「あの……慧音さん。神楽はいつまであの中にこもっているつもりなんでしょうか?」
鈴仙は耳を少ししおられせながらそう聞いた。
「さぁ……私にも分かるまい。」
慧音は暗く閉じている二階の部屋を見ながら答えた。
「あそこにずっといたら精神もこわれてしまうんじゃないでしょうか?」
「かもしれないな……。」
二人はため息をついて部屋を見るのをやめた。
「もう二週間近く経つのに……。」
鈴仙はその夜、店を閉め終えた後に思い切って彼の部屋に行くことに決めた。真っ暗なあの空間に飲まず食わずで十日以上経ち流石に心配になったからである。慧音は鈴仙の事を止めたが事情が事情あることを彼女も理解していたので了承した。慧音はその日スペルカードの話し合いに出席するため一人で行くことになった。
「神楽……大丈夫なの?」
鈴仙はそれだけが心配だった。彼女は彼を驚かせない様に足音を立てずに階段を登って行った。そして彼の部屋の前にまで行くと固く閉ざされている扉にノックをした。
コンコンコン
彼女は軽くノックしてみても返事はない。
ゴンゴンゴンゴン
もっと強く叩いてみても返事はない。
バンバンバンバンバン
扉が大きくしなるほど強く叩いても返事はない。
「神楽!!」
彼女はいても立ってもいられなくなり扉を破壊して中に入り込んだ。すると壊れた扉は近くに山積みになっていた本に当たり、倒れた。それがドミノの様にどんどん倒れていき、彼女が立っている場所以外は本で埋め尽くされてしまった。その光景に呆然としていると部屋の中央からゴソゴソと本と本が擦れる音がして、そこから腕が一本にゅっと出てきた。それを見て彼女はそこに近づき、その腕を掴んで引っ張りあげた。彼女はそこにランプを近づけると黒い顔をしてやつれた表情の神楽の姿があった。
「神楽!無事なの?」
腕から肩へと手を動かし、彼を揺さぶった。
「鈴仙…………取り敢えずさ……………………
お片づけ……しよっか?」
彼は物凄く不機嫌な顔でそう言った。鈴仙はカクカクと頭を縦に振ることしか出来なかった。
二人は早速作業に取り掛かった。しかし彼の部屋には
数百冊にも及ぶ本があった上月明かりと手元のランプしか無かったため作業は思うようには進まなかった。そのため明け方まで作業は続き、特に鈴仙は疲れ果てていた。
「お疲れさん。まぁ自業自得だけどありがとう。」
「何で貴方はピンピンしてるのよ……。」
彼の態度と言葉にイラついた彼女は意地悪そうに言った。
「まぁ鍛え方が違いますし……。んで僕になんか用だったの?」
「えっ……?」
「いやだってさあそこまでして起こしたからには何か用があるのかなぁ……って思ったわ。」
「いや、特に用があった訳じゃないんだけどさ……心配だったから…………さ。」
「心配ねぇ。僕はそこまで弱くはないよ。」
「確かに強いかもしれない。けど…貴方はいつかふらっと何処かへ行って帰って来ない気がするんだもん…………。」
「…………。」
彼は彼女の言葉に冗談を言えなかった。彼にはその言葉が心に深く突き刺さり抜けなかったからである。
「そ、それはともかくあの暗い部屋で一体何をしていたの?」
そんな彼を見計らっていたかの様に彼女は話題を変えた。
「あ、あぁ。まぁ例の妖怪と人間との問題の解決の仕方を考えてたんだよ。」
「へぇ、そうなんだ。それで何か思いついたの?」
「まぁ、まだ何とも言えないかな。取り敢えず書き留めておこうかなって思ってる物があるんだよね。」
「ふーん……。」
「そうそう、遅れて悪かったけども鈴仙。店番ありがとう。物凄く助かったよ。」
「そ、そう?別にこれくらいは大したことじゃないわ……。」
「大したことだろ。僕の仕事を隣で見てたからと言って正直掃除まで完璧にこなすなんて思ってなかったよ。接客も上手くなってさ会った時とは見違えるよな。」
「そ、そうかな……?」
「相変わらず何処か抜けてるけどね。」
「意地悪!」
「朝から叫ぶんじゃない……。」
彼女がその声で後ろを向くと彼女の大声で顔をしかめていた慧音がそこに立っていた。
その後彼は慧音にも鈴仙にした様な話をしてから卵取りに行き、店を開けた。二人も彼がいた頃の様に持ち場に戻って自分の仕事をした。店を閉めたあと彼は鈴仙にもうこんな事が起きないように釘を刺されてから、二階に行って二週間で思いついた事を書き留めていた。
「それにしても本が増え過ぎてきたなぁ……新しく家を建てるか。何処にしようかなぁ……。」
「人里から離れた所にしたらどうかしら?」
「それがいいですかねぇ……っておぉ!」
彼が何気なく呟いた独り言に返してきた声があったので間抜けな声を出した。
「紫さんですか?驚かせないでくださいよ。」
「本当は驚いてないくせによく言うわ。」
「そんなこと無いですよ?それでこんな時間に何か用ですか?」
彼は少し顔を顰めてからこう聞いた。
「お礼を言いに来たのよ。」
「お礼……ですか?」
彼女がそう言うと彼は心当たりが無かったため更に顔を歪めた。
「えぇ、この前起きた異変についてよ。」
「いや僕は別に何もしてませんけどね?」
「そんなこと無いわ。皆助かったと言っていたわよ?」
「皆とは?」
「それはもう皆よ。人里の人を始めとする多くの人よ。」
「別に異変については何もしませんでしたよ。僕の役回りは後始末ですよ。」
彼はハハハと笑い飛ばしながらそう言った。彼女は軽く笑うと言った。
「蒼紅の化け物……彼のことを知らない?」
「蒼紅の化け物?あぁ、そう言えば初めて会った時にも言っていましたね。私は知りませんけどいきなり何故?」
彼は彼女の言葉に少し反応して椅子を彼女の方に向けて座り直した。
「今回の異変に関係していたらしいのよ。色々な妖怪の山の連中が騒いでいたわ。この幻想郷に彼がいる限り我々は平和を望むってね。よっぽどいい奴だったみたいね。」
彼女はいきなり能力を使い彼の首を鷲掴みにした。
「蒼紅の化け物……つまり司は………………
貴方でしょ、神楽。」
彼は彼女に首を掴まれたことに不快感で顔を歪ませながら言った。
「知りませんって……いきなり訪ねてきて何なんですか……。」
「正直に言いなさい……違うのかそうなのか…………。」
「別に何だっていいんじゃないですか……取り敢えず首を離してください。」
彼の鋭い視線に怯むと彼女はすっと腕の力を抜いた。
「聞いた限り、彼は妖怪ではないのでしょう?霊力を使っていたのでしょう?なら僕は蒼紅の化け物から遠い存在なのでは?」
「………………。」
彼の言う通りだった。妖力と霊力は相反する力、決して二つの力を持つ事が出来ない……例外を除けば。
「大体、そいつを見つけてどうするつもりなんですか?殺すんですか?幻想郷から追放でもするんですか?」
彼女はその言葉を聞いて下げていた顔をガバッと上げて彼の胸ぐらを掴んで言った。
「何故そう思ったの………………?」
「なくなった奴の事なんて考えない方が楽な筈なのに執拗に追いかけるなんて非生産的じゃないですか?妖怪の賢者とあろう者が感情的に動くなんてよっぽどの事が起きているんだと思いましたよ。」
彼が冷たく言い放つと
彼女はゆっくり力を抜いて言った。
「さぁ……どうしてこんなにも彼を求めてしまうのか自分でも分からないわ。」
そして彼に視線を合わせて続けた。
「貴方には分からないかもしれないけど、大切な人の失う悲しみも大事な人に会いたいっていう気持ちも妖怪の中にあるのよ……?」
「あっそ………………。」
彼女は能力でスキマを出すとこう告げた。
「いつか……きっと貴方が司だと証明する日が来るはず……その時には言いたい事を好きなだけ言わせてもらうわ。」
「そうですか……因みにどのような事を?」
「それはその時のお楽しみよ。」
彼女は彼へそう言い放つとスキマの中に消えていった。
(貴方には分からないかもしれないけど、大切な人を失う悲しみも大事な人に会いたいっていう気持ちは妖怪にもあるのよ……?)
彼は彼女に言えないでいた。そんな事は分かっている。自分だってその思いはしたことある。
「お前だけがそう思って生きてるのは大間違いだぞ、紫…………。」
ケータイの反応が悪すぎや!って思いながら書きました。というか口に出して叩きつけてました。安心してくださry……毎日毎日塾で精神が磨り減ってます。今日は休みで最高にハイって奴だ!はぁ、それでは最後まで読んでくれてありがとうございました。感想やアドバイスなど常時受け付けています。