ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回は変態要素、ギャグ、恋愛、ほのぼの、その他すべて置き去りにした大真面目回。もう零君とμ'sメンバーが恋人同士になり、恋心で迷ったりなんなりができなくなったので真面目な回がここぐらいでしかできないんですよね。

 前作の『非日常』の出来事に触れている部分が出てきます。読んでくださった方は特に内容が理解しやすいと思います。


新生μ's結成!!

 

 

前回のラブライブ!

 

 新入部員歓迎会で、何故か新入部員なのにメイド服を着ることになった雪穂と亜里沙。ノリノリでメイドを楽しむ亜里沙に対し、雪穂は終始借りてきた猫みたいに縮こまっていた。そんな中、俺は大天使メイド亜里沙と堕天使メイド雪穂によって無事萌え死ぬことができました!!

 その帰り道、μ'sの9人目のメンバーを探していた穂乃果に俺がある提案をした。それは俺の妹である楓を誘うこと。善は急げと、穂乃果は楓に説得を試みるがあえなく撃沈。楓は余裕そうに穂乃果をあしらうばかり。そこで俺は楓にある挑戦を叩きつけた。何の挑戦かって?それは今からのお楽しみ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 新学期2日目、今日は全学年が健康診断やらホームルームやらで午前中に下校となった。

 女子高生の健康診断と聞くととてもそそられるものがあるが、今の俺は彼女持ち、そこはグッと堪え…………られなかった。男子は人数が少ないため女子よりも健康診断が早く終わる。前々から計画していた覗き計画を実行しようとしたのだが、それは海未や真姫にバレておりあっという間に玉砕してしまった。

 

 

「いててっ!!ことり、もっと優しくしてくれよ!!」

「動いちゃダメ!!男の子でしょ!?」

「何で俺がこんな目に……」

「自業自得です!!全く油断も隙もない……」

 

 

 俺は海未に制裁をもらった時、窓からずり落ちて顔を擦りむいてしまったため、保健委員のことりに治療をしてもらっているところだ。ことりの顔が近すぎて、痛みなんて今にも吹っ飛びそうだけど。

 

 

「それよりお前ら、サッサと部室に行けよ。今日は楓も来るんだから」

「ねぇ、昨日から気になってたんだけど、どうして楓ちゃんを呼んだの?」

 

 

 結局その理由は、昨日一緒にいた穂乃果や雪穂にも話していなかった。別に話さない理由もないけど話す理由もない。ただ俺はちょっと楓を試したいだけだ。

 

 

「まぁそれは部室に行ってからということで」

「むぅ~……気になるぅ~……」

「もうこんな時間だし、あとは俺が片付けておくから先に行ってろよ。それにことり、手当てしてくれてありがとな」

「うん♪じゃあお言葉に甘えようかな?」

「そうですね、新入部員を待たせられませんし」

 

 

 そして穂乃果たちは先に部室へ向かうこととなった。

 さぁ、ここから上手くいけばいいんだけどな。でも大丈夫だろ、なんたって俺が考えた作戦なんだからな!!

 

 …………あれ?これじゃあ楓と俺、全く同じじゃね?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「雪穂!!早く部室に行こうよ!!」

「もう、そんなに急がなくても誰も逃げないって」

「それでも早くμ'sの皆さんと練習したいの!!」

「亜里沙、やる気満々だね……」

 

 

 1年生教室では亜里沙が意気揚々と雪穂の手を掴み、ブンブンと上下に揺らしていた。雪穂は朝からずっとテンションの高い亜里沙をなだめていたため、既にグロッキー状態である。周りからも『部活?』と、少し首を傾げられている。

 

 雪穂たち新入生は、まだ入学して2日目なのでどの部活も体験入部という形で活動をしている。もちろん新入生が正式な部員となるのは4月中旬に行われる新入生歓迎会以降となるため、当然新入生で部活をしている者は誰もいない。ただし雪穂と亜里沙は例外で、もうアイドル研究部の正規メンバーとしての扱いを受けているため、周りの会話とは齟齬が生じてしまうのだ。

 

 

「今日はずっと暑かったわね……亜里沙のテンションのせいじゃない?」

「楓!?もう帰ったんじゃなかったの!?」

「どうしてアンタらはそう私を帰らせたいわけ……?」

 

 

 大抵の人間は、楓が来ると騒がしくなるので帰らせたくなる本能が働くらしい。ただうるさいだけならまだマシだが、ブラコンが発動した途端もう地球上の生物では手がつけられないほど暴走してしまう。これを止められるのは兄である零と、彼女でさえも恐れる最悪の姉ぐらいである。

 

 

「今日は私も部室に行くから」

「どうして?ま、まさか楓もμ'sに入るの!?」

「入らないわよ!!ただお兄ちゃんに呼ばれただけ。お兄ちゃんに呼ばれなかったら、そんなところ行くわけないし」

「そんなところって……どんな目で見てるの?」

「メス豚の巣窟」

「「…………」」

 

 

 雪穂も亜里沙も、楓と出会って2日目にして彼女の性格が何となく分かったような気がした。ここまで自分の欲望と相手を卑下する内容をズバズバ言えるとは、昨日零が言っていた『プレッシャーを感じず、神経も図太い』とはまさにこのことなのだろう。

 

 

「とにかく、とっとと行くよ!!」

「ちょっと楓!!腕掴まないでよ!!」

「だったらテキパキ歩く!!」

「もうっ!!」

 

 

 雪穂は確信した。自分の学院生活は亜里沙と楓に振り回される毎日になることを。そう考えるだけで今にも頭痛がしそうであった。特に楓の暴走を見る限りでは、自分の姉が女神のように優しく見える。この時だけは、いつもぐうたらでサボりぐせのある子供みたいな姉に感謝せざるを得なかった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「「こんにちはーー!!」」

「こ、こんにちは……」

 

 

「あっ!!来た来た待ってたよ、亜里沙ちゃん、楓ちゃん、雪穂!!」

 

 

 ハイテンションで部室に入る亜里沙と楓、既に疲弊している雪穂に、μ'sのリーダーらしく穂乃果が3人を出迎える。

 部室には零を除く穂乃果たち3年生組と、真姫たち2年生組、そして絵里たち大学生組が既に集まっていた。これまでも部室はかなり狭かったが、これだけの人数が集まるとむしろ窮屈に思える。

 

 

「こんにちは、亜里沙、雪穂さん。あら?楓さんもいるのね?」

「もしかして、部に入ってくれるのかにゃ?」

「違いますよぉ~、私はただお兄ちゃんに呼ばれただけです」

「穂乃果はまだ勧誘を諦めてないからね!!μ'sに楓ちゃんは必要なんだよ!!穂乃果にはあなたの輝かしい未来が見えている……」

「私の時も同じこと言われたような……」

 

 

 去年の春、花陽は飼育小屋の前で穂乃果に怪しい勧誘をされたことを思い出した。勧誘の下手くそさは去年から全く変わっていないようだ。

 一年経っても変わり映えしない穂乃果に呆れ、ある意味で和んでいたメンバーをよそに、楓はクルッとμ'sメンバーの方へ向き直った。

 

 

 

 

 

 

「μ's……μ'sですかぁ~~…………それって、お兄ちゃんがいなければ何もできなかったグループですよね?」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「え……?」」」」」」」」」」」

 

 

 楓の一言にさっきまで穂乃果で和んでいた部室が一転、空気が氷河期のように凍りつく。楓はいつも人を見下しているような言動や表情をしているが、まさに今はその絶頂であった。目は濁り、口元は上がり、非常に憎たらしい表情をしている。μ'sのメンバーは楓の言葉を聞いて、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 

 

「そ、それってどういう意味かな……?」

 

 

 代表して穂乃果が口を開いた。正直この状況でさらに楓の言葉に突っ込むのはかなり勇気のいる行動だったのだろう、穂乃果本人も声が少し震えている。

 

 

「そのまんまですよ。μ'sのメンバーってお兄ちゃんが集めたんですよね?それに話では、μ'sが解散しそうになった時もお兄ちゃんに助けてもらったとか……ホントにお兄ちゃんに頼りっぱなしですね」

 

 

 誰も否定ができなかった。恐らくというより確実に、零がいなければμ'sがここまで来ることはなかっただろう。そもそもμ's自体が成立していたのかどうかも怪しい。それほどまでにμ'sにとって、彼は特別で欠かせない存在なのだ。

 

 だから言い返すことができない。もちろん零だけでなく、みんなで頑張ったからここまで来れたということは分かっているのだが、それでもできなかった。彼の存在が彼女たちの中で大きくなりすぎて、楓の言葉で現実を突きつけられる。

 

 

 本当に私たちは、彼がいないと何もできなかったと…………

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 予想通り、やっぱりそう来たな……全くもって分かりやすい奴だ。それにμ'sの奴らもな。

 

 

「そうか……なら試してみるか?」

 

 

「「「「「零くん!?」」」」」

「「「「零!?」」」」

「「零さん!?」」

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

 部室の外で会話を聞いていた俺は、タイミングとしては最悪の間合いで部室へ入った。実際にこの部室は、外で想像していたよりも遥かに空気が悪い。

 

 だが楓とμ'sの仲を取り持つには、この方法しかない。不器用だと思われるかもしれないが、コイツに一泡吹かせてやるいい機会だ。いつも人を見下した目で見ているコイツにはな。

 

 

「試すって何をよ?」

「にこ……そうだお前、ダンスと歌どっちが苦手だ?」

「な、なによ急に……?」

「いいから答えろ」

「……どちらかといえば歌かしら」

 

 

 にこの声は独特で、特にカラオケでは中々いい点数を叩き出せないこともある。でも俺はにこの歌声好きなんだけどな。穂乃果や凛と同じく元気が湧いてくる。

 

 

「花陽」

「は、はいっ!!」

「お前はどっちが苦手だ?」

「やっぱりダンスかな……?」

 

 

 運動音痴な花陽のことだ、今でもダンスには苦手意識を持っているらしい。それでも一年前と比べれば、動きが格段に違っている。日々の練習の賜物だろう。

 

 

「凛はどっちが苦手だ?」

「う~ん……やっぱりダンスかにゃ……?いっつも先走っちゃうし……」

「そうか、じゃあ雪穂は?」

「わ、私ですか!?」

 

 

 話を振られると思っていなかったのか、雪穂は驚いた拍子に身体がビクッと動いた。まぁこの流れで新入部員の自分に銃口を向けられるとは考えもしないだろうな。

 

 

「私は……やっぱりまだどっちも苦手ですよ。全然練習してませんし」

「なら歌だな。よし、それじゃあ全員今すぐ着替えて屋上に集合だ」

「零、あなたは一体何をしようとしているんですか?」

「すぐに分かる」

 

 

 そう……これで分かるはずだ。そして楓にも分かってもらえるだろう。

 

 『μ's』というグループを…………

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「で?お兄ちゃんは私たちに何をさせたいの?」

「単純にダンスと歌で競ってもらうだけだ。さっき指名した人とお前でな」

 

 

 俺たちは屋上へ移動し、いつもの練習の体勢へ入った。もちろんここですることはダンスと歌、スクールアイドルにとって基礎どころかそれ以前に確実にしなければならないことだ。それを楓にも体験してもらう。

 

 

「まずはダンスからだな。凛、花陽、楓、お前らにはこの動画のダンスを覚えてもらい、次に曲だけでそれと全く同じダンスを踊ってもらう」

 

「えぇっ!?そんなことできないよ!!」

「凛、物覚え悪いから無理だにゃ!!」

 

 

 絶対に、命を賭けてもいいというぐらい2人が文句を言うことは分かっていた。全くしらないダンスを1から覚え、すぐ踊れというのが無謀だということぐらいこっちも理解している。

 

 

「ふんっ……覚えて踊るだけなら簡単でしょ」

 

 

 そしていつもの如く楓は余裕そうだ。そうでなければ俺の妹ではない。

 だけど今回だけは……

 

 

「他のみんなは3人の動きをよく見ておけ」

「もう!!零君が何をしたいのか、穂乃果全然分からないよ」

「これで何かが分かるっていうんやね?」

「あぁ……」

 

 

 そして動画が再生された。

 3人は食い入るように動画を見てダンスの動きを記憶している。この一年間スクールアイドルとして活動をしてきた凛と花陽だが、このようなことをするのは初めてだろう。それは凛たちに限った話ではないが。

 

 

 ここで、3人を見ていたみんなはあることに気が付いた。

 

 

「あれ?凛ちゃんと花陽ちゃん……身体が動いてる?」

「そうね、多分意識はしていないんでしょうけど……」

 

 

 凛と花陽が楓と違う決定的なところ、それはことりと真姫が言った通り2人はダンスを覚える時無意識の間に身体を動かしている。対して楓は、石像のように微動だにせず動画を見つめている。誰が見ても分かる決定的な差であった。

 

 

「よし、動画はこれで終わりだ。次は曲だけ流すから、動画に流れていたダンスをそのまま踊ってみろ」

 

 

 今度は曲だけを流し、3人の動きを見ることにする。凛と花陽の表情はとても不安そうなのに対し、楓はバッチリ覚えたと言わんばかりの余裕そうな表情だ。流石に踊りだす前だと何も変わらないか。

 

 

 ――――――しかし状況は一変した。

 

 

 途中まで完璧に踊れていた楓の表情が険しくなり、徐々に焦りが見え始めた。だが凛と花陽は楓とは全く逆、踊れば踊るほど身体がリズムに乗ってきて、動きから次の動きまでの繋ぎも完璧だ。穂乃果たちは目を丸くして驚いているが、多分一番驚いているのは本人たちだろう。まぁ、それ以上に驚いているのはアイツだろうがな。

 

 そして1分弱のダンスも終わり、凛と花陽は満足気、楓は険しい表情のまま動かなかった。

 もちろん勝敗など初めから決している。

 

 

「どうする……まだやるか?」

「…………やる!!このまま負けたままでは終われない!!」

 

 

 膝を折りそうになりながらも、楓は何とか立ち上がる。真姫よりも高いプライドが、自分に歯止めを掛けられないのだろう。

 それにしても俺がここまでコイツを煽るのは初めてかもしれない。今まではコイツからの煽りを回避してきた立場だったからな。

 

 

「じゃあ次は歌だな。にこ、雪穂、悪いがこっちに来てくれ」

「なるほど、さっきどっちが下手か聞いたのはこのためだったのね」

「下手とは言ってねぇだろ……」

 

 

 次はにこと雪穂、楓の3人で歌唱力勝負。そうは言ってもただ歌ってもらうだけなのだが。

 

 

「次も動画で歌の確認をした後に、今度は歌詞を渡すから、曲に合わせて歌ってみろ。大丈夫、楽譜さえ読めれば歌い方ぐらいは分かるから」

 

「い、いきなり!?歌苦手だって言ったのに!?」

「そうですよ!!そんな突然言われても……」

「今度こそは……お兄ちゃんに認められるために……」

 

 

 無謀な内容に俺に突っかかるにこと雪穂、そしてさっきから小さな声でブツブツ言っている楓。よく言われているのは、学校のテスト終了後に『自信がない』と言っている奴に限って点数がいい。逆に俺を除く自信満々な奴ほど意外と点数が低かったりする。前者がことりで後者が穂乃果だと思えば間違いない。そして恐らく今回も……

 

 

 にこたちの意見を無視して動画を再生する。

初めは自信がなかったにこと雪穂だが動画が流れた瞬間、明らかに楓とは違う動きを見せた。前の凛と花陽と同様に、今度は身体と口が両方動いている。もちろん楓にはそれがない。

 

 

「よし終了だ。次は曲だけを流すから、適当に歌ってみろ」

 

 

 勝負の行方は明らかだった。歌いだしは全員ほぼ完璧で足並みが揃っていたが、楓だけが確実に遅れ始めていた。音のバランスから何まで、ズブ素人の俺でも分かるようなミスが目立つ。俺でも分かるということは、普段から欠かさず練習しているμ'sのみんなならば瞬きするよりも簡単に分かるだろう。

 

 

 ここで曲は終了。にこと雪穂は完璧とは言えないが、お互いに満足のいく結果だったようだ。歌が苦手といっても、それを無視しないで練習をしてきた賜物だろう。2人の顔を見れば、いかに楽しんで歌っていたのかが分かる。

 

 

「で、できない……どうして……?」

「これで分かっただろ、自分が無力だって」

「無力……?私がそんなはずあるわけない!!私はお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに何でもできるんだから!!今まで失敗したことなんてないし、後悔したこともない!!挫折ばかりのμ'sとは違う!!完璧になって、お兄ちゃんに認めて……」

 

 

 

 

「成功ばかりの人生はない。人間ならば必ず挫折し、道の途中で踏みとどまる」

 

 

「!!!」

 

 

 俺の言葉に、楓だけではなくその場にいた全員が反応した。これが俺の一番伝えたかったことμ'sのみんなにも、そして新たなμ'sのメンバーにも。

 

 

「大切なのは、その踏みとどまった今と戦えるかどうかだ。その場で立ち尽くしす奴は成長もしないし、未来もない」

 

 

 どれだけ自分が優れていても、必ず壁にはぶち当たる。その時にそこを限界と感じるのか、それとも乗り越えようとするのか。それによってその人の未来は確実に分岐する。正解がどちらの道なのかはその人次第。ただ踏みとどまる人はそれが自分の限界となってしまう。

 

 

「だけどお兄ちゃんは失敗しない……完璧なお兄ちゃんならそんな心配いらないでしょ……私もそれと同じなんだよ」

 

 

 

 

「違うな」

 

 

 

 

「え……?」

 

 

「俺は人生で一度だけ失敗したことがある。その失敗によってμ'sのみんなを傷つけてしまい、最悪、ここにいる誰かが欠けてしまっていたかもしれない。だが俺はそれを反省はしているが後悔はしていない。そのおかげで俺自身がより強くなれたからな」

 

 

 日数に換算すれば僅か9日間。非常に短い期間だが、俺と元μ'sメンバーで間で引き起こされた"最悪の惨事"。その間に何度も俺たちは傷つき、心を折られた。豹変した彼女たちの顔を今でもよく覚えている。そしてそれは今後も絶対に忘れることはないだろう。

 

 周りのみんなの様子を見てみると、全員が険しい表情を浮かべていた。やはりあの惨事のことは当事者の彼女たちが一番記憶に残っているらしい。

 

 

「だが俺も、そしてみんなも決して挫けなかった。全員が最後まで戦い抜いたんだ。そこからだったよ、俺たちの絆が強くなったのは」

 

 

 俺とみんなはお互いに絆の強さを証明し合い、そしてさらに絆を深めていった。これほどまでに自分が成長したと感じられる瞬間は今までなかったな。

 

 

「それ以降は練習にもより一層身が入った。お互いがお互いを支え合い、助け合い、ラブライブの優勝まで漕ぎ着けることができたんだ」

 

「それが一体この勝負と何の関係が……」

 

「凛と花陽のダンスと比べてお前はどうだった?にこと雪穂の歌と比べてお前はどう思った?お前は3年間練習してきたにこはもちろん、1年間しか練習していない凛と花陽、さらにそれより練習時間が短い雪穂にすら遠く及ばなかったんだ!!」

 

 

 にこがμ'sに入る前の練習で何をしていたのかは知らないが、彼女は高校生活3年間通して一生懸命努力してきた。凛と花陽は自分の苦手なところが分かっているからこそ、休憩時間や土日祝日の休日を利用して練習してきたことも知っている。さらに雪穂は亜里沙と共にμ'sに入るために、2人で一緒に特訓してきた。

 

 もちろん努力だけなら誰でもできるがμ'sはラブライブ優勝という実績を出したし、雪穂もこの場で実力を示した。

 

 

 

 

「誰にも及ばず、しかもコイツらのことを何も知らないお前に、μ'sを見下す資格はない!!!!」

 

 

「!!!」

 

 

 確かに全体的な能力なら楓が誰よりも上回っているかもしれない。だがそれだけでは示せないこともある。穂乃果たちは挫折しても立ち向かう"勇気"と"強さ"、そしてみんなで支え合う"絆"、なによりダンスや歌を楽しむ"笑顔"がある。

 楓は挫折しないから"勇気"も"強さ"、何でも1人でできてしまうから"絆"、ただ勝つことだけを目標にしていたから"笑顔"がなかったんだ。自分のことを棚に上げて人を見下す奴に、それがあるとは思っていないけど。

 

 俺がここまで声を荒げるのは久しぶりだ。久しぶりすぎて周りのみんなの肩がビクッとなった。俺のこんな姿を見るのはコイツらにとっても珍しすぎて、驚愕するのも無理はない。俺自身、あまり本気で怒ることってないからな。

 

 

「…………」

 

「どうする?ここでプライドを折られたまま立ち尽くすか?」

 

「……いる」

 

「ん?」

 

「μ'sに入る……このまま負けっぱなしじゃ私自身が許せないから!!それにみんな楽しそうだったしね、私もやってみてもいいかなぁって」

 

「そうか、ならみんなに追いついてみせろ」

 

 

 楓の目が人を見下していた冷徹な目から、やる気に満ち溢れている時のμ'sメンバーと同じ輝きを放っていた。まだ多少のわだかまりはあるようだが、遂に目が覚めたようだな。

 

 

「頑張るよ、今度は星空先輩にも小泉先輩にも、矢澤先輩にも、雪穂にも、μ'sの誰にも負けないぐらい練習する。そしてお兄ちゃんに認めてもらう!!みんなと一緒に踊って歌えるぐらいになってやる!!」

 

 

 今の楓はとてもいい顔をしていた。心ののしかかっていた重圧がなくなり、表情も軽くなっている。その"笑顔"があれば、これからも大丈夫だろう。

 

 

「楓ちゃん!!」

「高坂先輩……?」

 

 

 ここで穂乃果が一歩前へ出て、楓に手を差し伸べた。あとは頼んだぞ、リーダー。

 

 

「μ'sへようこそ!!これからもよろしくね♪」

「……」

 

 

 少し間を空けたあと、楓はスッと穂乃果の手を取る。

 そして2人は熱い握手を交わした。

 

 

「よろしくお願いします!!でも私、誰よりも練習して誰よりも上手くなってみせますから!!そしてリーダーの座は私がもらいます!!」

「楓ちゃんらしいね!!だったら穂乃果も楓ちゃんに負けないぐらいにいーーーーーーぱい練習しちゃうから!!」

「それでしたら私はそれよりいーーーーーーーぱいやりますから」

「えぇ~!!何それ!?」

 

 

 屋上で全員の笑い声が響き渡る。これでスクールアイドルのμ'sとしては9人目のメンバーが入り、μ'sとしては12人目のメンバーとなった。

 

 そして今、新生μ'sがここに結成されたんだ!!

 

 

「零」

「絵里……どうした?」

「こうなること、初めから分かってたの?」

「楓とは十数年も付き合ってるんだ、アイツがこうなることぐらい予想してたよ」

 

 

 しかし、ダンスや歌の経験がない楓にその楽しさや面白さを伝えて勧誘することはかなり難しい。だからこのような方法を取った。改めて振り返ると、かなり不器用なやり方だったような気がする。ちょっとでも途中で失敗してたら取り返しが付かなかったな。

 

 だけどこれでよかったと思っている。今まで独りよがりだった楓が、初めてみんなを対等な目で意識し始めたんだからな。

 

 

 

「これで一応解決なのかしらね」

「あぁ、でもここからが本当のスタートだ」

 

 

 そう、まだ俺たちは新しいスタート地点に立っただけに過ぎない。これからの未来を決めるのは自分たちだ。

 新しいメンバーと共に新生μ's、活動開始だ!!

 

 




 タイトルがネタバレというのはまさにこのこと!!切るところが見つからなかったので長いですが一本になってしまいました。

 そして今回でようやく一区切り。次回からは前作の『日常』のように短編集として適当にダラダラと投稿していきます。リアルが新環境になったツケが回ってきたのか、そこそこ忙しくなりそうなので更新ペースは落ちると思います。

 『非日常』を読んでくださった方は、今回の零君の想いがよく伝わったのではないでしょうか?もちろん読んでいない方にも伝わるように文章を構成したのですが、どうなのでしょうね。

 内容的には零君と楓がメインだったので、ラブライブ小説としてオリキャラだけで話を構成するのはどうかと思いましたが、今回だけなので許してくだせぇ(笑)

 それではまた次回!!










 あの姉はいつ登場させようかなぁ……?

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