「生徒会室に呼ばれた理由、お分かりですね?」
「知るか」
再々転入生活8日目。
俺がこの学校に転入するたび、再会を望んでいた女の子たちに群がられたりするから、転入したての頃は忙しいことが多い。だが一週間も経てば喧騒も収まり、徐々に平穏な学校生活が戻って来る。だからようやくスクールアイドル病の調査のため、柳田と桂城に接触できる機会も増えるわけだ。
ただそんな中、俺に安穏を許さないと言わんばかりに面倒事を吹っかけてきた奴がいる。
性格は正論を振りかざす正義の執行者。事前に事実ベースでの証拠を揃え、相手の逃げ場を徹底的に潰す。だから土俵に立った時には既にコイツの勝ちが確定している状況となる。幼い頃から帝王学を身に着けてきた影響か相手を説き伏せる手腕を会得しているようで、コイツに呼び出されたら弁解などできず完全に詰み。氷の女王とはよく言ったものだが、話が通じない奴ではないので彼女の人となりを知っている者であればコイツを悪く言う奴は一人もいない。俺だってそうだ。
だがそうは言いつつも、コイツに呼び出されるってことは厄介事を押し付けられることに他ならない。俺のことを便利屋かなにかと勘違いしているどころか、利用価値があるって堂々と宣言してたからな……。
「椎菜ちゃん! また零クンを呼び出して! 今度はどんな罪を被せるの!?」
「おい、何かやらかした前提で話すな。てかなんでお前らがいるんだよ。呼び出されるたびに金魚のフンみたいに……」
「だってルリたちは零くんの大・親・友だからね! 零クンの罪はルリたちの罪、ルリたちの罪は零クンの罪だから!」
「俺の背負う量多すぎだろ……」
「それはともかく、あなたと椎菜さんでは口喧嘩が絶えなさそうなので、わたしたち仲介役が必要なのでは?」
「喧嘩など時間が無駄なこと。事実のみをお伝えしているだけです」
正論で一方的に叩きのめすのはコミュニケーションとしてどうかと思うけどな。もっとユーモアがあれば相手にビビられずに済むだろうに……。
花帆、さやか、瑠璃乃が俺の擁護で駆けつけてくれたが、何もしてないので守られる必要もない。今度はどんな言いがかりで俺を動かそうってんだ椎菜の奴。
「本題に入ります。最近蓮ノ空で密かに話題になっている、下着の盗難事件をご存じでしょうか」
「なんだよそれ? こんな山奥の監獄学校に忍び込むなんて、とんだ変態もいたもんだな」
「デリケートな話題なのでそこまで公になっていませんが、部屋や脱衣所から下着が盗まれている事象を数件確認しています」
「えっ、こわっ! 蓮ノ空、いまそんなこと起こってんの!?」
「あまりに注目し過ぎるとパニックを誘発してしまうので、公然にはなっていないのでしょう」
「吟子ちゃんたちからも何も聞いてないし、あたしたちは大丈夫だけど……」
どうやら穏やかではない事件が起きているみたいだ。ただこの学校には生徒はもちろん教師すら女性しかいないはず。まさか同性の下着に興奮する異常者がこの学校に存在するってことか? モノ好きってのはどこにでもいるもんだな。
「というわけで、あなたに解決を命じます。神崎三年生」
「んなことだろうと思ったよ。断ると言ったら?」
「私が逃げ道を用意しているとでも? この事件の犯人はあなたではないかと、理事会でも嫌疑をかけられています」
「えっ!? どうして零クンが!?」
「この学校で男性は彼だけ。つまり、女性の下着を盗むのであれば最も怪しいのは彼ということです」
「そんな性別で判断なんて、一方的な偏見ではありませんか!」
「なので私がこう進言しました。彼に調査をさせ、彼に解決させれば問題はないと。自分の身の潔白は自分で晴らしてもらう。どのみち早急な事態解決は誰もが望んでいることですから、理事会も文句は言いませんでした」
「じゃあ椎菜ちゃんは疑っているわけじゃなくて、逆に零くんを守ってくれてたんだね」
下手をしたら問答無用で連行されていた恐れもあるのか。捜査に立たせることで無実の罪で裁かれることを椎菜が阻止したと。その点については感謝だけど、コイツならどのみち俺を巻き込んで解決に向かわせただろう。過程は色々あったみたいだけど方向性は一本道だったようだ。なんにせよ俺に逃げ道はなかったわけか。
「これであなたが動かざるを得ないでしょう。窃盗犯を放置すれば、今あなたの隣にいる彼女たちも毒牙にかかるかもしれません。それを見過ごせますか?」
「そんなに煽らなくてもやるって。心理的に追い込むのも得意だよなお前……」
「あたしたちも捜査に協力するよ! ブルパの前に余計な心配事は片付けておきたいからね!」
「しかし捜査をするにしても手がかりがなければなんとも……。まずはどこへ行けばいいとか、とっかかりはありますか?」
「寮の女子風呂へ向かってください。被害者をを呼び出しているので、直接話を聞くとよいでしょう」
「あらかじめ呼び出しておくなんて、随分と手際がいいんだな。やっぱり俺にやらせることは最初から既定路線だったのか……」
「まあまあ、とりあえず行ってみようよ。これ以上被害を増やさないためにも、ルリたちが早く解決してあげないとね!」
突然現れた正体不明の下着泥棒を捕まえることになった俺たち。
相変わらずスクールアイドル病に関係のないイベントばかりに巻き込まれるが、嘆いていても話が進むわけじゃない。むしろ事態を解決することで自分の格を上げ、女の子たちからより信頼してもらえる関係性を築けると思って前向きに捉えておこう。
~※~
「えっ? お風呂で下着を盗られたのって、英奈ちゃんと美和子ちゃんだったの!?」
「花帆ちゃん、周りに人がいないからって大声で叫ぶのは流石にハズいって!」
「あっ、ゴメン……」
寮の女子風呂の脱衣所へやってきた。
そこには椎菜が呼び出していた泥棒被害者、
英川英奈はこの学校では珍しいギャル系。濃い茶色の髪で前髪を上げており言動も軽く活発な印象だ。対して美堂美和子はおっとり系であり、焦げ茶色の髪を三つ編みおさげにしている。どうやら梢以上の名家のお嬢様らしく非常にお淑やかだ。
ただまさか身近な奴らが被害に遭っていたなんてな。これまでそれを察知させる言動は一切なかったけど、やはり下着を盗まれた羞恥心で言い出せなかったか。
ちなみに男の俺が女子風呂の脱衣所にいる件について、日中は営業停止時間のため問題ない。
「早速ですが、話を聞かせてもらってもいいでしょうか。盗まれたのはいつですか?」
「昨日の夜ですね~。噂には聞いていましたが、まさか自分が被害者になるとは思ってなかったです」
「あれ? 昨日ってルリたちと一緒じゃなかったっけ? そのときに盗まれちゃったの!?」
「そうなんだよ~! 最近買ったお気に入りのやつだったのにさ!」
「でも昨日って他の人もたくさんいたような……? 入れ代わり立ち代わりで人目がたくさんあったと思うけど……」
どうやら昨日は花帆たちと一緒だったらしい。それに人がたくさんいる中での犯行ってことは、よほどバレない自信があったのか、それともスリルを求めるギャンブラー精神を持っているのか。下着を盗んでいる時点で真っ当な精神を持った奴ではないんだろうけど。
「そもそも女性が大勢いる脱衣所に男が忍び込めるとは思えない。顔立ちが女性っぽくて女装しているなら話は別だけど」
「人が多かったのであれば、知らない人が忍び込んでいても気付かない可能性はありますね。それにわたしたちも全校生徒の顔を知っているわけではないので……」
「あぁ。それにたくさん人がいたのなら、誰が何をしているのかなんて奇抜なことをしてない限り注目されにくいしな」
「えっ、もうお手上げ!? じゃあウチらのパンツは戻ってこない系!?」
「そんなことないよ! だって今まで数々の困難を乗り越えてきたんだから! だから絶対に何とかしてみせるよ――――零クンが!」
「俺かよ。お前が何とかする流れだっただろ……」
花帆に無責任の責任を擦り付けられる。
ただここまでの情報で犯人を特定できるかと言われたら、それは無理な話だ。俺だって全校生徒のことを知っているわけではない。特に今年入学した一年生のことは全然把握できていないので、人となりで犯人の候補を絞るのは不可能だ。
「零くん、これからどうする? 椎菜ちゃんに現状を報告する? あっちでも何か掴んでるかもしれないしね」
「えぇ~この状態で戻ったら、『何の証拠も掴めず、無様に敗走ですか。嘆かわしい』って嫌味を言われちゃうよ~っ!」
「流石にそこまでではないと思いますけど……」
「あははっ、椎菜だったら言いそう言いそう! 『この程度のことも自分たちで解決できないなんて、調査を命じた私に恥を塗る気ですか?』ってね!」
「いや~椎菜ちゃんは黙って圧をかけるタイプですから、『ここからは私が調査します。あなたたちは生徒会室の掃除でもしておいてください』と、静かに戦力外通告を下すかもしれませんね~」
「確かに言いそうですけども! 妄想椎菜さんのオンステージはほどほどに! 今は事件解決を目指しましょう!」
まあなにも掴んでないって知られたら、多少なりとはグチグチ言われるかもな。これで俺が犯人だと決めつけられなきゃいいんだけど……。
気になっているのは、盗み出した手口だ。脱衣所のカゴは誰でも触れられるから、誰かのカゴを勝手に漁るのは容易だ。それに人がたくさんいたら、誰がどのカゴを使っているのかパッと見では分からない。だから有象無象がいる中でこっそりってのが普通に考えられる手口だけど、果たして本当にそうなのか……? いや疑う要素はないんだけど、俺がこれまで関わってきた事件って、真相が単純であったことがなかった気がして……。
この場は諦めて椎菜のところへ戻ろうとした時、俺たち四人のスマホが鳴った。
どうやらスクールアイドルクラブのグループチャットにメッセージが入ったようだ。
「ん? せっちゃんから連絡が来てる。申し訳ないけど、今は事件に集中して――――えっ!?」
「どうした?」
「どうしたもこうしたも、リアルタイムすぎますよ!」
「セラスちゃんたちの下着が――――盗まれたって!」
~※~
スクールアイドルクラブ部室。
後輩たちからのヘルプに急いで駆け付けた。下着が盗まれて心配ってよりかはタイムリーで発生した出来事なので、記憶が薄れない間にコイツらから話を聞いて捜査してやろうという算段だ。もしかしたら犯人はまだ校内に潜んでいるかもしれないからな。
しかもまあこんな白昼堂々と盗みを働くなんて、よほどバレない自信があるようだ。絶対に見つからない透明人間でもあるまいし、随分と余裕だな。
「セラスさん大丈夫ですか?」
「はい、ビックリしましたけど問題ありません。でも実はわたしだけじゃなくて、吟子先輩と泉もなんですよね」
「えっ、吟子ちゃんと泉ちゃんも!?」
「えぇ、まぁ……」
「あぁ。ものの見事に下着だけが忽然と姿を消してしまったよ。今は運動用の下着をそのまま使っているから、特に支障はないけれどね」
「ノーブラノーパンじゃなくて残念だったね、零」
「なにがだよ」
柳田の奴、まだ昨日のメガネのことを引きずってんのか? 確かにコイツの羞恥心を無視して真実をストレートに開示したのは申し訳なかったけど、それでも伝えてやっただけ感謝してほしい。あそこから更なる恥の上塗りになる可能性があっただけ、バレたのが俺だけってのは幸運だろう。
そんなことより、遂に魔の手が我らスクールアイドルクラブにまで及んでしまった。ただ下着を盗まれたのは三人のみであり、小鈴と姫芽は被っていない。まずは状況から聞き出さないとな。
「どこで盗まれたんだ? 風呂以外で下着を脱ぐなんて、更衣室とか」
「はい。五人で練習をしていまして、その間に盗まれてしまったのだと思います」
「割と踏み込んだことを聞くんだけど、お前ら練習の時はいつも下着を替えてるのか?」
「胸が大きいから、運動専用のものを使わないと形が崩れちゃうんだよ。あ、変な想像はしないでね」
「さっきから余計な一言が多いんだよ……。お前らもか?」
「そうだね。いつも使い分けているわけではないけど、動きが激しくなりそうな時は替えるようにしているよ」
「私も同じです。うぅ、なんか恥ずかしい……」
「いや悪かったよ。話してくれてありがとな」
もしかして胸が大きい奴の下着を狙ってんのか? 吟子も柳田も桂城も、一般の女子高生に比べればかなり大きな部類だ。そりゃ上の下着を狙うならデカい奴を狙うのが性の本質かもしれないけど……。なんか犯人の尻尾を掴むよりも先に、犯人の性癖の方が露見しそうだな。
「なんかアタシたち、遠回しに格の差を思い知らされたような気がするね……」
「徒町たちが下着を置いておいても誰にも取られないよ。あはは……」
「あはは……」
「あはは……」
「なにその乾いた笑い声!? 別にそんな意図で誰も言っとらんし!」
「てかお前らは普段と練習で替えてんのかよ?」
「替えてないですよ~。だって必要ないですからね~。あはは……」
「徒町は普段から運動用のもので十分ですから、あはは……」
勝手に卑屈になって勝手にダメージを受けてやがる。今回コイツらは役に立ちそうもねぇな。つうか姫芽はそこまで悲観するほどの小ささでもないと思うけど、こればっかりは比較対象が悪いか。
それにしても今は昼だ。そんな中で盗みだなんて堂々としているが、練習中なんていつ戻って来るかも分からないのによく更衣室に忍び込む気になったな。脱衣所よりも圧倒的に人はいないから、見つかったら最後犯人が確定してしまう。そんなリスクを負ってまで盗みをするのか。さっきも言った通り、恐れ知らずでスリルを味っているのであれば話は別だけど……。窃盗や万引きをする奴らの何割かは悪いと分かっていながらも、背徳感に抗えずにやってしまうらしい。もしかしたら今回もその類の可能性があるのか。なんにせよもっと情報が必要だ。
「何か気付いたことなどありませんでしたか? 確か練習部屋と更衣室って隣同士ですから、犯人そうな人を見かけたとか……」
「う~ん、集中していたから廊下に誰かいても気付かなかったかな。多少の音も音楽でかき消されてしまうだろうしね」
「だから何も手掛かりがないかも……。あの零ですら遂にお手上げの時が来るかもね」
「なんで他人事なんだよ。動画とか撮ってねぇのか? 練習をする時によく自分たちを撮影してるだろ。あとで練習内容を見直すために」
「アタシの携帯でしてましたけど、それこそ自分たちしか映ってないですよ?」
「あ、でもそのカメラの向き、角度的に入り口に向いてなかったっけ?」
「そういえば! あの部屋の扉、中央がガラスになっていて中の様子を確認できるようになってるよね! だから中から外も見えるはず!」
「だったら何か映っているかもしれない。もしかしたら犯人の顔もな」
構造上、練習部屋の前を通らずに更衣室に行くのは不可能だ。撮影された動画が入り口を映していたのであれば、通った奴の姿を絶対に捉えているはず。そんな決定的な証拠があるのであれば簡単に解決するじゃねぇか。ここまで色々考えて損したが、これにて無事に犯人を特定できそうだ。
誰しもがそう思い、動画を確認する前から楽観的なムードが漂っていた。
みんなで姫芽が撮影していた動画を眺める。
しかし、動画の残り時間が迫ってくる中で俺たちの緊張も徐々に最高潮へと近づいていき、やがて――――
「えぇぇえっ!? なにも映ってなかったよ!? ルリたちの目が節穴だった……?」
「いや本当に何も映っていなかったです。だったら誰が私たちの下着を……?」
「最初から更衣室にいて、お前らが撤収するまでずっと隠れてたとかなら分かるけど。そこまでの執念を持った犯人ってことか……?」
「ねぇねぇ、まさかおばけとかじゃないよね!? あたしたち、また人ならざるものを相手にしようとしてないよね!?」
「花帆先輩、怖いことを言わないでくれ……」
「わたしたちって、よく超常現象に巻き込まれますよね。零さんがいるとき限定ですが……」
「なんかそういうのワクワクします! これがもしおばけに仕業だったら会ってみたいかも! ホラー好きの血が騒ぎます!」
おばけ……?
そういや、風呂場の脱衣所でも誰にも見つかってなかったな。そしてさっきの動画にも何も映っていなかった。
もしかして、映っていないことが『おかしい』のではなく、映っていないことが『正しい』だったら? 推理モノでガチのタブーであるオカルトが、俺たちの世界では存在しているとしたら? そしてこの世のものではない奴が知り合いにいるとしたら?
「零クン? どうかした?」
「分かったんだ。犯人の正体がな」
「「「「「「「「えぇぇっ!?」」」」」」」」
証拠はない。ただ思いつく限りこの線しか考えられない。
下着泥棒は、アイツだ!
To Be Continued……
この小説ではちょくちょく女の子の下着が消える事件が起こっているような気がします(笑)
非常にネタにしやすいと言いますか、官能的ではないラインなのでR-15のストーリーとしては扱いやすい題材だったりします。
次回は解決編です。
【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・百生吟子 → 吟子
・徒町小鈴 → 小鈴
・安養寺姫芽 → 姫芽
・セラス → 柳田
・桂城泉 → 桂城
蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100 ※限界突破アリ)
・日野下花帆 → 零クン (120)
・村野さやか → 零さん (120)
・大沢瑠璃乃 → 零くん (120)
・百生吟子 → 零先輩 (100)
・徒町小鈴 → 零先輩 (100)
・安養寺姫芽 → れいくんせんぱい(100)
・セラス → 零 (62)
・桂城泉 → 零君 (78)
スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 治療済
・村野さやか → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・百生吟子 → 治療済
・徒町小鈴 → 治療済
・安養寺姫芽 → 治療済
・セラス → 傷の位置特定中
・桂城泉 → 傷の位置特定中