いや、本編とは何も関係はないのですが……今のところは。
ぬるま湯のようなほのぼの展開に一石を投じる第10話!
ではではどうぞ。
夢。
それは人が眠りについたときに、脳がその膨大な情報を整理した際に流れ出た情報の一部が、映像として本人に見せているもの。 または人の深層心理が見せる幻想だという。
もしもこれらのことが本当ならば、いま、この少年はいったいなにを見ているのだろうか。
「ん? どこだここ? 真っ暗でなんもみえねぇ」
夢の主……孫悟空は、暗闇のなかで“目を覚ます”
ここがなんなのかよくわからず、周りを見渡しても何もなく。 そこはただ、果てしなく闇が広がるだけであった。
「なぁ! だれかいねぇのか!?」
さすがの悟空もたまらずに、どこでもなく、誰にでもなく。 そっぽを向きながら大声を出していた……しかしそれも虚しく、大きく放たれた声は、闇に溶けるかのように消えていく。
「....すがの...クも....ばかりは.........」
「だれかいんのか?」
「....この■■■■様が死に掛けたんだぞ!」
どこともわからぬところから突然聞こえてきた声。
まるで自分以外のすべてを見下し踏みにじる、そんな邪悪に染められた声に警戒心を強めた悟空は、だんだんと強くなるその声に意識を集中し始めていく。
「■■!! ■■■■をつれて早く逃げるんだ!」
「この声どっかで……?」
次に聞こえてきた声は、どこかで聞いたことのある声だった。 そう、まるで普段聞いているような声。
しかしその声が誰の物なのか見当もつかず、悟空はただ、目の前の惨事を見つめていることしかできない。
「貴様らを許すと思うのか? 一匹たりとも生かしては帰さん!」
この声が聞こえた途端、悟空の目の前には兄弟弟子であり。 さらにはかけがえのない親友がいた。 彼の名は――――
「ク、クリリン! おめぇ生き返ったのか?」
それは全身に見たことのない鎧をつけているクリリン。
しかもどこか大人びて、身長もかなり伸びているように見えて。
けれど、そんなことよりなによりも、悟空はこの再会を喜んだ……すると今度は二人の大人が表れるのである。
「うあぁっ…………あぁぁあぁぁあああ!!」
「なあ! クリリンどうしたんだよ!」
「ふははは!」
「おいおまえ! クリリンを離せ!」
二人とも顔は闇に隠されよくは見えないが、一人はぼろぼろの青いアンダーと山吹色のズボンを履いた背の大きい人、もう片方は...白い体で要所が紫色の怪物のようなやつ。
そしてその白い怪物がクリリンに向かって手を差し出している。 どうにも嫌な予感が頭から離れない。
この光景を知っている、なぜかそう思う悟空に、しかし彼に与えられた問答の時間は――――ゼロだった。
「だあああああ!!」
させない。 これ以上はやらせない。 直感レベルでなにかを感じ取った少年は、気合と共に走りだし……
「な!? 体がすり抜けちまう!」
その気迫も虚しく、彼のすべては彼らに届かない。
そうしている間にクリリンは目の前の悟空に気付いた素振りも見せずに、その身体を宙に浮かせていく…………そして。
「やめろー■■■■!!」
「クァァッ!」
背の高い男がなにか聞き取れない単語を叫ぶと、白と紫の化け物が宙に掲げた手のひらを強く…………握る。
「ごくうぅぅぅうううううう!!」
「やめ――――!!」
途端、世界が終わった。
鳴海温泉・男部屋寝室
鈴虫が一斉に鳴き、夜の空に美しい音色を奏でている温泉街。
夜も遅いこの時間のなかに、士郎、恭也、ユーノ、悟空の4人はすでに夢の中にいるはずだった。
「はぁ! はぁ! はぁ!! な、なんだったんだ……いまの……」
悟空は散々うなされたあと、いきなり声をあげながら飛び起きる。
妙に
「おーーしょんべん! しょんべん!……あれ? ユーノの奴がいねぇ……」
厠に行こうと、近くのふすまに手をのばした悟空であったが、隣で寝ていたはずの小動物のユーノがいないことに気付くと、素早くあたりを見わたし。
「まぁいっか!」
構わずふすまを開けた。
忘れよう。 あんな怪物など知らない。 ましてや、
「も、もるもる――――!!」
彼はただ、闇の中を走り出していった。
旅館正面玄関
悟空の隣で寝ていたはずのユーノは、突然感じたジュエルシードの反応に、なのはと合流しては外に飛び出していた。
なぜふたりなのか、どうして黙って出て行ったのか……それは。
「ねぇなのは、本当に悟空さんを起こさなくてよかったの?」
「うん、平気だよ。 今回はわたしだけでなんとかしてみるから。 この数日間ジュエルシード集めと一緒に、悟空く……悟空さんの修行みたいに魔法の訓練してきたし。 それに……」
最初は悟空を起こそうとしていたなのはだった。 だったのだが、ふすまの向こうから聞こえてきたのは、悟空のうなされている声であり。
その声だけを聴くと、ひとりその小さな両手をギュッと握りしめて、彼女は後ろを振り向くと、無言のままにユーノと2人で玄関の方へと歩き出したのである。
「なのは?」
「ううん、なんでもないよ……」
なのははジュエルシードの反応がする方に目を向けると、そのまま手のひら大の赤い石、レイジングハートを夜空に掲げる。
「レイジングハート、セートアップ!」
光りだす宝石。 輝きに包まれる全身。
なのはを包み込むその衣服は、旅館の白い浴衣から、より一層白い戦闘服……バリアジャケットへと変わっていく。
「ユーノくん、この間教えてもらった飛行魔法、もう一回使ってみるね」
「いいけど……気を付けてなのは、なんだか嫌な予感がするんだ」
「うん、わかったよユーノくん」
ユーノに促され、空へと浮いていくなのは。
彼女はつい先日、ついに筋斗雲なしで飛行することが可能となったのである。 あのときの悟空の驚き、そして自分の事のように喜んでいたあの目を思い出しては。
「いってきます……」
彼女は暗い夜空へと、心もとない不安を抱きつつ飛んでいくのであった。
旅館より1キロ程度離れた地点
ここには漆黒の少女……悟空曰く、トラ娘であるフェイトと、昼間のオレンジ色の髪の若い女性、アルフと呼ばれたツリ目がちな女性とがふたり、唐突に反応が確認できたジュエルシードを探していた、いたのだが。
もぐもぐ
もふもふ
「ねぇフェイト?」
「え? どうしたのアルフ」
もぐもぐ
もふもふ
「フェイトの言っていた『ゴクウ』ってやつ、あいつかなりできるよ」
「うん、わたしも戦ってみて思った」
もぐもぐ
もふもふ
「あいつの目を見たときからわたしの中の野生が、こう、『じゃれつけ』って鐘を鳴らしてくる感じでさ」
「え?」
がさがさ
がさがさ
「とくにあの尻尾を見てると無性に握ってみたくなる……あ! いや。 とにかくあいつ、とんでもないよっ!」
「あ、あの…アルフ…?」
もぐもぐ
もふもふ
二人は昼間の別行動中の報告、そして悟空たちが近くにいることへの対応についての話をしていたのだが。 途中で『くぅ』と、なんともかわいらしい音を腹部から鳴らしたフェイトを見たアルフが、昼間に悟空から渡された肉まんを思い出しては今に至る。
若干冷たくて、けれどいまだにあたたかいのはどうしてか? 理由はわからないが、とにかくそれを頬張る彼女たちは……あたたかかった。
「いよし! 腹ごしらえも終わったことだし」
「うん、行こうアルフ」
最後の肉まん。 それを取り合うこともなく、2人仲良く半分ずつにして食べると、フェイトは金色の三角形のアクセサリー……バルディッシュを正面にかざし、優しくしゃべりかける。
「起きて、バルディッシュ」
語りかけるように、そっとつぶやくように。 発した音が届いた瞬間。
黒いバリアジャケットを身にまとったフェイトがそこに居た。 彼女が纏うのは黒。 それはこの深い夜の闇に溶け込むように、ただ黒く、そこに居るということさえもごまかしてしまう、そんな夜間迷彩の役割も果たしているのであろう。
両側で結った金色の髪の毛を揺らすと、彼女はなのはたちとは逆に、ジュエルシードの反応がある森の方へ歩いて行くのであった。
「なのは!あそこ」
「あの光...それにあの子は」
そこは旅館から離れたところにある森にある小さな川。 そこから立ち上る青白い光を見たなのはとユーノは急いで近づこうとする。 暴走の危険、それもあるのだが……
その近くにいたのは漆黒の少女と昼間のオレンジ髪の女性。 悟空が言っていたフェイトとアルフという名の2人組がいることに気付くと、その付近の上空で止まってしまう。
「あの....「なにしにきたの?」えっ?」
「悪いんだけどさぁ、今ちょっと取り込み中なんだけど……邪魔しないでもらえないかい?」
このあいだ会った少女だと思い、声をかけようとしたなのはだが。 少女……フェイトの冷たい視線と声に遮られ、それと同時にアルフが構えを取り始める。
それは敵対の意。
そして彼女は表情で語る――昼間いっただろう? と。 それにたいして……
「キミたちが集めているジュエルシードはとても危険なものなんだ! 使い方を誤ったりしたらとんでもないことになる、それをキミたちは!」
「そんなことは知らない。 ただ、わたしはあれを集めなくちゃいけない……それだけ」
小さい身体に反して、大きい声で行われるユーノの説得も空振り。
長い柄の黒い斧を持つフェイトは、前傾姿勢を取り、戦闘態勢に入っていく。 そんな彼女に……
「わたしと戦って。 あなたの持っているジュエルシードと、わたしの持っているジュエルシードを一つずつ賭けて」
「なんで戦わなくちゃいけないの!? ジュエルシードを集めるなら協力して「いいからはやく!」~~~~っ!!」
……やはりなのはの言葉も耳には届くことはなく。
そんなフェイトを見たなのはは、杖になったレイジングハートを握りしめ深呼吸をする。
ふかく深く。 朝方、兄や悟空がやっているのを見よう見まねで行われるこの
大きく深く、それでいて意識ははっきりと。 彼女の脳内は、普段よりも一層速い回転を行っていく。
「フェイトちゃん、どうしても戦わなくちゃいけないの?」
「……には……関係ない」
「関係ないって…………ぅく……い、いくよ、ユーノくん!」
「なのは…………わかった。 気を付けて」
にらみ合った状況になるフェイトとなのは……互いに出せる言葉はなく。 そうする必要もすでに無くなった。
ここでなのはは思い出す。 遠い昔、誰かが言っていた気がしたあの言葉。
「言ってもわからないんだもん、だったら……わかってもらえるまで――」
ぶつかってみるべきだと。
「――――っ!」
「…………ッ!!」
――――次の瞬間、広大な林の中で、一陣の突風が吹いた。
旅館内 とある一室
トイレから帰ってきた悟空は、寝室の窓から見えてくる青い光を見ていた。
それは雲にまで届く勢いで伸びていく青い輝き。 勢いよく伸びては、まるで気付いてほしいと言わんばかりに少年を照らし出す。
「なんだ? どっかでおんなじ光を見たような……ん?」
何のことだったか。 ゆっくりと思い出そうとしている悟空は、うんうんと唸りながら頭を左右に振っていく。
なんだっけ? そんな声がつぶやかれていく中、彼は思い出す。
あのへんてこな形の“なかなか”強い怪物たち。 それを作っていたあのきれいな石っころの事を。
「あーー!! そうだ、オラたちが探してる……んーと? なんだっけかなぁ……まぁいいや」
本日2度目の『まぁいっか』で終わらせ、そのまま玄関の方へと走っていく。
ホントは窓から飛び降りたかった悟空だが、この前のすずかの家で窓から出ていったことを桃子に言った際のことである。
「お家に出たり入ったりするときは、ちゃんと玄関を使わなきゃだめよ! 悟空君♪」
などと、厳しくもやさしく叱られ、今後やらないと約束までした悟空は、ただそれを忠実に守っているだけ。
言えば分るのが悟空のいいところ。 それをわかっている桃子は本当に良い母親であろう。
いつの間にか着替えていた彼。 山吹色を見に包み、青い帯でそれを結ぶ姿はかわいらしい武道家見習い。
だが人は外見で診ることが出来ぬもの。 いったい彼がどれほどの回数、その帯を結んできたかは数えるのも億劫で。
「けどなのはの奴、オラのこと起こしてくれてもいいのによぉ、もしフェイトってヤツみてぇに強ぇやつがいたらどうすんだ……オラぁ」
そんな経験豊富な少年は、走りながらつぶやく。 彼は考えていた、とあることを。
何も言わずに行ってしまい、今はどこに居るかもよくわからないなのは達の事……それを想い……
「オラそいつと戦ぇねぇじゃねぇか!」
……その実、心配などしていなかったりする。
それは決してどうでもいいからではない。 彼は信用しているのである、彼女の、なのはの築いてきた力のことを。
玄関口に到着した悟空、彼はすでに消えてしまった光の柱のあった方を見上げると、息を思いっきり吸い込み、叫ぶ!!
「筋斗雲…………やぁ~~~~い!!」
少年の呼び声。 それに呼応するように空のかなたから飛来してきた筋斗雲は悟空のすぐ横をめざし、急降下。
悟空は悟空で、筋斗雲のうごきに合わせるように空中へ飛ぶ。 するとそのまま高速で移動する筋斗雲に乗っかり。
「いっけー!」
もしかしたらいるかもしれない強敵……ついでに、もしかしたらピンチかもしれないと思われるなのはたちのもとに、筋斗雲を飛ばしたのであった。
ジュエルシード付近
なのはとフェイト、それにユーノとアルフは、それぞれ戦いを繰り広げていた。
アルフはその身を本来の狼に戻し、なのは達から離れていくユーノを追いかけている。
対して、なのはとフェイトのふたりの少女は、互いの武器を輝かせながら、強く、激しくぶつかり合っていた。
「どうしてわかってくれないの!」
「わかる必要なんか……ない!」
[Divine Buster]
[Thunder Smasher]
お互い同時に放った砲撃魔法。 それは同じ射線上を走り抜けては激しくぶつかる。
拮抗する魔力光の中、なのははさらに出力を上げようとするが……
「もっと冷静に、周りを見て……悟空さんと戦ったときのフェイトちゃんのスピードはすごく速かった! もしフェイントを混ぜられたら絶対に勝てない……なら!」
運動神経がなんとか人並ぐらいの自分じゃまず太刀打ちできない、
なのはは今までの自主訓練……悟空の素直な感想という名の罵詈雑言……により、正確に自分と相手の力量差をあらためて測っていた。
旅行前、悟空とフェイトの戦いを見たなのはは「わたしもあんなふうに動けるかな?」などと、同じ魔法少女のフェイトに沿った戦いができないか、朝の稽古中の悟空に提案してみた……結果、悟空の「のびろぉ如意棒ー」の一突きでダウン。
――――なんで今のが避けらんねんだ?
という悟空の言葉により、自分とフェイトとの戦闘スタイルの違いを何よりも深く思い知っていたのである。
故に――――
『はぁ!』
彼女との戦闘において、なのはは正反対というべき戦いかたを構築するに至る。
ふたつの掛け声が重なる瞬間、魔力光が爆発し、周囲を大量の煙が包み込む。
フェイトを見失ったなのははあたりを見渡し、彼女を探す。 暗い風景が広がる中で、さらに悪くなった視界。
それはフェイトも同じ。 視界がほぼゼロの中、焦りの色が浮かび上がるフェイトは……唐突に見えてきた白い影に強襲する。
「……!!」
「これで…………!」
対するなのはは、いきなり現れた黄色い閃光を握る彼女――バルディッシュをサイズフォームにしたフェイトに驚きを見せつつ、しかし心は至って冷静。
伊達に悟空の後を追って来たわけではないのだ! 彼女は心静かに対応して見せると、肝を据えては黒衣に向かって構えを取る。
彼女の手に持った、黄色く、死神の鎌を彷彿とさせる刃が迫るなかで、なのははほんの少し笑みを浮かべる。
「レイジングハート……おねがい!!」
「あの顔!? いけない―――くぅっ!」
フェイトが鎌を振るう直前。 なのはが見せた笑みに、あの時戦った悟空の影を見た彼女は攻撃の手をやめようとして……
「かはっ!!」
背中からの衝撃に動きが止まる。
おそわれた背中は若干焦げ付き、自身のバリアジャケットを貫通しては、それなりのダメージを負わせる。 彼女を襲った衝撃、その正体はホーミング性能を持つ魔力の球――――ディバインシューターである。
悟空との初めての修行……“てきなもの”において、自分の兄の10分の1以下の時間で料理されてしまったなのは。 その後ユーノとレイジングハートとで話し合い、同じ砲撃魔法(実際は違うが)を使える悟空から聞いた話。
「オラぁ、まほうっていうんはよく分かんねぇけど、前ぇにな? かめはめ波を曲げたことならあっぞ!」
この一言により、なのはの背筋に電流が走った。
そうだ、自分の魔法に追尾…ホーミングを持たせられないか…そう思ったのである。 思い立ったが吉日、彼女はさっそくレイジングハートに聞いてみたところ。
砲撃魔法のホーミングは無理だったのだが。
秘かに、追尾性を持たせた魔力光弾の使用に成功していたのである。
(今のわたしが、たたかいながら制御できるシューターは、レイジングハートの力も借りてなんとか2個まで。 でもこれくらいできないと……悟空さんに引き分けたあの子には絶対に勝てない!)
なのははレイジングハートを強く握りしめ、怯んだフェイトに向かっていった。
翔ける。 地に足がついていたときは、悟空からは「“うりごめ”よりも遅え」という言葉をいただいていたが、飛行魔法による移動は、悟空をおどろかせ……「なんかずりぃぞ」などと、彼から漏らさせるに至ったのである。
だからこそ、いまのなのははフェイトに何とか食らいついていけるのだ。
「いま!」
「く!」
ディバインシューターの直撃で反応が遅れたフェイトだが、こちらも悟空との戦闘が生きたのか、とっさにバルディッシュを前方に中段で構える。
来る衝撃に歯を食いしばり、けれどその目はしっかりとなのはを見据える。
皮肉なことだ、話し合いでは決して見向きもしなかった彼女が、今ここに来て、なのはに向かいあっては視線を合わせている。 それが話し合いで解決しないことが証明された瞬間であり。
「負けない……ちゃんと話してもらうまで――絶対!!」
「――――が待ってるんだ。 こんなところで!!」
つば競り合いの形になった彼女たちは、物理的に、いままでで一番近い状態となり。 なのはとフェイトは互いにこう着状態になる。
動けない。 互いの武器を重ね合い、視線を合わせる少女達。 しかし思いまではそうはならず、決して重なり合わないのは心と気持ちであろうか。
「フェイト!」
「なのは!」
その様子を地上から見ていた2匹の獣も同様で。 互いに叫んだ言葉は自身のパートナーを助けようとする声。 だが……
「くっ行かせるか!」
「それはこっちのセリフだよ!」
こちらも自分たちの戦いで精一杯。 互いが互いを牽制しあい、泥試合のように混戦を深めていく。
「「はぁぁぁ!!」」
下で戦う者たち、その上空で火花を散らすなのはとフェイト、彼女たちのつば競り合いは続いていた……だが、そこにひどく大きな変化が訪れる。
「なに?」
「くっ!?」
突然、上空から二人を引き裂くように水色の閃光……“魔力光”が降り、それと同時にフェイトとなのはの四肢には水色の魔力による輪っか……『バインド』がかけられていた。
全員は一斉に上を向く。 この事態を生み出したものを確認するために、今現在の空気を支配したものを視るために。
暗い夜空を背に、銀色に輝く月の光を受けながら、そこには黒衣を着た“少年”が宙に浮いていた。 彼は背丈にしてなのはより若干高いくらいだろうか?
そんな子供と青年の中間地点に居るよな者が、彼女たちをそっと見据えると……小さく口を開いていく。
「僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」
黒い髪、黒い服、そして黒い杖。
それはフェイトよりも黒く、なのはの色と対極に位置するかのような色彩の服装である。 そんな彼は、自身の魔法によって拘束した少女たちを見下ろし、自身の名を告げる。
「管理局!」
「え!」
「さて、事情を聴かせ……く!」
皆が見ている中、クロノと名乗った少年がこの事態を聞こうとしたその時である、地上からオレンジ色の魔力弾が彼目がけて飛翔する。
咄嗟に防御魔法で弾いたクロノの対応は完璧だ、かすり傷ひとつ負っていない。
状況確認の後、障壁を消した彼は、持っているデバイスを襲撃者、人間態になったアルフに向けて構えるが、そこにまたオレンジ色の魔力弾が彼を襲う。
「フェイト! 今のうちに撤退するよ!!」
「……アルフ」
それは攻撃のためのものではなく、目くらまし。 不意を衝いて出来上がったクロノの隙をつくように、バインドによる拘束を
「あ、フェイト!」
「く! させるか!! スティンガーレイ!!」
「!!」
フェイトはアルフの制止を振り切ってジュエルシードの方へと疾走。 それを見逃すクロノではなく、彼は速攻性の強い魔法にてフェイトを狙撃。
それは先ほど、なのはのディバインシューターを受けたところと同じ箇所、焦げ付いたバリアジャケットの背中部分に直撃する。
「かはっ!!」
「フェイト!!」
「あ!!」
直撃の衝撃で肺に溜まった空気を吐き出させられ、ついには落下していくフェイト。 それを地上すれすれで受け止めたアルフはそのまま動けない。
彼女の事が心配だ。 傷の程度は? 動けるのか? 動かしていいのか?
悩み、考え、思考が渦巻いていく彼女の足は完全に止まる。
その絶好の隙を見逃すはずもなく、明らかにこの手の方法に成れているクロノは、デバイスを構えつつ上空から降りてくる。 すると、デバイスの先端に光……魔力が込められていく。
「だ、だめ!」
「殺すわけじゃない、ただ拘束するだけ」
「でも!」
「…………」
攻撃を止めようと、クロノに叫ぶなのは。 だが、フェイトから目を離さず淡々と返答するクロノはさらに魔力を込める。
輝く黒い杖。 それは光度と共に周りの温度を少しずつ、だが確実に高温にあげていく。
「くっこうなったら!」
「っ! 逃がすか!!」
そのさまを見て、徐々に追い詰められたアルフはついにしびれを切らす。 フェイトを抱えたまま上空へ逃げようと、彼女は全力で跳躍……するが、クロノはそのまま上空に跳んだ彼女たちに向けてデバイスを掲げる。
冷たい目、淡々としていて。 当然のように人を撃とうとするその姿に、なのはは思わず声を出す。
「やめて! そんな酷い事!!」
「しつこい! いっただろ、ただ……捕まえるだけだ!」
彼は怒鳴り声に近い制止の言葉に、同じく怒声で答えると、持った杖に意識を移す。
魔力のタメは十分だ、あとは心で引き金を引けばいい。 照準もインサイトに捉えている……打ち落とすなら……
「いま!!」
「やめてよ!! 誰か……」
上げられた手、それに集まる水色の輝きは攻撃のためのモノ。
ついに放たれたその光を、見ていることしかできないなのはは叫ぶだけ。 しかしその叫び声は次第にトーンを落としていく。
叫びは訴えになり、訴えるこえはさらに願うだけの弱い声になる。
「たすけて――――」
既に声にならない叫ぶ声。
きっと誰にも届かなかったその声に――――
がああああああああああああああああああああああああッ!!
『――――!!?』
「…………え?」
たったひとつ。 空を震わさんばかりの雄叫びが答えた。
■■■到来から数十秒前の時間軸
銀色に輝く月が、暗い空を吹きすさぶ小さな空気のうねりを柔く照らしていた。
その風を受け、全身が少し寒気に当てられ震えている深夜の時間。 漆黒色の空のなかに黄色のラインを刻み付け、颯爽と翔けぬけていくものが居た。
「ずいぶん近いとこにあんだなぁ。 もう着いちまうぞ」
それは黒い髪に黒い瞳。 しかし生えた尾は茶色な自由人――――孫悟空はひとり、なのはたちが戦う近隣を飛翔していた。
彼は速い、否、正確には彼の相棒が早いのだ。 推定時速1800キロ……それが彼の最高速なのだから。
「あ! いたいた……ん?」
そこで見つけたのは戦闘音と、決着がついたように見えた二人の格好。 だがどこか変だと悟空は首をひねる。
ふたり……なのはもフェイトも、互いに両手両足に変な飾りをつけて……
「あぁ!! フェイトってヤツの腕輪みてぇのが砕けた!!」
片方がそれを崩すと、それは一気に地上へと飛来する。
それを目で追う悟空は名前を叫ぶ。 ダメだ、アイツはお前を狙っている……それが――
「お、おい!! なんでわかんねんだ! 降りるんじゃねぇッ! 変な奴が狙ってんぞ!!」
叫ぶ声、ソレと同じく届かない悟空と彼女たちの距離。
先ほどまでのゆっくり気分など今はなく、少年は見せたことがない焦りで自身の顔を染め上げる。
「は、速くだ! もっとはやく飛んでくれ! 筋斗雲ッ!!」
もうすぐそこなのに……あとほんの僅かなのに……届かないその手。
――――貴様らを許すと思うか?
「――――!? な、なんだ……いまの」
―――― 一匹残らず生かしては帰さんぞッ!
「ぐぅ、な!? なんだよ……何がどうなってんだ……」
彼の脳裏に巻き起こるのはフラッシュバック。 現れては消えて、目の前を眩しく照らしては、自身の視界を奪っていくようで。
そこから映し出されていくもの、それは自身にとって知らないはずの……知っていたはずの遠い昔の話。
幼い彼が知る由もない、宇宙を背負った最終決戦の内のひとつ。
仲間が傷つき、■■が怯え、そして――そして――
「フェイト!!」
「くぅぅ!!」
「……や、やめ――」
友……親友のはずなのに、彼が2度目の■を迎えたその瞬間。 彼はいったいナニヲシテイタンダロウ。
ちからが足りなかった?
「やめろ……」
修行が足りなかった?
「やめ……ろ…………」
それじゃあいったい……なにが――「やめろおおおおおおおおオオオオオオッ!!!」
彼はかき消す。
声でない何かが、頭に刻み込まれるかのようにしていたその文字を、その光景を。 彼は消し、見えないところまで追いやり。 己の中身を空っぽにする。
「……」
空になった彼の中、それは黒い世界が広がるだけ。
「…………」
ただそれは闇ではない。 闇は彼のモノではないからだ、それは当然である。
では何か? それは……
「……………ガァァァ………」
いったいナンデアロウカ。
ソンゴクウ……到来
それは、誰もが空に逃げて行ったふたりの無事を否定した瞬間である。
放たれた熱量を持つ魔力の光、他の追随を許すことがない速攻の呪文。 それは確実に彼女たちに迫り、打ち落とさんと肉迫し、接触しようとする。 その寸前!!――――それは直角に曲がる!!
ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
「な!? なんだ……あいつは……」
クロノという少年は、時空管理局という仕事柄、様々な世界を見てきた。 文明が栄えている世界、逆に未発達な世界。 さらには行き過ぎた文明により滅んでしまった世界。
そのいずれも彼は経験し、それらの事象の理由を学び、理解し、己の糧としてきた。
「なんなんだよコイツは……」
そんな彼は、いつの間にか世界をどこか均一のモノと思ってしまった節がある。 必ずある共通点、どこか似通った生態系。
この地球という世界に生きるものと、異世界で生きてきた自分たちがその最たる例であろう。 2本の足で歩き、2本の腕で様々な行動をする……そう、もう何度も見てきたその共通の事項。 だからだろう、彼は知ろうとはしなかった。
「…………グルルゥゥ」
「腕で……僕のブレイズカノンを……右腕一本で……」
常識を……世界の均衡を……森羅万象を覆す存在を……それすらをねじ伏せてしまった存在がいるという事実を。
「弾いたっていうのか!?」
「ガアアアア!!」
彼は知るべきだったのだ……
「ご、悟空……くん……」
「悟空……さん」
戦闘の途中だったその地に現れた異形、だが、その正体をひと目で看破したものが二人。
「あ、あの子……この前の……」
「ご、ゴクウ…あの坊主…いったい何を!?」
いや、4人。
彼等彼女たちはそろって目を見開いていた。 何に? どこを見て?
「悟空……くん。 ねぇったら……聞こえてるんでしょ?」
それは理性をうかがわせない“狂った眼差し”
「ご、悟空さん。 いったいどうなってるんだ……」
それは内なる感情を表すかのように逆立った“黒い髪”
「まずいよフェイト」
「アルフ?」
「あいつ……あいつ……」
それは剥き出しになった、獣の如き“力強い体躯”
「あいつ、正気じゃない……気を失ってる!」
「え!?」
そして狂いに狂った、大地揺るがす轟音たる大声。
そのすべてが、既に彼らの尺度からは完全に外れているモノであり。
『―――――!!』
「…………」
遠くで響いた爆音は、先ほどクロノが撃ちだし、悟空が弾いた“ブレイズカノン”
それが地面に落下し、周囲の木々をなぎ倒していく音であり。 その威力をああもあっさりと、しかも振りぬいた片手で捌いて見せた彼はまさしく……
「この……化け物ッ!!」
「――――!?」
クロノという少年は、彼をそう形容したのである。
だれもが触れないが、悟空はいま空中で制止している。 空を舞うその技を、無意識の中で使う彼はその時点で異常である。
ふつう魔導師なら、気が狂った状態になればそこで魔法は使えなくなる筈……はずなのに。
「ガアアアアアア!!」
「き、来た! くそっ! 考えなしに突っ込んで……なに!?」
悟空と呼ばれた怪物は地上に飛来する。
一直線に向かっていったのは“彼に向かって攻撃したモノ”ただ一人。
しかしクロノは彼を見失う、決して目を離したわけではない、それでも彼は、悟空の姿を見失ってしまう。
向かってきたはずなのに……まるで最初からいなかったかのように消えてしまった悟空を探すべく、首を振り、あたりを見渡し、周囲をうかがう。 状況は至って最悪で、自身が置かれた著しく変化する戦況に、若干の不安を感じつつ。 彼は杖に力を込める。
「どこだ?」
「……はぁ……」
「どこに、居るんだ……」
「…めぇ……」
聞えてくる絶望への招き声を、聞こえないふりなんかして……彼は悟空を探すふりをする。
わかっているはずだ。
「ど、どど……どこに……」
「…………」
「……あ、あぁ……」
すぐそこにヤツが居ることが。
いつの間にか周囲を照らす光の色は『青』 それはクロノの水色よりもひどく純粋な、三原色と呼ばれる物のひとつ。 それが林だった広場をまばゆく照らしていくと、力を伴う輝きへと変貌していく。
気付けば震える手、がちがちと大きく音を立てているのは自身の奥歯。
持った杖も心なしか弱々しく光るだけ。 それは魔力が霧散していくことを意味し、彼から攻撃の意思がなくなっていくことを周囲に知らしめる。
「ダメ……」
狂気に満ちた少年の背に佇むものが一人。
それは白い
「やめてよ……」
彼女は悟空に向かって歩き出す。
届くという確証も、それでどうにかなる確信もない。 だが、そうしなければ……
「こんなの、おかしいよ」
「…………」
彼は返事をしない。 だからこれは少女の独り言。 けれどその目は訴えかけている。 このままじゃ……このままじゃ……
「今の悟空くん……クリリンさんを殺した人とおんなじ目をしてるよ!」
「…………」
「そんな目、悟空くんにしてほしくない……」
許せないと。 そう自身が言っていたものと、同じ存在になってしまいそうだから。
だからそんな怖い顔をしないでと、なのははやさしく声を出す。 決して気丈な声ではない、それはとてつもなく強く見せようとしている震えた声でもあり。
「悟空くん」
「…………」
それでも、いまだ眩い輝きを放ち続ける彼に、少女はそっと近づいていく。
1メートルあったその距離は、既に30センチほどにまで縮まっていて……なのはは、あらん限りの思いを胸に、勢い大きく悟空に飛び込んでいく。
「やめてよ! お願いだから!!」
『な!? あ、あぶない!!』
皆が叫びだす。 飛びつき、抱きしめ、腰元まで崩れ落ちた彼女は既に脚から力が抜けている。
立ち上がることも、動くこともできない彼女はそのまま悟空から離れない。 制止の声、避難を促す声。 それと…………
「ぐぅうううあああああああああああ」
「!!?」
いまだ“目を覚まさない”少年の戦咆。 もう弾けんばかりに輝く光と、それを撃ちださんとする必殺の構え。
いつもはそれに助けられ、今はそれが恐怖の象徴で……でも、それでも彼女は止める声をやめようとしない。
「やめて!」
それでも。
「悟空くん!」
決して止められないモノというのは。
「やめてえええ!!」
「波アアアアアア!!」
この世には、存在してしまうのである。
無情にも放たれた、心なきかめはめ波。 それはクロノの真横を大きくそれ、上空へと舞い上がり、フェイト達が居るところの20メートルほど近くを通過しては夜空に大きな穴を作り出す。
それは光の穴、周りが夜の闇に染められたからこそ出来上がった輝けるトンネル。
大空にかかっていた雲がそれを避けるように穿たれ、ドーナツ状に広がる様は既に幻想的とも見えようか。 この威力、この輝き、並みの魔導師では遠く及ばないその威力は。
「――――!!」
「ほ、砲撃!? で、でもあれは。 あの時撃った時なんかより……」
「悟空さんの……かめはめ波だ。 でも、なんて……なんてでかい光なんだ……」
彼らが扱う定規なんて、只の棒きれ程度のものでしかないと思い知らせ。 そんな彼らは。
「あ、あぁ……」
「なんてこったい」
「尋常じゃない……」
「なんだっていうんだ……デバイスも何もない、ましてや魔導師でもない人間が。 こんな、こんなことをやってのけるなんて……あいつは本当に人間か!?」
怯え、竦み、ただ思ったことが口から出て来るだけ。
光りに消えていったもの、ましてやケガをした人間もいない現状は奇跡ともいえるだろうか。 いいや、それは間違いだ。
「うぐ……ひっく……やめてよぉ……」
「…………」
「そ、そうか。 なのはが掴まっていたおかげで、かめはめ波の軌道に大きくズレが生じたんだ」
奇跡なんて起きてはいない。
起こって当然の事象だと、小さな体のユーノはなんとか分析していた。 それで状況が好転するわけでもない、けれど今はそんなことぐらいしか出来ることが判らない。
爆音広がる夜の空が、まるでその事実を忘れてしまおうと、そそくさと穏やかな風景に戻っていく。
ちぎれ飛んだ雲たちは元には戻らないが、それでも周囲の自然は今、必死に元の姿に戻ろうとしていた……それは、『彼』も同じで。
「うぐ……くっ――――!」
「ご、悟空くん!!」
「悟空さん!!」
唐突に、まるで糸が切れたように大地に向かって倒れ伏す悟空。
全ての力を使い切ったのだろう、彼はそれから微動だにしない。 それを見たなのはとユーノは悟空を揺さぶる。 それとは別に動く者が2人、それは先ほどまで逃走を図っていた魔導師2人組であり。
「逃げるなら今だよ! フェイト!」
「あ、え? で、でもあの子が――!」
「あいつは……あんなんじゃくたばんないよ! だから行くよ!!」
「…………う、うん」
大きく吠えるアルフに、小さくうなずくことしかできないフェイトは、そのまま遠い夜空に向かって飛行魔法で飛んでいく。
たなびくオレンジとブロンドの長髪、振り向くことなく飛んでいく彼女たちは、しかしその心中にひとつ“くい”があるのは言うまでもないだろう。
「…………ごめんなさい」
「……無事でいるんだよ……ゴクウ……」
彼女らだって、心を持った者なのだから。
「悟空くん……」
「…………」
空に消えていく彼女たちとは反対に、地上ではなのはとユーノが流れゆく事の展開に身を強張らせていた。
既に力の入らない身体、今にも切れてしまいそうな緊張の糸。 彼らはひどく消耗していた。
「…………」
「……くっ(ダメだ、悟空さんは気を失ってしまって。 なのはもさっきの戦闘で、魔力のほとんどを消耗してしまってる……それにボク自身、はじめっから大した魔力があったわけじゃないから……)」
“彼”にむけて、気丈な視線を外さないなのは、しかしユーノは思う。 管理局に向かって半ば事故であれ、攻撃を繰り出した悟空。 彼の身の安全は定かではない、もしかしたら何かしら罰を受けさせられるかもしれない。
「…………(そんなことはイヤだ。 悟空さんをそんな目に合わせたくない!)」
それでも彼はぶつかってしまう。 自分達にはもう、これ以上戦うことはおろか、どこかへと逃げる手段さえないということ事実に。
「こ、こないで!」
「なのは…こうなったら…!」
だから残された選択肢はただ一つ。
最後の最後まであきらめないで――――「ちょっと待ってくれ!」――――しかしその熱は、彼……クロノと名乗った男の子により急激に冷やされるのである。
「さっきは状況確認のため、強硬手段……バインドで拘束させてもらったが。 こちらに攻撃の意図はない」
「…………ふぇ?」
「はぁ……けど、さっきは……」
「あれは向こうから先に仕掛けたものだ、立派な正当防衛だとおもうんだが?」
「そう……ですか……」
それは停戦の呼び声。
片手をあげて、手のひらをなのはたちに見せるように待ったをかける彼は、若干疲れた顔をしている。 体力的というよりは、精神的にという感じの疲れ方は、やはり先ほどの悟空のかめはめ波までの流れが原因であろうか。
まさかの終息。 それに全身の力……緊張の糸を一気にほぐしていくなのはたちは、その場で崩れるように両手をつく。
「疲れた……」
「わたしも……」
「それはこっちもだ」
三者三様に流れ出た言葉はそろって同じ内容で。 そんな些細なことですら、彼女たちから緊張感を取っ払っていく。
そして……
「悟空くんは……?」
「大丈夫、体力を使い果たしただけみたいで、今はぐっすり――」
「ぐごごごぉぉ……むにゃむにゃ……もうくえねぇぞぉ――やっぱおかわりぃ!!」
「こ、こんなアホらしい寝言を言える奴に圧倒されてたなんて」
『あ、ははは……よかった、いつもの悟空くん(さん)だ』
彼の空気を読むことの知らない大いびきと寝言は、彼らにとって安息ともいえるほどのため息をつかせ。
なのはとユーノの様子から、何となくこれが悟空の性質なんだと読み取るクロノは、ここで一つだけ咳払い。 彼らの注意を自分にひきつけ、これからの行動を立案するべく、天に指を立ててみる。
「とりあえずこうなった理由……キミたちが何をしていたかも含めて詳しく知りたい。 申し訳ないが、そこで寝ている彼もいっしょに『船』に同行してはもらえないか?」
「ふ、船? でもここ、まわりは森で……」
「あぁ、ちがうちがう。 キミの思っているような船ではなくって――」
[わたしたちの戦艦。 【アースラ】に来てもらいたいのよ?]
「だ、だれ!?」「どちらさまですか!?」
その指の先、突如開いた青い窓枠の様なものが開くと、微笑みながら「うふふ♪」と笑う女性が一人。
ライトグリーンを後ろで束ねてポニーテールにした、どこかなのはの母……桃子と似たような雰囲気をただ寄せる彼女は、これまた青い制服にネクタイ、白いワイシャツと、どこか軍人の様でいてけれどかなりやわらかいという相反する印象をなのはに与える。
「あ……でも!」
[平気よ? さっきクロノ…そこに居る男の子が言ってたと思うけど…そちらの彼、ゴクウくんだったかしら? その子のこともちゃんと診てあげますから]
「ホントですか!」
[えぇ、本当よ]
話の途中、ちょっとだけそっぽを向いたなのはの心の内を読むかのように紡がれていく女性の言葉。 なんだか先へと誘導されていくみたいだと、だがそんなことに気付ける余裕など今はなく。
なのはは彼女からの相談を……
「おねがいします!」
[えぇ、こちらこそお願いするわ]
呑むことを、自分自身で決めたのである。
悟空が経験したかつての“毒”に比べたら、こんなことなど容易く呑み込める。 どこかそう自分に言い聞かせたのは、きっと彼女にしかわからない……
「……なのは」
そう、きっと……
「よし、それじゃこのまま転移魔法でアースラまで行くから、キミたちはそこから動かないように。」
「あ、はい!」
「わかりました!」
今後の行動を固めたなのはにむかって、次なる道を指し示すクロノ。 彼は空中に自身のパーソナルカラーである水色の魔法陣を描くと、それが彼らを通り抜け、足元でゆっくりと回転している。
時計回りに廻るそれが、意味あるものと機能した時……
「転送!」
『――――!!』
旅館から遠く離れた林にて、地に両手をついていた者たちが、“この世界から”存在を消したのであります。
誰もいなくなった闇夜の中、戦闘痕だけを残していった彼ら以外にあるのは、ついぞや終わった大嵐を確認するかのように細々と合唱を開始した鈴虫だけであった。
物語の場は、地球という星から留まろうとはしなかった。 かつての“青年の物語”が紡いでいった経路のように……
??? ブリッジ
「ふぅ、なんとかこちらの呼びかけに答えてもらえたわね」
「はい、もしも抵抗されてたら、こっちにも相応の被害が予想できましたから。 ホントよかったですよ」
「えぇ、ほんとにね」
そこに居るのは二人の女性。
ひとりは先ほど通信でなのはに相談を持ちかけてきた女性。 もう一人は茶色のショートヘアーをした、明るい雰囲気が印象に残る若い女性。 先に出てきた方を桃子ぐらいの年齢とすると、後述の彼女は美由希と同年と言ったところであろうか。
その彼女たちは、目の前に映り込んでいる二人の少女から目を離すことなく、会話を継続してい……
「こっちの白い子、魔力の平均値が127万。 それにこっちの黒い子が……」
「143万、ねぇ。 どちらも
「艦長、言い方が叔母さ――なんでもないですよ~~ ですからその攻撃魔法は解除してくださーい!」
「……ふふ」
…………していた。
ほんの少しのお遊びを交えながら、だが、画面を消してからのふたりの顔は暗い。
それは次にあらわれた人物を見たからである。 黒い髪、山吹色の布地を使った道着に青い帯。
先ほどまで映っていた少女達と同年と判断できそうでありながら、ひと目見た印象は大きく違う。
「この子。 なんていうか獣ってかんじね。 まったく理性をうかがわせないっていうか」
「はい、しかも短時間ながら飛行して、さらにこの……」
「空に大穴をあけるほどの砲撃魔法……いいえ、ちがうわね」
「そうですねぇ、この子が使ったこれは、確かに砲撃“魔法”ではないですよね」
自身の考えを否定した言葉と、それを肯定した言葉。
それはなにも間違ってはいないし、正論なのだから是正する必要すらない……無いのだが。
「でも在りうるのかしら? いいえ、もう目の前に出てきてしまったんですもの、認めるしかないわよね」
「…………はい」
彼女らの声は暗い。
日常を、常識を、方式を、公式を、そして自身らが信じていたであろう必然を――いともたやすく打ち崩すの光。
大きく、強い原初の光。 それを見た彼女たちは小さく手のひらを丸め……握る。
「魔力が無い。 これは本当に計測ミスではないのよね?」
「間違いないです。 どこをどう測ったって、あの男の子からは魔力のまの字も見つかりませんでした」
「そう……」
彼女らの視線の先。 広いスクリーンの右端に掛かれている短い文。
魔力値――――0
この表示を見ている彼女たちの目はただ険しい。
思いもしなかった事態。 会うはずもなかった重大事件。 果たしてこれから起こりうる前代未聞。 一世界……地球を丸ごと巻き込もうという超大なる決戦、その序章を前に、いったいどう動いていくのでしょうか。
そして我らが孫悟空は、無事に目を覚ますことができるのか……
「なんだよ さまぁ……ん~~もう少しうめぇもん無ぇんかぁ……ZZZ」
それはまだ、分らない……
悟空「~~~~むぅ……っす! おら悟空……」
なのは「え? 寝言……?」
ユーノ「恒例行事もここまで行くと……おわとと。 えっと?! 時空管理局に接触したボクたち。 だけどそこでなのはは、重大な事実を知ることに」
なのは「え? なにかあったっけ?」
ユーノ「……さぁ…………」
なのは「ユーノくん?」
ユーノ「……そして! 事情を知り、それでも理解が及ばない管理局の面々。 そんな中でも船内で眠り続ける悟空さん! その彼が目を覚ますとき、彼の身にまた一つ変化が訪れるのでした!!」
なのは「…………どうしたんだろ?」
クロノ「次回、魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第11話」
ユーノ「時空を管理し、監視するもの」
悟空「うげぇ! なんだこれ!? にげぇのにすっげぇ甘ぇ!!」
???「うふふ♪ ミルクティーみたいなものだと思うのだけど……あ、またねぇ~~」