天狗
それは妖怪の中でトップクラスのスピードと妖力を持った種族で自尊心が高い。
故に他の種族との馴れ合う事は滅多に無く、集団で動くが種類が少ない。少数の団体で生活するが、自尊心が高いためよく揉め事を起こし、天狗という種族は数を減らしていった。
その事をよく知っていた神楽は少し驚いていた。
しかし彼が驚いている部分はそこでは無く、その天狗が幻想郷にいる、という事だった。
上でも述べたように天狗は自尊心が高く他の妖怪の話なんて聞くことなんて早々なかった。増してや人間との共存を望む紫の考えた世界を天狗達が快く受け入れるとは到底思えなかった。
「その理由で考えられるのはあの天狗軍団のリーダーは天狗では無いこと……もしくは。」
彼はフッと笑みをこぼして
「よっぽど良心的な天狗がリーダーになったんだな。」
こう呟いた。
「全く……何で俺達がこんな事しないといけねぇんだ?」
「さっきから言ってんだろ。前に酒蔵から神酒を持ち出して飲んじまったからだって。」
「えーそんだけでかよ……。」
「しゃーねぇだろ。俺達の飲んだアレはもうこの山に無いくらいレア物だったんだから。」
「え!マジかよ。うわっ、もっと味わっとけば良かったぁ……。」
「そう言うなって。」
「「ハッハッハ!!」」
声が聞こえる。
聞きなれた仲間の声が聞こえる。
私はこの暗い空間の中に何日閉じ込められたのだろう……
一週間だろうか…一ヶ月だろうか…はたまたそれ以上か……
目や耳の感覚はおかしくなり始め、何処が前で何処が後ろなのか…たまに分からなくなる感覚は動くと音がする鎖によって辛うじてだが戻ってくる。
一体外で何が起きているのか全く分からないが私には良い方向にも悪い方向にも持っていく事が出来ない。
無力
その二文字だけが頭の中を駆け巡り感覚、痛覚さえも呼び戻し、流れる筈の無い涙を誘っていく。
「それにしても天魔様の見張りも飽きてきたな。」
「天魔様?あんな腑抜けたやつに天魔も様もいらないだろ。」
「ハハハ、まぁ癖みたいなもんだな。俺達も人里行かないか?」
「え、いいのか?怒られないか?」
「いいだろ、ちょっとくらい……な?」
「まぁ、バレねぇよな……行こうぜ。」
「あぁ。」
二人の天狗がそう言うと羽を広げて空高く飛び去った。すると物陰から隠れていた青い服を来た女性が飛び出して辺りをキョロキョロと見渡し始めた。暫くして何処かへ手を振り始めた。すると白い尻尾を持つ二人の白狼天狗が何人かの天狗を連れてこの場にやってきた。
「にとり、本当に誰もいないの?」
一人の天狗が青い服を来た少女に話しかけた。
「おうともさ!見張りの二人が飛んでくのも間近でみたからね。それに近くには妖力も感じないだろ?」
彼女は胸を張ってそう答えた。
「妖怪やその他の生物も見えません。」
「別段、足音も翼の音も聞こえないわ。」
彼女に続いて白い尻尾を持つ二人の天狗もこう答えた。
「しっかし……酷いとこよね、ここは。」
一通り誰もいない事を理解すると一人の天狗がツインテールをなびかせてある方向を見た。そこには木や鉄でできた柵が何重にも張り巡らされた牢獄と呼ぶには生易しい場所がそこにはあった。彼女はゴンゴンとノックをしてみると重々しい感触が手に伝わってきた。
「とにかく天満様をここから出さないと。私達がこのままだと天狗が滅びちゃう。」
黒髪の天狗がその要塞に近づくとそういった。
「えぇそうね、文さんの言う通り。このままあの大天狗が覇権を握り続けると何をしでかすかわからない。行くわよ椛。」
「はい!母上。」
二人の白い天狗も彼女に同調し、剣を手に取って構えた。
「おうおう、好き勝手にはさせねーぜ?」
彼女達が柵を壊そうとした時、唐突に空から声が聞こえた。声の主の方角を見ると数十人の天狗たちが翼を広げて、空を飛んでいた。
「お前らの事は前々からマークしてたんだぜ?前日まで動きが無いからもしかしたら無ぇのかと思ったぜ。」
すると彼女達を馬鹿にしたような嘲笑が起きた。黒髪の彼女は拳を握りしめて叫んだ。
「何故だ!何故天魔様にこのような事をする!何故人里を襲うような真似を許したんだ!」
天狗の一族は人里を襲わない。
これは紫と天魔との間に生まれた約束の一つだった。それを守る事により紫は幻想郷の移住を認め、さらに住居までも提供してくれるということだった。
「あんな女一人に屈するわけなかろう?再び天狗が統治する世になるためにはこうするのが最善である。」
「だからと言って……」
彼女はもう言葉を続ける事が出来なかった。この幻想郷に来た当初からこの天狗達がどれだけその行為が屈辱だったが分かっているからだ。
どんなに個々の能力が強くても人間全員が敵なら話は別だ。そんな脅威があるのなら人間と馴れ合ってでもいいから安全な場所に暮らそう。それが天魔の考えだった。しかし天魔は直ぐに幻想郷への移転を実行したため多数の反感を生んでしまった。天狗全体の事を考えたのにも関わらず、そんな事になってしまったのは皮肉な物だろう。そして天魔にクーデターが起き天狗社会の実質的ナンバーツーである大天狗の元に今、力が集中しているという事だ。
「残念だが天魔をここから出すことは出来ない。ついでに貴様らも隔離させてもらう。」
そう一人の天狗が言うとジリジリと彼女達に詰め寄り始めた。彼女達は背中合わせで身構え始めた。すると一人の白い天狗が耳をピンと張り詰めて言った。
「誰、人間?」
その声を聞いたもう一人の白い天狗は目を凝らして辺りを見渡し始めた。暫くするとあっ!という声を出してある方向を指さし始めた。皆が指さした方向を見ると微かに葉っぱが揺れて音を立てているのが分かった。次第にその音はどんどんと大きくなり一人の人間が姿を現した。
「これはこれは皆さんお揃いで。」
彼は道の途中で付いたであろう土や葉を払いながら口を開いた。
「貴様……この山が我々天狗一族の山だと知っての侵入か?」
彼らは殺意その男に放ちながらそう言った。
「えぇ。少しご要件がありまして。」
「要件だと?」
「はい。取り敢えず人里を襲うのをやめていただけませんか?」
彼はそう言うと天狗達は大笑いを始めた。
「は?何を言うかと思えばそんな事か。フン馬鹿馬鹿しい。そんな事をする訳無いだろう。愚かな奴め……死ぬがいい。」
話をしていた天狗は手を上に上げると勢いよく振り下ろした。すると大きな風の衝撃波、いわゆるカマイタチが発生し彼へと一直線に向かった。彼は剣を抜き、霊力を込め始めた。そしてカマイタチが彼を襲う寸前にその霊力を込めた剣でカマイタチをぶった斬った。
するとカマイタチに込められた妖力と彼の霊力が反発しあって中規模なエネルギーの暴発が起こった。そのエネルギーの周りにあったカマイタチの成れの果てである風の塊はその暴発により勢いよく霧散し、瞬間的に嵐のような風が巻き起こった。地面にいた彼や彼女達は木々にぶつかったり枝に巻き込まれただけですんだが、飛んでいた天狗たちの多くは枝が腕や腹に刺さったり、木が突き抜けたり、軽い地割れが起きるほどのほどの強打をして、重傷者も少なくは無かった。
「ふぅ……まぁこんな物か。よっと!」
彼は立ち上がり風の影響を受けないように柄まで深く刺さった剣を抜きながら言った。
「お、おのれぇ…………。」
遠くで彼の様子を見ていた一人の天狗が物凄いスピードで一直線に飛びかかってきた。
「死ねぇぇぇぇぇえ…………ガッ!」
彼は雄叫びをあげて向かって来ている彼の首元をつかんだ。そして冷ややかな視線浴びせた後、彼は動脈に霊力、静脈に神力を流し始めた。その天狗は苦しみ悶えた後パァンと首から下が破裂し、息の根は止まっていた。
コイツ逆らったら命が無い…………
生き残ってその光景を見ていた天狗達はそう思った。
二人の白狼天狗が気が付かなかったのは真上から飛んで視覚と聴覚のセンサーに引っかかりにくかったからですき。二人のことは次の話で説明すると思います。あと彼が飛ばなかったのは他の天狗に見つかると思ったからです。本編の説明はこんなところでしょうか。そういえば最近新しい小説を書き始めました。良かったらそれもどうぞご覧ください。それでは最後まで読んでくれてありがとうございました。