神楽「長いわ。」
サーセン。それでは本編へどうぞ。
神楽が人里に住み着いてから五年以上の月日が経った。
彼は人里の整備を一通り終えると辛うじて生き残った数匹の鶏の繁殖を始めた。鶏が増えるまでは彼の家で面倒を見ていたが、それが十、二十と増えていくと家の外に柵で囲った敷地に鶏らを移した。しかし、ただの柵だと妖怪や人間、自然災害によって壊れてしまうと思った。そこで彼は魔法の森に生えている、魔力を多く含んだ木々を加工して柵に利用した。さらに人よけ、魔除けを始めとする様々な魔法を掛けて殆ど破られない様な牢獄と化した小屋を建てた。それでもたまに隙間妖怪に取られてしまうことがあり、こればっかりは仕方が無いと彼も思っている。
そして人里に住んで数ヶ月。彼は念願の店を経営する事に成功した。卵の売却は勿論のこと鶏自体を売ったり、卵焼きに調理した物を売ったり、さらには二ヶ月に一度、卵を使った料理教室も開いたりしている。始めは妖怪であることを忌み嫌われていたが、何かと彼の店が好評になり、今では人里の住民からもよく店とは関係なく手伝いに駆り出されたりしている。そんなある寒さが身に染みる季節を目前とした日の事だった。
「さて……っと!」
彼は内側から石で出来た重い扉を両手で開いた。雲一つないとはいえ無いが風の気持ちいい青空に大きく伸びをしてから台所に戻って朝食の支度を始めた。ご飯を食べ終えた後、彼は鶏のいる小屋に足を運び、籠一杯に卵を敷き詰めてから店の方へ向かった。因みに彼の建てた家は二階建てで一階に店、二階に彼の住む仮住居となっている。いつも同じ様に卵を売っていると見慣れない姿をした女性が通りを歩いていた。
「ねぇそこのお姉さん。卵買っていかない?」
彼は店の中にある椅子から立ち上がり暖簾を右手であげて声を掛けた。彼が人間だと思って声を掛けた人物は
紫っぽい髪と長いうさ耳を持つブレザーを着た女性だった。
「…………!!」
突然声を掛けられた女性は耳をぴくりと少し立てた後にこちらを向き、肩にかけていたバックを掛け直して走り去っていった。
「…………どっかで見たことが。」
彼はそんな彼女の走る姿を見ながらそう呟いた。
「ハァハァ…………。い、いきなり話しかけられるなんて……。」
私は十字路を曲がって後ろを向いてから溜息をついた。
「目的地は……あ、ここか。」
息を切らしながら目の前にある寺子屋という学び舎に入っていった。
「そうか……君が永遠亭の新しい住民か。」
「あ、はい。あの鈴仙・優曇華院・イナバっていいます。」
蒼銀の髪を持った上白沢慧音という方と人里についての話を聞きつつ自己紹介をした。彼女は長ったらしい私の名前を聞いて少し顔を顰めたがすぐに元に戻してから話を続けた。
「それでな、えー鈴仙?お前はここの地で薬を売りたいと言う話でよかったんだよな?」
「は、はい。そうです。でも私…………。」
私には他人から嫌われるような力を持っていた。他人を不幸にする、そんな力だった。だからなるべく人とは関わらないようにしていた。さっき話し掛けてきた彼に対してもそうだった。私はお師匠様から頼まれた仕事はきっちりと果たしたいと思っていたが他人へ迷惑を掛けるのも嫌だと思っていた。だから私は煮えきらないような言葉を慧音さんに掛けてしまっていた。そんな私の思いを汲み取ったのか暫く考えていた彼女が口を開いた。
「……そうだな。彼に頼もうか。」
「えっ?」
私がそう声を出した頃に彼女は紙と筆を用意し、すらすらと力の篭ったような字で文字を書き始めた。数分後彼女はその紙を細長く折って私の手に持たせた。
「あの…………これは?」
「あぁ、私は今から忙しくなりそうだから彼に頼もうと思う。」
「彼?」
私は彼女が話に出した彼を理解できなかったので反射的に返してしまった。
「あぁ、神楽という奴だ。あいつなら……まぁ何とかやってくれるだろうな。そいつにその紙を渡してくれ。ついでに私の名前を出してくれるといいだろう。」
「は、はい。わかりました。」
私はそれを聞くと彼女へとお辞儀をし、外に出て歩き始めた。
道を聞かずに……。
ぐるぐると人里を周り、迷い込むとお腹もすいて来てしまった。私は重い足に鞭を振るいながら一歩一歩、歩いていた。気付けば太陽は高い所にあり、永遠亭に帰る予定だった時間を軽く超えてしまっていた。
「ちょっとそこの方。大丈夫?」
そんな時、男性の声が聞こえてきた。最初は自分の事だとは思わずに通り過ぎていたけれども、肩を叩かれてようやく自分の事だと理解した。私が振り返ると朝声を掛けられた卵屋の方だという事に気がついた。
「あ、いえ。大丈夫……ですから。」
私が心配をかけまいと辛うじて出した言葉がこれだった。何で素直に慣れないんだ……私と言葉を発してから後悔をした。
「いやいや、顔が青いからさ。とりあえず僕んところで休んでいきなよ。」
彼は私の気持ちを読み取ってか、私の手を引いてきた。私は力を込めようと思っても空腹のため力は出ずに言われるがままに引っ張られて行ってしまった。
「はい、これ食べてね。」
家に連れてかれてからぼーっとしていると、鶏肉の炒め物と卵焼きを振舞われた。私はその美味しそうな見た目と匂いに吊られて無我夢中で出されたご飯を平らげてしまった。食べ終わって暫くしてから私は人里に来た本来の目的を思い出して急に立ち上がって言った。
「す、すみません!わ、私急いでいるので。」
それから勢い良く扉に向かって方向転換をした。
「ちょ?そんなに急ぐと……」
彼がそんなこという頃、私は足を滑らせて尻餅をついてしまった。
「痛たたた……」
「大丈夫?」
こんな私の様子を見て彼は立ち上がって手を差し伸べてきた。
「あ、ありがとうございます……。」
私は少し戸惑いながら彼の手を取り、立ち上がった。
「何か急いでいたみたいだったけれども。用事でもあったの?」
「えぇ、人を探していて……。」
「人?」
「えぇ、慧音さんに会ってこいって言われたので近くを探していたんですが…………迷ってしまって。」
「ふーん。その人の特徴って分かる?」
「はい。神楽という名前の人を探せって。」
私は朧げながらも覚えていた探していた人の名前を言った。すると彼は眉を上げてこう返してきた。
「え、僕のことかな?」
「え!!あ、貴方が神楽さん?」
私は思いがけない言葉を言われたので思わず大きな声を発してしまった。
「え、まぁそうだけどさ。何か用だったの?」
私はそれを聞くとへなへなと再び地べたに座り込んで溜息をつき、バックの中にあった白い紙を彼に渡した。
「慧音さんが神楽さんにと。」
「?。どれどれ……」
彼は紙を広げると暫く頷きながらこちらをチラチラと見てきた。一分も経たないうちに彼は紙を折りたたんで懐に入れ、私と同じように座り込んだ。
「大体の事情は分かった。とりあえず改めて自己紹介から、僕の名前は神楽。ここで卵屋を営んでるよ。宜しく。」
「あ、はい。私の名前は……鈴仙・優曇華院・イナバって言います。名前長いので鈴仙でいいですから。」
「鈴仙・優曇華院・イナバ……ねぇ。そっか宜しく鈴仙。」
「…!!」
私は突然自分の名前を呼ばれたので驚いてしまった。
「あれ?間違ってた?」
彼は申し訳無さそうにそう言ってきたのでブンブンと勢い良く頭を横に振った。
「い、いえ!合っています。間違ってないですよ!」
「そう?なら良かった。」
彼はそれを聞いてほっと息をついて笑みを浮かべた。
私は自分の名前を初めて一回で覚えてくれたからか、彼が優しくしてくれたからか分からなかったけれど
彼へ純粋に好意が持てた。
鈴仙の口調が心配かなぁ……。鈴仙って健気で可愛くないですか?個人的には好きです。この次の話はオリジナル異変を予定してます。それでは最後まで読んでくださってありがとうございます。感想等々常時お待ちしています。
神楽「強欲になったもんだな…………。」