にこはかなりモヤモヤして零君を待っていた訳ですが、果たしてその間零君は何をしていたんでしょうね?
8月某日。今日はにこと2人きりで自宅デートをする予定である。
にこと2人きりで会うのは夏休みに入ってからだと初めて、夏休み以前を含めたらかなり久しぶりだ。普段でも2、3日会えなかっただけで部室に入った途端に抱きついてくるくらいなのに、これだけ間が空いた今日、にこは一体どれだけの暴走を見せるのだろうか。いきなりえっちぃ展開だけはやめてくれよ。俺だってムードというものを大切にしたいから。
それはそれとして、今日はにこと一緒に昼飯を作る約束もしている。だからお昼前くらいにはにこの住んでいるマンションに着きたいんだけど、そのためには乗り越えなければならない障害がある。
その障害とは――――――
「お・に・い・ちゃ~ん♪どこに出掛けるのかなぁ~?ん~~?」
何故か俺の部屋の前に待機して、廊下を通せん坊する楓だ。
コイツの鬱陶しさは全世界に周知された事実なのだが、俺が1人で出掛けようとする時は特に執拗い。いちいち俺に誰と、どこに、何をしに行くのか、いつ帰ってくるのかを伝えた上で、更にお土産も求めてくるからだ。近くのコンビニに1人で行こうとしてもこれだからな。
「どうして逐一俺の行動をお前に報告しなきゃならんのだ」
「えっ?だって夫婦だったら当然じゃない?」
「いつから夫婦になった?」
「私が生まれた時から」
「生まれた時から許婚って、いいとこの坊ちゃんと嬢ちゃんかよ……」
「確かに私たち恵まれてるよねぇ~♪だって生まれた時から夫婦なんだもん♪」
「あれ?話が無限ループしてるような……」
楓は妄想に浸りつつも、廊下の真ん中に立って俺の進路を妨害することに関しては怯まない。どんなフットワークを持っているのかは知らないが、俺が右へ行ったら楓も右へ、左へ行ったら左へ素早く綺麗に反復横とびするため立ち往生せざるを得ない状況にある。
くそっ、急いでいるっていうのに!!しかも今日はいつも以上に妨害が激しい気がする。夏休みの宿題も全部終わらせたって言ってたし、暇なんだろうな。
「あの~……このままだと遅れるんだけど」
「そんなの私の知ったこっちゃないよ。それにそんなことを言って、私がこの道を通してあげるとでも思ってるの?実の妹のことなのに全然分かってないんだねぇ~お兄ちゃんは」
俺の妹は、今日も今日とて舌の周りも相手への煽りも絶好調のようだ。近年は年々最高気温が高くなり、それの影響で夏バテも流行っているらしいが、俺の妹はそんな状況には全く左右されない図太い(?)精神をお持ちになっている。むしろ夏バテの方から楓を避けているように感じなくもない。その分俺がバテてしまいそうだけども。
ここで素直に『にこと2人きりで会う』と言えば済む話なのだが、楓だとそうはいかない。
だってコイツに『自分の彼女と会う』なんて言ってみろ、今よりも凄まじい妨害の嵐が飛んでくるに違いない。ヘタをしたら今日1日コイツと2人きりでじゃれあうハメになる。
「でも私も悪魔じゃないからね、条件次第では許してあげてもいいよ」
「どの口が言うんだよ……」
「お兄ちゃんは、また私とお風呂に入ること!!この前の混浴温泉みたいにね♪」
「またかよ……お前そればっかだな」
「だってこういう機会でもないと、お兄ちゃん一緒にお風呂に入ってくれないし。むしろ、この機会を狙っていつもお兄ちゃんを邪魔してるんだけどね♪」
「ほんっっっっっとうに陰険だなお前!!」
「褒め言葉だよ♪」
表では誰もが羨むパーフェクトな美少女。常に笑顔で周りの人にも元気を振りまき、道行く人にすら幸福感を与えるらしい…………が、それはただの演技に過ぎない。笑顔は周りを欺くための仮面であり、心の底では俺を襲うことしか考えていない邪な気持ちが闇のように濃く渦巻いているのだ。
全く、誰に似たのやら。楓の後ろに、俺が恐れる姉の影が見え隠れする。
「はぁ~……風呂なら今日一緒に入ってやるから」
「およ?なんか素直だねぇ~。もしかして、私との混浴に慣れちゃった?」
「多少は……」
「じゃあもう毎日一緒に入っても大丈夫だね!!」
「いやその発想はおかしい。とにかくもう行くからな」
「はいはいいってらっしゃ~い♪」
「はいはいいってきます」
こうして何だかんだ言って素直に見送ってくれる辺り、コイツも根はいい奴なんじゃないかと思ってしまう。
でも騙されるな。これが楓の手なんだ。ちょっと優しくしておけばこっちが折れてくれるのではないかと、そう考えているに違いない。だがこうやって一緒に暮らしている内に、俺も楓に対して凄く甘くなったと実感してしまうな。
とりあえず、早く家を出ねぇと。にことの約束の時間までもうすぐ。ここからノンストップで行かないと遅刻確定だ。
~※~
楓というバリケードを乗り越え自宅を後にし、通常よりも1.5倍程のペースで足早ににこの住むマンションへと向かう。普段なら競歩の選手になれるかも?みたいな冗談を自分の中で繰り広げるのだが、今日は事情が事情、この俺が遅刻するとはあってはならないことだ。
しかも今日は何の試練かは知らないが、気温が35度近くあるまさに真夏の暑さ。ただ歩いているだけでも肉まんのように蒸されてしまいそうだ。そしてまたここで普通なら、『女の子の肉まん(おっぱい、下のおクチ)も蒸される』などという卑猥な妄想をするところなのだが、状況が状況により仕方なく排除。
恐らく今頃にこは性欲を高ぶらせて待っている頃だろう。つまり遅刻をしてしまうと、暴走したアイツの性欲の捌け口にされかねない。まあそれはそれでありっちゃありだけども……。
そして急ぎ足で歩きながら何故かトマト臭い人たちと数人すれ違い、横断歩道に差し掛かった。
「うわっ、よりにもよって信号待ちかよ……」
急いでいる時に限って、信号待ちが長く思えるのはあるあるだよな。今がまさにそうだ。
仕方がない、向こうに見える宅急便のバイクが通ったら信号無視してとっとと行っちまうか。
バイクを右から左に見送って、信号を無視して横断歩道に足を踏み入れる、その時だった。
「いいところにいた!!ちょっとこっちに来なさい!!」
「うぉっ!?な、なんだ!?」
突然誰かに腕を掴まれたと思ったら、今度は腕を俺の首に回され絞められた状態でズルズルと引きずられた。
一瞬、信号無視を見られたから引きずり返されたのだと思っていたのだが、俺に襲いかかってきた奴はそのまま俺をどこかに連行しようとしているようだ。
俺の頭が状況を整理できたところで、なんとか首を捻って元凶の顔の覗き込む。
「ま、真姫!?」
「いいからこっちに来なさい!!」
「なんなんだよ一体!?」
俺の首を絞めながら歩いているのは、なんと真姫だった。
いつもは冷静沈着、ツンデレクールな彼女だが、今日は何やら様子がおかしい。言葉も荒々しいし、どこか焦っているような感じがする。さっきからずっと裸絞め(俗に言うスリーパーホールド、チョークスリーパーとも呼ぶ)をされて頚動脈ががが!!
「く、苦し゛い゛ぃぃぃ!!」
「我慢する!!今急いでるんだから!!」
俺だって急いでるから!!しかも目的地に着く前に息の根が止まりそうなんですけど!?医者の娘が人殺してどうすんだよ!?せめて一回女の子とまぐわってから死にたいものだ。
「ようやく着いた」
「けほっ、けほっ!!」
「もう人がたくさんいる……早く並ぶわよ!!」
「ちょっ、息くらい整えさせろ!!」
今度は真姫に首根っこを掴まれ、そのまま人がたくさんいる会場らしきところに引きずられる。その途中、横目で会場の入口に立てたあった看板を見てみると、そこにはこう書かれていた。
『世界中のトマト料理が集結!!全128品目白押し!!食べ歩き会場はココ!!』
なるほどトマトね……これは真姫が惹かれるのも無理はない。まさに真姫のために開かれたかのような企画。そういやここへ来る前に何人かとすれ違ったけど、漏れなくトマト臭かったのはこの企画のせいだったのか。
「何故俺をここへ連れてきた!?俺急いでるんだが!?」
「私だって急いでるわよ!!早くしないと人気のトマト料理がなくなっちゃうでしょ?!」
「知るか!!それにどうして俺が連行されなきゃいけねぇんだ!?」
「ここの企画、色々なトマト料理が食べられるんだけど、なるべく沢山の人に料理を味わってもらいたいという狙いから、同じ料理を二度注文することはできないのよ。だけど零がいれば、私とあなたで人気の料理でも2回食べられるでしょ?」
「食べられるでしょ?って、俺の分はなしかよ……」
「当たり前よ!!その為に連れてきたんだから!!」
「理不尽過ぎる!?」
目の前に世界中のトマト料理の店の屋台が軒を連ね、更にトマト嫌いの人が嗅いだら発狂しそうなトマト臭が辺り一帯を包み込む。そのせいでいつもより何百倍も暴走している真姫は、俺を逃さないよう再び腕で俺の首を絞め会場を進んでいく。
「ぐっ、かぁっ!!」
「気持ち悪い声を出さない!!変なカップルだと思われるでしょ!?」
「だ、だから……ぐぇっ、俺は……うぐっ、急いで……がぁっ、だって!!」
「なに?言葉が途切れとぎれで聞こえないわよ!!」
そりゃあお前が俺の首を絞めながら歩いてるせいだろうが!!しかも会場内は結構人がいて、声を出せないこの状況では真姫の耳に急いでいる理由を説明するのも難しいだろう。
それに首を絞められている今、喋ったら喋ったらで身体の空気が一気に外へ漏れ出してしまう。これ以上の酸欠は本当に俺の命に直結するぞ!?更に真姫の髪が靡くたびに、いちいち彼女の甘い香水っぽい匂いが俺の鼻に入り込んでくるのは嬉しくもうざったらしい。
「なにモタモタしてるのよ、テキパキ足を動かしなさい!!料理を食べる数は制限されてるけど、結局数自体が少なくて毎年食べられない人がいるのが恒例行事なんだから!!だから早く!!」
「毎年……ゴホッ!!来てんのか……」
「なに?周りがうるさくて聞こえないんだけど!?」
「くっそ……ケホッ、く、苦し゛い゛……」
結局その後、この会場にいる間ずっと真姫の腕によって首を絞められていた。そのせいで『にこと会うから離せ』とも言い出せず、真姫がトイレに行く隙を突いてようやく会場を後にすることができた。
あとで真姫には連絡しておこう……。
~※~
トマト地獄の会場を後にし、ようやく真姫に拘束されたところまで戻ってくることができた。しかし集合時間は僅かだが過ぎ去っている。これはにこの奴、相当怒ってるだろうな……。
もちろんにこ、そして置き去りにしてきた真姫にも連絡をしようとしたが、やはり不幸というものは立て続けに起こるもので、携帯の充電がものの見事になくなっていた。どこまで俺をハラハラさせれば気が済むんだ……。
「まだ首が締め付けられているような感覚がする……」
急ぐために走ろうとしても、ようやく呼吸の調子が元に戻った今、過度な運動はまたさっきみたいな発作を引き起こしかねない。にこには悪いが、早歩きで勘弁してもらおう。
そして呼吸を整えながらも急ぎ足で歩いていると、後ろからやたらドタドタを音を立てて迫ってくる気配を感じた。
初めは真姫のようにトマトに興奮したトマト中毒者かと思ってスルーする予定だったのだが、うるさい足音と共に聞こえた叫び声が俺の焦燥をさらに駆り立てた。
「れーーーーーーいーーーーーーくん♪」
「ぐはっ!!り、凛!?」
突然凛が後ろから、俺の首に腕を回して抱きつきてきた。再び首を絞められ呼吸困難に陥りながらも、その勢いで身体が倒れてしまわぬよう何とかバランスを保つ。
それにしてもコイツらの、とりあえず彼氏に出会ったら首を絞めとけみたいな風潮なんなの!?大好きな人を逃さないよう、『多少痛みつけてでもこの人と一緒にいたい!!』という、ちょっぴりヤンデレの気質も感じる。
「は、離せ凛!!今急いでるんだ!!」
「こうして会えたのも偶然かな?もしかして、必然って奴かも!?」
だから真姫といい凛といい、どうして俺の話を聞いてくれないんだ!?2年生組は愛を身体で示すのが流行ってんの!?愛のために命を削るとか…………でも俺ならやってしまいそう。
「ねぇねぇ零くん、もうお昼だし、一緒にラーメン食べに行こうよ!!」
「食いたいのは山々だけど、俺はにこ――――」
「にこ、ちゃん……?」
「あっ、いや!!何でもない!!」
危ない危ない、ついうっかりにこの名前を出してしまうところだった。
実はにこから、穂乃果や凛には今日俺とにこが会うことを内緒にしろと言われている。この2人は俺の行くところ行くところどこにでもついてくるので、2人きりを所望しているにこにとっては少々厄介な相手なのだ。だからここは適当に誤魔化して凛を撒くしかない!!
「ラーメンは今度一緒に食いに行こう。な?」
「えぇ~ヤダ!!」
「そう言われても……」
「ヤダヤダヤダ!!今から零くんと一緒にラーメン食べたいよぉ~!!」
駄々こね凛ちゃん可愛すぎるんですが!!
でもこれはこれで一番面倒くさいパターンのやつだ。なんせ凛の発言には筋も芯も通っていない。とにかく自分の我が儘だけを押し通す、自己中心主義。これは俺がなんと言おうとも聞き入れてくれねぇぞ……。
「はぁ、はぁ、凛……走るの早すぎよ……」
「絵里、お前までいたのか」
「さっきそこで凛にラーメンを食べないかって誘われたのよ。それでラーメン屋に向かってたんだけど……」
「俺の背中を見かけたから突っ込んできた訳ね……」
「ねぇ~行こうよ~零くんも一緒に行こうよ~!!」
凛は俺の腕を掴んでブンブンと振り回しながら駄々をこねる。
くぅ!!少しもの哀しげな顔で俺の目を見つめる凛が可愛すぎて、嘘をつくのすら罪悪感を感じる!!そんな悲しそう目で俺を見るなぁああああああああああ!!今すぐ家へ連れ込みてぇええええええええ!!
でも……今日はにことの自宅デートなんだ。いくら凛が愛おしくても、ここはグッと堪えるんだ。
「ねぇ零くん。一緒に……行こ?」
「ぐっ……」
凛は俺の身体に抱きついて、さらに上目遣いという超ド級の反則技を駆使して俺の心を弄ぶ。それにその誘い方は男が勘違いしてしまうぞ……実際俺の心もトキメいちゃったし。
でもここからどうすればいいんだ……?もうにことの集合時間はとうの昔に過ぎ去っているから、ここで足踏みをしている暇はない。だが、この乙女チックな凛をこのまま放っておくことができるかと言われたら――――――
できる訳ねぇだろそんなこと!!!!
「凛!!」
「な、なに……!?」
「明日行こう!!今日は絵里と行って、明日は俺と行く。大好きなラーメンを大好きな人たちと2日連続で行けるんだ、それを今日1日で終わらせるのは勿体無いとは思わないか?」
「零、あなた……そんなことで凛を黙せると――――」
「確かに!!!!」
「えぇ!?」
「勝った……」
凛は目をギラギラと輝かせながら、まさに自分が太陽ですと言わんばかりに笑顔が明るくなる。
だがこれは俺の読み通り。思考回路がちょっとお花畑(褒め言葉)の凛なら分かってくれると思ってたよ!!
いやぁ~凛ちゃんマジチョロい……いやいや!!凛ちゃんマジえんじぇーだわ!!
「今日は絵里ちゃんとラーメン、明日は零くんとラーメン……うんっ、それで決まりだにゃ!!」
「凛はそれでいいの……?」
「今日もラーメン明日もラーメン、その次もラーメン、またその次も……う~ん♪誰と行こうか迷うにゃ~♪」
「そうそう、毎日μ'sのメンバーを1人ずつ誘えば、12日連続でラーメンに行けるぞ」
「おぉ!!2週間近くもラーメンを食べられるなんて、夢のようだにゃ!!」
これぞ凛を傷つけずにこの場を回避する堅実にして賢明な方法だ。誰も悲しむことがなく、みんなが幸せになれる至高の選択。にこが性欲を溜めに溜め込んで悶えて待っているとか言わないこと。
「じゃ、俺はレポート課題の資料探ししてる最中だから」
「うんっ!!それじゃあまた明日ね♪」
「レポート……?そう言えばにこに聞くことがあるんだった……」
「じゃあ絵里、あとはよろしくな」
「えっ、えぇ、分かったわ」
「ばいばいーーい!!」
あぁ、凛の笑顔が眩しい!!そうだよ、この笑顔が見たかったんだよ!!例え彼女のために急いでいようとも、他の彼女の笑顔だけは崩さない、まさに9人彼女持ちの鏡!!
だが凛の我が儘を乗り越えてホッとしたせいか、内心に秘めていた焦りが急に込み上げてくる。
にこが待ってる、急がないと!!このままでは性欲を溜めに溜め込んだにこが暴走して、そこら辺にいる男に性欲の発散を求めてしまうかもしれない。そんなことだけは絶対にさせるかぁああああああ!!
~※~
「はぁ、はぁ……つ、着いた」
凛たちを笑顔で見送った後、俺はすぐさま鬼の形相になりながら全速力でにこの住むマンションへと向かった。
身体中が汗でベトベトになっており、まるで茹でられているかのよう。そのせいでTシャツが身体にベトベトと引っ付き心底気持ち悪い。
様々な試練(楓や真姫や凛)を乗り越え、ようやくここまで辿り着いた。いつもはものの数分で着くことのできるにこのマンションなのだが、今だけはRPGのラストダンジョンにやっと到着したかのような満足感が得られていた。
だが本番はここから。ラストダンジョンにはラスボスがいるように、このマンションにも会うべき人物がいる。下手をしたら俺自身が性欲の捌け口として使われるかもしれない……。
「にこになんて説明しよう……」
エレベーターでにこの部屋がある階まで上がり、垂れすぎて拭っても無意味な汗をハンカチで拭いながらよろよろと廊下を突き進む。
にこの部屋のドアが見えた!!
ここまでの苦難の道のりを思い出して感傷に浸りながらも、もうすぐでにこに会えるという喜びが俺の脚を懸命に動かす。
もう少し!!あのインターホンさえ押せば――――――!!
そして、遂に俺の指がインターホンに触れる。まさかインターホンを押すことがここまで感動的だとは、これが人生最初で最後だろうな。
「お、押せた……」
するとにこの部屋の中からドタドタと大きな音が聞こえてきた。
これって、もしかしなくても足音か……?もしそうだとしたら、どれだけ俺と会えることを心待ちにしていたのだろうか。にこには謝罪をしてもしきれない。
そして目の前のドアが勢いよく開き、遂に愛しのにこが姿を現した。
玄関先に出てきたにこは目を大きく開いてキョトンとした表情をしていたのだが、俺の顔を確認するなり、目を細めて俺をジト目で見つめきた。
もしかして、もしかしなくても……機嫌がよろしくないようで?
「よ、よぉ、待たせて悪かったな……」
「…………」
「えぇ~と……にこ、さん?」
「……そい」
「え……?」
「遅いって言ってんのよ!!!!」
同時に、にこは俺の懐に飛び込んでギュッと抱きついてきた。
ここが玄関先だとか、そんなことは一切考慮に入っていないらしい。大好きな彼とこうして1つになって抱きつく、それしか頭にないのだろう。
だが、それだけ俺のことをずっと待っていてくれたのだと思うと、にこのために必死になってここまでやって来た俺も安堵する。最愛の彼女たちの1人にここまで想われていたんだ、それで嬉しくならないはずがない。
にこは俺の背中に腕を回して、自分の身体を大きく俺に擦り付けた。
「うおっ!?に、にこ!?」
「ずっと……ずっとこうしたかった!!」
「にこ…………ゴメン」
「もういいわよ。ちゃんとこうして会いに来てくれたんだし。今回だけは許してあげる♪今回だけよ」
「ハハ……それはどうもありがとうございます」
2回目の『今回だけよ』が中々に低音ボイスで俺の胸に突き刺さる。
こ、これは……次やっちまったら、それこそ手錠などで拘束されて部屋に監禁されちまうぞ。でも一途にこうして俺のことをずっと待っていてくれたのは、やっぱり嬉しい。にこの真っ直ぐ尽くしてくれるこの精神に、俺は惚れちまったんだよな。
「悪いな、携帯の充電が切れちまってて、全然連絡できなかった」
「その以前に家をもっと早く出ればよかったんじゃないの?」
「それは……まあ詳しいことは中で話すよ」
「いつまでも汗塗れじゃあ気分悪いもんね。じゃあウチのシャワー使いなさいよ」
「そうか、ありがとな」
あ、ありがてぇ!!こういった気遣いができるのもにこのいいところだよなぁ~!!
しかも料理もできるし家事も万能、相手の様子を察して気遣える優しさ、そして大好きな人への一途な想い――――文句なしじゃないか。
そこで、にこが頬を赤く染めながら俺の顔を見つめていることに気が付いた。
「ねぇ、零」
「ん?どうした?」
「にこも一緒に、お風呂に入っていい?」
「!!」
に、にこと一緒にお風呂だと!?
この前は絵里と希と一緒に(スポンジとなって)風呂に入ったのだが、今日は俺の身体、大丈夫だよな!?
――――――うん大丈夫、生身の身体だ。
それに今日はにこと2人きりでイチャつく予定だったんだ、もちろん断る理由なんて初めからない。
「入ろうか、一緒に」
「零……うん♪じゃあ早速お昼のバスタイムと行くわよ!!」
「お、おい!!引っ張るなって!!」
やっぱり暴走しちゃうのね……。
でもにこの笑顔が見れたことだし、これでよかったのかな。
凛ちゃんは、ちょっとおバカなところも可愛い。
今回は前回の別視点ということで、自分の小説では初の試みでした。初めは同じ話を2回書くなんて需要もないし、書くのも簡単だろと思っていたのですが、舐めてました……。案外前の話と辻褄を合わせるのって結構面倒です。やはり自分は1話完結が向いていると実感しました。
次回は自分がいつか書きたいと思っていた秋葉さん回となります。彼女をガッツリメインで書くのは初めてなので、俄然やる気もアップアップです!ちなみに真面目な回とかではないので、肩の力は抜いて大丈夫ですよ(笑)
Twitter始めてみた。
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