「なんと! なんと! なんと私たち、スクールアイドルの応援イベントに参加できることになりましたー!」
紆余曲折ありながらも、俺たちはイベント参加の権利を獲得した。
スクールアイドルを応援するイベントに参加したいものの、そのためには公式のアンバサダーとして活動するに足りる実力があるかの審査が存在した。応援くらい好きにさせてくれよと思うのだが、公式の看板を背負って動く以上、非常識なアクションを起こす奴らを事前に振るい落としたかったのだろう。マジで一般常識が欠如してる奴らって一定数いるからな。スクールアイドルというコンテンツを利用し、自分がバズることだけしか考えてないような奴らも当然出現する。真っ当にイベントに参加したい奴からしたら面倒な話だが、事前審査のおかげで信用性が担保できるのであれば誰も文句は言わないだろう。
その審査の合格に向け、俺たちもその準備に日々奔走していた。
様々な問題に直面しながらも、無事に全て解決して準備完了、そして穂乃果の歓喜の報告に至る。俺たちはスクールアイドルというコンテンツを全国規模から世界規模へランクアップさせるため、海外向けの曲と衣装を作ってライブをするという中々の暴挙に出た。歌詞は英語が主体のためライブを披露する穂乃果は苦労していたが、そこはやはりやると決めたことには一直線のコイツのこと、見事にライブをやり通すことができたんだ。
ちなみにそのライブの動画は想像以上に反響があり、それだけ注目を集めた功績は公式にも認められた。故にスクールアイドルの応援イベントに参加することが決まったわけだ。ぶっちゃけ審査時点でコンテンツに貢献しまくっているような気もするが、ここから更にスクールアイドルに注目を集めなきゃいけないなんて、かなりハードだな。
だが、ここで一応は一区切り。最初の関門を乗り越えたことで穂乃果は既にやり切った雰囲気を醸し出しており、そんな彼女の発案でイベント参加仲間のクロエ、薫子、美里と共に打ち上げをすることになった。大学の食堂でやるのはどうかと思うが……。
「審査が通っただけで本番はこれからなのに、打ち上げってどうなのよ……」
「だってここまででもたくさん頑張ったんだよ!? ご褒美の1つや2つないとモチベーションが保てないよ!」
「いいんじゃない。どこかで一息つくタイミングを作らないと、今後公式から来る無茶振りに精神が参っちゃうかもしれないよ」
「えっ!? スクールアイドルの運営ってそんなにブラックなの……? 別の意味で入院になったりしない……わよね?」
「冗談冗談! でも設立されてまだ数年の間もない企業なのは確かだし、スクールアイドルを盛り上げる手段もまだ未熟なはず。だからこうして有志を募っているわけだしね。忙しくなる覚悟はしておいた方がいいかも」
病弱体質の美里にプチブラックジョークをかます薫子。冗談ではないが、言ってることは事実なんだよな。スクールアイドルを応援するイベントを開くって、具体的に何をするのかさっぱり思いつかない。俺たちみたいな個人製作程度ならいくらでも出せるが、公式が動くからにはもっと盛大に宣伝する必要があるのだろう。
「どんな難題が来ても、今の私たちなら簡単に乗り越えられるよ! だって準備をする中でこんなに仲良くなったんだもん! 絆が紡がれる瞬間を体験するのは、やっぱり心が躍るね!」
「そうね。わたしはこうしてみんなと一致団結して1つを作り上げるなんて経験を全然してこなかったから、とても新鮮で楽しかったわ。それにずっと抱えていた悩みも振り切ることができたのも、みんなのおかげよ。前向きに生きよう、なんて決意したのなんて初めてだったから。特に絶望の淵に堕ちかけていたわたしの手を握ってくれた零君には、心の底から感謝をしているわ」
「そうだね。過去のトラウマを払拭してくれて、仲間と一緒に1つの夢を目指す楽しさを教えてくれた。昔のことは昔のこと、今を全力で楽しむ。そうしたら確執のあったかつての仲間とも再会できるチャンスがある。そんな希望を見せてくれたのが穂乃果ちゃん、そして零君だよ。ありがとう」
「人の心の中に土足で踏み込んで来る無礼さは気になるけど、そのおかげで救われたのよね。ただ付き纏われて鬱陶しとは思わなかった。図々しい性格ながらも適度な距離感で、この人なら悩みを打ち明けてもいいと思えるくらいの安心感を与えてくれる。私があそこまでプライベートを人に話したのはあなたが初めてよ。助かったわ」
まさか全員が地雷持ちだとは思っていなかった。でも自分の夢を見つけるためにも、コイツらには働いてもらう必要がある。そう、あくまで誰のためでもなく自分のためだ。そのついでにコイツらが救われるのであれば、それはそれで構わない。もちろん感謝されるのであれば素直に受け取るけどな。
「みんな零君に助けられてる……。高校時代もそうだったけど、零君ってやっぱりカウンセラーとかそういう仕事に向いてるんじゃない? あっ、じゃあもう夢は決まったね!」
「勝手に他人にレールを敷くなよ! 何度も言ってるけど、俺はメンタルケアを職業にするつもりはない。お前らに必要以上に関わったのもイベント参加するためのついでだ」
「例えついでであっても、キミが私たちを救ってくれた事実は変わらない。私たちはキミが思っている以上に感謝してるし、それをもっと誇っていいんじゃないかな」
「素直には受け取るけど誇る、ねぇ……。こっちとしては当然ことをしてるだけなんだけどな」
「むしろ当然のように誰かの悩みを解決できる方が凄いと思うわ……」
俺としてはもっと自己解決してほしいと思ってるよ。でもそのおかげで女の子たちとの出会いがあったり仲良くなれたりするきっかけになるので、手間はかかるが悪いことばかりではない。今回みたいに相手の内面を知ることができるのも、相手が胸の内を晒しても良いと思ってくれる関係性を築けているからだろう。さっきは否定したが、やっぱりそういった仕事の方がやりがいを感じらるのかな?
「そういや穂乃果お前、夢は見つけられたのかよ?」
「う~ん、どうだろ? 今はスクールアイドルを応援することが楽しいって思えるけど、それを自分の将来にするのかはまた別問題なんだよねぇ。誰かの喜ぶ顔を見たいとか、笑顔にさせたいとか、ふわっとした夢はあるんだけど、それだとまだ具体的じゃない。ことりちゃんや海未ちゃんみたいに、こんなことをやりたいとバシッて言い張れる何かが思いつかないんだよ。零君はどうなの?」
「俺もまだだ。今回やったことはお前らのサポートだし、結局それはμ's時代と何も変わらない。ただまだイベントの参加権を勝ち取っただけだし、これから見つけられればいいと長い目で見てるよ」
「うむむ……。そんな悠長でいいのかなぁ……」
「そもそもまだ大学一年生なのだから、そこまで真剣に悩む必要はないのではないかしら?」
「う゛っ!? それことりちゃんや海未ちゃんにも言われた……!! 既に未来を見定めている人の余裕のあるセリフ……!!」
イベント参加する前にアイツらから受けた励ましによるダメージ。また受けてやがる。でもクロエたちからすれば焦る必要はないと言いたくなる気持ちも分かるよ。ただコイツら三人も夢を見据えられている側なので、穂乃果だけでなく俺も少なからずダメージを受けるわけだが……。
でもイベント参加する前と比べると、全くのお先真っ暗というわけではない。穂乃果と同じく具体化できていないだけで、目指すべき夢は形が整いつつある。
俺が将来を見据えるべき、その夢は――――
~※~
打ち上げから数日後。公式から正式な連絡が来るまで待機することになったため、俺たちの活動はいったん休止となった。
またしても暇な時間が続いているわけだが、この間にも穂乃果のライブ動画の反響は伸び続けており、世界へ向けたスクールアイドルの発信という俺たちの目的は十分に達成されている。海外の人たちからコメントも多数投稿されていて、それを翻訳して承認欲求を満たし続けることで毎日を潰していた。
そんな中、俺と妹の楓は穂乃果の実家でもある和菓子屋『穂むら』へ向かっていた。
近々海外にいる母が一時的に帰って来るので、母が好物の『穂むら』の和菓子を買っておこうという楓の提案によるものだ。
「夢ねぇ。そんなこと考えたことなかったなぁ」
「お前はそりゃな。どうせ俺の隣にいられるだけで満足なんだろ」
「そうそう。でもその夢はもう叶えちゃってるけどね。兄妹でもあり恋人でもあるなんて、あまりにも甘美な響きでその事実だけでこの先一生を幸せに過ごせそうだよ」
「人生の満足が早すぎる。次の夢はねぇのかよ」
「結婚して子供を作るとか? 近親相姦という禁断の愛をどこまで熟せるのか、今からでも楽しみだよ!」
「捻じれた夢だな……」
とか言いつつも俺も受け入れてしまっているので人のことは言えない。ただ夢は人それぞれとは言え、流石にコイツの夢は誰にも明かせない。一番怖いのがコイツが周りに嬉々としてバラすことくらいだ。どんな社会的制裁が待ち受けているのかコイツも理解しているだろうが、幸せの絶頂に昇り詰めたコイツならやりかねないんだよな……。
参考にならない夢を語られながらも『穂むら』に到着する。
店に入ってみると、いつもとは違う雰囲気に俺たちの足が止められた。
「なんか、結構お客さんいるね」
「あぁ。なんかイベントでもやってんのかな」
老舗の店舗とは思えないくらいの客数だ。穂乃果も雪穂も俺たちが来店したことには気づいておらず、二人でせっせとレジで注文を受けたり店内飲食を運んでいる。奥では二人の親が忙しなく厨房を回しているのだろう。
「もしかして穂乃果先輩のバズ動画が影響してる? 先輩や雪穂がライブをした後は、新規のお客さんももちろん常連のお客さんもたくさん来るって言ってたから」
「だろうな。看板娘たちの活躍に押されたんだろ」
「前もって予約しておいて正解だったね。これだけ忙しそうだと時間通りに受け取れるか怪しいけど……」
「あぁ。急かすのも悪いし、あっちで座って待つか」
受け取り予約はしているものの、一番忙しいであろう昼時に時間設定したのが間違いだったな。
でもまさかここまで客が訪れるとは予想していなかった。今もスクールアイドルを続けている雪穂のファン(和菓子店なので大体がおじいちゃんやおばあちゃんが多め)が定期的に来店しているという話はよく聞く。だが一年前、つまり穂乃果もμ'sに所属していた頃の店の客数はかなり伸びていた。穂乃果と雪穂の看板娘二人が一緒にスクールアイドルをやっているとなれば、そりゃ老若男女のファンが集まるのも不思議ではない。
そして今回、穂乃果のライブが久々に公開された。となれば看板娘のファンたちが盛り上がるのも必然で、こうして『穂むら』の客足が伸びるのも当然のことだ。元々そこまで客が多い店ではなかったのだが、嬉しい悲鳴かこれだけ集まれば売り上げも安泰だろう。まあミーハーな客が増え、和菓子目的よりも穂乃果や雪穂目的の人たちがいるのは和菓子の店としては思うところがあるだろうが。看板娘が宣伝になればそれはそれで嬉しいことか。
受け取り時間は過ぎているが、この忙しさなので文句を言わず待つことにした。
その間に穂乃果の様子を見ていたのだが、どの客に対しても笑顔を絶やさずに接客をしている。いつもの光景と言えばそうなんだけど、常連であろうとも自分のファンであろうとも、和菓子の感想や自身への応援、どんな客だろうがどんな会話だろうがその明るいテンションを決して崩さない。その朗らかな性格が常連客もファンも引き寄せ、みんなが笑顔で店を出る。流石はμ'sでリーダーを務めていたカリスマ性。その人気で集客率を上げられるのも当然だ。
しばらくすると客足も落ち着いてくる。
店が空き始めてレジも雪穂1人で回せるようになったためか、ようやく穂乃果が俺たちに注文していた和菓子を紙袋に入れて持ってきた。
「待たせすぎちゃってゴメン! お詫びとしてお父さんが追加で何品か入れてくれたから、それで許して!」
「別にいいよ。さっきの盛況っぷりを見て急かす奴はいない」
「そんな忙しい中でも営業スマイルは忘れないなんて、商売根性が根付いてますね~」
「営業じゃないよ! 心からのスマイル! 笑顔!」
そもそもウソは苦手なタイプだから、表情を作ってもすぐバレる。それにコイツの笑顔は一級品だからこそ、客たちに見せていた笑顔が屈託のないものだと分かる。コイツはいつだってそうだ。その嫌味なくらい前向きなところはμ'sの奴らを始め、様々な奴らを引っ張ってきた。薫子だってコイツに救われたようなものだしな。
「そういえば私ね、夢を見つけられた気がするよ」
「えっ、いきなり? 前の打ち上げから時間経ってないけど、何かきっかけがあったのか?」
「うん、さっきレジ番をしているときにね。いつも来てくれる常連さんも、私や雪穂目的で来てくれる人も、単に和菓子が好きでふらっと立ち寄った人も、目的はどうであれみんな満足そうに帰っていくの。その姿を見て、私はやっぱりみんなの喜ぶ笑顔が好きなんだって思ったんだ。私のライブ動画にコメントがたくさんついていたけど、それも同じ。コメントをしてくれた人が目を輝かせているところを想像するとね、私も嬉しくなっちゃうんだよ! だから決めた! 私、みんなに笑顔を届けられる存在になりたい!」
「具体的に何をするか考えているのか?」
「まだ確定じゃないけど、この店を継ぐことかなって。絵里ちゃんや希ちゃんみたいに、スクールアイドルの会社でアルバイトをするでもいいんだけどね。でも生まれてからずっとみんなを笑顔にしているこのお店を継いで、ここに来てくれる人に喜びを与え続けたい。そう思ったんだ。ことりちゃんや海未ちゃん、それこそ薫子ちゃんたちと比べれば小さい夢かもしれないけど、でもこれこそが私にしかできない笑顔を届ける方法なんだよ」
まさか夢が自分の実家を継ぐことになるとは、コイツならもっと壮大なことを成し遂げられるはずなのにかなり堅実な未来だ。ただ物心がついた頃から見てきた笑顔を、そしてこれから『穂むら』が映してくれるだろう客の喜ぶ姿を、その場所を継ぐことで拝み続ける。笑顔を提供し、提供され合うそんな関係をコイツは夢として望んでいるんだ。
「いい夢じゃないですか。穂乃果先輩にしては」
「ふっふっふ、でしょ? 楓ちゃんから素直に褒めてもらえるなんて、私にしてはよくやったよ」
「喜びのハードルが低い……。でもこれでお兄ちゃんだけが迷子状態だけど、どうする?」
「…………」
穂乃果は自分の道を見定めた。
俺だけが取り残される形となったが、さっきの穂乃果の決意を聞いてこちらの道を開拓できたような気がする。
俺の目指すべき場所は――――
「お前が誰かに笑顔を届ける役目なら、俺はお前の、そして笑顔を届ける人たちの笑顔を守るよ」
「誰かの笑顔を守る……。零君らしいね」
「気付いたんだ。薫子や美里、クロエの悩みを解決して、俺はカウンセラーよりも未来へ羽ばたこうとする奴らを見守る方が性に合ってるって。実際にお前らμ'sの時だってそうだ。俺は表舞台には立たないけど、ソイツらを守り導くのが俺の役目。そしてその笑顔と笑顔を繋ぐ架け橋に、俺はなりたい」
「素敵な夢だね。とても納得したよ。だって零君そのものだもん、その夢」
「お兄ちゃんと穂乃果先輩も、どちらも夢を届けるって目的では一緒だけどね。似た者同士なところがあるなとは思ってたけど、まさか夢まで似てるなんて……。でもいいんじゃない。むしろそれ以外の夢を語られたら私が許さなかったよ。解釈違いだーって」
「どうしてお前に許されなきゃいけねぇんだよ……。ただそうだな、自分でも自分らしい夢を形作れたと思ってるよ」
実のところは今までやって来たこととそう変わらない。延長線上と言えばそうなのだが、将来に向けて意識するのとしないのでは全然違う。自分のためにという方針は変わらないけど、誰かの笑顔を守るという決意があれば自分がやりたいことも明確になる。頑張る誰かを応援する、そんな仕事があるとすれば――――
「零君、教師に向いてるんじゃない?」
「やっぱり? 俺も今そう思った。でも俺は自分なりのやり方で自由に教える方が性に合ってるから、教師なんて型にハマってる職業はマッチしないと思ってるよ」
「似合ってると思うけどなぁお兄ちゃん。女子高の教師をしてる姿が容易に想像できるよ」
「なんで女子高って決めつけてんだよ……」
「いやお兄ちゃんに男はねぇ……。女子生徒に囲まれて色目を使われてる姿が目に浮かぶ浮かぶ」
「あははっ! なんなら高校の時からずっとそうだったもんね!」
「お前らなぁ……。夢は決まったけど、具体的にはまだ確定してねぇから! ったく……」
そんな男の都合のいい妄想のような物語が容易に起こり得るかっつうの。しかもまだ大学一年生だぞ? スクールアイドルのグループのような少人数ならまだしも、学校のクラスのような集団を指導する能力はまだない。似合ってそうな職業ではあるけど、これからの未来その道を歩むかは今後の自分の選択次第だな。
朧気ながらでも己の夢を形にすることができた俺と穂乃果。スクールアイドルの応援イベントに参加する前の意気込み、自分の夢を見つける目的は無事に果たされたと言ってもいいだろう。
だがイベントも大学生活もこれからが本番だ。この夢を胸に抱きつつ、この先どんな子たちと出会うことになるのだろうか。今からでも楽しみだ。
大学生編スピンオフ、これにて最終回となります。短い間でしたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
実はあと1話を予定していたのですが、話の構成的に話数を伸ばす必要がなくまとめられたので、事前に予告はできませんでしたが1話にまとめました。結果的に間延びせずコンパクトに抑えられてよかったと思います。
時系列的にはこれからAqours編以降に繋がっていくわけですが、女の子の笑顔に拘る原点がこの章のお話でした。
内容的にシリアス色が強い話になってしまったのですが、スピンオフなので好きなようにやらせてもらいました!(笑)
淡々とした展開が続いてしまったのでもしかしたら途中で退屈されてしまった方もいるかもしれませんが、μ'sメンバーの登場や虹ヶ先のサブキャラたち等々、普段見られない絡みを描くのもメインの1つでもあったので、そこでお楽しみいただけたのであれば幸いです。
次回からは新章、本筋のストーリーに戻ります。
どこが舞台になるのか、予想しながら来週をお待ちいただければと思います!