玉藻前が帝との決別を予定していた日、司には昼食を帝に振舞うという予定があった。その為、彼は早めに彼の屋敷に訪れていた。それが幸運だったのか不運だったのかは分からないが、彼女達が殺される間一髪のところで、彼は屋敷に姿を現していた。
「あらま、お取り込み中でいましたか。」
殺伐とした雰囲気の中彼の能天気な声がその場の空気を壊した。
「つか……さ。」
九尾の狐は顔だけを彼に向け、掠れた息のような声を出した。
「意外とバレるのが遅かったことを考えると、やっぱり仲良く暮らしてたって事なんだね。」
「…………!!何時からだ……」
彼女が毛を逆立ててそう言うと隣にいた女性が答えた。
「それはもう最初からに決まっているわ……こいつはそういう奴よ。」
「ご名答。流石だね、紫。玉藻前さんもまだまだって所でしょうか?」
そのやり取りを聞いていた陰陽師の一人が目を見開いて彼へと身を乗り出した。
「ならば、どうして言わなかった?帝に危険が及んでいたのだぞ。」
司がそれを聞くとため息混じりに言った。
「別に危険じゃなかったでしょう?死にもしなかったし、呪いも掛けられなかったし、怪我どころか看病すらされていたよね?」
「そ、それは…………。」
陰陽師は口をつぐみ、複雑そうな顔を浮かべた。
「大体帝を危険な目から守りたかったらあそこいけよ。」
彼はスッとこの場から見える小山の方へ指をさした。すると、山の中腹にある木々が彼らのいる少し遠いからでも微かに聞こえながら次々と薙ぎ倒れていった。
「なっ…………!」
陰陽師と妖怪達は揃って彼の指の指した方向をみて驚きを露わにした。
「凄い凄まじい妖気を感じる……私と同等……それ以上かも………………」
「鳥羽様の霊力も共に感じる。あの方はあそこにいるのか!?」
「それで、どうするの?清明。」
彼女達が口々にそう呟く中、司は先頭に立っていた平安京一の陰陽師とも呼ばれた男にそう問いた。清明は悔しそうな顔をで彼の方を見た。
「私に何が出来るのだ…………司殿だってこの距離は…………。」
それを聞いた司は山の方に指していた指を紫の方に向けた。
「こいつには帝を救う事が出来る。お前が忌み嫌った妖怪の力でなら帝を助ける事が出来るがどうする?」
しかし、彼は司の話を鼻で笑った。
「ふん。その話にこ奴らが乗るわけ無いだろう。」
「いえ。私は構いません。」
紫がすぐに返事をするなんて思っていなかったため、彼は黙り込んでしまった。
「どうだ?結界を解いてやって、飛ばさせてもらえば?」
司がそう言った時に清明は唇を強く噛んでいた。
「分かった…………。八雲紫と言ったな、宜しく頼む。」
「えぇ。任せておきなさい。」
彼女がそう言うとすぐに視界が暗転した。
司達が再び目を開いた時には切り刻まれた木や死体が散らばっていた。
「あんなところから一瞬でここに来れるなんてすごいよな。流石自称スキマ妖怪と言ったところかな?」
「うるさいわね。放っておいて頂戴。」
司が紫に笑いかけるが彼女は苛立ちを覚えた。
「鳥羽様!!」
一方玉藻前は妖怪に追い詰められている帝の姿を見て、彼を殺そうとしている妖怪の首を爪で抉った。
「鳥羽様!!無事ですか?」
彼女が一心不乱に声をかけた時にはっと血の気が失せていくように思えた事があった。
愛する人に自分が妖怪であると知られてしまった……
彼女はその瞬間、表情を凍らせたがそんな事を気にしている暇もなく次々と妖怪が襲ってきた。
「紫、お前はここの木を大胆に切り倒してるやつを殺しとけ。僕は全体的に戦っとくから。」
「ええ、何かあったら連絡するわ。」
彼女が答えた時には彼はもう視界には入って無かった。
「こんにちは、美しい妖怪さん。」
司が声をかけると、彼の視線の先にいた金色の髪の毛妖怪はクスリと笑って彼へ顔を合わせた。
「あらあら、丁寧にどうも。何か私にようかしら?」
彼はそれを聞くと頭を軽く下げた。
「はい。出来ることであれば、この山の妖怪の集団を撤退させて欲しいのです。」
「ふうん。私達に引けと言うの?でもそれは駄目。これは自分達の食事って言うのもあるけれど依頼なの。だからごめんなさいね…………
貴方も殺してあげるわ。」
彼女はそう言って妖力を出し始めた。
「ハハハ、それは困りますね。ここで逃げることが得策なのですが、僕にも立場と言うものがありましてね……引けないのですよねぇ……」
「アッハッハハッハ、あなた変わってるわね。気に入ったから少し手加減してあげるわよ。」
そう言うと彼女は彼に襲いかかった。
ほぼ同時刻頃紫は彼に言われたとおり、好き勝手に暴れ、木を切り倒している妖怪と対峙していた。
「なんだアンタは?アンタも呼ばれたのか?」
その妖怪はそういうと、
「ええ、まぁそうね、頼まれたと言った方がいいかしら?」
紫はこう返した。すると、彼は笑い飛ばして暴れるのを止めなかった。
「ダハハハハ、それにしても壊すことは楽しいなぁ。一緒に心ゆくまで壊そうぜ!」
すると次々に周りの巨木は倒れて行き、相変わらず彼は笑い声をあげていった。その様子を見た彼女は何かが軽く切れたような気がした。
「そこまで言うのなら私もぶっ壊してみようかしら。」
「おぉ!それはいい………………な?」
彼がその声を聞いて振り返った時には彼女の姿を見て何をしようとしているかを理解出来なかったが、ギラギラと光る明確な殺意を浴びせている事に気がついた。
「お、おい!何故だ!何故殺意をこちらに向ける。日頃の恨みを人間どもにぶつける絶好の機会だろぉ!」
彼は彼女はそんな言葉でやめる様な妖怪でないと知らなかった。だから彼女にとって醜く見えるような悲鳴をあげて、彼女の腹立たしい気持ちを助長させた事に気が付かなかった。。
「貴方みたいな低俗な生き物は………消えなさい。」
彼女は彼を蔑んだ目つきでそう言うとスキマを作り出し彼を叫び声をあげる間も無く奈落の底へ突き落とした。
「おや?どうやらあらかた片付いた様ですね。」
「ハァ、全く妖怪を二人連れているなんて聞いてないわよ。しかもかなりの力を持ってるし。」
司は金髪の女の妖怪の妖力弾をよけながら言った。彼はそいつの特徴を髪以外出さないとどんな奴か伝わんないだろ駄作者め、なんて思いながらこう続けた。
「まぁ、取り敢えず貴方から逃げれば万事解決ですね。」
彼女はそれを聞くと顔を顰めた。
「ねぇ、何であなた少しも力を使わないの?つまらないんだけど。」
彼は苦笑しながらこう返した。
「いやいや、僕が力を使ったとしても僕の得が無いんですけど?」
「そうねぇ、私に勝ったら私達の雇い主について教えてあげるわ。」
彼女が挑発する様に笑うと司がそれを聞くと走っていた足を止め、彼女に向かい合った。
「分かりました。それでは行かせてもらいます。」
「フフン、そう来なく………………ちゃ……かはっ。」
彼女がそう言って瞬きをした瞬間、彼女の腹に尋常じゃないくらいの神力と衝撃が襲って来た。目を開くと、十メートル以上離れていた彼が彼女の腹を殴っていた。そして彼女は物凄いスピードで地面に弾み、再び十メートル以上の距離が出来ていた。
「成程ね。神力はこうも威力があるのか。」
彼はしげしげと自らの手を見ながら呟いた。すると彼女は息を切らせながら木の枝を掴んで、ふらつく足を使ってやっとの思いで立ち上がった。
「デ、デタラメな力じゃないの……私や一緒に来た妖怪達よりも遥かに力の保有量が多い。しかも、霊力だけじゃなく、神力まで使えるなんて……何者よ……。」
それを聞くと彼は肩を竦めた。
「さぁ?しがない旅人ですよ。」
彼女は彼の様子を見るともう溜息しかでなかった。
「そんな旅人なんて聞いたことがないわよ。貴方と殺りあったら、いくら命があっても足りないわ……」
司は惚けるように返した。
「そんなことないと思いますけど?」
「それじゃあ、今の攻撃でどれくらいの力を使ったの?」
彼女がこう返すと口に人差し指を当てた。
「それは秘密です。」
「ほら見なさいよ…………。」
金髪の妖怪は再び溜息をついた。
「それでは終わりですか?」
「ハァ…まぁそうなるわね。」
「それでは約束通り……」
「分かっているわよ。急かさないで頂戴。」
これを期に大きな戦いは終わりを迎えていた。
髪の毛しか特徴を出さないのは初期では他に特徴が見つからなかったのでしたが、今ではキャラを読者に想像してもらおうという考えで書いています。
司「ふーん。ならいいんだけどさ。」
次で紫と帝と玉藻前編は次で終わりです。平安京も折返し地点を過ぎました。これからも頑張って行くのでよろしくお願いします。それでは最後まで見てくれた方々ありがとうございます。