「これでよしと……。」
私は自分の趣味とも言える仕事を終えると椅子に全体重を預け、両手を思い切り伸ばした。そして大きな欠伸をしながら明日の事を考えていた。
さぁ何処に行こうか。
私の書いた新聞を読んでくれるとしたら誰がいるだろうか。
博麗神社はどうだろう。あそこの巫女は何だかんだ言いつつ受け取ってくれるし読んでくれる……はずだ。
魔法の森は香霖堂の亭主は読んでくれるが魔法使い達にはあまり興味がないだろう。
最近幻想入りしたあの吸血鬼の館は……やめとこう。今回の記事の内容の半分以上なのだからいくら幻想郷最速である私であっても命が危ぶまれる真似はしたくない。
だとすると残るはあそこしか………………
私は何年ぶりかの大スクープを広めるためにリスクを負う事を決めた。
「……帰ってこないわね。」
「あぁ、何をしてるのだか……。」
二人の女性は今は出払っている彼の店の前で話をしていた。
「それにしてもあの銀髪の女性は誰だったのかしら?」
「鈴仙のいう神楽を連れていった女の話か?」
「えぇ、私は見たことが無い人だったけど……何処かで会ってたのかな。」
「まぁ、奴は底知れない謎があるならな。考えてる事もよく分からん。」
「本当……神楽は分からない事だらけだわ。」
彼女達が口々にそう言うと頭上から静かにある女性が降りてきた。
「あやや?お二人さん、何だか朝からお疲れの様子じゃないですか?」
「む?お前は確か……射命丸だったか?人里に来るなんて珍しいな。」
「えぇ、何たって最近幻想郷に大事件が起きたじゃないですか。」
「紅霧異変の事かしら?」
「そう!それです。それの記事を書いてきたんです。」
彼女はそう言うと自信げに新聞を渡した。
「どれどれ……。『幻想郷を覆う謎の紅い霧』……か。ふむ、なかなか面白いんじゃないのか?」
「本当ですか!?」
慧音の反応に彼女は少し興奮気味に答えた。
「少し表現の仕方に棘がある気がするんですけど……おや?この写真に写ってる人は……」
「なんだ鈴仙、知り合いなのか?」
「いえ、神楽を連れて行った人によく似てると思いまして……。」
鈴仙が指した写真には銀髪のメイド姿の女性が写っていた。
「へぇ……神楽様が……。中に客が入って異変の主犯と話が出来なかったのはあの方が原因でしたか……。」
彼女は乾いた様な笑みを浮かべながら内心ほっとしていた。
「その館で一体何をしてるのでしょうかね。」
「さぁ、それは私にも分からない。射命丸、お前は何か聞いていないのか?」
「いえ、私は何も。」
「ん?何かあったの?」
彼女達は頭を抱えてると頭上から声がした。彼女達がそれに気がつく頃にはその声の主は地面に足をつけて歩み寄ってきていた。
「あぁ、神楽!!貴方何してたのよ!」
「何って……まぁ、一仕事?」
「何はともあれ無事で良かったがな。」
「別に僕によっぽどの事は起きないと思うんだけど……。」
予想以上の反応に少し戸惑いながらも彼はそう答えていた。
マズイ……
私の予想していた最悪の事態が発生してしまった。
神楽様が帰ってくるなんて予想外過ぎる!
というかピンポイントにここを訪ねてくるなんてどれだけ運がないのよ私!
私は前に味わった恐怖以来、彼に近づきたくない、増してや出食わすなんて真っ平だと思って暫くの間人里に寄り付く事をしない様にしていた。何とかここから離れようと思っても震えの余り足が動かない。そんな状態が続いていると彼が私に声をかけてきた。
「射命丸文だったよな、あの時以来だっけか?」
「えっ!え、えぇ。その節はどうも。」
私は突然の問いかけに怯みながらも頭を深々と下げて精一杯の敬意をしめした。
「おい……頭を下げるのは美希だけにしとけ。」
「いやぁ、そうも言えない立場に貴方はいるじゃないですか……。」
彼はそういうが私は彼に頭を下げなくてはいけない理由があった。
天狗は縦社会
下の者は上の者に必ず服従しなくてはいけない。
私は烏天狗の中でもそこそこの地位を獲得しているが彼は別格だ。
今の天魔様を確立させ天狗社会の革命を阻止した男。そして天狗よりも地位が上である鬼とも対等……天魔様の話ではそれ以上の実力を持つとも言われている。
その片鱗を私自身でも味わった事があるから間違いは無い……。
天狗騒乱異変とも言われる出来事の後に彼の記事を書こうと思った事もあったが今では近づき話し掛ける事、増してやこの人里にすら入りたくなかった。
「かもしれないけど……ん?慧音が持っているのは新聞か?」
私が冷や汗をかいていると彼は私の書いた新聞に目をつけた。
「あぁ、そこの天狗が書いたこの前起きた紅霧異変についての記事だ。」
「射命丸が?どれどれ……」
「あっ!!ちょっとまって!!ちょっと待って下さい!!!」
私は彼へと新聞が渡るのを見ると自分で見た訳でも無いの顔の色を変えたというのがわかる様な勢いで彼へと渡った新聞をひったくろうとした。しかし彼は私の手が届く前に新聞を自分の方に引き寄せ、私から少し距離を置くとじっくりと読み始めた。
終わった……
私はそれ見て即座に思った。
何故なら私が書いたこんな嘘が多く混じった様な記事を彼が認めるなんて無いから。
私はことごとくついてないと思っていると彼はこんな事を口にした。
「ふうん……。こういう描写の仕方をするのか。」
「えっ……?」
私は彼が思いがけず発した言葉に驚いていた。
「射命丸、ちょっと上にきてくれない?鈴仙、悪いけどもうちょっとお願い。」
「はいはい。射命丸さんも気にせずどうぞ。」
「あ、どうも……。」
私は彼の態度に驚きっぱなしだったため、永遠亭の兎にも硬い態度をとってしまった。その後、新たに不安を覚えながら何かの店に備え付いた階段に足を運び、二階へ向かった。
二階に上って見渡してみると至る所に本が積み上がっていて、彼はその一部を漁っていた。手馴れた手つきだったため、ここは彼の店で彼女は店番をしていたのだという事を今更ながら私は気づいた。暫くすると彼は不意に近づき私に何やら少し古い本を渡してきた。
「はいこれ。まぁ、僕が昔書いた他の人を引き込める様な解説本みたいな物だけど参考にあげる。」
「……いいんですか?」
「別に?今の僕には必要無いし、新聞を書いてる側の立場ならなるべく人にも読んで欲しいんじゃないの?」
「い、いえ。そうではなくて……。」
私は彼の行動に再び驚きつつもしっかりと疑問を投げかけた。
「私が……その、新聞を書いていいんですか?」
「はっ?そんなの射命丸の勝手だから僕は口出ししないよ。」
「で、でも!以前私が写真を撮った時、貴方は私に写真を消す様に脅してきたじゃ……ないですか。」
私は衝動的にそう言い始めた後、自らの失態に気が付き声が少しづつ小さくなった。
「写真を消す……?そんな事あったっけなぁ…………。もしかしてあの一件の時の事を言ってる?」
「は、はい……。」
「あぁ、その事で気に病んでたのか。それは悪い事したな……。」
彼はぼそぼそと何か呟いた後に声のトーンを下げてこう言った。
「射命丸……。お前があの状況下でそんなふざけた真似をしたらどうなってたか分かってたのか?」
「えっ……?」
「そんな写真が天狗の間に回ったら天魔に就任した直後の美希はどんな風に思われる?檜みたいな古参な奴等は分かるかもしれないがお前をはじめとする俺を知らない奴らは見知らぬ男の胸の中で泣いている天魔の姿を見てどう思う?」
「天魔様を天魔として相応しいとは思わなくなる……。」
私はそう答えてある事を思い立った。
「そう、折角天魔という地位を認められたらというのにも関わらずそんな事でアイツの地位が揺らいだらどうするんだ。」
「どうするって……」
「責任をとれるのか?自らが天狗の棟梁として引っ張っていく事ができるのか?」
「…………それは。」
そんな事無理だという事は明白だった。自分の欲を抑えて仲間との調和をとり、組織を作り上げていく事は生半可な事では無いくらいは私だって分かる。そうした考えを見直した上で私は自らの失態に長い時間をかけてようやく気づき、そして瞬時に判断し行動に移した彼への評価を改める事にした。
「まぁ、また何か聞きたい事があったら僕のところに来てもいいからさ。」
「は、はい。今日は失礼します。」
私はそう言って窓から体を乗り出すと翼を広げ飛び立った。
その日から一匹の天狗が頻繁に人里へ訪れる様になったのはこれが理由だとは本人以外は一人を除いて誰も知る事は無かった。
今回は少し地の文が少ないからちょっと何時もより変……かも。次は妖々夢を書こうと思っていましたが少し時の経過を書いた方が異変で物語がカツカツにならなくて読みやすいんじゃないかなぁとか思って少し悩んでます。きまぐれな作者ですみません。それでは最後まで読んで下さってありがとうございます。感想、質問、批評……などなど常時お待ちしています。