーの問題を解決するのがリーダーの仕事でしょう? あなたのことだから、既に手を打ってあると期待しているのだけど」

「俺のことを評価しているのか、それとも無茶振りしてるのかどっちだよ……」

「どちらもよ」

「重いな、お前からの期待は……。でも連絡が来てからすぐ手を売ったよ。まあ海未に応援を求めたんだけどな。アイツもお前と同じ職人肌だし、スランプを脱するいい方法を知ってるんじゃないかと思ってさ」

「いい案だと思うわ。それで? 私にどんな刺激を与えてくれるのかしら?」

「大学の外に出るぞ。アイツと集合する約束はもう取り付けてある」

「急なのね……。でも善は急げというのが日本のことわざだから、素直に乗らせてもらうわ」

 

 

 なんでコイツちょっと上から目線なんだよ……。誰のために動いてんのか分かってんのか……。

 

 ともかく、コイツにスランプを脱してもらわないと他の奴らが頑張ったとて話が進まない。天才作曲家ってのは意外と気まぐれなんだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「スケート場……? どうしてここに?」

「μ'sで作詞を担当していた頃、行き詰った時によく色々なスポーツの大会を観戦していました。普段ではあまり感じることのない刺激を得られますよ。私からすれば、スポーツも立派な芸術の一つですから」

 

 

 海未と合流し、彼女の手引きでスケート場にやって来た。

 まさか俺たちにとって縁もゆかりもないスポーツの観戦を提案してきたことには驚いたが、いつも想像力を膨らませるために色々と挑戦していることは知っている。スポーツ会場だけでなく、美術館や水族館、時には全く経験のないことにも体験参加したりして非常にアグレッシブだ。今回のスケート見学もその一環なのだろう。特にスケートは優雅に技を魅せることに重きを置いているから、作曲家の想像も大きく活性化させられるかもしれない。これは海未にしかできなチョイスだよ。

 

 

「でも私、スケートのルールなんて知らないわよ? それでも楽しめるのかしら」

「安心してください、私もです」

「えっ、だったらどうしてここに?」

「いつもそうですよ。むしろ自分の知らないことだからこそ、新鮮な刺激が得られるというものです。とは言いつつも、今回は大会ではなくあくまで練習を見学させてもらうだけですけど」

「つうか無関係な奴が勝手に入れる場所じゃねぇだろ。ツテでもあったのか?」

「はい。母が少し関わりを」

「ふ~ん。とりあえず行ってみましょう。華やかな氷上の舞台、気になってきたわ」

 

 

 俺もスケートはニュースで見る程度なので詳しくは知らない。ただクロエの興味は結構昂っているようで、ここに来るまでの態度とは打って変わって楽しそうにしている。やはり同じ職人気質の奴にアドバイスを求めて正解だったな。

 

 海未の先導によりスケートリンクが一望できる客先に来た俺たち。リンクでは女の子が一人、パッと見ただけでも分かるくらいに華麗な技を披露して滑っていた。

 俺からしたら『綺麗だな』と小学生並の感想しかでてこないが、どうやらクロエは違うようだ。一瞬で目に光が宿り、リンクを舞う少女に釘付けになっている。やはり自身の想像を具現化する仲間として、相手の魅力に惹かれてしまうのだろうか。

 

 ただあの女の子、まだ中学生だ。確かにスケートは幼い頃からの教育と練習が必要だと聞く。それでも華奢な身体であそこまで魅惑のパフォーマンスができるなんて、昔からスケートに打ち込んできた賜物だろう。それだけ自分のスキルを具現化できるんだから、そりゃ同じくガキの頃から作曲を磨いてきたクロエが共感するのも当然か。

 

 

「あの子のところへ行きましょう。スケート靴はある?」

「部外者が勝手にリンクに上がれませんよ!? 下へ行って声をかけることくらいはできるかもしれませんが、選手の方と直接会う手はずにはなっていないので……」

「問題ないわ。この想像力が尽きない間に、可能な限り膨らませたいのよ。自分のインスピレーションをね」

「いいんじゃねぇのちょっとくらい。男の俺だけで女子中学生に会うのは憚られるけど、お前らみたいに容姿の整った女性なら向こうもあまり警戒しないだろ」

「分かりました。私が拒んでも勝手に会いに行きそうですし、会うだけ会ってみましょう」

 

 

 ここに来た目的からして、クロエの好奇心を抑えつけるわけにもいかないしな。

 

 俺たちは上階の客席からリンクの入口へと向かう。途中で選手の女の子たちと何度かすれ違ったが、歳に比べてかなり大人びている子が多い印象。やっぱり幼少期から特訓を重ねているから社交性も磨かれているのだろうか。夢の集まる場所として、今なお模索し続ける俺よりもあの子たちの方がよっぽど道を進んでいるのかもな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「村野つかさです! よろしくお願いします!」

「クロエ・テイラーよ、よろしく。さっきの練習を見ていたのだけれど、思わず目を奪われたわ」

「私の練習で……? ありがとうございます!」

 

 

 さっき練習で滑っていた女の子と対面した俺たち。

 そしてその名を初めて聞いたのだが、どうやら将来有望で既に表彰台の経験もあるようだ。それはもう有望とかではなく現在進行形の活躍のように思えるが、年齢的にもまだ伸びしろがあるってことだろうか。想像よりも物凄い逸材にエンカウントしたものだ。

 

 

「それで、お姉さんたちはどうして私の練習を見学に?」

「最初は誰かを目的としていたわけではないの。ここに来れば夢を形にする力が貰えると聞いて、最初は騙され覚悟だったわ。でもあなたの練習を見ている間に、その魅力とパフォーマンスに感動した。指の先一本一本に込める美麗な立ち振る舞いは、まさに氷のリンクに舞う妖精のようだったわ」

「そ、そんなそこまで褒めていただけるなんて、ありがとうございます!」

「あなたは私のインスピレーションを生み出してくれるかもしれない逸材よ。どうかしら? 今後は私の隣で舞い続けてもらう、というのは。テイラー家の名にかけて、あなたのスケート人生に不自由を刺せないわ」

「えっ、それって何かのスカウトですか……? もしかしてお姉さんたち、そういう手口で怪しい勧誘に誘おうとしていますか!?」

「違います! 単にこの人が大袈裟なだけで、私たちはごく普通の観客ですから!」

 

 

 海未のその言い訳の方が苦しいと思うが……。

 にしても、表面上では分かりづらいけどテンション上がってんなぁクロエの奴。これまでクールで皮肉屋な一面しか見たことがなかったから、ここまで直球に人を褒めることができたんだなと驚いたよ。ただ初対面の人に忖度のない善意は必ずしも有効ではなく、実際この子に怪しまれちゃってるけど……。てか中学生でそこまで警戒心を持てるなんて中々に賢いな。もしかしたら過去に似たような勧誘があったのかもしれない。子供の頃から大人の対処に慣れてりゃ、そりゃ早熟もするか。

 

 もしかしたら追い出されそうな勢いだったが、俺と海未がここに来た目的を素直に話してなんとか理解を得られた。

 しかも同じスランプをこの子も抱えたことがあったそうで、理由を聞いた瞬間にさっきの疑いは消えて一気に共感を持ったらしい。まだ出会って間もないのに心で意気投合したようだ。

 

 

「わたしの練習で曲のインスピレーションが生まれるだなんて、なんだか光栄です。芸術家の方に褒められたことがないので、ちょっと恥ずかしいですけど……」

「誇っていいのよ。毎日その情熱を感じさせてもらいたいくらい」

「またそんなことを言ったら怪しまれますよ……」

「あはは、もう慣れましたから大丈夫です。ただわたしは金沢出身でたまたま遠征練習で来ているだけですから、残念ながら一緒にはいられないかと……すみません!」

「いえいえ、つかささんが謝る必要はないですよ!? クロエさんも、あまり困らせることを言わないでください……」

 

 

 なんでもドストレートに物言いする性格が災いしてやがる。相手が気を遣える大人びた子だからいいものの、並の中学生だとクロエの圧に逃げ出してもおかしくないな……。

 

 

「わたしは嬉しいですよ。そうやって目を輝かせて『凄い!』って言ってもらえるの、妹以外からそうそう聞けるものじゃないですから」

「あら、妹さんがいるの?」

「はい。ずっとわたしを応援してくれている、可愛い妹です。将来はお姉ちゃんと一緒にスケートリンクに上がるんだって、夢まで語るくらいです」

「奇遇ね、私もよ。ただ私を応援してくれているかどうかは……。それに同じ夢も……うん、今は関係のない話ね」

「……?」

「気にしないで。妹は大切にしなさい。純粋に応援してくれている今だからこそ……ね」

「クロエさん?」

 

 

 なんだか妙な空気になっちまった。クロエに妹がいるってことは聞いていたが、まさかそこまで良好な関係ではないのだろうか。いや自慢の妹だと豪語することもあったから、喧嘩したり、まして離別してるってわけでもなさそうだけど……。

 

 村野つかさはここでも大人で、クロエの発する重苦しいオーラを感じ取ったのかこれ以上話題を広げることはなかった。中学生に気を遣われてどうすんだよと思ったが、誰にでも触れられたくない話題があるのは事実。でもさっきも言った通り、妹の話題だけなら地雷ではないはず。村野つかさとの会話の中で、他に何かトラウマを触発するないようがあったのだろうか。

 

 

「ごめんなさい、なんでもないの。そういえば遠征しに来たと言っていたけど、あとどれくらいこっちにいるのかしら?」

「実は明日の夕方までなんです。わたしもクロエさんが有名な作曲家さんだって聞いて、表現力を磨くためにもっとお話ししたいなぁと思っていたのですが……。また今から練習の続きもありまして……」

「もうすぐ帰っちゃうのね。残念だわ。でもまた会える機会はあるわよ、きっと。今日はありがとう。あなたのおかげでいい曲が書けそうよ」

「そ、そうですか……。いつか、クロエさんのその曲を聴いてみたいです!」

「えぇ。もし完成したら……ね」

 

 

 クロエの意味深な発言でこの場は締めくくられた。こんなに期待してくれているのにぶっきらぼうな奴だな。ただ曲のインスピレーションが湧いて出たとは言ってたし、これでコイツの問題は解決したのか? だといいんだけど……。

 

 

「私からもありがとうございます、つかささん。見知らぬ私たちに時間を取ってくださって、感謝します」

「いえいえ! わたしの舞台もまた観に来てくださると嬉しいです!」

 

 

 最初から最後まで人あたりが良い奴だったな村野つかさ。思いがけない出会いだったが、再会することはあるのだろうか。別に金沢に用事があるわけでもないから、秋葉に面倒事を押し付けられない限りは行くことはないかもしれない。

 でもコイツの活躍は気になるし、動向くらいはチェックしておこうかな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「どうだ? 曲作り進みそうか?」

「えぇ。新鮮な刺激を得られたから。夢を叶えるためにあそこまで一直線な子、なかなかいないわよ」

「そりゃ良かったよ。海未もありがとな、付き合ってくれて」

「時間があれば手伝うと最初から言っていましたし、問題ありませんよ」

 

 

 スケートの練習場を後にして帰路に着く。

 これで薫子や美里と同様に順調に事が進むだろう。穂乃果はなんだかんだ上手いことやるからいいとして、あとは俺自身か。結局どんな夢を持つかはまだ決まってないんだよな。イベントに参加するどころか、その参加のために四苦八苦しているからまだまだこれからなんだろうけど。このまま続けて本当に自分のやりたいことが見つけられるのか、少し心配になってきたぞ。

 

 

「そういえばあなた、妹がいると言っていたわよね?」

「ん? あぁ、それがどうかしたか?」

「仲は良いのかしら?」

「仲がいいと言われたらいいし、まあ……うん」

「なぜこちらを見るのですか……。あなたと楓の関係は――――いや、私の口からは到底言えません」

「え、なに? あなたと妹さんの間に何があったの? でも深刻な戸惑い方ではないから、仲が悪いわけではないようね」

 

 

 血の繋がった実の妹でありつつも男女の付き合いがあるなんて言えるわけないだろ。海未もそれを察してか自分に話を振られないように目を逸らしている。いくら大学で新しく友達になった奴と言えども、妹との関係を安易に赤裸々にはできないよな。ただでさえ穂乃果、ことり、海未と三股してるって疑われているのに……。

 

 

「そんなことを聞くって、お前は妹と折り合い悪いのか?」

「特に喧嘩をしているわけではない。ただ悪くないとも言えないわ。複雑なのよ、色々とね。ただ、今日つかさと会って思い出してしまったのよ。妹と、無力な自分のことをね」

「それってどういう……」

「今日はありがとう、助かったわ。曲は近々完成させるから、また聴いてちょうだい。それじゃ」

「お、おいっ!」

 

 

 村野つかさの練習風景で目を輝かせていた興奮はどこへやら、普段以上に無愛想な態度でこちらの制止を無視して帰ってしまった。いつもの感じと言われればそうなんだけど、アイツの言葉を信じて大丈夫なのだろうか。

 

 

「クロエ、大丈夫でしょうか? 浮かんできたインスピレーションを整理しているから、早く帰って形にしたい……とかなら分かるのですが」

「妹と夢の話が絡み合ってから、ちょっと心が沈んでいるようにも見えるな」

「なるほど。どうやらまたあなたの出番みたいですね」

「人の過去にそう簡単に踏み込めるかよ。って言いたいけど、本当に曲を完成させられるのかも怪しいし、余計なブレーキがかかっているのなら心の内を晒してもらう必要がありそうだ」

「心のメンテナンスはあなたの得意技ですから、頼みましたよ」

 

 

 薫子といい美里といい、何かしら問題を抱えた奴しかいないのかよ俺たちの友達は。

 ただ個々人の問題を解決するのが俺の役目。スクールアイドルの応援イベントに参加するため、その最後のピースであるアイツの心を開いてやる必要があるみたいだ。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 スケート詳しくなくて日常会話で話をすることもなかったので、スケート『リンク』を『リング』だと今まで思っていました……。執筆途中で念のために調べてみたら違っていることに気付いたので、もし文中で修正されてない箇所がありましたら遠慮なく誤字連絡してください!

 クロエの話は虹ヶ先のミアの話や映画でも語られていたので、一応公式の設定に沿う形にしてみました。この小説では映画の話を取り扱っていないので、こういう番外編でこそ設定を回収したいなと思っています。

 そして、今回のゲストキャラは蓮ノ空から村野つかささんでした!
 零たちが大学一年生の頃だと、彼女は多分中学生くらいのはず……?
 ちなみに、実は103期編でも104期編でも登場する機会を逃してしまっていたので、今回いいタイミングだと思い参戦させてみました。彼女も彼女でさやかとの仲が少し拗れることがあるので、クロエとの過去にも通ずるキャラなのかなと思います。



 なお、このスピンオフもあと3話くらいで完結の兆しが見えてきました。
 早くも終盤となりましたが、最後まで応援していただけると嬉しいです!

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