蓮ノ空で生徒たちの下着が盗難される事件が発生。
その解決のため、生徒会長である椎菜により調査を命じられた。この学校に男は俺しかいないからという理不尽な嫌疑をかけられており、その払拭のために俺が自ら潔白を証明する必要がある。なのでほぼ強制労働なわけだが、スクールアイドルクラブの連中にも被害が出ているため放ってはおけない。どのみち面倒事は全て俺に降りかかる世界の理。抵抗するだけ無駄ってことだ。
被害者から話を聞く中で、100%の確証はないがなんとなく犯人が分かった。人混みの中で不信な動きをしていても誰にも目撃されず、カメラにも何も映っていない謎の状況。確かに人間業とは思えないが、逆に本当に人間ではないとしたら? その考えに至った時、真犯人は看破された。
「零クン犯人が分かったの!? だって動画に何も映ってなかったよ?」
「アタシが練習風景を動画撮影してましたけど、ちょうど更衣室に向かう廊下が映っていて、誰もそこを通っていなかったんですよ……?」
「何も映ってないから怪しいんじゃなくて、何も映ってないからこそ正解なんだよ」
「えっ、それは何かのとんちですか?? 徒町、そういうひらめき系は苦手で……」
「何も映ってないのが正しいって、幽霊とかしかルリ思いつかないけど……」
本来この手のミステリーで幽霊なんてオカルトを持ち込むのはタブー中のタブーだ。そんなことをしたらどんな奇想天外なトリックでも好き放題できてしまい、筋の通る説明なんて不可能になってしまう。
だが、現実的にそれが可能な奴がいるとしたら? 話は一気に変わってくる。
「いるじゃねぇか。俺たちの知っているガチの幽霊が」
「えっ、零たちって人外のお友達がいるの!? 幽霊!?」
「零さんが言っている人って、もしかして―――
「えぇっ!? 愛莉さんて、あの愛莉さんですか!? 去年私たちを散々引っ掻き回したあの……??」
柳田と桂城以外の奴らは察したようだ。
そう、これで脱衣所にたくさん人がいながらも誰にも気づかれずに盗みを働けた理由も、姫芽のカメラに何も映っていなかったことも全て説明できる。他の被害者も犯人の姿を見た奴はいないらしいが、そりゃそうだ。だって相手は姿を隠せるんだから。そんな真相アリかよって話だけど、この世には幽霊どころか神様も実在してるんだなこれが。世界が急にファンタジー風に変わったり、そもそも秋葉とかいう悪魔もいるくらいだから、まともな世界観を期待しているのならそれこそ幻想だ。
花帆たちもこれまでの全ての証言や証拠が一つになって納得している様子。ただ柳田と桂城は終始きょとんとしていたので、事情を説明してやった。
「私たちの知らないところでそんなことが!? 美少女幽霊なんて創作上のキャラが実在していたなんて……!! 羨ましい! そんなワクワクする事件が起きていたなんて!」
「いやいや大変だったんだからね! 二年前なんてあたしたち、睡眠障害にされちゃったんだから! しかも人魂に地下迷宮に落とされちゃって散々だったよ! それは愛莉ちゃんのせいじゃないんだけど……」
「私たちは去年、先輩と爛れたことをさせられたからね……」
「そういうこった。いるんだよ、幽霊が。存在さえ認知してしまえば全ての謎が解ける」
「確かにそれは分かった。でもどうしてわたしたちの下着を盗んだのか、理由が分からないけど……」
「本人に聞けばいい。でもここまでの話に納得してもらえたのなら良かったよ。これからは犯人を断定した上で話を進めるけど、桂城もいいか?」
「え? あぁ、どうぞ」
なんだコイツ、何やら深く考え込んでいるようだ。さっきから喋らないから話を振ったのだが、まるで聞いていなかったかのような反応。
少し顔を強張らせていたので、もしかしたらオカルトが苦手なのか? いつも涼しい顔をしてるけど、案外可愛いところがあるんだな。
「安心しろ。幽霊は幽霊でも美少女。顔と身体だけは良いんだよなアイツ」
「どうして気遣うのかな? 全然問題ないよ。うん、全然」
「あっそ。じゃあ早速捕まえに行くか」
「捕まるって、どうやって?」
「考えがある。人外を相手にするには、こっちも人外の力を使わないとな」
~※~
夜になり、浴場が解放された。
部活での汗を流したいのか、オープン直後にも関わらず人がそれなりにいる。そうなればもちろん脱衣所には脱ぎたての服や下着が選り取り見取りであり、盗難を働く格好の的となる。椎菜の話だと脱衣所での被害が一番多いらしいので、犯人を炙り出すならここで張り込むのが解決への近道だろう。
ただ潜入は花帆たちに任せ、俺は廊下で待機している。流石に営業中の女子風呂には入れねぇからな。ただ、イヤホンをつけて音声だけは共有してもらっている。まあそれだけでも犯罪と言われたらそうかもしれないけど、これも学校の秩序を守るためだから許してほしい。
張り込んでからしばらくすると人も増えてくる。でもこの状況でも誰にもバレずに下着泥棒ができるのが
そして、遂にその時が訪れたようだ。イヤホンから花帆たちの会話が聞こえてくる。
『本当に来るのかな――――って、あっ!? 服が入っているあのカゴ、勝手に動いてる!?』
『やっぱり姿を隠しているみたいですね。小鈴さん、秋葉先生から貰った例のアレを!』
『はいっ! くらえっ! 対幽霊用正体露呈光線! フラッシュ・エクスプロ―ジャー!』
『その必殺技名いる!?』
『凄い! 赤い光線が見えない何かにヒットしてる!』
『人型の霊? しかもこんな可憐な幽霊が本当にいたなんてね……』
どうやら秋葉から借りた、見えないものを実体化させる銃が役に立ったようだ。以前に没となった発明品を見せつけられたことがあり、こんなもの何の役に立つんだと呆れていたが、まさか日の目を見ることになるとは思わなかったよ。それに頼らざるを得ないほどの数奇な出来事、とも言えるけど……。
俺はまだ犯人の顔を見てないけど、アイツらの反応からすると予想は当たっていた。何はともあれ、これで事件は解決だ。随分と荒っぽい確保だったけど、相手が姿を消せるズルをするならこっちもズルのできる発明品を使わないとな。
~※~
「ふぇ~ん! ヒドイですよ! か弱き幽霊に怪しい光線をぶち当てるなんて! 人に対して打ったら犯罪ですよ犯罪!」
「お前は人じゃねぇし、下着泥棒が犯罪を語るな」
「ぐっ……!!」
秋葉の発明品により正体を露呈させることに成功したので、騒ぎが大きくなる前に脱衣所から廊下に場所を移した。
これまで説明した通り、幽霊の女の子だ。
コイツとの出会いは俺がAqoursのいる浦の星女学院に教育実習へ行ったとき。昔に色々あって事故で死亡し、その時に抱いていた後悔から現世に留まり続けていたらしい。Aqoursの連中を巻き込んで様々なパニックを引き起こしたが、最終的には無事に成仏に成功――――したはずだった。騒動は収まったのだが、天国と現世であるこの世界とは割と簡単に行き来ができるらしく、今のようにこうしてちょくちょく俺の前に現れる。二年前に蓮ノ空で発生した幽霊によるスクールアイドル制裁事件のときも、天国から助太刀に現れて活躍してくれた。
ちなみに成仏できなかった理由、それは男と一度も性行為ができなかったことであり、なんと自分が気に入る男と交わってリビドーを感じたいというあまりに唖然とする内容。その相手役として目を付けた男が俺である。しかし人間と幽霊では性行為ができないため、女の子の誰かに憑依をすることで疑似的に興奮の感じようとする暴挙に出る始末。何度も
「ホントのホントに美少女幽霊なんていたんだ。零と一緒にいると奇想天外なことばかり起こるとは聞いてたけど、まさか憧れの存在に会えちゃうなんて!」
「美少女で憧れって……えへへ、そうでしょうそうでしょう! 天国での可愛い子ちゃんランキングでも、常に首位ですから!」
「天国にそんな俗物的なイベントがあるんだ……」
「あなたも十分に可愛いと思いますよ!」
「当然だよ! 一年生の中で一番可愛い自信があるからね!」
「その寛大な心があるのなら、下着を盗んだ些細なことくらい赦してくれますよね?」
「それとこれとは別問題!」
「ちっ!」
舌打ち……。柳田を持ち上げて流れで赦しを得ようとしていたみたいだが、そんな単純な奴ではない。
下半身はひらひらしているので間違いなく幽霊なのだが、上半身だけを見れば自画自賛していた通り正真正銘の美少女。現界していれば男に困らないくらい無双できただろうし、天国でもモテる気はするが、どうして下着泥棒なんて低俗な真似してんだよ……。
「久しぶりだね愛莉ちゃん。去年は姫芽たちと会ったみたいだけど、ルリたちとは二年ぶりかな」
「いやぁ~瑠璃乃さんたちも成長しましたねぇ~。あの頃はちんちくりんのガキんちょだったのに、今や大人の女性になっちゃって……。花帆さんも!」
「えっ、そう!? ルリ大人に見える!?」
「あたしたちはもう三年生だからね! 十分に大人のお姉さんだよ! でも誰かにそう言ってもらえるのは嬉しいな!」
「乗せられないでください! どうせお世辞でもてはやして、刑罰を軽くさせようと目論んでるだけですから!」
「ちっ! 流石のジャックナイフ村野と言ったところですか……」
「なんですかそのあだ名!? とにかく、こんなことをした理由を説明してください!」
まさか犯行がバレるとは思っていなかったのだろう。苦肉の策でなんとか減刑されようと媚びを売っている。諦めが悪いというか、ここぞの場面での粘り強さはいつになっても変わらないなコイツ……。
「理由はそのぉ、単にイマドキ女子の間でどんな下着が流行っているのか調査をしていただけです……」
「なんでそんなことしてんだよ」
「だって秋葉さんが、幽霊が憑依できる人工体を作ってくれるって! だから
「秋葉先生? じゃあ愛莉ちゃんもアタシたちとほぼ同じ人間になれるってこと?」
「はいっ! ただ幽霊は下着をつける必要はないのですが、人口体になったら必要でしょう? だから調査をするためにわざわざ有給を取って来たんです! 長年の天国暮らしで鈍った女子の貞操観念を学び直すために!」
幽霊ってノーブラノーパンなのか。ただ幽霊だから胸が揺れることもなければ、薄手の白装束が脱げるラッキースケベも起こらない。服も込みで霊体だからな、コイツはその色気のなさに嘆いていたこともあった。
てか秋葉の奴、また無駄なものを作ろうとしやがって。肉体を得て、遂に誰にも憑依せずに自分で性交渉ができるようになった愛莉がどんな暴挙に出るのか……想像するだけで疲れそうだ。毎晩安眠できるのか俺は……。
「それでは、私たちの下着を狙ったのも理由があるのかな? 私とセラス、吟子のものを盗っただろう?」
「そりゃあね、胸が大きい人だからに決まってますよ! 私はこのメリハリボディも自慢ですから、この美体に合う人の下着である必要があるのです! 残念ながら、いくら可愛い下着でもちんちくりんには興味がないってことですよ!」
「やっぱり! 徒町は最初から戦力外通告だった! これから毎日2リットル牛乳を飲みます!」
「自分の体形に合う下着を狙ったと言えば、理には適っているとは思うけれど……」
「それに零さんと親しいあなたたちであれば、いつ見られてもいいように勝負下着を身につけていると思いまして! つまり盗みのターゲット筆頭だったわけですね! 誇っていいですよ、天国の美少女に狙われたこと!」
「嬉しくない! なんなんその理由!」
んなことだろうと思ってたよ。俺が知る限り、下着を盗られたのはみんな胸が大きくスタイルが良い奴ばかりだった。英奈と美和子もそうだ。俺が知らない被害者もそうだったのだろう。最初は巨乳ばかり狙う変態かと思ってたけど、自分のカラダに合う奴らが標的と考えれば一応筋は通っているか。まあ吟子の言う通り、やってることがことなので納得はしないけど。
「でも盗んだ下着はどれも殿方へ見せるものとは思えないほど地味で……。今晩はどうする予定だったんですか?」
「どうするもなにも、わたしたちと零さんはそういった関係ではないですよ!?」
「はぁ? あれから二年も経ったんですよ!? まさか子作りどころか付き合ってすらないんですか!? これだから最近の若者は……。もっと性に貪欲になるべきです!!」
「子供って、あたしたちまだ高校生なんだけど!?」
「高校生こそ出産適齢期じゃないですか!! 瑞々しい若い肌、思春期特有の男を靡かせるフェロモン! 待ってたらカラッカラに枯れちゃいます!!」
「愛莉ちゃん、まさかそのために人工体で肉体を得ようとしてたの!?」
「当たり前ですよ! 学生の性分はセックスですから!」
愛莉は鼻息を荒くして、まるで人間界隈のスタンダードかのように自分の猥褻妄想を展開する。もはや誰もツッコミを入れる気が起きず、反応に困り微妙な顔をしていた。
人工とは言えどもせっかく肉体を手に入れられるんだから、死ぬ前に満喫できなかった学生生活を謳歌すればいいのに、結局やることがそれかよ。天国はよくこんな奴を下界への使いとして派遣できるよな……。
「えぇっと、とんでもない会話をしているようだけど、あの子はいつもこんな感じなのかい?」
「そだね~……。去年はアタシたちもそりゃまぁ色んな事をさせられてぇ……」
「その割には満更でもなさそうだけど……」
「徒町も恥ずかしかったけど、零先輩と初めてあれだけお近づきになれたから……」
「吟子先輩も嬉しそうですね……ふ~ん」
「そんな汚らわしいものを見る目を向けないで! あの時は愛莉さんが大変だったから仕方なく!!」
霊体の自分が消えそうだから、性的な成分を摂取したいとかなんとかで吟子たちに無理難題を強いてたな。そんな卑猥な行動を日頃から行ってりゃ、下着泥棒くらいするだろうって大方予想がつく。蓋を開ければ簡単な事件だったよ。
「事情は分かりましたが、犯罪は犯罪です。盗んだ下着を返してください。ただその姿を他の人に見せるとパニックなるので、わたしたちで持ち主へ返却します。椎菜さんにも上手いこと説明しないとですね」
「仕方ないですねぇ。皆さんが選びに選び抜いた、零さんに披露するための下着ですもんね。地味だけど」
「いや、別に私は零のことなんとも思ってないから」
「みんなそう言うんですよ。ほら零さん、分からせてあげてください」
「なんでだよ。こっちはこっちのやり方があるんだ。余計なことすんな」
「えっ!? 零ってばわたしを狙ってるの!?」
「それこそ余計な心配だっつうの……」
狙ってないと言えばウソになるが、それは内緒の話だ。つうか愛莉はスクールアイドル病のことを知っているはず。二年前の事件で、ガキの姿である俺が元の俺と同一人物だと知ってもらうため、憑依してもらって確かめさせたことがある。幽霊だから正体バレの人数制限には引っかからない、ルールの穴をついた。だから俺が柳田と桂城の信頼度を上げる必要があることくらい察せるだろうに、また余計なこと言いやがって……。
「というわけで、事件も無事に解決ってことですね!」
「お前が言うことじゃねぇだろ」
「まあまあ! ただ私はこれで止まりません! 人口体で肉体を手に入れるため、いつか絶対ここに戻ってきますから!」
「愛莉ちゃんがいたら楽しく、いや騒がしくなりそうだね……」
「はい、下着は全部渡しました! あとはよろしくお願いします! アデュー!」
「あっ! せっかくだから一緒に写真を撮って、オカルト部に自慢しようと思ってたのに!」
「また会えるんじゃないかな。大変なことになりそうだけど……」
一方的に別れを切り出した愛莉は、壁をすり抜けて帰ってしまった。
こうして下着盗難事件は解決したわけだが、今後の展開に不安を感じる後味の悪さを残していきやがった。ただでさえスクールアイドル病の調査で忙しいってのに、アイツが戻ってきたら俺の生活はどうなるんだよ……。
幽霊や神様と言った人外は、やはりこうしたトンデモなネタを自然と作り出せるので作者としては都合が良すぎます! 秋葉もそうですが、原作キャラの性格はあまりイジリたくないので、サブキャラこそぶっ飛んだ性格にしないとと毎度思っています。
【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・百生吟子 → 吟子
・徒町小鈴 → 小鈴
・安養寺姫芽 → 姫芽
・セラス → 柳田
・桂城泉 → 桂城
蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100 ※限界突破アリ)
・日野下花帆 → 零クン (120)
・村野さやか → 零さん (120)
・大沢瑠璃乃 → 零くん (120)
・百生吟子 → 零先輩 (100)
・徒町小鈴 → 零先輩 (100)
・安養寺姫芽 → れいくんせんぱい(100)
・セラス → 零 (62)
・桂城泉 → 零君 (78)
スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 治療済
・村野さやか → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・百生吟子 → 治療済
・徒町小鈴 → 治療済
・安養寺姫芽 → 治療済
・セラス → 傷の位置特定中
・桂城泉 → 傷の位置特定中