幻想郷短編恋文纏   作:徒然ノ厭離

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若干のヤンデレあり




君の春、俺の春。

ふぅ...これで最後だ。

 

ガチッと音を立てながら、最後のトラバサミを仕掛け終わる。妹紅さんの炎で鍛えた鉄のトラバサミは、滅多なことがなきゃ壊れない。

 

あとは他の獣の警戒心が薄くなるように自分の尻尾をパフパフとこすりつけて、獣の臭いをつければ完璧だ。尻尾が挟まれないかヒヤヒヤするが、そんなことに構っていたら狩人なんてやってられない。

 

 

 

幻想郷の長である紫さんから、狼退治の依頼が舞い込んできたのは数ヶ月前。まさか本人から頭を下げに来るほどに、深刻に増えていたとは思わなかった。

いつも家に転がり込んでは、

「おせんべちょーだい〜」とか「膝枕して〜」なんてだらけている紫さんが、

「幻想郷で一番のハンターのあなたに」なんて下手に出ながら正座してピシッとしてるから、その日は槍でも降るんじゃないかと心配してしまった。

 

 

確かに俺は幻想郷で一番の狩人だ。たった一人で4メートル越えの化け物じみたクマを討伐なんてザラの人間にゃできまい。仕留めて2ヶ月くらい経つけど、未だに人里じゃ英雄扱いだ。

 

人を送り届けるだけの送り犬とか言われて舐めてもらっては困る。本当に舐められたら困るけど。

...ともかく俺は自他共に認める幻想郷で一番の狩人だ。これだけは譲れない。

 

「さってさて、帰って花見でもしますかねぇ...霊夢さんとこの桜は満開だったな...楽しみだ。」

 

自家製の熊干し肉と酒屋のオヤジさんからもらった良い酒でも持ってけば霊夢さんも喜ぶだろう。

あ、魔理沙さんとかも来るかもしれないし、珍しいキノコも持って行ってあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠かった。こんなことなら家建てる時に、守矢神社の方角じゃなくて博麗神社近くにしとくんだったかなぁ...

でもあそこは温泉が近くていいんだよなぁ...」

 

やっと博麗神社の前の長い長い階段の前に着いた。

ここまで人里を横切り、少しの山道を歩いてきた。

 

「おお、やってるやってる。賑やかな声だ。」

 

これだけ長くとも声は届く。

上から誰かの笑い声や誰かが酒でもぶっかけられてんのか悲鳴も聞こえてくる。

あー、ぶっかけられたらいろいろ大変なんだよなぁ...主に体の方が。ベタベタして。

 

「ま、さっさと登っちまいますかねぇ...

あーこういう時小町さんがいれば便利なんだよなぁ...」

 

彼女なら気前よく階段の距離を縮めてくれる筈だ。そうしてくれれば楽なんだが...

だけどあの人は、いつも四季様も一緒なんだよなぁ。...俺、あの人苦手なんだよなぁ...なんか俺に向かってすぐ説教するし。確かに動物の命は数多く奪ってるけど、俺は動物以外には、たとえ衰弱した妖精に出会っても絶対に手にかけない。それでも四季様は俺に懺悔棒?だかでペチペチ叩きながら説教してくる。

でもその時俺は土下座しながら説教受けるから、時々四季様のスカートの下が見えて俺得...

 

 

 

 

 

「うぇ〜ん...!痛いよぉ!」

 

「ん?」

 

もう少しで階段を登り切るってところで誰かの泣き声が聞こえてきた。

声からして幼い少女のようだ。何かを痛がっているようだが...

俺は声の発生源と思われる雑木林をチラッと覗いてみた。

 

「うぇーぇん...!」

 

「あららら...痛そうだなあれは...」

 

見ると自分の使っているトラバサミとは違う種類のトラバサミに一匹の妖精が引っかかってしまったようだ。

 

見たところ春の妖精...かな?

幻想郷縁起の挿絵の彼女にそっくりだ。...名前は忘れちまったが。可愛かったから絵だけは覚えている。

 

彼女を傷つけているトラバサミは、見たところかなりタチの悪いトラバサミだ。ネジは何本かないし、なかなか外れないような加工もしていない。

あれならば子狼でも普通に抜け出すことができるだろう。

 

(血がどくどくと垂れている...人間なら出血多量ですぐに死んじまうな...)

 

別段見なかったことにしてそのまま宴会に行ってもなんのお咎めなしでいることができる。第一に彼女は妖精。すぐに回復するし、たとえこのまま死んでしまったとしても1日経てば元通り綺麗な姿でまた戻ってくる。

 

だが、見捨てた場合の自分の心持ちのことも考えなくてはならない。見捨てた時の罪悪感と彼女の悲鳴は一生心に残ってしまうだろう。妖怪の俺には精神面に影響して今後やっていけなくなるかもしれない。

 

「むう...仕方ない。今後のためだ。」

 

ガサガサと草をかき分けながら悶えている妖精の元へと近づく。

 

「大丈夫か?今引っぺがしてやる。」

 

「うわぁーん!痛いよぉ〜!」

 

「もう大丈夫だ!今外してやるから、大人しくしていてくれ!」

 

華奢な足から粗悪なトラバサミを外す。

金髪で羽の生えた彼女はとても苦しそうな顔をしていて、見てるこっちも辛くなってくる。

 

「あー...これは放置しておくと危険なやつだな...」

 

「痛いよお...痛いよお...」

 

ふくらはぎの両側に歯が食い込んでしまったようだ。そこから際限なく血が出続けている。

 

「むう...じっとしていろ。応急手当ぐらいはしてやる。」

 

 

 

俺は傷口に顔を近づけて、ペロペロと舐める。

 

 

 

 

「...〜〜!!」

 

俺の『舐めて戻す程度の能力』ならばこの程度の傷くらいすぐに治る。

口の中に血の味が広がって少し嫌だが、彼女を治すためには、こうするしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

一通り舐め終わった。恐らく顔が血だらけになってる。鏡を見なければわからないが。

この能力が効くのは時間がかかる。あとは数時間程度放っておけば大丈夫だと思うが...

 

「スー...スー...」

 

今度はこの妖精、寝てしまった。

最初は真っ赤な顔して俺の顔を凝視していたのに、つい先程コテッと寝てしまった。

...別に息をしてるし、心臓も動いているので出血多量で死んでしまったわけではなく、しっかりと生きている。

 

「こんなところで寝ちまうのかよ...自由なやつだ。」

 

辺りはもう暗い。こんなところで1人で寝てしまっては夜に活発に動く妖怪などに見つかって大変なことになってしまうかもしれない。...神社の近くで暴れるバカはいないと思うが。

それはそれで可哀想だから、俺の家に連れて行って暖かな場所で寝かせることにした。

...別にお持ち帰りってわけじゃないからな?

 

「よっこいしょ。...なんだ、軽いな。胸の割に。」

 

所謂お姫様抱っこで彼女を担ぎ、帰り道を急ぐ。野生の妖怪程度の実力ならべつに大した苦労もなく倒せるのだが、今は護衛対象がいる。無理な動きをすると起きてしまうだろう。

 

「やれやれ...静かに行かないとな。」

 

報酬がなく、骨折り損のくたびれ儲けみたいなものだが、これも人助けだ。

 

...彼女が寝てる間にふくよかな胸でも揉みしだいてやろうか、とも思ったが、それはなんだか俺の中の何かを失ってしまいそうなので、彼女には何もせずに家に連れて行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ...本当にぐっすり寝てるな。」

 

家に着き、俺のベッドの上に寝かせてやった。

紫さんから貰ったあったかいモフモフ布団をかけてあげたら、さらに幸せそうな顔をして深い眠りについてしまった。

 

「やれやれ...ま、床で寝るのは狩人仕事で慣れてるし...俺は床で寝るとすっかな。」

 

サラサラした髪の毛を撫でてあげると、さらに顔を赤く染め上げて深く眠ってしまう。

 

さっきっからなんなんだこの娘...夢の中でも、イケメンに髪の毛サラサラされたのか?

 

「ふう...んじゃあ、軽く引っ掛けてから寝るかな。えーっと...お猪口は......?」

 

そうして酒を取りにベッドに手をついて立とうとした時...

 

 

「やだ...いかないで......」

 

 

えっ?起きてるの?

 

妖精は近くにあった俺の右腕をギュッと掴んで離さない。...なんだこの急展開。

 

彼女は、若干羽をパタパタとさせながら、先ほどよりもさらに幸せそうな顔をして眠りこけた。

 

ここで俺が腕を引き抜いたとして、幸せそうな少女から、幸せの発生源であろう俺の細マッチョな腕を取り上げるのは可哀想だ。

 

 

「...仕方ねぇなあ...」

 

酒すら飲めなくなっちまうけど...ま、いい思いが現在進行形で出来てるし、なにも言わずに近くにいてやるか...

 

 

...あれ?なんか腕に柔らかな感触が......?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば彼女が腕を抱えた時のまま寝てしまったらしい。ずっと腕を上げていたせいか、腕が痺れてしまってしばらく動きそうにない。

 

「あー...クソッ。せめて寝てる間に離してくれれば良かったんだがな。」

 

相変わらず彼女は俺の腕を離してくれない。

動けない、お腹すいた。

 

「うーん...マジで動けんなこれ...最近の妖精は寂しがりやなんだな。」

 

「ん...?う...ん?」

 

「おっ?」

 

ついに起きたか?

...どうやらそのようだ。眠そうな目を擦りながら、彼女は覚醒したようだ。

 

「あれ?......ここはどこ?」

 

「俺の家だよお嬢さん。お目覚めはどうだい?」

 

「あっ、きのうの人だ!

助けてくれてありがとうございます!」

 

「いいってことよ。」

 

なかなか妖精にしては律儀な子だ。お礼を言ってくるなんてな。

 

「めざめはバッチリです!

ただ...ちょっとお腹が空きました...」

 

「そーだろーね。昨日の夜からなんも食べてないもんな。

どら、ちょっくら軽いもの作ってくるから、腕を離してくれないかね?」

 

「はーい!」

 

なんというメンズブレイカー。無邪気に甘える様に、大体のオスは落ちていくだろうな。

ふむ、天然な性格か。そこは妖精らしいな。

 

「ありがとう。

そんじゃ粥でも作ってくるよ。そこにいてくれ。」

 

「......おにく...」

 

「...?なんか言ったか?」

 

「な、なんでもないでーす!」

 

「...はぁ......ご要望なら肉も持ってくるよ。熊肉でいいならな。」

 

「やったー!」

 

うむ。満足満足。心のオアシスが千歳近い俺にできるとはな。久しぶりに満たされていくな...

 

ジワッと、昔優しくしてくれた女の子を思い浮かべて、涙を流しそうになる。この子のように無邪気で可愛い女の子だった...

 

だが、漢は涙を見せてはいけない。泣く時は背中で泣くのだ。

 

「...しっかり待ってろよ。

傷が痛んで辛かったらいつでも声あげてくれ。」

 

「わかりましたー!」

 

うむ。元気でよろしい。

まぁ、とにかく早目に作ってやるかな。たまご粥でいいよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっんー。できたぞ妖精さん。中々の出来だ。」

 

部屋に入って、彼女の目の前にある小さなテーブルの上に置く。

ホカホカに湯気がたった卵粥の隣には熊の干し肉。この二つは中々に相性がいい。

 

「わぁあー!美味しそう!」

 

彼女も見た目だけで食べ物の美味しさが判断できるようだ。中々に見所のある妖精だ。

 

「いただきまーす!」

 

「うむ。たんと食え。おかわりならある。」

 

木の匙を片手で握り、ほくほくと湯気のたった卵粥をすくう。

さすがの妖精でも熱さはわかるのか、ふー、ふー、と息を吹きかけて冷ましてから、口に運んでいた。

 

「はむっ!んぐもぐんむ.....おいしー!」

 

安心しきって、なおかつ美味しいものを食べて綻んだ彼女の笑顔は、近頃溜まった疲れを全て大砲で吹っ飛ばしてくれる力を持つ。

素晴らしく目の保養になった。

 

「ハハッ、喜んでくれて何よりだ。」

 

作ったこちら側としても、嬉しいものだ。

料理人、冥利に尽きる。

 

「ムグムグ.....ん?...んー...」

 

笑顔だった彼女の表情は一変、何か噛みにくそうに顎を動かし始めた。

 

「どうかしたか?」

 

「......このお肉固いの.....」

 

「あー、俺のクマの干し肉は固いからな...その分、噛めば噛むほど味に深みが増して、より一層美味しいんだ...」

 

「でも噛めないから意味ないんじゃない?」

 

「.....まぁな。」

 

この妖精、なかなか頭が働くようである。

そこに気づくとは...

 

「むー!お肉食べたいのー!」

 

パタパタと足と腕をふり、駄々をこねる。

 

「むう....ナイフで切って渡してやりたいが、それだと深い味わいが全て消えてしまうじゃあないか......」

 

脳裏には様々な方法が浮かぶものの、どれもピンとこない代物ばかりだ。

 

 

「はぁ、仕方がない。」

 

 

ならば直接口から口へと運んでやろうじゃないか。

...そういえばこんなシーンが外の世界の映画であったな。『もものけナントカ』だったかな?

あれは女から男だったが...

 

 

「ったく、ほら、肉貸せ。」パクッ

 

「あー!私のお肉ー!」

 

モグモグモグ.....

 

よく噛んで、よく噛んで、よく噛む。

十分に柔らかくなり、このまま飲んでしまいたいほどの美味しさが舌に広がるが、我慢しよう。全てはこの子のためだ。

 

 

(ふむ、このぐらいかな。)

 

それができやすいように、妖精の顎をクイっとこちらに向ける。

 

「ん?なーに?」

 

 

目と目があい、少し照れくさいが仕方ない。男と女だもの。

 

 

「ふっ...」

 

 

そしてそのまま、唇と唇を重ね会う。

 

 

「んん!?」

 

 

舌を使って頑なに閉ざされていた妖精の唇をこじ開ける。

 

「んん...!んー!」

 

少し乱暴だが仕方のない。少し力を抜いてもらう。

 

キスをし慣れていないので、彼女を不快にさせてしまう...いや、俺がこうしてる時点で不快か。

 

 

 

「んん....ん......」

 

 

 

そして舌を使って干し肉を彼女の口の中に滑り込ませる。

 

 

 

 

「ん.....ふぅ、」

 

 

「んっく.....」

 

 

 

無事移送が完了し、俺の唇を離した。

 

 

 

「......美味いか?」

 

 

「......うん。」

 

 

「それはよかった。じゃあ、俺は隣の部屋にいるから何かあったら呼んでくれ。」

 

 

そう言って俺は彼女のいる部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

..........やっちまった。

 

初めてだよ、自分よりも小さい女の子にキスしたの。

 

 

ものすごい罪悪感と背徳感、そして羞恥心に侵されていく。

 

「あー......あれしかなかったにしろ、とってもとてもヤバイなぁ......」

 

あんなの紫さんに見られたら殺されるかもしれん.....あんな小さな女の子を....

 

 

「あー...よかった、紫さんいなくて。」

 

「あら、何か私に見られてまずいことでもあるのかしら?」

 

「そーなんですよ。あんな女の子に、あんなことしたことを、今になってもんのすごく後悔してるんですよ....」

 

「へー。そうなの。」

 

「そうなんです.......」

 

 

 

 

 

 

 

「って、へ?」

 

「御機嫌よう、送り犬さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほわぁあぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

まずい、ヤバイ、殺される!!

 

こんなに優しくニコニコしてる紫さん久し振りに見たぞ!

こ、こここれはまずい!

 

 

「ああ...ち、違うんです、あれはコラテラルダメージといって、彼女に熊肉のいい味を体感させるための致し方ない犠牲で.....」

 

「あら、私はなにも言っていませんわよ。」

 

「その笑みはどう見ても終始見てた顔です!」

 

「あらぁ、バレちゃったみたいねぇ。」

 

「そうです、バレちゃったんです!」

 

 

なかなかのらりくらりと...この後本当にぶち怒られそうでこわい...よ。

 

 

「うふふ、なかなか素敵だったわよ?初めて見せる表情だもん。何かを決意したような顔から、あっかい顔して彼女に顔を近づけるまで...とっても面白かったわよ。」

 

「あああ.....マジですかいな...」

 

「ええ。あまりにも面白かったから、思わずお酒を飲んでいる映姫も連れてきちゃったくらいにね。」

 

「.........」

 

 

 

「あああ....ああああああ!?」

 

 

ゆっくりとスキマから出てくる。ロリっ子で頼りなさそうだが、これでも閻魔だ。とっても怖い。顔を俯けているのは、怒りで俺に呆れかえっているからなのか?

 

 

「ふふふ...じゃあ、あとは2人でどうぞー。」

 

「えっ、ちょっ!?紫の姉貴...」

 

 

シュゥウン。

 

 

そうして部屋に残されたのは、俺と俯いた映姫様だけ...である。

紫様が見えないスキマから見ていなければの話だが。

 

 

「......あ、あの映姫様?」

 

「..........」

 

「怒ってらっしゃいます?」

 

「..........」

 

無言を貫いて俯く。いつもの映姫様らしくない。

 

 

「..........送り犬。」

 

「っはい!?」

 

 

そして唐突に話しかけてくるのは心臓に悪い。

 

 

「.......私が嫌いなんですか?」

 

「....えっ?」

 

 

 

 

 

 

「私が嫌いなんですか?」

 

「いきなり何を....」

 

 

 

 

 

 

「私がッッッ!!嫌いなんですかッッッ?」

 

「!?」

 

 

 

 

「ねぇ送り犬?私が嫌いなんですか?」

 

 

「い、いえ。そんなことはないです。」

 

 

「嘘。すべて鏡が教えてくれます。あなたは嘘をついています。」

 

 

「......はぁ、」

 

 

「私に嘘はつけませんよ送り犬。貴方は私が嫌いなんですね?そうなんですよね?これほどまでに私は貴方が好きだというのにそれでも貴方は私が嫌いなんですね?」

 

 

「..............!」

 

 

「貴方を思って3ヶ月と12日と14時間14秒!貴方の笑顔に惹かれた回数は143回!貴方に説教をした回数は256回!それを後悔して枕を濡らした回数は256!貴方を思って自慰行為をしたの回数は32回!これほどまでに貴方を思っているのに!!!貴方は私のことが嫌いなんですね?」

 

 

「...............」

 

 

「答えなさい送り犬ッッッッッッ!!」

 

 

 

 

なんだこの展開の速さは。

 

俯いた映姫様がいきなり顔真っ赤にしながらじりじりと近寄ってきて、ついには壁際まで追い込まれたぞ?なんだこれは。

 

 

「..........あっ」

 

 

待てよ、待てよおい!自慰っつったか?自慰っつったのか!?それはまてよ、つまり俺を思って1人で...?

 

 

(なんつぅことだ...)

 

 

よく見てみると、この閻魔、スカートの下を履いてないように見える。

なぜわかったかといえば、ここから小さなお尻が少し見えているのだ。

 

はたから見れば、小さな少女に襲われているへなちょこな男である。犯罪臭がプンプンするぜ!

 

 

そうして考え込むこと、体感時間では約30分。こういうのって実際は3分程度しか経ってないんだよな。

これまで、俺らは沈黙を切り通している。

 

 

「.....私達は、」

 

 

やっと沈黙が破られた。

 

 

「去年の夏に出会いましたね。」

 

「.....そう、でしたね。

確かお祭りの屋台で、映姫様がお勘定足りなかったのを、俺が払ってあげたんですよね。」

 

「ええ。とても感謝しました。

あなたの素敵な笑顔には、人を幸せにする効果でもあるのでしょうね。その時にも貴方の笑顔と優しさに、私は感心しました。まだまだ現世も捨てたものではない、と。」

 

「.......」

 

「私は貴方に出会うたびに、どんどんと貴方に惹かれていきました。

危険を顧みずに妖怪化した熊に単独で挑み、更には鬼を素手で負かしたその実力。」

 

 

鬼を素手で負かしたのは本当だ。アームレスリングで萃香と勇義の姐さんにサシで勝った。

 

 

「女として、惹かれぬものはいませんよ。」

 

「お褒めにあずかりまして。」

 

「......話が逸れました。貴方は、私が嫌いで」

 

 

 

 

 

それ以上は言わせない。

積極的になった俺は強いぞ映姫様。

 

 

口を口で塞いでやった。これからどうなろうが知ったこっちゃない。ロマンチックもクソもないが、致し方ない。これしかなかった。

 

...俺ってキス魔なのかな。

 

 

 

「..............ん...!んん!」

 

 

 

ずっと、ずっと口を塞いであげる。

その映姫様らしくない口を。無理矢理だが致し方ない。

 

 

手を上げて俺を殴ろうとするが、俺もそこまで甘くない。

すぐに振り上げた手を取り、映姫様を近くにあるソファに押し倒す。

 

 

ずっとずっと、俺を思ってくれていた映姫様だ。

丁重にもてなしてあげなくてはなるまい。

 

 

「ん....!んんん......」

 

 

だんだんと力が抜けてきたか。抵抗する力が弱くなってきた。

脇腹に手を回し、完全に包み込むように映姫様を抱いてあげる。

 

 

「......ぷはぁ、」

 

 

「...映姫様、」

 

 

頭を撫でて、押し倒したまま。

 

 

「私は貴方のことが...その、苦手ですが好きです。嫌いなんかではない。」

 

「......」

 

「出会うと説教を始めるところが、とってもタメになりますが、少々長くて。

ですが、貴方みたいな美しい人に叱っていただけるし、跪いた時に貴方の下着が見えて...ふふ、変態みたいですがお互い様ですからね?そっちも俺を思って自慰してたんですから。」

 

 

ここで一区切りおいて、顔を上げて映姫様の顔を見る。

不思議と全く恥ずかしくない。

 

 

「でも......私には他にも好きな人がいます。」

 

「......」

 

「ついさっきですけどね。好きになったの。

まぁ、所謂一目惚れ?いや、性格を見てから好きになったから二目惚れなのかな?」

 

「.......うっ...うう...ん!」

 

 

泣き始めた映姫様に、またキスをする。今度は一切抵抗せず、すんなりと受け入れてくれた。

 

 

「ごめんなさい四季様。だけど泣かないで。

俺は2人の女(ヒト)を同時に愛すなんて、器用なことはできないんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、えっと、ワンちゃん!改めて、助けてくれてありがとう!私の名前はリリーホワイト!」

 

部屋に戻ると、すっかり元気になったであろう彼女...もといリリーが、パタパタと足を動かして俺を歓迎してくれた。

 

「...ワンちゃん?」

 

「うん!ワンコみたいだからワンちゃん!

いいでしょ?」

 

「うん.....俺には名前がないが.....まぁ構わないか。」

 

「でね、さっき思ったんだけどね!」

 

嬉しそうに体を動かしながら、とっても笑顔で話す。

 

「ん?何をだい?」

 

「えへへ、ちょっとこっち来て?」

 

「?」

 

 

すっと彼女の元へと近づく。

 

 

そうした瞬間だ。

 

 

「はい、あーん!」

 

「えっ、」

 

「ほら!あーん!」

 

すっと、少し残しておいてくれていた卵粥を俺に食べさせてくれるようだった。

 

「あ、あーん。」

 

 

一口で口に入れ、モグモグと頬張ると、口の中いっぱいに卵の風味とご飯の程よい味が染み渡る。

 

だけど、それは通常の卵粥をはるかに凌ぐ美味しさであった。

 

 

「えへへ、美味しい?」

 

 

「......あぁ、美味しいよ。」

 

 

 

やっぱり俺は彼女が好きなんだな、と。

 

 

根拠は無いが、絶対的な何かが俺の中でそう思わせているのがすぐにわかった。

 

 






リクエストは、私のところにメッセージを送るか、活動報告欄にある専用のリクエスト場に、お送りください。

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