幻想郷短編恋文纏   作:徒然ノ厭離

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鴉の憩い場所

揺り椅子に揺られ、静かに作者不詳の小説を読む。

シトシトと降る雨音をBGMに、時々、本から目を外してコーヒーを啜り、また本に目を走らせる。とても素晴らしいアフターヌーンティーを過ごせている。

 

 

里のど真ん中在住の送り犬は『真面目で優しい送り犬』として有名だ。

 

その性格のせいで、色恋沙汰というのは全く生まれないし自分から仕掛けに行こうともしない。全くと言っていいほどに女性に興味がない。

 

 

「......」

 

 

だからと言って男に興味があるわけではない。

と、言っても彼の思想は『愛さえあれば種族も性も関係がない』。即ちバイセクシャル的な考えを持ち合わせている犬である。かなりあべこべな犬だ。

そのため、里の男や女。果てには猫や犬や妖怪などにも好かれている。

 

 

「なるほど.....20年経ってもまだ芽を出す種...

なかなかの生存能力ですね。」

 

 

梅雨である最近は専ら、雨をバックに外の世界から取り入れた植物図鑑や歴史書を見るのが趣味である。

その時はいつも窓側の揺り椅子に腰掛けて本を読むので、里の者たちはその時間によく送り犬の家を覗きにくる。

 

彼の美しい横顔は大人気だ。

 

 

「......そろそろか...」

 

 

本をコーヒーの近くにポソッと置き、ゆっくりと揺り椅子から立ち上がってシトシトと雨の当たる窓を少しだけ開ける。

そしてその窓の下に雑巾を2、3枚敷き、タオルを掛け、近くに温めた牛乳を置く。

 

直後、夕立に降られた黒い影が、窓の縁にへと降り立った。

 

しっかりと履いていた下駄を揃え、タオルを手に取り、ゴシゴシと頭を噴き出す黒い影。しっとりと肌に張り付いた白いシャツが妖美な艶やかさを醸す。

大きな黒い羽に、小さなポシェットから見えるカメラのレンズに光が反射する。

影は、そのまま牛乳を一気飲みして、コップを割れないように小さく音を立てておいた。

 

そんな様子を見ながら、送り犬はまた揺り椅子に腰掛けて本を手に取る。

 

 

「.........」

 

「.........」

 

 

そうして影は口を開いた。

 

「流石送り犬さん、私の好みってのをわかってますねぇ。」

 

「文さん...もちっと体を拭いたほうがいいですよ。

それじゃあ男を釣ろうとしているようにしか見えません。」

 

「どうして私の好みがわかったんです?」

 

 

はぁ、と大きなため息を吐いて文が返事をしなかったことを残念に思う。本に栞を挟んで閉じ、コーヒーカップを持って文の方を向く。

 

 

「まぁ...10年もこうやって凸られば、すぐに慣れてきます。」

 

「ふふ、もうそんなに経つのですね。私とあなたが付き合ってから...」

 

「事実を勝手に捏造しないで欲しいですね。」

 

 

サッとお尻だけ拭いた文は小さな机に腕を置きつつ、丸イスに座る。

いかにも機嫌がよさそうな文は、コーヒーを優雅に飲む送り犬をからかう。

 

 

「じゃあ許可を取れば捏造してもいいんですか?」

 

「許可はしないから捏造できることは恐らくないですね。」

 

「『恐らく』ということは、少しばかり可能性はあるということですね!ならば私はその僅かな可能性にかけてみます!」

 

「では訂正します。捏造できることは『絶対に』無いです。」

 

「ならばその幻想をぶち壊す!」

 

「むぅ.....騒ぐと御近所さんに迷惑でしょう。静かに騒いでください。」

 

「かなり静かだと思いますよ...あ、送り犬さん、アレ取ってくれませんか?」

 

「ん、はいどうぞ。」

 

「有難うございます。」

 

 

送り犬は自身の後ろにあった茶菓子を手に取って、文に渡す。

 

 

「やっぱり『アレ』で通じてるあたり、最早夫婦並みの以心伝心ですよ!」

 

「10年間の半分は窓叩き割りながら入ってこられたら流石に慣れますって...あとくっつかないでもらえます?」

 

 

椅子を立ち、送り犬に近づいたと思いきや後ろから抱きつき本を覗く。

体を密着させているあたり、またいつものセクハラ紛いの、文流(あやりゅう)のからかいだ。

 

 

「むふふ、なんの本を読んでるんですか?」

 

「...外の世界の危険な植物の本です。

なかなか興味深いですよ。飲むと色んな意味で危険な植物で出来たお酒やら何やら。」

 

「へぇ。どんなお酒です?」

 

「体に取り入れると気分が『ハイ』になる草を混ぜたお酒らしいです。

なかなか興味深いですね。今度紫さんに頼んでみましょうか。」

 

「その時は是非私も...」

 

「あなたと酒を飲むといつも僕が潰れるまで酒を飲ますでしょう。

僕はそこまで酒に強くないんですよ。」

 

「とか言いつつ私を毎回ベッドルームまで運んでくれるくせに...そう言ってあなたは私よりも酒が強いんじゃないですか。」

 

「だまらっしゃい。あと耳元で喋らないでくださいな。こそばゆい。」

 

 

むぅ、と文は元に座っていた椅子に戻ろうとするが、何かを少し考えて送り犬の寝床、つまりベットの方に向かって座った。

 

 

「送り犬さん!またいつものやってくださいよぉ。」

 

「......えー。」

 

「そう渋らないで!ほら、こんなに可愛い乙女が頼んでるんですから。」

 

「でも...あれやると足が痛くなるんですよね...」

 

「それはいわゆるコラテラルダメージというもので、私のストレス発散のための致し方ない犠牲です。」

 

「貴方はどこの傭兵ですか。...あれ、傭兵でしたっけ?」

 

「そんな事いいですから!」

 

 

彼は後頭部をワシャワシャとやり、『参ったなぁ』という顔でベットへと向かう。

 

 

「はぁ。はい、どうぞ。」

 

「ありがとうございます!」

 

 

渋々と膝に小さなブランケットをかけて腰掛けると、文はすぐさまその膝に頭を乗っけて幸せそうな顔になる。

送り犬は何も大した表情を浮かべず、右手に本を持ちながら文の相手をする。

 

 

「...はぁ、これって本当に気持ちがいいんですか?」

 

「膝枕は正義です!

私だって一応天狗界の中では上の位...!偶には誰かに甘える必要があるんですよ!」

 

 

ここ10年で、文の位はかなり上がった。

その要因の一つが、『後輩へのちょっかいが減り、上司にかなり信頼され始めた』ことである。後輩からも、信頼できて優しい美人な先輩ということで大人気だ。

 

 

「自分で『一応』ってつけている辺り、自分のだらしなさに自覚があるのですね。

何よりも毎日僕に膝枕してもらってる人が『偶には』なんて言葉使わないでください。」

 

「...送り犬さん、いつものいつもの。」

 

「あぁ、はいはい。」

 

 

本を持つ手を変えずに文の頭を撫で始めた。

さらに文は幸せそうだ。

 

 

「はわぁぁあ......とっても落ち着きますねぇ。」

 

「......それは良かった。しかし中々良い匂いですね。髪の毛もサラサラですし。」

 

「まぁ、ケアはしてますからね。髪は処女(オトメ)の命ですよ!」

 

「男の命でもありますよ。僕だってケアは欠かしません。」

 

「へぇ...」

 

 

文もまた送り犬の頬に手を滑らせ、そのまま送り犬のサラサラな髪に触れる。

 

 

「本当だ、中々処女に近い髪の質ですね。いや、下手したら処女以上ですよ...」

 

「......当然です。咲夜さんや鈴仙さんにも聞きましたからね。髪のケア方法。」

 

「ああ...あの2人はかなり凝ってますもんね。特に優曇華院さんは『一応』お医者様の弟子でしたね。それなりのことは知ってそう。」

 

「一応は失礼ですよ、一応は。

彼女も彼女なりに頑張ってます。軽率にからかってはいけませんよ。」

 

「...やけに他人を褒めますね。珍しい。」

 

「本当に彼女は頑張っていますよ。1日中里で薬を売ってますし、里に来ない日は永琳先生のお手伝いですからね。」

 

「殆ど実験台みたいなものですけどね。」

 

「中々楽しかったですよ。妖しい薬を試し飲みするのは。」

 

「げっ、やってきたんですか?」

 

「何事も経験ですよ。

あ、でも身体が小さくなった時は大変でした...永遠亭の皆様にからかわれましたよ。輝夜さんには『ペットにしよう』と言われましたし。」

 

「あの人ならやりかねませんね......」

 

「ハムスター用の檻に入れられたのは良い思い出です。」

 

「何それ見たい。もう一度小さくなってくれませんか?」

 

「お断りします。」

 

 

そんな会話をしているとすっかり辺りは暗い。そろそろ蝋燭に火を灯さないとすぐに部屋は闇に染まってしまうだろう。

 

 

「あやや、癒しの時間というのはすぐに去るものですね。そろそろ椛が心配して探しにくるでしょうね。」

 

「あれ、仲直りしたんですね。つい先日に新聞のことで喧嘩したとかなんとか...」

 

「あれは椛のミスでしたね。まぁ小さなミスでしたし、素直に謝ってくれたので許してあげました。」

 

「変わりましたね。

前まではずっといびり倒していじめていたくせに。」

 

「最近はそんなことしなくてもストレスの発散がありますしね。話を聞いてくれる人がいるのはとても素晴らしいです。

...いっその事ここに住んでしまおうか。そうすればいつでもお話ができる。」

 

「勘弁してください、文さんの下着を洗うのは結構メンタル削れるんですよ。ぜんぶ勝負下着みたいなんですもん。」

 

「そんなに派手ですか?」

 

「僕からすれば。」

 

「そうなんですか、ならもっと可愛いヤツに...

おっと、また話が長くなりそうだ、そろそろ私は御暇しますよ。」

 

 

すっと送り犬の膝から離れ、すっかり乾いた下駄を持ち玄関へ向かう。

だがポシェットをベットに忘れていた。文はそれに気づいて、キョロキョロと辺りを見回す。

 

 

「ここですよ。ほら

...ッ。」

 

 

ポシェットを文に渡すために若干の足の痺れを我慢しながら立ったものの、少し貧血気味の送り犬はふらついてしまう。

 

 

「おっとと...運動不足ですか?立ちくらみなんて珍しい。」

 

 

ポフッ、と文は優しく受け止めて、立つことをサポートしてあげる。文はこれでも妖怪だ、里の成人男性よりも、少し軽い彼を支えるのは容易い。

送り犬は自分が立つことよりも、文のカメラが壊れないことを優先している。

 

 

「...まぁそうですね。最近は雨ですから。」

 

「部屋の中でも運動できる方法を、今度新聞に載せますよ。」

 

「今教えてくれたっていいじゃないですか...」

 

 

コンッコンッ

木のドアを叩く音がする。玄関前なのですぐに応対することができる。

 

 

「はい、どなたですか?」

 

「あ、送り犬さん!椛です!」

 

 

元気で健気な声が聞こえる。

暫く彼女とは将棋をしていないので今度誘ってみようかと考えながら、送り犬は返事を続ける。

 

 

「お久しぶりですね。もしかして文さんを迎えに?」

 

「はい!居ますか?」

 

「ちょうど出ようとしてますよ。ありがとうございました文さん、支えてくれて。」

 

「いえいえ、ではお邪魔しましたぁ。」

 

「はい、今度はなるべく玄関からお願いしますね。」

 

 

バタン。

 

 

「もぉ、文さんたらまた長々と話していたでしょう?」

 

「いやぁ、ごめんなさい。

ついつい送り犬さんと話すと長くなっちゃうのよねぇ...

あ、おうどん食べていきましょう。私の奢りで。」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

...段々と遠ざかっていく声をドアの前で聞きながら、送り犬は寂しげな表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょっと.....送り犬さんっ、また来ましたよ。」

 

「おや、こんにちは。今日はやけに来るのが早かったですね。」

 

 

梅雨には珍しいよく晴れた午前中だ。小鳥の囀りが気分を清々しくリフレッシュしてくれる。

 

 

「いやはや、ちょっとすみませんが今日はここに泊まらせていただきますよ。」

 

「おや、毎年恒例の突然の外泊ですか。今度はまたどうして?」

 

「いやぁ...実は......ね。」

 

「......ああ、椛さんかその辺りが繁殖期に入ったのですね...

...あれ、狼の繁殖期は春あたりだったはずですが...?」

 

「天狗と狼を一緒にしないっ!

全く...巷じゃよく椛が犬だの狼だので弄られていますが、あれでも立派な天狗ですからね?」

 

「知ってますとも。それよりジメジメしたこの時期でしたか...獣というのは不便ですね。」

 

「同じイヌ科の妖怪が何を言っているんです?」

 

「私は満月の夜限定ですよ......一昨日が満月だったから、暫くは大丈夫のはずです。」

 

「さいですか。それなら安心安心。」

 

 

それにしてもやけに大きな荷物である。処女のケアセットでも入っているのだろうか。送り犬の軽装なキャンプセットとは大違いである。

 

 

「本当に大きいですね...貴方のお泊りセット。」

 

「貴方が少なすぎるんですよ。寝袋と新聞とライターだけってどういうことですか?

そして私の新聞燃やしちゃってるんですねショックです。」

 

「いい燃料ですよ。油塗れば松明にもなるし。」

 

「これはひどい。」

 

「まぁまぁ、毎回10回は見て覚えてから燃やしてますから...」

 

「燃やさないでくださいよっ!」

 

「あはは。ごめんなさいね。でも本当によく燃えるんですよ...

んまぁ、今年も昨年度と同じように同じ部屋で就寝、という形になりますが...」

 

「...構いませんよ、送り犬さんなら何もしてこないし。」

 

「ご信頼どうも。」

 

 

送り犬は自分の布団を床に敷き、いつも使っているベッドを綺麗にする。文はベッドで、送り犬は布団だ。

毎年文が『床でもいい』と言っているが『女性を床で寝かせるなんてとんでもない!』と言って聞かないので、文はもう諦めている。

 

 

「さて、何しますか。」

 

「あ、そうだ送り犬さん!聞いてくださいよぉ〜、またあの上司が...」

 

 

 

こう話し出すと2人は止まらない。放っておくとずっと喋っているのだ。

さて、今日はどこまで長くなるか......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、ならば文さんが脱げばよかったんじゃないですか?」

 

「とんでもない!私のボディで男が釣れるなら、とうの昔にやってますよ。」

 

 

夕刻。2人のお喋りの長さベストタイムはまた更新された。

送り犬が窓の外の色を見て、早速行動に移す。

 

 

「おや、こんな時間か。

ではそろそろお風呂を沸かして来るとしましょう。」

 

「あ、私はおゆはん作っときますよ。」

 

「おゆはん...ですか。ではお願いします。」

 

「任せてください!」

 

 

送り犬が井戸から水を汲むために家から出る。

送り犬の五右衛門風呂に肩まで浸かれるくらいの水を張るには、バケツ6〜7杯を入れなければならない。時間はかかるだろう。

 

一方で文は暫くの期間練習した料理を作るために、自らが買ってきた食材で調理を始める。

 

 

「さてさて...取り敢えず焼き鳥でも作りましょうかね......罪悪感が出るな...まぁ致し方ない。彼が1番好きな食べ物だもの。」

 

 

過程は簡単だ。フライパンに油を引いて、その上に鶏肉を敷く。

あとはじっくり焼いて、胡椒をつければ終わり。

 

 

「んっんー、我ながらいい感じに焼けましたね...次は...お味噌汁でも作りますかね。」

 

 

味噌を溶いて鍋に入れる。油揚げ、キノコを入れて後は温めるだけ。

火を見ているその間、文は送り犬の家を見回す。今まであまりじっくり見たことはなかったが成る程、彼の真面目さが出ている。

 

食器棚の皿は大きさで入れるところを決めてあるらしい。規則的に並んだ皿がそれを物語る。

 

窓際に飾った観葉植物は、並の人間にはできないくらいに美しく鉢植えに根を張っている。育て方がいいのだろう。噂では花妖怪の花畑にまで行って、生育方法を学んできたらしい。

 

本棚には、彼の趣味の小説、図鑑、漫画がシリーズごと、ジャンルごとにズラッと並んでいる。壁一面が殆ど本だ。地震が起こったらどうするのだろう...

 

 

「あ、よく見たら『本棚を地震から守る』という本が...」

 

 

どうやら対策はバッチリのようだ。

 

他には『花妖怪が綴る季節の花』と言った植物関係の図鑑や、『名探偵タマゴの奇妙な推理』のようなサスペンス物。『計算尽く』と言った数学の書までズラッと並んでいる。おお、あれは『東方飛燕録』じゃないか。

 

 

「......ん?」

 

 

1つだけ文の目を引く本を発見した。やけにその本だけボロボロだ。

 

 

「『告白の時』...?図鑑コーナーにあるということは...あれだ、『告白のタイミング』だとか『告白に使う言葉』だとかが、たくさん載っているのだろう...か?」

 

 

真面目でそんな噂が立ったことは一度もない送り犬には不要な本なのではないだろうか?

文は手にとって確認してみる。

 

 

「......へー、なかなか読み込んであるな...うわ、このページはちょっと破れてる...」

 

「文さーん?吹きこぼれてますよ?」

 

「うわわ!」

 

 

タイミングの悪い。文は急いで本をしまい、火を消す。

送り犬は暑さのためか、上半身を脱いで活動していた。なかなかセクシーな肉体だ。よく引き締まっている。

 

 

「おお......なかなか大胆にきますね。そんなに私に見せびらかしたいのですか?」

 

「そんなことはない...よ。文さんこそ胸元あけて...大胆ですね。」

 

「あやや、いつの間に開いていたんですかね...」

 

「白々しい。

お、そういえば美味しそうな匂いですね。」

 

「あ、鶏肉を焼きましたよ。」

 

 

送り犬は服を着てから席に着く。直接熱々の味噌汁を肌にこぼしたら大変だ。

続いて文が送り犬の前に座り、しっかりと胸のボタンを閉める。

 

だが2人はまだ食べない。その前に食事のありがたみを表すための挨拶を済まさなければならない。

 

 

「「いただきます!」」

 

 

ピッタリと息のあった挨拶で、2人は見つめあってから、共に微笑む。

 

 

そこからは無言だ。食事中の会話は厳禁だ。送り犬の家ではそれがルールである。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、なかなか美味しかった。ご馳走様です。」

 

「お粗末様でした。」

 

 

食事を終え、2人は食器を流し台へと持っていく。

予め井戸から汲んできた水で、しっかりと皿を洗い出す。

 

 

「あややや!冷たい!」

 

「そう?そこまで冷たくはないと思うけど...」

 

 

そこからはほとんど無言である。送り犬が洗い終わった皿を渡すと、文がそれを受け取りしっかりと拭いてからお皿を乾かす。

その繰り返し。別段そこまで特別な作業はない。

 

 

「そういえば、送り犬さん。」

 

「なに?」

 

 

文が送り犬に話しかける。気になっているのはあの本のことだ。

 

 

「あの...『告白の時』っていう本なんですが...」

 

「ああ、ありますね。見たいの?」

 

「いえ、そうじゃなくて...なぜあの本が?」

 

「それは...まぁ、好きな人がいるからかな?」

 

「おお!意外ッ!」

 

「ん、」

 

「ん?ああ、お皿ですね。」

 

「いや、だから...ん!」

 

「んっ、て...どういう意味です?」

 

 

 

「だから、僕が好きなのは貴方!射命丸文!」

 

 

 

「................................................................」

 

 

「文さん?お皿持ったまんまですよ?」

 

 

「......ふぁあ...?ふぁ!?」

 

 

「その間抜けな声はなんですか?早くお皿拭いてくださいって...」

 

 

「いやいやいやいやいや!冗談ですよね?」

 

 

「それこそご冗談を。僕はあんまり嘘をつかないよ?」

 

 

「いや...!!なな、なんでそんなにしれっと言えるんですか!?」

 

 

「だって、出会った時から好きだったしね。」

 

 

「ええええええええええええええ!!!??」

 

 

「だって......ねぇ。」

 

 

「ねぇ!じゃなくて!」

 

 

「だってさ、君だけだよ?窓からずっと僕を見ているんじゃなくて、ダイレクトに僕の家に入ってきたの。しかもさ、一人ぽっちで寂しく本を読んでた僕に、フレンドリーに話しかけてくれたのも君だし。僕さ、初めて文さん見た時にね、震えが起こったんだよ。」

 

 

「................................................................」

 

 

 

送り犬は、目に涙を浮かべて文に続ける。

 

 

 

 

「ああ、なんて綺麗な人なんだろうって。」

 

 

 

 

「.......〜〜!」

 

 

 

「いまさ、僕はこうやって敬語を使わないで話せてるでしょ?それはさ、もう吹っ切れたんだ。もう隠してる必要はないしね。10年だよ?10年間ずっと隠し通してきたのに、君はずっと気づくことを知らない。」

 

 

「................................................................」

 

 

「僕さ。でも、やっぱり君を諦めようと思ったんだ。何度も。

 

でもダメだった。毎日突撃してくる君の顔を忘れろってのも無理な話だしね。

 

僕の、この思いはさ。日に日に増していくんだ。どんどんと大きくなっていく。

 

ねぇ、気持ち悪いかもしれないけど、聞いてくれないかな?

 

僕は君が好きだ。この幻想郷で1番に君のことを愛している。そんな自信がある。

 

だからさ、この思い、ちょっと、議案、してくれないかな?」

 

 

 

「................................................................」

 

 

 

 

文の答えが、すぐに帰ってくることはなかった。

 

 

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