やぁ、桂城泉だ。
突然だけど、私の趣味は『人間観察』だ。よくセラスには趣味が悪いと言われているが、これは私が他人と仲良くなるための秘訣だ。話し相手の服装や持ち物、筋肉の付き方などから身体的、精神的情報を感じ取る。人の本質を見極めることは、その人の魅力を知ることに繋がる。幼い頃からその能力を無意識に発揮して磨き続けてきた結果、蓮ノ空にもすぐ打ち解けられたよ。蓮ノ空の生徒も先生たちもみんないい人だった、というのもあるかもしれないけどね。スクールアイドルクラブのみんなもセラスと共に歓迎してくれて、嬉しい限りだったよ。
私はそうやって様々な人の真価を見通してきた。蓮ノ空に転入すると決めたのも、クラブの人たちの情熱と面白い未来を創る素質に惹かれたからだ。特に花帆先輩の突拍子もない予想だにしない発想力、小鈴さんの比類なきチャレンジ精神、卒業した慈先輩の自分の可愛いが一番と豪語する傍若無人、この破天荒3人は魅力的に映った。もちろん他のメンバーにも心を奪われ、なんならスクールアイドル以外の人たちみんなの輝きにも惚れてしまった。こんなことでは、またセラスに目移りし過ぎと怒られてしまうかもしれないね。
そんな目を引く人たちがいる蓮ノ空の中で、異彩を放っているのが先日転入してきた彼だ。
神崎零君。高校三年生で私の先輩だけど、年齢は中学三年生くらいだと吟子たちから聞いた。ただそれも本人の自己申告であり、年相応以下の背丈からすると実年齢はもっと下ではないかと疑っている面もるようだ。それでもクラブのみんなは彼の正体などさほど気にしてはいないようだけど。それ以上に彼を想う気持ちが強く、甘酸っぱい青春の恋に夢中になっているようだ。
恐らくだが、みんなの魅力を際立たせているのは彼だ。彼への愛で自分をよりよく魅せようと努力しているが故、ライブでも観客の目を惹きつける。
あそこまで花帆先輩たちのポテンシャルを引き出せる彼の実力は底知れない。私の観察眼をもってしても、未だに彼の奥底は見通せない。みんなの底が浅いと言っているわけではない。彼が深すぎるだけだ。まるで深入りされるのを拒んでいるかのよう。だから気になってしまうんだよ。私は気になってしまうと、ついつい探求心を抱いてしまうタイプなんだ。
つまり――――
「おい。どうして俺に付き纏うんだよ……」
「そんなストーカーみたいな言い方は心外だね。せっかく再会したんだ。もっと交流を深めようじゃないか」
「どうしてどいつもコイツも……」
「おや、私以外にもあなたに注目している人がいると?」
「柳田だ。妙に俺のことを疑ってやがる」
「セラスも未知との遭遇が大好きだからね。あなたと再会できて嬉しいという気持ちもあるだろうけど、それ以上にあなたのことをもっと知りたいのさ。あなたは叩けば叩くほど面白いエピソードが出てくる、そう思われているんだよ」
「叩けば埃が出るって言ってるようなもんだろ。やっぱ探りを入れに来てんじゃねぇか」
零君が迷惑に思うのは尤もだけど、彼自身も明らかに真相を隠しているのがバレバレだからおあいこだ。そんな思わせぶりなことをされたら気になってしまうのも仕方がないだろう?
そもそも蓮ノ空は女子高だ。だけど彼はもちろん男子。本来転入することはもちろん、学校の敷地に入ることすらできないはずだ。だがそれを不審に思う人は誰もいない。特に二年生や三年生、先生たちなど去年から彼と面識のある人たちは特にだ。なのに彼は校内を闊歩できている。
どうして……?
「待ってくれ、零君。どうして急に早歩きになるんだい?」
「余計な話に付き合っている暇はないんだ。茶道部に『茶碗が盗まれたから助けてくれ』って依頼が来てるから、そっちに行かねぇと」
「まさか泥棒? 売ってお金にするとか?」
「高校の部活で使う程度の茶碗に値が張るものなんてねぇよ。猫の仕業だ。いるんだよこの学校に、綺麗な物を盗む怪盗気取りの猫がな。そういや前にブラスバンド部も被害に遭ってたっけ」
「そうか。なら私も同行させてもらおうかな。自分で言ってしまうけれど、助手としてはうってつけの人材だと思うよ」
「そうだな。もし秘書を取るなら梢かさやか、あとはお前がいい。相棒枠は既に埋まってるんでね」
「それは光栄だ」
驚いた。てっきり同行を断るかと思っていたからだ。私がただの交流をしに来たわけではないと彼も気付いているはず。だからこれ以上は一緒にいたくないと考えている、そう踏んでいたけれど……どうやらそこまで単純ではないようだ。そして一切の焦りが見えない。秘密を暴かれそうだから必死に隠している様子もない。これまで二度転入してバレていなかったんだ。秘匿することに慣れているのか……。
やはり、普通の中学生にしては達観しすぎている。去年のセラスが彼と同じ中学三年生だったけど、あの頃のセラスは――――まあ追い詰められていた影響で、彼女も随分と頑張っていたから中学生離れした努力と言われたらそうだけどね。でも彼は根付いているポテンシャルから同学年の子たちと違いすぎる。
いいね、更に興味が湧いて来たよ。人との出会いにここまで躍動するのは初めてだ。彼のナイトとしてずっと側に控えてお仕えし、その未来を見届けたい。そんな願いを抱こうとしてしまうくらいには、ね。
「ったく、去年は吟子たちが周りにいることが多かったけど、アイツらの方がよっぽど可愛げがあったよ。先輩先輩って、じゃれてくる犬みたいだった」
「参ったな。その言い方だと、私は厄介者ってことにならないかな?」
「大型犬を飼いならすのは手間がかかる。まずは主人の実力を見せつけて、従順になってもらわないとな」
「えっ……? あぁ、なるほど。あははっ! 同行の許可を出したのはそれが理由なんだね」
「さぁ。どうだろうな」
相手を逆撫でさせるほどにいつも自信満々。皮肉すら現実にしてしまうほどの実力の高さ。みんなが彼に惹かれる理由の一つがこれか。瑞河の時もその手腕の一端を発揮してくれて、その潜在能力の高さに目を見張っていた。そして同じ学校で同じ部活になった今、彼の活躍を間近で何度も観られると思うと楽しくて仕方がないよ。ドラマや映画で観るだけだった存在が、急に自分の生活範囲に現れたんだ。興奮しないわけがない。
「ただ1つ、勘違いしていると思うから誤解を解いておきたい。私はセラスと違って、決してあなたの秘密を暴こうとは思っていない。あなたのことが本当に興味深くて気になっているだけなんだ。ここまで私の探求心を刺激する人とはこれまで会ったことがないからね。どうしても一緒にいたいんだ。あなたの活躍の光を、どうしても隣で浴びたい」
「勝手にしろ」
「惚れるのも勝手にしていいかな?」
「好きにしろ」
分かったことがある。私、主人公タイプの人が好きなんだ。これは異性の彼だからというわけではなく、そういう傾向としての話。だから花帆先輩や小鈴さん、慈先輩みたいな、全体を牽引する力を持つ人に惹かれてしまう。私自身が人生モノクロな期間が長かったからこそ、周りに彩を与える人を好きになるのかもしれないね。
そういった意味では、彼は私の好みにピッタリだ。観察させてもらおう。瑞河で見せつけてくれた、問題解決能力を。
~※~
「見事だったよ。でもまさか茶道部だけではなく、合唱部と演劇部の問題も立て続けに解決するなんてね」
「てかどうしてこうも問題が山積みになってんだよ。俺がいない間はどうしてたんだっての」
「あなたがいない間はそもそも何も起こってなかったか……。それとも、あなたの活躍見たさに自分たちで解決できそうな問題でもあなたを呼び寄せたのか」
「なんにせよ迷惑な話だ」
彼に依頼をしていたのは茶道部だけではなく、合唱部と演劇部もだった。しかも依頼内容は同一ではなく全くの別物。それなのにも関わらず、彼は颯爽と解決してしまった。
彼の活躍をじっくり拝むため、私は同行はしつつも静観しておこうと思っていたのだが、正直口を挟む必要すらなかった。なんたって彼が全て解決してしまったのだから。彼と初対面の一年生の子たちはみんな目を輝かせていたので、彼のファンはこうして増えているのかと納得したよ。なんたって私もその一人だからね。
「これで満足かよ。ストーカーさん?」
「言いがかりはよしてくれ。言っただろう、私はあなたの秘密を探るために同行しているのではないと」
「ま、どうだっていいけどな。本来お前に纏わりつかれることは羨ましがられることだろうし、肯定的に受け取っておくよ」
「羨ましい?」
「周りを見てみろよ」
「ん……?」
あの子たちは、確か私のファンでよく差し入れをくれる子たちだ。あといつもライブを前列で観てくれている子たち、私の演劇が好きでよく応援に来てくれる子たちまで。自慢をしてしまうけど、私は女の子によく囲まれる。だけど今はそれすらも気付けなかった。もちろん私が彼に注目し過ぎていたからに他ならない。いやはや、あの子たちが私を見つめる熱い視線のように、私も彼に同じ熱量を注いでいたってことか。
だけど、彼のファンの子たちもいるようだ。なるほど、ファンが多い者同士が集まっているから集まる人も多いのか。
「随分と人気者だなお前。確かに、容姿端麗で才色兼備、本来男にしか使われない『眉目秀麗』の言葉も似合う。相当モテるだろ?」
「そうだね。ファンからプレゼントを貰うことが多いけれど、私の分だけ明らかに多いからセラスが嫉妬することもあるよ。花帆先輩たちも最初はその量に驚いていたね。自分たちが数回のライブを経て貰う合計量よりも、私が一回のライブで貰う量の方が多いって」
「容易に想像できるなその光景」
「あなたにもファンが多い。周りの子たちは、私たちの邂逅を目撃して心が震えているようだね。お似合いのカップル……だそうだ」
「悪くないけど、俺をただ興味に対象としか見てないお前とは付き合えないな」
俗物的な言葉で申し訳ないのだが、彼が置かれている立場はいわゆるハーレムという状況だろう。自然と女の子たちが集まり、好意を寄せる。もちろん黙っているだけで……というわけではなく、むしろさっきみたいに自分から出向いてみんなの問題を解決している。つまり、れっきとした結果により導かれた状況というわけだ。
だが彼は浮ついたりはしていない。その気になれば蓮ノ空を自分の帝国にすることもできるはずだ。なのに彼は淡々と学校生活を送っている。もっと強欲に女の子を囲む肉食系かと思っていたけど、案外謙虚なところもあるみたいだ。それかもうこんな状況には慣れ過ぎているのか。それはそれで器の大きさが計り知れないけどね。
彼はファンを掻き分けて廊下を進む。私も一歩後ろを追従する。
「今度はどちらに?」
「部室だ。アイツらの練習メニューを添削する約束になってるからな」
「あぁ、そういえば。いつもこんな感じで校内を奔走しているのかい?」
「というと?」
「無償で人を助けるような利他主義者とは思えないから、かな」
「そりゃ打算はあるだろ。俺だって趣味でここに来ているわけじゃないからな。ただ、功利的で何が悪い。それでみんなが救われるなら本望だし、俺だってみんなのことを心から大切にしている。アイツらも俺のやり方にケチをつけたりしないし、お互いに満足してりゃそれでいいんじゃねぇの」
「なるほど……。うん、そうだね」
蓮ノ空になにかしらの目的をもって潜入していることは確かなようだ。それは花帆先輩たちも気付いている。だけど彼の目的など些細なことで、彼女たちはただ単に彼のことが好き。異性として意識し、彼の本質に惚れている。そこに背景事情など全く関係なく、神崎零という人間そのものに惚れた。というわけか。
私はまだ恋をしたことがない。高嶺の花だと思われているからなのか、それとも私自身が恋に興味がなかったのか。恐らく両方だろう。モノクロな人生を歩み続け、最近ようやく色が戻ってきたんだ。恋をする暇なんてなく、考えたことすらなかった。
ただ今、彼と一緒にいることでようやく思考の一端に『恋愛』が生まれている。彼のことを男性として意識しているわけではない。考える余裕が生まれただけだ。それでも、胸が熱くなるこの感情は他の誰と一緒にいても味わえない気持ちだろう。
私は白と黒の世界から解放されたとはいえ、まだ彩を得ている途中だ。
彼ならば、彼であればスクールアイドルクラブのみんなと同じくらい、いやそれ以上の彩を与えてくれるかもしれない。彼と一緒にいれば、きっと……。
「それだよ」
「え?」
「お前いま、俺と一緒にいたいって思っただろ。さっきみたいな興味の対象ではなく、純粋な気持ちで」
「あ、あぁ……」
「別にどっちだっていいんだけどさ。できれば興味本位みたいな一歩引いた立場からじゃなくて、隣同士で心を通わせたいもんだ。だって近くにいるのに心が離れてたら、寂しいだろ?」
彼にも打算的なところがあるけど、それ以上に相手と心の距離を詰める能力もある。確かにここまで接近されたら女性としては心が揺れ動いてしまうかもしれないね。今の私のように……。
彼との会話は心地いい。的確に求めている答えが飛んでくるかと思えば、新たな発想も生み出される。こちらの全てを見抜かれているようだけど、それでむずがゆい気はしない。見事に掌握されてしまっている気もするが、悪い気は一切しない。こう思わせられている彼の話術が凄いのかもね。
「あ、そうだ。ちなみに言っておくと、お前を同行させたのは秘密を隠すことに慣れてるからじゃない。お前に知ってほしかったからだよ。詮索しても無駄だって」
「え……? そっか、ふふっ、相変わらず大胆不敵だね。ただ一つだけ忠告だ。そういう思わせぶりな言動をするから、私から興味の対象にされてしまう」
「お前みたいに賢い奴は思考回路が合理的で、だから分かりやすい。だから余計な指摘をしちまうんだよ。花帆や小鈴みたいなバカを相手にしている方がむしろやりづらい」
「……今のは聞かなかったことにしておこうかな」
この子はどこまで私の考えを読んでいるんだ。小さい割に頭は切れると感心していたけど、今となっては少し怖くなってきたよ。
「今日はあなたのことをよく知ることができたから、大漁の大収穫だよ。あなたは悪趣味だと思うかもしれないけれど、やはり私は相手を観察し、その魅力をインプットする方法が性に合っている。これが私なりの相手と仲良くなる秘訣さ」
「それなら良かったよ。俺もお前の人となりを理解したから、今度からはもっと容赦のない会話ができそうだ」
「ふふっ、お手柔らかに頼むよ」
「こっちこそ。詮索はほどほどにな」
零君は小さく微笑んで歩みを再会する。
こんな小さな子なのにその背中と威厳はあまりにも大きい。これで興味が湧かないはウソだろう。
同時に、彼に私の世界を彩ってほしいと思った。もっともっと仲良くなれば、このワガママな依頼も引き受けてくれるだろうか。楽しみにしておこう、彼との未来を。
泉って零君ととても相性がいい気がして、去年の活動記録のときからずっと彼女視点で彼の評価を描きたいと思っていました!
女の子のファンが多く、むしろモテる方の彼女ですが、既に意識はかなり彼の方に向いています。まだ恋愛感情はないようですが、今後はどうなることやら……?
【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・百生吟子 → 吟子
・徒町小鈴 → 小鈴
・安養寺姫芽 → 姫芽
・セラス → 柳田
・桂城泉 → 桂城
蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100 ※限界突破アリ)
・日野下花帆 → 零クン (120)
・村野さやか → 零さん (120)
・大沢瑠璃乃 → 零くん (120)
・百生吟子 → 零先輩 (100)
・徒町小鈴 → 零先輩 (100)
・安養寺姫芽 → れいくんせんぱい(100)
・セラス → 零 (60)
・桂城泉 → 零君 (67→75)
スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 治療済
・村野さやか → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・百生吟子 → 治療済
・徒町小鈴 → 治療済
・安養寺姫芽 → 治療済
・セラス → 傷の位置特定中
・桂城泉 → 傷の位置特定中